無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 いろいろ悩んだが、とりあえず今月中に出来上がった。


強力な闘気の衝突

 魔王領にある冥界(悪魔側)の首都―――リリス。

 今その首都は危機に直面しており、規格外の魔獣『超獣鬼(ジャバウォック)』が接近しつつある。

 到達すれば首都は壊滅的打撃を受け、機能を失うだろう。首都が機能を失えば冥界の各所に影響は出るだろうが人間界には微塵も影響はない。―――むしろ大規模な復旧作業でしばらく冥界に引きこもってくれるのではないか?

 現在、魔王サーゼクスのルシファー眷属達が『超獣鬼(ジャバウォック)』の相手をしていた。その戦況は今のところ五分(ごぶ)といったようで、決定打を与えぬまでも足止めには成功している。

 グレイフィアさんの放った魔力の波動は想像を絶する規模であり、地形その物を消してしまえる程の破壊力。絶対に日本の地でこんな戦闘はさせまいと強く思った。

 だが、『超獣鬼(ジャバウォック)』はそのグレイフィアさん率いるルシファー眷属でも打倒できない。

 しかし、ルシファー眷属の足止めのお陰で都民の避難はほぼ完了している。

 シトリー眷属などの若手悪魔は残った人々がいないかどうかを確認する為に派遣されており、中でもサイラオーグさんは首都で暴れている旧魔王派を相手にしているらしい。

グレモリー眷属とイリナさんはグレモリー城の地下にある大型転移用魔法陣からジャンプをし続けて、首都の北西区画に出た。

 完全に戦闘要員として数えられているが、本来ならレイヴェルさんの眷属となる時に『冥界、三大勢力の発展や危機には力を貸さない』とあらかじめ契約をしているので参戦を拒否することもできる。

 でもあらかじめ了承されていたとしてもレイヴェルさんの立場もあるしやっぱり断りにくい。レイヴェルさんも立場上要請されれば断れないだろう。

 そこでレイヴェルさんは本来客分で戦闘に介入させてはいけないが、リアスさん達の説得を聞かず無理やり同行した。

 レイヴェルさんが同行すれば僕が戦闘に参加しない理由となる。僕との約束を守るため身の危険を代償としたのだ。

 でも今回の敵は危険過ぎる。不死身のフェニックスでも危ういので残るように説得したのだが『悪魔の契約は絶対です』と曲げなかった。なら僕のその覚悟に応えなくてはならない。絶対にレイヴェルさんを守ってみせる!

 転移魔法陣でのジャンプで辿り着いたのは区域の中でも1番高い高層ビルの屋上。シトリー眷属に追いつこうとした時、リアスさん達を呼び止める声が。

 

「み、皆さん! よ、よかった! ここにいれば皆さんが来るって堕天使の方々に言われたんですけど、来なくて寂しかったんですぅ!」

 

 涙目のギャスパー君が合流し、現状のグレモリー眷属が全員揃う。

 

「ギャスパー、トレーニングの成果、期待するわよ!」

 

 リアスさんにそう言われるギャスパー君だったが―――何やら伏し目がちで顔色が悪かった。

 

「……は、はい、期待に添えるよう頑張りますぅ。……あれ? イッセー先輩は?」

 

 ここにいない一誠をキョロキョロと探すギャスパー君。どうやらまだ伝わっていないようだ。

 木場がギャスパーに詳細を説明しようとした時、「……あれ!」と塔城さんがとある方向を指差す。

 そちらの方角に視線を送ると―――遠目に巨大な黒いドラゴンが黒炎を巻き上げて暴れてる様子が見えた。だけど実際は見えてるものとは違うものだろう。

 全員がそれを視認すると、そのまま翼を広げて空に飛び出していった。飛べない僕は炎目で創った大きな火の鳥に乗って一足遅れて飛び出す。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 巨大な黒いドラゴンの姿が見えた場所―――高層ビル群が建ち並ぶ区域の広い車道に降り立った僕達。そこは既に戦火に包まれており、建物や道路、公共物に至るまで大きく破損されていた。

 被害は酷いが、人気を感じないことからこの区域の避難はほぼ完了しているようだ。

 そして辺り一帯の黒霧は妖怪が自分に優位な環境を創る手法と似ている。この結界が展開されているということは……。

 

「グレモリー眷属!」

 

 聞き覚えのある声に引かれてそちらに振り向くと―――タイヤが外れた1台のバスを守るようにして囲むシトリー眷属女性陣の姿があった。

 バスの中には大勢の子供達が乗っていた。

 

「状況は?」

 

 リアスがシトリー眷属の『騎士(ナイト)巡巴柄(めぐりともえ)さんに問う

 

「このバスを先導している最中に英雄派と出くわしてしまいまして……。相手はこちらがシトリー眷属だと分かると突然攻撃を仕掛けてきたんです。バスが軽く攻撃を受けて機能を停止してしまったのでここで応戦するしかなくて。元ちゃんで隠遁の結界で攻撃は凌げても離脱ができなくて」

