『
『フム、流石ハ超越者ト呼バレル悪魔ノ変異体ダ。悪魔モドキノ数値ヲ遥カニ超エテイル。ガ、悪魔モドキニハ違イナイ範囲ダナ』
神殿内に透明化していた機械兵の軍団にサーゼクス達は酷く苦戦させられていた。
滅びの化身となったサーゼクスでも特殊な装甲を持つ機械兵を消滅させることができず、既に滅びの魔力を消費し元の姿に戻っていた。
神殿外も数十機程の機械兵に取り囲まれ逃げることすら困難。
『セイゼイ有象無象ノ模造品共ニ優位性ヲ誇ル」
リーダー機体の機械兵が床に散らばる氷漬けのモノを見て言う。
神殿内の床には氷り漬けにされ砕かれた大多数の死神の残骸が転がっている。
ジョーカー・デュリオは自分のせいで死神たちが逃げられなかったことに罪悪感を感じた。
『気ニ病ム必要ハナイゾ? 天使ノ模造品モドキ。元々皆殺シニスルツモリダ。逃ゲル死神共ヲ捕マエル手間ガ省ケタダケニ過ギナイ』
そう言って氷漬けにされた死神の生首を見せつけ踏み砕いて見せた。
『我ラニ繋ガル証拠ハ全テ処分スル。当然、貴様ラモナ』
アザゼルが秘密裏に呼んだ
冥府ではこれ以上の援軍も期待できない。まさに絶体絶命の状況。
『少シバカリ性能テストモ出来タ。デハ、ソロソロ処分スルトシヨウ』
サーゼクス達がまだ殺されていないのは敵の嗜虐心ゆえの結果である。だがそれすらも今まさに尽きようとしていた。
『オット、処分スル前ニ名乗ッテオカネバ。ヨーゼフ・メンゲレ。――死ニ行ク者ニ名乗ッタトコロデ仕方ナイガナ。コレモ閣下ノ命令ダカラ仕方ナイ』
ヨーゼフ・メンゲレと名乗ったリーダー機体の機械兵が五指の銃口をアザゼル達に向けると、突如「ム?」と機械音声と共に動きが止まる。
『……悪運ノ強イ奴ラダ』
リーダー機体を除く全機が上空へ飛び去って行く。
そしてリーダー機体の機械兵もトドメを刺すことことなくどこかへ行ってしまった。
◆◇◆◇◆◇
ヴァーリチームが冥府で大暴れしてしばらくしての事。突如僅か十数機のロボットを従えて冥府に現れたのは黒い軍服を着た青い髪の少女。
「やあ、はじめまして。私の名前はアイヒマン。たぶんもう会うことはないだろうけど、初めて対峙した相手には名乗る決まりなんだ」
自己紹介をするや否や気怠そうな目つきとしゃべり方の少女が短い呪文を唱えると、ヴァーリチームの面々はテレビの停止ボタンを押されたかのように目と口以外ピクリとも動かすことができなくなった。
聞いたこともない言語の呪文で完全に動きを封じられてしまったヴァーリチーム。
そこで数少ない動く口で魔法に対しても堅牢な装甲を持つゴグマグに指示を出すも、少女はゴグマグを指さし呪文を唱えるとゴグマグは機能停止し両腕をだらりとさせた。
「汝の忠誠を示せ」
そう言うとゴグマグの口部分から掌に収まるほど小さな布の巻物が出て来た。
その巻物に名前を書いてゴグマグに戻すとゴグマグは少女にかしずいた。
「次からは忠誠の継承をしっかりしておくように。まあ、次があればね」
そして少女はゴグマグと連れて来たロボットを使い周りの死神を次々と屠っていった。
その一方で少女は無防備なヴァーリチームに近づき一番手前にいた美猴の眼前に立つ。
「?」
「――――」
そして何かを握らせ耳元で囁く。すると―――
「ッ!? …………」
「美猴……?」
少女がパチンと指を鳴らすと美猴だけが動き出しゆっくりと仲間の方へ振り返る。
美猴の目が異常な程に血走った眼で狂犬のような唸り声を上げる。
「グルルルルルッ!!」
「
一番近くにいたまだ動けないアーサーに今にも襲い掛からんと動き出した美猴。
しかしその時――黒い靄で形作られた大鎌が美猴の体を貫いた! すると美猴は力なくその場に倒れ込む。
その場に現れたのは骸骨頭の神様――
「ハーデス……!」
危機を救ったのはまさかのハーデスであった。
ヴァーリチームの傍に降り立ったハーデスは美猴を貫いた物と同じ黒い靄の大鎌を作り出し残りのヴァーリチームを纏めて横薙ぎに斬る。
