アーク・ファイブ・ディーズ   作:YASUT

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ARC-V本編でようやく《スマイル・ワールド》について触れてくれたので滾った。続かないと言ったな、あれは嘘だ。
……ごめんやっぱ続かない。とりあえず途中だったものを仕上げただけ。いつぞや書きなぐったメモとは思いっきり違うけど許せ。


※《Sp(スピードスペル)》関連、《B・F(ビー・フォース)》関連、(アクション)カードなど、オリカが何枚も登場します。アニメ通りではないカードもあります。耐性ない方はバック推奨。

※デュエル内容修正。主にライフ計算と降魔弓のハマ。大したミスじゃなくてよかった……。ハマの修正に従って演出も若干変更しました。


バトル・シティ編
初陣! エンタメ・タッグ爆誕!


 

「……やっぱり凄い。この人達、全員がフレンドシップ・カップの参加者なのね」

 

 熱気に塗れた人混みの中で、柊柚子は呟いた。

 ライディング・デュエル用のコースには色とりどりのD・ホイールがずらっと並び、D・ホイーラー達はというと、バトル・シティ開幕までの時間を各々自由に過ごしていた。

 といっても全く緩やかな雰囲気ではなく、ガラの悪そうな連中があちこちでメンチを切っている。

 

「なんとなく分かってはいたけど、舞網チャンピオン・シップとは別物ね。全体的にピリピリしてる……?」

「そうだな。もしかしたらライディング・デュエルとアクション・デュエルの違いが、こういうところにも出てるのかもな」

 

 遊矢は自分のD・ホイールを触りながら、軽くイメージする。

 デュエルで皆を笑顔にする。言葉にすると簡単に聞こえるが、実際は尋常ならざる難易度だ。強いだけでは達成できない。勝つだけでは達成できない。

 いやそもそも、この次元の決闘者(デュエリスト)相手に勝てるのかさえ分からない。

 何しろ遊矢自身、ライディング・デュエルは初心者だ。同じような参加者は数多くいるが、この大会にはジャックとの対戦目当てで参加したベテランD・ホイーラーも紛れ込んでいる。

 

「ライディング・デュエル……か」

 

 対して柚子は、桃色のD・ホイールを不安そうに撫でた。彼女にはライディング・デュエルの経験が一切ない。この次元に迷い込んでからは遊矢そっくりの人物“ユーゴ”と行動を共にしていたが、彼女自身がライディング・デュエルをすることはなかった。遊矢と違って柚子は、ぶっつけ本番でやるしかないのだ。

 ならばと、遊矢は柚子の手を握って提案した。

 

「柚子。最初のデュエルは俺と一緒にやらないか? その方が経験も積めるし、緊張も少しは誤魔化せるだろ?」

「一緒に? 私と遊矢が?」

「ああ。名付けて、“タッグ・ライディング・エンタメ・デュエル”だ! ……あれ、ちょっと長いかな?」

「でも、遊矢だってまだ経験浅いでしょ? 私がいたら足手まといに……」

「その時はその時さ。一定以上の成績を出せば勝ち上がれるんだから、一回くらいは負けても大丈夫だよ」

「そうなの? でもこの大会、タッグ・デュエルなんてできるのかな」

 

「その点は心配いらねーぞ。この大会は比較的自由度が高いからな。タッグは勿論、変則バトル・ロイヤルだってできる」

 

 柚子の問いに答えたのは別の男だった。

 黒いヘルメットを脇に抱え、茶色のライディングスーツ。顔にはイタズラでもされたのか、文字のような、あるいは模様のようなラインがこれでもとか刻まれている。

 二人は知っていた。それは“マーカー”と呼ばれる印であり、犯罪者の刻印であることを。不動遊星にもマーカーはあったが、ここまでひどくはなかった。一体何をしたらここまでマーカーまみれになるのかは、この次元の人間でも分からない。

 柚子は警戒心をむき出しにして、遊矢の後ろに下がった。

 

「遊矢、この人……」

「大丈夫だ、柚子」

「え?」

 

 ただ、遊矢は知っていた。

 ガレージに飾ってあった一枚の写真。それに不動遊星、ジャック・アトラスと共に写っていた人物であると。

 

「えっと……もしかして、不動遊星さんと知り合いの方ですか?」

「おお、よく分かったな! 俺はクロウ(・・・)。クロウ・ホーガンだ。お前、エキシビション・マッチでジャックとデュエルしたやつだよな。

 名前は……榊遊矢だったな。となると、もしかして後ろのが柊柚子か?」

「え? 柚子のこと、知ってるんですか?」

「まあな。事のあらましは遊星から聞いてるぜ。随分と大変だったらしいが……ま、再会できてよかったじゃねえか」

「はい。遊星さんには色々とお世話になりっぱなしです」

「らしいな。ならお礼は、そのD・ホイールとデッキで払ってもらおうか」

「……デュエル、ですか?」

「ああ。折角だ、二人まとめて相手してやるよ」

「え――っ」

 

