ハイスクールD×D ―忍一族の末裔―   作:塩基

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――能力を持った忍びの世界が滅び、唯一存在しているのは末裔の主人公…たった一人――


忍の末裔

―おい、起きろ――。

 

……だ、誰か僕を呼んでる…。

 

――起きろっつてんだろ、小僧――。

 

…僕は目を開ける。すると、目の前に大きい口が見える…。

 

《…やっと起きたか小増》

 

…僕は……僕は…。

 

「…う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

《お、おい! 泣くな! おい!》

 

……怖い、怖いよぉ!

 

《九喇嘛、まだ小さい子供よ。脅かしてはダメよ》

 

《そうですよ。まだ幼いのですから》

 

優しく頭を撫でられる……。

 

「…ぐすっ」

 

僕は涙を拭いてゆっくりと目を開けた。

 

《…初めまして》

 

僕と同じ目線…屈んで微笑んでいるお姉さん。

 

《私は穆王(こくおう)と申します》

 

白い着物を着た綺麗なお姉さんがそう言う。

 

《私は又旅(またたび)。これからよろしくね、カズちゃん》

 

青い服を着たお姉さんが頭を撫でながらそう言う。

 

《俺は孫悟空(そんごくう)だ。小僧…カズでいいか?》

 

赤い服を着たおじさんが僕の前に座って言う。

 

《俺は犀犬(さいけん)って言うんよ。よろしく》

 

白い着物を着たお兄さんがおじさんの横に座って言う。

 

《ラッキーセブン。重明(ちょうめい)だ》

 

背中に生えている羽をはばたかせて浮いているお兄さんが言う。

 

《俺は牛鬼(ぎゅうき)。よろしくな》

 

筋肉がすごいおじさんが座って言う。

 

《僕は磯撫(いそぶ)。よろしく》

 

甲羅を背負っているお兄ちゃんがおじさんの横に座って言う。

 

《シャハハハハ! 俺様は守鶴(しゅかく)だ。覚えておけよ》

 

顔に刺青を入れたお兄ちゃんが言う。

 

《あとは九喇嘛だけですよ》

 

白い着物を着たお姉ちゃんが後ろを振り向いて言う。

 

トントントン――。

 

軽快な足音と共に暗闇から誰かが歩いてくる…。

 

《……く、九喇嘛(くらま)だっ。小僧、グズグズ泣いてんじゃねーぞ…食うからな!》

 

余所を向きながらそう言うお兄ちゃん。

 

「…つ、ツンデレ?」

 

《誰がツンデレだっ。やっぱり食ってやる!》

 

「怖いよぉ」

 

僕は又旅のお姉ちゃんに抱き着く。

 

《九喇嘛、小さい子にそれはないわよ。…ツンデレは事実でしょ?》

 

そろ~と顔を後ろに向ける…。九喇嘛のお兄ちゃんが目を吊り上げながら、抗議している。

 

僕はそれを見て…笑った。

 

                    D×D

 

――目を覚ますと、そこは見慣れた天井がある…そう、ここは俺の部屋のベッドの上だ。

 

体を起こしてベッドから降りる。

 

「~ぁ」

 

大きく伸びをし、身支度をする。

 

俺は覚醒したばかりの脳で、夢のことを思い出した。

 

――なぜ、幼い頃のことを思い出したのだろうと。

 

あの夢は初めて尾獣――守鶴たちに会った時のことだ。

 

幼い俺を気遣って、皆は人化した姿で俺の前に現れた……九喇嘛は初めだけ顕現サイズだったが…。

 

慣れてきた頃に皆は顕現した姿で俺の前に姿を見せてくれた。…正直言って、驚きはあったけど、そこまで怯えたりしなかった。

 

俺は高校の制服を着る最中、机の上に立ててある写真に視線がうつった。

 

そこには、高校の入学式で撮った家族写真と兄弟の写真、彼女とデートで撮った写真がある。

 

俺は異形の存在となってから、色々なことに関わってきた…大方が危害をもたらす妖怪や悪魔などの退治。

 

