アーク・ファイブ・ディーズ   作:YASUT

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遊矢「シンクロ召喚!」(ネタバレ)


注意:オリジナル口上とスピードスペル。
   SPCを二つ使うことで通常の魔法が使えます。
   ライディング・デュエル専用カードはゲーム版基準。
   もし違ってたら……許してください。


エンタメとはなんぞや。そんなことを考えつつ書いてみた。
……いや、正直わかんねーわ。


エキシビション・マッチ ジャック・アトラス

『会場の皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今よりライディング・デュエルの祭典、フレンドシップ・カップの開催を、今、ここに宣言するぞォー!!』

「「オオオォォォォ――――!!!」」

 

 巨大なリーゼントを生やしたMCがマイク片手に叫び狂う。

 超が何個もつきそうなレベルのハイテンションに、観客は更にヒートアップする。

 

『では、早速行ってみようか! 今大会最初のデュエル、ジャック・アトラスとのエキシビション・マッチ! まずは挑戦者(チャレンジャー)の入場だー!!』

 

 ゲートから飛び出たのは暖色のD・ホイール。

 スピードは控えめであることからライディング・デュエル初心者、あるいは()ってないことが伺える。

 だが少なくとも、この決闘者(デュエリスト)なら後者は有り得ない。

 

『ジャック・アトラスに立ち向かうのは、なんとライディング・デュエル初心者! 異次元からの使者、エンタメの貴公子こと、榊遊矢ー!』

「って、なんだよそれ!?」

 

 ハチャメチャな自分の二つ名に遊矢はツッコミを入れる。誰が考えたのかは定かではない。赤馬零児が考えたのかもしれないし、不動遊星が考えたのかもしれない。前情報のみでMCがたった今考えた可能性もある。

 

『少年を迎え撃つのは、かつてこの街のキングとして君臨し、紆余曲折あって伝説となったこの男! 絶対王者、ジャック・アトラスー!』

 

 続けて飛び出たのは白いD・ホイール。世界に一つしかないと言われる“ホイール・オブ・フォーチュン”。そしてジャック・アトラス。

 両者はグリッドにつき、D・ホイールはデュエルモードに移行する。

 

「ようやくこの時が来たな。貴様はあの遊星が勧めた男。がっかりだけはさせてくれるなよ」

「……分かってる。見せてやるさ、俺のエンタメデュエルを!」

『両者共に準備はいいかー!

 では行くぞぅ! フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セェーット、オーン!!』

 

 MCによる実況が会場全体に響き渡り、同時にカウントダウンが始まった。

 カウントは十。しかしワンカウントは一秒すら満たさず、実質五秒もない。スタートを急かすように、カウントはD・ホイーラー達を精神的に追い詰める。

 この瞬間、客席は一斉に静まり返る。

 緊張のボルテージがカウントと共に上昇し、最後の瞬間に全てが爆発する。

 唯一人。試合の実況を勤めるMCは、静寂の中で稲妻のごとく声を轟かせた。

 ――カウント・ゼロ。戦いの幕は上がる。

 

『ライディング・デュエル、アクセラレーション!!』

「っ――!」

 

 遊矢はエンジンを全開まで唸らせるが、思うようにスピードが出ない。

 いや、正確には出ている。いつも通り、練習の時と全く同じペースで。

 ただそれ以上に、ジャックのD・ホイールが速いのだ。

 

『第一コーナーを制したのはジャック・アトラス! よってこのデュエル、先行はジャックだァー!!』

「当然だな! そんな馬力では、このジャック・アトラスには到底追いつけん!」

「いや、追いついてみせる! このデュエルで! 行くぞ――!」

 

 

「「決闘(デュエル)――!」」

 

 

 ◆

 

 

「オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊矢

 LP:4000

 SPC:1

 

「まずは小手調べだ。《インターセプト・デーモン》を召喚!」

 

 《インターセプト・デーモン》

 星4/闇属性/悪魔族/攻1400/守1600

 

「カードを二枚伏せてターンエンド! さあ、貴様のターンだ!」

「……俺のターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:2

 

 遊矢

 LP:4000

 SPC:2

 

 一ターン目が終了し、遊矢のターンが回ってくる。

 ジャックのフィールドには六つの腕を持つ悪魔モンスター。ヘルメットや防具の類からフットボールの選手を連想させる。ステータスそのものは貧弱と言っていい。彼の言ったとおり、まさに小手調べのモンスターなのだろう。SPC(スピードカウンター)はお互い二つ。《スピード・ワールド・ネオ》下で通常の魔法(マジック)カードを発動する場合、SPC(スピードカウンター)を二つ払わなければならない。

 つまり、ペンデュラム召喚に必要な個数は最低でも四つ。遊矢は次のターンに備え、まずは下地を整える。

 

「俺は《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100

 

 モンスターが召喚ゲートより現れ、文字通りアクロバットに空中を舞う。

 その身軽さ、サーカス団員のような振る舞いに、観客の視線が釘付けになる。

 

