注意:オリジナル口上とスピードスペル。
SPCを二つ使うことで通常の魔法が使えます。
ライディング・デュエル専用カードはゲーム版基準。
もし違ってたら……許してください。
エンタメとはなんぞや。そんなことを考えつつ書いてみた。
……いや、正直わかんねーわ。
『会場の皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今よりライディング・デュエルの祭典、フレンドシップ・カップの開催を、今、ここに宣言するぞォー!!』
「「オオオォォォォ――――!!!」」
巨大なリーゼントを生やしたMCがマイク片手に叫び狂う。
超が何個もつきそうなレベルのハイテンションに、観客は更にヒートアップする。
『では、早速行ってみようか! 今大会最初のデュエル、ジャック・アトラスとのエキシビション・マッチ! まずは
ゲートから飛び出たのは暖色のD・ホイール。
スピードは控えめであることからライディング・デュエル初心者、あるいは
だが少なくとも、この
『ジャック・アトラスに立ち向かうのは、なんとライディング・デュエル初心者! 異次元からの使者、エンタメの貴公子こと、榊遊矢ー!』
「って、なんだよそれ!?」
ハチャメチャな自分の二つ名に遊矢はツッコミを入れる。誰が考えたのかは定かではない。赤馬零児が考えたのかもしれないし、不動遊星が考えたのかもしれない。前情報のみでMCがたった今考えた可能性もある。
『少年を迎え撃つのは、かつてこの街のキングとして君臨し、紆余曲折あって伝説となったこの男! 絶対王者、ジャック・アトラスー!』
続けて飛び出たのは白いD・ホイール。世界に一つしかないと言われる“ホイール・オブ・フォーチュン”。そしてジャック・アトラス。
両者はグリッドにつき、D・ホイールはデュエルモードに移行する。
「ようやくこの時が来たな。貴様はあの遊星が勧めた男。がっかりだけはさせてくれるなよ」
「……分かってる。見せてやるさ、俺のエンタメデュエルを!」
『両者共に準備はいいかー!
では行くぞぅ! フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セェーット、オーン!!』
MCによる実況が会場全体に響き渡り、同時にカウントダウンが始まった。
カウントは十。しかしワンカウントは一秒すら満たさず、実質五秒もない。スタートを急かすように、カウントはD・ホイーラー達を精神的に追い詰める。
この瞬間、客席は一斉に静まり返る。
緊張のボルテージがカウントと共に上昇し、最後の瞬間に全てが爆発する。
唯一人。試合の実況を勤めるMCは、静寂の中で稲妻のごとく声を轟かせた。
――カウント・ゼロ。戦いの幕は上がる。
『ライディング・デュエル、アクセラレーション!!』
「っ――!」
遊矢はエンジンを全開まで唸らせるが、思うようにスピードが出ない。
いや、正確には出ている。いつも通り、練習の時と全く同じペースで。
ただそれ以上に、ジャックのD・ホイールが速いのだ。
『第一コーナーを制したのはジャック・アトラス! よってこのデュエル、先行はジャックだァー!!』
「当然だな! そんな馬力では、このジャック・アトラスには到底追いつけん!」
「いや、追いついてみせる! このデュエルで! 行くぞ――!」
「「
◆
「オレのターン!」
ジャック
LP:4000
SPC:1
遊矢
LP:4000
SPC:1
「まずは小手調べだ。《インターセプト・デーモン》を召喚!」
《インターセプト・デーモン》
星4/闇属性/悪魔族/攻1400/守1600
「カードを二枚伏せてターンエンド! さあ、貴様のターンだ!」
「……俺のターン!」
ジャック
LP:4000
SPC:2
遊矢
LP:4000
SPC:2
一ターン目が終了し、遊矢のターンが回ってくる。
ジャックのフィールドには六つの腕を持つ悪魔モンスター。ヘルメットや防具の類からフットボールの選手を連想させる。ステータスそのものは貧弱と言っていい。彼の言ったとおり、まさに小手調べのモンスターなのだろう。
つまり、ペンデュラム召喚に必要な個数は最低でも四つ。遊矢は次のターンに備え、まずは下地を整える。
