アーク・ファイブ・ディーズ   作:YASUT

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遊矢と柚子のデュエル回。茶番臭がハンパない。

注意:アニメオリジナルカード、完全オリジナル(アクション)カードあり。

始めは(アクション)カードもアニメ限定で書いてたんだけど、無理だと思ってすっぱり諦めたよ……。
アクション・デュエルの構成難しい。お互いに使うカードが数枚増えるわけだから、当たり前といえば当たり前なんですけども。



たった二人のエンタメ・デュエル

 シンクロ次元とスタンダード次元は、文化が根本的に違う。それが最も顕著に表れているのは、やはりデュエルだろう。古代エジプトにおける魔術師の決闘を起源とし、時代と共に独自に進化を遂げたのだ。

 デュエルの形式が異なれば舞台も異なってくる。

 舞網市のデュエルフィールドは、例えるなら運動場。地形は質量を持ったソリッド・ビジョン――“アクション・フィールド”によって様々に変化するため、広いこと、そして何より“何もないこと”が求められる。

 対してここ、シンクロ次元におけるデュエルフィールドは文字通りレース場。中央にスタンディング用のフィールドが並び、その周囲を専用コースが囲んでいる。Dホイーラーによっては時速数百キロを維持して走ることもあるため、舞網市とは比べ物にならないほど広く大きい。

 

「客席でも思ったけど、こうして立って見ると本当に広いのねー。ここまで来るだけでも一苦労じゃない」

 

 柊柚子は空になった席を見回しつつ呟いた。

 時間帯は夜。大会参加者は宿を決め、明日に備えて休む頃。街灯の明かりがフィールドを照らし、空には微かだが星が見える。人口の明かりが無ければ、きっと満点の星空を拝めたことだろう。

 

「ほら遊矢、こっち来なさい。嫌がっても駄目だからね」

「えぇ……ちょっ」

 

 榊遊矢は手を引っ張られ、そのまま強引にデュエル場まで連れて行かれた。

 場所は当然中央。時間が時間なら、観客全員の視線が集まる特等席だ。

 

「柚子、頼むから離してくれよ。俺も柚子も明日から試合だろ? 今日は俺、ジャックとデュエルして疲れてるし、なるべく早く休みたいんだけど」

「だーめっ」

 

 柚子は笑顔で封殺する。

 その暴虐不尽な振る舞いに、遊矢は諦めて溜息を漏らした。

 

「今更駄々をこねても駄目。ここまで来ちゃったんだから、いい加減観念しなさい」

「……今すぐだとは思わなかったんだよ。俺はてっきり、明日やろうって意味だと」

「でもそれなら、わざわざコースを見たい、なんて言わないと思うけど?」

「それは、柚子には勝ち残る自信があるんだなって意味で、今のうちに本選のコースを見学したかったってことだと」

「あー……そっか。うん、それはちょっとあるかも。これだけの大舞台で遊矢とデュエルできたら、きっと楽しいと思うから」

「……いや、それは」

 

 遊矢は言葉を濁し、柚子から視線を逸らした。

 以前までなら肯定していただろう。しかし、今の彼にはできない。彼のデュエルはジャック・アトラスによって否定された。“独りよがり”“押し付けがましい”と指摘され、かつ、それは真実であると身を持って実感したのだから。

 

「……遊矢」

 

 柚子は一つ確信する。このままでは、榊遊矢は勝ち残れない。この大会にではない。もっと大きな意味で、彼は勝ち残れない。

 デュエルで皆を笑顔にする。それは幼稚だが、とても素晴らしいことだと柚子も思っている。

 だが――誰かを笑顔にしたいと願う人間が、笑顔になれないのは間違ってる。

 

「遊矢、デュエルをしましょう。私、貴方に伝えたいことがあるの」

「伝えたいことって……だったら、きちんと言葉にして言ってくれよ」

「ううん、言葉じゃ駄目。それだけじゃ、この気持ちは半分も伝わらない。何より、貴方自身に気付いて欲しいの」

「気付いてって……何に?」

「ごめんなさい、ここから先は言えないわ。どうしても知りたかったら、このデュエルを受けて」

 

 柚子はデュエル・ディスクを展開し、構える。

 遊矢にはますます分からない。何故ここまで自分とのデュエルにこだわるのか。

 デュエルがしたいなら今じゃなくてもいい。明日から大会であることを考えると、寧ろ今日は早く休み、朝早くにやる方がいいに決まっている。

 ともあれ、ここまで来たら逃げられないし止められない。遊矢はこれみよがしにもう一度溜息をついた後、渋々とディスクを構えた。

 

「分かったよ。このデュエル、受けるよ」

「ありがと。でも待って。私達、何か一つ忘れてない?」

「……忘れてるって、何を?」

「私達はスタンダード次元の決闘者(デュエリスト)なのよ? だったら、デュエルの前にやることがあるでしょう?」

「デュエルの前……ああ、そっか」

 

