あと、いい加減ネタも切れてきた……!
今更かもしれませんが、以前書いたストーリーメモとは大分展開が異なります。
※注意、アニメオリジナルカードあり。
《古代の機械猟犬》
星3/地属性/機械族/攻 1000/守 1000
①:このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
②:1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが存在する場合に発動できる。
相手に600ダメージを与える。
③:自分フィールドにこのカード以外の「古代の機械」モンスターが存在する場合に発動できる。
自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
《古代の機械双頭猟犬》
星5/地属性/機械族/攻 1400/守 1000
「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」
①:このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
②:1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。
そのモンスターにギア・アシッドカウンターを1つ置く(最大1つまで)。
この効果は相手ターンでも発動できる。
③:ギア・アシッドカウンターが置かれているモンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
そのモンスターを破壊する。
《古代の破滅機械》
永続魔法
①:フィールドのモンスターが破壊された場合にこの効果を発動する。
破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージをそのモンスターのコントローラーに与える。
②:このカードの発動後、次の自分のスタンバイフェイズにこのカードを破壊する。
2016.03.24.誤字脱字、ライフ計算修正。
「……ここがシンクロ次元。ネオ童実野シティか」
長い夜が明け、人々が活動を始める頃。紫雲院素良はビルの屋上から街並みを見下ろしていた。
デュエルを中心に栄えた都市。それは融合次元――デュエルアカデミアとて同じ。
しかし、その街並みは完全に別物だ。兵士になることが義務付けられていた素良にとって、シンクロ次元にあるもの全てが刺激的だった。
「紫雲院素良」
素良の後ろから、誰かが声を掛けた。
小柄な素良と違ってガタイがいい。顔には大きな火傷の跡と、それを覆い隠す眼帯。エクシーズ次元での戦いで負った傷だ。
「バレット。僕に何か用?」
「じきバトル・シティの二日目が始まる。その前に我々の作戦を確認すべきだと思ってな」
「ふーん……作戦、ねえ」
素良は飴玉を咥えつまらなそうに呟く。
そのふてぶてしさにバレットは顔をしかめつつ、素良に作戦を告げる。
「我々に与えられた任務は柊柚子とセレナ様の確保。我々が先導してオベリスク・フォースを率い、障害となる
「単純な役割分担じゃないか。大げさだよ、“作戦”なんて言い方は」
「大げさではない。スタンダードに潜伏していたデニスによると、今この次元には“ランサーズ”という組織がいる。今回の任務は、この組織の戦力を如何に削れるかが鍵となる。エクシーズ次元の時とは違うのだぞ」
「……ランサーズ、か」
Lance Defence Soldiers。赤馬零児が結成した対融合次元の組織。彼らが目的とするセレナは、このランサーズに所属している。
そして――榊遊矢もまた、この組織にいるのだ。
「ねえバレット。約束は覚えてるよね?」
「ああ。榊遊矢、だったな」
「そいつは僕の獲物だから、絶対に手は出さないでね。他の連中はいくらでもあげるから」
「それがお前の戦士としての矜持ならば。
承知した。オベリスク・フォースにも邪魔はさせないと約束する」
「……そう。一応、礼は言っておくよ」
素良は再び摩天楼を見下ろす。
ランサーズのメンバーは全員“フレンドシップ・カップ”――バトル・シティに参加している。
大会が開始される瞬間こそが戦いの始まり。開戦の時は、刻一刻と迫っている。
◆
