無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 パソコン壊れてサボリ癖が付いてしまいましたが、ぼちぼち再開したいと思います。


新時代なナチスの総統

「誰だ貴様は」

 

 男性は気にせずと言ったが、突然現れた異色の人物を気にせず続行なんてできるわけがない。

 

「俺が誰かなんて重要なことじゃない。今重要なのは目の前で始まろうとしていた熱き男たちの戦いだ。水を差すようなことをしてしまったのは大変申し訳無いと思っている。こちらとしてもノー編集で使える最高の撮れ高を台無しにしてしまったと深く反省している」

「おまえの都合なんてどうでもいい。俺は誰だと聞いているんだ」

 

 残念そうに謝罪する男性にイクサは語勢を強く質問を繰り返した。

 男性は、少し悩んでから答えた。

 

「俺の名は“ヒトラー”。この場にはナチス・ドイツの総統として立っている」

 

 あっさりと自分がナチスの首領であることを明かした。

 禍の団(カオス・ブリゲード)の幹部達も問われれば簡単に名乗っていた。それは彼らの自信の表れから。曹操なんかもそうだった。だけどこの人は――ヒトラーはその中でも一味違う。僅かに滲み出ているオーラの練度が桁違いで、誰よりも不気味。全てが実力で本物だとわかる。

 

「貴様が曹操に妙なことを吹き込んだのか」

「言いがかりはよしてくれ。世間体が悪くなるだろ。俺はただ相談相手になっただけで、曹操自身が本当の望みに気づいただけ。徹頭徹尾(てっとうてつび)曹操の意思だ」

 

 フョードルさんの話によると曹操達がおかしくなったのは第三者の影があった。

 そのことに関してヒトラーは関係性を否定しているがおそらく高い確率で原因は彼だろう。

 

 ヒトラーは機械兵で充電していた何かを外すとその場からこちらへジャンプした。着地から素早く、速さは騎士(ナイト)並だが木場さんよりも遅く、だが全ての動きがスムーズで無駄がない。

 ヒトラーは一直線に鎧を纏った一誠へと向かい、直前で姿勢を低くし背後に回った。おそらく一誠からすれば目の前でいきなり消えたように錯覚しているだろう。

 背後から右横に周り左肩へと手をかける。置かれた手に反応して左側に注目している間に右側の自分へと一誠を引き寄せた。そうして決定的に一誠の不意をつき続けたヒトラーは――カシャ。手に持ったカメラ? のようなもので一誠とツーショットを撮った。

 

「へっ?」

 

 呆気にとられてる間にヒトラーは次にヴァーリさんへと向かう。

 一連の流れを見ていたヴァーリさんは一誠のように油断をしなかったが、それでもあっさりと背後に回られ同じようにツーショットを撮る。

 満足したヒトラーはカメラ? を見ながら満足そうに離れた。

 

「“二天龍の最期”かもしれないからな。そうなったらこの写真はさらに価値が付く」

 

 二天龍がここで死ねば価値が上がる。そういうことをさらっと言い放つ。

 禍の団(カオス・ブリゲード)や三大勢力だって人間の命なんてそう大切に思ってなんかいない。人外にとって人間が、生命がどういった存在なのか考えればわからなくもない。だけどヒトラーが言い放った言葉は違う。その言葉に人間だからこその底知れない悪意を垣間見たような気がした。

 

「なかなかいいんじゃない? さっそくSNS更新しよっと!」

「直接会うのは久しいな、ヒトラー」

「おお、曹操!」

 

 ヒトラーの嬉しそうな表情でハグした。まるで長年離れていた親友との再会のように。曹操も若干困惑しつつも受け入れていた。

 ヒトラーが現れてから一誠とはまた違う感じで空気を変えられている。

 