 ――“アクション・デュエル”。フィールド魔法である“アクション・フィールド”を展開し、専用の魔法(マジック)カードである“(アクション)カード”をばらまく。決闘者(デュエリスト)達はモンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、これらを拾って戦う。スタンダード次元ではライディング・デュエルの代わりに、この“アクション・デュエル”が主流となっている。

 遊矢達ランサーズのデュエル・ディスクは、専用の機器がなくても“アクション・フィールド”が展開できるよう改造されてあるのだ。

 

「アクション・フィールド、オン。《クロス・オーバー》」

 

 ディスクを掲げた瞬間、世界に物質が付随される。

 アクション・フィールドには様々な種類がある。童話で見るお菓子の世界、氷に包まれた氷河期、マグマで溢れる活火山など、多種多様だ。

 しかし《クロス・オーバー》は、その中で最も地味な世界。通常の舞台に足場が加えられただけの、初心者用のステージだ。

 

「柚子、これでいいか?」

「そうね。あとは……笑いましょうか」

「笑うって……もしかして、エンタメデュエルをしてくれってことか?」

「ううん、違う。寧ろ逆。エンタメとか、正しいとか、正しくないとか。そういうのは一旦忘れて、二人でデュエルを楽しみましょう。ここには観客もいないんだから」

「……そっか。そうだな。まあ、分かったよ」

 

 遊矢は観客席を見回した後、ほっと一息ついた。

 今の遊矢にとって、見物客が一人もいないのはありがたいことだった。これならば、たとえ独りよがりでも批判されることはない。

 人がいない。たったそれだけでも、精神的な負担は確実に減るのだから。

 

「準備はいい? それじゃ、しっかり合わせてね!」

 

 柚子は笑顔を見せ、手を掲げる。

 遊矢にはそれが眩しい。たとえ空が曇っていようと、人工の光で星が見えなくても、柊柚子だけは太陽のように輝いている。

 

 

「戦いの殿堂に集いし決闘者(デュエリスト)達が!」

 

 

 誰もいない会場で、柚子は一人声を張り上げる。

 ――決闘者(デュエリスト)達が。

 彼女はそこで口上を止め、合いの手を待つ。遊矢は苦笑を漏らしつつも、それに応えた。

 

 

「……モンスターと共に、地を蹴り宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「「アクショ~ン!」」

 

 

「「決闘(デュエル)――!!」」

 

 

 知らず、少年には笑顔が戻りつつあった。

 

 

 ◆

 

 

 柚子

 LP:4000

 

 遊矢

 LP:4000

 

 上空に集まったカードが弾け飛び、フィールド全域に散蒔かれる。

 それらは全て(アクション)カード。デュエル中に拾って使用できる専用の魔法(マジック)カードだ。

 

「先行は貰うわ! 私は手札から魔法(マジック)カード、《独奏の第1楽章》を発動! 自分の場にモンスターがいない時、手札かデッキからレベル4以下の《幻奏》とつくモンスターを特殊召喚する!

 さあ出番よ、《幻奏の音女アリア》!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 星4/光属性/天使族/攻1600/守1200

 

「そしてこのカードは、自分の場に《幻奏》モンスターが存在する時、特殊召喚できる!

 来て、《幻奏の音女ソナタ》!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「特殊召喚されたソナタがいる時、自分の場にいる天使族モンスターの攻撃力、守備力は500アップする!

 そして特殊召喚されたアリアがいる時、《幻奏》モンスターは戦闘では破壊されず、効果の対象にもならないわ」

 

 《幻奏の音女アリア》

 攻1600 → 攻2100

 守1200 → 守1700

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 攻1200 → 攻1700

 守1000 → 守1500

 

 アリアとソナタの歌声が響き合い、ステータスが変化し、耐性が付与される。

 単体では非力。だが二体、三体と集まれば互いをカバーしあい、重奏曲を奏でる。それが《幻奏》モンスターの特徴。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド。さあ、次は遊矢のターンよ」

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊矢は手札からモンスターカードを二枚を選択し、掲げる。

 

「俺は、スケール2の《EM(エンタメイト)ラクダウン》と、スケール3の《EM(エンタメイト)ラ・パンダ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 二枚のカードを両隅にセットした瞬間、遊矢のディスクに“PENDULUM”と文字が浮かび上がった。

 モンスターが出現し、二体はフィールドの上空へと浮上していく。

 

「早速ペンデュラム召喚ね。でも、そのスケールじゃ何もできないわよ?」

「このままだったらな。俺はここで速攻魔法《ペンデュラム・ターン》を発動! セットされた(ペンデュラム)モンスターのスケールを、ターン終了時まで1から10までの任意の数値に変更する。これにより、《EM(エンタメイト)ラ・パンダ》のスケールを10に変更。