大鎌が体を通過するとヴァーリチームに傷跡はなく金縛りが解けた。
≪死神達よ、総員今すぐ撤退せよ! これ以上死ぬことは許さん! 貴様らもそいつを連れてさっさと冥界から消えろ。そして二度と足を踏み入るな≫
倒れる美猴を指さして言う。
「助けていただき感謝します」
≪フン、勘違いするな。奴らの思い通り事が運ぶのが気に入らぬだけだ。次は姿を見せれば殺す≫
逃げさんとする機械兵だが、マントの中から取り出した形ある死神の大鎌で機械兵を斬る。だが切り裂くことはできず吹き飛ばすことしかできなかった。
しかしそのおかげでヴァーリチームは無事転移することができた。
「彼らも逃がすのですね」
≪全ての死には意味がある。意味なき死を認めることはできん。例え部下を消滅させた生意気な小僧共でもな≫
両脇に護衛の機械兵を配置する少女は一般家庭に置いてありそうなナイフを握りハーデスと対峙する。
「しかし私たちを知る者には敵も協力者も、皆消えてもらわなくてはならない」
≪初めから裏切るつもりだったか≫
「総統閣下の命令でね。証拠は可能な限り消し尽くせと。あの方は邪魔になれば味方だろうと容赦はしない」
ハーデスは纏うオーラと共に濃厚なプレッシャーを発する。
しかし少女は平然とした表情で言う。
「……私個人として申し訳ないと思ってる。でも私個人にも譲れないものがある。そのために私はやる」
≪ファファファ、そうか。ならば此度の裏切り、死の恐怖を以て贖罪としよう。小娘よ、己の愚かさを悔いるが良い…ッ!≫
向かって来るハーデスに護衛の機械兵を下がらせナイフを握り立ち向かう。
間合いに入ったハーデスが大鎌を振るうが、少女はそれを華麗に避けていく。どれだけ大鎌を振り下ろそうが未来を予知したかのように先手先手に躱す。
≪死の秩序を守ることこそ死神の存在意義。大義の為に部下を失うのは仕方のないこと。故に見過ごすわけにはいかぬ!≫
ハーデスの纏うオーラが漆黒に変色し漆黒のオーラが吹き荒れた。触れる物全てに死を与える冥府の死神王の息吹。
だが少女はこれも予備動作を確認する前に距離を取り、放たれた死の息吹を魔法で散らす。そうしてまたハーデスの懐に潜り込もうと接近した。
「ハーデス、貴方したことは今の情勢から見て正しいとは言い難い。でも三大勢力なんかよりもずっと正しい存在だった。そして私達よりも正しいかもしれない。だがそれを成し遂げる力がなかった。それが貴方にとって何よりの罪」
少女は一切の攻撃をしない。同時に自分の攻撃も一切届かない。ハーデスの中に焦りが生まれ始める。未知の言語呪文を除き矮小な人間のそのものの小娘になぜ届かないのか。
≪ガハ……ッ!!≫
その焦りがとうとう少女を懐に潜り込ませる致命的な隙を生んでしまった。
ハーデスの胸にナイフが深々と突き刺さる。
「苦しめはしない。辱しめもしない。それが私ができるせめてもの情け」
≪小娘が……! この程度で私を殺せると思ってるのか!≫
しかしギリシャ神話の一柱であるハーデスはナイフの一突きで殺せる程容易い存在ではない。
少女はさらに隠し持っていた片手で扱える小さな鎌を素早く取り出しハーデスの胸に突き立てた。それは特別な魔力も感じない普通の古い鎌にも見える。
≪……ッッ!?≫
ナイフを突き刺された時とは比べ物にならない程苦しそうにする。纏うオーラも不規則に乱れる。
「これは現存する数少ない死神の鎌。死神の王を名乗る貴方に敬意を表しあえてこれを使いました」
一歩二歩とゆらゆらと後ろに下がり今にも倒れそうな体で踏ん張る。
「本来なら一瞬で絶命するはず。やはり
その姿を見て申し訳なさそうに下を向く。
≪ハァ……ハァ……≫
ハーデスは自分の死を悟った。ならば最期にできることは――。
≪なら私も一つ言わせてもらおう。貴様らが私に言ったように≫
ハーデスは最期の力を振り絞り炎を通して見ているであろう者達に叫んだ。