「ドクロバット・ジョーカーの召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の《EM(エンタメイト)》、《魔術師》、《オッドアイズ》のいずれか一体を手札に加えることができる。

 この効果により俺は、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を手札に加える」

「――なに?」

 

 ジャックは遊矢のカード――手札に加えたドラゴンを見た瞬間、目つきが変わった。

 現在フィールドにいるドクロバット・ジョーカー。そして《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 これらの共通点。即ち榊遊矢の特異点を、ジャックはこの一瞬で見切った。

 

「そして、手札の《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》の効果発動! 《EM》の召喚に成功したとき、このカードは特殊召喚できる!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》

 星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200

 

『おーっと、これは速い! チャレンジャー榊遊矢、わずか一ターン目にして早くもレベル4モンスターを二体召喚したぞォ! 《インターセプト・デーモン》の攻撃力は1400。総攻撃が決まれば大ダメージだァー!!』

「バトル! ドクロバット・ジョーカーで、《インターセプト・デーモン》を攻撃!」

「《インターセプト・デーモン》の効果! 相手モンスターの攻撃宣言時、500ポイントのダメージを与える!」

 

 遊矢

 LP:4000 → 3500

 SPC:2

 

「更に(トラップ)発動、《ハーフ・カウンター》! 自分のモンスターが攻撃対象となった時、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の半分を自分のモンスターに加える。よって《インターセプト・デーモン》の攻撃力は、このターンのエンドフェイズまで900アップする」

「なに!?」

 

 《インターセプト・デーモン》

 攻1400 → 攻2300

 

「返り討ちだ! 消し飛べ!」

 

 光弾による反撃を受けてドクロバット・ジョーカーが消滅し、遊矢のライフが引かれる。

 

 遊矢

 LP:3500 → 3000

 SPC:2

 

 モンスターが破壊されライフが減少する。これだけなら何度も見慣れた光景だ。

 しかし今回ばかり違う。モニターを眺めつつ、ジャックはその(・・)モンスターを分析する。

 

「ほう。破壊されたら墓地ではなくエクストラデッキに行くのか。随分とユニークなモンスターだな」

「っ……、カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 《インターセプト・デーモン》

 攻2300 → 攻1400

 

 伏せカードを展開し、遊矢のターンが終了。フィールドには攻撃表示のモンスター1体のみ。

 彼のデッキはペンデュラムに特化している。それが使えない今、フィールドが手薄になってしまうのは仕方ないことだ。

 

「オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:3

 

 遊矢

 LP:3000

 SPC:3

 

「チューナーモンスター、《トップ・ランナー》を召喚!」

 

 《トップ・ランナー》

 星4/風属性/機械族/攻1100/守 800

 

「レベル4の《インターセプト・デーモン》に、レベル4の《トップ・ランナー》をチューニング!」

 

 先頭を走る者――《トップ・ランナー》は四つの光の円環となり、《インターセプト・デーモン》が後に続く。

 二体の魂は同調、調律し、ここに新たな刃が誕生する。

 

「王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる! 熱き波濤を超え、現れよ!

 シンクロ召喚! 炎の鬼神、《クリムゾン・ブレーダー》!」

 

 《クリムゾン・ブレーダー》

 星8/炎属性/戦士族/攻2800/守2600

 

『決まったァァ――! ジャック・アトラスのシンクロ召喚! トップバッターは二刀の長剣を操る剣神、《クリムゾン・ブレーダー》!』

「っ……!」

 

 MCの実況を耳に入れつつ、遊矢はDVDでのジャックのデュエルを思い出していた。

 このモンスターは言わば第一関門。王の待つ玉座、その入口を守る赤い騎士――!

 

「バトルだ。《クリムゾン・ブレーダー》で《EM(エンタメイト)ヘルプリンセス》を攻撃! “レッド・マーダー”!」

 

 烈火の剣戟を受け、ヘルプリンセスが消滅。攻撃表示であったため、遊矢のライフは大きく削られる。

 

「うあぁぁ――っ!!」

 

 遊矢

 LP:3000 → 1400

 SPC:3

 

「まだ終わらんぞ! こいつの切れ味、貴様ならよく知っていよう!

 《クリムゾン・ブレーダー》のモンスター効果。戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、次のターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚できない!」

『な、な、なんということだ――!! 先程ドクロバット・ジョーカーによって手札に加えたドラゴンが封じられてしまったぞー!

 これではエースモンスターを召喚できない! 挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢、このまま成すすべもなく負けてしまうのかー!?』

「っ……それは、どうかな!」

 

 練習していたことが幸いした。遊矢はD・ホイールの体勢を立て直しつつ(トラップ)を発動し――加速する。

 

(トラップ)カード、《デス・アクセル》! 自分が戦闘ダメージを受けた時、300ポイントにつき一つ、SPC(スピードカウンター)を増やす!

