遊戯王シリーズは長く続いているけど、未だにこの人より好きなキャラは(あんまり)現れない。
ファイブディーズ要素が皆無だけど、元々ARC-Vメインだし大丈夫さ!(?)
※アニメ産のオリジナルカードが登場します。
詳しくは後書き参照、ただしネタバレ注意。
2016.06.17.作中のプレミに対する補足を追記。
誰も突っ込まなかったことを自ら解説していくスタイル。
「行けェ! 《
全ての敵を引き裂け! “ブレイブクロー・レボリューション”!!」
黒咲の指示を受け、ライズ・ファルコンは炎を纏い、天高く飛翔した。
ライズ・ファルコンは隕石の如くオベリスク・フォースのフィールドに落下。特殊召喚されていたモンスター達は全て焼き尽くされ、4000近くあったライフポイントが一気に消滅した。
“ワンターンスリーキル”。
一度のバトルフェイズで三人を倒す離れ技をそう呼ぶ。これほどの技はキングであるジャック・アトラスですら難しいだろう。
敗北したオベリスク・フォース達は、デュエルディスクに内蔵された次元転送装置によって、融合次元へと強制送還されていった。
これで十五。黒咲はついに、全てのオベリスク・フォースを葬ったのだ。
その戦いぶりには、リーダー格の男も驚きを隠せなかった。
「どうした、これで終わりか?」
「ハッハ、これは驚いた。まさか本当に一人でやってしまうとはな。こんな芸当ができる
「つまらん賞賛はよせ。雑魚を何匹蹴散らしたところでなんの意味もない」
「それは過小評価というやつだ。雑魚を散らすのは容易いとお前は言うが、それができない
決闘と戦争は別物だ。一対一の
「だからなんだ。貴様、何が言いたい」
「分からんか? 要するに、貴様がいくらオベリスク・フォースを蹴散らせたところで、この俺様にも勝てるとは限らない、ということだ。将の強さは、同じく将との戦いでしか証明されない」
そう言いながら、男は喜々としてデュエルの準備を整える。
オベリスク・フォースのデュエルディスクではない。男は、男自身が使い慣れた旧式のデュエルディスクを装着し、愛用のデッキをセットした。
「ククク……このデッキで戦うのも久しぶりだな。
さて、行くぞ黒咲隼。監視の目を外してくれた礼はたっぷりさせて貰うぜ?」
「監視だと?」
「ああ、監視だ。こっちにはこっちなりの事情があってな。
……オベリスク・フォースがいると、自分のデッキでデュエルすることも叶わんのだ」
「……そうか」
オベリスク・フォースを“監視”と言い切ったことで、黒咲は確信した。
この男は、先程まで戦っていたオベリスク・フォースとは違う。
実力の話ではない。立場の話だ。
「……まあいい。貴様が何者だろうと構わん。目的が撃退から捕縛に変わるだけだ」
「それができるといいがな。
見せてやろう。この――愛すべき屑共の力を!」
◆
「「
黒咲と仮面の男がデュエルディスクを構え、デュエルを開始する。
互いのライフは4000。先ほどまでとは違い、今回は一対一の通常のデュエルだ。
ターンプレイヤーは仮面の男。よって黒咲は後攻だ。
「先行はもらう。
俺様はモンスターをセット。これでターンエンドだ」
男のフィールドに裏守備表示でモンスターがセットされ、早くも一ターン目が終了した。
だが、それは錯覚だ。敢えて防御を薄くする――モンスターを展開しないことこそが、黒咲に対する最も有効な戦略なのだ。
「俺のターン!
俺は《
《
星4/闇属性/鳥獣族/攻1800/守 400
青い翼を持つ機械の鳥獣が現れる。
周囲には獲物を突き刺す青い棘――クチバシが六つ。
「トリビュート・レイニアスのモンスター効果発動。デッキから《
黒咲はデッキから《
レベル4の下級鳥獣族。このモンスターは墓地に送られてこそ真価を発揮する。
「墓地に送ったミミクリー・レイニアスの効果発動。このモンスターを除外することで、デッキから《
そしてバトルだ! トリビュート・レイニアスで、裏守備モンスターを攻撃!」
宙に浮く青い棘が同時に発射され、男の場にセットされたカードが串刺しにされる。
破壊されたモンスターの守備力は1000。無事戦闘破壊するが――それらは全て、男の読み通り。
「破壊されたモンスターの効果により、デッキからあるカードを二枚手札に加える」
「あるカード、だと?」
「今に分かる。貴様のターンは終わりか?」
「……トリビュート・レイニアスの効果により、デッキから《
カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
黒咲は、男が手札に加えた二枚のカードが気になっていた。
加えたのはどちらも
黒咲がセットした二枚の内、一枚は《ラプターズ・ガスト》。《
ならば対策は万全。手札に加えたのがどんなカードであれ、無効にしてしまえば意味はない。
けれど――それを上回ってこそ歴戦の
「俺様のターン!