 通常、デュエルは一対一か二対二で行われる。それはライディング、アクションを問わず同様である。

 だからこそ、クロウの発言は二人を驚かせるものだった。一対二では、どうしてもアドバンテージに差が出来てしまう。バトル・ロイヤル形式でもタッグ・フォース形式でも、一人の方が圧倒的に不利なのだ。

 

「本当にいいんですか?」

「お前ら、どっちもライディング・デュエルは初心者だろ? だったら問題はねえさ。このクロウ様に任せとけ」

「――いいわけないだろ。何言ってんだお前は」

 

 また一人、クロウの後ろから人が駆けつけた。

 長身の男だった。寒色系のライディング・スーツを着込み、脇には黄土色のヘルメットを抱えている。

 

「シンジ。お前もこのエリアに来てたのか」

「偶然だと思うけどな。で、クロウ。お前いきなり浮気か? 一戦目は俺とやるって言ってただろ」

「悪ぃ。けど、エキシビションであんな試合見せられちゃ、今のうちにやるしかねえと思ってな」

「だとしても一対二は無理だ。ルールブック読んでねえのかよ」

「前回の時はできただろ? 乱入にバトル・ロイヤル、なんでもありだったじゃねえか」

「そのシステムだと、徒党を組んで乱入を繰り返せば相手にターンを回さず勝ててしまうからな。それで問題になって、今回は禁止になったんだよ。できるのは通常のライディング・デュエルと、“タッグ・フォース”ルールのデュエルだけ。どうしてもやりたいなら、その辺のセキュリティに申請して許可を貰わないとな」

「はぁ!? マジかよ……どうせ申請なんかしたとこで、許可なんて貰えねえだろうしなぁ」

「……えっと」

 

 クロウとシンジの会話について行けず、遊矢と柚子は沈黙する。

 どちらも成り行きで参加することになったため、詳しいルールまでは把握していなかったようだ。

 

「遊矢、どうする? 一対二は無理だって」

「そうだったのか……じゃあ、仕方ないな」

 

 遊矢は腹を括り、クロウとシンジに向き合った。

 柚子を一人にはしておけない。クロウとデュエルする。

 これらを同時に満たす方法は一つだけ。遊矢と柚子にとっては無謀極まりない提案だ。クロウ・ホーガンは以前、不動遊星、ジャック・アトラスと同じチームで活躍していた。実力は折り紙つきだ。

 それでも、もう一度ジャックとデュエルするためには、避けては通れない壁である。

 

「クロウさん、シンジさん。俺達とタッグ・デュエルをしましょう」

「えぇ!?」

 

 真っ先に反応したのはクロウでもシンジでもなく、柚子だった。

 

「ちょっと遊矢。本気なの?」

「ああ。確かに、いきなりこの人達を相手にするのは厳しいと思う。でも、試したいことがあるんだ。そしてそれは、お前とのタッグでしかできない。

 ……頼む、柚子」

「う……私じゃないと、駄目なの?」

「ああ。他には考えられない」

 

 言動は冗談レベルでぶっ飛んでいたが、遊矢の目は真剣そのものだった。

 柚子はその気迫に気圧され、泣く泣く承諾した――してしまった。

 クロウは、そんな遊矢を見てほくそ笑む。彼自身、こういう思考をする人間は嫌いではないのだ。

 

「どうやら冗談で言ってるわけじゃなさそうだな。

 遊矢。一応聞いておくが、俺達がどういうチームか知ってて言ってんだよな?」

「知ってるさ。クロウ・ホーガンとシンジ・ウェーバー。世界大会で活躍中のタッグ・チームだ」

「せ、世界大会!?」

 

 再び柚子は驚く。

 マーカーだらけのD・ホイーラーは実は大物で、その大物相手に遊矢が喧嘩を売っている……声を荒らげるのも無理はない。

 柚子はようやく遊矢の無謀さを理解する。初心者と世界レベルのベテラン。結果は初めから見えているようなものだ。

 

「そこまで知った上で俺達に挑むと? どう足掻いたところで、大人と子供の遊びにしかならねえと思うが?」

「それはどうかな。デュエルはそんな単純じゃない。少なくとも、俺はそう信じてる」

「――ははっ、違いねえ。そんじゃま、期待させてもらうぜ」

 

 クロウは踵を返し、シンジと共に自分のD・ホイールの場所へ戻っていった。

 面白い相手を見つけたと言わんばかりに、笑みを浮かべながら。

 ――かくして対戦相手は決定した。

 バトル・シティと化したこの街では、シティ全域でライディング・デュエルが行われる。これもまた、数十を超える戦いの一つに過ぎない。

 大きな意味を持つか、それとも平凡な一試合として終わるか。全ては彼ら次第である。

 

 

 

 ◆

 

 

 時計の針はチクタクと音を立て、時を進める。遅く、重く、けれど確かに。決して止まることなく、その瞬間は確実に近づいてくる。

 ――開始時刻。

 エキシビションマッチでも実況を勤めたリーゼントのMCが、マイクを片手に映像として現れた。

 

『現時刻をもって、この街は変貌する! 剣戟鳴り止まぬ決闘(デュエル)の都市、その名も“バトル・シティ”!