 俺が受けたダメージは1600。よって、カウンターは5つ増える!」

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:3 → 8

 

「仕掛けるつもりか。いいだろう、来るがいい! オレはこれでターンエンド!」

「俺のターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:4

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:9

 

「……よし」

 

 カウンターは貯まり、これにて準備は整った。

 ――天を指す。

 運転をオートパイロットに任せ、少年は観客席に向かって声を張り上げた。

 

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン!!」

 

 

『え?』

 

 あまりにも唐突なその行動に、誰もが困惑した。

 榊遊矢の対戦相手はジャック・アトラス。どのような言葉であれ、その言葉は対戦相手であるジャックに向けられるべきなのだ。

 

「ご来客の皆様、長らくお待たせしました! これよりワタクシ榊遊矢と、生ける伝説ジャック・アトラスによるエンタメデュエルを、このスピードの世界で披露したいと思います!」

 

 だが、榊遊矢は観衆に話しかける。

 ある者はこう考えるだろう。この少年は、一人ではジャック・アトラスに勝てないと。だから彼は力を求める。自分以外の誰かに。観客を味方に付け、力の差を埋めるために。

 ある者はこう考えるだろう。この少年は、この会場の全員を楽しませたいのだと。十人いれば十人を笑顔に。百人なら百人。千人なら千人。それ以上でも同様に。

 そして、全員が確信する。ここから先が、無謀な挑戦者(チャレンジャー)の本領発揮なのだと。

 

「このオレを前にして随分と大きく出たな。その度胸は買ってやるが――ここまで言ったからには、それなりのものを魅せてくれるんだろうな?」

「ああ、勿論だ! 行くぞ、ジャック・アトラス!」

 

 遊矢は手札から二枚を選択する。

 一見するとモンスターカード。しかしそれらは、魔法(マジック)カードとしても機能する。

 

「俺はSPC(スピードカウンター)を四つ使い、スケール3の《EM(エンタメイト)ラ・パンダ》と、スケール5の《EM(エンタメイト)チアモール》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:9 → 5

 

 スタジアムの上空に二体のモンスターが浮かび上がる。

 シンクロ次元にペンデュラム召喚は存在しない。未知なる召喚法、デュエルの新たな可能性に、観客は呼吸を忘れて見入る。

 

『な、なんだ? これは一体どういうことだぁ!? 私も正直よくわかりませんが、なんだかスゴイことが起こる気がするぞォォ――!!』

 

 MCの興奮気味の実況で、スタジアム全体の空気が変わる。

 ――期待が高まり、会場は湧き上がる。

 その熱気を肌で感じ、遊矢の魂もまた揺れ始める。

 振り子(ペンデュラム)が揺れる。大きく、もっと大きく……!

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!

 ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達!」

 

 上空の孔より現れたのは二つの魂。一体は手札、もう一体はエクストラデッキから、二体同時に召喚される。

 

「手札から《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》!

 そしてもう一体! アンコールだ、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》

 星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守 500

 

 《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》

 星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 100

 

 MCは実況席から身を乗り出し、マイク片手に喉を震わす。

 

『ご、ご覧になりましたでしょうか会場の皆様方ー! 上空からモンスターが二体、榊遊矢のフィールドに同時に現れたぞぉー! しかもそのうちの一体は、先程倒されたはずのドクロバット・ジョーカー! これが挑戦者(チャレンジャー)の奥の手、ペンデュラム召喚なのかー!?』

「フン! そんなモンスターでは、この《クリムゾン・ブレーダー》の足元にも及ばんぞ!」

「まだまだ! お楽しみはこれからだ!

 俺は、レベル4のヘイタイガーとドクロバット・ジョーカーで、オーバーレイ!」

 

 暗黒の渦が現れ、二体のモンスターはその中心に吸い寄せられる。

 ここではない何処か。はるか異次元で新たな命が生まれ、召喚者の元に現れる。

 

「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ!

 エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 巨大な逆鱗を持つ漆黒の龍。

 これまで見たことのないドラゴン、見たことのない召喚法に、MCは再び絶叫した。

 

『こ、こ、これはどういうことだー!? 挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢、ペンデュラム召喚に続き、また新たな召喚法を披露したぞー!? 少なくとも、私はこれまであのようなカードは見たことがありません! 《クリムゾン・ブレーダー》の効果を一切受け付けないアレは、一体なんなんだー!?』

「エクシーズモンスターはレベルを持たない。よって、《クリムゾン・ブレーダー》の効果は受けないのさ!

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動! 素材になったモンスター、オーバーレイ・ユニットを二つ使うことで相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力に加える!」

「なるほど、反逆(リベリオン)を名乗るだけのことはある。だがそんな小細工、オレには通用せん!