 

 遠目から見えた黒いドラゴンはこの一帯を包み込む陰の妖術で形成された幻影。そこに黒曜の黒炎を織り交ぜて攻撃力を高めている。隠匿を得意とする隠遁に注意を引く強力な黒炎は相性が良さそうだ。

 

「あれは!」

 

 レイヴェルさんが右手側を指差す。ショップが立ち並ぶ歩道で英雄派の巨漢ヘラクレスに喉元を掴まれている匙さんの姿が映り込んできた。

 既に匙さんは身体中が血だらけとなっているが、苦しそうに不屈の笑みを浮かべている。そこへ黒曜がヘラクレスに襲いかかり匙さんを救出した。

 ヘラクレスは匙さんを圧倒的に追い詰めてるつもりだろうけど……あれは幻覚だ。黒曜と黒炎だけが本物で、それが匙さんも本物とより強く錯覚させているのか。

 ……いや、匙さん本人も度々本物と入れ替わってるな。邪気の侵食を抑えるためか。

 ヘラクレスの攻撃はだいたい躱しているが、一撃が重く傷は本物で浅くもない。それに体に溜まった邪気と凶暴な黒炎の巻き添えで自滅しかねない。

 その近くで英雄派のジャンヌと戦っている真羅椿姫(しんらつばき)さんの姿も目に入った。

 ヘラクレスは匙さんを殴りつけるも、腕を取り黒曜が攻撃する隙きをつくりだす。

 腕に掴みかかる匙さんごと黒曜を振り払い、本物の匙さんが重症の体を無理やり起こす。

 もう上手く立ち上がれない匙さん、ヘラクレスは吐き捨てるように言う。

 

「んだよ、レーティングゲームで大公アガレスに勝ったって言うから期待してたがよ。戦い方も気持ち悪いしよ」

「子供の乗ったバスばかり執拗に狙ってきたくせに。それを庇う為に私達の戦い方が出来ないのよ。そうするように仕掛けたのはあなた達じゃないの」

 

 計略と奇襲で常に有利な位置取りで戦うシトリー眷属には守る戦いは不得手。

 椿姫さんがそう言うには、どうやらヘラクレスが子供達の乗っているバスを狙って攻撃したから。子供を狙う卑劣な挑発には怒りを覚えるた。

 この場にいる敵はヘラクレスとジャンヌのみ、曹操とゲオルクの姿は無い。

 椿姫さんを聖剣で突き返すジャンヌが嘆息する

 

「私はそんな事するのやめておけばって言ったけど? まあ、ヘラクレスを止める事もしなかったけれどっ!」

 

 ジャンヌが周囲に聖剣の刃を幾重にも発生させて、椿姫さんの足場を破壊する。

 体勢を崩した椿姫さんのもとにジャンヌの剣が襲い掛かり、木場さんは瞬時にその場を駆け出した。

 一瞬で間合いを詰めた木場さんは鋭く放たれたジャンヌの一撃を抜刀した魔剣で防ぐ。

 

「いい加減にしてくれないかな」

 

 木場さんは低い声音でそう言い、ジャンヌは木場さんが手にしている得物を見て仰天する。

 

「……その魔剣!? まさかジークフリートが!?」

 

 木場さんの腰にはグラム以外の、ジークフリートが持っていた魔剣全てが鞘に収まっている。手に持っているのはその中の一本。

 ジークフリートが消えた後、他の魔剣達は木場さんが所有することになった。

 

「へっ! こんな奴らに負けるなんてあいつもたかが知れてたってわけだ」

 

 ヘラクレスはジークフリートを嘲笑うだけだった。どうやら英雄派に仲間意識は殆ど無いようだ。まあ倒したのはフリードだけど。

 

「英雄派の正規メンバーがやられ続きか。グレモリー眷属にこれ以上関わると根こそぎ全滅しかねないな」

 

 ヘラクレス側の後方から第三者の声。霧と共に現れたのは霧使いのゲオルク。今の言い方からすると、巨大怪獣を生み出した神滅惧(ロンギヌス)の使い手の子供も再起不能なのかもしれない。

 

「悪いな、ヘラクレス、ジャンヌ。そのヴリトラの黒い炎が予想よりも遥かに濃く複雑なものだから、異空間での解呪に時間が掛かった。解呪専用の結界空間を組んだのは久し振りだ。―――伝説通り、呪いや縛りに長けた能力のようだヴリトラめ」

「はっ! 未成熟とは言え、龍王の一角をやっちまうなんてな!さすがは神滅具(ロンギヌス)所有者ってところだな、ゲオルク!」

 