「俺は《
《
星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100
モンスターが召喚ゲートより現れ、文字通りアクロバットに空中を舞う。
その身軽さ、サーカス団員のような振る舞いに、観客の視線が釘付けになる。
「ドクロバット・ジョーカーの召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の《
この効果により俺は、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を手札に加える」
「――なに?」
ジャックは遊矢のカード――手札に加えたドラゴンを見た瞬間、目つきが変わった。
現在フィールドにいるドクロバット・ジョーカー。そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。
これらの共通点。即ち榊遊矢の特異点を、ジャックはこの一瞬で見切った。
「そして、手札の《
《
星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200
『おーっと、これは速い! チャレンジャー榊遊矢、わずか一ターン目にして早くもレベル4モンスターを二体召喚したぞォ! 《インターセプト・デーモン》の攻撃力は1400。総攻撃が決まれば大ダメージだァー!!』
「バトル! ドクロバット・ジョーカーで、《インターセプト・デーモン》を攻撃!」
「《インターセプト・デーモン》の効果! 相手モンスターの攻撃宣言時、500ポイントのダメージを与える!」
遊矢
LP:4000 → 3500
SPC:2
「更に
「なに!?」
《インターセプト・デーモン》
攻1400 → 攻2300
「返り討ちだ! 消し飛べ!」
光弾による反撃を受けてドクロバット・ジョーカーが消滅し、遊矢のライフが引かれる。
遊矢
LP:3500 → 3000
SPC:2
モンスターが破壊されライフが減少する。これだけなら何度も見慣れた光景だ。
しかし今回ばかり違う。モニターを眺めつつ、ジャックは
「ほう。破壊されたら墓地ではなくエクストラデッキに行くのか。随分とユニークなモンスターだな」
「っ……、カードを一枚伏せて、ターンエンド」
《インターセプト・デーモン》
攻2300 → 攻1400
伏せカードを展開し、遊矢のターンが終了。フィールドには攻撃表示のモンスター1体のみ。
彼のデッキはペンデュラムに特化している。それが使えない今、フィールドが手薄になってしまうのは仕方ないことだ。
「オレのターン!」
ジャック
LP:4000
SPC:3
遊矢
LP:3000
SPC:3
「チューナーモンスター、《トップ・ランナー》を召喚!」
《トップ・ランナー》
星4/風属性/機械族/攻1100/守 800
「レベル4の《インターセプト・デーモン》に、レベル4の《トップ・ランナー》をチューニング!」
先頭を走る者――《トップ・ランナー》は四つの光の円環となり、《インターセプト・デーモン》が後に続く。
二体の魂は同調、調律し、ここに新たな刃が誕生する。
「王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる! 熱き波濤を超え、現れよ!
シンクロ召喚! 炎の鬼神、《クリムゾン・ブレーダー》!」
《クリムゾン・ブレーダー》
星8/炎属性/戦士族/攻2800/守2600
『決まったァァ――! ジャック・アトラスのシンクロ召喚! トップバッターは二刀の長剣を操る剣神、《クリムゾン・ブレーダー》!』
「っ……!」
MCの実況を耳に入れつつ、遊矢はDVDでのジャックのデュエルを思い出していた。
このモンスターは言わば第一関門。王の待つ玉座、その入口を守る赤い騎士――!
「バトルだ。《クリムゾン・ブレーダー》で《
烈火の剣戟を受け、ヘルプリンセスが消滅。攻撃表示であったため、遊矢のライフは大きく削られる。
「うあぁぁ――っ!!」
遊矢
LP:3000 → 1400
SPC:3
「まだ終わらんぞ! こいつの切れ味、貴様ならよく知っていよう!
