ハイスクールD×D ―忍一族の末裔―   作:塩基

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傀儡―かいらい―

 

幼馴染と再会し、その幼馴染が抱き着いてきたおかげで…右腕肘から先が氷漬けになってしまった。

 

…どうしようかと思っていた矢先、九喇嘛が話しかけてきた。

 

《おい、カズ》

 

《何だよ、いきなりテレ飛ばしてきて》

 

《仕方がないだろ、あの堕天使どもが動き出しやがったぞ》

 

俺は人気がない路地に二人を連れ込み、俺たち以外がいないことを確認した俺は……九喇嘛チャクラモードになる。

 

チャクラが衣を成し、悪意の索敵を即開始する。

 

それはすぐに見つかる。

 

《大体の状況は理解したぞ》

 

《あぁ。俺たちはその廃教会へ向かっている》

 

《俺たち?》

 

《三尾を除いた全員が別々のルートから向かっている。カズもとっとと来い》

 

《……行くしかない、選択肢はないし》

 

…選択なんてないよな。

 

《ワシと一尾はエロガキと行動している。他は知らんがな》

 

《了解。俺もすぐに発つよ》

 

会話を終え、二人に言う。

 

「俺は今から堕天使の巣に殴り込みを入れてくる。麗は来ると思うけど、なっちゃん……なつみはどうする? 日向(ひゅうが)って聞いたけど、柔拳を扱えるんだよね?」

 

俺は生きていた時の父さんと母さんに、日向の話を聞いた記憶が残っている。

 

「…そうですね。柔拳法と白眼は扱えます」

 

…やっぱり、あの眼は白眼だったのか…日向でそう感じてはいたけど。

 

「……協力しますよ。…いいえ、私はカズくんのお嫁さんになるんだから、協力というより共同作業ですね」

 

……また、爆弾を投下してきた奈津美。今度は核弾頭並みだぞ!

 

空気が凍り、俺の右腕がさらに凍っていく――。

 

                    D×D

 

俺は二人を連れ…いや、二人をチャクラの腕で鷲掴みした状態で家屋の屋根の上を走っていた。

 

「うん…この間、話してた帝具…そうね……」

 

チャクラの腕の中で麗が携帯で電話をしている……会話内容からして、舞?

 

話を聞きながらってのは事故になりやすいので、俺は麗の会話を聞き流す程度で耳に入れる。

 

俺は状況整理のために、奈津美に話しかける。

 

「なつみ。悪魔と堕天使の気配は分かるか?」

 

「はい。白眼でも見分けられます」

 

「白眼って、そんな能力あったっけ?」

 

「いえ、私は長年の修行で異形の存在を見分けられるように、鍛えてきたつもりです」

 

「そうなのか…。じゃあ、いまからの任務を伝える」

 

「はい」

 

俺はアーシア・アルジェントの事、堕天使の事、悪魔の事、イッセーの事……今起きている現状をすべて奈津美に説明した。

 

                    D×D

 

走ること数分、目的地の廃教会にたどり着き――屋根の上に着地する。

 

「結構速かったね…マイ」

 

「…お姉ちゃんこそ、すごく速かったよ」

 

磯撫に抱えられて隣に降り立った舞。

 

俺は九喇嘛チャクラモードを解除し、皆と共に身を伏せる。

 

「この教会ね。はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)と堕天使がいるところは」

 

「はい、私の白眼で見えるのは……はぐれ悪魔祓いが百名ほど。堕天使が一人と……」

 

「なつみ、どうした?」

 

「…いえ、奪取目標の聖女さんですが、十字架に磔にされた状態です」

 

「……酷いよ、磔なんて」

 

「そうだな。…磯撫、皆に連絡してくれた?」

 

「うん。九喇嘛と守鶴以外はここの周囲で見張ってるって言ってた」

 

麗と舞、俺、奈津美、磯撫で教会の外屋根の上に潜み、中の様子をうかがっていた。

 

…突然、奈津美が顔を上げて、屋根で見えない向こう側をうかがうように、白眼で凝視し出す!