 ヘラクレスがゲオルクを称賛する。

 祐斗は右手に魔剣、左手に聖魔剣を出現させて、2本の剣を振るう。剣から発生した攻撃的なオーラがジャンヌとヘラクレスに向かっていく。

 両者は軽々と避けるが、そのお陰で隙が生まれた。

 木場さんは素早く近くの椿姫さんを抱えて、倒れる匙さんのもとに駆け寄った。

 

「速いな」

 

 ゲオルクの手元に魔法形式の魔法陣が出現。

 木場さんは聖魔剣を手元から消し、周囲に龍の騎士団を出現させた。

 騎士団に匙さん、椿姫さんを運んでもらうよう命じ、騎士団は2人を抱えるとそのままリアスさん達のもとに向かっていく。

 残るはゲオルクが放つ炎の球体。これなら……下手に手を出さないほうがいいか。

 木場さんは魔剣を両手で握り締め、襲い来る炎の球体を縦に両断した。

 木場さんの一連の動きを見てゲオルクが驚嘆の言葉を漏らす。

 

「……強い。我ら3人を相手にして尚、仲間も全て救うとは……。これが聖魔剣の木場祐斗か。あの赤龍帝の陰に隠れがちだが、リアス・グレモリーは恐ろしいナイトを有しているな」

「お褒めに預かり光栄……と言えば良いのかな。僕は影で良いのさ。ヒーローはイッセーくんだ。僕はただのリアス・グレモリーの剣で良い」

「しっかりしてください!」

 

 アーシアさんが匙さんの回復を始めようとしたが。

 

「待ってください。先に邪気抜きをしないといけません。今の状態で下手に回復すると悪影響の恐れがあります」

 

 回復のオーラで一緒に邪気を活性化させてしまう可能性がある。

 それにヘラクレスからの外傷は見た目ほど大したことはない。邪気による消耗の方が大きい。

 

「ここは僕がやります。僕なら邪気抜きが出来ますから」

 

 両手の手のひらから火を灯し、匙さんを照らすように近づける。

 薄っすらとした陽だまりのような光が匙さんを優しく包み込む。

 僕の回復術はアーシアさんと比べ圧倒的に回復速度は遅い。それでも邪気の浄化をしつつ外部からと内部からで両面から回復を促せる。 

 

「……子供が大事に握り締めてたんだ……おっぱいドラゴンの人形を……だけどよ……今ここであの子達を怪我なく守りきったのは……間違いなく俺達だぜ……」

「ええ、そうですね」

 

 回復される匙さんは微かな意識でそう漏らし、ちょっと誇らしげに笑みを浮かべた。

 

「椿姫、私達が彼らの相手をするわ。その間にバスにいる子供達の避難をお願いできないかしら」

 

 リアスさんが椿姫さんにそう言う。

 椿姫は相手、リアスさん達、子供達を交互に見る。

 

「……けれど」

「お願いします。副会長。あなた達が受けた分は僕達が返しますから」

「……木場くん。はい、分かりました」

 

 椿姫さんは木場さんの進言を応じた。

 後は英雄派を倒すのみなのだが……。

 ゼノヴィアさんが1歩前に出る。

 

「さて、やるか。せっかくデュランダルを鍛え直したんだ。暴れさせないとダメだろう」

 

 ゼノヴィアさんは持っている得物から布を取り払う。そこにはエクス・デュランダルの姿があった。話では更に天界で『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』もプラスして鍛え直したらしい。

 

「こっちも良いものを貰ってきたんだから!」

 

 イリナさんが腰に帯剣していた剣を抜き放つ。

 抜刀されるまで正体不明だった剣は―――なんと聖魔剣だった。

 驚く木場さんを見てイリナさんが微笑む。

 

「ええ、そうよ。これは三大勢力が同盟を結ぶ時に悪魔側が天界に提供した木場くんの聖魔剣から作り出した量産型の聖魔剣なの! これは試作の1本! 天使が持てるようにかなりカスタマイズされて作られたようだけれどね。木場くんの聖魔剣ほど多様で強くはないけれど、天使が持つ分には充分だわ!」

 

 ゼノヴィアさんは剣の切っ先をジャンヌに向ける。

 

「ジークフリートに借りがあったんだが、生憎倒されてしまったのなら、仕方がない。―――まずはお前からだ、ジャンヌ」

 

 ゼノヴィアさんの挑戦的な物言いにイリナさんも同意する。

 

「そうよそうよ! いくら聖人の魂を受け継いだとしても、あなたはダメダメよ!」

 

 イリナさんもゼノヴィアさんの真似をして聖魔剣の切っ先をジャンヌに向ける。仲の良いコンビだな。

 

「あらあら、じゃあ私も参戦して良いかしら? ―――あれを持っているでしょうから、1人でも多い方が良いわ」

 