手札から速攻魔法《ツインツイスター》を発動!」
「何っ……!?」
男のフィールドに
「こいつの効果は知っているな? 手札を一枚墓地に送り、フィールドの
「チッ――
黒咲のカードからさらに強烈な突風が吹き荒れ、《ツインツイスター》のカードを弾き飛ばした。
だが男の狙いは、カードを破壊することではない。真の狙いは――
「フン、やるな。だがこの瞬間、墓地に送った
真の狙いは、前のターンに手札に加えたカードを墓地に送ること――!
「俺が墓地に送ったのは通常魔法《おジャマジック》! このカードが墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える!」
「おジャマ、だと?」
男の言い方から察するに、おそらくは《
だが、黒咲には聞き覚えがない。「黒咲隼」は融合次元と何度も矛を交えた凄腕の
「ほう。その反応、どうやらこいつらを知らんらしい。ま、当然といえば当然か。貴様のような
仮面の男が見せたのは三枚のモンスター。
レベルは2、攻撃力は0、効果すら持たない。確かに、雑魚と称するに相応しいだろう。
「その三枚が、貴様のデッキのキーカードか?」
「少し違うな。こいつらは、俺のデッキのエース達だ」
「……呆れたな。その言葉が本当ならば、貴様はオベリスク・フォース一人にも劣る! 舐めるのも大概にしたらどうだ」
「雑魚とハサミは使いようだ。俺様の手にかかれば、こんな屑共でも使い道ができる。
手札の《おジャマ・イエロー》、《おジャマ・グリーン》、《おジャマ・ブラック》を素材に――おジャマ達の王、《おジャマ・キング》を融合召喚!」
男のフィールドに三体の不気味なモンスターが現れたかと思うと、途端に一つに融合し、さらに不気味なモンスターが召喚された。
肌は白く、体は一等身――かろうじて二頭身ある程度。巨大な口と鼻、触覚のように生えた目。人によってはエイリアンと称するものもいるだろう。
悪趣味な赤いパンツを下半身と頭に履き(?)、小さな王冠と緑のマントで王様らしさを表現している。
『おジャマ・キィィィング!!!』
《おジャマ・キング》は掛け声と同時にイラスト通りのYポーズを決め、男のフィールドに舞い降りた。
《おジャマ・キング》
星6/光属性/獣族/攻 0/守3000
「……なんだ、そのモンスターは」
「ハーッハッハッハ! 驚いてるようだな! だがその反応は正しい! 確かにこいつは気色悪い! 俺ですらそう思う!
ここで、《おジャマ・キング》の特殊効果発動! 貴様のフィールドのモンスターゾーンを三つ封じる!」
「何――!?」
黒咲のフィールドに三体の老人(?)が出現する。
老化した《おジャマ・イエロー》、《おジャマ・グリーン》、《おジャマ・ブラック》。悪趣味なパンツの二頭身達だ。
「貴様が使った《ナイトメア・デーモンズ》とは違う。そいつらは攻撃対象ではなく、文字通り邪魔者だ。これで貴様は、三体以上を素材とするエクシーズ召喚ができない」
「っ――だが、そのモンスターの攻撃力は0。次のターン、トリビュート・レイニアスで破壊してくれる!」
「そんな真似をこの俺様が見逃すとでも?