『ネオ童実野シティの皆さん、長らくお待たせしました! 只今よりフレンドシップカップ二日目、バトル・シティを開催するぞぉぉぉ!!!!』
とあるスタジアムから司会の荒々しい実況が響く。
それに応じて観客席はヒートアップ。既に二日目だというのに、大会の熱は未だ冷めない。
『フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セッート、オン!』
ライディング・デュエル専用のフィールド魔法が発動すると共に、ネオ童実野シティは変貌する。
一般道路同士が分離、連結を繰り返し、やがてライディング・デュエル専用のコースが幾つも生成された。
『ライディング・デュエル! アクセラレーション!』
スタートの合図と同時に、Dホイーラー達はアクセルを鳴らし疾走する。
ある者は、自分の力を試すため。
ある者は、ジャック・アトラスとデュエルするため。
ネオ童実野シティは再び修羅の街、バトル・シティへと変貌する。
「……時間だ」
――そして、それは開戦の合図でもあった。
座して待機していたバレットが立ち上がった瞬間、緩んでいた空気が引き締まる。
「情報によると、この次元にはセキュリティなるデュエル組織がある。あちらの部隊にはセキュリティとデュエルを行ってもらい、市民の注意を惹く。その隙に、我ら歩兵部隊がランサーズと接触する。
誰でもよい。ランサーズのメンバーを一人でも倒したグループには、相応の勲章を与えよう。
――では行くぞ。これより、シンクロ次元の侵略を開始する」
オベリスク・フォースを引き連れて、バレットは街へと繰り出した。
彼らの任務は敵勢力の注意を引きつけることだ。柊柚子とセレナの確保はあくまでユーリに与えられた任務であり、バレット達がそこに深く関与する必要はない。平たく言ってしまえばバレット達オベリスク・フォースは、ランサーズの誰かと適当にデュエルするだけで任務を達成できるのだ。
だが、彼らはそれだけで終わるつもりはなかった。
バレットがこの任務に参加した理由は二つ。
一つ目は名誉挽回。元々バレットは融合次元のデュエル戦士として優秀だった。しかし以前、スタンダード次元にて赤馬零王の息子・赤馬零児に敗北し、セレナをランサーズに奪われたことでその「名誉」を失ったのだ。
赤馬零児の実力はランサーズ最強。勝ち目が薄いのは当然であり、出会ってしまった時点でこの結果は仕方がないと赤馬零王は思っているのだが、そこは問題ではない。これは“
そして二つ目。バレットにとってはこちらの方が重要だろう。
すなわち勲章。勲章とは戦士の栄誉の証であり、自身が収めた功績の結晶。バレットはより優れた戦士となるべくこの任務を受けたのだ。
以上の理由から、バレットは“注意を引きつける”程度で終わるつもりはなかった。
バレットが自らに課した真の任務。それは、ランサーズを一人残らず倒すこと。以前敗北した赤馬零児とて例外ではない。
そしてこの思いは、後ろに控えているオベリスク・フォース達も同様だった。彼らはバレットが選び抜いた野心溢れる戦士達。何かしらの功績を挙げることで仮面を脱ぎ、バレットや素良のように素顔を晒せる日を常日頃狙っている。
だからこそオベリスク・フォースにとって、シンクロ次元の有様は想定外だった。
バレットの目的はランサーズのみだが、オベリスク・フォースの目的は戦う相手だ。ランサーズであれシンクロ次元の
しかし――侵略を開始して早十分。未だ
「どういうことだ? スタジアムから声が聞こえる前は、確かに人がいたはず」
バレットを先頭に、オベリスク・フォース達は周囲を警戒しながら街を歩く。
天空を刺さんばかりにそびえ立つ摩天楼。ライディング・デュエル専用の高速道路。通行用の一般道路。他にもカフェやデパート、Dホイールの部品ショップ等等。
人々の生活の跡はあちこちに見受けられる。しかし、この世界で暮らすべき人間が見当たらない。
「……ここまで人がいないのは不自然だ。シンクロ次元はどうなっている……?」
「何も不自然なことはない。貴様らが侵略に来ると分かっていれば、誰もが避難するだろうさ」
「!」
進軍する融合次元の前に、一つの影が立ち塞がる。
黒いロングコートとエクシーズ次元製のデュエルディスク。首元には赤いスカーフ。
「ほう。まさか、シンクロ次元でその顔を見るとはな」