《クリムゾン・ブレーダー》のモンスター効果。戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、次のターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚できない!」
『な、な、なんということだ――!! 先程ドクロバット・ジョーカーによって手札に加えたドラゴンが封じられてしまったぞー!
これではエースモンスターを召喚できない!
「っ……それは、どうかな!」
練習していたことが幸いした。遊矢はD・ホイールの体勢を立て直しつつ
「
俺が受けたダメージは1600。よって、カウンターは5つ増える!」
遊矢
LP:1400
SPC:3 → 8
「仕掛けるつもりか。いいだろう、来るがいい! オレはこれでターンエンド!」
「俺のターン!」
ジャック
LP:4000
SPC:4
遊矢
LP:1400
SPC:9
「……よし」
カウンターは貯まり、これにて準備は整った。
――天を指す。
運転をオートパイロットに任せ、少年は観客席に向かって声を張り上げた。
「レディース、エーンド、ジェントルメーン!!」
『え?』
あまりにも唐突なその行動に、誰もが困惑した。
榊遊矢の対戦相手はジャック・アトラス。どのような言葉であれ、その言葉は対戦相手であるジャックに向けられるべきなのだ。
「ご来客の皆様、長らくお待たせしました! これよりワタクシ榊遊矢と、生ける伝説ジャック・アトラスによるエンタメデュエルを、このスピードの世界で披露したいと思います!」
だが、榊遊矢は観衆に話しかける。
ある者はこう考えるだろう。この少年は、一人ではジャック・アトラスに勝てないと。だから彼は力を求める。自分以外の誰かに。観客を味方に付け、力の差を埋めるために。
ある者はこう考えるだろう。この少年は、この会場の全員を楽しませたいのだと。十人いれば十人を笑顔に。百人なら百人。千人なら千人。それ以上でも同様に。
そして、全員が確信する。ここから先が、無謀な
「このオレを前にして随分と大きく出たな。その度胸は買ってやるが――ここまで言ったからには、それなりのものを魅せてくれるんだろうな?」
「ああ、勿論だ! 行くぞ、ジャック・アトラス!」
遊矢は手札から二枚を選択する。
一見するとモンスターカード。しかしそれらは、
「俺は
遊矢
LP:1400
SPC:9 → 5
スタジアムの上空に二体のモンスターが浮かび上がる。
シンクロ次元にペンデュラム召喚は存在しない。未知なる召喚法、デュエルの新たな可能性に、観客は呼吸を忘れて見入る。
『な、なんだ? これは一体どういうことだぁ!? 私も正直よくわかりませんが、なんだかスゴイことが起こる気がするぞォォ――!!』
MCの興奮気味の実況で、スタジアム全体の空気が変わる。
――期待が高まり、会場は湧き上がる。
その熱気を肌で感じ、遊矢の魂もまた揺れ始める。
「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!
ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」
上空の孔より現れたのは二つの魂。一体は手札、もう一体はエクストラデッキから、二体同時に召喚される。
「手札から《
そしてもう一体! アンコールだ、《
《
星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守 500
《
星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100
MCは実況席から身を乗り出し、マイク片手に喉を震わす。
『ご、ご覧になりましたでしょうか会場の皆様方ー! 上空からモンスターが二体、榊遊矢のフィールドに同時に現れたぞぉー! しかもそのうちの一体は、先程倒されたはずのドクロバット・ジョーカー! これが
「フン! そんなモンスターでは、この《クリムゾン・ブレーダー》の足元にも及ばんぞ!」
「まだまだ! お楽しみはこれからだ!
俺は、レベル4のヘイタイガーとドクロバット・ジョーカーで、オーバーレイ!」
暗黒の渦が現れ、二体のモンスターはその中心に吸い寄せられる。
ここではない何処か。はるか異次元で新たな命が生まれ、召喚者の元に現れる。
「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ!
エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
巨大な逆鱗を持つ漆黒の龍。
これまで見たことのないドラゴン、見たことのない召喚法に、MCは再び絶叫した。
『こ、こ、これはどういうことだー!?