 そして、ラ・パンダの(ペンデュラム)効果発動! 一ターンに一度、自身のスケールを一つ上げることができる。この効果で、ラ・パンダのスケールは11に上がる!」

 

 ラ・パンダが指し示す数字が一気に上昇した。

 本来なら《ペンデュラム・ターン》の効果はターン終了時に消滅し、対象となったモンスターのスケールは元の数値に戻る。

 しかし、ラ・パンダ自身の効果でスケールを上書きしてしまえば、《ペンデュラム・ターン》の効果は切れてもスケールは11のままでいられる。

 

「そっか、これなら。考えたわね、遊矢」

「ああ。これで、レベル3から10のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 黒く染まった夜空に、ペンデュラムの光が灯る。

 振り子はアークを描き、ゲートを穿つ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 ――モンスターが二体召喚される。

 一つは光。一つは闇。万華鏡を持つ蠍と、二色の眼の龍。

 

「《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》!

 そしてもう一体! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》

 星6/光属性/昆虫族/攻 100/守2300

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

「カレイドスコーピオンの効果発動! このターン自分のモンスター一体は、特殊召喚された相手モンスター全てに一回ずつ攻撃できる!

 輝け、オッドアイズ! “カレイド・ミラージュ”!」

「っ……!」

 

 万華鏡の光を浴び、オッドアイズの眼はギラギラと輝き始める。

 それに目を眩ませつつ、柚子は一目散に走り出した。狙いは一つ。攻撃を躱す(アクション)カード。

 

「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《幻奏の音女ソナタ》を攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

「きゃあぁ――っ!」

 

 アリアの歌声で守られているため、ソナタは戦闘では破壊されない。しかし、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》にとってそれは、大きな意味を持たない。

 

「オッドアイズの効果発動! モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする! “リアクション・フォース”!」

「うっ――!」

 

 柚子

 LP:4000 → LP:2400

 

「まだまだ行くぞ柚子! 二撃目、今度はアリアに攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

「っ――そうはいかないわ!

 (アクション)魔法(マジック)、《回避》を発動! モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」

 

 柚子は先程発動しそびれた(アクション)カードを使い、攻撃を回避した。

 これが“アクション・デュエル”の真骨頂。互いのプレイヤーはフィールドに散らばったカードを使い、デッキ構築の時点では想定していなかった戦略を立て、実行することができる。

 

「躱されちゃったか。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローした後、柚子は遊矢のフィールドを確認する。

 遊矢の(ペンデュラム)ゾーンには《EM(エンタメイト)ラクダウン》がいる。ラクダウンの(ペンデュラム)効果は、相手モンスターの守備力を下げ、更に自分のモンスターに貫通能力を与える効果。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は戦闘で与えるダメージを二倍にし、《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》はオッドアイズに全体攻撃を付与する。

 これらのコンボにより、《幻奏の音女アリア》の戦闘破壊耐性が逆に働いてしまっている。

 このままではただのサンドバック。柚子はこの状況を打破すべく、上級モンスターを召喚する。

 

「私は、アリアとソナタをリリース!

 天上に響く妙なる調べよ、眠れる天才を呼び覚ませ! いでよ、《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 星8/光属性/天使族/攻2600/守2000

 

「っ――!」

 

 タクトを持つ歌姫――プロディジー・モーツァルトは、柊柚子のエースの一体。攻撃力は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を上回っている。

 遊矢は攻撃に備え、(アクション)カードを求めて走り出した。

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動! 一ターンに一度、手札から天使族・光属性モンスターを特殊召喚できる!

 これにより、《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》を特殊召喚!」

 

 《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》

 星7/光属性/天使族/攻2300/守1700

 

「ローリイット・フランソワの効果発動! 一ターンに一度、墓地から天使族・光属性モンスターを一体、手札に戻すことができる!

 私は墓地から《幻奏の音女ソナタ》を手札に戻し、ソナタの効果でもう一度特殊召喚!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「特殊召喚されたソナタがいる時、天使族モンスターの攻撃力と守備力は500ポイントアップするわ!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 攻2600 → 攻3100

 

 《幻奏の音姫ローリイット・フランソワ》

 攻2300 → 攻2800

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 攻1200 → 攻1700

 

「さあ、バトルよ! まずはローリイット・フランソワで、《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》を攻撃!」

「っ……あった!」

 

 ローリイット・フランソワの音波攻撃を受け、カレイドスコーピオンが破壊される。

 その余波を受けつつも、遊矢はかろうじて(アクション)カードを拾った。

 

「続けていくわよ! プロディジー・モーツァルトで《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃! “グレイスフル・ウェーブ”!」

「させない! (アクション)魔法(マジック)《不動》! このターンオッドアイズは戦闘、及びカード効果では破壊されない!」

「でも、ダメージは受けてもらうわ!」

 

 プロディジー・モーツァルトの攻撃により、遊矢のライフが削られる。しかしその数値は微々たるもの。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》もまた健在だ。