その男を、バレットはよく知っていた。
エクシーズ次元にて一度戦った
「黒咲隼。エクシーズ次元の
「フン……変わらんな、バレット。相変わらず、融合次元の
俺の記憶が確かなら、その潰れた左目は貴様が言う負け犬とやらにやられたのではなかったか?」
「――貴様」
「決着をつけるぞ、バレット。今の俺はあの時とは違う。一切の油断なく、完膚なきまでに貴様を叩きのめす!」
黒咲は怒りの形相でデュエルディスクを展開した。
融合次元の
ましてや相手はバレット。この男さえいなければ――黒咲隼がこの男を倒していれば――もしかしたら、瑠璃が攫われることはなかったかもしれない。
「くだらんな」
「なんだと……!」
だがバレットからすれば、黒咲隼はただの負け犬である。たとえ決着はついていなくても、守るべきものを守れなかった時点で敗北に等しい。
「私が求めるのは名のある大将。今更エクシーズの残党を狩ったところでなんの勲章にもならん」
「逃げるつもりか!」
「翼をもがれた
「貴様――っ!」
バレットは踵を返し、黒咲とは反対側へ立ち去っていった。
黒咲は後を追おうとするが、オベリスク・フォースがそれを阻む。結局、バレットの姿が見えなくなるまで見送るしかなかった。
「……チッ」
「全く、やれやれだぜ。相変わらず隊長殿は頭が固いらしい」
オベリスク・フォースの中から一人の男が先頭に歩み出た。
顔を隠す青い仮面。そして、制服の上には青いロングコート。この集団のリーダー格であることは一目で分かるだろう。
男は黒咲を吟味し、挑発的に笑う。
「……だがまあ、こいつはラッキーだ。
黒咲隼。エクシーズの残党には違いないが、同時にランサーズの一員でもある。倒す価値がある獲物だ。たとえその実力が、どれほど低レベルであったとしても」
「貴様らの目は節穴か? バレット隊長とやらの目をやったのはこの俺だ。雑魚が何匹と群がったところで、所詮俺の敵ではない!
時間が惜しい、そこをどけ!」
「そう慌てるなよ黒咲隼。今あいつを追いかけたところで、追いつくのは無理だ。それにここにいる連中は、以前貴様が戦ったオベリスク・フォースとはワケが違う。
なにせ、バレット隊長殿が直々に選び抜いた戦士達だ。雑魚だと罵るのなら、せめてこいつらを殲滅してもらわないとな」
男が合図を出すと、三人のオベリスク・フォースが前に出た。
オベリスク・フォースが一対一で戦うことは殆どない。彼らは常に、複数対複数の戦いを想定して訓練を受けている。
だが、その程度で黒咲は怯まない。ディスクを構え直し、オベリスク・フォースを迎え撃つ。
「……?」
デュエル開始の直前、黒咲のディスクから通信音が鳴った。
ランサーズのデュエルディスクは、どんな場所でも互いに連絡が取り合えるよう改造されている。
――通話相手は榊遊矢。黒咲はスイッチを押し、回線を繋げた。
『――さき! 黒咲! 聞こえるか、黒咲!』
「聞こえている。何の用だ」
『……オベリスク・フォースだ。あいつら、Dホイールに乗ってフレンドシップカップの参加者を襲おうとしてる。融合次元の侵略が始まったんだ』
「セキュリティはどうした」
『応戦してる。けど人数が足りない。今はMCの人が誤魔化してるけど、このままじゃ一般の参加者達も巻き込まれる。黒咲も手を貸してほしい』
「不可能だ。何故なら今、俺の目の前にもオベリスク・フォースがいる」
『え……? てことは、黒咲も戦ってるのか?』
「そういうことだ。デュエルが始まる。切るぞ」
『待ってくれ。黒咲が戦ってるなら、今からそっちに行く。場所は?』
「必要ない。お前が来ても邪魔になるだけだ」
『え――?』
「いい機会だから言わせてもらう。遊矢、お前は優しすぎる。そして傲慢だ。
デュエルで皆を笑顔にする。借り物ではなく本心でそれを目指すお前には、戦争は向いていない」
『黒咲……?』
「だから守れ。俺のように敵を殲滅するのではなく、大切な誰かを守るために戦え。
その時こそ、お前の中で眠る力は確固とした方向性を持ち、その力は、お前を屈強な戦士へと変えるはずだ」
『黒咲? 何を言ってるんだ……?』
「……以上だ。次会うときはハイウェイの上だ」
『な、黒さ――』
遊矢の返事を待たずに、黒咲は回線を切った。
その一部始終を見ていた男は、黒咲を嘲笑う。