≪聞けッ! 若造共ッ! 貴様らの考えは私なりに理解しているつもりだ。感情の力は凄まじい。魂を扱う身として昔から度々そう思わされる出来事に遭遇してきた。だが! 上に立つ者が感情で動くことは許されん! ましてや魂の尊厳を穢す行為は決して許されぬこと! それを破れば貴様らだけの償いでは済まぬ! 必ずや今いる生きとし生ける魂全てが償いを受けることになる! それだけは許されぬ! 決して許さぬ! だから私は動いた!≫
命を振り絞る魂の叫び。少女も機械兵達に攻撃の手を止めさせ静かに見届ける。
≪サーゼクス、アザゼル。貴様らが私に怒りを向けるのはわかる。だがあえて私からも言わせてもらおう。貴様らが世に放った無自覚の悪意が今まさに世界を蝕んでいるということを。私は私の守るべきものを守る為なら、私は恥も命も捨てて死を与える。死の秩序と安寧。それは誰であろうと犯してはならぬ世界の理なのだ!≫
一息に叫んだところで踏ん張る力すらなくなり崩れるように倒れ込む、
≪すまぬ、ペルセポネ……≫
一人残してしまった最愛の妻の名を呟き、ハーデスは息絶え消滅した。その姿を見て何かを重ね胸を押さえ「……お姉ちゃん」と小さくつぶやいた。
その場に残ったのは胸に突き立てられたナイフと鎌だけ。
「貴方の部下は無事戦場を離れることができました。ですが私はそれを追い殲滅させねばなりません。残念ながら貴方の数分の最期は僅かな時間稼ぎにしかならなかった」
得物を拾い上げ少女が機械兵に殲滅命令を出そうとした瞬間、少女の小型タブレットが鳴る。
その内容を見て少女は小さく笑う。
「貴方が稼いだ数分は無駄ではなかったみたいですね」
『アイヒマン』
神殿内で死神と魔王達を屠る役割を任されていた機械兵、ヨーゼフがやって来る。
『天使共ガ来タ。アノ性能ノ機械兵デハ時間稼ギモママナラン。スグニ撤退スル』
「わかった」
ナイフと鎌を回収し、アイヒマンとヨーゼフは冥府から離脱した。
彼女たちが転移魔法で離脱すると、一瞬の強大な聖なるオーラの発生と共に上空に飛び立った機械兵の残骸が空から降り落ちた。
冥府は壊滅的な被害を受けたが、短く激しい攻防の結末はこうして終結された。
◆◇◆◇◆◇
危機を脱し冥界と冥府を繋ぐゲートに辿り着いたところで、サーゼクスが改まった顔をしてアザゼルを呼ぶ。
「アザゼル」
「何だよ。改まって」
「私は最近常々思う事がある。私やアジュカのような魔王の時代は終わりが近いのかもしれない―――と」
アザゼルが黙って聞いているとサーゼクスは続ける。
「私達が魔王になれた最大の理由は『力』だ」
魔王の血筋以外から生まれてしまった強大な力を有した特異な悪魔―――それが現四大魔王。三大勢力が争った大戦の終結以降、そのような悪魔が何名か誕生した。
サーゼクスは拳を握りながら悲しげな表情を浮かべる。
「どれだけ強くとも『個』の力では、覆くつがえせないものがある。反発するものを生み出してしまう」
現政府は力で旧政府を打倒して冥界を変えた。その先頭に立ったのがサーゼクスや現四大魔王などの強力な悪魔だった。
その結果、追いやられた悪魔達はサーゼクスの力を妬み、呪った。前時代の
それがクーデターという形で一部浮き彫りになり今に至る。
「だが、アザゼル。『個』の力とは違う、大きなものがある。それが今の悪魔の世界にあるのだ」
「それは何だよ?」
「それは『輪』の力だ。我が妹リアスと義弟イッセーくんはそれを持って生まれてきた。たとえ『個』の力に限度があろうとも己の周りに集まる力―――『輪』によって、力と絆を確かなものとする。その結果、どのような限界、壁をも突き崩して成長していく。リアス達だけではないな。滅びを持てなかったサイラオーグも夢を抱き、信念を貫つらぬく事で信頼する仲間を得ている。それもまた『輪』だろう」
「―――なるほど、『輪』か。サーゼクス、イッセーは遂にオーフィスまで引き込んだ。―――もう、いろんなものがあいつらを無視できないだろう」
「うむ。それは『
ドラゴンは力の塊。そして、人間もドラゴンを力の象徴として古いにしえより崇めてきた。強いドラゴンは強者を引き寄せてしまう。