 

 遊矢

 LP:4000 → LP:3400

 

「どうだ、柚子。俺の場にはまだオッドアイズがいる。これならもう攻撃できないだろう?」

「それはどうかしら。これを見なさい、遊矢!」

「え?」

 

 柚子は得意げに一枚のカードを見せる。

 裏面には大きく“A”の文字。即ち(アクション)カード。遊矢が(アクション)カードを拾っている間に、柚子もまた(アクション)カードを拾っていたのだ。

 それも攻撃を防ぐカードではなく、“追撃”のカードを。

 

「まさか、(アクション)カード!?」

「そうよ! 私は(アクション)魔法(マジック)《セカンド・アタック》を発動! 戦闘を行った自分のモンスターの攻撃力を800ポイント上げて、もう一度バトルできる!」

「なっ――!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 攻3100 → 攻3900

 

「いくわよ! プロディジー・モーツァルトで、もう一度攻撃! “グレイスフル・ウェーブ”!」

 

 遊矢

 LP:3400 → LP:2000

 

「ぐっ――……!」

 

 遊矢はモンスターの後ろに隠れ、ダメージを堪え続けた。

 先程発動した(アクション)魔法(マジック)の効果により、このターン《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は破壊されない。しかしダメージは大きい。無傷の状態から一気に半分を持っていかれた。何より驚愕すべきは、攻撃力2500のオッドアイズがいるにも関わらず、ライフを奪った手段が全て戦闘ダメージである点だろう。

 

「バトルフェイズ終了時、《セカンド・アタック》の効果は切れて、攻撃力は元に戻るわ。

 私は更にもう一枚カードを伏せて、ターンエンド」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 攻3900 → 攻3100

 

 音姫達の猛攻が終了し、ようやく遊矢のターンが回ってくる。

 流れは柚子にある。ペンデュラムモンスターは何度倒されても復活するが、それだけでは力で押し切られる。

 

「……はぁ。やっと終わったか。それにしても、柚子は相変わらずだな。ストロングっていうか」

「あっはははー……――それはどうも」

「っ!?」

 

 地獄耳恐るべし。ちょっとした呟き程度だったのだが、柚子には聞こえてしまったらしい。

 ――その時、遊矢には幻聴が聞こえた。

 ゴゴゴゴ、と地面が割れるような、隕石が落ちたような――それとも火山の噴火だろうか……?

 いずれによ、地雷であることは間違いなかった。

 当然か。年頃の女の子がストロングと揶揄されたら誰だって怒る。

 ……たとえ本人にその気がなく、純粋な賛美だったとしてもだ。

 

「じゃ、じゃあ行くぞ。俺のターン、ドロー!」

「はっきり答えなさい! 遊矢、ストロングってどういう意味よ!」

「ふ、深い意味はないよ! 強いなって思っただけ、それだけだから!」

「――――あっそう」

「あっ」

 

 言葉を間違えた? 言い方の問題? 思うこと自体がアウトだった?

 ――否、どれでもない。どれでも同じ。何を言っても、きっと同じ結果になっていた。

 

「いーわよ、じゃあかかってきなさい! 貴方が勝手につけた“ストロング”の異名通り、(パワー)で捩じ伏せてやるわ!

 聞いてるの遊矢! 目を逸らさない! こっちを見なさい! いくらオッドアイズが(ペンデュラム)モンスターでも、所詮は攻撃力2500。そんなひ弱なモンスターじゃ私には勝てないわよー!」

「――……」

 

 遊矢は思考を停止し、かつての自分を思い出す。

 ストロング。その場の勢いだったとはいえ、なんて言葉を口走ってしまったのか。

 当たり前だと思っていたもの。目の前にいた少女の強さを、あの時の自分は分かっていなかった。鬱陶しいと思うことだってあった。この柊柚子という女の子が、もっとお淑やかな子だったらなぁと。

 

 ――けれど。今はただ、その強さに感謝を。

 

「……あはは」

「?」

 

 突然の笑い声に、柚子は困惑する。

 遊矢が笑ってくれた。それはとてもいいことだし、彼女自身も望んでいたことだ。だが、どうしてこのタイミングで笑ってくれたのか、彼女には今ひとつ分からなかった。

 

「遊矢、どうしたの? 何か悪いものでも食べた?」

「なんでそうなるんだよ! 確かに、そこまでいいもの食べてなかったけど……カップ麺ばかりだった」

「? どういうこと?」

「あぁいや、何でもない。ただ、柚子は凄いなぁって思っただけだよ」

「凄い? 料理のこと?」

「うーん……まあ、それもかな。それも含めて全部。――柚子はさ。本当に凄いよ」

 

 万感の思いを込めて、遊矢はそう言った。

 真正面から尊敬の眼差しを向けられ、柚子は赤面する。

 挑発したかと思えば急に笑い、笑ったかと思えば褒め殺し。柚子としては嬉しい変化なのだが、こうもコロコロ変えられると調子が狂う。

 

