メイクアップを終えた俺と麗と舞は、イッセーたちが殴り込んでいる廃教会の屋根の陰に潜んでいる。
気配を完全に消し、天窓から様子をうかがっていたら…穴が開いている壁から、白髪の青年…容姿から見て、神父が走り去っていくのが見えた…強烈な悪意と共に。
天井が脆くなっているせいだろうか隙間がいくつも開いており、中の音や声がよく聞こえる。
「さて、下僕にも捨てられた堕天使レイナーレ。哀れね」
死を悟ったのか、震えだした堕天使レイナーレ。
その視線がイッセーに移る。途端に媚びた目をする。
「イッセーくん! 私を助けて!」
その声はイッセーの元カノ――天野夕麻のものだ。
「この悪魔が私を殺そうとしてるの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛している! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」
衣服も堕天使のものから天野夕麻のものへ変化させて、涙を浮かべながらイッセーへ懇願する。
「グッバイ。俺の恋。部長、もう限界っス……。頼みます……」
それを聞いた途端、堕天使レイナーレは表情を凍らせていた。
「……私のかわいい下僕に言い寄るな。消し飛べ」
グレモリー先輩の手に魔力が集まりだす。
……このタイミングだ!!
俺は立ち上がると共に、背に堕天使の翼を展開し光の槍を二本出現させ…思い切り放つ!!
その槍は天窓を破壊し、背を向けているグレモリー先輩へ襲い掛かる。
パキンッ!!
槍は禍々しい気配の剣を持った木場に切り伏せられ、手元に魔方陣を出現させて結界を作りだした姫島先輩の二人によって防がれた。
ドォォォン!!
俺の足元が消し飛ぶ!! グレモリー先輩がレイナーレに向けていた魔力の矛先を俺に向けてきた。
予想通りの動きを見せてくれたので、俺は翼を羽ばたかせ……レイナーレの眼前に着地する。
麗と舞も同じように翼を羽ばたかせて、レイナーレの眼前に着地した。
「レイナーレさま!! ご無事で!」
「一旦引くっすよ。ドーナシーク!」
「言われなくとも分かっている」
カラワーナの姿の舞とミッテルトの姿の麗がレイナーレに肩を貸し、ドーナシークの姿の俺が両手に光の槍を持って対峙する。
「どういうこと!? あの三人はどうしたの!」
グレモリー先輩が俺たちを睨みつけ、問うてくる。
「全くの
「グレモリー嬢。今度こそ、
追撃しようとするメンバーに向け、光の槍を放っておく。
一瞬だけでも時間が稼げれば逃げられる……文字通り、逃げられたけど。
《迫真の演技、お疲れ》
磯撫からテレパシーが届き、俺はため息を吐く。
《あぁ。俺たちがメイクアップしていることと、レイナーレを始末することを伝えておいてくれる?》
《うん。なつみには実況させる》
《実況って……まあ、いいや》
磯撫と話し終えた直後、又旅が話しかけてきた。
《カズ。あの子の
《あの治癒するやつ? 入れてるってことは、取り出さないといけないのか…》
《そういうことよ。……胸に刻印があるでしょ? それが移植した時の痕よ》
《何とかして抜いてみる》
《イッセーくんたちに話しておくわ。いきなりでパニックになってるからね》
《りょーかい。頼みます》
又旅とも話を終え、俺は誰も追ってきてないことを確認して、殿から三人の前に出てすぐに近くの木々の陰に着地する。
「レイナーレさま。お背中を」
「悪いわね……助けに来てくれて助かったわ」
「滅相もありません。……今から、中にある
俺の言葉を聞いた瞬間、レイナーレの表情が凍りつく。
「う、裏切るつもり!?」
「裏切るも何も。元から俺たちはあんたの味方じゃないですよ」
口調を戻し、ボフン! とメイクアップを解いた俺たちを見て、レイナーレは目を見開いた。
「あんたたちが
「旧世代の遺産……!! あれは眉唾じゃなかったの!?」
「いや、私とマイが持っているのは正真正銘『帝具』。今のは『
瞬時にレイナーレの四肢が凍結され、足は地面に固定される。
「私の帝具『
麗が俺の方を向く……分かりましたよ。
「堕天使レイナーレ。今あんたの中にある
「い、嫌よ!!」
「往生際が悪いね…お姉ちゃん、例のあれで拷問でもする?」
「あれか…ちょうど試す相手がいなかったからな」
二人の目がギラリと光ったのを見て、俺は止めに入る。
「待て待て。
「取り出したら死ぬんでしょ? お姉ちゃんの
「あーもう! 時と場合だろうに。……もう自棄だ!」
俺は歯止めがかからないことを悟り、印を組む。
右腕から半透明の腕が伸び、レイナーレの胸部に侵入する!
「ヤ……イヤァァァァァっっ!!」
断末魔を上げるレイナーレ。
何かを掴んだ感覚があったので、俺は間をあけずに引っ張り抜いた。
半透明の腕が右腕に戻り、その手の中には……一組の指輪が淡く光り輝いていた。
「これがアーシア・アルジェントの
俺は懐から巻物を取り出すと、広げて中央に置き……印を組んで別空間に飛ばして保管する。
ぐったりとしたレイナーレに舞が近づき、顎を持ち上げる。
「お姉ちゃんの拷問にはかけられなかったけど、どう? 死を間近に感じる感覚は…?」
「わ……私は…まだ…死ねない……!!」
レイナーレの目に光が灯っているが、顔は蒼白で呼吸もままならない状態だ。
「そっかぁ。じゃあ、私の骸人形にしてあげる…あの三人と一緒のね」
それを聞いた瞬間、レイナーレの表情が歪みだす。
舞は太腿に括っていた八房を鞘から抜き、躊躇なしでレイナーレの胸部――心臓に突き立てた。
大きく吐血して目から光を失っていくレイナーレ。俺は六道仙人の姿になり、出現させた杖を魂に刺して人のものへと昇華させる。
八房の刀身が光り輝き、光が消えたときにはレイナーレの骸は消えていた。
…あとは、グレモリー先輩に
ちょうど今、又旅から連絡が入ってきたところだった。
『アーシア・アルジェントが、リアス・グレモリーの力で蘇った』と。
…ということは、イッセー同様、悪魔として蘇ったということになる。
「…さて、皆のところに戻ろう。目的も達したし、アーシアさんは生き返ったみたいだし」
「生き返ったの? それじゃあ……」
「聖女が悪魔になったってところ」
俺は帰ろうとして、一歩前に踏み出した瞬間……肩を麗に掴まれた。
「例のあれの実験台……カズがなれ」
「え!? 拷問にかけられるの? 俺」
「レイナーレがいないから、私の楽しみがなくなった」
「……すみません」
俺は力を解いた麗を抱えて走った。舞はまだ持つらしく、俺のあとを走ってついてきていた。
……帰ったら、その拷問に俺は耐えられるのか?
そんなことを思いながら、イッセーたちが待機している廃教会へ向けて走った。