過去最速の執筆速度だった気がする……。
※注意、完全オリカあり↓
◆
《RUM-リベリオン・フォース》
通常魔法
「RUM-リベリオン・フォース」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを特殊召喚できない。
(1).自分の墓地の一番ランクが高いXモンスター一体を対象として発動できる。そのモンスターをX召喚扱いとして特殊召喚し、そのモンスターのランクと同じ数値のレベルのモンスターを自分フィールドから2体以上選び、対象のXモンスターの下に重ねてX素材とする。
(2).(1)の効果でXモンスターを召喚した時発動する。(1)の効果で特殊召喚したモンスターと同じ種族・属性でランクが3つ高いモンスター一体を対象モンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
◆
……はいそうです。手軽に覇王黒竜を出させるためのご都合カードです。
気が付くと榊遊矢は、巨大都市の中心にいた。
舞網市ともネオ童実野シティとも違う異質な場所。丸みを帯びた建物と多くのスポットライト。中心には都市のシンボルといえる巨大なタワー。
この世界に遊矢は見覚えがあった。シンクロ次元に来る前に赤馬零児と戦ったアクション・フィールド。
――未来都市“ハートランド”。それがこの街の名前である。
「どうしてハートランドに……」
「俺が呼んだんだ」
「え――?」
どこからともなく声が聞こえ、遊矢は振り返る。
紫髪の少年。髪型こそ違えど、顔の造形は遊矢と殆ど同じ。何も知らない人が見れば、ドッペルゲンガーの類だと勘違いするだろう。
「ユート……?」
「ああ。こうしてお前と話すのは初めてだな」
「どうしてお前がここに……? いや、そもそも、ここは何処なんだ?」
「遊矢は見覚えがあるだろう? ここは未来都市ハートランド。お前が赤馬零児とデュエルした場所。そして……俺と隼の故郷だ」
「故郷……? あっ――」
瞬間、世界は暗転する。光に満ちていた未来都市は、廃墟へと姿を変えた。
「……これって」
「これが今のハートランド……エクシーズ次元だ」
ぐるり、と遊矢は周囲を見渡した。
ついさっきまで確認できた生活の跡は最早ない。空は雲で覆われ、太陽の明かりさえも届かない。
「――非道い」
「ああ。全ては融合次元……オベリスク・フォースが来てからだった。
この街で平和に暮らしていた俺達は、突如奴等に襲われた。大人も子供も関係ない。融合次元は徒党を組み、遊びのように俺達を狩り続けた。
だから俺達は、エクシーズ次元の強い
「今も? けど、あいつらは一度スタンダード次元に来たはずだろ?」
「融合次元の組織力はあんなものじゃない。その気になればエクシーズ次元とスタンダード次元、両方に攻め込めるだけの人員がいる」
「そんなに沢山……!?」
「一対一の
だがこれは、
悔しさのあまり、ユートは拳を握った。
込められた感情は――無念。大切なものを守れなかった後悔の塊。
そして同様に、炎のように燃え盛る怒りがあった。
「……戦争、か」
「遊矢。バトル・シティでお前は、オベリスク・フォースのデュエルを見たはずだ」
「ああ。遊星さんが戦ってたな」
遊矢は既に見ていた。柚子と共に。ユートと共に。
バトル・シティの参加者であのデュエルを知らない者はいないだろう。
優勝候補NO.1のDホイーラー、不動遊星。彼のエースモンスター《スターダスト・ドラゴン》が初めて召喚された試合だったからだ。
「きっと隼もあのデュエルを見ていたはずだ。だから、俺はもう一度隼に会う。
遊矢、一度だけでいい。俺に身体を貸してくれ」
「身体を?」
「ああ。姿まで変えることはできないが、隼なら俺だと分かってくれるはずだ」
「……黒咲と会って、どうするつもりなんだ」
「決まっている。これから始まる戦争に備えて、準備を整える」
「準備を整えて、それでどうするんだ」
「……遊矢?」
彼は、不動遊星とオベリスク・フォースのデュエルを思い出していた。