「ッ――ハッハッハッハッハ! まさか応援を断るとはな。正気か? この人数を相手に一人で戦うと?」
「戦場において甘さは足枷になるからな。あいつが来たところで邪魔なだけだ。
――それに。言うまでもないことだが、俺は貴様らに負けるつもりはない。オベリスク・フォース、その全てを俺一人で殲滅してくれる!」
「ハッハ、よく言った。ならばデュエルだ! 勝負形式は三対一の五連戦。貴様がこいつらを殲滅するか、その前に貴様が果てるか。我慢比べといこうじゃないか!」
◆
「「
黒咲
LP:4000
オベリスク・フォース①~③
LP:4000
掛け声と同時、四人のライフポイントが表示される。
どのプレイヤーも数値は4000。どう考えても黒咲が圧倒的不利。
だが本人からすれば些細なハンデだ。8000の差を物ともせず、黒咲は融合次元に立ち向かう。
「俺の先行!
俺は《
《
星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600
黒咲のフィールドに一体の鳥獣族が召喚される。
緑色の体色をした鳥獣。しかしその外見は鳥獣というより、鳥獣を象った機械である。
「バニシング・レイニアスの効果発動! このモンスターの召喚に成功したターン、手札からレベル4以下の《
これにより、二体目のバニシング・レイニアスを召喚!」
《
星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守1600
「そして、レベル4のバニシング・レイニアス二体でオーバーレイ!」
黒咲のフィールドに黒い渦が出現し、二体の鳥獣はその中心に集う。
「冥府の猛禽よ。闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!
――エクシーズ召喚! 飛来せよ、ランク4! 《
《
ランク4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守2000
――フクロウを象る機械。あるいは、機械のようなフクロウ。
素材となった二羽の魂はオーバーレイ・ユニットとして、フォース・ストリクスの周囲を円を描くように浮遊している。
「フォース・ストリクスの効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからレベル4の闇属性・鳥獣族を一体手札に加える。
更に、カードを二枚伏せてターンエンド」
二枚のカードが伏せられ、黒咲のターンが終了する。
先行のプレイヤーはドローすることができないが、相手より先に盤上を整えることができる。
黒咲のフィールドには守備力2000のエクシーズモンスターが一体のみ。通常のデュエルならともかく、オベリスク・フォース三人を相手にするには少々心もとない。
「あれだけ大口を叩いた割には、守備モンスターが一体のみか。その程度の腕で俺達を雑魚呼ばわりするとはな」
「フン。一対一で戦う度胸もない貴様らが言うか」
「分かっていないようだな。我々オベリスク・フォースはバレット隊長やお前とは違う。我々は個ではなく全。戦士ではなく軍隊。一対一で戦う、という前提が既に間違いなのだ。オベリスク・フォースの戦いは常に蹂躙するか殲滅されるかの二択のみ」
「ならばさっさとターンを進めろ。直に俺が貴様らを殲滅してくれる」
「強がりを――俺のターン!
俺は《
《
星3/地属性/機械族/攻1000/守1000
オベリスク・フォースのシンボルと言うべき猟犬が召喚される。
巨大な牙を持つ、機械仕掛けの猟犬。赤いモノアイが光り、黒咲を捉える。
「やはり《
「そういうことは俺達のターンが終わってから言うんだな。
《
猟犬の口から火炎弾が発射され、黒咲の全身を焼く。
黒咲
LP:4000 → LP3400
「……フン」
「これで終わりだと思うなよ。
二体目の《
《
星3/地属性/機械族/攻1000/守1000
「そして効果発動! もう一度、600のダメージを喰らえ!」
「チッ――」
第二の火炎弾が放たれ、再び黒咲のライフを削る。
黒咲
LP:3400 → LP2800
「まだ俺のターンは終わっていない! 《
俺は、フィールドの二体の《
古の魂受け継がれし、機械仕掛けの猟犬達よ。 群れなして混じりあい、新たなる力と共に生まれ変わらん!