 永続(トラップ)、《デモンズ・チェーン》! 効果モンスター一体の攻撃と能力を封じる!」

「なに――!」

 

 ジャックが発動したカードから鎖が飛び出し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の全身を拘束する。

 宙に浮くモンスターの魂、オーバーレイ・ユニットは無意味に消費され、効果は不発に終わった。

 

『おーっと、流石はジャック・アトラス! 事前に伏せた(トラップ)カードで、ドラゴンの効果を封じ込めたー! これでは身動きがとれない。さあ、どうする挑戦者(チャレンジャー)!』

「っ……いや、まだだ! カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 遊矢のフィールドに伏せ(リバース)カードが現れる。

 そして、

 

「……こんなものか」

「――え?」

 

 溜息まじりに、ジャックは呟いた。

 

「遊星が勧めた男だからと期待していたが、蓋を開けてみればこのザマか。

 断言してやる、榊遊矢。貴様はエンタメに向いていない」

 

 その宣言に、遊矢は硬直した。

 時が止まったのではないかと錯覚するほどに。

 

「……どうして」

 

 エンタメというスタイルは、遊矢のデュエルの大元であり目標だ。彼は幼少時、父親が原因で笑うことが少なかった。いつも誰かに泣かされ、誰かに助けられていた。笑顔がない生活の虚しさを、榊遊矢は身を持って体感している。

 だから、デュエルで皆を笑顔にしたいと思ったのだ。皆笑って皆幸せ。単純で最も幸福なユメのカタチ。

 だから。ジャックの言葉は、遊矢自身の否定にも繋がる。

 

「どうしてアンタにそんなことが言える、ジャック・アトラス!」

「ここまでのデュエルを思い返してみろ。それが答えだ」

「思い返す、だって……?」

「貴様のデュエルは振り子のようだ。左右に忙しなく揺れ動き、焦点がまるで定まっていない」

「……どういうことだよ」

「自覚がないなら教えてやろう。そのドラゴンをよく見てみろ」

 

 遊矢は、(トラップ)によって拘束された《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を見た。

 翼、腕、首。各部位が鎖で縛られ、身動きがとれない状況だ。

 

「貴様にも背負うものがあるのだろう。やるべきことがあるのだろう。だがそれらは全て、今の貴様にとっての鎖に成り下がっている。かつてのオレのように」

「かつて……?」

「ああ。その気になってるだけで、本質がまるで視えていない(・・・・・・)。貴様のエンタメは押し付けがましい。独りよがりにも程がある」

「な――」

 

 どういう意味か聞き返す前に、ジャックはターンを進める。

 

「デュエルを続行する! オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:5

 

 遊矢

 LP:1400

 SPC:6

 

「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》で、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を攻撃! “レッド・マーダー”!」

 

 遊矢

 LP:1400 → 1100

 SPC:6

 

「うわぁぁ――――!!!」

 

 漆黒の龍は十字に裂かれ、ダメージの衝撃が遊矢に伝わる。

 このドラゴンは元々遊矢のカードではなく、彼の中にいるもう一つの魂、“ユート”のカードだ。

 レジスタンス。強者への反逆を象徴する龍。

 それでさえ届かなかった。門番に阻まれ、奥に待つ《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を引きずり下ろすことさえ叶わない。

 

「……くっ」

 

 遊矢の頭には、ジャックの言葉がひどくこびり付いていた。

 ……“独りよがり”。“押し付けがましい”とジャックは言った。

 どういう意図が込められているのか、今の遊矢には全くと言っていいほど分からなかった。

 だって、会場は湧いている。皆が心を一つにして、この時間、この瞬間に没頭しているのだから――

 

 

「遊矢ー!!」

 

 

「え?」

 

 少女の声。しかし、聞こえたのはほんのひと握りであろう。

 

「……柚子?」

 

 少女の名を呼ぶ。当然返事はない。高速で走るD・ホイール上での呟きが、観客席まで聞こえるはずがない。

 それでも遊矢は会場を見回す。たった一人の女の子。ずっと会いたかった幼馴染を探し出す。

 少女はすぐ見つかった。アクション・デュエルで鍛えられた視力と、彼女の奇抜な格好……ライダースーツのおかげだろう。

 

「……そうだった」

 

 柚子が見ている。遊矢はそのことをすっかり失念していた。

 ジャック・アトラスとのデュエルに夢中で、それ以外のことが考えられなくなっていたのだ。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:6

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:7

 

「リバースカード、《ペンデュラム・バック》。ペンデュラム召喚可能なモンスターを二体まで、墓地から手札に戻す。これにより《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を手札に戻す」

「?」

 

 雰囲気の変化にジャックは気づく。

 ダウナーな気配は変わらない。しかし、落ち込んでいるわけでもない。

 例えるなら――嵐の直前。何かが起きる前の静かな一時。

 

SPC(スピードカウンター)を二つ使い、魔法(マジック)カード《EM(エンタメイト)キャスト・チェンジ》を発動。手札のEM(エンタメイト)を任意の枚数デッキに戻し、戻した枚数プラス一枚、カードをドローする。

 手札のヘイタイガー、ドクロバット・ジョーカーをデッキに戻し、合計で三枚ドロー」

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:7 → 5

 