そういう生活の中で、俺が異形の存在だと知っている身近な人は…彼女の(れい)と家族の人くらい。親父やお袋、義弟(イッセー)には言っていない。

 

麗に俺が異形の存在と教えたときは、すごく驚いていたし…心配もされた。

 

中にいる皆は条件付きで顕現できるし、サイズや姿も自由に変えられる…顕現ミニサイズで現れた皆を、いまの麗はすごく可愛がっているし、人化した又旅と穆王と出かけたりもしている……もちろん、彼女の家から。

 

俺は鞄を持ち、部屋を出て階段を下りる。

 

                    D×D

 

「行ってきます」

 

最近目覚めの悪い弟のイッセーと一緒に家を出る。

 

…おっと、紹介がまだだったな。

 

俺は兵藤(ひょうどう)和成(かずなり)。隣で歩いているのは義弟(おとうと)の兵藤一誠。

 

…なぜ苗字が同じなのに、義兄弟かって? それは…まぁ、ちょっと深い理由…でもないか。

 

俺の両親とイッセーの両親は知り合い…というより、高校の時からの親友同士みたいなものだった……らしい。話を深く突っ込んだことはないからな、そういうの。

 

俺がまだ幼い時、家族三人で旅行に出かけたときに……父さんと母さんと死別した。

 

――交通事故。

 

旅先からの帰りの高速道路で居眠り運転をしていた後続の乗用車が、幼い時の俺と父さんと母さんの乗っていた車の後方に高速で追突。そのまま押されるように左車線のガードレールに衝突して二台とも横転――大破。運転していた父さんと助手席に乗っていた母さんは即死。追突してきた車の運転手も即死。幼い時の俺は後部座席のチャイルドシートのおかげで、左腕と右足の骨折だけで済んだ。

 

…意識が戻ったのは、四日後の正午あたりだったな。

 

意識の無い中、あの夢――今朝、見ていた夢を見た……いや、皆が姿を現してくれたんだ。

 

たぶんだが、皆が力を使って俺を助けてくれた…時間が経つにつれ、そう思うようになっていっていた。

 

その後、俺は父さんたちの知り合い――ここ、兵藤家に引き取られた。

 

――そして、いまに至る。

 

あくびをかみ殺し、朝日に厳しく目を細めて隣を歩いているイッセー。

 

…数日前の夜中、部屋から出てきたイッセーとすれ違った時に気がついた…人間()()()気配ではなく、異形の気配…。

 

俺は部屋に戻った時、ショックを受けた……あれほど巻き込みたくない家族を――イッセーを巻き込んでいたと。…原因はわかっていないが、なってしまった時間から考えると、イッセーの初デート…天野夕麻という女子高生と出かけた日からだと思う。

 

朝に弱く、夜に耐性がついてしまったイッセーに訊く。

 

「イッセー。最近、朝が滅法弱くなってるように見えるんだけど…気のせいか?」

 

「ん?まあ、ね」

 

苦笑いしたイッセーだが、辛そうにしている…。

 

歩くこと十数分……俺たち兄弟が通っている高校――私立駒王学園の門前に着いた。

 

「――カズく~ん」

 

俺を呼び名で呼ぶ声が聞こえ、その声のするほうを見る。

 

「…っと。イッセー、先に行っていてくれ」

 

「ん~、はいはい」

 

いつもなら「うらやましいぞ、カズ!」なんて突っ込んでくるんだが…やはり、ここ最近のイッセーはどこか変だ。

 

「おはよう、レイ」

 

「おはようございます。カズくん」

 

「おはよう、カズ」

 

「おはようございます、カズ」

 

麗の隣に二人の女性――人化している又旅と穆王だ。

 

右に立っているのが又旅。蒼い髪色でオッドアイが特徴的。

 

左に立っているのが穆王。長い白髪を一本の(かんざし)で結って留めている…ツーサイドの片方だけみたいな? しかも、一昔の主婦が着ていたと思う割烹着を着ていた。

 

二人は尾獣だが、この俗世で人の形をとって暮らしている…あっ、他の尾獣七人も人の形をとって生活をしているな…。

 