――融合召喚! 現れろ、レベル5! 《
《
星5/地属性/機械族/攻1400/守1000
二頭の猟犬が融合し、双頭の猟犬が召喚される。
外見の変化は頭が一つ増えた程度。攻撃力もさほど変化はない。しかし、その効果はより攻撃的なものに変化している。
「最後に俺は永続魔法《
これでターンエンドだ」
一人目のオベリスク・フォースのフィールドに、怪しげな機械が一つ現れた。
複数の大砲を強引にひとまとめにしたような機械。砲身は360°全方位に設置されており、敵味方問わず危険な兵器だということがひと目でわかる。
――ともあれ、これで一人目のターンが終了した。そして。
「次は俺のターンだ」
――二人目のターンが回ってくる。
「
これにより、手札の二体の《
《
星3/地属性/機械族/攻1000/守1000
二人目のフィールドにもまた、二体の猟犬が現れた。
黒咲は舌打ちする。オベリスク・フォースのデッキ構成は全く同じ。となれば、自ずと二人目・三人目のプレイは読めるだろう。
「ハウンドドッグの効果発動! 合計1200のダメージだ!」
黒咲
LP:2800 → LP1600
第三、第四の火炎弾により、黒咲のライフが削られる。
全く同じプレイング、全く同じ火力。オベリスク・フォースのデュエルには、およそ個性というものがない。
「《
現れろ、レベル5! 《
《
星5/地属性/機械族/攻1400/守1000
効果ダメージに続き融合召喚。
二体目のダブルバイト・ハウンドドッグが呼び出され、同じように黒咲を睨む。
「最後に俺は永続魔法、《
「全く同じカードを使い、全く同じモンスターを召喚する。変わっていないな、何もかも。そんな戦術で俺を倒せると本気で思っているのか――?」
「口の減らないヤツだ。前のターンで、貴様の敗北は揺るがない決定的なものとなった。が、念のためだ。このターンでさらにライフを削ってやる。
俺のターン! 《
《
星3/地属性/機械族/攻1000/守1000
三人目はターンの開始と同時、全く同じモンスターを召喚した。
そして効果を発動。五発目、六発目の火炎が黒咲を撃ち抜く。
黒咲
LP:1600 → LP400
「そして、《
――融合召喚。現れろ、レベル5! 《
《
星5/地属性/機械族/攻1400/守1000
「最後に俺は永続魔法《
三人目のフィールドに大砲の塊が出現し、オベリスク・フォース達のターンがようやく終了した。
これで二回目の黒咲のターン。しかし残りライフは僅か400。黒咲に次のターンは残されていない。
――だが、黒咲隼にとっては大した問題ではない。次のターンがないのなら、このターンで決めればいいだけのこと。
「さあ、お前のターンだ黒咲隼。尤も、お前は既に詰んでいるがな。
フィールドにモンスターを召喚すれば、《
永続魔法《
そして、お前のライフは残り400。つまり、攻撃力150以上のモンスターで攻撃を宣言した瞬間、お前は敗北する。攻撃しなければ次のターン、俺達の誰かが三体目のハウンドドッグを召喚し、600ポイントのダメージを与えるという寸法だ」
オベリスク・フォース三人は勝利を確信し、黒咲を嘲笑う。どう足掻こうとこの包囲網を突破することは不可能。そう確信しているからだ。
「笑止」
「何?」
それが、黒咲にとってひどく滑稽だった。
――バカバカしくて話にならない。
「今のデュエルを見て確信した。やはり貴様らには、その仮面を取る資格はない。名前を奪われたまま、ここで無様に朽ち果てるがいい!