「モンスターを裏守備表示で召喚。

 カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

挑戦者(チャレンジャー)のターンが終了。しかし、壁モンスターを召喚しただけだ。これで万事休すかー!?』

「万策尽きたようだな。オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:7

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:6

 

「オレが引いたカードは《Sp(スピードスペル)-エンジェル・バトン》。こいつを発動し、SPC(スピードカウンター)を四つ取り除いて二枚ドロー。そして、手札を一枚墓地に送る」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:7 → 3

 

「《マッド・デーモン》を攻撃表示で召喚!」

 

 《マッド・デーモン》

 星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守 0

 

「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》、裏守備モンスターを攻撃! 切り裂け、“レッド・マーダー”!」

 

 二刀の長剣が三度(みたび)振るわれ、セットされたカードが十字に切り裂かれた。

 しかし破壊した直後、振るわれた剣は錆び付き、《クリムゾン・ブレーダー》の攻撃力が減少する。

 

 《クリムゾン・ブレーダー》

 攻2800 → 攻2000

 

「《EM(エンタメイト)ラクダウン》のモンスター効果! このカードを破壊したモンスターの攻撃力を800ポイントダウンさせる!」

「フン、今更足掻いても遅いわ! 《マッド・デーモン》のダイレクトアタックが決まれば、それで貴様は終わりだ!」

「まだだ! まだ終わらない! 

 ……終わってなんかやるもんか。俺はまだ、何一つ成し遂げちゃいないんだ!

 速攻魔法発動! 《イリュージョン・バルーン》!」

 

 遊矢

 LP:1100

 SPC:6 → 4

 

 もぬけのカラとなった遊矢のフィールドに、カラフルな五つの風船(バルーン)が出現した。

 

『これは一体何だー!? 挑戦者(チャレンジャー)を守るかのように、五つの風船が飛び出したぞー! これぞまさにイリュージョン! どうやら彼は、まだ諦めてはいないようだー!!』

「ジャック! お前は俺に視えていないと言ったな! けど、それはアンタにも言えることだ!」

「どういう意味だ」

「……確かに、貴方には視えてるんだろう。この会場が。このフィールドが。もしかしたら、この展開そのものが既に手の平の上なのかもしれない。

 だけど! 俺の夢。俺の未来。俺の可能性は、決してアンタにも見えはしない! だから、さっきの言葉は撤回してもらう!」

「――……ほう。面白い、ならば見せてみろ! 貴様の可能性とやらを! 行け、《マッド・デーモン》!」

「《イリュージョン・バルーン》の効果発動! デッキの上からカードを五枚確認し、その中から《EM(エンタメイト)》を一体選択して特殊召喚できる!」

「《マッド・デーモン》は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば貫通ダメージを与える。いくら壁モンスターを引き当てようと、攻撃力と守備力、共に700以下なら貴様の敗北だ!」

「いや、まだ終わらない! 引き当ててみせる、俺の仲間達を! まず、一枚目――!」

 

 バルーンが一つだけ割れ、中から引き当てたカードが姿を現す。

 

「っ……《EM(エンタメイト)トランプ・ウィッチ》!」

 

 《EM(エンタメイト)トランプ・ウィッチ》

 星1/闇属性/魔法使い族/攻 100/守 100

 

「早速モンスターを引き当てたか。運だけはあるらしい。だが、そのモンスターでは防げんぞ!」

「まだだ――二枚目!」

 

 遊矢はカードを引く。しかし、引き当てたのは(トラップ)カード、《エンタメ・フラッシュ》。

 

「くっ……三枚目!」

 

 《EM(エンタメイト)トランポリンクス》

 星2/地属性/獣族/攻 300/守 300

 

「四枚目――!」

 

 ……《Sp(スピードスペル)-ソニック・バスター》。

 SPC(スピードカウンター)を二つ取り除き、自分のモンスター一体の攻撃力の半分のダメージを与えるカード。

 

「――くそ」

「四枚目も外れたか。これで後がなくなったな。

 榊遊矢。今、貴様はどんな気持ちだ」

「っ……!」

 

 五枚目を引く手が止まる。

 右腕だけが麻痺してしまったような、不自然な感覚。

 音が遠ざかり、視界は暗く染まる。

 ……恐怖と炎は似ている。気づいた瞬間には、既に奥深くまで侵食されている。

 

「怖いだろうな。自分を否定する敵に負けるというのは」

「え……?」

 

 先程までとはまるで違う柔らかな言葉に、遊矢は顔を上げる。

 

「貴様のエンタメはまだ独りよがりだが、その想いは決して間違ってはいない。

 この先、貴様を否定する敵は山程現れる。だが、何があろうと決して折れるな。信じるモノが正しければ、たとえどれほど間違えたとしても――必ず、最期には“何か”を得られるだろう」

「ジャック……?」

「さあ、カードを引くがいい! 貴様の未来は尽きてなどいない! ならば最後に、その輝きを見せてみろ!」

「……ああ!」

 

 遊矢は顔を伏せ、見えないように笑いをこぼした。

 ジャック・アトラス。この男もまた、不動遊星の仲間なのだと。

 