又旅と穆王は麗の警護を主に、生活の中では家事などをしている。

 

ちなみにだが…尾獣は普通、抜かれると宿主は死に至る。俺の中には九体のチャクラ…約三分の一が留まっているから、死ぬことなく九体が外に出られている。

 

……まぁ、こいつらの事はさておき――。

 

「行ってくる。又旅、穆王」

 

「行ってきます」

 

俺と麗は又旅と穆王にそう言い、正門を通る。

 

「行ってらっしゃい」

 

「気をつけて」

 

又旅と穆王も送り出しの言葉をかけて、元の道を帰っていく……俺と麗は帰っていく二人の背に手を振った。

 

俺と麗は校舎内に入ろうとして、見覚えのある人影を見つける。

 

「…遅かったな。カズ」

 

「九喇嘛…何で居るん?」

 

一瞬言葉が変になったが、そこはスルーしておいて……。

 

「おはようございます。クーちゃん」

 

「やめろ、その呼び名でワシを呼ぶな」

 

麗が呼び名で呼ぶと、若者の姿の九喇嘛が引き攣った顔でそう言う。その姿で「ワシ」とか言うもんだから……吹きそうになったぞ、俺。

 

「何の用なんだ?」

 

「少し込み入ったことがあってな…いいか?」

 

「あぁ…すまん、先に教室行っててくれ」

 

「うん」

 

俺は麗にそう言って席を外してもらう。

 

「屋上に移ろう。人が多いからな」

 

俺と九喇嘛は校舎の屋上に移動する。

 

屋上に着くと、九喇嘛が口を開いた。

 

「カズ、気づいてるだろう?」

 

「ん、何に?」

 

「…あれだ。近くにある廃教会から感じる気配、はぐれ神父ども」

 

「あ~、なんとなく気づいているけど…」

 

俺は嫌なことを連想してしまう…ありえないと思ってはいるが。

 

「阿呆、それだ。ワシらはあのエロガキが転生した日より密かに調べていてな…」

 

「やっぱり、イッセーは違う存在になっていたか…」

 

「あぁ。あのガキは人ではない……」

 

「…わかったよ、俺も原因を調べとく」

 

俺は九喇嘛と屋上で別れる。九喇嘛は登校してくる生徒が少なくなった頃をみて、校舎を離れるらしい。

 

俺は階段を下り、教室に入ると……。

 

「騒ぐな! これは俺らの楽しみなんだ! ほら、女子供は見るな見るな! 脳内で犯すぞ!」

 

最低な発言が聞こえてきて、俺はため息をついた。

 

いまの発言者は…同じクラスでイッセーの悪友の一人――松田。見た目は爽やかなスポーツ少年だが、日常的にセクハラ発言が出る変態。

 

「ふっ……今朝は風が強かったな。おかげで朝から女子高生のパンチラが拝めたぜ」

 

キザみたいに格好つけているメガネがもう一人の悪友――元浜。そのメガネは女子の体格を数値化できる変な能力を持っているらしい。

 

朝からそんな二人を見て、ため息が出る。いつもならそこにイッセーも交じって、エロ話に熱をたぎらしているんだが……あの日以降、二人がエロ話を持ち掛けても反応が薄い。

 

俺は自分の席に着く…麗の隣の席だ。

 

「ねぇねぇ、クーちゃんと何話してたの?」

 

麗が話しかけてくる…周りを囲んでいたクラスの女子も、なぜか静かに俺の返答を待つように耳を傾けている…怖いぞ。

 

「あぁ、ちょっとした相談だよ。男同士のね」

 

「えぇ~、教えてくれないの?」

 

「教えられるわけないだろ」

 

俺は裏の話を持ち出すわけにもいかないことを言ったつもりだったのだが……麗はわかっている表情をしたが、周囲の女子たちが黄色い声を上げだす。

 

「ねぇ! さっきの男の人、カズくんの知り合いよね!?」

 

「この前もデパートで見かけたんだけど、ここに住んでるの?」

 