俺のターン! 《
ランク4のフォース・ストリクスを素材に、オーバーレイ!」
黒咲の元に再び黒い渦が現れ、漆黒のフクロウはその中心に吸い込まれた。
直後、爆発と共に渦から炎が立ち登り、フクロウだったものが飛翔する。
「誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!
ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク6! 《
《
ランク6/闇属性/鳥獣族/攻2000/守3000
爆炎の中から現れたのは、手足のない黒いハヤブサ。
爆弾、火炎放射、光弾。複数の攻撃手段を兼ね備えた機械の鳥だ。フクロウは革命のハヤブサへと生まれ変わり、宿敵を殲滅するべく、その翼を翻す。
「馬鹿め! この瞬間、ダブルバイト・ハウンドドッグの効果発動! レヴォリューション・ファルコンにギア・アシッドカウンターを一つ置く!」
「
よってこのターン、レヴォリューション・ファルコンはギア・アシッドカウンターを受け付けない! その猟犬が何体いようともだ!」
「なんだと――!」
「さらに俺は、《
《
星4/闇属性/鳥獣族/攻 100/守 100
「このモンスターは自分フィールドにエクシーズモンスターが存在するとき、特殊召喚することができる!
そしてこれをリリースすることにより、
「俺のフィールドにだと?」
《ナイトメア・デーモン・トークン》×3
星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守2000
三人目のオベリスク・フォースのフィールドに、黒い影のトークンが三体召喚された。
一体一体の攻撃力・守備力は2000と高め。オベリスク・フォースのデッキは《
黒咲からすれば一見デメリットしかないように見える。しかしこれは的。このターンで三人一度に葬るための調整なのだ。
「血迷ったか。ハウンドドッグの唯一の弱点は、その攻撃力の低さにある。それをわざわざ補ってくれるとはな」
「それはどうかな。
レヴォリューション・ファルコンは、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃を行うことができる。そして、特殊召喚されたモンスターがレヴォリューション・ファルコンと戦闘を行う場合、攻撃力・守備力は0となる!」
「何っ!? 攻撃力を0にするだと……!」
「理解したようだな。貴様ら三人のフィールドにはそれぞれ《
そして三人目のフィールドには、俺が特殊召喚した三体の《ナイトメア・デーモン・トークン》。すなわち、一人目は6200。二人目は4800。三人目は合計して11800のダメージを受ける!」
「6200!?」
「4800!?」
「11800!?」
三人のオベリスク・フォースが後ずさりする。
無理もない。合計ダメージは22800。600ずつチマチマと削っていた三人とは天と地ほどの差がある。
「行け、レヴォリューション・ファルコン! 革命の火に焼かれて、散れェ! “レヴォリューショナル・エアレイド”!!」
命令を受け、レヴォリューション・ファルコンは天高く飛翔し、空襲を行った。
爆弾の雨あられが地を這う猟犬達を襲い、その全てを殲滅する。
狩人と獲物、その関係性が逆転した瞬間だった。
「うわぁああぁああ――――!!」
オベリスク・フォース×3
LP4000 → LP:0
◆
「ブラボーブラボー。流石は黒咲隼。見事な手前だった」
パチパチと、男は黒咲の勝利を称えた。このオベリスク・フォースの集団のリーダー格の男だ。
黒咲はその拍手に不快な表情を見せながら、ディスクを構え直す。
「おっと、まだ俺のターンは来てないぜ? こっちにはまだまだオベリスク・フォースがいるんだ。それとも、ギブアップでもするか?」
「フン……上等だ。オベリスク・フォース如きが何人いようと変わらない。
さっさと次を出せ。全てを殲滅し尽くした後、貴様を倒してやる」
「その意気や良し。では次だ」
男が合図を出すと、次の三人が黒咲の前に立ちはだかった。
一度デュエルが終了したことでレヴォリューション・ファルコンが消滅し、黒咲は再度デッキをセットする。
「二回戦だ。精々足掻けよ、黒咲隼」
「貴様らの御託はいい加減聞き飽きた。
行くぞ。早々に片を付けてやる……!」