「行くぞ、五枚目!」

 

 最後のバルーンが割れ、中からカードが現れる。

 ドローしたカードを確認。遊矢は、未来を共に歩む仲間(EM)を召喚する。

 

「俺が引いたカードは《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》! 《イリュージョン・バルーン》の効果により、このカードを特殊召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》

 星3/地属性/獣族/攻 800/守 800

 

「《マッド・デーモン》の攻撃! “ボーン・スプラッシュ”!」

 

 骨の礫を受け、バルーンより現れたヒッポが消滅。更に貫通効果により、遊矢のライフが減少する。

 

 遊矢

 LP:1100 → 100

 SPC:4

 

『耐えたーー!!! 挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢、最後の最後でディスティニードロー! 首の皮一枚繋がったぞー! ジャックの言う通り、彼の未来はまだ終わってはいないようだー!!』

「てて……ありがとう、ヒッポ」

 

 遊矢はカードを墓地に送りつつ、礼を言う。

 残りのライフは僅か100。対してジャックは全くの無傷。実力差は圧倒的と言ってもいい。

 にもかかわらず、会場のボルテージは上がっていく。限界ギリギリの戦いに、客の視線はますます遊矢に集まる。

 

「オレはカードを一枚伏せてターンエンド。さあ、攻めてこい!」

「俺のターン、ドロー!!」

 

 ジャック

 LP:4000

 SPC:4

 

 遊矢

 LP:100

 SPC:5

 

「……この、カードは」

 

 そうして、遊矢は引き当てた。

 託された成長のピース。

 可能性に満ちた新たなカードを。

 

「……独りよがりって言ったな、ジャック」

「ああ」

「……その意味が、少しだけ分かった。俺には、視えてなかったんだ。皆のことが。仲間のことが。観客やMC、遊星さん。そして柚子。

 楽しませるなんて言っておきながら。笑顔にするなんて言っておきながら。その具体的な方法を、俺は、何一つ考えてなかった」

 

 ジャックは黙って遊矢の独白に耳を傾ける。

 榊遊矢のエンタメは、少しばかりズレている。

 才能がないわけじゃない。彼のデュエルで笑顔になる人間は確かにいる。向いていない、というのは流石に言いすぎだ。

 けれど所詮、彼のエンタメは“好き勝手に振舞う”だけだ。やりたいことだけをやってるようでは、本当の意味でのエンタメとは言えない。

 無論、榊遊矢はそこまで至っていない。ただ、今の自分は少し違うと気づいただけ。

 ……その一歩が。少年の未来を、少しだけ変える。

 

「見せてやる。今の俺の精一杯を。ジャック、貴方だけじゃない。ここにいる全員……ランサーズの皆にも!」

「……フッ。

 ならば、来るがいい! このジャック・アトラスは、逃げも隠れもしない!」

「ああ! 全力で行くぞ!」

 

 大きく揺れれば、それだけ大きく戻ってくる。それがペンデュラムだ。

 

「今一度揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!

 ペンデュラム召喚! もう一度、力を貸してくれ――!」

 

 遊矢は手をかざし、再び振り子(ペンデュラム)を揺らす。心なしか、揺れ幅は一回目よりも大きい。

 セットされたスケールは3と5。同時に召喚可能なモンスターはレベル4のみ。

 《クリムゾン・ブレーダー》によって破壊され、エクストラデッキに送られたEM(エンタメイト)が帰還する。

 

「《EM(エンタメイト)ラクダウン》!」

 

 《EM(エンタメイト)ラクダウン》

 星4/地属性/獣族/攻 800/守1800

 

『出たー! 先程も見せた新たな召喚法、ペンデュラム召喚! だが、召喚されたモンスターはわずか一体! ここからどう巻き返すつもりだ、榊遊矢ー!』

「永続(トラップ)、《連成する振動》を発動! この効果により、(ペンデュラム)ゾーンのラ・パンダを破壊し、カードを一枚ドロー!

 更にSPC(スピードカウンター)を二つ使い、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を(ペンデュラム)ゾーンにセッティング!」

 

 遊矢

 LP:100

 SPC:5 → 3

 

「そして俺は、このカードを通常召喚する!

 風水司る未熟な魔術師よ。絆を紡ぎ、今こそ現れろ!

 チューナーモンスター、《()(りゅう)の魔術師》!」

 

 《貴竜の魔術師》

 星3/炎属性/魔法使い族/攻 700/守1400

 

「「!?」」

 

 ――その召喚に、ごく一部の者は度肝を抜かれた。

 ランサーズ、そして柊柚子。即ち、榊遊矢を知る者達。

 

「……行け、遊矢」

 

 会場のどこかにいる、一人の男の呟き。

 それに応えるようにカードは塗り替えられる。

 色は二重に折り重なり、ペンデュラムの、新たな進化の扉が開かれる――。

 

「レベル4の《EM(エンタメイト)ラクダウン》に、レベル3の《貴竜の魔術師》をチューニング!」

 

 《貴竜の魔術師》は祈るように杖を掲げ、三つの円環を生み出した。ラクダウンが輪をくぐり抜け、調律・同調する。

 

「二色の(まなこ)の龍よ。紅き炎をその身に纏い、次元を照らす星となれ!