 ジャンクの海に眠る熱きD・ホイーラー達よ! 荒ぶる闘志を胸に秘め、頂きを超え、遥かなる(ソラ)を目指せ!

 さあ、開幕だ! アクションフィールドオン! 《スターライト・ジャンクション》!』

 

 ネオ童実野シティの上空にて、無数のカードが弾け飛んだ。

 街中の道路は全てデュエル専用のコースとなり、各地にカードが配置される。

 アクション・フィールドとスピード・ワールド。似て非なる二つの世界が混ざり合い、デュエルは新たな進化を遂げたのだ。

 

「アクション・フィールド? って、なんだ?」

「カードが散らばっていたな……何が始まるんだ?」

 

 突然の新システムに、参加者達は騒めき始めた。そんな彼らを他所に、もう一度MCの声が響き渡る。

 

『たった今上空にて弾けたのは、(アクション)カードと呼ばれる専用のカードだ! ネオ童実野シティ全域に配置されたそのカードは、デュエル中に拾って使用することができるぞ!

 ただし、リスクの高いカード、拾ってもすぐに使えないカードもあるから要注意だ!』

 

(アクション)カードなんて……どうしてシンクロ次元に……まさか」

 

 遊矢の脳裏に一人の人物が浮かぶ。

 ……赤馬零児。ランサーズの長にしてデュエルアカデミアのプロフェッサー・赤馬零王の息子。

 

「おい遊矢。今のは何だ? 何か知ってんのか?」

 

 クロウはDホイールに跨ったまま遊矢に尋ねる。遊矢は意味ありげに、どこまでも挑戦的に微笑んだ。

 

「今にわかるよ。ただ、退屈はさせない。俺達のデュエル、存分に見せてやる」

「……ほう、そいつは楽しみだ」

 

 遊矢・クロウを含む決闘者(デュエリスト)達は、Dホイールに自分のデッキをセットした。オートシャッフルが機動し、順番にカードが並べられる。

 

『デュエルの準備はいいかァー!!

 では行くぞぅ! フィールド魔法《スピード・ワールド・ネオ》! セットオン!』

 

 全てのDホイールが機動し、オートパイロットモードに入った。同時にスタジアムのコースが変形し、枝分かれする。

 参加者のDホイールには予め走るコースがインプットされている。例えばAブロックの決闘者(デュエリスト)はAコース。Bブロックの決闘者(デュエリスト)はBコース、といった具合にだ。

 ――カウントが始まる。

 

「柚子」

「?」

 

 直前、遊矢は柚子に呼びかけた。

 

「楽しいデュエルにしよう」

 

 遊矢は笑っていた。苦悩と使命、それら全てを抱えた上で。

 

「ええ」

 

 既に言葉は要らない。彼ら決闘者(デュエリスト)はカードで語る。

 ――零。

 幕は上がる。眠らない街は修羅の街へ。Dホイーラー達は、見果てぬ未来(さき)へと(はし)り出した。

 

 

『ライディング・デュエル、アクセラレーション!』

 

 

 ◆

 

 

 四台のDホイールがコースを駆ける。先頭は黒と赤の二台。その後ろを黄土色、桃色が追随する。

 

「っ――くそ、このスピードでまだ抜けないのか!」

「これが経験の差ってやつだ! ついこの前始めたばっかの新米Dホイーラーが、このクロウ様を抜けると思うなよ!」

 

 その瞬間、黒は赤を追い抜き、コーナーを曲がった。

 ライディング・デュエルのルールにより、第一コーナーを取ったクロウ・シンジが先行となる。

 

「俺のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:1

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:1

 

「《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》を召喚!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》

 星4/闇属性/鳥獣族/攻1700/守 800

 

「そして、自分の場に他のBF(ブラックフェザー)がいる時、このモンスターは特殊召喚できる!

 来い! 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》

 星3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 400

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

「な……、シンクロ召喚しないのか!?」

「まあな! この戦略、読めるもんなら読んでみやがれ! さあ、来い遊矢!」

「っ――俺のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:2

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2

 

「《Sp(スピードスペル)-オーバー・ブースト》を発動! SPC(スピードカウンター)を六つ増やし、ターン終了時に一つになる!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:8

 

 遊矢のDホイールにロケットブースターが装着され、一気に加速した。先頭を走るクロウを追い抜き、独走する。

 

「このタイミングでそのカードを使うってことは……いいぜ、来いよ!」

「俺はSPC(スピードカウンター)を四つ使い、スケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と、スケール8の《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:8 → SPC:4

 

「これで俺たちは、レベル5から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 二色の眼を持つ竜と幻獣が上空へ浮上する。

 が、その瞬間を待ち構えていたクロウの罠が炸裂する。

 

(トラップ)発動! 《ゴッドバード・アタック》! 自分フィールドの鳥獣族を一体リリースすることで、フィールドのカードを二枚破壊する!