印象的な仮面と融合召喚。挑発的な態度。確かにあの男は、スタンダード次元にやってきたオベリスク・フォース達と似ていた。
――だが同時に、遊矢は違和感も感じていた。
あの試合でのオベリスク・フォースは、デュエルを“狩り”ではなく“強者との戦い”として楽しんでいたのではないのか――と。
「……ユート。お前には遊星さんと戦っていた男が……オベリスク・フォースが敵に見えたのか?」
「当然だ。オベリスク・フォースはエクシーズ次元を滅ぼした俺達の敵だ。
あの悲劇を二度と繰り返させるわけにはいかない。レジスタンスの仲間はいないが、今はランサーズがいる。今度は準備を整えて、奴等を――オベリスク・フォース、を――」
「ユート……?」
ドクン、と禍々しい鼓動。
それはユートを中心に空間全体を震わせ、身体を共有している遊矢も感じ取れた。
「っ――!?」
ユートは胸――心臓を押さえ、苦しみだす。
鼓動はより早く。廃墟と化したハートランドは、蜃気楼のように揺らぎ始めた。
「なんだこれ……ユート、大丈夫か!?」
あからさまな異常を感じ、遊矢がユートの元へ駆け寄った、その時。
『――オベリスク・フォースを、殲滅する』
「え?」
ユートの瞳が鈍く光る。さながら刃の如く。
その眼力に、遊矢は思わず足を止めた。
――覚えている。スタンダード次元でユートとユーゴがデュエルをした、あの時の目。我を失い、暴走し、ユートと同化するきっかけとなった姿。
「寄越せ。その身体を」
「ユート……?」
「寄越せと言っている!」
ユートが地面を踏みしめた瞬間、黒い衝撃波が遊矢を弾き飛ばした。
虚ろだったユートの瞳に、禍々しい光が灯る。
破壊を楽しむ覇王の眼。オベリスク・フォースなどより、よほど凶悪で危険な力。
「っ……ユー、ト?」
「デュエルだ、遊矢。俺が勝てばその身体を貰う」
「デュエルだって……!? おい、どうしたんだユート!」
「どうもしていない。じき、シンクロ次元にもオベリスク・フォースが襲来する。奴等を俺に殲滅させろと言っているんだ」
「殲滅……!? 何を言ってるんだ! どうしてお前がそんなこと――」
「心配しなくていい。俺の敵は融合次元だけだ。柊柚子にも、不動遊星にも手は出さない。それは約束する」
「そういうことを言ってるんじゃない! 本当にどうしたんだよユート……急に殲滅なんて、お前らしくないじゃないか!」
「これが俺の本性だ。融合次元に故郷を壊され、仲間はカードにされ……そして、瑠璃を攫われた。俺の心の中は、無念と憎しみで溢れかえっている」
「無念と、憎しみ……?」
「これが最後だ。遊矢、その身体を貸せ。断るのなら、力ずくで奪い取る」
その問答を最後に、ユートはデュエルディスクを展開した。
彼の瞳からは、普段は感じられない荒々しい狂気が感じられた。
全てを破壊するまで、その勢いは止まらない。オベリスク・フォースを殲滅しても、次の獲物を求めて彷徨うだけだろう。
「くっ――!」
遊矢もまた、決死の覚悟でディスクを構える。
彼とてみすみすユートに身体を渡す気はない。何より、今のユートの在り方は気に入らない。
「遊矢……何故拒む。お前達に危害を加えるつもりはない」
「決まってるだろ。
ユート。お前がどれほど融合次元を憎んでいるかは知らない。それでも、確実に言えることが一つだけある。
怒り。憎しみ。そんな力は間違ってる! ましてや殲滅なんて、考えるまでもない!」
「――いいだろう。ならば押し通るまで。行くぞ!」
「「
◆
ユート
LP:4000
遊矢
LP:4000
「先行は貰う! 俺は《
《
星3/闇属性/戦士族/攻 800/守1000
誇りを被った漆黒のローブに、怨念の魂が宿る。
《
「自分フィールドに《
《
星3/闇属性/戦士族/攻 200/守1200
ボロボロになったブーツに霊魂が宿り、意思を持って動き出す。
――レベル3モンスターが二体。ユートのデッキは、同レベルモンスターが複数揃った状況でこそ真価を発揮する。
「俺は、レベル3のダスティローブと、サイレントブーツでオーバーレイ!
