無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 やっと感想全部返信終わった。……さてと、おかわり注文しますか(笑)


本物な出来損ないの逆襲(後編)

 僅かな静寂……そしてジークフリートの体が脈動する。それは次第に大きくなっていき、体そのものにも変化が現れ始めた。

 奇っ怪で鈍い音を立てながら、ジークフリートの背に生える4本の腕が太く肥大化していく。五指も徐々に形を崩し始め、持っていた魔剣と同化していった。

 ジークフリートの表情は険しくなり、顔中に血管が浮かび上がる。全身の筋肉が別の生物のようにうごめき回り、身に着けていた英雄派の制服が端々から破れていく。

 地に手が届く程にまで長く太く巨大化した4本の腕を背に生やす怪人。

 その姿は既に阿修羅ではなく、蜘蛛のバケモノの様なシルエットだった。同時に放つオーラとプレッシャーも化物のように不気味に膨れ上がる。

 変貌したジークフリートは顔面に痙攣を起こしながら口元を笑ました。

 

『―――「業魔人(カオス・ドライブ)」、この状態を僕達はそう呼称している。このドーピング剤を「魔人化(カオス・ブレイク)」と呼んでいてね、それぞれ「覇龍(ジャガーノート・ドライブ)」と「禁手(バランス・ブレイカー)」から名称の一部を拝借しているんだよ』

 低く重い声質、既に声すらも変調したジークフリート。それを見てアジュカ・ベルゼブブが語る。

 

「素晴らしい。人間とは、時に天使や悪魔すらも超えるものを作り出してしまう。俺はやはり人間こそが可能性の塊なのだと思えてしまうよ」

 

 そう言うアジュカ・ベルゼブブにフリードは軽蔑を込めた冷やかな視線を送った。

 人間でありながら神が作り出したものを肥大化させ、魔王の血肉すらも利用する。人間は何処までも欲望を進化させてしまう。時に神以上に、悪魔以上に。―――その人間の欲望を最も欲したのがまさに現代の悪魔。 

 魔人と化したジークフリートが1歩足を踏み出す。それだけでこの場の空気が一変し、瘴気(しょうき)が渦巻いていく。

 魔剣と同化して異常な進化を遂げた4本の腕が大きくしなる。攻撃が来ると判断した木場とフリードは攻撃を視認するよりも前に瞬時に駆け出した。

 木場達がいた場所に渦巻き状の鋭いオーラと氷の柱が生まれ、更に地が抉れて次元の裂け目まで生じていた。

 各魔剣の相乗攻撃に一瞬でも判断が遅ければ五体は弾け飛んでいた。

 木場は前方から感じる異様な寒気を察し、その場で聖魔剣を聖剣に変化させ、禁手(バランス・ブレイカー)の騎士団を1体だけ具現化させる。それを空中で蹴って距離を取る。

 同時にフリードも聖剣を放り投げ素早く一回転させキャッチすると、フリードの姿が消えた。

 その瞬間、祐斗がいた空間に極大で凄まじいオーラの奔流が通り過ぎていった。空中で足場にした甲冑騎士は跡形も無く消え去っていく。

 宙でジークフリートの方に視線を向けると、グラムを振るった後だった。

 攻撃の余波だけでもグラムの一撃は木場の全身に痛みを走らせる。直撃すれば完全に消滅は免れない。

 少し離れたところでフリードがまたしても突然姿を現し、ジークフリートの攻撃跡とジークフリート本人を確認した。

 屋上に降り立った木場は手元の剣を聖魔剣に戻して瞬時にジークフリートに詰め寄る。横薙ぎの斬撃を放つが軽々と魔剣の1本で受け止められてしまう。

 極太の腕4本から繰り出される剣戟は破壊力に満ちており、直撃すれば木場の体は容易に砕け散る。唯一、ジークフリートが左手に構える光の剣は光を喰らう聖魔剣で消失させたものの、魔剣5本はそう簡単に消す事など出来ない。

 木場とジークフリートの剣戟合戦は暫しばらく続いていった。残像を生みながら高速で動く木場の攻撃をジークフリートは全て魔剣で防いでいく。

 時折、振るわれてくるグラムのオーラが木場の体を端々から痛めつける。

 当たらなかったグラムの波動は地を抉りながら後方まで走り抜け、屋上庭園は幾重ものグラムの波動によって荒れ地へと様変わりしていた。これだけ多くの攻撃をされてもアジュカ・ベルゼブブがここを魔力などで堅固に補強しているためビルは健在。