「なによ、いきなり褒めちゃって。そんなこと言われても、私はまだ怒ってるんだからね!」

「だから、深い意味はなかったんだって。

 ……柚子は、凄い。あまりにも凄すぎて、俺には眩しい。俺はきっと、お前みたいに強くなれない。ジャックのようにも、父さんのようにもなれないんだ」

「遊矢……?」

 

 そうして、榊遊矢は弱さを認めた。不可能だと認めた。

 笑いながら(・・・・・)。どうあがいても、父のようにはなれないと。

 

「でも……よく考えたら、それは当たり前のことだった。だって俺は、柊柚子じゃない。ジャック・アトラスじゃない。榊遊勝じゃない。

 ……エキシビション・マッチでも、ジャックは言ってたよ。所詮誰かの真似事じゃ、オレには勝てないって」

 

 誰かの真似をする。それ自体は間違ったことではない。この世のありとあらゆるものは、既存のものを改良して成り立っている。このデュエル・モンスターズだって、元はといえば古代エジプトの決闘をベースに作られたのだから。

 だが、それでは限界があるのだ。最後の壁を乗り越えるためには、自分なりの答えを見つけなくてはいけない。

 遊矢は笑顔で問いかける。既に分かりきった答えを。

 

「柚子。俺は将来、エンタメデュエリストになるよ。でも、俺にはどうすればいいか分からない。俺は、誰のエンタメを目指せばいい?」

「……私は」

 

 その問い掛けに、柚子はほっとした。泣きそうになるくらいに。

 それでも今は堪えた。今は笑おう。このたった二人のエンタメデュエルを、楽しいものにするために。

 

「私は、“榊遊矢”のエンタメが見たい」

「――かしこまりました」

 

 遊矢は仰々しく礼をした後、リアル・ソリッド・ビジョンの足場を軽やかに移動し、やがて頂上に辿り着く。

 ペンデュラムの光が灯る空を指差し、誰もいない会場で声を張った。

 

「レディース、エ~ンド、ジェントルメーン! 只今より始まりますは、ワタクシ榊遊矢による、榊遊矢にしかできない、榊遊矢だけのエンタメ・デュエル! 短い間ですが、どうぞご堪能ください!

 ……なーんてな」

「あはは、おっかしい」

 

 赤の他人が見れば、とんだ茶番に映ることだろう。

 だが観客はいる。たった一人の寂しい席だが、確かにいるのだ。ならばその期待に応え、心ゆくまで楽しませるのがエンタメデュエリストだ。

 

「それじゃ行くぞ、柚子!

 ――揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 天空の孔より、再びモンスターが現れる。

 光属性と水属性。先程破壊された一体と、たった今ドローしたもう一体。

 

「もう一度来い、《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》!

 続いて、《EM(エンタメイト)マンモスプラッシュ》!」

 

 《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》

 星6/光属性/昆虫族/攻 100/守2300

 

 《EM(エンタメイト)マンモスプラッシュ》

 星6/水属性/獣族/攻1900/守2300

 

「新しいモンスター……!?」

「お楽しみはこれからだ! 俺は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、《EM(エンタメイト)マンモスプラッシュ》をリリース!

 二色の(まなこ)の龍よ! 巨獣のしぶきをその身に浴びて、新たな力を生み出さん!」

 

 遊矢はエクストラデッキから一枚のカードを取り出す。

 獣を宿す神秘の龍。二つの魂は混じり合い、融合し、新たな命となりて誕生する。

 

「いでよ、野獣の(まなこ)光りし獰猛なる龍! 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星8/地属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

「来たわね、ペンデュラム融合!」

「まだまだ! ここで《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》の効果を発動! このターン、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は、特殊召喚されたモンスター全てに攻撃できる! “カレイド・ミラージュ”!」

 

 龍の瞳に万華鏡の光が宿り、野獣の咆吼が轟く。

 ビーストアイズの攻撃力は3000。プロディジー・モーツァルトにはわずか100届かないが、それでも他の二体に攻撃すれば決着する。

 

「バトルだ! 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《幻奏の音女ソナタ》を攻撃! “ヘルダイブ・バースト”!」

「くぅっ――!!」

 

 柚子

 LP:2400 → LP:1100

 

「ここで、ビーストアイズの効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、素材となった獣族モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「まだよ! (トラップ)発動、《ブレイクスルー・スキル》! 相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする!」

 

 追撃のブレスを放とうとした瞬間、(トラップ)のエフェクトによって遮られた。

 野獣の名を冠するだけあって、その能力は非常に攻撃的だ。前のターンで柚子がこの(トラップ)を引いていなければ、ここで負けていただろう。

 

「やるな、柚子。でも、ソナタがいなくなったことで《幻奏》モンスターの攻撃力は下がった。更にビーストアイズは、カレイドスコーピオンの効果でまだ攻撃ができる。さあ、これをどう躱す?」

「こうするわ! (トラップ)カード、《奇跡の残照》を発動! このターン、戦闘で破壊されたモンスター一体を、墓地から特殊召喚する!

