ハイスクールD×D ―忍一族の末裔―   作:塩基

6 / 15
シスター

カラワーナとミッテルトが奇襲をかけてきてから、数日が経ったある日の放課後。

 

イッセーが悪魔稼業で契約を二度破綻させて、若干やつれていた…というより、教室で落ち込んでいたもんな。

 

買い物帰りに麗と近くのある公園に寄り道していた。

 

二つあるブランコにそれぞれ座る。

 

ギーコギーコ……。

 

久しぶりに漕いでいると…ブチン!!

 

俺の座っていたブランコの鎖が切れ、後ろに漕いだ勢いを兼ねたまま…後頭部を強打した上に引きずる…痛い。

 

麗が傍らでクスクスと笑っているのを半眼で見ながら、後頭部をさする。

 

「いてぇ…血は出てないけど、コブができてるな」

 

触って手のひらを確認したら…血らしきものはついてはいなかったが、コブのある感触はすぐに分かった。

 

クスクスと笑い続けている麗…そろそろ泣くぞ、俺。

 

「うわぁぁぁぁん」

 

聞こえてきた泣き声…俺じゃないぞ。

 

「だいじょうぶ、よしくん」

 

少し離れた広場で子供がこけて、母親だろう女性がなぐさめていた。

 

そこへ、通りすがりだろうシスターの少女と、制服を着ただん……イッセーじゃん!?

 

シスターが男の子の頭を撫でて、怪我をしている膝に当てた。

 

その瞬間、手のひらから淡い緑色の光が生じ、男の子の膝の怪我を治していく。

 

数日前にイッセーの左手に出現した赤い籠手と同じ、そう……、

 

――神 器(セイクリッド・ギア)

 

それから三十秒と経たないうちに、男の子の膝の怪我は完治していた。

 

「あの子、治癒の神 器(セイクリッド・ギア)持ちなんだね~」

 

俺の横に立っていた麗がそう呟いた。

 

俺たちの視線に気がついたのか、シスターの少女がこっちを向いて丁寧にお辞儀をしてくれる。

 

イッセーもそのシスターの行動でこっちを向いて、手を振ってきた。

 

俺たちの方へ歩いてきたイッセーとシスターの少女。

 

「よ、よぉ~。奇遇だなぁ、こんなところで会うなんて」

 

「カズ、麗さん…って、カズ…頭でも打ったのか?」

 

イッセーが後頭部を抑えている俺を見て言う。

 

「あぁ~、そのブランコに乗っていてな。漕いでたら切れて、勢い余って後頭部を強打した」

 

イッセーが「だいじょうぶなのか?」と言ってきたので、俺は「心配ない」と答える。

 

「レイ、この袋に水を入れてきて」

 

「うん、ちょっと待っててね」

 

麗が俺から透明のビニール袋を受け取り、近くの水飲み場まで水を汲みに行った。

 

「えっと、私が治したほうが…」

 

「いいよ。あまり人前で力を見せない方がいいと思うな…特に、さっきみたいな場合」

 

俺は尾獣たちのチャクラを介して、シスターの少女の言葉を翻訳して話す。

 

「す、すみません。つい…」

 

「いいさね。キミの心がそれだけ純粋で優しい……イッセーも隅に置けないなぁ」

 

「な、何だよ、いきなり」

 

「ん~や、こんなに清純な女の子と歩いてるなんてさ」

 

「…え!? いやいや、さっき会ったばかりで…」

 

俺が笑いながらそう言っていると、イッセーは若干焦りながら否定し、シスターは日本語が通じてないようで首をかしげていた。

 

すると……後頭部に冷たい感触と共に痛みが走る。

 

「痛っ! レ、レイ?」

 

俺の頭に水…いや、氷塊の入ったビニール袋を強引に押し付けてくる。

 

…少しどころか、凍りついている微笑みで俺を睨む。

 

「ところで、イッセーはその子とどこかに向かおうとしていたみたいに見えたんだけど…?」

 

「うん。教会に用があるって言っててさ、案内する途中だったんだ」

 

「教会…」

 

イッセーが指をさす…その先には古い教会が見える。

 