「「
◆
――時は少し遡る。
「まさか、こんな形で捕まっちゃうとはねえ……」
元ランサーズの一員、デニス・マックフィールドは、とある一室にて監禁されていた。
扉や窓など、出口になりそうな箇所は全て鍵が掛かっている。外側からはともかく、内側から脱出することは不可能だろう。
閉じ込められた理由は至極単純。要するに、バレたのだ。
LDS所属の留学生、というのは仮の姿。デニス・マックフィールドの正体は、融合次元からスタンダード次元に送られてきた伏兵だったのだ。
正体がバレたデニスは当然失格。連絡が取れないようデュエルディスクは取り上げられ、こうして部屋に捕まることになったのだが――
「けど、牢獄というには随分と豪勢だよねえここ」
デニスは近くにあったリモコンのスイッチを押し、テレビを点けた。
映ったのはバトルシティのデュエル映像。内容は前日のものである。
――そう、デニスが捕らえられたこの部屋は選手用の控え室。豪華なベッドにテレビ、テーブルなど、一般にイメージされる監獄とは全く似つかない。
「こうしてテレビも見れちゃうし、手足も縛らないなんて。社長は一体何考えてるんだか」
「俺が零児に頼んだんだよ」
そう言いながら部屋に入ってきたのは榊遊矢。片手には丁寧に用意された食事がある。
「あれ、遊矢。どうしてここにいるのさ。バトルシティ、行かなくていいの?」
「今日は駄目だってさ。アカデミアの侵略が始まるかもしれないからそっちに備えろって、零児が」
「へえ、あの社長さんがねえ。融合次元の尖兵をランサーズに入れちゃったくせに、よく言うよね」
「そうかな? 俺が零児だったとしても、多分同じことをしたよ」
「――は?」
遊矢の言った意味がすぐに理解できず、デニスは聞き返す。
「遊矢さあ。それ、どういう意味?」
「だから、仮に俺がリーダーだったとしても、デニスをランサーズに入れただろうなって。あぁそうだ、食事持ってきたからここに置いとくよ。後で俺か柚子が取りに来るからさ」
デニスの疑問に答えながら、遊矢は食事を運ぶ。
扉は開きっ放し。背中は隙だらけ。今の榊遊矢には、およそ警戒心というものが感じられない。
それがデニスにとって最大の疑問であり、同時に不快でもあった。アカデミアであることがバレた以上、「デニス・マックフィールド」は「榊遊矢」にとって、敵以外の何者でもないはずなのに。
「君。もしかして馬鹿じゃない?」
「う……全く同じことを皆に言われたよ。特に黒咲なんか、いきなり殴りかかってきそうだったし」
「それが当たり前の反応だよ。僕たちは彼の故郷を滅茶苦茶にしたんだから。
だから僕からすれば、遊矢の方が異常だ。どうしてもっと厳重に監視しないのさ」
ゆらり、とデニスが動く。
遊矢は気づいていないが、これは一種の戦闘態勢だ。遊矢が下手な動きを見せれば、その瞬間に一撃で沈められ、デニスは逃亡するだろう。
「アカデミアの戦士は身体能力の訓練も受けている。僕がその気になれば、今すぐここから逃げられる。そのまま柚子を攫って、アカデミアの侵略に加わることもできるんだ」
「それは困る。デニスは強いからな」
「分かってるじゃないか。じゃあどうして、僕を見逃すような態度を取るんだい?」
「見逃すつもりはないよ。だからこうして様子を見に来たんだし」
「っ――そういうことを言ってるんじゃない!」
「デニス……?」
煮え切らない態度にデニスは苛立ち、ついに声を荒らげた。
遊矢は驚いた反応を見せたものの、その余裕は変わらない。
――その、どこまでも落ちついた姿勢が、デニスをさらに苛立たせる。
「いいかい? 君からすれば僕は敵なんだ! ここで僕を逃がせばシンクロ次元が、ひいてはスタンダード次元が滅ぶかもしれない! なのに、どうして君はそこまで甘いんだ!」
「どうしてって言われてもな。だってデニス、デュエル好きだろう?」
「……は?」
ノータイムで返ってきた短くすぎる答えに、デニスは絶句した。
次の言葉がすぐに出てこなかったのは、それがあまりにも的確だったからだ。
「確かにデニスは融合次元のデュエリストかもしれない。でも、いつも全力でデュエルを楽しんでる。でないと、デニスから“エンタメ”なんて言葉が出てくるわけない。
だからきっと、デュエルをすれば分かり合える。俺はそう信じてる」
「……はぁ。なにそれ。そんな不確かな理由で油断してるわけ?