 《幻奏の音女ソナタ》を、守備表示で特殊召喚!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「これで私の《幻奏》モンスターの攻撃力は元に戻るわ!」

「甘いぞ柚子。ビーストアイズはこのターン、特殊召喚された全てのモンスターに攻撃できる。ソナタを特殊召喚しても、もう一度攻撃すればいいだけだ」

「ええ、分かってるわ。勝負はここからよ。ほら、遊矢も」

「え?」

「私だけ(アクション)カードを使っても盛り上がらないでしょ? だから、遊矢も自分のカードを探して」

「わ、分かった」

 

 柚子に急かされ、遊矢もまた(アクション)カードを探し始めた。

 カード自体はあちこちに散らばっている。見つけるだけならそこまで苦ではない。

 問題は、今すぐ使えるかどうかだ。

 

「……あった!」

 

 先に見つけたのは遊矢。躊躇いなく、拾ったカードを発動する。

 

(アクション)魔法(マジック)、《ペネトレイト》! 自分のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば、貫通ダメージを与える!

 これで終わりだ! 行け、ビーストアイズ! もう一度《幻奏の音女ソナタ》を攻撃!」

「それはどうかしら!」

 

 柚子もまた走りながら(アクション)カードを拾い、発動する。

 

(アクション)魔法(マジック)《回避》を発動! ビーストアイズの攻撃を無効にする!」

「なっ――!?」

 

 槍のように鋭く尖ったブレスを、ソナタは間一髪回避した。柚子は得意げに笑い、挑発する。

 

「ふっふーん。どう?」

「ぐっ……だけど、ローリイット・フランソワの攻撃力は2800だ!

 行け、ビーストアイズ! 三回目の攻撃、“ヘルダイブ・バースト”!」

 

 柚子

 LP:1100 → LP:900

 

「くっ――やるわね、遊矢。これがペンデュラム融合の力ってわけ?」

「まあな。でも、お楽しみはまだまだこれからだ。ペンデュラムは可能性の振り子。俺はこれからも、もっともっと進化する」

「私だってそうよ。さあ、今度はこっちが魅せる番。覚悟なさい遊矢!」

「ああ、来い。俺はこれで、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 

 カードを確認し、柚子はほくそ笑む。引いたのは彼女のデッキのキーカード。ビーストアイズと同じ“融合”の力。

 

「私は魔法(マジック)カード《融合》を発動! これにより、フィールドのソナタとプロディジー・モーツァルトを融合!

 流れる旋律よ。至高の天才よ。タクトの導きにより、力重ねよ!

 融合召喚! 今こそ舞台に、勝利の歌を! 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》!」

 

 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》

 星6/光属性/天使族/攻1000/守2000

 

 花弁が一枚ずつ開き、中から小さな歌姫が現れた。ソナタやプロディジー・モーツァルトとは違い、その姿は少女のように幼い。

 

「このターンで決着をつけるわ!

 バトル! ブルーム・ディーヴァで、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃! “リフレクト・シャウト”!」

 

 ブルーム・ディーヴァの音波攻撃に対抗し、ビーストアイズは灼熱のブレス“ヘルダイブ・バースト”を放った。

 ――ここで、《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》の特殊効果が発動する。

 

「ブルーム・ディーヴァは特殊召喚された相手モンスターと戦闘を行った時、相手モンスターを破壊し、元々の攻撃力の差分のダメージを与える!

 ビーストアイズの攻撃力は3000! 遊矢、貴方に2000ポイントのダメージよ!」

「そうはいかない! カウンター(トラップ)、《ダメージ・ポラリライザー》! 効果ダメージの発動と効果を無効にする!」

 

 遊矢はセットしておいた(トラップ)を使い、効果ダメージをかろうじて防いだ。

 とはいえ、状況は変わらない。次のターン、再度攻撃されたら遊矢のライフは尽きる。

 

「……《ダメージ・ポラリライザー》のもう一つの効果。互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする」

「上手く防いだわね。いけると思ったんだけどなぁ。

 ……私はドローしたカードを伏せて、ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローした後、遊矢は長考する。

 ……《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》。柊柚子の融合(エース)モンスター。

 対して遊矢のフィールドには《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、そして《EM(エンタメイト)カレイドスコーピオン》の二体。どちらも特殊召喚されたモンスター。更に、ビーストアイズの攻撃力は3000。頼もしい攻撃力も、ブルーム・ディーヴァにとっては格好の的でしかない。

 

「……ん?」

 