フィールド魔法《おジャマ・カントリー》を発動! これにより、世界は一変する!」
ネオ童実野シティの摩天楼が消え、一つの集落が出現する。
奇っ怪な形の建物と、窓から覗く不気味な生物たち。共通しているのはどれも二頭身であること。そして、悪趣味な赤いパンツを履いていることだ。
「《おジャマ・カントリー》はおジャマ達の住処。ここでは全てがあべこべとなる。この気色悪い生物も、この世界ではヒーロー……いや、キングとなるのだ」
《おジャマ・キング》
攻 0 → 攻3000
守3000 → 攻 0
《
攻1800 → 攻 400
守 400 → 守1800
「攻守反転の効果か……!」
「まだあるぞ。《おジャマ・カントリー》の効果発動! 手札の《おジャマ》カードを一枚墓地に送り、墓地から《おジャマ》モンスターを復活させる!
来い、《おジャマ・ブルー》!」
《おジャマ・ブルー》
星2/光属性/獣族/攻 0/守1000
「《おジャマ・カントリー》の効果により、攻守反転!」
《おジャマ・ブルー》
攻 0 → 攻1000
守1000 → 守 0
「フハハハハ、バトルだ!
行け、《おジャマ・キング》! “フライング・ボディアタック”!」
白い巨体が跳ね上がり、トリビュート・レイニアスを押し潰すべく落下する。
黒咲はモンスターを守るため、
「
「だがダメージは受けてもらう!」
よほどの体重だったらしい。《おジャマ・キング》が着地した瞬間、衝撃波が発生し、黒咲を襲った。
黒咲
LP:4000 → LP:1400
「まだバトルは終わっていない! 《おジャマ・ブルー》でトリビュート・レイニアスを攻撃!」
《おジャマ・ブルー》の攻撃力は1000。それに対し、トリビュート・レイニアスは400にダウンしている。
ブルーの渾身のパンチがトリビュート・レイニアスに炸裂(?)する。バシィ、と。
《
黒咲
LP:1400 → LP:800
「おのれ……!」
「フッ、よくぞ耐えた。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン!」
黒咲はドローしたカードを確認する。
――《
男のフィールドには攻撃力3000と1000の
「《
《
星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600
黒咲の場に、緑の翼を持つ機械鳥が現れる。
オベリスク・フォースとの戦いで何度も見たモンスターだ。これはただの素材であり、次のエクシーズモンスターこそが本命である。
「俺はレベル4のトリビュート・レイニアスと、バニシング・レイニアスでオーバーレイ!」
黒咲のフィールドに黒い渦が出現し、その中央に鳥獣達が集う。
「冥府の猛禽よ。闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!
――エクシーズ召喚! 飛来せよ、ランク4! 《
《
ランク4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守2000
渦の中で爆発が起こり、黒いフクロウが飛翔。黒咲の元に舞い降りた。
「フォース・ストリクスの効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからレベル4の闇属性・鳥獣族モンスターを一体手札に加える」
「ほう。それで、どうするつもりだ? 《おジャマ・キング》の効果により、貴様は三体以上モンスターを召喚できない。こいつを倒さない限り、手札にいくらモンスターを増やしても無駄だぞ」
「確かにな。既にモンスターは必要はない。このターンでカタをつける!
《
再び黒い渦が黒咲の場に出現し、フォース・ストリクスのみがそこに吸い込まれた。
「獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!
ランクアップ、エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク5! 《
《
ランク5/闇属性/鳥獣族/攻1000/守2000
次に現れたのは、赤い翼を持つハヤブサ。見た目はやはり、鳥獣を象った機械というのが正しいだろう。
だが、黒咲にはまだ次がある。
「さらに俺は《
ブレイズ・ファルコン一体で、再びオーバーレイ!」
黒咲は、前のターンに手札に加えた速攻魔法を発動させ、エクシーズモンスターをさらにランクアップさせる。
「誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!