「エクシーズモンスターはレベルを持たない。よって、《クリムゾン・ブレーダー》の効果は受けないのさ!
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動! 素材になったモンスター、オーバーレイ・ユニットを二つ使うことで相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力に加える!」
「なるほど、
永続
「なに――!」
ジャックが発動したカードから鎖が飛び出し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の全身を拘束する。
宙に浮くモンスターの魂、オーバーレイ・ユニットは無意味に消費され、効果は不発に終わった。
『おーっと、流石はジャック・アトラス! 事前に伏せた
「っ……いや、まだだ! カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
遊矢のフィールドに
そして、
「……こんなものか」
「――え?」
溜息まじりに、ジャックは呟いた。
「遊星が勧めた男だからと期待していたが、蓋を開けてみればこのザマか。
断言してやる、榊遊矢。貴様はエンタメに向いていない」
その宣言に、遊矢は硬直した。
時が止まったのではないかと錯覚するほどに。
「……どうして」
エンタメというスタイルは、遊矢のデュエルの大元であり目標だ。彼は幼少時、父親が原因で笑うことが少なかった。いつも誰かに泣かされ、誰かに助けられていた。笑顔がない生活の虚しさを、榊遊矢は身を持って体感している。
だから、デュエルで皆を笑顔にしたいと思ったのだ。皆笑って皆幸せ。単純で最も幸福なユメのカタチ。
だから。ジャックの言葉は、遊矢自身の否定にも繋がる。
「どうしてアンタにそんなことが言える、ジャック・アトラス!」
「ここまでのデュエルを思い返してみろ。それが答えだ」
「思い返す、だって……?」
「貴様のデュエルは振り子のようだ。左右に忙しなく揺れ動き、焦点がまるで定まっていない」
「……どういうことだよ」
「自覚がないなら教えてやろう。そのドラゴンをよく見てみろ」
遊矢は、
翼、腕、首。各部位が鎖で縛られ、身動きがとれない状況だ。
「貴様にも背負うものがあるのだろう。やるべきことがあるのだろう。だがそれらは全て、今の貴様にとっての鎖に成り下がっている。かつてのオレのように」
「かつて……?」
「ああ。その気になってるだけで、本質がまるで
「な――」
どういう意味か聞き返す前に、ジャックはターンを進める。
「デュエルを続行する! オレのターン!」
ジャック
LP:4000
SPC:5
遊矢
LP:1400
SPC:6
「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》で、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を攻撃! “レッド・マーダー”!」
遊矢
LP:1400 → 1100
SPC:6
「うわぁぁ――――!!!」
漆黒の龍は十字に裂かれ、ダメージの衝撃が遊矢に伝わる。
このドラゴンは元々遊矢のカードではなく、彼の中にいるもう一つの魂、“ユート”のカードだ。
レジスタンス。強者への反逆を象徴する龍。
それでさえ届かなかった。門番に阻まれ、奥に待つ《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を引きずり下ろすことさえ叶わない。
「……くっ」
遊矢の頭には、ジャックの言葉がひどくこびり付いていた。
……“独りよがり”。“押し付けがましい”とジャックは言った。
どういう意図が込められているのか、今の遊矢には全くと言っていいほど分からなかった。
だって、会場は湧いている。皆が心を一つにして、この時間、この瞬間に没頭しているのだから――
「遊矢ー!!」
「え?」
少女の声。しかし、聞こえたのはほんのひと握りであろう。
「……柚子?」
少女の名を呼ぶ。当然返事はない。高速で走るD・ホイール上での呟きが、観客席まで聞こえるはずがない。
それでも遊矢は会場を見回す。たった一人の女の子。ずっと会いたかった幼馴染を探し出す。
少女はすぐ見つかった。アクション・デュエルで鍛えられた視力と、彼女の奇抜な格好……ライダースーツのおかげだろう。
「……そうだった」
柚子が見ている。遊矢はそのことをすっかり失念していた。
ジャック・アトラスとのデュエルに夢中で、それ以外のことが考えられなくなっていたのだ。
「……俺のターン、ドロー」
ジャック
LP:4000
SPC:6
遊矢
LP:1100
SPC:7
「リバースカード、《ペンデュラム・バック》。ペンデュラム召喚可能なモンスターを二体まで、墓地から手札に戻す。これにより《