次々に飛んでくる質問の雨に、俺は苦笑を浮かべるだけだ。

 

「あ~……え~と……」

 

ちょうどその時、H R(ホームルーム)のチャイムが鳴りだす。

 

「あ、先生が来る時間だよ」

 

俺がそう口にすると、女子たちは残念そうに席に戻っていく。

 

「命拾いしたね」

 

「他人事みたいに言うなよ…」

 

麗からそう言われ、俺はため息を吐きながら…机に突っ伏した。

 

                    D×D

 

「今日もいっぱい買ったね~♪」

 

下校の道中、麗と近くのスーパーで買い物を終えた俺は……右手に鞄、左手に買い物袋を提げながら、ご機嫌な麗の隣を歩いていた。

 

…日も暮れ、闇夜の星たちが天で輝いている。

 

「迎えに来たわよ」

 

突然、道の向こうから現れたのは…又旅だ。

 

「まーちゃん!」

 

麗が又旅を呼ぶ。……こいつのネーミングセンスには、ついて行かれないんだよな…単純なのか、センスがないのか……。

 

「迎えに来てくれるなんて、気が利いてるなぁ…」

 

「カズくん……なんだか、おじいさんみたいだね」

 

麗が又旅に袋を手渡しているなか、そんな会話をしていた…が――、

 

「カズ!」

 

ドォォン!!

 

又旅の叫びとともに、俺はその場から吹っ飛ばされた!!

 

「痛ってぇ…」

 

砂埃が舞い上がり、視界が悪いなか――、

 

「ただの人間だと思ってたっすけど、なかなかやるじゃん」

 

「……何者?」

 

砂埃が払われ、姿を現したゴスロリ少女の姿を見て…俺はそう言う。

 

「わたくし、堕天使のミッテルトと申します~」

 

そいつ――堕天使ミッテルトは、ゴスロリのスカートをちょっと摘まんで微笑む。

 

……どう見ても、年下にしか見えないや。

 

「あ! いま、うちのこと『年下の幼女』とか思ったっしょ? ノンノン。こう見えても、あんたよりは年上になるっすよぉ」

 

「…え~と、すみません。人って見た目によらないって言いますもんね。…って、人じゃなかった…堕天使だった……」

 

…つい、反射的に謝ってしまった……まぁ、いいや。

 

「……で、俺に何の用ですか? 堕天使のお姉さん」

 

「あんたに用はないし…。うちは後ろにいる小娘に用があんの」

 

「小娘……レイのことか?」

 

「そうそう。そこの人間の小娘を殺しに来たんすよ~」

 

「殺しに、か…」

 

俺はズボンの埃をはたきながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「マジか…」

 

「ちょーマジっす!」

 

ブゥン。

 

堕天使のミッテルトは、右手に朱い光の槍を出現させ――、

 

ヒュッ。

 

風を切る音。

 

ドスッ。

 

…鈍く重い音とともに、腹部に激痛が走る。

 

腹部を光の槍が貫いて、真っ赤な血が噴水のように吹き出る!

 

「あ~あ、死んじゃったっすねぇ。…じゃ、次は――」

 

「……次は…何だ?」

 

俺の問いかけに、ミッテルトは目を丸くして驚いていた。

 

立ったまま死んだと思っていたらしいが……事実、俺は死んでいないし、意識もしっかりと保っている。

 

「……『死んでないっ!?』って顔してるね。悪いけど、俺は心臓と頭部以外は消されない限り再生できる体質なんでね…こんな風に」

 

ぽっかりと空いた腹部から煙が上がり、ものの数秒で穴が完全に塞がる。

 

懐から小瓶を取り出し、なかに入っている粒を一つ…飲んだ。

 

…増血丸。一粒で失血した3分の2までなら、血を増やすことのできる特効薬…穆王の作ってくれた秘薬だ。

 

体から気だるさが抜け、全体に血が巡っていく。

 

「ちょっとヤバイって感じなんでぇ、一旦退却させてもらうっすね!」

 

ミッテルトの頭上に魔方陣が展開し、光が弾けるとともに姿を消した。

 


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