戦場に倒れし騎士たちの魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!
――エクシーズ召喚! 現れろ、ランク3! 《
《
ランク3/闇属性/戦士族/攻2000/守1000
切っ先が欠けた大剣を黒い鎧のケンタウロスが背負う。
肉体は既にない。成仏できない霊が、欠けた武具に取り憑いているかのようだ。
「カードを二枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン! 俺はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
遊矢の両サイドに二体の《魔術師》が並び、天空へ浮上する。
暗闇がかった空に、ペンデュラムの光が灯った。
ユートがエクシーズならば、遊矢はペンデュラム。各々、自分の得意とする召喚法を武器に立ち向かおうとする。
「甘い」
「何……?」
――けれど、今回ばかりはユートが一枚上。
「速攻魔法《ツインツイスター》! 手札を一枚墓地に送り、
二つの竜巻が二体の魔術師を葬る。空に描かれた光は消え、再びハートランドは雲に覆われた。
「ペンデュラム召喚。二体以上の上級モンスターを同時に呼べる召喚法。だがその弱点は、召喚の際に必要なスケールが無防備になること。
遊矢、お前の戦術は誰よりも俺が知っている。お前に俺は倒せない」
「っ……そんなのは、やってみなきゃ分からない! 俺は《
《
星4/地属性/獣族/攻1600/守1200
遊矢の場に小型の牛モンスターが召喚される。
ロングホーンとロングフォン。尻尾はコンセントとなっており、頭よりも大きな受話器が角替わりとなっている。
「そして、《
《
星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200
続いて召喚されたのは、受話器と杖を持ったプリンセス。
これで遊矢のフィールドには、レベル4モンスターが二体。下準備は整ったといえるだろう。
……もしこれが、普段の彼のデュエルだったなら。
「レベル4のモンスターが二体。ダーク・リベリオンを召喚するつもりか」
「そうだ、ユート。お前のドラゴンの力で、目を覚まさせてやる!」
「残念だが、それは叶わないな」
「何!?」
「エクストラデッキをよく見ろ」
「え……?」
ユートに言われるがまま、遊矢は自身のエクストラデッキを確認した。
先ほど破壊された《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》。数体の融合、シンクロモンスター。
――それだけだった。その中には、ダーク・リベリオンが入っていない。
「ダーク・リベリオンが――ない?」
「忘れたのか。ダーク・リベリオンは元々俺のドラゴンだ。お前には使いこなせない」
「っ……!」
遊矢は勘違いしていた。何度も使う内にダーク・リベリオン、ひいてはユートのことを、新しい相棒だと思っていたのだ。
――この程度の怒りすら、共感できないのに。
「……俺は、カードを一枚伏せてターンエンド」
「俺のターン! それほど会いたいのなら会わせてやる。お前が望むドラゴンに。
《
星4/闇属性/戦士族/攻 0/守 300
「そして、《
《
星4/闇属性/戦士族/攻1000/守2000
二種類の鎧が出現し、亡霊が宿る。
これらは素材。次なる一手、竜のための贄だ。
「行くぞ遊矢! レベル4のシェード・ブリガンダインと、フラジャイルアーマーでオーバーレイ!
漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ!
――エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
鋼の翼、顎には逆鱗の牙。ユートのエースモンスターたる漆黒の竜が降臨した。
鈍い眼光が遊矢を捉える。仲間だった時はあれほど頼もしかったはずなのに――今の遊矢には、とても恐ろしく見えた。
「ダーク・リベリオンのモンスター効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ使い、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その攻撃力をダーク・リベリオンに加える! “トリーズン・ディスチャージ”!」
竜の翼から雷撃が発せられ、ロングフォーン・ブルは絶叫する。
攻撃と吸収。弱者から力を搾取し、反逆の牙は更なる力を得る。
《
攻1600 → 攻800
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
攻2500 → 攻3300
「ロングフォーン・ブル……!」
「バトルだ! まずはブレイクソードで、ヘルプリンセスを攻撃!」
一刀両断。欠けているにも関わらず、ブレイクソードの大剣はヘルプリンセスを切り裂いた。
遊矢のライフが削られる。そして――
遊矢
LP:4000 → LP:3200
――まだ、本命が残っている。
「くっ――!!」
「行け、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》! 《
紫電を纏った竜のアギトがロングフォーン・ブルを貫く。
その勢いを殺しきれず、遊矢は玩具のように吹き飛ばされた。
遊矢
LP:3200 → LP:700
「ぐ――がは……!」
地面に背中を打ち付け、肺に溜まった空気が吐き出される。
だが――身体に激痛を受けながらも、遊矢の頭はひどく冷静だった。
この牙はユートの魂そのもの。一見冷静に見えるその裏側には、オベリスク・フォースに対する怒りで溢れている。
「これで分かっただろう、遊矢。お前では俺には勝てない。用が終われば体は返す。これ以上お前を傷つけるのは、俺の本意ではない」
「……そうやって、俺を揺さぶって……っ、身体を、乗っ取ろうって考えてるんだろ? オベリスク・フォースを殲滅するために」
「襲われたから反逆する。それの何が悪い」
「悪いに決まってるだろ! そんなことしてたら、いつまで経っても終わらない!
憎しみは更なる憎しみを呼ぶ。どちらかが完全に滅ぶまで、争いは決して止まらないんだ!」
「戦いとは、戦争とはそういうものだ。俺達レジスタンスはいつか融合次元を侵略し、殲滅する。そして必ず、この手に瑠璃を連れ戻す!」
「どうしてそこまで殲滅にこだわるんだ! 瑠璃を連れ戻すなら、それだけで十分だろう!」
「それだけでは意味がない。何故ならお前の言ったとおり、いつまで経っても終わらないからだ。一度奪い返したところで、奴等はまた襲ってくる。瑠璃を攫うために。だから、完膚なきまでに滅ぼさなければならない」
「……なんだよ、それ。そんなの、ユートらしくない。
お前はそのドラゴンを俺に託した時、言ってくれただろう? “デュエルで皆に笑顔を”って。あの時のお前は何処に行ったんだよ!」
「あれは俺が忘れた夢だ。オベリスク・フォースに襲われる前、ハートランドで目指していた俺のデュエル。
……そうだ。俺もまた、ある意味でのエンタメを目指していたんだ。俺のデュエルで、誰かを笑顔にできたらと。
だが、それは不可能だった。オベリスク・フォースの存在が何よりの証明! いつだってこの世の何処かには、滅ぼすべき悪が存在する! 奴等を倒さない限り、エクシーズ次元に笑顔は訪れない!」
「――そうか。分かったよ、ユート」
ユートの言は正しいように見える。いや実際、世間一般的には正しいのかもしれない。人間の悪性はどうあってもなくなることはない。それこそ、人類がまるごと滅ばない限りは。
“やられたらやり返す”。どちらかが折れるまで連鎖は終わらない。これを断ち切るには、全く無関係の第三者が止めに入るしかない。
第三者――ああ、それならここにいる。遊矢は覚悟を新たに、ユートの前に立ち塞がった。
「だったら、俺が思い出させてやる。デュエルに秘められた可能性ってやつを!」
「……結局はこうなるか。
デュエルを続行する。俺はこれでターンエンド」
「俺のターン!