ランクアップ、エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク6! 《
《
ランク6/闇属性/鳥獣族/攻2000/守3000
爆発と炎上。革命の炎が立ち上り、その中から漆黒のハヤブサが姿を現した。
その効果は、オベリスク・フォースとの戦いでも猛威を振るった。
“特殊召喚されたモンスターの攻撃力・守備力をゼロにする”。
相手の場に特殊召喚されたモンスターが二体以上いれば、このモンスター一体で決着するほどの力を持っている。
そしてこの《おジャマ・カントリー》では、攻撃力と守備力が反転する。
すなわち、反旗を翻す革命の翼は、一方的に蹂躙する暴力の翼へと変貌する。
《
攻2000 → 攻3000
守3000 → 守2000
「ククク……恐ろしい攻撃力だ。こいつをまともに喰らえば、俺のライフは終わりだな」
「自業自得だ。俺とのデュエルでそんなデッキを使った貴様が悪い」
男は上空のハヤブサを見上げる。
強力なモンスターが召喚された。このままでは《おジャマ》達は殲滅され、ライフポイントはゼロになる。
されど……そんな状況とは裏腹に、男は口角を吊り上げる。
《
ブレイズ・ファルコンの効果を使用した後直接攻撃し、その直後に速攻魔法である《
1000、1000、そして2000。合計4000ポイント削りとることができ、黒咲の勝利が決まる。
だが黒咲はそうしなかった。いや、できなかったのだろう。
――全ては男の戦略通り。
連戦による疲労と、《おジャマ》というカード達。適度に疲労させて思考力を低下させた後、油断と慢心を誘い、判断力を奪う。
このミスは男によって引き出されたもの。
二人の戦いは、黒咲がオベリスク・フォースとデュエルした時から始まっていたのだ。
「これで終わりだ! 行け、レヴォリューション・ファルコン!」
そうとは知らない黒咲は、自身のモンスターに攻撃命令を下す。
レヴォリューション・ファルコンの黒い翼が広げられ、銃口が《おジャマ》達を捉える。
「そうはさせん!」
――が、攻撃が開始される直前に、一枚の
「
これにより、レヴォリューション・ファルコンのモンスター効果を無効にする!」
「何!?」
「レヴォリューション・ファルコンは特殊召喚されたモンスターを一網打尽にする効果を持つ。だが《ブレイクスルー・スキル》により、このターンのみレヴォリューション・ファルコンは攻撃力3000のモンスターとなった。
さあ、どうする黒咲隼。《おジャマ・キング》と相打ちさせ、塞がったモンスターゾーンを空けるか。それとも《おジャマ・ブルー》を攻撃し、少しでも俺のライフを削るか。二つに一つだ」
「…………」
黒咲は二体のおジャマを見比べる。
《おジャマ・キング》と相打ちさせれば、攻撃力3000のモンスターを破壊でき、かつモンスターゾーンにも空白ができる。そうなれば次のターンで逆転は可能。《おジャマ・ブルー》の直接攻撃を受けたところで痛くも痒くもない。何故なら黒咲には、それを防ぐための
ただ、ここでネックとなるのが《おジャマ・カントリー》。男の手札は一枚。残った一枚か、ドローしたカードが《おジャマ》とつくカードだった場合、次のターンに《おジャマ・カントリー》の効果で《おジャマ・キング》は復活してしまう。
《おジャマ・ブルー》を攻撃すれば、男のライフを一度で半分削ることが出来るが、デッキから二枚の《おジャマ》カードを手札に加えさせてしまう。
「……バトルだ! レヴォリューション・ファルコンで、《おジャマ・ブルー》を攻撃!」
黒咲が選んだのは《おジャマ・ブルー》。
機械の翼に仕組まれた兵器から光弾が発射され、《おジャマ・ブルー》が破壊された。
男
LP:4000 → LP:2000
「《おジャマ・ブルー》の効果発動。戦闘で破壊された時、デッキから《おジャマ》とつくカードを二枚手札に加える。
意外だったな。まさかこっちを選ぶとは」
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー」
これにて男の手札は四枚。
手札の枚数は戦略の数でもある。
尽きかけていた手札が潤い、男は笑みを浮かべる。
「判断を誤ったな、黒咲隼。貴様が《おジャマ・ブルー》を破壊してくれたおかげで、こうして手札も増えた。つまり、俺の戦術もまた増えたということだ」
「好きにしろ。貴様がどんな戦術を仕掛けてこようと、俺はその全てを粉砕する」
「やはりな。貴様が《おジャマ・ブルー》を破壊したのは、《おジャマ・キング》の攻撃を防ぐ手段があるからだ。
手札のカードか、それともセットされた
だがな! たとえどんな手段であろうと、こいつらの前では無駄な足掻き! それを思い知らせてやる!