 朱乃さんもジャンヌを相手にするようだ。恐らく『業魔人(カオス・ドライブ)』化を用心し、出来るだけ複数人で対処するつもりなのだろう。

 朱乃さんは両手のブレスレットを金色に輝かせると、背に六翼の羽を出現させる。

 堕天使化―――今はブレスレットによる補助が必要だが、いずれは無くても堕天使化が出来るようになりたいと言っていた。

 三人からの挑戦にジャンヌは不敵な笑みを見せた。―――でも……。

 

「ちょ、ちょっと待った……!」

 

 病み上がりのフリードが待ったをかけた。

 ついさっきまでも二日酔いの如く絶不調だった。それを注射で誤魔化す姿はもはや依存症そのもの。

 動ける程度まで回復したフリードだが見た目はまともに戦える様子ではない。

 

「へー、3人も相手をしてくれるんだ。それにそちらのお姉さんはアレを知ってるようね。面白いわ!『禁手化(バランス・ブレイク)』!」

 

 ジャンヌもそんなフリードを戦力外として無視した。

 力のある言葉を発し、ジャンヌの背後に聖剣で形作られたドラゴンが出現する。

 ジャンヌが使う『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の亜種禁手(バランス・ブレイカー)

 

「ッ!!」

 

 その時、フリードの様子が一瞬にして変わった。

 ジャンヌが禁手(バランス・ブレイカー)を発動させた瞬間、若干ふらついていた体に芯が通り鋭いオーラを(たぎ)らせる。

 指輪も聖剣に戻し時空のオーラを纏わせた。時空の力の影響で刀身が蜃気楼のように重なって見える。

 その姿を見たジャンヌは驚きもつかの間に目の色を変えた。

 

「さっきは止む得なかったから見逃したが、仕切り直したならそうはいかない。約束通りお前らには手を引いてもらう」

 

 フリードが背を向けたままゼノヴィアさん達に言う。ただあえて言わせてもらうならフリード自身も止む得ない体調不良だったんだけどね。

 

「私は全員まとめて相手してもいいのよ?」

「いいや、権利は俺一人だ。なんせジークフリートを倒したのは俺だからな」

 

 自分がジークフリートを倒したと告白すると、ジャンヌは「へぇ……貴方がね」と意味深な笑みを浮かべた。

 

「ちょっと待て、あんな一方的な提案を飲んだつもりはないぞ!」

「そうよ! なんで私達が手を出したらダメなのよ!」

「ん……? それはデュランダルか?」

 

 二人の意見を無視してエクス・デュランダルをまじまじと見た。

 

 なんと気配だけでデュランダルとエクスカリバーが同化してることを見破った!

 

「そうだ。このエクス・デュランダルには7つに分かれたエクスカリバーの能力が全て付加されている。使いこなせば私は更なる強さを手に入れられる。だが、残念ながら私はバカだ。今すぐにテクニック云々うんぬんとなっても能力を使いこなせないだろう。だからこそ、これだ」

 

 ゼノヴィアさんがエクス・デュランダルを振るう。

 激しい破砕音と共に彼女の前方の路面に大きなクレーターが生まれた。

 全く扱えなくなっていたエクス・デュランダルが使えるようになってる……? だけど屋敷では依然変わらずって気配だったのに。それに妙な違和感を感じる。

 

「―――破壊のエクスカリバーとデュランダルのパワーで倒す!」

 

 テクニックを捨てた発言に木場さんが視線を向けると、それを感じたゼノヴィアさんは不満げな表情となる。

 

「むっ、木場。今お前はパワーバカだと思ったな。だが私から言わせれば、グレモリーのテクニック芸はお前だけで良いと思うんだ。だから私は破壊力だけに費やす!」

 

 その発言に頭を抱える木場さん。グレモリー眷属は現状パワータイプが占めている。悪魔基準でのテクニックタイプは木場さんただ一人。構成的にはだいぶ偏ってる。比較的常識的な考え方の木場さんが不安に思うのも無理はない。だからってチラッと僕を見ないでください。

 

「……眷属一の苦労人、祐斗先輩」

 

 塔城さんが一言かける。

 

「なるほど錬金術でデュランダルの刀身に鞘の形で被せてるのか。それならデュランダルの攻撃的なオーラを漏らさず覆えるな。2つの伝説級の聖剣による相乗効果によって性能を大幅に上げられる。理論上の性能としては神滅具(ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)にも劣らない。―――致命的に不正解だな」

 

 フリードはそう言って深くため息を吐いた。

 

「元同士として少しだけ忠告しておいてやる。そのままだといずれエクス・デュランダルを扱えなくなる。最悪―――エクス・デュランダルに殺されるぞ」

 

 エクス・デュランダルに殺される……? それは一体どういうことなのだろうか。

 

「で、結局私の相手は誰がしてくれるのかしら?」

「もちろん俺だ」

「ちょっと! 話は終わってないんだから! それにゼノヴィアがエクス・デュランダルに殺されるってどういうことよ!?」

 