 5本の魔剣の刃が一斉に木場目掛けて刺し込まれてくる。木場はそれらを避けるついでに足先に聖魔剣を創り出し、相手の脇腹に蹴り込む。その際の聖魔剣の仕様は龍殺し(ドラゴンスレイヤー)であり、直撃すれば形勢が変わる。そう思っていた矢先、木場の聖魔剣は儚い金属音を立てて砕け散った。

 その結果を見てジークフリートが不敵に笑む。

 

『―――どうやら、強化された僕の肉体はキミの龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の聖魔剣を超えていたようだ』

 

 脇腹に一撃入れた祐斗の足をジークフリートが掴み、そのまま宙に高く持ち上げ―――勢いに任せたジークフリートの剛力が木場を地面へ叩きつけた。

 更にそこへ魔剣が一振り放たれる。全身を押し潰されていく様な重い衝撃が木場の体を突き抜け、地面に巨大なクレーターを生み出した。

 言い難い激痛が全身を駆け巡り、口から吐き出された大量の血反吐が庭園の緑を赤く染める。

 地面に叩きつけられた衝撃と魔剣の一撃によって体の各部位が深刻なダメージを受けて痙攣を起こし、骨も相当な数が深い損傷を受けた。

 それでも木場は懸命に意識を繋ぎ止めて足を動かした。その場から一時的に退避した後、体勢を立て直して斬り込んでいく。

 ジークフリートは2本の魔剣をクロスして木場の剣戟を難無く制した。

 

『防御の薄いキミでは、今の一撃で相当な傷を負ったんじゃないかな?』

 

 ジークフリートが低い声音で笑い、クロスした魔剣ごと木場を突き押す。

 体を弾かれた木場は足下をふらつかせるが、体中から残った力を総動員させて、ふらつきを止める。

 ふらつきが止まったと思った矢先―――木場の足先が氷に包まれていた。ジークフリートの魔剣による攻撃。直ぐに聖魔剣を炎の属性に変化させて氷を溶かそうとしたが、地面から突き上がってきた2本の氷柱が木場の両足を貫く。

 そこにジークフリートは更なる魔剣を振り下ろした。足を封じられて避けようの無い木場は体を捻り、手元に聖魔剣を複数創造して盾のようにする

 しかし、束となった聖魔剣は破壊され―――木場の左腕が肩口から切り落とされてしまった。

 片腕を切り落とされながらも木場は足場の氷を炎の聖魔剣で振り払い、後方に飛び退いた。

 失った左腕の肩口から大量の血が流れ出てくる。剣を氷の聖魔剣に変更し、肩口と両足の傷口を凍らせた。

 木場の体は既にボロボロで、自慢の両足にも穴を開けられ無様に膝をついている

 

「祐斗……ッ!」

 

 沈痛な表情でリアスが木場の名を呼ぶ。一誠の駒を両手で握り、何かを待ち望む。

 

『……部長、そうやってイッセーくんを頼ろうとしても彼はここに来られないんですよ? ……あなたが立ち上がらないでどうするんですか。あなたが戦う意志を失えば、眷属にも影響が出てしまう……』

 

 朱乃も小猫もハラハラと見ているだけで動けない状態にいる。一誠を失って皆が戦う意志を無くした。

 先程の殺意も一時的なものに過ぎず、己の体を突き動かすまでには至らない。

 

『こんな状況の僕らでは冥界の危機を救うなんて到底出来やしませんよ、サイラオーグ・バアル……ッ! ……僕にもイッセーくんのように誰かを激しく鼓舞できる程の要領があればと思ってならないよ……っ』 

「……木場さんまで死んでしまう……。いや……もう、こんなのはいやです……」

 

 アーシアは恐慌状態に陥り、手からは弱々しいオーラが出現するだけでいつもの出量が放出できない。一誠を失ったショックで神器(セイクリッド・ギア)の能力が一時的に弱まっていた。

 

リアスと朱乃が何とか攻撃を加えようと魔力を放つが―――その勢いと威力はあまりにも弱々しく、ジークフリートの一振りに難無く払い除けられ、アドラスに至っては腕さえ振るわずに攻撃を受け止める始末……

 小猫の闘気も力が陰り、もはや満足に能力が扱えるのはレイヴェルと誇銅のみ。

 

「そろそろ代わろうか?」

 