「活躍は聞いてるよ。三大勢力だけじゃなく、他の神話相手にも一歩も引かない大進撃だったらしいじゃないか。どう、俺の贈り物は役に立った?」

「ああ、とても役に立った。むしろ申し訳ないとすら思ったよ」

「こっちこそいろいろデータをくれてありがとう! 性能の最終テストや現場の情報データは本当に助かったよ。こういうのは表立ってやらないといけないから困ってたんだよ。準備段階で下手に目を付けられたくなかったから。だけど君達のおかげでもう大丈夫! “いままでありがとう”」

「え? ……!!?」

 

 突然その場で崩れ落ちる曹操。

 

「こうなったら死んでくれた方が都合がいいからな」

「曹操!!!」

 

 英雄派の三人が駆け寄ったその時、地面から電流のような魔力が網目状に発生し全員の動きが封じられてしまった。魔力で拘束というよりも痺れさせるタイプか。魔法的な力であるがとても科学的なトラップ。

 地面をよく見ると発生地点に点々と小さな機械が散らばっていた。一誠と写真を撮った時に仕掛けられていたようだ。

 

 簡易的な足止めなだけに力業の解除も難しそうではないが、人外の戦いにおいてとてつもなく効果的な罠だ。

 仕掛けのお手軽さと効果は威力が低いことを差し引いても割に合わないコストの良さだ。

 誰もがすぐには行動できない中、パペットだけは意に(かい)せず飛び出した。

 

「ほ~考えたな。神器で自分自身を操ったか」

 

 十字の木片がパペットの頭上に。自分の神器(セイクリッド・ギア)の操る能力で肉体を強制的に動かしているのか。それならば物理的な拘束ではないシビレ罠を無視できる。さらに自分の完璧な理想の動きを強制することもできる。

 ただし限界を無視した動きは肉体的な負荷が大きいだろう。肉体の麻痺を強制的に動かすのも苦痛はあるだろう。仮面の下の彼は今どんな表情で平静の無言を貫き通しているのか。

 

 飛び掛かるパペットだったが、側面から二つの影が飛び出しパペットに襲い掛かる。

 襲い掛かってきたのは二人の男性。二人を跳ね除けようと攻撃するも一人が捨て身同然に組み付き、もう一人がパペットの右腕を取り―――バキッ! 折った。

 うめき声一つ出さないが、強い痛みを感じたのは反応でわかる。パペットは即座に反撃に出た。組み付いた男性の股間を膝で強打し緩んだところへ腹部へもう片方の膝を打ち込む。完全に引き剥がした男性ももう一人の男性へと蹴り込んだ。

 男性は飛び込んでくる仲間を受け止めず塵のように払いのけると、その一瞬の隙に“

折れた右腕で男性を殴り飛ばした”。

 肉体の状態を無視した操り人形だからこそできる方法。相手も折った右側への注意は薄かっただろう。だからといって自分の肉体でそれをやるのは恐ろしい。彼は本当に意思のない操り人形(パペット)なのかと錯覚してしまう。

 

「……」

「……キヒ」

 

 対する二人の男性も場慣れした動きで痛みなど感じていない様子で立て直す。それになんか目の焦点もおかしい。

 そんな中で僕は上空に妙な胸騒ぎを感じた。その瞬間、次元が裂けそこから50以上の機械兵が降ってきた。

 

「ふんっ!」

 

 イクサが強引な力業で魔力を弾き、乱れ弱まったところへガヴィンが鞭で地面の機械を破壊したことで全員が解放された。

 解放されてからも体に痺れが残っている。だが体内の氣を操れば問題ない。だが他のこちら側(悪魔)は十全に動くには少しかかるだろう。

 上空の大量の機械兵に二人の狂兵士。ヒトラー自身の力も未知数。状況は悪くなる一方。

 

「フリード、悪魔共を抑えておいてくれ。ガヴィンは曹操を見張れ。パペット! その二人は俺が変わる。お前はロボの対処を頼む!」

 