「あの教会って…いまは廃教会じゃなかったの?」

 

「…そうだったと思う。何か怪しいにおいがしてきたな」

 

俺と麗は二人に聞こえないようにひそひそと話す。

 

「よし。俺と麗もついて行くさね」

 

「え…いやいや、カズと麗さんは買い物の荷物が…」

 

「いいさいいさ。又旅と穆王にも連絡したし、レイのお母さんにもその流れで連絡は耳に入るだろうよ」

 

本当はまだなんだけどね、いまから連絡しますっと。

 

――俺たちは公園を出て、教会へ足を向ける。

 

俺と麗はイッセーとシスターの少女の後ろを歩いてついていく。

 

…テレパシーで又旅と穆王に連絡をしておく。

 

しばらく歩くと、数分で教会に辿りつく。

 

古ぼけた教会が建っており、遠目から見ても建物に明かりが灯されていた。

 

「あ、ここです! 良かったぁ」

 

俺はふとイッセーの方を見る…若干だが、額に汗をかいていて、足が小さく震えていた。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

「待ってください!」

 

イッセーが別れを告げて立ち去ろうとした直後、シスターの少女が呼び止めた。

 

「私をここまで連れてきてもらったお礼を教会で――」

 

「いや、俺急いでいるもんで」

 

「……でも、それでは」

 

困るシスター。

 

……イッセーは悪魔だし、入った途端に悪魔だってバレたらロクなことにならない。いまでも、震えや発汗が落ち着かないところを見ると、影響を受けているに違いなさそうだしなぁ…手を貸すか。

 

俺は麗に荷物を持ってもらって、イッセーに肩をまわした。

 

「ごめんね。こいつ、この後に母さんと約束事があってさ。急がないといけないんで…お礼は今度会った時にしてあげてほしいな」

 

「そ、そうなんですか…? お約束があるのでしたら、破るわけにもいきませんし……仕方がありません」

 

俺はそう言って、イッセーから離れて隣に立つ。

 

「俺は兵藤和成。で、こいつは一誠。それと、彼女は雅麗」

 

「イッセーでいいよ、周りにはそう呼ばれているから。で、キミは?」

 

名乗ると、シスターの少女は笑顔で答える。

 

「私はアーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」

 

「じゃあ、シスター・アーシア。また会えたらいいね」

 

「はい! イッセーさん、カズナリさん、レイさん、必ずまたお会いしましょう!」

 

イッセーとの会話を終え、ペコリと深々頭を下げたシスター・アーシア。

 

俺たちも手を振って別れを告げる。少女は俺たちの姿が見えなくなるまで、ずっと見守ってくれていた。

 

少女の姿も見えなくなるところまで歩いた俺たち。

 

俺はイッセーに言う。

 

「イッセーさ、あのシスターと付き合ったらいいんじゃないかな~って思ったんだけど?」

 

「か、カズ! 何を――」

 

「おぅ。顔真っ赤にしやがってさ! 脈ありじゃないかね? イッセーくん」

 

「俺は…そうなりたいって思ったりもしたけどさ……」

 

「あ…ゴメン、イッセー」

 

イッセーの表情が途端に暗くなり、俺はイッセーの元カノだった堕天使の女の事を思い出して謝る。

 

空気が重くなり、気まずい空間になってしまった。

 

「カズ、さっきはありがとうな」

 

「ん。いいさね、あれは俺の勝手な言動だからさ」

 

イッセーが苦笑し、俺も悪戯な笑顔を作る。

 

「……そろそろ荷物持ってくれないかな?」

 

麗が不満げな声とともに、冷たい空気を漂わせ出した!

 

やべぇ! 完全に怒っていらっしゃるよ!!

 

「スミマセン。全部持たせていただきます」

 

俺は麗から手荷物をすべて預かって持つ…重っ!

 

いまの機嫌の状態なら、拷問という戯れをされることはなさそうだな…。

 

「んじゃ。イッセー、気をつけて稼業がんばれよ」

 

「うん。行ってくる」

 

俺と麗は途中でイッセーと別れて歩く。

 

…帰ったら、家の手伝いでもしましょうかね。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。