現れろ、《おジャマ・イエロー》! 《おジャマ・グリーン》! 《おジャマ・ブラック》!」
男
LP:2000 → LP:1000
《おジャマ・イエロー》
星2/光属性/獣族/攻 0/守1000
《おジャマ・グリーン》
星2/光属性/獣族/攻 0/守1000
《おジャマ・ブラック》
星2/光属性/獣族/攻 0/守1000
「そして《おジャマ・カントリー》の効果により、攻守が反転する!」
《おジャマ・イエロー》
《おジャマ・グリーン》
《おジャマ・ブラック》
攻 0 → 攻1000
守1000 → 守 0
男のフィールドに三体のおジャマ達が召喚される。
元々の攻撃力は0。《おジャマ・カントリー》が発動していても、攻撃力は僅か1000のみ。何度も言うように、特殊召喚されたモンスターは黒咲にとっては格好の的だ。
しかし、この三体が一度に揃った時――奇跡が起こる。
「いくらそんなモンスターを揃えようが、レヴォリューション・ファルコンの前では無力!」
「そいつはどうかな。こいつらを甘く見ると痛い目見るぜ!
俺はこの
『ヤケっくそぉ~!!』
男の掛け声と同時に、三体のおジャマ達が一斉にジャンプした。
三体はそれぞれ中腰の姿勢で悪趣味なパンツを押し付け合い、トライアングルを象る。
『必殺!』
『おジャマ!』
『デルタ!』
『ハリケェェーン!!』
げらげらと奇声じみた笑い声を上げながら、三体は高速で回転し始めた。
回転は徐々に勢いを増し、やがて巨大な竜巻となる。
世界一気色悪い竜巻は、黒咲のレヴォリューション・ファルコンと伏せカードを巻き込み、大爆発を起こした。
「くっ……馬鹿な!」
煙が晴れたそこには何もない。
――訂正。黒咲のフィールドにはおジャマ老人が三体のみ。
レヴォリューション・ファルコンも、攻撃に備えた
「見たか。《おジャマ・デルタハリケーン!!》は、おジャマ三兄弟が揃った時のみ発動する
黒咲の手札には《
《
だが、黒咲のフィールドにモンスターはいない。よって、《
「貴様のフィールドにモンスターはいない。これで終わりだ、黒咲隼!
《おジャマ・キング》でプレイヤーにダイレクトアタック! “フライング・ボディアタック”!」
「チッ――! 墓地から《
《おジャマ・キング》渾身ののしかかり攻撃はバリアに遮られ、黒咲まで届くことはなかった。
バリアに弾き返され、《おジャマ・キング》は男のフィールドに戻っていく。
「まだ防御手段を残していたか。存外にしぶといヤツだ。
俺のバトルフェイズは終了だが、まだ終わりではない!
《おジャマ・グリーン》と《おジャマ・ブラック》を融合! 現れろ、《おジャマ・ナイト》!」
《おジャマ・ナイト》
星5/光属性/獣族/攻 0/守2500
《おジャマ・ナイト》
攻 0 → 攻2500
守2500 → 守 0
二体の《おジャマ》モンスターを素材に、男は新たなモンスターを融合召喚した。
《おジャマ》共通の赤いパンツと、騎士の甲冑を着た黄色いおジャマ。立派な剣と盾こそ持っているもの、元々の外見が悪いせいかコスプレ感が拭えない。
「攻撃力2500……!」
「貴様の目は節穴か? 《おジャマ・ナイト》の真の力はそこではない!
《おジャマ・ナイト》の効果発動! 相手のモンスターゾーンを二つ、使用不能する!」
「何!?」
黒咲のフィールドに、新たに二体のおジャマ老人が出現する。
今度は老化したブルーとレッド。五種類のおジャマが揃い、黒咲のモンスターゾーンは全て埋め尽くされた。
「これは……モンスターゾーンを全て埋めたというのか」
「その通り! これがこいつらの戦術、その名も“おジャマロック”!