 シンクロ召喚! いでよ、大地抉りし紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》

 星7/炎属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 合計レベルは7。今ここに、二色の眼を持つ超新星が爆誕した。

 炎を纏った神秘の龍が、会場全体に咆哮を轟かす。

 

『で、で、出たァー!

 ペンデュラム、エクシーズに続き、まさかのシンクロ召喚! 複数の召喚法を操るD・ホイーラー、その名も榊遊矢! なんというデュエリストだ! これまで無名だったのが不思議なくらいだぞォー!』

「《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》は特殊召喚に成功した時、自身のバトルを放棄することで、(ペンデュラム)ゾーンのモンスターを召喚できる! 繋げ、“ボンド・オブ・フレイム”!」

 

 空に浮く一体のモンスターが炎に包まれ、隕石のごとく落下した。

 輝くは二色の眼。赤き神秘の龍が、遊矢の場に誕生する。

 

「真打ち登場! 雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

「さらに《EM(エンタメイト)チアモール》の(ペンデュラム)効果! 自分のPモンスターの攻撃力は300ポイントアップする!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2500 → 攻2800

 

「バトルだ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で、《クリムゾン・ブレーダー》を攻撃! “螺旋のストライク・バースト”!」

 

 螺旋を描くブレスにて《クリムゾン・ブレーダー》が破壊される。

 

「そして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のモンスター効果! モンスターとの戦闘で与えるダメージを二倍にする! “リアクション・フォース”!」

「ぬぅ……!?」

 

 ジャック

 LP:4000 → 2400

 SPC:4

 

 更なるブレス攻撃を受け、ジャックのライフが減少。一瞬だけ体制を崩すが、即座に立て直した。世界で活躍しているだけあって、そのテクニックは遊矢の比ではない。

 

『《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃が決まり、ジャックのライフが大きく削られた! 一矢報いた榊遊矢、このまま逆転なるかー!?』

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「やってくれたな、榊遊矢! 今の一撃、確かにオレに響いたぞ! 先程の言葉は訂正しよう! だからこそ貴様は、このオレ自らの魂で打ち砕く! オレのターン!」

 

 ジャック

 LP:2400

 SPC:5

 

 遊矢

 LP:100

 SPC:4

 

「オレは貴様の永続(トラップ)《連成する振動》をコストに、チューナーモンスター《トラップ・イーター》を特殊召喚!」

 

 《トラップ・イーター》

 星4/闇属性/悪魔族/攻1900/守1600

 

「チューナーモンスター。合計レベルは8……!」

「行くぞ! レベル4の《マッド・デーモン》に、レベル4の《トラップ・イーター》をチューニング!」

 

 ジャックは高く腕を掲げ、召喚(シンクロ)した。龍は玉座を立ち上がり、自らの肉体で挑戦者と相対する。

 

「王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力を、その身に刻むがいい!

 シンクロ召喚! 荒ぶる魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

 

 現れたのは同じく紅蓮の龍。

 全身の傷は勝利の証。

 絶対的な覇気を持つ、孤高なる破壊龍――!

 

『ついに来たぞォォー! ジャック・アトラスの新たなドラゴン、その名も《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》! これはまずい、どうするチャレンジャー!?』

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果発動! このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!

 喰らうがいい! “アブソリュート・パワー・フレイム”!」

 

 オッドアイズ二体の攻撃力はどちらも3000以下。遊矢のライフは残り100。

 だが、二体が破壊龍の火炎を浴びる直前、遊矢はセットした(トラップ)を発動させる。

 

伏せ(リバース)カードオープン、《ミニチュア・ライズ》! モンスター一体の攻撃力を1000ポイント下げ、さらにレベルを一つ下げる! 対象は、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

 星8 → 星7

 攻3000 → 攻2000

 

 (トラップ)の効果を受け、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》は縮小し、攻撃力がダウンした。

 これは、遊矢がジャック・アトラスの対策に投入した(トラップ)カード。《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の効果は強力だ。特に、ペンデュラムを得意とする遊矢には恐ろしく刺さる。しかしそれは、モンスター自身の高い攻撃力があってのもの。

 ならば答えは簡単だ。高いのなら、下げてしまえばいい。

 

「これで《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の攻撃力は、俺のオッドアイズ達を下回った。効果では破壊できず、当然戦闘でも破壊できない!」

「甘いわ! そんな他人の真似事では、このジャック・アトラスを倒すことなどできはしない! それを今、この場で教えてくれる!