 疾風のゲイルをリリースして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、《EM(エンタメイト)オッドアイズ・ユニコーン》を破壊!」

 

 疾風のゲイルは光を纏い、分裂して突進した。浮上した二体のペンデュラムモンスターは破壊され、天空に描かれた軌跡が消滅する。

 

「くっ……カードを二枚セット! 俺はこれで、ターンエンド!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:4 → SPC:1

 

「遊矢……!」

 

 柚子が不安そうに声をかける。慣れないライディング・デュエルに、得意のペンデュラム召喚も不発。彼女が不安になるのも仕方がないだろう。

 

「やっぱりな」

 

 そう呟いたのはシンジ。その得意げな声音に、柚子はむっとする。

 

「さっきセットされたスケールは4と8。ということは、お前の手札にはレベル5から7のモンスターが一体のみ。つまり、今のお前はモンスターを一体も召喚できないってことだ」

「おい、あんま油断するなよシンジ」

「分かってるさ。行くぜ、俺のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:3

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2

 

「俺は《B・F(ビー・フォース)-毒針のニードル》を召喚!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-毒針のニードル》

 星2/風属性/昆虫族/攻 400/守 800

 

「うっ……蜂のモンスター!?」

 

 巨大な蜂型モンスターの出現に、柚子は思わず口を抑えた。ただでさえグロテスクな外見をしているのに、それが人間と同じ大きさをしているのだから、無理もないだろう。

 

「まだまだ行くぜ! 自分の場に《B・F(ビー・フォース)》モンスターが存在するとき、《B・F(ビー・フォース)-連撃のツインボウ》は手札から特殊召喚できる!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-連撃のツインボウ》

 星3/風属性/昆虫族/攻1000/守 500

 

「さらに、もう一体のツインボウを特殊召喚!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-連撃のツインボウ》

 星3/風属性/昆虫族/攻1000/守 500

 

「一ターンに三体も……!」

 

 その高速展開に柚子は驚く。シンクロ召喚はその性質上、最低でもモンスターを二体必要とする。盤上を整えるのはスタンダード次元の決闘者(デュエリスト)より一枚も二枚も上なのだ。

 

「まだ終わりじゃないぜ。レベル3の連撃のツインボウに、レベル2の毒針のニードルをチューニング!

 蜂出する憤激の針よ! 閃光と共に天をも射抜く弓となれ!

 シンクロ召喚! 現れろ、《B・F(ビー・フォース)-霊弓のアズサ》!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-霊弓のアズサ》

 星5/風属性/昆虫族/攻 2200/守 1600

 

 スカート型のアーマーと昆虫の面。その手にあるのは木製の弓。

 ――その名は(アズサ)弓。神事において使用される“梓の木”を用いて作られた弓である。

 これでシンジ・クロウの場にはブラスト、ツインボウ、そしてアズサ。攻撃力の合計は4000を超えている。そして遊矢・柚子のフィールドには壁となるモンスターがいない。

 だからこそ遊矢は、シンジのプレイングに違和感を覚えた。

 

「どうしてシンクロ召喚を……?」

 

 霊弓のアズサは、《B・F(ビー・フォース)》モンスターによる効果ダメージを二倍にする。しかしシンクロ召喚を行う前、クロウ・シンジのフィールドにはブラスト、ニードル、そしてツインボウが二体。この時点で攻撃力の合計は4100。総攻撃が決まればシンジ達の勝利である。

 わざわざシンクロ召喚を行う意味がないのだ。だというのに何故行ったのか。ただの格好付けか、それとも――

 

「これで決めさせてもらう! バトルだ! ツインボウで遊矢にダイレクトアタック!」

「遊矢!」

「くっ……!」

 

 ツインボウが持つ二つの針が遊矢を襲う。

 が、その直前。遊矢はセットしていた(トラップ)を発動させる。

 

(トラップ)発動! 《ペンデュラム・リボーン》! 自分の墓地かエクストラデッキから、ペンデュラムモンスターを特殊召喚する!

 今こそ目覚めよ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 二色の眼が目を覚まし、遊矢のフィールドに召喚される。シンジは攻撃を中止し、ツインボウは自軍へと戻っていった。

 

「へっ、やるじゃねえか遊矢。ペンデュラムゾーンが破壊されるのは想定内だったってわけか。だがな、それでも一手甘ぇ! 行けシンジ!」

「おう! (トラップ)発動、《緊急同調》! このカードにより、バトルフェイズ中にシンクロ召喚を行うことができる!

 俺はレベル3の連撃のツインボウに、レベル5の霊弓のアズサをチューニング!」

「何!? 霊弓のアズサはチューナーモンスターだったのか!?」

 

 シンクロモンスターでありチューナー。その類のモンスターを見るのは、遊矢はこれが初めてだった。アズサは五つの円環となり、ツインボウがその中心を飛行する。

 

「呼応する力! 怨毒の炎を携え、反抗の矢を放て!