《
星4/地属性/獣族/攻1600/守1200
「この瞬間、ロングフォーン・ブルの効果発動! 特殊召喚に成功した時、デッキからペンデュラムモンスター以外の《
「ペンデュラム以外だと?」
「そうだ! これにより、《
ユートは眉を潜める。彼のデッキがエクシーズならば、遊矢のデッキはペンデュラム。仮にエクシーズが使えなくなったとしても、軸となる部分は変わらないはずなのだ。
「“何をする気か分からない”……そう言いたそうだな、ユート」
「……そうだな。俺にはお前が何を考えているのか、全く分からない」
――何故俺を遮るのか。それがユートの疑問だった。
遊矢とユートは同化している。ユートの中の憎しみなど、わざわざ口にしなくても分かっているはずなのだ。
大切なものを奪われる苦しさと虚しさ。胸にぽっかり空いた穴の空虚さ。そこから湧き上がる憎しみ。そして、それをぶつけていい相手がいる。
そこまで理解した上でなお、遊矢はユートの前に立っている――。
「スライハンド・マジシャンは、ペンデュラムモンスター以外の《
ロングフォーン・ブルをリリース! 現れろ、《
遊矢のフィールドに人間大のクリスタルが現れ、赤い衣装がそれを包み込む。
ただの結晶に過ぎなかったそれは、みるみるうちに人間を象っていく。
――結晶の下半身と、手品師の上半身。スライハンド・マジシャンは杖を構え、黒竜・黒騎士と相対する。
《
星7/光属性/魔法使い族/攻2500/守2000
「攻撃力2500。それで倒せるのはブレイクソードまでだ。ダーク・リベリオンには届かない」
「いーや、お楽しみはこれからさ。ここで、スライハンド・マジシャンの効果発動! 一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、表側表示のカードを一枚破壊する!
これにより、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を破壊する!」
「何っ……!」
スライハンド・マジシャンが指を鳴らした瞬間、竜の全身が赤い布に包まれた。
竜は抵抗するが、布は破れない。最後に手品師が杖を振ると、竜は布ごと粒子となって砕け散った。
「ダーク・リベリオンが破壊されただと……!」
「まだ俺のターンは終わっていない! 行け、スライハンド・マジシャン! ブレイクソードを攻撃!」
手品師の杖から光弾が放たれ、黒騎士が破壊される。
最後の一体がやられ、ユートのエクシーズモンスターは全滅。ライフこそ差はあれど、遊矢はこの一ターンで戦況をひっくり返したのだ。
ユート
LP:4000 → LP:3500
「くっ……この瞬間、ブレイクソードの効果発動! エクシーズ召喚されたこのモンスターが破壊された時、墓地から同レベルの《
ダスティローブ、サイレントブーツを特殊召喚!」
《
星3/闇属性/戦士族/攻 800/守1000
《
星3/闇属性/戦士族/攻 200/守1200
「ブレイクソードの効果で特殊召喚された二体は、レベルが一つ上がる!」
《
星3 → 星4
《
星3 → 星4
《
しかし、肝心のドラゴンは既に墓地だ。準備は整っても本命がいない。
「ユート、これがデュエルの可能性だ。どんなに絶望的な状況でも、たった一枚のカードで変えられる。俺はこの力で、皆を笑顔にしてみせる。
スタンダード次元の皆は勿論、シンクロ次元も、エクシーズ次元も……そして、融合次元もだ」
「融合次元も、だと?」
「そうだ。俺はランサーズの一員としてオベリスク・フォースと戦う。だけど、それは殲滅するためじゃない。争いを止めるために……皆を笑顔にするために、俺は戦うんだ」
「……お前は、本気でそう思っているのか? ジャック・アトラスと戦ったお前なら気づいているはずだ。そんなこと、できるはずがないと」
皆を笑顔にすることなど、できるはずがない。
仮に融合次元が侵略を止め、四つの次元が平和になったとしても、やはり恨みは残る。