 遊矢は足元のカードに気づき、それを拾った。裏面にはAの文字――(アクション)カード。

 そのカードは、今の彼の心情をこれ以上ないほど的確に表していた。

 このデュエルは、まさにこういう(・・・・)デュエルだ。ならば結果はどうあれ、このカードで逆転を狙うべきだろう。

 

「遊矢、どうしたの?」

「ん、なんでもない。

 俺は(アクション)魔法(マジック)《リスタート》を発動。自分の場のカードを全てデッキに戻す。戻ってこい、俺のモンスター達!」

 

 全てが消える。ペンデュラムスケールの二体、ビーストアイズ、カレイドスコーピオン。合計四体をデッキに戻し、何もかもを零に帰す。

 これはリセット――否、リスタートだ。

 

「ペンデュラムスケールも、ビーストアイズも戻しちゃうなんて」

「大丈夫、これは戻っただけだ。ペンデュラムモンスターは、これまでの俺の積み重ね。無かったことにはしない。その上で俺は、俺だけのデュエルを見つけてみせる。

 《リスタート》の効果。デッキに戻したカード二枚につき、一枚ドローする」

 

 遊矢はデッキの上に指を置き、祈るように問いかける。

 

“――応えてくれ”

 

 《リスタート》によって戻したカードは四枚。遊矢は合計二枚のカードをドローした。

 引き当てたのは《魔術師》二枚。絆のピースと始まりのピース。

 

「俺は、スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 白と黒の魔術師がセットされ、上空へ浮かび上がった。

 夜空に光が灯る。始まりの二体によって、閉じられたゲートは再び開く……!

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ペンデュラム召喚! いでよ、雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 振り子(ペンデュラム)はアークを描き、三度モンスターが召喚された。

 待っていたと言わんばかりに、神秘の龍は帰還する。

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

「更に俺は、手札の《貴竜(きりゅう)の魔術師》の効果発動! このカードは、レベル7以上の《オッドアイズ》モンスターのレベルを三つ下げ、手札から特殊召喚できる!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7 → 星4

 

 《貴竜(きりゅう)の魔術師》

 チューナー

 星3/炎属性/魔法使い族/攻 700/守1400

 

「チューナーの《魔術師》? これって――!」

「レベル4となった《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に、レベル3の《貴竜(きりゅう)の魔術師》をチューニング!

 二色の(まなこ)の龍よ。紅き炎をその身に纏い、次元を照らす星となれ!

 ――シンクロ召喚! 

 いでよ、大地を抉る紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》

 星7/炎属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 ドラゴンは紅蓮の炎を纏い、両目の輝きと共に生誕した。

 暗闇の中でも燃え盛るその肉体は、太陽のように眩しい。

 

「これが、遊矢のシンクロ召喚……凄い、凄いよ遊矢!」

「えへへ……俺は、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「え? 攻撃はしないの?」

「ああ。メテオバーストの効果じゃ、柚子にダメージは与えられないからな」

 

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》は、榊遊矢の他のドラゴンに比べて攻撃能力が低い。

 ……“バトルフェイズ中、相手はモンスター効果を発動できない”

 この場合、ブルーム・ディーヴァの効果ダメージは無効にできるが、永続効果――“破壊されず、ダメージを受けない”効果は無効にできないのだ。

 拳銃と弾丸に例えるなら、メテオバーストは弾丸を全て弾き飛ばせるが、拳銃そのものはどうにもできない。存在するだけで効果があるものに対しては無力なのだ。

 

「そう。だったら残念だけど、このデュエルもらったわ!

 私のターン、ドロー! このままバトルフェイズよ!」

「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》がいる限り、相手はバトルフェイズ中にモンスター効果を発動できない! これでブルーム・ディーヴァの効果を封じる!」

「それはどうかしら? 私はここで、墓地から(トラップ)カード《ブレイクスルー・スキル》を発動!」

「墓地から(トラップ)!?」

 

 《ブレイクスルー・スキル》は、モンスター効果をターン終了時まで無効にするカード。そしてもう一つ、このカードには墓地でのみ発動する効果がある。

 

「このカードを除外することで、相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。私は《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》を選択!」

 

 (トラップ)カードの赤いエフェクトが《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の全身を覆った。

 炎の光は小さくなり、徐々に勢いが弱まっていく。

 

「これでブルーム・ディーヴァの効果は復活するわ!

 行け、《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》を攻撃! “リフレクト・シャウト”!」

 

 ブルーム・ディーヴァの歌声がメテオバーストを誘い、炎熱のブレスを放つ。

 華の歌姫と火炎の龍。中々に凶悪な光景だが、結果は真逆となった。モンスター効果によってメテオバーストは破壊され、遊矢のライフが削られる。

 

 遊矢

 LP:2000 → LP:500

 

「更に(トラップ)発動、《幻奏のイリュージョン》。これにより、ブルーム・ディーヴァはこのターン二回攻撃ができる。遊矢の残りライフは500、ダイレクトアタックが決まれば私の勝ちよ!」

「それはどうかな!