 シンクロ召喚! レベル8、《B・F(ビー・フォース)-降魔弓のハマ》!」

 

 《B・F(ビー・フォース)-降魔弓のハマ》

 星8/風属性/昆虫族/攻2800/守2000

 

 昆虫の鎧と弓。光る矢を番えた新緑の弓兵。

 強力なモンスターの出現に柚子は息を呑む。攻撃力は2800。遊矢のオッドアイズを上回っている。

 

「降魔弓のハマで、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

「させない!」

 

 蠱毒の一射が放たれるより速く、遊矢はカードを手にする。

 手札ではなくコース上のカード。すなわち、(アクション)カードである。

 

(アクション)魔法(マジック)《奇跡》を発動! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》はこのターン戦闘で破壊されず、発生するダメージは半分になる!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000

 SPC:2 → SPC:0

 

 遊矢が(アクション)カードを発動した直後、オッドアイズの胴が射抜かれた。

 破壊はされない。しかし、ライフポイントは減少する。

 

「ぐっ……!」

 

 遊矢・柚子

 LP:4000 → LP:3850

 SPC:0

 

「……なるほどな」

 

 クロウは呟いた後、コースを見渡す。

 ――確かに、カードが落ちている。いや、浮いていると表現すべきか。

 いずれにせよ、あれはアトラクションの一種。デュエル中に拾い、そのまま使用できるカードなのだ。

 だが、ただ拾えばいいものでもないらしい。次にクロウが確認したのは遊矢と柚子のSPC(スピードカウンター)。《スピード・ワールド・ネオ》に支配されたこの世界では、《Sp(スピードスペル)》以外の魔法(マジック)カードを発動する際、コストとしてSPC(スピードカウンター)を二つ消費しなければならない。スピードを維持して《Sp(スピードスペル)》を使い続けるか、それともスピードを落として多種多様な魔法(マジック)カードを使用するか、二つに一つである。

 

「ちっ……だがここで、降魔弓のハマの効果発動! 戦闘ダメージを与えた場合、与えた数値分だけ相手モンスター一体の攻撃力を下げる! よって《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は150下がる!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2500 → 攻2350

 

「さらに降魔弓のハマは、一ターンに二回攻撃できる! 二度目の攻撃、行け!」

「《奇跡》の効果により、受けるダメージは半分になる!」

 

 遊矢・柚子

 LP:3850 → LP:3625

 SPC:0

 

「くっ……!」

「バトルフェイズ終了時、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は元に戻る」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 攻2350 → 攻2500

 

「カードを三枚伏せる。黒槍のブラストを守備表示に変更してターンエンド。さあ、お前らのコンビネーションを見せてみろ!」

「……私のターン!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000

 SPC:4

 

 遊矢・柚子

 LP:3625

 SPC:1

 

「……! これって」

 

 シンジのターンが終了し、柚子のターンとなる。

 柚子がドローフェイズにて引いたのは魔法(マジック)カード《融合》だった。しかし、SPC(スピードカウンター)は一つのみ。発動することはできない。

 

「柚子!」

「え――?」

 

 遊矢と柚子は一度だけ視線を交わす。

 ……それで意図は伝わった。柚子は遊矢が残した伏せ(リバース)カードを確認する。

 

「どうやら望みのカードは引けなかったようだな。言っとくが、これはライディング・デュエル。通常のデュエルと同じ感覚でいると、思わぬところで躓くぜ!」

「……いいえ。それはどうかしら」

「なに?」

「私は《幻奏の音女アリア》を召喚!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 星4/光属性/天使族/攻1600/守1200

 

「さらに、自分の場に《幻奏》モンスターが存在するとき、このモンスターは特殊召喚できる! 来て、《幻奏の音女ソナタ》!」

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 星3/光属性/天使族/攻1200/守1000

 

「ソナタの効果発動! アリアとソナタの攻撃力は、それぞれ500ずつアップする!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 攻1600 → 攻2100

 

 《幻奏の音女ソナタ》

 攻1200 → 攻1700

 

「バトルよ! まずは、《幻奏の音女ソナタ》で《BF(ブラックフェザー)-黒槍のブラスト》を攻撃!」

 

 ソナタの歌声により、守備表示のブラストが破壊される。

 

「ブラストが破壊されたところで、どうってことないぜ。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は2500。所詮はハマの敵じゃない」

「これを見ても同じことが言えるかしら?

 伏せ(リバース)カードオープン! (トラップ)カード、《アナザー・フュージョン》! 自分フィールドの表側表示モンスター二体を融合できる!」

「なんだと!? まさか、そのカードは――」

「そう、これは遊矢が残したカード! ライディング・デュエルは初めてでも、コンビネーションなら貴方達にも負けてないわ!

 《アナザー・フュージョン》の効果で私が融合するのは、《幻奏の音女アリア》と、《幻奏の音女ソナタ》!

 響き渡る歌声よ。流れる旋律よ。タクトの導きにより、力重ねよ!

 融合召喚! 今こそ舞台へ! 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》!」

 

 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》

 星6/光属性/天使族/攻2400/守2000

 

「よし!」

「バトルフェイズ中に融合召喚だと!?