恨みは更なる恨みを作り、やがて争いへ発展する。これを収めても、残された恨みが再び争いを作る。
絶対に終わらない無限地獄。争いの根絶は不可能なのだ。それはジャック・アトラスとて同じ。表に出てこないだけで、彼を恨む人間は山のようにいる。
つまるところ――誰かを笑顔にしたいのなら、取捨選択は逃れられない。
「……分かってる。そんなことは」
「なんだと――?」
遊矢は、胸を張ってユートを――その奥にいる
「……どうしてそこまで笑顔にこだわる。どうしてそこまで誰かを救おうとする」
「別に、大した理由じゃない。
……俺は昔、父さんのことで苛められててさ。その度にイヤってほど泣かされて――その度に、色んな人に助けられたんだ。だから、俺もそうしたいだけ。
誰かの涙を拭くことができる。それって、凄くカッコイイと思わないか?」
『――笑わせる。独善的にも程がある。誰かを笑顔にする自分が可愛い。遊矢、お前はそう言ってるんだぞ』
「そうだな、大体合ってるよ。けど、それって悪いことじゃないだろ?
皆幸せそうに笑っていて、それ以上に俺が一番笑う。それこそが、俺が目指すエンターテイメントだ。
――だから失せろ。もう二度と、お前に身体は渡さない」
『何っ――!?』
ユートに乗り移った“誰か”が後ずさりした。
その様子を見て遊矢は確信する。目の前にいるこの少年は、ユート本人ではないことを。
『貴様……』
「ミエルが言ってたよ。俺の中には、ユートの他にもう一人誰かがいるって。
……ユートに何したんだ。あいつは普段、ここまで怒りを露わにしない」
『そこまで大層なことはしていない。オベリスク・フォースを見て燻り始めた“怒り”に薪を入れただけだ』
「ユートを操ってデュエルさせて、俺の身体を乗っ取ろうとしたのか」
『操る? 違うな。この怒り自体はこの男のもの。我は背中を押しただけに過ぎん』
「なんでもいいよ。とにかくユートから離れてくれ。俺はお前に身体を渡す気はない」
『それは断る。まだデュエルは終わっていない。我を剥がしたいのならば、それだけの力を示してみろ』
「そうか……ならこのデュエルで、俺がお前を追い払ってやる! ターンエンドだ!」
「――俺の、ターン!」
ドローフェイズ。ユートの引いたカードが漆黒に染まった。
憎しみや怒り。そういった負の感情から生まれた暴力の結晶。ユートのデッキに元から入っていたのか、それとも乗り移った“誰か”に仕組まれたカードなのかは不明だ。
だが、それが如何に凶悪なモノか、相対する遊矢は感じることができた。
「俺は《
「墓地からエクシーズ召喚だって!?」
「俺は、レベル4となったダスティローブと、サイレントブーツでオーバーレイ!
漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今降臨せよ!
――エクシーズ召喚! 復活せよ、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
墓場より逆鱗の竜が蘇生する。
だが、《
――オーバーレイネットワークの再構築。上空に暗い渦が現れ、召喚されたダーク・リベリオンがその中心へ向かう。
「なんだ……!?」
「リベリオン・フォースの効果発動! この効果で特殊召喚したエクシーズモンスターを、さらにランクが三つ高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!
俺は《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で、再びオーバーレイ!」
ランクアップ。それはエクシーズ召喚の第二ステージ。黒竜は姿を変え、逆鱗の牙はさらに研ぎ澄まされる。
「二色の眼の龍よ! その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!