「あ、じゃあ、俺はここで帰ります。ミカエルさまに報告する事があるので」
ジョーカー・デュリオは天使の翼を羽ばたかせて、簡素にアザゼル達へ別れの挨拶を告げる。
「では、どうも」
少しばかり暗い顔をしながら飛んでいくデュリオ。
去っていくデュリオを眺めながらアザゼルは息を吐いた。
「さーて、俺も再就職口を見つけないとな」
アザゼルの言葉を聞いてサーゼクスは目を細めた
「……やはり、そうなるか」
「ああ、オーフィスを独断でイッセー達に会わせたのはどう考えても免職を免れない事柄だ。俺は―――総督を降りる」
各勢力に黙ってオーフィスをリアス達に会わせた事は、どう見繕っても条約違反。糾弾されるのは必然。
「それにうちの組織の異分子―――奴らに手を貸していた連中も大方締め上げたしな」
アザゼルの組織内の裏切り者はヴァーリの他、中間管理職に位置する者達であった。特に上位クラスの堕天使の一部がかなり情報を横流しにしていた。
既にその者達の身柄を確保して裁くところまで話は進んでいるが、逃げた者もいる。
「……俺の組織も潮時かね」
アザゼルがボソリと呟くとサーゼクスは何とも言えない表情をするだけだった。
「天界の方でも裏切り者を把握して、裁いたそうだよ」
「逃げた連中は堕天使と化して『
「神がいないと言う裏をかいて、天界の各種システムに穴が生まれているのは聞いている。そこを突かれたのだろう。何処も一枚岩ではないな」
悪魔側も旧魔王派とのイザコザが今後も散発的に起こるだろう。だが、今回の1件で旧魔王派の実力者も相当消えた。よほどの事が起きない限りは鳴りを潜めて静観するだろう。と、二人はまだどこか楽観的に現状を考えていた。組織を浄化するだけなら問題ないが、それらはその先の最終目的である和平に致命的な影響を与えかねない危険を孕んでいることに目が向かない。
「堕天使は天界の『
サーゼクスはそう訊くが、アザゼルは首を横に振った。
「良いさ。俺らみたいな悪党天使さまは俺らだけで充分。これは俺だけの意見じゃなくてな。残った幹部連中も同意なんだわ。三大勢力が和平組んでいるなら、もうこれ以上組織を肥大化したって仕方ねぇんじゃねぇかってな。現状維持だけで良い。まお空の天使が堕ちるなんて事があるならいつでもウェルカムだけどな」
拡大はしない。だが受け皿は残す。はみ出し者を受け入れ続けたアザゼルらしい選択だった。
「……しかし、グリゴリの―――アザゼルの功績であるオーフィスがこちらに来た事実は大きな事態だ。我らの歴史に残ってもおかしくない偉業なのだよ、アザゼル。それを促したのは―――紛れもないあなただ」
「今頃改まって『あなただ』とか言うなよ。恥ずかしい。だがな、サーゼクス。俺は悪党どもを率いるボスだ。聖書に刻まれても冥界の歴史に残っちゃいけないのさ。―――これからの冥界の歴史に残るのはお前やリアス、イッセーで充分だ。俺は堕ちた天使の親玉で良いんだよ」
「アザゼル……」
残念そうな顔をするサーゼクスに、アザゼルは頬を掻きながら悪戯な笑顔で言う
「なーに、ちょっと肩書きが変わるだけだ。俺は俺だよ。それと俺も前線に行くのは引退する。お前やミカエルのお陰で良い教え子がたくさん出来たからよ。そいつらの面倒を見るだけで余生を過ごせるさ」
それを聞いてサーゼクスはおかしそうに吹き出した。
「急に年寄り臭くなってしまったな」
「見た目若いけど、年寄りだぜ俺? お前が生まれる前から存在するんだからな。そこはキミ、年長者を立てたまえ」
「そうだな。今後はそうしたいと建前上は言っておこう」
「まー、とりあえず、これで今回の事件は終わりだ」
堕天使組織『
数々の殊勲、戦績を残すが、何よりも1番の功績は異例の成長を遂げる現
。
この二者を指導した事だと各勢力の要人は後に語り継ぐ……。
そして二人はハーデスの言葉を胸に残せはすれど深く考えることはなかった。
ハーデスの最期の忠告を受け止めるにはこの二人は若すぎた。
◆◇◆◇◆◇