「?」
雰囲気の変化にジャックは気づく。
ダウナーな気配は変わらない。しかし、落ち込んでいるわけでもない。
例えるなら――嵐の直前。何かが起きる前の静かな一時。
「
手札のヘイタイガー、ドクロバット・ジョーカーをデッキに戻し、合計で三枚ドロー」
遊矢
LP:1100
SPC:7 → 5
「モンスターを裏守備表示で召喚。
カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
『
「万策尽きたようだな。オレのターン!」
ジャック
LP:4000
SPC:7
遊矢
LP:1100
SPC:6
「オレが引いたカードは《
ジャック
LP:4000
SPC:7 → 3
「《マッド・デーモン》を攻撃表示で召喚!」
《マッド・デーモン》
星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守 0
「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》、裏守備モンスターを攻撃! 切り裂け、“レッド・マーダー”!」
二刀の長剣が
しかし破壊した直後、振るわれた剣は錆び付き、《クリムゾン・ブレーダー》の攻撃力が減少する。
《クリムゾン・ブレーダー》
攻2800 → 攻2000
「《
「フン、今更足掻いても遅いわ! 《マッド・デーモン》のダイレクトアタックが決まれば、それで貴様は終わりだ!」
「まだだ! まだ終わらない!
……終わってなんかやるもんか。俺はまだ、何一つ成し遂げちゃいないんだ!
速攻魔法発動! 《イリュージョン・バルーン》!」
遊矢
LP:1100
SPC:6 → 4
もぬけのカラとなった遊矢のフィールドに、カラフルな五つの
『これは一体何だー!?
「ジャック! お前は俺に視えていないと言ったな! けど、それはアンタにも言えることだ!」
「どういう意味だ」
「……確かに、貴方には視えてるんだろう。この会場が。このフィールドが。もしかしたら、この展開そのものが既に手の平の上なのかもしれない。
だけど! 俺の夢。俺の未来。俺の可能性は、決してアンタにも見えはしない! だから、さっきの言葉は撤回してもらう!」
「――……ほう。面白い、ならば見せてみろ! 貴様の可能性とやらを! 行け、《マッド・デーモン》!」
「《イリュージョン・バルーン》の効果発動! デッキの上からカードを五枚確認し、その中から《
「《マッド・デーモン》は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば貫通ダメージを与える。いくら壁モンスターを引き当てようと、攻撃力と守備力、共に700以下なら貴様の敗北だ!」
「いや、まだ終わらない! 引き当ててみせる、俺の仲間達を! まず、一枚目――!」
バルーンが一つだけ割れ、中から引き当てたカードが姿を現す。
「っ……《
《
星1/闇属性/魔法使い族/攻 100/守 100
「早速モンスターを引き当てたか。運だけはあるらしい。だが、そのモンスターでは防げんぞ!」
「まだだ――二枚目!」
遊矢はカードを引く。しかし、引き当てたのは
「くっ……三枚目!」
《
星2/地属性/獣族/攻 300/守 300
「四枚目――!」
……《
「――くそ」
「四枚目も外れたか。これで後がなくなったな。
榊遊矢。今、貴様はどんな気持ちだ」
「っ……!」
五枚目を引く手が止まる。
右腕だけが麻痺してしまったような、不自然な感覚。
音が遠ざかり、視界は暗く染まる。
……恐怖と炎は似ている。気づいた瞬間には、既に奥深くまで侵食されている。
「怖いだろうな。自分を否定する敵に負けるというのは」
「え……?」
先程までとはまるで違う柔らかな言葉に、遊矢は顔を上げる。
「貴様のエンタメはまだ独りよがりだが、その想いは決して間違ってはいない。
この先、貴様を否定する敵は山程現れる。だが、何があろうと決して折れるな。信じるモノが正しければ、たとえどれほど間違えたとしても――必ず、最期には“何か”を得られるだろう」
「ジャック……?」
「さあ、カードを引くがいい! 貴様の未来は尽きてなどいない! ならば最後に、その輝きを見せてみろ!」
「……ああ!」
遊矢は顔を伏せ、見えないように笑いをこぼした。
ジャック・アトラス。この男もまた、不動遊星の仲間なのだと。
「行くぞ、五枚目!」
最後のバルーンが割れ、中からカードが現れる。
ドローしたカードを確認。遊矢は、未来を共に歩む
「俺が引いたカードは《
《
星3/地属性/獣族/攻 800/守 800
「《マッド・デーモン》の攻撃! “ボーン・スプラッシュ”!」
骨の礫を受け、バルーンより現れたヒッポが消滅。更に貫通効果により、遊矢のライフが減少する。
遊矢
LP:1100 → 100
SPC:4
『耐えたーー!!!