ランクアップ、エクシーズチェンジ! いでよ、ランク7! 怒りの
《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》
ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
機械的な八つの翼。下顎から伸びる一対の牙。そして二色の眼――オッドアイ。
ダーク・リベリオンよりも一回り、二回りも大きい黒竜が、ユートの元に降り立った。
「覇王、黒竜――」
肌を刺す圧力が遊矢を襲う。
かつては従えた怒りの竜。それが今は敵としてそびえ立ち、遊矢の全てを奪おうとしている。
「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの効果発動! エクシーズモンスターを素材として召喚した時、相手フィールドのレベル7以下のモンスターを全て破壊し、一体につき1000ポイントのダメージを与える!
全てを壊せ! “オーバーロード・ハウリング”!」
「くっ――カウンター
黒龍が咆哮し、揺らいでいたハートランドの景色がかき消される。
遊矢とスライハンド・マジシャンの周囲に
――そして、残されたのは闇。足場さえ不確かな暗黒の世界だった。
「……《ダメージ・ポラリライザー》の効果で、互いのプレイヤーは一枚ドローする」
「凌いだか。だが、その手品師には消えてもらう。
行け、《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》! 《
地面を抉りながら突進し、逆鱗がスライハンド・マジシャンを刺し貫いた。
その巨体に押され、遊矢は再び吹き飛ばされる。不確かな地面を激しく転がり、そして沈んでいく。
遊矢
LP:700 → LP:200
「ターンエンド。
……諦めろ。ここでお前を消すのは、
「――――だ」
「何?」
暴力の一撃を受け、傷つき、追い込まれた。
――それでも、遊矢は立つ。
ふらつきながらも、手を付きながらも、無様に立ち上がろうとする。
「……まだだ。まだ、デュエルは終わっていない」
「終わっている。今のお前に勝利はない。初めから分かっていたことだ」
「分からないさ。だってこれは、デュエルなんだから」
最後の一息。歯を食いしばり、腹に力を入れて、地面を踏みしめて――長い時間をかけて、ようやく立ち上がった。
体力も精神も既に限界だ。それでも立つのは遊矢の意地。自分が信じるデュエルを貫くためだ。
「……俺の、ターン」
遊矢はデッキの上に指を置く。
フィールドにカードはなく、手札は残り一枚――《ダメージ・ポラリライザー》でドローしたペンデュラムモンスター、《
スケール6、レベル1の弱小モンスター。とても覇王黒竜には太刀打ちできない。
「
「しない。
……見てろ。このドローで、俺の劣勢を変えてやる」
「ならば仕方がない。お前を一度ここで倒し、その後は心の奥底で眠りについてもらう。明日からは、俺が榊遊矢を演じよう」
「それはどうかな……お楽しみは、これからだ。
俺のターン、ドロー!」
――引いたカードは《
こちらもレベル1だが、スケールは8。これで遊矢はもう一度チャンスを得た。
「俺は、スケール6の《
左にはギターと
右には二色の眼を持つ小さな幻獣。
その中心にはペンデュラムの光。光はまるで太陽のように、闇に覆われた世界を照らし出す。
「これで、レベル7のモンスターが同時に召喚可能!」
「だが、今のお前の手札はゼロ。エクストラデッキにはレベル3、レベル5の《魔術師》のみ。条件は揃っても、召喚できるモンスターはいない!」
「いや! ここでギタートルのペンデュラム効果を発動! 対となるペンデュラムゾーンに《
……俺は、このドローに全てをかける!」
「レベル7のモンスター……あのドラゴンを引き当てるつもりか」
「ああ。お前だけには、絶対に負けるわけにはいかない」
覇王黒竜の力は、ほかならぬ遊矢自身が生み出した力だ。
だからこそ誰よりも、彼自身がそれを否定する。
「ッ……ドロー!」
祈りと想いを込めて、遊矢はカードを引く。
――それは、もしかしたら必然だったのかもしれない。
「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」
振り子が揺れる。
光の軌道は楕円を描き、召喚ゲートを穿つ。
「ペンデュラム召喚! いでよ、雄々しくも美しく輝く二色の眼! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
天空より一体の竜が現れる。
赤と緑のオッドアイ。赤い体色。覇王黒竜と違って翼はなく、空も飛べない。
それでも榊遊矢にとってこれ以上ない味方であり、長い間共に戦ってきた相棒だった。
「やはりエースモンスターを引き当てたか……!」
「ここで、墓地から
「何!?