 (トラップ)発動、《コズミック・ブラスト》! ドラゴン族シンクロモンスターがフィールドを離れた時、その攻撃力分のダメージを相手に与える!

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の攻撃力は2500。よって柚子、お前に2500のダメージだ!」

「えぇ!?」

 

 太陽は消えた。だが種火は消えない。

 燻っていた火は炎となり、龍を象った。それは隕石のごとく降り注ぎ、召喚者(プレイヤー)に直接ダメージを与える。

 

「これでフィニッシュだ! 行け、《コズミック・ブラスト》!」

「きゃあぁぁぁ――!!」

 

 柚子

 LP:900 → LP:0

 

 炎の一撃を受け、柚子は尻餅をついた。

 ――勝者は榊遊矢。

 (アクション)カード、アクション・フィールドはその役目を終え、早々に消えていった。

 

 

 ◆

 

 

「柚子、立てるか?」

「あ……う、うん」

 

 遊矢は躊躇なく手を差し出し、柚子を助け起こした。

 前回――舞網チャンピオンシップでは拒絶された。それでも懲りず、自然と手を差し伸べられるのは彼なりの強さだろう。

 

「ありがとう。柚子のおかげで、少し元気が出たよ」

「どういたしまして。答えは見つかった?」

「いや、正直に言うとまだ分からない。でも、一つだけ分かったよ。

 父さんのエンタメとジャックのエンタメ。どっちかが間違ってるって思ってたけど、きっとそうじゃない。どっちも正しかったんだ(・・・・・・・・・・・)。だってあの時――ジャックとデュエルした時、お客さんは確かに笑ってたんだから。

 だから思ったんだ。俺は、俺だけのエンタメがしたい。父さんにもジャックにも真似できない、榊遊矢だけのエンタメで、皆を笑顔にしたいって」

 

 その答えに、柚子は満足して微笑んだ。

 エンタメという定義について、ここまで確固とした答えを求めていたわけではない。

 これまで通り父親のエンタメを貫くか。それとも、ジャック・アトラスのエンタメに鞍替えするか。

 彼女としてはどちらでも良かった。なんでも良かった。

 ――ただ、この少年に笑ってさえくれれば。

 

「……榊遊矢だけのエンタメ、か。うん、凄くいいと思うよ、私」

「とは言っても、具体的には何をすればいいのやら。問題は山積み……寧ろ増えてる気がするよ」

 

 だがそれでいい。そういったことは、これから少しずつ学んでいけばいい。

 幸いにもこの次元には多くの先導者がいる。

 不動遊星。ジャック・アトラス。探せばもっと多くのデュエリストが挙げられるだろう。

 ここはそういうところなのだ。

 ネオ童実野シティ。人と人の絆を育み、次世代へと繋げる街。

 

 ――そしてまた、新しい絆が結ばれる。

 

 

「いいデュエルだったぜ、二人共」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 “俺は、俺だけのエンタメがしたい。父さんにもジャックにも真似できない、榊遊矢だけのエンタメで皆を笑顔にしたい”

 

 

 ――ああ。それは、(まさ)しく独りよがりだ。

 皆を笑顔にしたい?

 なんて思い上がり。なんて独善。そんなことは誰も頼んでいない。所詮は理想の押し付けだ。彼が目指すのは結局のところ、究極の“お節介”でしかない。

 

 だが。

 

 ――だがそれは、決して間違いではない。

 皆を笑顔にしたい。

 それだけは疑うべくもなく、()い願いだ。

 

 榊遊矢を否定する敵は当然のように現れるだろう。

 何故なら、彼の理想に正解はない。エンタメの定義は捉え方・考え方次第でいくらでも変わる。

 誰か一人、身近な人だけ(・・)を笑顔にする。それなら可能だ。

 だが、()を笑顔にすることはできない。いつか必ずどこかで、越えられない絶壁にぶつかるだろう。

 

 その上で、ジャック・アトラスは言ったのだ。“折れるな”と。

 

 だから、榊遊矢は胸を張る。折れないことを誓う。

 ずっと自分を見てくれていた、柊柚子という幼馴染に。

 




《コズミック・ブラスト》は遊星VSアキ(一戦目)で遊星が使ったカードです。
クェーサーを初めとしたシンクロ龍と相性が良いように思えますが、発動ターンは特殊召喚できなくなるのでそこまで凶悪じゃないですきっと。LP:4000だとヤバイけど。


《幻奏》Sモンスターがいたら、柚子が遊矢にシンクロ教えてもらう展開(=柚子覚醒のフラグ建築)ができるんだが、まだまだ先になりそうだなー。というか多分ないな。



デュエル終了後、誰かに

?「いいデュエルだったぜ、二人共」

とか言わせてしまったが、まだ誰かは決まってないぜ!

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