「てて……ありがとう、ヒッポ」
遊矢はカードを墓地に送りつつ、礼を言う。
残りのライフは僅か100。対してジャックは全くの無傷。実力差は圧倒的と言ってもいい。
にもかかわらず、会場のボルテージは上がっていく。限界ギリギリの戦いに、客の視線はますます遊矢に集まる。
「オレはカードを一枚伏せてターンエンド。さあ、攻めてこい!」
「俺のターン、ドロー!!」
ジャック
LP:4000
SPC:4
遊矢
LP:100
SPC:5
「……この、カードは」
そうして、遊矢は引き当てた。
託された成長のピース。
可能性に満ちた新たなカードを。
「……独りよがりって言ったな、ジャック」
「ああ」
「……その意味が、少しだけ分かった。俺には、視えてなかったんだ。皆のことが。仲間のことが。観客やMC、遊星さん。そして柚子。
楽しませるなんて言っておきながら。笑顔にするなんて言っておきながら。その具体的な方法を、俺は、何一つ考えてなかった」
ジャックは黙って遊矢の独白に耳を傾ける。
榊遊矢のエンタメは、少しばかりズレている。
才能がないわけじゃない。彼のデュエルで笑顔になる人間は確かにいる。向いていない、というのは流石に言いすぎだ。
けれど所詮、彼のエンタメは“好き勝手に振舞う”だけだ。やりたいことだけをやってるようでは、本当の意味でのエンタメとは言えない。
無論、榊遊矢はそこまで至っていない。ただ、今の自分は少し違うと気づいただけ。
……その一歩が。少年の未来を、少しだけ変える。
「見せてやる。今の俺の精一杯を。ジャック、貴方だけじゃない。ここにいる全員……ランサーズの皆にも!」
「……フッ。
ならば、来るがいい! このジャック・アトラスは、逃げも隠れもしない!」
「ああ! 全力で行くぞ!」
大きく揺れれば、それだけ大きく戻ってくる。それがペンデュラムだ。
「今一度揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!
ペンデュラム召喚! もう一度、力を貸してくれ――!」
遊矢は手をかざし、再び
セットされたスケールは3と5。同時に召喚可能なモンスターはレベル4のみ。
《クリムゾン・ブレーダー》によって破壊され、エクストラデッキに送られた
「《
《
星4/地属性/獣族/攻 800/守1800
『出たー! 先程も見せた新たな召喚法、ペンデュラム召喚! だが、召喚されたモンスターはわずか一体! ここからどう巻き返すつもりだ、榊遊矢ー!』
「永続
更に
遊矢
LP:100
SPC:5 → 3
「そして俺は、このカードを通常召喚する!
風水司る未熟な魔術師よ。絆を紡ぎ、今こそ現れろ!