これで貴様は、モンスターを一切召喚することができない!」
「くっ……!」
黒咲は悔しげに舌打ちし、フィールドのおジャマ老人を睨みつける。
しかし、そこはやはりおジャマ老人。どれだけ迷惑だろうと知らぬ存ぜぬ。何食わぬ顔で、呑気にお茶を啜っている。
「カードを一枚伏せてターンエンド。さあ、貴様のターンだ黒咲。精々足掻いてみせろ。
尤も、所詮貴様は世界を知らないヒヨッコ
モンスターの召喚を封じたことで男は慢心し、盛大に高笑いした。
この手の人間は痛い目に遭うのが物語としてのセオリーだが、今の黒咲に打開策はなかった。
モンスターゾーンに一つでも空きがあれば挽回できるだろう。しかし、全て封じられてしまっては手も足も出ない。
要するに、詰みだ。
「諦めろ。今の俺は気分がいい。大人しくサレンダーすれば見逃してやる」
「誰がサレンダーなどするものか。貴様らアカデミアは、この俺が一人残らず――」
「殲滅すると? 俺一人にここまで手間取る貴様如きが、奴等を倒せるわけないだろう」
「なんだと……!」
「黒咲隼。貴様は色々と知らなすぎる。敵である融合次元のことも、味方であるランサーズのことも。
知っているか? ハヤブサは時速200キロの速さで空を飛ぶ。ならば、その視力もまた人間とは比較にならない」
「…………貴様」
「見えていないはずがない。気づいていないはずがない。
余分なプライドはここで捨てろ。そうすれば、もっと色んなものが見えてくるはずだ」
「俺はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
「っ――!?」
「来たか……!」
黒咲は驚きの表情を、男は歓喜の笑みを浮かべて、声の主を見た。
緑のカーゴパンツと赤いシャツ。白い制服をマントのように着こなし、首からはペンダントを提げている。
――榊遊矢。ペンデュラム召喚の開祖にして、ランサーズの特記戦力である。
遊矢
LP:4000 → LP:2000
デュエルに乱入したペナルティとして、遊矢のライフが半分削られる。
しかしそのハンデを物ともせず、遊矢は青い仮面をつけた男を見据えた。
「ククク……随分と遅い援軍だな。見捨てたとばかり思ってたぞ」
「そんなわけないだろ。黒咲は俺達の仲間だ」
「おめでたい奴だな。貴様はそう思っていても、当の本人はどうだろうな?」
「そんなことは関係ない。他人が俺をどう思っていようと、俺は俺の信じた道を選ぶ。
だから俺は、仲間である黒咲を助ける!」
「ハッ、よくぞ言った! だが、口でなら何とでも言える! 俺のフィールドには攻撃力2500の《おジャマ・ナイト》と、3000の《おジャマ・キング》がいる! これを突破することはできまい!」
「それは、やってみなくちゃ分からない! お楽しみはこれからだ!」
遊矢の両サイドには光の柱が立ち、上空には魔術師が二体浮上している。
胸元のペンダントが光り、左右に揺れる。
「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」
上空では振り子の軌跡が楕円を描き、異次元へと繋がる召喚ゲートが切り拓かれた。
一体の竜が光を纏い、ゲートから遊矢の元に現れる。
「ペンデュラム召喚!
来い、俺の新たなモンスター! 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》!」
《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》
星5/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2400
そのドラゴンは、男は勿論、黒咲ですら見たことがないモンスターだった。
オッドアイであることは遊矢のエースモンスター《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と共通している。しかし、体の色は赤というよりも桃。さらに頭、胸、脚には白い装飾があり、全体的に丸みを帯びたドラゴンだった。
「さらに
これにより、《おジャマ・カントリー》を破壊!」
「何っ――ぐあっ!?」
遊矢のフィールドを
建物や住人達は全てかき消され、ネオ童実野シティの摩天楼が戻ってきた。
「フィールド魔法が消えたことで、《おジャマ》達の攻撃力は元に戻る!
バトルだ! 《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》で、《おジャマ・キング》を攻撃!