 ――……だが、攻撃力は2400! ハマにはまだ届かない!」

「マイスタリン・シューベルトの効果発動! 一度だけ、自分か相手の墓地からカードを三枚まで除外できる! 私は、貴方の《B・F(ビー・フォース)》モンスター三体を除外するわ!」

「墓地のモンスターを使わせない戦術か……!」

「この効果で除外したカード一枚につき、マイスタリン・シューベルトの攻撃力は200アップする!」

 

 《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》

 攻2400 → 攻3000

 

「行け、マイスタリン・シューベルト! 降魔弓のハマを攻撃! “ウェーブ・オブ・ザ・グレイト”!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:4000 → LP:3800

 SPC:4

 

「くっ、ハマ……!」

「まだ攻撃は残ってるわ! さあ行きなさい、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! “螺旋のストライク・バースト”!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:3800 → LP:1300

 SPC:4

 

「ぐ――おおぉぉぉ!」

 

 赤熱のブレスを受け、シンジが呻く。

 ――しかし、その痛みを疾さに変える。ブレスの勢いを利用して、シンジのDホイールはさらに加速する……!

 

(トラップ)発動、《デス・アクセル》! 戦闘ダメージを受けたとき、300ポイントにつき一つSPC(スピードカウンター)を増やす!」

「300につき一つ!? ということは――」

「受けたダメージは2500! つまり、こういうことだ!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:4 → SPC:12 MAX

 

 カウントストップ。シンジのDホイールはライディング・デュエル最速の速さを叩き出した。

 暴風の如き抵抗、それを我が身で切り裂く快感は、ベテランのDホイーラーでさえ尻込みする。

 だがシンジは口元に笑みを浮かべ、その感覚に酔いしれる。危険な爆走マシンと化した自らのDホイールを、まるで手足のように操る。

 そしてそれは、パートナーのクロウとて同じ。二人は並走し、遊矢と柚子との距離を更に広げる。

 

「……《アナザー・フュージョン》の効果で融合召喚したモンスターは、ターン終了時に破壊されるわ。カードを三枚セットして、ターンエンドよ」

「さあて、次は俺のターンだ!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:12 MAX

 

 遊矢・柚子

 LP:3625

 SPC:2

 

「俺は《Sp(スピードスペル)-アクセル・ドロー》を発動! こいつは自分がマックススピードの時のみ発動でき、カードを二枚ドローする!

 そして、《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》を召喚!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-極北のブリザード》

 星2/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 0

 

「このモンスターの召喚に成功した時、墓地から《BF(ブラックフェザー)》を一体、守備表示で特殊召喚できる!

 さあ来やがれ! 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-疾風のゲイル》

 星3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 400

 

「まだまだ行くぜ! 手札から《BF(ブラックフェザー)-砂塵のハルマッタン》を特殊召喚!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-砂塵のハルマッタン》

 星2/闇属性/鳥獣族/攻 800/守 800

 

「こいつは自分の場にハルマッタン以外の《BF(ブラックフェザー)》がいる時、手札から特殊召喚できる。そして召喚に成功した時、他の《BF(ブラックフェザー)》のレベルをコイツに加えることができる!

 俺は極北のブリザードのレベルを加え、ハルマッタンのレベルを4にする!」

 

 《BF(ブラックフェザー)-砂塵のハルマッタン》

 星2 → 星4

 

「レベルの調整……ということは――!」

「レベル4の砂塵のハルマッタンに、レベル3の疾風のゲイルをチューニング!

 漆黒の翼翻し、雷鳴と共に走れ! 電光の斬撃!

 シンクロ召喚! 降り注げ、《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》!」

 

 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》

 星7/闇属性/鳥獣族/攻2600/守2000

 

 小さな鴉達を素材に、上級のBF(ブラックフェザー)が召喚された。

 (つるぎ)の翼と黒い翼を持ち、日本刀を繰る鴉の剣士。

 その名は雷切。雷・雷神を切ったとされる伝説の日本刀である。

 

「ライキリの効果発動! 一ターンに一度、他の《BF(ブラックフェザー)》の数だけ相手のカードを破壊できる! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を破壊!」

「そんな――うっ!」

 

 雷光じみた一閃。

 二色の眼の竜は、鴉の剣士に両断・破壊される。

 

「柚子……! 待ってろ! 今、俺が(アクション)カードを……!」

「駄目よ! ここで(アクション)カードを使ったら、遊矢のターンでSPC(スピードカウンター)は一つだけ。それだと遊矢は動けない!」

「だけど!」

「大丈夫。今度は私の番。絶対、貴方に繋いでみせる」

「……分かった」

 

 遊矢は柚子の決意を目の当たりにして、(アクション)カードを狙うことをやめた。

 (アクション)カードは便利だがSPC(スピードカウンター)を喰らってしまう。使い過ぎれば、後々自分の首を絞めることになるのだ。

 

「相談は終わったか? なら行くぜ、ライキリで柚子にダイレクトアタック!」

「永続(トラップ)、《竜魂の幻泉》! 墓地からモンスターを守備表示で特殊召喚する! 来て、《幻奏の音女アリア》!」

 