チューナーモンスター、《
《貴竜の魔術師》
星3/炎属性/魔法使い族/攻 700/守1400
「「!?」」
――その召喚に、ごく一部の者は度肝を抜かれた。
ランサーズ、そして柊柚子。即ち、榊遊矢を知る者達。
「……行け、遊矢」
会場のどこかにいる、一人の男の呟き。
それに応えるようにカードは塗り替えられる。
色は二重に折り重なり、ペンデュラムの、新たな進化の扉が開かれる――。
「レベル4の《
《貴竜の魔術師》は祈るように杖を掲げ、三つの円環を生み出した。ラクダウンが輪をくぐり抜け、調律・同調する。
「二色の
シンクロ召喚! いでよ、大地抉りし紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》
星7/炎属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
合計レベルは7。今ここに、二色の眼を持つ超新星が爆誕した。
炎を纏った神秘の龍が、会場全体に咆哮を轟かす。
『で、で、出たァー!
ペンデュラム、エクシーズに続き、まさかのシンクロ召喚! 複数の召喚法を操るD・ホイーラー、その名も榊遊矢! なんというデュエリストだ! これまで無名だったのが不思議なくらいだぞォー!』
「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》は特殊召喚に成功した時、自身のバトルを放棄することで、
空に浮く一体のモンスターが炎に包まれ、隕石のごとく落下した。
輝くは二色の眼。赤き神秘の龍が、遊矢の場に誕生する。
「真打ち登場! 雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
「さらに《
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》
攻2500 → 攻2800
「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《クリムゾン・ブレーダー》を攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」
螺旋を描くブレスにて《クリムゾン・ブレーダー》が破壊される。
「そして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のモンスター効果! モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする! “リアクション・フォース”!」
「ぬぅ……!?」
ジャック
LP:4000 → 2400
SPC:4
更なるブレス攻撃を受け、ジャックのライフが減少。一瞬だけ体制を崩すが、即座に立て直した。世界で活躍しているだけあって、そのテクニックは遊矢の比ではない。
『《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃が決まり、ジャックのライフが大きく削られた! 一矢報いた榊遊矢、このまま逆転なるかー!?』
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
「やってくれたな、榊遊矢! 今の一撃、確かにオレに響いたぞ! 先程の言葉は訂正しよう! だからこそ貴様は、このオレ自らの魂で打ち砕く! オレのターン!」
ジャック
LP:2400
SPC:5
遊矢
LP:100
SPC:4
「オレは貴様の永続
《トラップ・イーター》
星4/闇属性/悪魔族/攻1900/守1600
「チューナーモンスター。合計レベルは8……!」
「行くぞ! レベル4の《マッド・デーモン》に、レベル4の《トラップ・イーター》をチューニング!」
ジャックは高く腕を掲げ、
「王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力を、その身に刻むがいい!
シンクロ召喚! 荒ぶる魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
現れたのは同じく紅蓮の龍。
全身の傷は勝利の証。
絶対的な覇気を持つ、孤高なる破壊龍――!
『ついに来たぞォォー! ジャック・アトラスの新たなドラゴン、その名も《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》! これはまずい、どうするチャレンジャー!?』
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果発動! このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!
喰らうがいい! “アブソリュート・パワー・フレイム”!」
オッドアイズ二体の攻撃力はどちらも3000以下。遊矢のライフは残り100。
だが、二体が破壊龍の火炎を浴びる直前、遊矢はセットした
「
《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》
星8 → 星7
攻3000 → 攻2000
これは、遊矢がジャック・アトラスの対策に投入した
ならば答えは簡単だ。高いのなら、下げてしまえばいい。
「これで《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の攻撃力は、俺のオッドアイズ達を下回った。効果では破壊できず、当然戦闘でも破壊できない!」
「甘いわ! そんな他人の真似事では、このジャック・アトラスを倒すことなどできはしない! それを今、この場で教えてくれる!