 悪魔は完全にお荷物扱いされている。そして実際お荷物だろう。下手な人数差は同士討ちなど利用されやすい。

 指示を受けたパペットは左人差し指を高く上げ、それから三本指で曹操と僕ら悪魔を指した。

 パペットの頭上の木片を巨大な手が掴み、同じように木片を持った手が動かない機械兵の頭上に現れ立ち上がらせたる。さらに巨大なピエロの幻影がパペットの背後に浮かび上がった。

 

神器(セイクリッド・ギア)の覚醒者か」

 

 パペットを見て呟くヒトラー。そういえばジャンヌの時も“覚醒”という単語が出てきた。神器(セイクリッド・ギア)の覚醒とは一体。言葉の雰囲気から神器(セイクリッド・ギア)を発現した者という意味ではなさそうだ。

 ピエロの幻影に操られた機械兵達が上空の機械兵を迎え撃つ。

 上空ではパペットの機械兵が機械兵と衝突するが、圧倒的数の違いで突破された機械兵がイクサとパペットに襲い掛かる。

 そのほんの一部がこちらに向かって来る。

 一誠が翼を広げて迎え撃とうとする。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼』

 

 高層ビルが建ち並ぶ空中で一誠はドラゴンショットを繰り出した。

 巨大な一撃を見舞うが、機械兵に目立ったダメージはない。

 

「一誠! 下だ!」

 

 上空にばかり警戒していると、先に降り立った機械兵が真下からの銃撃の構え。

 

「おわっと!」

 

 銃撃の嵐を避けながら今度は散弾のような魔力を無数に放つ。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼』

 

 それでも機械兵は防御する素振りすらなく悠然と指先の銃口を向ける。

 僕は一誠の左右から回り込ませるように二枚の炎の扉を創り出した。

 

「防火扉」

 

 炎の扉で攻撃を防ぎきる。両手をぎゅっと合わせると二枚の扉を本のように(たた)まれ機械兵を閉じ込める。

 今までと違い造形に一工夫して閉じるとロックされるように創った。これなら力負けしてもそう簡単には抜け出せない。

 決定打には全くならないが一番時間が稼げると思う。

 

「ナイスだ誇銅!」 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼』

「え、ちょっとま……!」

 

 より魔力を込めたドラゴンショットが炎に閉じ込められた機械兵に放たれる。だが炎に阻まれ魔力は焼失し機械兵は無傷。

 一誠は僕の炎ごと機械兵を消し飛ばそうとしたのだろう。だけどわかっていた、一誠では僕の炎目を突破できないことに。僕の炎は魔力にめっぽう強いし、炎目として形成されれば硬度もある程度高い。上回れなければ傷一つ付かないのが自慢だ。

 日本での修行中には何度も“削り取られた”が僕がしる悪魔はその域には達してない。

 どちらにせよあの攻撃では機械兵を破壊するのは到底不可能だ。せいぜい軽傷を負わせるぐらい。

 

「こいつらは僕が抑えてるから。一誠はみんなを守ることに集中して」

 

 こんな時に意地にはならないだろうが、機械兵も炎も破壊するには力不足というのには触れないように言葉に注意しておく。

 ヒトラーがよそ見をしてる間にガヴィンが鞭で曹操を奪還し、安全圏であろう僕らの方へ連れてくる。

 

「大丈夫か曹操。……曹操? おい、嘘だろ……曹操!!」

 

 体温を感じない曹操の体はすでに死人となり果てていた。皮膚の色が既に死人の色へ変色してきている。だが即死だとしても腐敗があまりにも早すぎる。

 フリードは曹操の首筋から長い針を抜き取った。

 

「これは……もしや……!」

 

 フリードが徐々に青ざめていく。

 動かなくなった曹操の指がピクリと動いた。

 

「!? 曹操!」

「曹操から離れろ!!」

「そいつらを片付けろ」

「ッ?!」

 

 ヒトラーの言葉を切っ掛けに動き出した曹操は聖槍でガヴィンを突き刺そうとした。それを躱すことができたのはフリードの言葉を素直に信じたからだ。そうでなければ間に合わなかっただろう。

