「眠ぃ~」
帰路に着いた俺はあくびをしながらそう漏らす。
夜も更けること二十二時過ぎ。
あれから少しオカ研との交流会みたくなって話が盛り上がったが、俺はイッセーを預けて帰宅していた。
途中で皆と別れ、さっき麗と舞、穆王、又旅、磯撫の五人と別れてきたばかりだ。
俺は一人のんびりと帰路を歩いていた…その時だった。
…一瞬で周囲の空気が変化したのを感じ取り、とっさに横へ飛ぶ!
バシュッ!
左腹部をえぐられ、血が噴出する!
「くっ!」
俺は腹部をえぐった物体を一瞥する……それは先日、いまと同じように腹部を貫いた光の槍のそれだ。
えぐられた左腹部からは煙が立ち上りだしている…自己治癒が始まっている証拠だ。
「カラワーナ、いまの見たっしょ!」
「ああ、あの回復力…ただの人間ではなさそうだな」
顔を上げると、視線の先には俺の腹をえぐった張本人――ゴスロリ堕天使のミッテルトと、黒紫色のボディコンスーツとスカートをはいている女性が、堕天使の翼を広げて宙に浮いている……カラワーナっていうみたいだ。
《おい、助けが要りそうか?》
《ちょっとな…腹をえぐられただけだが》
《おいおい、腹えぐられたって? 何してんだ》
《守鶴、大丈夫だ》
《助太刀に行ってもいいんだぜ?》
《遠慮しとく。周囲を吹き飛ばしそうで怖い》
《んだよ、つれねーなぁ》
いの一番で俺の異変に気付いた守鶴がテレパシーで訊いてくるが、俺はあっさりと流しておく。
《気遣い、ありがとさん》
俺はそれだけを言って、即切断した。
「さぁて、どうしようか…」
俺は懐から増血丸の入った小瓶を取り出す。
カランッ!
その瞬間、体から力が抜け、目の前が暗転し、手元から小瓶が地面へ転がった。
「しまっ……!」
ヒュン!!
二本の光の槍が俺の頭部目がけて飛んでくる!
……よけられねぇ、ぞ!
体勢も整えることができず、俺は――。
「……たくよぉ、どこが大丈夫だってんだ」
目の前に守鶴のげんえ……守鶴!?
「何驚いた目ぇしてんだ?」
「いやいや、来なくていいって言ったじゃん」
「途中で切りやがって…んなこと、聞いてねぇし!」
バキバキッ!!
飛来していた二本の光の槍は、半獣化した守鶴の尾によって防がれ、音を立てながら砕けていく。
「脆ぇなぁ。んじゃ、今度は俺さまの番だな!!」
守鶴は地面に両手をつき、半尾獣化させた腕から大量の砂を流していく。
「磁遁! 多段砂時雨!!」
広がった大量の砂からビー玉サイズほどの砂の球が無数に浮き上がり、二人を目がけて高速で飛来しだす!!
「ちょ、これやばいんじゃ!」
「しまっ…!」
ドォォォン!!
悲鳴も聞こえる暇もなく、砂時雨に撃たれて砂埃の中に消える二人。
「こんなところか?」
砂埃の中から砂の塊が守鶴の尾に入って消える。
砂埃が止むと、無傷の電線、アスファルト、民家とその塀が現れだし……地面に横たわる全裸の二人の姿が……何で、全裸やねん。
「しかたねーだろ。周囲を傷つけないようにしろって言ってんのは、どこの誰だ?」
「ま、まぁ…それって、俺が言ってることだよね」
「そーだ」
「つか、何で全裸なん?」
「しかたねーだろ、破壊力を極限にまで抑えてんだからさ、人間相手なら死ぬかもしれねーが、あの女どもなら良くて打撲とアザができるくらいだ」
……そりゃ、ね。人間に比べたら、かなり頑丈だもんね…異形の体は。
「くっ! ……いまはあのお方に報告せざるを得ない。ミッテルト、一旦……」
「ふきゅ~」
「こんな時にのびて…あー、めんどうだ!」
カラワーナはのびて気を失っているミッテルトを抱えて、さっそうと飛び去って行った。
「……何だったんだ?」
「どう見ても、俺を排除しに来たにしか見えなかったんだが……」
俺はそう言ってため息をつきながら、近くの電柱に背を預ける。
「疲れてんな、カズ」
「そりゃ、疲れるも何も…」
ふぅ…と、再びため息を吐く。
「んじゃ、俺さまは帰るぜ」
「ありがとさん、守鶴」
俺と守鶴は別れて帰路に着く。
……ほんと、奇襲ばかりで疲れる。