 イリナさんがフリードに詰め寄り質問するが、急にピタリと足を止めた。

 背を向けていたフリードが半身でこちらを向く。

 

「悪いことは言わない。だから下がれ。それにこれも言ったよな? 断っても強行する。―――邪魔をするなら生死は問わないって」

 

 鋭い殺意のプレッシャーが襲いかかる。それはグレモリー眷属としては経験したことのない濃密で鋭い殺気だった。

 グレモリー眷属もこれまで何度も命のやり取りをしてきたが、どうも壁一枚隔てたいるように感じられた。例えるなら本気の喧嘩ぐらい。

 だがフリードは殺気はその壁を一歩踏み越えた。普通の人間が武器一つで熊やライオンなどの猛獣と相対しているかのような。

 ある種対等以上な立場から命をかけてきた彼女たちにとって、対等以下の精神的立場に置かれるのは初めてのことだろう。

 そんな事をしてる間にゲオルグは携帯で誰かと話していた。そして携帯から耳を離しジャンヌに言った。

 

「ジャンヌ、フリードは放っておけ。向こうが対処するそうだ」

「あ゛っ!?」

 

 そう言った瞬間、フリードの足に矢が刺さった! どこから飛んできたのか、全く気づかなかった。

 

「ぐっ……!  どこから……!?」

 

 そうしてまた万全の警戒をしていたにも関わらず再び矢がフリードに刺さった。今度は脇腹に。

 だが注意していたおかげで避けることは出来なかったが絡繰りはわかった。

 弓矢は性質上直線の的にしか射ることしかできない。矢は正面から刺さった。ならば必ず眼前から飛んで来る矢をフリードが見落とすはずがない。

 “矢は刺さる直前に突然現れた”。

 その方角をオーラを纏わせた目で見ると、弓道着姿の長い緑髪の女性が大きな弓を持っていた。駒王町でフーリッピを連れ去った人だ! 

 恐らくオーラで飛距離は劇的に伸ばしてるのは思うが、それでもあの距離から弓を正確に射るのは相当難しい。それだけで技術の高さがうかがえる。しかものんきに緑色のあんこの乗った餅を食べてる。

 

「ついていらっしゃい! 悪魔に天使に堕天使だなんて! 私はモテモテね! イケメンをフラないといけないのは残念だけど」

 

 ジャンヌは嬉々としながら聖剣で作られたドラゴンの背に乗る。

 ドラゴンはジャンヌを背に乗せると、近くにある高層ビルの壁に手足を引っ掛けて高速で駆け上がり始めた。

 ゼノヴィアさん、イリナさん、朱乃さんも翼を広げて追うと、直ぐに空高くで激しいぶつかり合いが始まった。

 足を怪我し、遠くから狙撃を注意しなくてはいけないフリードは追いかけることは出来なかった。

 残るはヘラクレスとゲオルク。

 木場さんはゲオルクに問う。

 

「何故あのバスを狙った? と言うよりも何故首都リリスにいるんだい?」

「まず後者の方から答えようか。―――見学だ。曹操があの超巨大魔獣が何処まで攻め込む事が出来るか、その目で見てみたいと言うのでね」

 

 見学、もしくは見学に来たと言う曹操の付き添いか。でもその肝心の曹操はいない。何処かで高みの見物でもしているのだろうか?

 

「では、何故バスを狙った?」

 

 木場さんが再度訊くと、ゲオルクは嘆息するだけだった。

 

「偶然、そのバスと出くわしてな。そうしたら、ヴリトラの匙元士郎とシトリー眷属が乗っていたのだ。あちらもこちらの顔を知っている。まあ、相対する事になってしまうのも否めないだろう」

 

 偶然の相対と言い分を述べるゲオルクだが、ヘラクレスは挑戦的な笑みを見せる。

 

「俺が煽ったって面もあるぜ? 偶然、あのヴリトラに出会ったんだ。魔獣の都市侵略の見学だけじゃ、物足りなくなってな。『子供を狙われたくなけりゃ戦え』って言ったんだよ。―――で、戦闘開始ってわけだ」

 

 あまりにも身勝手な理由だった。それで匙さんは子供達を守る為に傷だらけとなったのか。

 僕の中に静かな怒りが湧き上がったその時―――。

 

「英雄派は異形との戦いを望む英雄の集まりだと聞いていたが……どうやら、ただの外道がいたようだ」

 

 そう言いながら対峙するリアスさん達の間に現れる男性。

 金色の獅子を引き連れ、極大なまでのパワーを有するその者。純粋に『力』を高め、己の体術だけでグレモリー眷属を追い詰めたその人物―――サイラオーグ・バアルの登場。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 金色の獅子―――レグルスをその場に留めさせると、サイラオーグさんは一歩前に出て一言漏らした。

 

「―――俺が行こう」

 

 上着をを脱ぎ捨て鍛え上げられた肉体を露わにする。

 その身からは戦意と闘気が滾っていた。

 