“
太陽の
男の残りライフは僅か1000。《おジャマ・キング》の攻撃力は0なため、直撃すれば終わりだが――生憎と、そう上手く事は運ばない。
「
「っ……やっぱり、一筋縄じゃいかないか。ターンエンドだ」
遊矢のターンが終了し、黒咲のターンが回ってくる。
だが、二体の《おジャマ》融合モンスターは健在だ。黒咲がモンスターを召喚できないことは変わらない。
「……俺のターン」
ドローフェイズ。黒咲が引いたのは《
墓地から《
「フッ。どうやら、望みのカードは引けなかったようだな。
今の《おジャマ》達の攻撃力は0。つまりは無防備な状態を貴様らに晒してるわけだが、モンスターを召喚できないのなら問題ない。
黒咲隼。所詮貴様程度の実力では、この俺様を倒すことはできないということだ」
「っ……」
黒咲は何も言い返せない。もしあのタイミングで遊矢が乱入してくれなければ、黒咲は負けていたかもしれないからだ。
だからその代わりに、遊矢が男に忠告する。
「あんまり黒咲を舐めないほうがいいぞ」
「……ほう。よほどその男を信頼しているらしいな。
だが現実を見ろ。ヤツのモンスターゾーンは全て埋め尽くされ、起死回生しようにもモンスターは召喚できない。よってこのターン、ヤツにできることは何もない」
「現実を見るのはそっちだ。俺が参加した時点で、このデュエルは既にバトルロイヤル。流れはこっちにある」
「……なるほどな。貴様の言わんとすることは分かった」
遊矢が黒咲に言いたいことを、男はすぐに理解した。
“このターンでお前を倒せる”――まったくもってその通り。
だから、あと一押し。あと一押しで、男の目的は達成される。
「黒咲。お前が俺をどう思っているかは知らない。だけど、一つだけ聞いてくれ」
「……言ってみろ」
「俺は榊遊矢だ。顔がどんなに似ていたって、ユートの代わりにはなれない。
けど、新しく仲間になることはできる。肩を並べることはできる。お前の荷物は背負えないけど、荷物で倒れそうなお前を支えることはできるんだ。だから――」
「もういい」
「え?」
「もういいと言ったんだ。貴様が馬鹿だということは十分分かった」
援軍を断った理由。遊矢はそれを“仲間と認められていないから”だと思っているが、それは間違いだ。
黒咲は遊矢のことを“仲間だと認めている”からこそ援軍を断った。大切なものを守れなかったというトラウマから、黒咲は無意識に仲間を遠ざけていたのだ。
だが、“戦いに巻き込まない”など初めから無理な話だった。元よりランサーズという組織は、お節介な連中の集まりなのだから。
「力を貸せ、遊矢。このターンでヤツを倒す」
「……ああ!」
二人は肩を並べて仮面の男と向き合った。
男は思わず頬を緩める。
その二人が並び立つ光景は、かつてのハートランドを思い出させる。
しかし、それは違う。
隣にいるのは全く別の
「覚悟は決まったようだな。ならば来い、黒咲隼! 榊遊矢!」
「なら、まずは俺からだ!
《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の効果発動! 一ターンに一度、エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする! 俺が対象に選ぶのは、《おジャマ・キング》!」
《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》のブレスが《おジャマ・キング》に浴びせられる。
同時に、黒咲のフィールドから三匹のおジャマ老人が消滅した。
「これで黒咲のモンスターゾーンが三つ使用可能となった! 黒咲!」
「分かっている! 俺は《
甦れ、レヴォリューション・ファルコン! そしてこれを素材に、オーバーレイ!」
黒咲
LP:800 → LP:400
黒咲のフィールドにレヴォリューション・ファルコンが召喚され、同時に黒い渦が足元に拓かれた。
革命のハヤブサはその渦に吸い込まれ、ランクが二つアップする。
「勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!
ランクアップ、エクシーズチェンジ!
飛翔しろ、ランク8! 《
《
ランク8/闇属性/鳥獣族/攻3000/守2000
ハヤブサを象った白く巨大な機械鳥が、衝撃波を伴って降臨した。
翼だった箇所に六つ、脚だった箇所には一つずつ、計八つのビーム砲が装備されている。
「バトルだ! 《
黒咲の攻撃命令を受け、全ての砲台が《おジャマ・キング》を向いた。
サテライト・キャノン・ファルコンの背後に“R”のリフレクターが二翼展開され、エネルギーが充填され始める。
