その翌日。
俺は早起きをして身支度を早く終えたので、時間早く家を出た。
学校とは反対の……町の外へ歩いて向かう。
…目的地は麗の家。
先日、はぐれ悪魔を閻魔送りしたあと、そのはぐれ悪魔の妹――アルティナを保護し、雅家に預けた。
麗の母親――かなえさんに話は通してはいる。…かなえさんは裏の世界の存在を認識しているし、夫――
アルティナを快く迎え入れてくれて、俺としては助かっているが…尾獣たちも世話になっているし、雅家の財力には頭が下がる思いだ。
雅家の門前に着き、中に入る。…庭は広く、そのほとんどがガーデニングの花や木で埋め尽くされているほどの規模になる。
その花園を抜け、大きな屋敷の玄関前にたどり着く。
「いってきます。お母さん」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「だいじょうぶだよぉ。カズくんが迎えに来てくれるんだから」
玄関のドアが開き、麗がかなえさんと言葉を交わしていたところを見かける。
「おはよう。麗」
「おはよ~、カズくん」
「あらあら、いいタイミングじゃない。朝早くからごめんなさいね」
「いえいえ、自分が言いだしたことですから」
かなえさんに挨拶をした直後、もう一つの目的であるアルティナがひょっこりと姿を現す。
「おはようございます。カズナリさん」
「おはよう、アルルさん。雅家とはどう?」
「はい。とても優しい方ばかりで、お世話になっています」
「そう? 私はアルルちゃんのお世話になっているわ」
「いえ。かなえさまには大変迷惑ばかりを」
女子トーク? よく分からないが、そんなものが始まり…終わる気がしないやん。
「うん。……アルルさんが馴染んでくれているなら、良かったよ。俺の家じゃ…ね」
「イッセーがいるからね~」と言いかけて、話をそらす。
「そろそろいこっか。長話してたら、遅刻するだろうし」
「そうだね~。いってきます」
「いってらっしゃい。麗、和成さん」
「御気をつけて」
俺と麗は歩き出そうとしていた。
その直後、足元を通過する一つの影――。
「あら、コロちゃん。今日も元気ね」
二足歩行で歩く小さな丸犬のぬいぐるみ…そう、これは帝具。生物型の帝具だ。
散歩でこの庭を駆けていたみたい。すごく機嫌がよく、かなえさんに抱えられている。
「主、庭の手入れを終えている」
「あら、いつもありがとう。スーちゃん」
俺より一回りほど大きい、男性がかなえさんと会話をしている。
…そう、この人も生物型の帝具。
コロは『
「カズ」
「は、はい!」
スーさんに突然呼ばれたものだから、変に声が裏返る…。
「これでよし」
スーさんは俺のネクタイを少しいじると、髪の毛を撫でて左右対称に直してくれる。
「あ、ありがと」
俺は一応礼を言う。
スーさんはとても几帳面で、いまみたいに左右が若干でもずれていたり、埃一つでも見つけると、整えたり掃除したりする。
俺と麗は手を振りながら、門に向って歩き出す。
D×D
学校の帰り、俺は麗と一緒に買い物を終えていつもと同じ帰路についていた。
その帰路の途中、数メートル前方に辺りをきょろきょろとしている人がいる……どう見ても不審だ。
…その人物の行動をよく見ると、手元のスマホを見てはきょろきょろ…見てはきょろきょろ……。
「迷子かな?」
麗がそう呟く。
俺と麗はその人物に近づいてみた。
帽子をかぶり、サングラスをしている人物…やっぱり不審だ。
「あの…何かお困りでしょうか?」
俺がそう問うと、その人物は「いいところに!」的な反応で俺と麗を見る。
「あ…えっと、すみません。この住所の場所がわからなくて」
スマホの地図を見せてくれる……声からして女性?
「ここって…」
麗が言葉に詰まる……俺もどう答えようか迷ってしまった。
「……あ、あの」
俺たちの反応に困っているようだ。
「えっと…その住所、自分の家の住所なんですが……」
俺がそう答えると、女性は「え?」っと俺の顔を見た。
「……そ、そうなの? …もしかして、カズちゃん?」
カズちゃん……そう呼んだ女性は、帽子とサングラスを外す。
…さらっとしたストレートの白髪と白内障のような瞳の目を晒す。
「……」
俺は声が出ず、唖然とした…その女性には見覚えがあったから。
「も、もしかして……なっちゃん?」
俺はまだ父さんと母さんが生きていた幼少の頃に、よく遊んでいた幼馴染の少女の名前…愛称を呼んだ。
「…やっぱり! カズちゃんだ!!」
突然抱き着いてきた幼馴染…。
「ちょ、苦しい」
「やっと会えた…会えた!」
今この状況を見ているのは……麗しかいないみたいだけど、すごく恥ずかしい。
幼馴染が俺から離れると、サングラスだけをつけた。
「お久しぶりです。今は兵藤って苗字だったね…カズちゃん」
幼馴染は頬を赤らめて言う。
「えっと……その子は?」
麗が不機嫌そうに訊いてくる。
「あ、うん。この子は日向奈津美。俺の小さい頃の幼馴染」
「日向奈津美と言います」
奈津美は名乗ると、俺の腕に抱き着いてきた。
「何で抱き着くんだよ」
「将来の旦那様だもん。当然でしょ」
その瞬間、周囲の空気が凍りついた。