 チューナーモンスター、《チェーン・リゾネーター》を召喚!」

 

 《チェーン・リゾネーター》

 星1/光属性/悪魔族/攻 100/守 100

 

「レベル7となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》に、レベル1の《チェーン・リゾネーター》をチューニング!」

「なっ……!」

 

 《チェーン・リゾネーター》は音叉を鳴らし、自身を一つの光輪に変換。その中心を、縮小したドラゴンが通り抜ける。

 

「王者の鼓動、今ここに列をなす。天地鳴動の力を見るがいい!

 シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

 全身の傷は癒え、角は再生。

 ジャック・アトラスを象徴する破壊龍が、今、完全な形で降臨した。

 

「そんな、ここで《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!?」

『なんとぉ! 榊遊矢の仕掛けた(トラップ)をくぐり抜け、まさかの連続シンクロ召喚! これがジャック・アトラス、三歩先を行く彼のデュエルなのかー!』

「これで終わりだ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!

 森羅万象、全てを突き貫け! “アブソリュート・パワー・フォース”!」

 

 有無を言わさぬ強烈な掌底が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を貫き破壊した。

 遊矢に防ぐ術はもうない。ライフが減少し、決着する。

 

「うわぁぁ――!!」

 

 遊矢

 LP:100 → 0

 SPC:4

 

 ぶしゅう、と空気が抜ける音。遊矢のD・ホイールは速度を失い始め、やがて停止するだろう。

 フレンドシップ・カップの開幕戦は、ジャック・アトラスの勝利にて幕を閉じた。

 

 

 ◆

 

 

「……負けた、のか」

 

 届かなかった。その事実が遊矢にとってショックだった。

 ライディング・デュエルと通常のデュエルは違う。今回のデュエルでも、魔法(マジック)カードの制限が無ければ遊矢はもっと動けていただろう。

 だが、そんなのは些細なことだ。

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》。

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》。

 そして、《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》。

 これ以上ないほどの大盤振る舞い。間違いなく全力以上の力を発揮した。

 ――それでもなお、ジャックは遠い。

 榊遊矢にはもう一体切り札がいる。しかしそれはジャックも同様だ。

 今の自分ではどうやっても勝てないと、遊矢は痛感した。

 

「おい」

 

 ジャックはD・ホイールを止め、項垂れる遊矢の元へ歩み寄る。

 

「何も言うな。そして、顔を上げろ」

「えっ――」

 

 言われるがまま、遊矢は顔を上げる。

 そして、圧倒的な光景を目にした。

 

 

『ついに、決着ー! フレンドシップ・カップの開幕戦、エキシビション・マッチを制したのはジャック・アトラス! 生ける伝説はなお健在! いや、むしろ勢いを増している! その圧倒的な力を、参加者全員に見せつけたぞー!

 そして挑戦者(チャレンジャー)榊遊矢もよくやった! ペンデュラム召喚、エクシーズ召喚、そしてシンクロ召喚! 数多くの召喚法を駆使し、最後まで全力で食い下がった! 彼もまた大会の参加者! このフレンドシップ・カップにて、我々にどのようなデュエルを魅せてくれるのでしょうか! これから先、彼から目を離すことは許されないぞー!』

「流石はジャック・アトラス! 伝説のD・ホイーラーだー!!」

「アトラス様ー!」

「榊遊矢って子もやるじゃないか!」

「惜しかったぞ、少年ー!!」

 

 

「……これって」

 

 こんなに広かったのか。こんなに多かったのか、と。

 走っている時には気づかなかった世界の広さが、そこにはあった。

 

「お前の目指すモノが何なのかは知らん。オレには関係のないことだからな。だが、この景色だけは覚えておけ」

 

 観衆は各々の言いたいことを好き勝手に叫んでいる。誰が何を言っているのか聞き取れないほどに。

 だが、そこには笑顔があった。

 ここにいる誰もがこの瞬間を、十二分に満喫していたのだ――。

 

 




本編
「二色の(まなこ)の龍よ。紅き炎をその身に纏い、次元を照らす星となれ!
 シンクロ召喚! いでよ、大地抉りし紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」

他の案
「二色の(まなこ)の龍よ。聖なる炎を纏いて、闇夜を照らす星となれ!
 シンクロ召喚! いでよ、絆を紡ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
「二色の(まなこ)の龍よ。聖なる炎を纏いて、燦然と輝く星となれ!
 シンクロ召喚! いでよ、次元を繋ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」
「爆炎より生まれし二色の眼。業火を纏いて大地を照らせ!
 シンクロ召喚! いでよ、次元を繋ぐ紅蓮の龍! 《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!」



……などなど。
気をつけた点は
「炎」
「二色の眼」
「星」
「絆」
「次元」
に関連する言葉が含まれていること。その気になれば割と考えられますね。
ぶっちゃけ技名の“ボンド・オブ・フレイム”の方が言わせたかったので、召喚口上はそれっぽいならなんでもいいんですけど。

……うむ、我ながら実に痛々しい。だが逆に考えよう。この痛々しさを恥じるのではなく、楽しむのだ! 何事であれ頂点を極めるのいいことだって誰かが言ってた!

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