冥界での騒動から幾日か経った後、僕達は部室で“ある事”をアザゼルから聞かされていた
「そ、総督を更迭された⁉ マジっスか⁉ ええええええええええええええっ!」
“ある事”とはアザゼルが総督を辞職した件についてだった。
もちろん理由はオーフィスを会わせた件だった。
アザゼル元総督は耳をほじりながら嘆息する。
「うるせぇな。仕方ねぇだろ。うるさい連中に黙ってオーフィスなんざをここに引き連れて来たんだからな」
「じゃ、じゃあ、今の先生の肩書きは……?」
一誠がそう聞くとアザゼルさんは首を捻ひねる。
「三大勢力の重要拠点の1つであるこの地域の監督ってところか。グリゴリでの役割は特別技術顧問だな」
「……総督から、監督」
塔城さんがぼそりとつぶやく。
「ま、そう言う事だ。グリゴリの総督はシェムハザがなったよ。副総督はバラキエル。あー、さっぱりした!ああいう堅苦しい役職はあいつらみたいな頭の堅い連中がお似合いだ。俺はこれで自分の趣味に没頭できる」
そう言うアザゼルさんは以前よりも開放的な表情となっていた。
つまり総督と言う肩書きと役職が無くなっただけで何も変わらないと。ただアザゼルさんの自由度が増すだけですね。
これから先、より自由になったこの人がどんなトラブルを持ち込むのか考えるだけで頭が痛くなりそうだ。
などと、浮かれていたアザゼルさんが書類を3通取り出した
「先日の中級悪魔昇格試験なんだが、先程合否が発表された。忙しいサーゼクスの代わりに俺が代理で告げる。まず、木場。合格! おめでとう、今日から中級悪魔だ。正式な授与は後日連絡があるだろう。とりあえず、書類の面だ」
「ありがとうございます。慎んでお受け致します」
書類を手に取り、頭を下げる木場さん。
「次に朱乃。お前も合格。中級悪魔だな。一足早くバラキエルに話したんだが、伝えた瞬間に男泣きしてたぞ」
「……もう、父さまったら。ありがとうございますわ、お受け致します」
赤面しながら書類を受け取る朱乃さん。
2人とも無事に中級悪魔へ昇格したんですね。おめでとうございます。
「最後にイッセー」
「は、はい!」
「お前も合格だ。おめでとさん、中級悪魔の赤龍帝が誕生だ」
「や、やったぁぁぁぁあああああっ! 今日から俺も中級悪魔だ! やった!マジ嬉しいっス!」
両手を上げて大声を張り上げる一誠。
「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「まあ、このぐらいは。でも、おめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとうございますわ。一誠先輩」
アーシアさん、ゼノヴィアさん、イリナさん、塔城さん、僕、レイヴェルさんが賛辞を贈る。
皆から賛辞が贈られる中、アザゼルさんが指を突きつけてくる
「て言うか、お前はあの危機的状況から自力で戻ってこられる程のバカ野郎だからな。お前の復活劇は既に上役連中の間で語り草になってるぜ? 何せ、現魔王派の対立派閥はお前らに畏怖し始めたって話だ」
「ど、どうしてですか?」
「当然だろう。文字通り、殺しても死なないんだぞ? こんなに怖い存在はねぇだろう? サマエルの毒で死なない上にグレートレッドの力借りて体新調してきて自力で次元の狭間から帰還しただなんてどんだけだ。どんだけだよ! おまえ、本っ当におかしいぞ? 頭もそうだが、存在がだ」
まあ、一連の流れを改めて語られるとおかしな事の連続であるのは頷ける。けど一誠の異様な幸運の連続は今に始まったことではない。それも普段の行いや努力の質と量的にも絶対にありえないレベルのもの。―――今後の反動が怖いところだ。
ところで一誠は本当に一誠なのだろうか……? ドラゴンの気配が強くなってるのは別として、僕の目にも特に反応はない。偽物ではないのは間違いない。―――だけど、どうしても違和感を感じる。違うと言うか……足りない? 完全に人間でなくドラゴンになったせい?
