あれから数日後。
いつものように学校へ通う日々なのだが、無人島へ修行に行っていた日から少し周囲が変化していた。
…その日にアーシアさんが兵藤家に越してきていたからだ。
雅家で夕飯を御馳走になり、家に帰ってからそのことを知らされた上に、アーシアが丁寧にあいさつをするもんだから…俺も流れであいさつをしてイッセーに爆笑された。
アーシアさんが住みだして、家の中の決まり事とかが大きく変化していた。
俺も生活の変化で過ごし難いところも出てきていた……アーシアさん関連で。
風呂やトイレなどももちろん、空部屋だった一室がアーシアさんの部屋に変わったことも関係している。
なぜなら……イッセーの部屋の隣が俺の部屋で、その隣にアーシアさんの部屋があるから。
部屋の並びが気まずいことになっていて、部屋の前をとる時なんかは細心の注意を持って通っている。
イッセーはアーシアと共に行動していることが多く、今も登校している俺たちの並びで言うと……進行方向に向けて左が俺、右側にアーシアで真ん中にイッセーといった横並びだ。
しかし均等に距離は取っておらず、俺は一歩離れたところを歩いていた。
「いいお天気ですね。イッセーさん、今日は体育でソフトボールをやるんですよ。私、初めてなので今から楽しみなんです」
楽しそうに会話をしている二人。
そんな中、同じ学校へ通う生徒たちの凄まじい視線がイッセーに向けられていた。
「どうして、アルジェントさんと兵藤が同じ方向から……」
「バカな……何事だ……」
「嘘よ、リアスお姉さまだけじゃなく、アーシアさんまで毒牙に……」
観衆の悲鳴というかなんというか……それにしても、イッセーってここまで酷い扱いなんだな…小さい頃から見てきてたけど…。
…確かにイッセーはエロ全開で、『変態三人組』の筆頭として学園生活を送っていたわけだし、その影響でありえないと思われ続けていたからね。
「――おはようございます。カズちゃん」
二人の微笑ましい会話を見ていた俺に、聞き覚えのある呼び名で呼ぶ声がする。
「あ、おはようございます。なっちゃん」
T字路の曲がり角から急に姿を現す奈津美。そのせいか、反射的に敬語と小さい頃の呼び名で返してしまった。
「いきなり出てきたから、びっくりした」
「ゴメンなさい。…そ、そうです……お弁当作ってきたので、宜しければお昼に食べてください」
奈津美の手元には、鞄以外の袋が一つ提げられていた。
受け取った俺はその大きさと重さから『重箱』と判断した……というより、四段はあるぞ…この弁当。
俺は「ありがとう」と笑顔を向ける。
それから五分ほど歩くと、学校の正門に着く。
「おはようございます。カズくん」
反対の道から一人で登校してきた麗。
「おはよう。レイ」
「………」
ジーと俺の手に提げられている重箱の入った袋を見つめる麗。
「ねぇ……」
その声は低く、冷たいものを感じさせる。
「その手に持っている袋は何かな…?」
「これは…」
俺は言葉に詰まってしまった。
「はい」
麗が笑顔で俺に包みを手渡してくる…弁当だ。
「今日もおいしいものを入れています。よ~く味わってくださいね」
笑顔は笑顔でも…目が笑っていないのがすごく怖い。
「あら、おはようございます。奈津美さん」
「おはようございます。麗さん」
ニコニコと目が笑っていない二人があいさつを交わし、共に校舎へ向かって歩き出す………怖ぇ。
正門に置いて行かれた俺は、トボトボと一人校舎へ向けて歩く。
D×D
その日の昼。
昼休みに入り、いつものように屋上でシートを広げて座る。目の前には麗の作った弁当と奈津美の作った何人前かわからない重箱の弁当がある。
「いただきます」
麗と奈津美が手を合わせてから弁当を食べ始める。
麗のは、俺に作ってくれた弁当の色違い。
奈津美のは、ごく普通サイズの弁当箱。
二人は無言で食べながら、俺の方をチラチラと見てくる。
……すごく食べづらいんだけど。
アウェー過ぎる空気の中、俺は勇気を出して弁当箱を持つ……奈津美のだ。
「い、いただきます」
一口食べる……うまい!
「…どう?」
「うん。卵焼きの出汁が絶妙で、柔らかくて美味しい」
奈津美は嬉しそうに笑んでいた。
「私のは…?」
心配そうにしている麗。俺は重箱を横に置き、麗の弁当を食べる。
「…煮物の出汁の加減が丁度よくて、火の通りづらい人参もしっかりとしていて美味しい」
「よかったぁ」
麗も嬉しそうに笑む。
俺はそんな二人に、小さな提案を出してみる。
「…二人ともさ、お互いの弁当を食べてみたらどう?」
そんな提案を聞いて、二人は目を丸くする。
「そ…そうね。相手の腕前を知っておくのも勉強のうちね」
「…ですね。私も麗さんの腕前を知っておきたいと思います」
お互いの得意なものを差し出して食べている…仲が良いのか、悪いのか…。
俺はそんな二人から弁当へ視線を移した。
……この量、食わないといけないのか…。
俺は昼休みが終わる前に二人からもらった弁当をすべて平らげ、午後の授業の半分は机に突っ伏して聞いていた…。