 

「……カズくん、六時の方向に悪魔の女性二人、堕天使三人を発見しました」

 

「堕天使が三人……あいつらだな」

 

「どうするの? カズくん」

 

「どうするたって、先輩二人でも十分と思うんだが…」

 

「マイの骸人形にしたいなぁ…あの三人」

 

『!?』

 

俺と奈津美は舞の言葉に驚く……麗と磯撫は感づいていたのか、全く気にしていない様子だった。

 

俺は思考を巡らし、優先と遂行の効率、諸々の状況を模索する。

 

…そして、四人に指示を出す。

 

「……マイとレイ、俺の三人で先輩たちの間に割り込む。磯撫となつみは付近の物陰に隠れて、必要に応じて仕掛けてほしい。……その間は、絶対に感づかれたりしないでくれよ?」

 

「はい、カズくん」

 

「うん、わかった」

 

「散!!」

 

俺の掛け声とともに全員が動き出す。

 

俺と麗と舞はグレモリー先輩たちの方へ駆け出し、磯撫と奈津美は別々の方向から回り込みをかける。

 

「マイ、例のもの持ってきてる?」

 

「うん。ここにあるよ」

 

走っている途中で麗の質問に舞が服をたくし上げて答える。そこには、帝具の一つ『百獣王化(ひゃくじゅうおうか)・ライオネル』のベルトが巻かれていた。

 

「マイ、そのベルト…確か…」

 

「うん。宝玉が割れてたけど、お母さんが帝具で直しちゃった」

 

俺の疑問に舞が即答してきた…そんなことができるの?

 

「いくよ。ライオネルっ!!」

 

掛け声とともに舞の全身が輝きだし、光が止むとそこには……体を成長させ、髪を伸ばし、両手は獣の手と化し、頭部には耳が生えている。

 

「私も開放するわ!」

 

パキッ!! と周囲の草木が一瞬で凍りつき、麗の体を青い光と氷の結晶が包み込んでいく。

 

麗がその光と結晶を払った時には……一回り成長した麗の姿がそこにあった。

 

「……何だ?」

 

口調の変わった麗が俺を見るや否や、鋭い目で見てくる。

 

「……さてと、俺も使うかな」

 

話をそらすように、俺は体内のチャクラを一気に練り上げると共に周囲――自然に存在しているチャクラを取り込んで仙術へ変化させていく。

 

木々の枝を足場にして、俺たちは飛ぶように走る。

 

少し走ると……目の前に結界が張られているのを認識して、手前に飛び降りて立ち止まる。

 

「グレモリーの紋…この中にいる」

 

舞が結界に触れ、そう言う。

 

「……俺が突き破る」

 

俺は尾獣たちの中から、物理に秀でたチャクラを引き出す。

 

「尾獣降ろし――穆王!!」

 

溢れ出る穆王のチャクラと共に、頭部には角が、腰あたりに五本の尾が生える。

 

沸遁(ふっとん)怪力無双(かいりきむそう)!!」

 

俺は体内のチャクラを沸点まで高め、周囲に蒸気を放出させた。

 

「オラァァァ!!!」

 

パリンッ!!

 

全体重を載せた一撃の拳打で、結界が儚く砕けた……脆っ!?

 

「先に行くよっ」

 

舞が呆けに取られていた俺の横を高速で走っていく。

 

「おっと…」

 

俺も麗と共に舞の後ろを追いかける。

 

すぐに開けた場所が見え、先輩二人の背が見えたので……頭上を飛び越えて乱入する!

 

「乱入御免!」

 

俺は着地と同時に決め文句を吐く。

 

俺の左隣に麗が華麗に着地し、右隣に舞が派手に急ブレーキをかけて砂埃を巻き上げる。

 

「ちょ、ちょっと! あなたたち、危ないじゃない!」

 

魔力を放とうとしていたグレモリー先輩が、怒声と共に消滅の魔力を霧散させた。

 

「すみません、グレモリー先輩。あの三人の相手を譲ってもらえませんか?」

 

俺はグレモリー先輩に背を向けたまま物申す。

 

「何を考えているの? あなたたち、あの堕天使たちは――」

 

「お気持ち、お察しします。グレモリー先輩のさっきの魔力、相当な怒気を含んでいました…察するに、グレモリー先輩の怒りに触れる何かがあったものだと感じています。…ですが、それはこちらも同じ……いえ、それ以上だと思います。ですから、この場を俺たちに譲っていただけませんか?」

 

俺は柔らかく、そして…怒気を含んだ声音でグレモリー先輩に言った。

 

「……そう、少し理解し難いけれど……わかったわ」

 

「あらあら、よろしいですの? リアス」

 

「ええ。……私はイッセーのところに向かうわ」

 

「了解いたしましたわ。少々お待ちを」

 

後方で先輩二人の会話が聞こえ、数秒後――赤い光と共に気配が消えた。

 

「あっ! 逃げられた!!」

 

「ふんっ! 三下が出てきただけか」

 

「あの方の手土産にもならんな」

 

ミッテルト、紳士的な風貌の男、カラワーナがそう吐いた。

 

「三下はどっちかな? マイから見れば、そっちの方が弱そうに見えるけど?」

 

舞が喧嘩文句を言い終えた瞬間、俺と舞は高速で飛び出す!