冥界では偶然現れたグレートレッドと共にルシファー眷属と一誠が共闘して『
一誠がグレートレッドと合体した事は一般の悪魔には伏せられており、一誠とグレートレッドとの間で起きた事は極秘にすべき事柄らしい。
一誠が危機的状況だった事に関する事柄は伏せられてるようだ。
「ま、お前の強者を引き寄せる力はもはや異常を通り越して、何でもござれ状態だからな。もう、あれだ。各世界で悪さする奴らもお前らが倒せ。そうすりゃ俺もサーゼクスも楽が出来る」
でもその場合悪い奴らが向こうから来るんでしょ? それはこっちが困るんですけど……。一誠も完全に人間じゃなくなり本格的に悪魔陣営に染まったし、そういうのは冥界で済ませて欲しいかな~。
「あの、先生、『
「ハーデスや旧魔王派の横槍もあってか、正規メンバーの中枢がやられたからな。奴ら英雄派が行おこなっていた各勢力の重要拠点への襲撃も止んだよ。正規メンバーの一人でも生きたまま捕らえて尋問できればよかったんだが、大規模な作戦が失敗したからにはしばらくは攻めてこれないだろう。問題は奴らを操っていたナチス勢力の方だ。英雄派に属する『
アザゼルさんは息を吐きながらそう答えた。
曹操を含め英雄派の幹部クラスは全員深手を負って戦闘不能状態。脱英雄派の皆も機械兵に優位を取れていなかった。――しかし、
同様が存在しない
なら消失が確認されていないのなら、曹操達は無事逃げ切り生存している可能性が高い。
しかし、アザゼルさんは合点がいかないような表情をしていた。
「……奪われた、って事はないのかしら? 曹操達
リアスさんがそう口にする。
確かに
アザゼルさんもリアスさんの意見に頷いていた。
「まあ、その線が浮かぶって事になるよな。……そうだとして、俺が考え得る最悪のシナリオが今後起きない事を願うばかりなんだが……」
険しい顔つきをするアザゼルさんだったが、途端に苦笑いする。
「ま、あいつらの最大の失点はお前らに手を出した事だな。見ろ、奴らを返り討ちにしやがった。成長率が桁違いのお前らを相手にしたのが英雄派の間違いだ。触らぬ神に祟りなしってな。あ、この場合は触らぬ悪魔に祟りなし、かな?」
「腫れ物のように言わないでくださいよ! 俺達からしてみれば襲い掛かってきたから応戦しただけです! なあ、皆!」
「そうだな、修学旅行で襲撃してきた恨みは大きい」
「ミカエルさまのエースだもの!襲ってきたらギチョンギチョンにしちゃうわ!」
ウンウンと頷くゼノヴィアさんとイリナさん。
「……来たら潰す。これ、最近のグレモリーの鉄則ですから」
塔城さんからは恐ろしい一言が飛んでくる
一誠が皆に訊くも、返ってくるのは過激発言ばかりだった……。まあ、『
皆の意見を聞いてアザゼルさんが豪快に笑う。
「さすがグレモリー眷属だ! こりゃその内伝説になるぞ。『奴らに喧嘩を売ったら生きて帰れない』―――とかよ」
アザゼルさんの冗談にリアスさんが嘆息していた。
「私達は怨霊や悪霊ではないのよ? 変な風に言わないでちょうだい」
「うふふ。けれど、実際襲われたらやっちゃうしかありませんわ」
朱乃さんは微笑みつつもSっ気を表情に見せていた。
アザゼルさんが話を続ける。
「だがな、『
そういうば魔法使いの派閥もあるとか。魔法を主軸にするだけあって直接対峙する戦いは避けてきそうで厄介そうだ。……いや、三大勢力関係者なら意外と真正面から襲い掛かって来る可能性もありそう。
アザゼルさんは部屋の隅に視線を送る。
「とりあえず、元ボスがこっちにいるからな」
視線の先に目を向けると―――そこにはオーフィスの姿があった。ぶっちゃけこれが一番の問題だと思う。絶対他神話勢力に話を通してないもん。状況証拠で裏切者だよぉ。
一誠と目が合うとオーフィスは言う。
「我、ドライグと友達」
「俺、ドライグじゃなくて、兵藤一誠って名前があるんだよ……。友達は俺の事を『イッセー』って呼ぶんだ」