「首都で暴れ回っていた旧魔王派の残党を一通り(ほふ)ったところでな、遠目に黒いドラゴン―――匙元士郎の姿が見えた。ゲームでの記録映像でしか見た事の無い姿だったが、直ぐに理解した。―――強大な何かと戦っていると」

 

 サイラオーグさんはヘラクレスに視線を向ける。

 ヘラクレスも戦意を受けて、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「バアル家の次期当主か。知ってるぜ? 滅びの魔力が特色の大王バアル家で、滅びを持たずに生まれた無能な次期当主。悪魔のくせに肉弾戦しか出来ないって言うじゃねぇか。ハハハ、そんなわけの分からねぇ悪魔なんざ初めて聞いたぜ!」

 

 ヘラクレスの煽りを入れるもサイラオーグさんは微塵も表情を変えない。

 この程度の嘲笑なんて、同族から何度も浴びせられた罵詈雑言だろう。

 

「英雄ヘラクレスの魂を引き継ぎし者」

「ああ、そうだぜ、バアルさんよ」

 

 ヘラクレスの方にゆっくりと足を進めながらサイラオーグさんは断ずる。

 

「―――どうやら、俺は勘違いしたようだ。貴様のような弱小な輩やからが英雄の筈がない」

 

 それを聞いてヘラクレスの顔に青筋が浮き上がる。

 今の一言でヘラクレスのプライドが沸き立ったのだろう。

 

「へっ、赤龍帝との殴打合戦を繰り広げたらしいじゃねぇか。だせぇな。悪魔っていや、魔力だ。魔力の塊、魔力での超常現象こそが悪魔だと言って良い。それが一切無い赤龍帝とあんたは何なんだろうな?」

 

 ヘラクレスがいくら煽ろうとサイラオーグさんは眉1つ動かさない。

 それでもヘラクレスの煽り続ける。

 

「元祖ヘラクレスが倒したって言うネメアの獅子の神器(セイクリッド・ギア)を手に入れているって言うじゃねぇか。―――皮肉だな、俺と会うなんてよ。それを使わなきゃ俺には勝てないぜ?」

 

 ヘラクレスの物言いをサイラオーグさんは再び断ずる。

 

「使わん」

「は?」

 

 更にコメカミに青筋を浮かび上がらせ、ヘラクレスは怒りの口調で問い返すが。

 

「貴様ごときに獅子の衣は使わん。どう見ても貴様が赤龍帝よりも強いとは思えないからな」

 

 サイラオーグはただそう断言するだけだった。

 それを聞いたヘラクレスは哄笑を上げる。

 

「ハハハハ! 俺の神器(セイクリッド・ギア)で爆破できないものはねぇのよ! たとえ、あんたが闘気に包まれたってな! 俺の神器(セイクリッド・ギア)にかかれば造作もねぇのよ!」

 

 ヘラクレスが飛び出し、手にオーラを纏わせる。

 サイラオーグさんの両腕を掴むと―――神器(セイクリッド・ギア)による爆破攻撃を始めた。

 確かヘラクレスの神器(セイクリッド・ギア)の名前は『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』。能力は攻撃と同時に対象物を爆破する。

 爆音と共にサイラオーグの両腕が爆はぜる。

 だが、サイラオーグさんは平然としていた。ダメージも体の表面で留まってる。

 

「なるほど。―――こんなものか」

 

 肉が爆ぜ、血が噴き出ても彼らは表情を変えなかった。

 ヘラクレスは完全に激怒した様子で両手のオーラを更に高まらせる。

 

「へへへ、言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、これならどうよッ⁉」

 

 そのまま路面に向けて拳を連打で繰り出した。その瞬間、路面ごと大規模な爆破が巻き起こり、サイラオーグさんの全身を包み込む。

 煙、塵と埃、粉塵が渦巻いて辺り一面を激しく覆う。

 路面は完全に崩壊して瓦礫の山となり、瓦礫の上でヘラクレスが再び哄笑を上げる

 

「ハハハハハハハハッ! ほら、見たことかよ! 何も出来ずに散りやがった! これだから魔力もねぇ悪魔は出来損ないってんだよ! たかが体術だけで何が出来るって―――」

 

 そこまで言ってヘラクレスの口が止まる―――その表情は驚愕に包まれていた。

 煙が止んだ車道の中央でサイラオーグさんは何事も無いように立っていたのだから。

 全身に軽度のダメージを負い、血を流そうとも表情を一切変えていなかった。

 

「―――こんなものか?」

 

 全く薄れない闘気を目の当たりにしたヘラクレスの表情が軽く戦慄する。

 

「……舐めんな、クソ悪魔がッッ!」

 

 毒づくが先程の余裕はない。

 そのヘラクレスへ、サイラオーグさんは進撃を開始した。

 重圧を放ちながら、ヘラクレスとの間合いを詰めていく。

 

「英雄ヘラクレスの魂を引き継ぎし人間と言うから、少しは期待したのだが……。どうやら、俺の期待は(ことごと)く裏切られたようだ」

 

 ヘラクレスが再び両手を構えるが―――サイラオーグさんの姿が瞬時に消え去り、ヘラクレスの眼前に現れる。

 

「俺の番だ」

 

 ドズンッ!