 《幻奏の音女アリア》

 星4/光属性/天使族/攻1600/守1200

 

「アリアは特殊召喚された場合、戦闘では破壊されない!」

「だったら、ライキリの切れ味を受けてもらうぜ! 伏せ(リバース)カードオープン! (トラップ)カード、《メテオ・ウェーブ》! モンスター一体の攻撃力を300アップさせる!」

 

 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》

 攻2600 → 攻2900

 

「そして、対象モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていれば、貫通ダメージを与える!」

 

 遊矢・柚子

 LP:3625 → LP:1925

 SPC:2

 

「う――くぅっ!」

 

 ライキリの刀はアリアを貫通し、柚子を切り裂く。

 

「だけど、これで――」

「凌いだ、とでも思ってんのか?」

「え……?」

 

 安堵の息を漏らした瞬間、クロウがそれを否定する。

 そう。クロウにはまだ、攻撃の手段が残っている。

 

「どういうこと? 貴方のモンスターの攻撃は終わったはずよ」

「確かにな。だが、忘れてもらっちゃ困るぜ。《スピード・ワールド・ネオ》はただの雰囲気作りじゃねえ。こいつにだって、ちゃんとした能力があるんだぜ」

「《スピード・ワールド・ネオ》の効果……?」

「《スピード・ワールド・ネオ》は自分のSPC(スピードカウンター)を四つ使い、手札の《Sp(スピードスペル)》を一枚公開することで、相手に800のダメージを与えることができる。

 俺達のスピードは最高の12。そしてお前らは、今の一撃でセーフティラインの2400を切った。つまり……こいつで、チェックメイトだぜ」

「まさか――!」

 

 クロウは残り一枚の手札を見せる。

 それは、やはり《Sp(スピードスペル)》だった。

 

「行くぜ! 《スピード・ワールド・ネオ》、効果発動!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:12 → SPC:8

 

 クロウのDホイールから漆黒の雷が放たれ、柚子を襲う。雷は柚子のDホイールに直撃し、絶叫の悲鳴を上げる。

 

 遊矢・柚子

 LP:1925 → LP:1125

 SPC:2

 

「まだだ! もう一度《スピード・ワールド・ネオ》を発動! 第二撃を喰らえ!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:8 → SPC:4

 

 遊矢・柚子

 LP:1125 → LP:325

 SPC:2

 

「柚子!」

「――っ。まだ、まだよ!」

「強情だな。嫌いじゃねえが容赦はしねえ。こいつでトドメだ! 《スピード・ワールド・ネオ》、発動!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:4 → SPC:0

 

 SPC(スピードカウンター)を使い切ったことで速さを失い、クロウとシンジは二人に追い抜かれてしまう。

 だが、それはもう関係ない。この効果ダメージが通れば決着なのだから。

 

「……これで、全部ね」

「なに?」

 

 ――柚子は笑う。この時を待っていた、と。

 

「カウンター(トラップ)発動! 《フュージョン・ガード》! エクストラデッキから融合モンスターを一体ランダムに選択し、墓地に送る。そして、発生した効果ダメージを無効にする!」

 

 (トラップ)カードによる障壁が発生し、墓地に送られたモンスター――ブルーム・ディーヴァが柚子を雷から守った。

 敢えて攻撃を受け続けたのはこの瞬間……つまり、SPC(スピードカウンター)を使い切らせることが狙いだったのだ。

 クロウは歯噛みする。基本的に《Sp(スピードスペル)》はSPC(スピードカウンター)を消費しない魔法(マジック)カード。エネルギー源たるスピードがなければ、そもそも発動ができない。

 

「……やってくれるじゃねえか。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 これにてクロウの手札はゼロ。つまり今伏せたのは間違いなく、《スピード・ワールド・ネオ》で公開し続けた《Sp(スピードスペル)》。発動しようにも、SPC(スピードカウンター)が足りない。

 

「これで、繋げたよ」

「……ああ」

 

 二人は再びアイコンタクトする。

 ――言葉は無粋。それで意思は伝わるのだ。

 

「俺のターン!」

 

 遊矢・柚子

 LP:325

 SPC:3

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300

 SPC:1

 

「俺は《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》を召喚!」

 

 《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》

 星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守 500

 

「何かと思えばチューナーでもない下級モンスターか。遊矢、お前の手札は残り一枚。それもレベル5以上のモンスターってバレてる。今のお前にこの状況を覆すことはできねえ!」

「確かにその通りだ。このデュエル、俺一人だったら勝てなかった。だけど、俺は一人じゃない。柚子!」

「ええ! 思う存分やっちゃって!」

「ああ、行くぞ!