 

『この三下風情が――』

 

「私を忘れていないか?」

 

俺と舞に気を取られている三人に向け、麗が氷で作った三本の太い槍をそれぞれ同時に放つ!

 

「くっ!」

 

「あー、もう!」

 

「ちょこまかと!」

 

三人が槍を弾いた瞬間、男が弾いた槍の陰から隠れていた舞が姿を現す!

 

「ドーナシーク!」

 

ミッテルトが男に向けて叫ぶ。……あいつ、ドーナシークって言うのか。

 

ドンッ!

 

舞の強烈な蹴りが低く鈍い打撃音と共にドーナシークを吹っ飛ばす!

 

「行くぞ、マイ!」

 

後方へ回り込んでいた俺は、掛け声とともに舞の方へドーナシークを蹴り返す!

 

ダンッ!

 

一旦地面に着地した舞は、背負っている八房を鞘から抜き、地面をクレーターができる勢いで蹴り――、

 

「まずは一人!」

 

ドーナシークの胸を貫き、その勢いのまま……木の幹を貫いて、地面に叩きつけた!

 

クレーターの中心で息絶えたドーナシークが横たわる……心臓を貫いたみたい。

 

「嘘っしょ!? こんなに強くなかったはず――」

 

「嘘じゃないよ」

 

「ひっ!!」

 

俺が眼前に現れて言うと、驚愕と恐怖で表情が歪むミッテルト。

 

その状態から瞬時に両手を組んで、脳天に叩き込む!

 

ドゴォォン!!

 

地面に叩きつけられたミッテルトは、小さいクレーターを作る。

 

頭部から血を流し、ピクリとも動かない…いや、意識はあるようで、口をパクパクと動かしている。

 

「逃がすとでも思った?」

 

舞が四肢を氷の槍に貫かれて、仰向けに地面に固定されているカラワーナの傍らに立つ。

 

「た、助けて…何でも…するから……」

 

「ダ~メ! 目が全然変わってないもん。少しでも後悔と苛まれている色があったら、助けてあげてもいいかなーって思ったんだけどね。何も変わってないから、処刑!」

 

舞が八房を振り上げて――、

 

ドォォォン!!

 

クレーターができる勢いでカラワーナの胸――心臓を貫いて絶命させた。

 

「あとは…ミッテルトだけだな」

 

俺はミッテルトの傍らに片膝をついてしゃがむ。

 

「……たす…けて…」

 

ミッテルトは涙を流し、後悔の色を瞳に映していた。

 

「ミッテルト、おまえを助けたいと一瞬思ったが…悪いな。もう少し前に…俺を襲った初めの日にその瞳をしていれば、運命は変わっていたのかもな」

 

傍らに立った舞から八房を受け取り、瞳の光を閉じたミッテルトの胸――心臓を貫いた。

 

「もう一つ、やらないとな」

 

話に聞いていたこと…純粋な堕天使は、死を迎えると魂は無に変える。そうなられては、罪を償えないからな。

 

…俺は六道仙人の姿になり、宙に三本の黒い杖を出現させる。

 

「十王――閻魔のところで裁きを受けよ」

 

その三本の杖を、堕天使三人の亡骸に突き立てた。

 

その直後、堕天使の翼が散りゆくように消滅していく。

 

……そう、堕天使としての存在――魂そのものを人間のものへと昇華させた。

 

能力は継承しているが、二度と翼は出現できない……骸人形でもな。

 

「あとは……レイナーレだけか」

 

俺はふわふわと宙に浮遊し、移動しようとしていた。

 

「あ! 一人だけ空飛ぶのずるい!!」

 

舞が宙に浮いている俺に指を突き付けて、そう叫ぶ。

 

俺は舞と麗を見て…ため息を吐く。

 

「わかったよ…ほら、これに乗って」

 

求道玉二つを平たくして、二人を乗せ……俺と同じ速度で二人を乗せている求道玉を動かして、教会へ向かう。

 

「……って、まだ持ってきてるのか、マイ」

 

舞がどこから出したのかわからない帝具――化粧箱を出していた。

 

「いいじゃん。ちょっと演劇でもしようかなって思って、持ってきた」

 

舞の言葉に俺はうなずき、磯撫にテレパシーを送る。

 

《…磯撫、奈津美を連れて先に教会へ向かってくれるか?》

 

《もう向かってるよ。さっき、三人が飛んで行くのが見えたから》

 

《そうか……俺たちは上から侵入する。磯撫たちは表から頼んだ》

 

《任せて》

 

磯撫との通信を終え、俺は一つあくびをする。

 

…さて、演劇を始めますか。

 


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