 

 重く、低く、鋭いサイラオーグさんの拳打がヘラクレスの腹部に深々と突き刺さり、その衝撃はヘラクレスの体を通り抜けて後方のビルの壁を難無く破壊する。

 

「――――ッッッ⁉」

 

 予想以上の破壊力だったのか、ヘラクレスは当惑した表情を浮かべた後、苦悶に包まれていく。

 その場に膝をつき、腹部を手で押さえ、口から血反吐が吐き出される。

 たった一撃で形勢が逆転した。

 サイラオーグさんがヘラクレスを見下ろして言う。

 

「どうした。今の一撃はただの拳打だ。お前がバカにした赤龍帝はこれを食らっても一切怯まずに立ち向かってきたが?」

 

 それを聞いてヘラクレスはくぐもった声音で不気味な笑いを発し、同時に激情に駆られた憤怒の形相で立ち上がる。

 ……だが、憤怒の形相も次第に消え、固く握りしめられた拳から徐々に力が抜けていく。

 

「……へっ、骨のねぇ悪罵ばっかり相手にしてたせいで鈍っちまってたみたいだ。久々の感覚だぜ。へへっ、一回基本に立ち返るのも悪くねぇな」

 

 どうやら怒りが限界を突破し一周回ってヘラクレスが冷静さを取り戻してしまったようだ。

 ヘラクレスの雰囲気が少し変わり、手のオーラをも静まっていく。

 

神器(セイクリッド・ギア)は使わないんだったよな? だったら俺も神器(セイクリッド・ギア)はもう使わねぇ」

 

 サイラオーグさん同様にヘラクレスの体が闘気に包まれた!

 膝をつかされたにも関わらずノーガードで「来いよ」と挑発する。

 

「面白い……!!」

 

 サイラオーグさんはならば見せてみよと言わんばかりに同じ部位へ、ヘラクレスの腹部へ拳打を突き刺した。

 同じく凄まじい衝撃はヘラクレスの体を通り抜けていく。むしろその闘気と衝撃は先程よりも強力だ。ただ一つ違うのは―――ヘラクレスが倒れなかったこと。

 ヘラクレスが纏う闘気は一見サイラオーグさんより二回り程少ない。だがそれはヘラクレスがサイラオーグさんに劣っているわけではなく無駄の少ない纏い方をしているだけ。さらに闘気の質はヘラクレスの方が高い。

 そこを計算に入れて考慮するならヘラクレスの闘気はサイラオーグさんより一回り程多いはず。

 

「どうした。まさかこの程度で終わりってわけじゃねぇよな……!」

 

 サイラオーグさんを上から強烈な張り手で地面に叩きつけるように押さえつけた。その衝撃は地面にクレーターを生むほどの威力。

 

「―――ぐぐッ!?」

 

 あれ程まで効いた拳を同じ部位で受け止められ、あまつさえ強烈な反撃までされた。侮っていた相手から予想外の出来事にサイラオーグさんの動揺は闘気が一瞬緩んだことから察せられる。

 闘気の緩みはガードを失うのと同義。おそらく闘気を纏う前のヘラクレスが生身で受けたダメージと同様―――地面で衝撃を逃がせなかった分それ以上のダメージを受けたかもしれない。

 相手の強さを楽しもうとするサイラオーグさんの悪い癖が出てしまった。

 ヘラクレスもサイラオーグさんを侮り手痛い一撃を受けたが、怒りによって覚醒へと至った。

 なんとも分の悪い痛み分けだろうか。

 だがサイラオーグさんもそれで終わるほど軟ではない。かなりのダメージは見られるが立ち上がる。

 

「ライオンさん! がんばってぇぇぇっ!」

「ライオーンッ! 負けないでぇぇぇっ!」

 

 避難をし始めていた子供たちがヘラクレスと対峙するサイラオーグに向けての声援を送る。

 サイラオーグさんはその声援が予想外のものだったのか、キョトンとした表情を浮かべていた

 子供達からの声援を受けたサイラオーグさんは嬉しそうに笑いを上げる。

 

「ふはははははははっ!」

 

 サイラオーグさんの闘気が勢いを増していく。

 

「あの子達から『がんばって』と、『負けないで』と言われてしまった。心地よいものだな、兵藤一誠。これが子供達から貰える力か。―――貴様に負ける道理は一切無くなったぞ、英雄ヘラクレスよ」