 俺は、レベル4の《幻奏の音女アリア》と、《EM(エンタメイト)ヘイタイガー》でオーバーレイ!」

「なに!?」

 

 遊矢のフィールドに黒い宇宙が開き、アリアとヘイタイガーはその中心に集う。

 

「まさか、コイツは――!」

 

 クロウは思い出す。ジャックと遊矢のデュエルを。

 同レベルモンスター二体による新たな召喚。シンクロとも融合とも違う異次元の力――。

 

「エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

 巨大な逆鱗を持つ漆黒の竜。ジャックとのデュエルで姿を見せ、力を発揮することなく破壊されたモンスターだ。

 その効果を、クロウは覚えていた。単純にして明快、しかして強力。それがこのドラゴンの能力である。

 

「ダーク・リベリオンの効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ使うことで、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値をダーク・リベリオンの攻撃力に加える! “トリーズン・ディスチャージ”!」

 

 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》

 攻2900 → 攻1450

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》

 攻2500 → 攻3950

 

「バトル! 行け、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》! 驟雨のライキリを攻撃!」

 

 ダーク・リベリオンは紫電を纏い、攻撃体勢に入った。

 しかし攻撃に移る直前、シンジが叫ぶ。

 

「クロウ、使え!」

「当然! (トラップ)発動、《重力解除》! フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する! これにより、ライキリ、ブリザード、ダーク・リベリオンは守備表示となる!」

 

 クロウが発動したのは、シンジが残した最後の一枚。その効果により攻守が逆転する。全てのモンスターは守備表示となり、バトルは中止された。

 

「これでそのドラゴンは攻撃できねえ。そして次のターン、ライキリの効果でダーク・リベリオンを破壊できる!」

「それはどうかな」

 

 クロウは得意げにライキリの能力を語るが、遊矢はそれを否定する。

 ――柚子は走る。カードを求めて。

 

「クロウ、シンジ。貴方達に次のターンはない。このターンで決めてやる!」

「ハッ。いい気構えだが、一体どうするつもりだ? そのドラゴンは今守備表示。攻撃は封じられてるぜ」

「だったら、新しくモンスターを召喚すればいい。俺には、柚子が残してくれたこのカードがある!」

 

 遊矢はセットされた一枚を指し示す。

 前のターン、柚子がセットしたのは三枚。その、残り一枚である。

 

「どういう意味だ。融合、シンクロ、ペンデュラム、そして今見せたエクシーズ。バトルフェイズ中はそのどれもができないはずだぜ」

「その通り。だけど、それを可能にするのが――」

「私達のデュエルよ」

「なにっ……!」

 

 遊矢の言葉を柚子が紡ぐ。

 その手に握るのは(アクション)カード。タイミングを選ばず発動できる、スタンダード次元最高の武器(アトラクション)

 

 遊矢・柚子

 LP:325

 SPC:3 → SPC:1

 

「私は(アクション)魔法(マジック)《ビギナーズ・ラック》を発動! フィールドにセットされた通常魔法をコストなしで発動できる!」

「これにより俺は、セットされた魔法(マジック)カード――《融合》を発動する!」

「《融合》だと!? ……そうか。あの時、柚子がドローしたカードか!」

「そうよ! これでカードは繋がったわ! 行けー、遊矢!」

「任せろ!

 ――俺が融合するのは、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》! そして貴方達の読み通り、手札に残ったレベル5のモンスター、《EM(エンタメイト)ドラミング・コング》!

 胸を打ち鳴らす森の賢人よ。逆鱗の竜と一つとなりて、新たな力を生み出さん!

 融合召喚! 出でよ! 野獣の眼光りし、獰猛なる竜! 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 星8/地属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

 獣の魂を宿す、獰猛なる肉食竜。その瞳は、捉えた獲物を全て焼き尽くすだろう。

 竜は咆吼し、群がる鴉達を怯ませる。攻撃力は3000、ライキリでも届かない……!

 

「だが、ライキリは今守備表示だ!」

「ビーストアイズは戦闘でモンスターを破壊した時、素材となった獣族モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「なんだと!?」

「素材となったドラミング・コングの攻撃力は1600。よって、クロウとシンジに1600のダメージを与える!」

「っ、このまま終わってたまるかよ!」

 

 シンジはDホイールを走らせ、Aの文字が入ったカードを取る。

 

「よし! (アクション)魔法(マジック)《回避》! こいつで攻撃を無効に……なに?」

 

 拾ったカードをディスクにセットするが、発動しない。

 理由は一つ。ライディング・デュエルに慣れているシンジはすぐに気づく。

 

「くそ、SPC(スピードカウンター)が一つ足りねえ! まさかあの柚子って子、ここまで読んでやがったのか……!?」

「行け、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! 《(アサルト)BF(ブラックフェザー)-驟雨のライキリ》を攻撃! “ヘルダイブ・バースト”!」

 

 クロウはライキリと共にブレスを浴び、灼熱の炎に焼かれた。

 ダメージは1600。二人はライフは尽き、デュエルは決着する。

 

「ぐあぁぁぁ――!!!」

 

 クロウ・シンジ

 LP:1300 → LP:0

 SPC:1

 

 勝者は遊矢・柚子。今ここに、優勝候補二人を蹴落としたダークホースが誕生した。

 

 


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