チューナーモンスター、《チェーン・リゾネーター》を召喚!」
《チェーン・リゾネーター》
星1/光属性/悪魔族/攻 100/守 100
「レベル7となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に、レベル1の《チェーン・リゾネーター》をチューニング!」
「なっ……!」
《チェーン・リゾネーター》は音叉を鳴らし、自身を一つの光輪に変換。その中心を、縮小したドラゴンが通り抜ける。
「王者の鼓動、今ここに列をなす。天地鳴動の力を見るがいい!
シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000
全身の傷は癒え、角は再生。
ジャック・アトラスを象徴する破壊龍が、今、完全な形で降臨した。
「そんな、ここで《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!?」
『なんとぉ! 榊遊矢の仕掛けた
「これで終わりだ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!
森羅万象、全てを突き貫け! “アブソリュート・パワー・フォース”!」
有無を言わさぬ強烈な掌底が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を貫き破壊した。
遊矢に防ぐ術はもうない。ライフが減少し、決着する。
「うわぁぁ――!!」
遊矢
LP:100 → 0
SPC:4
ぶしゅう、と空気が抜ける音。遊矢のD・ホイールは速度を失い始め、やがて停止するだろう。
フレンドシップ・カップの開幕戦は、ジャック・アトラスの勝利にて幕を閉じた。
◆
「……負けた、のか」
届かなかった。その事実が遊矢にとってショックだった。
ライディング・デュエルと通常のデュエルは違う。今回のデュエルでも、
だが、そんなのは些細なことだ。
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》。
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。
そして、《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》。
これ以上ないほどの大盤振る舞い。間違いなく全力以上の力を発揮した。
――それでもなお、ジャックは遠い。
榊遊矢にはもう一体切り札がいる。しかしそれはジャックも同様だ。
今の自分ではどうやっても勝てないと、遊矢は痛感した。
「おい」
ジャックはD・ホイールを止め、項垂れる遊矢の元へ歩み寄る。
「何も言うな。そして、顔を上げろ」
「えっ――」
言われるがまま、遊矢は顔を上げる。
そして、圧倒的な光景を目にした。
『ついに、決着ー! フレンドシップ・カップの開幕戦、エキシビション・マッチを制したのはジャック・アトラス! 生ける伝説はなお健在! いや、むしろ勢いを増している! その圧倒的な力を、参加者全員に見せつけたぞー!
そして
「流石はジャック・アトラス! 伝説のD・ホイーラーだー!!」
「アトラス様ー!」
「榊遊矢って子もやるじゃないか!」
「惜しかったぞ、少年ー!!」
「……これって」
こんなに広かったのか。こんなに多かったのか、と。
走っている時には気づかなかった世界の広さが、そこにはあった。
「お前の目指すモノが何なのかは知らん。オレには関係のないことだからな。だが、この景色だけは覚えておけ」
観衆は各々の言いたいことを好き勝手に叫んでいる。誰が何を言っているのか聞き取れないほどに。
だが、そこには笑顔があった。
ここにいる誰もがこの瞬間を、十二分に満喫していたのだ――。
本編
「二色の
シンクロ召喚! いでよ、大地抉りし紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
他の案
「二色の
シンクロ召喚! いでよ、絆を紡ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
「二色の
シンクロ召喚! いでよ、次元を繋ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
「爆炎より生まれし二色の眼。業火を纏いて大地を照らせ!
シンクロ召喚! いでよ、次元を繋ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
・
・
・
……などなど。
気をつけた点は
「炎」
「二色の眼」
「星」
「絆」
「次元」
に関連する言葉が含まれていること。その気になれば割と考えられますね。
ぶっちゃけ技名の“ボンド・オブ・フレイム”の方が言わせたかったので、召喚口上はそれっぽいならなんでもいいんですけど。
……うむ、我ながら実に痛々しい。だが逆に考えよう。この痛々しさを恥じるのではなく、楽しむのだ! 何事であれ頂点を極めるのいいことだって誰かが言ってた!