「声援と武者震いか……。へっ、実は俺も経験があるぜ。ガキじゃなくて仲間からだけどな。体の奥底から力が湧いてきて、もう誰にも負ける気がしないあの心の震えは心地いいよな。来いよ! 能無し大王がッ!」

 

 吼えるヘラクレスの顔面に闘気に満ちたサイラオーグの拳が撃ち込まれる。一歩に二歩とよろめき鼻血を吹き出すヘラクレスだがそこまで。

 

「へっ、いいパンチだ」

 

 子供たちの声援による精神の昂りによって強化された闘気だったが、それでもまだヘラクレスの方が量はそもかく質で勝てない。

 こっちの番だと今度はヘラクレスがサイラオーグさんの顔面に闘気を纏った拳が打ち込まれる。鼻血どころではない血しぶきを撒き散らし地に膝を付けた。

 

「あの時の俺もそうだったぜ。仲間からの声援に心を動かされ負ける道理なんて無いと思ってた。だけどよ本当の実力差ってのはそう簡単には埋まらねえのさ」

 

 力で完全に劣っていたサイラオーグさんだが精神はまだ折れてはおらず、表情に絶望は見えない。

 その様子を見てヘラクレスは挑発的な笑みを浮かべるが、そこに嘲笑のようなものは感じれない。

 

「クソ悪魔にしちゃ悪くなかったぜ。能無し大王だが、認めてやるよ。だがな―――」

 

 拳を振り上げるヘラクレスにサイラオーグさんは両手でガードの構え。

 

「―――これで終わりだ」

 

 サイラオーグさんのガードを突き破りヘラクレスの拳が腹部へと撃ち込まれた!

 小気味の良い音が一帯に木霊する。

 完全に意識を絶たれたサイラオーグさんが路面に突っ伏していく。

 サイラオーグさんの拳は外道に身を落とした相手のプライドを蘇らせる。だが今回はそれが敗因となってしまった。

 

「ふん、その程度の相手に何も出来ぬとはな。―――未熟者め」

 

 倒れるサイラオーグさんに向かってレグルスがボソリと悪態をつく。

 

「久々のガチの殴り合いに熱くなって来ちまった。おい! グレモリーの戦車(ルーク)、次はお前が戦え!」

 

 グレモリーの戦車(ルーク)と言えば塔城さんだが、その視線の先はどう見ても僕。どうやらまだグレモリー眷属の一員と認識されてるようだ。

 

「不思議な技でバアルとのゲームじゃ異質な大活躍をしたらしいな。その実力が本物かどうか俺が試してやるよ」

 

 グレモリー眷属ならともかく今の僕にヘラクレスと戦わなければいけない理由はない。が、断れば暴れまわるのは目に見えている。

 それでレイヴェルさんやギャスパー君に危害が及ぶかもしれない。そうなれば結局僕も戦わなくてはいけない。

 フリードもまだ万全の状態では戦えそうにない。

 しぶしぶ前に出ようとしたその時、近づいてくる気配が一つ。

 

「やめろ、ヘラクレス」

 

 第三者の声が響く。声のする方へ視線を向けるとこちらに悠々と歩いて来るアフロの黒スーツの男性。

 

「まったくお前ら、くだらんマネをしたもんだ。こんなもんただの戦争じゃねぇか」

 

 男性は厳しい顔つきでヘラクレスとゲオルグに向かって言った。

 そして今度はこちらを見て言う。

 

「よぉ世界の厄介者共、クズに成り果てた俺の仲間が凄まじく迷惑をかけた」

 

 にっこり笑いながら目の前で両方ともディスった!

 

「へっ、ずいぶんな言いようじゃないか“イクサ”」

 

 “イクサ”は男性の名前だろう。

 ゲオルグが言う。

 

「……イクサ、やはりキミもか。やはりグレモリーと関わってから組織はおかしくなった」

「それを言うなら禍の団(カオス・ブリゲード)と関わってからだ。つまらん悪党共とつるみやがって」

 

 フョードルさんの話では英雄派は元々はかなりまともな組織だった。それが狂って今のテロリスト―――英雄派と成り果てた。その過程には何があったのだろうか。

 イクサはフリードを見て言う。

 

「遅れて悪い。少々足止めをくらってな。馬鹿共の相手を押し付けてしまってすまん。だいぶ苦労させてしまったみたいだな。この馬鹿は俺に任せておけ」

 

 グレモリー眷属を置き去りに勝手に話を進めイクサは前に出る。

 このイクサって人―――強いな。闘気を纏っているのはもはや勿論のことその量も質も今のヘラクレスに勝るとも劣らない。

 

「へっ、あの時の俺とは違うぜ。今は本当に負ける気が一切しない」

「ああ、確かに違うみたいだな。昔のお前の方がよっぽど見所があった」

「言ってくれるじゃねぇかよッ!」

 

 完全に互いの間合いに入った二人はさっそく互いの顔面へ拳を撃ち込んだ。


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