 立ち上がった曹操の目はやはり死んでいる。生気だった感じれれない。

 死人が生き返って襲い掛かってくる。この現象を僕は何度か目撃している。

 

「まさかこれって例のウイルスでは!?」

「違うな。これはブードゥー教の古代呪術だ。ブードゥー教の呪術は死の使役を得意とする。たしか人間を死体に変える呪術と、ゾンビを使役する術だったっけか」

「見りゃなんとなくわかる。どうやったら助けられる」

「術者が死ねば解けるはずだ」

 

 つまりヒトラーを殺せば曹操を助けられる。だけど大量の機械兵との混戦状態でそれを成し遂げるのは難しい。ヒトラー自身の強さも未知数だ。

 それとなぜ曹操は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を所持しているのか。神器(セイクリッド・ギア)は死ねば次の所有者へと移る仕組みだったはず。

 

「曹操は生きたまま死体にされた。死んでないから魂が肉体を離れない。死体に魂が縛り付けられてるんだ。神器(セイクリッド・ギア)ごと使役できるのがブードゥー呪術の強みだな」

「それって呪いを解けば生き返るってことですか」

「そうとも言い切れない。このまま体が死体に馴染めば呪いを解いても死を取り戻し魂が解放されるだけだ」

 

 となれば曹操を助けられるかは時間の勝負。

 呪術的なものならもしかしたら僕の炎で浄化することができるかもしれない。今は機械兵を抑え込むのに手がふさがってるけど。

 

「まず肉体の保護からだな。肉体が壊れたら生き返らない」

「捕縛なら俺の得意分野だ!」

 

 ガヴィンが素早い投げ縄で曹操を捕らえた。

 

「yeehaa!!」

 

 引っ張る曹操に合わせて肩に飛び乗ったガヴィンのロデオが始まる。

 器用に肩にの上で立ち回る。曹操も倒れまいと、振り落とそうと激しく抵抗した。

 ジャンヌの時のように激しくオーラが排出されていくが……。

 

「ゾンビには肉体的な制約がない! 苦痛も疲労もない! むしろ魂を消耗させてしまうぞ!」

 

 それを聞いてガヴィンは振り落とされてしまった。拘束を解かれた曹操はガヴィンを追撃しようとするが、振り落とされる際に持ち手を鞭で近くの建物と繋がれていた。

 

「イテテ、先に言えよ」

 

 鞭を一つ失ったが無事こちらまで走って逃げきれた。

 こちらが態勢を立て直すのを確認すると、輪後光と七つの球体を出現させる。

 

禁手化(バランス・ブレイカー)まで使えるのかよ」

 

 ゾンビとなって本来の曹操の実力をどれほど有しているのか。もしかしてゾンビの特性に加えほとんど遜色がないのかもしれない。

 機械兵を閉じ込めた防火扉も今にもこじ開けられそうだ。

 まさかここまで厳しい仕切り直しになるとは想像もできなかった。




 歴史上でヒトラーの逸話の一つとして、ヒトラーは演説のテクニックが非常に巧みだったとありました。
 会場ごとにしゃべり方を適切に変え、内容は会場全体の民衆の気持ちを盛り上げることに注力を注いだり、演説を行う時間帯は疲労で思考力が低下する夕方を選んだなど。
 他にも現代でもよくつかわれている大衆の支持を集めやすい短く具体的なスローガン。身振り手振りで人々の意識を釘付けにするため鏡の前で練習していたなどの話もあります。まさに心理学を駆使した演説テクニック。
 まるで役者のように、熱狂した人々がファンのように囃し立てる。

 そのスキルを活かせ、他にもいろいろ調べて漠然と浮かんだヒトラー像を物語に落とし込もうと思った結果……YouTuberとかいいんじゃね? と思って出来上がったのがこれです。
 発達した情報発信技術を駆使し、効果的に演説(注目を集める)を行えるのではないかと。

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