……徐々に溜まっていくエネルギー。《おジャマ・キング》はガクガク震え、全身から汗を滝のように流す。
『いやああああ助けて兄貴! オイラ達やられちゃうよぉ!?』
「諦めろ。今回は俺達の負けだ」
『えぇぇー!!?』
――情けなく慌てふためく《おジャマ》達。その光景は、男にしか見えていない。
「砕け散れ! “エターナル・アベンジ”!!」
サテライト・キャノン・ファルコンのビーム砲から合計七つのレーザーが放たれる。
それらは一つの巨大な熱線となって、《おジャマ・キング》と仮面の男を焼き尽くした。
「っ――ぐああ!!」
男
LP:1000 → LP:0
◆
男の身体が徐々に薄れていく。
デュエルに敗北したことで次元転送が始まったのだ。
「ッ――ククク」
敗北したにも関わらず、男は満足げに笑う。
「いいぞ、とりあえずは合格だ。あいつらへの土産話もできた。今日のところは退散しよう」
「待て! 貴様の目的は何だ!」
「さあな。全次元の統一、と言えば納得するか?」
「とぼけるな。確かに貴様のデュエルはふざけていたが、同時に鉄の意思と鋼の強さも感じられた。
オベリスク・フォースとは明らかに違う。その仮面も制服も偽物だろう。貴様は一体何者だ!」
「……レジスタンス、じゃないのか?」
「何!?」
遊矢が発したレジスタンスという言葉に、黒咲は過剰反応する。
エクシーズ次元には、融合次元に対抗する為の組織がある。それがレジスタンス。ハートランドを旅立つ前、黒咲とユートはそこに所属していたのだ。
だが黒咲は、この仮面の男に見覚えがない。おそらくはユートもだろう。
「半分は正解だが、もう半分は違うな。第一、お前たちには関係ないことだ」
「関係はある。もしアンタが融合次元じゃないなら、俺達は仲間だ」
「仲間だと? この制服が見えんのか貴様は。
俺はオベリスク・フォースの幹部。断じて仲間などではない」
「格好なんて関係ない。俺達はデュエルをした。その上でお互いに敵対する意思がないのなら、俺達はもう仲間だ。だったら――」
「――仲間なんかじゃないよ」
――俺達と協力して、融合次元と戦おう。
そう続けようとしたところで、第三者が遊矢の言葉を遮った。
剣の形をしたデュエルディスク。
空色の髪。青い制服。口元には棒つきの飴玉。
……現れた“第三者”は、遊矢がよく知っている人物だった。
「……素良」
「久しぶりだね、遊矢。スタンダード次元のデュエル以来かな」
会話だけなら再会を喜ぶ友人同士のそれだ。
しかし、素良はデュエルディスクを展開し、三人の元へ歩み寄ってくる。仮面の男からは感じられなかった敵対の意思があった。
「紫雲院素良か。もう嗅ぎつけてきたとはな。貴様の獲物は榊遊矢ではなかったか?」
「だから、その遊矢を探してここまで来たんじゃないか。
……僕の獲物を横取りするなって叱りに来たんだけど、その必要はなかったみたいだね。
僕とバレットの目を掻い潜るなんて、並のスパイじゃない。君、一体何者?」
「おっと、怖い怖い。そう警戒するな、紫雲院素良。この仮面と制服を見れば分かるだろう?」
「……ふぅん。じゃあやっぱり、君が報告にあった“裏切り者”なんだ?」
素良の目つきが一層険しくなる。仮面と制服で姿を偽っても、中身までは誤魔化せない。
「ハッハッハッハッハ! そうだな、確かにその通りだ! 貴様の言う通り、俺は裏切り者だな!
本来ならこの仮面を取って高らかに名乗りあげたいところなんだが……残念ながら、そういうことは“彼女”に止められているのでね。大人しく帰らせてもらおう」
「……次元転送装置が作動してる。追いかけるのは無理かな」
「そういうことだ。デュエルには負けたが、今回は俺達の勝ちだ」
「……あまりいい気にならないでよね。今回の任務が終わったら、僕が直々に君を裁きに行く。それまでそっちで、首を洗って待ってなよ」
「ああ、楽しみにしている。
――っと、そろそろか。黒咲隼、そして榊遊矢。俺達はエクシーズ次元の何処かにいる。仲間になって欲しくば、こいつらよりも早く俺達を見つけることだ。
それと最後に……紫雲院素良。エド・フェニックスという男によろしく伝えといてくれ」
“エド・フェニックス”。
男は最後にその名前を言い残し、他次元へ……エクシーズ次元へと転送されていった。
結局遊矢と黒咲は、最後まで男の名前を知ることはなかった。
アニメ産オリジナルカードまとめ
《おジャマンダラ》
通常魔法
自分の墓地に「おジャマ・イエロー」「おジャマ・グリーン」「おジャマ・ブラック」が存在する時、ライフを1000ポイント支払って発動する。
自分の墓地から「おジャマ・イエロー」「おジャマ・グリーン」「おジャマ・ブラック」を1体ずつ自分フィールド上に特殊召喚する。