今の遊矢、誰がどう見てもガバガバだよ。融合次元の
「それは……えっと、ごめん」
「……僕に謝られても困るんだけどね。
じゃあさ。もしここで僕が“脱獄する”って言いだしたら、遊矢はどうするの?」
「勿論止めるよ。デュエルでね。デュエルディスクが必要なら、柚子から借りてくるけど」
「……へえ」
デュエルで止める。そう言った遊矢の目は本気だった。
デニスは融合次元。エクシーズ次元を滅ぼした兵士であり、黒咲とユートにとってはまごう事なき敵である。
そんな相手に対して、遊矢はデュエルで分かり合えると本気で思っているのだ。
「――はぁ」
「デニス?」
「いや、いいよ。どっと疲れた。僕はここで大人しくバトルシティの映像でも見てるよ」
「本当にいいのか?」
「いいって。なんかアホらしくなってきたから。ここで君をカードにしたところで、後でランサーズに袋叩きにされるのは目に見えてるし」
「そっか。じゃあ、また――ん?」
ピリリ、と遊矢のデュエルディスクから電子音が鳴る。
通話相手は赤馬零児。零児からの初めての通信であったため、遊矢は慎重にスイッチを押し、回線を繋げた。
『聞こえるか、遊矢』
「ああ。えっと、何か用?」
『悪いがこちらは取り込んでいる。要件だけ伝えて切らせてもらう。遊矢はデュエルディスクでランサーズのメンバーにそれを知らせるんだ』
「分かった。それで、要件は?」
『アカデミアの侵略が始まった。以上だ』
それだけ伝えられ、赤馬零児からの通話は切れた。
――開戦の狼煙は上がる。
熱狂のフレンドシップ・カップ。その水面下で、戦争の幕が切って落とされたのだ。
「ランサーズは大変だねー。スタンダード次元の組織なのに、シンクロ次元の手助けをしなきゃいけないなんて」
「せっかくできた繋がりなんだし、大事にしないとな。それに、ランサーズが到着した頃には全て終わっていた、なんてオチはカッコ悪い」
「それもそうだね。そんなことを許しちゃったら、エンタメデュエリスト失格だ」
「あれ? デニスは融合次元なのに、俺を応援してくれるのか?」
「僕は監禁されてる身だからね。オベリスク・フォースがどうなろうと知ったことじゃない。何かしようにも何もできないのさ」
「それもそうか。じゃあ俺は行くけど、変な気は起こすなよ?」
「はいはい分かってますよ。行ってらっしゃい」
デニスはヒラヒラと手を振り、遊矢を見送る。
――ガチャリ、と鍵の音。これで自力での脱出は不可能となった。
遊矢の足音が聞こえなくなった後、デニスは窓越しに空を眺める。
デニス・マックフィールドの実力は本物だ。オベリスク・フォースなどよりもよほど戦力として期待できる。よって間違いなく、融合次元の誰かがデニスを助けに来るだろう。デニスの脱出は半ば確定した事項なのだ。
問題はその後。脱出するということは、ランサーズと敵対するということでもある。
「……あーあ。余計なことしなきゃよかったなぁ」
デニスの心には、迷いが生じつつあった。
スターヴ・ヴェノムの効果はよ! エースモンスターの効果さえ判明すれば、デュエルが書ける!