……そうか、あの時の――!」
数ターン前の光景がフラッシュバックする。手札を一枚墓地に送り、ダーク・リベリオンを破壊したあの瞬間を。
「そうだ。これはスライハンド・マジシャンの効果で墓地に送ったカード。これでオッドアイズの攻撃力は、覇王黒竜を上回る!」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》
攻2500 → 攻3300
「くっ……遊矢ァ――!」
「よく聞けユート! いや、もう一人の俺。確かにユートが抱える憎しみは大きい。
だが同時に、それらは脆い! そんなものいくら束ねたって、この俺を倒すことはできない! それを覚えておけ!」
竜の瞳が標的を定める。
打破すべきは心の闇。かつては呑まれた負の化身を、今度は真っ向から立ち向かう――!
「行け、オッドアイズ! 怒りの化身、覇王黒竜を打ち破れ!
“螺旋のストライク・バースト”ォ――!!」
オッドアイズが渾身のブレスを放つ。
螺旋を描く紅のブレスは巨大な胴を貫き、覇王黒竜を見事撃破した――
――その景色を最後に、遊矢の意識は暗転した。
◆
次に彼が目を覚ましたのは、自分に与えられた選手用の控え室だった。
榊遊矢はジャック・アトラスとのエキシビション・マッチのために呼ばれた特別な選手だ。その待遇に見合った豪華な部屋があらかじめ用意されている。
一人で使うには大きすぎるベッド。遊矢が横になっているその隣で、柚子は不安げに彼の顔を覗き込んでいた。
「遊矢。大丈夫?」
「柚子……なんでここに」
「覚えてない? 昨日、遊矢がこの部屋に誘ったんだよ。一人で使うには広いからって」
「……そう、だっけ」
目眩を覚えつつ、遊矢は起き上がる。
「っ――」
吐き気と頭痛。
強烈な疲労が遊矢の全身を襲った。よく見ると全身汗まみれで、顔色も悪い。体調は絶不調と言っていいだろう。
「大丈夫? 遊矢、寝てる時すごくうなされてたよ。それにブレスレットも光りだして……私、少し怖かった」
「ああ……いや、心配ないよ。ちょっと夢を見てただけだから」
遊矢はもう一度ベッドに倒れこむ。
まだ時間は早い。もう少し眠りについても許されるだろう。
「遊矢?」
柚子にとって、そんな遊矢の表情が不思議でならなかった。
見るからに疲労困憊……けれど、少しだけ笑っていた。
「少し疲れた。俺はもう一回寝るよ、柚子。今度はいい夢が見れそうだ」
「……そっか。おやすみ、遊矢」
「汗まみれ(意味深)」とか一瞬でも考えた奴をデュエルで拘束せよ!
※2016.03.10
……実はユートが本気なら3ターン目で遊矢負けてるんだよね(後で気づいた)
1.ブレイクソードの効果でブレイクソード自身とヘルプリンセスを破壊。
2.ブレイクソードの効果でファントムナイツ二体召喚、二体を素材にダベリオンX召喚。ロングフォーン・ブルにトリーズン・ディスチャージ。
3.ダベリオンでロングフォーン・ブル攻撃(2500)、クラックヘルムでダイレクトアタック(1500)でジャスト4000。
……実はこれ、もう一人の遊矢(仮)がユートを完全に操りきれてなくて、ついプレイングが雑になってしまったのだ(後付け)
2016.03.11.デュエル修正。