「わかった。イッセー」
「俺の呼び方はそれで良し」
一誠とオーフィスのやり取りを見ていたアザゼルさんが言う。
「言っておくがイッセー、お前が将来上級悪魔になったとしてもオーフィスは眷属には出来ないぞ。理由は話さなくても分かるな?」
「はい、オーフィスはここにいない事になっているから、ですよね?」
ほらやっぱり身内だけの秘密裏だ! まあどうせアメリカとかは既に知ってるだろうけど。
えっと、確か曹操に奪われたオーフィスの力が、現在の『
アザゼルさんが続ける。
「そいつはテロリストの親玉だった奴だ。いくらこちら側に引き込めたからと言って、それを冥界の連中に知られてはまずい。現にそいつの力は幾重にも封印を施して、ちょっと強すぎるドラゴン程度に留めてある。と言うよりも神格クラスは『
サマエルに力を吸い取られて相当弱まっているが、そこいらの上級悪魔よりは強いらしい。
「『
木場さんがそう口にしていた。
曹操はそれを使って新しいウロボロスを作ると言っていたが、肝心の英雄派は改心している。
その事についてアザゼルさんが言う。
「……それは俺を含め、事情を知っている連中の中でも意見が割れているな。ただ、そのまま計画が進行しているって意見だけは一致している。……どんな形になろうとも近い内に見まみえるかもしれない。それだけは覚悟しておけ」
うなだれる一誠だが、リアスさんは話題を切り替える。
「いつ来るか分からないものに対する備えも大事だけれど、私の当面の目的は三点。一点はギャスパーね」
リアスさんの視線がギャスパーに注がれる。
当のギャスパー君は相変わらずアワアワするだけだった。
冥界では一誠の死と言う誤報を聞いた直後、大妖怪のような力を発揮しゲオルクを圧倒していた。
リアスさんが続ける。
「今まで他の事情が立て込んでいて静観していたけれど、あれを切っ掛けにそろそろ本格的に窺うかがっても良いと思ったわ」
「と、言いますと?」
一誠の問いにリアスさんが頷く。
「―――ヴラディ家、いえ、ヴァンパイアの一族にコンタクトを取るわ。あのギャスパーの力はきちんと把握しなければ、ギャスパー自身―――私達にもいずれ累を及ぼすでしょうね」
「……す、すみません。ぼ、僕にそのような力があったなんて全く知らなくて……この眼だけが問題だと思っていたものですから……」
ギャスパー君が恐縮しながらそう言う。
ギャスパー君自身はその時の記憶が全く無いそうだ。ギャスパー君自身も知らない、無意識に存在する隠された力……か。僕の感覚では
リアスさんはギャスパー君が家を追い出された理由がそこにあると踏んでいるようだ。
「ヴァンパイアも今内部で相当もめている。……閉鎖された世界だが、だからこそ変な事情に巻き込まれなければ良いんだが」
アザゼルさんが嘆息しながら言う。
吸血鬼も色々と立て込んでいるのか、部外者があまり関わるべきではないのかもしれないが、ギャスパー君を放置するわけにもいかないか。グレモリー眷属でなければ頼るあてはいくつかあるんだけどね。ギャスパー君を手放すことはまずありえないだろう。
「ご、ご迷惑おかけします……。で、でも……家のヒト達とはあまり……」
ギャスパー君が言葉をつぐんでしまった。
どうやらギャスパー君としては家族に会いたくないようだ。
かける言葉もない僕にはギャスパー君の頭を撫でてあげて少しでも落ち着かせてあげることぐらいだ。
朱乃さんが顎に指をやりながらリアスさんに言う。
「ギャスパーくんの事と、後は魔法使いかしら?」
リアスさんは頷いて続けた。
「そうよ。そろそろ魔法使いから契約を持ちかけられる時期でもあるの」
「それって、本とかに書かれてる魔法使いとの関係性とか言うやつですか?」
一誠の問いにリアスさんが首を縦に振る。
