カラワーナとミッテルトが奇襲をかけてきてから、数日が経ったある日の放課後。
イッセーが悪魔稼業で契約を二度破綻させて、若干やつれていた…というより、教室で落ち込んでいたもんな。
買い物帰りに麗と近くのある公園に寄り道していた。
二つあるブランコにそれぞれ座る。
ギーコギーコ……。
久しぶりに漕いでいると…ブチン!!
俺の座っていたブランコの鎖が切れ、後ろに漕いだ勢いを兼ねたまま…後頭部を強打した上に引きずる…痛い。
麗が傍らでクスクスと笑っているのを半眼で見ながら、後頭部をさする。
「いてぇ…血は出てないけど、コブができてるな」
触って手のひらを確認したら…血らしきものはついてはいなかったが、コブのある感触はすぐに分かった。
クスクスと笑い続けている麗…そろそろ泣くぞ、俺。
「うわぁぁぁぁん」
聞こえてきた泣き声…俺じゃないぞ。
「だいじょうぶ、よしくん」
少し離れた広場で子供がこけて、母親だろう女性がなぐさめていた。
そこへ、通りすがりだろうシスターの少女と、制服を着ただん……イッセーじゃん!?
シスターが男の子の頭を撫でて、怪我をしている膝に当てた。
その瞬間、手のひらから淡い緑色の光が生じ、男の子の膝の怪我を治していく。
数日前にイッセーの左手に出現した赤い籠手と同じ、そう……、
――
それから三十秒と経たないうちに、男の子の膝の怪我は完治していた。
「あの子、治癒の
俺の横に立っていた麗がそう呟いた。
俺たちの視線に気がついたのか、シスターの少女がこっちを向いて丁寧にお辞儀をしてくれる。
イッセーもそのシスターの行動でこっちを向いて、手を振ってきた。
俺たちの方へ歩いてきたイッセーとシスターの少女。
「よ、よぉ~。奇遇だなぁ、こんなところで会うなんて」
「カズ、麗さん…って、カズ…頭でも打ったのか?」
イッセーが後頭部を抑えている俺を見て言う。
「あぁ~、そのブランコに乗っていてな。漕いでたら切れて、勢い余って後頭部を強打した」
イッセーが「だいじょうぶなのか?」と言ってきたので、俺は「心配ない」と答える。
「レイ、この袋に水を入れてきて」
「うん、ちょっと待っててね」
麗が俺から透明のビニール袋を受け取り、近くの水飲み場まで水を汲みに行った。
「えっと、私が治したほうが…」
「いいよ。あまり人前で力を見せない方がいいと思うな…特に、さっきみたいな場合」
俺は尾獣たちのチャクラを介して、シスターの少女の言葉を翻訳して話す。
「す、すみません。つい…」
「いいさね。キミの心がそれだけ純粋で優しい……イッセーも隅に置けないなぁ」
「な、何だよ、いきなり」
「ん~や、こんなに清純な女の子と歩いてるなんてさ」
「…え!? いやいや、さっき会ったばかりで…」
俺が笑いながらそう言っていると、イッセーは若干焦りながら否定し、シスターは日本語が通じてないようで首をかしげていた。
すると……後頭部に冷たい感触と共に痛みが走る。
「痛っ! レ、レイ?」
俺の頭に水…いや、氷塊の入ったビニール袋を強引に押し付けてくる。
…少しどころか、凍りついている微笑みで俺を睨む。
「ところで、イッセーはその子とどこかに向かおうとしていたみたいに見えたんだけど…?」
「うん。教会に用があるって言っててさ、案内する途中だったんだ」
「教会…」
イッセーが指をさす…その先には古い教会が見える。
「あの教会って…いまは廃教会じゃなかったの?」
「…そうだったと思う。何か怪しいにおいがしてきたな」
俺と麗は二人に聞こえないようにひそひそと話す。
「よし。俺と麗もついて行くさね」
「え…いやいや、カズと麗さんは買い物の荷物が…」
「いいさいいさ。又旅と穆王にも連絡したし、レイのお母さんにもその流れで連絡は耳に入るだろうよ」
本当はまだなんだけどね、いまから連絡しますっと。
――俺たちは公園を出て、教会へ足を向ける。
俺と麗はイッセーとシスターの少女の後ろを歩いてついていく。
…テレパシーで又旅と穆王に連絡をしておく。
しばらく歩くと、数分で教会に辿りつく。
古ぼけた教会が建っており、遠目から見ても建物に明かりが灯されていた。
「あ、ここです! 良かったぁ」
俺はふとイッセーの方を見る…若干だが、額に汗をかいていて、足が小さく震えていた。
「じゃあ、俺はこれで」
「待ってください!」
イッセーが別れを告げて立ち去ろうとした直後、シスターの少女が呼び止めた。
「私をここまで連れてきてもらったお礼を教会で――」
「いや、俺急いでいるもんで」
「……でも、それでは」
困るシスター。
……イッセーは悪魔だし、入った途端に悪魔だってバレたらロクなことにならない。いまでも、震えや発汗が落ち着かないところを見ると、影響を受けているに違いなさそうだしなぁ…手を貸すか。
俺は麗に荷物を持ってもらって、イッセーに肩をまわした。
「ごめんね。こいつ、この後に母さんと約束事があってさ。急がないといけないんで…お礼は今度会った時にしてあげてほしいな」
「そ、そうなんですか…? お約束があるのでしたら、破るわけにもいきませんし……仕方がありません」
俺はそう言って、イッセーから離れて隣に立つ。
「俺は兵藤和成。で、こいつは一誠。それと、彼女は雅麗」
「イッセーでいいよ、周りにはそう呼ばれているから。で、キミは?」
名乗ると、シスターの少女は笑顔で答える。
「私はアーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」
「じゃあ、シスター・アーシア。また会えたらいいね」
「はい! イッセーさん、カズナリさん、レイさん、必ずまたお会いしましょう!」
イッセーとの会話を終え、ペコリと深々頭を下げたシスター・アーシア。
俺たちも手を振って別れを告げる。少女は俺たちの姿が見えなくなるまで、ずっと見守ってくれていた。
少女の姿も見えなくなるところまで歩いた俺たち。
俺はイッセーに言う。
「イッセーさ、あのシスターと付き合ったらいいんじゃないかな~って思ったんだけど?」
「か、カズ! 何を――」
「おぅ。顔真っ赤にしやがってさ! 脈ありじゃないかね? イッセーくん」
「俺は…そうなりたいって思ったりもしたけどさ……」
「あ…ゴメン、イッセー」
イッセーの表情が途端に暗くなり、俺はイッセーの元カノだった堕天使の女の事を思い出して謝る。
空気が重くなり、気まずい空間になってしまった。
「カズ、さっきはありがとうな」
「ん。いいさね、あれは俺の勝手な言動だからさ」
イッセーが苦笑し、俺も悪戯な笑顔を作る。
「……そろそろ荷物持ってくれないかな?」
麗が不満げな声とともに、冷たい空気を漂わせ出した!
やべぇ! 完全に怒っていらっしゃるよ!!
「スミマセン。全部持たせていただきます」
俺は麗から手荷物をすべて預かって持つ…重っ!
いまの機嫌の状態なら、拷問という戯れをされることはなさそうだな…。
「んじゃ。イッセー、気をつけて稼業がんばれよ」
「うん。行ってくる」
俺と麗は途中でイッセーと別れて歩く。
…帰ったら、家の手伝いでもしましょうかね。