「ええ、そうよ。魔法使いは悪魔を召喚して、代価と共に契約を結ぶ。私達は必要に応じて力を貸すの。一般の人間の願いを叶えるのとはちょっと様式が違うわね。名のある悪魔が呼ばれるのが常だけれど、若手悪魔にもその話は来るわ」
「それって、本とかに書かれてる魔法使いとの関係性とかいうやつですか?」
一誠の問いにリアスさんが頷き、アザゼルさんが紅茶をすすると話を続ける。
「先日、魔術師の協会が全世界の魔法使いに向けて若手悪魔―――お前達の世代に関するだいたいの評価を発表したようだ。奴らにとって若手悪魔の青田買いは早い者勝ちだ。特に評価が高いであろうグレモリー眷属は格好の的。魔王の妹たるリアスを始め、赤龍帝のイッセー、聖魔剣の木場、バラキエルの娘で雷光の巫女である朱乃、デュランダルのゼノヴィアなどなど、そうそうたるメンツだ。―――大挙して契約を持ちかけられるぞ? 契約する魔法使いはきちんと選定しろよ? ろくでもない奴に呼ばれたらお前達自身の価値を下げるだけだからな」
魔法使いとの契約も悪魔の活動範囲内というわけか。契約を持ちかけられれば、それだけ自分の評価にも繋がる。けど悪魔と深くかかわるつもりもない僕には関係ないか。グレモリー眷属も脱退してるからその面子にも入ってないし。
そう思ってる僕を見てアザゼルさんが言う。
「なに自分には関係ないみたいな顔してんだ。めざとい魔法使いならむしろお前の方に契約を持ちかけるだろう。元グレモリー眷属で競争率が低く、最後のレーティングゲームでは大金星を上げてたからな」
うぇっ。下手に悪魔として契約すると悪魔として余計なしがらみを作ってしまう。かと言って断り続ければレイヴェルさんに不利益を与えかねない。
これはヨグ=ソトースさんに魔法使いを紹介してもらって先手を打った方がいいかもしれない。
エロ妄想してるであろう一誠の頭をリアスさんがポンと叩く。
「ところでイッセー。試験前に約束した事覚えているかしら?それが私の当面の目的の最後の一点なのだけれど?」
リアスさんはほんのり頬を赤く染めていた。
「リアス、今度の休日、デートしましょう」
一誠の答えにリアスは満面の笑みを見せる。
「ええ、楽しみにしているわ、愛いとしのイッセー」
そこへゼノヴィアさんが自身を指差す。
「イッセー、部長の後でも構わない。その次は私とデートをしてくれ」
「あー、ずるいわ!次は私よね!私だって、新くんとデートしてみたいわ!」
更にはイリナさんまで申し出でて。
「はぅ! 私もです! 私もデートします!
「じゃあ、私もです」
アーシアさんと塔城さんまで加わり―――
「……我も」
オーフィスまでも加わりさらに混沌としていく。
「あらあら、それなら私は全員終わった後、ベッドの上でデートしますわ」
最後に朱乃さんがおいしいところをかっさらおうとした。
さらにノリで便乗したアザゼルさんや木場さん、ギャスパー君で混沌がさらに加速する。
僕は? グレモリー眷属じゃないし付き合わないよ。
「で、では誇銅さん。私も、日本を満喫させてくださいませんか?」
レイヴェルさんが僕の腕を軽く引いて優しく抱き寄せる。
僕はニッコリとし手を握り返すことで返事をした。
++++
全ての問題が終結しやっと自宅でゆっくり体を休ませることができる。
ここ数日の緊張と疲労をほぐすためゆっくりとお風呂に浸かり、お風呂上りには冷えた牛乳を飲む。
つけっぱなしのテレビを見ると、ちょうどいい番組がやっていた。どうやら今日はスペシャルゲストが来日しており、ちょうどゲスト紹介の場面だった。
『現在動画投稿サイトにて登録者4000万人超え、人気爆発中のあの人が日本に来日!!!』
「ッッ!!?」
そのゲストの登場に思わず口に含んでいた牛乳を噴き出してしまった。
綺麗な黒の長髪に黒が映える白い肌、女性っぽい顔立ちで妙に大物感を漂わせる男性。
気安そうな雰囲気で登場したそのゲストの顔はどう見てもヒトラーだったからだ。