 フリードが近づき木場の顔を覗き込み訊く。だが今の木場に答える余裕はない。だが顔を覗き込んだ際に木場の闘志が死んでいないことは確認した。

 木場はルヴァル・フェニックスから貰ったフェニックスの涙を1つ取り出して傷口にかけていく。瞬時に痛みが和らぎ、傷も塞がっていくが―――左腕の再生には至らない。

 傷は治ったものの、流血による体力の消耗は著しく、足にも力が入らない。

 木場の状態を見てジークフリートは嘲笑した。

 

『酷いな。先日出会った時のグレモリー眷属とは思えない。先程良い殺気を放ってくれたから、木場祐斗との戦いに乱入でもしてくれるものかと期待していたんだけどね。まさか、この程度とは……』

 

 不甲斐ないと思いながらも限界だった。木場も必死に耐えてはいるが、一誠への依存度はリアス達と変わりない。

 いつも一緒に戦ってきた一誠がいない。その事実の辛さ、厳しさが木場やリアス達の戦意を大きく削ぎ落としていた。

 

『キミも遠慮しなくていいんだよ? フリード・セルゼン』

「いや、別に俺はこいつら助けに来たわけじゃないから。もうグレモリー眷属を助ける理由も無ければ義理もないし」

 

 問いかけられたフリードはしれっと言う。

 

「さっきつい勢いで助けちゃったけども、別に俺的に悪魔が滅ぶのは困らないから」

 

 一応といえど一度は協力した間柄なだけに、黙って見捨てるのはフリードとしても全く心が動かないわけではない。だからこそ一度ははずみで命を救った。

 だが元々悪魔もとい聖書に良い印象などなく、滅ぼすべきとすら考えている。逆に必要とあらばそんな相手を救うことにも躊躇なく命を懸ける。

 フリードは木場の横を通り過ぎて前に出る。

 

「だが、目の前で死んでいくのを鑑賞するような趣味はない。脱落したなら俺の番だ」

 

 木場の闘志は死んでいないが、限界の体を動かすのには足りないと判断した。

 ジークフリートは再び愉快そうに口元を笑ました。

 フリードの聖剣が輝き光を纏う。その輝きはグレモリー眷属の聖剣使いが本気を出した時の輝きには遠く及ばないものの、聖剣にキッチリと収められたオーラがその認識は間違いであると物語っている。しかし、それを理解出来る者は本人を除きこの場に2人しかいない。 

 ジークフリートが最初の攻撃同様に魔剣と同化した4本の腕をしならせると、フリードは聖剣の剣先を屋上の地面に付けた。

 最初同様にフリードがいた場所に渦巻き状の鋭いオーラと氷の柱が生まれ、更に地が抉れて次元の裂け目まで生じていたが、フリードが立つ聖なるオーラに護られた場所だけは全くの無傷だった。

 

「小手調べのつもりか? それにしても全く同じってのは芸がないぜ」

 

 各魔剣の相乗攻撃を堂々と耐えた事にジークフリートは一瞬驚いたが、すぐより一層愉快そうに笑む。

 再び同じようにグラムを振るうが、フリードはその場で聖剣を一振り空振りした。

 その瞬間、またしても同様にグラムの極太で凄まじいオーラの奔流が襲いかかるが、棒立ちのフリードの目の前で不自然にオーラは斬り裂かれフリードの左右を通り過ぎていった。涼しい顔で攻撃の余波も感じさせない。

 不可解な現象にジークフリートも訝しげな表情をした。

 

「ぼさっとしてんなよ!」

 

 一言と共にフリードは距離を詰める。縦割り斬撃を受けたジークフリートはある違和感を感じた。

 受けた斬撃の衝撃と手応えがおかしい。その違和感に繰り出す魔剣を次々と弾かれながらも、5本の魔剣という圧倒的手数で互角の剣戟を繰り広げる。

 ジークフリートとフリードの剣戟合戦は木場よりも長く続くと思われたが、フリードが間合いを間違えたのかジークフリートの目の前で空振りをした。「やべっ」と一言残し後方へ下がるフリードを喜々として追撃しようとしたジークフリートだが、フリードがニヤリと笑った。

 前方へを踏み出すとジークフリートの腹部が突然斬られ、深々とした傷口から血を流す。

 痛みと共に傷口が聖剣の聖なるオーラに焼かれていく。

 そこへ詰め寄るフリードに魔剣を構えるジークフリートだったが、フリードは目の前で不自然に空振りしてみせた。ジークフリートはその挑発に怒りを(あらわ)にしたが、空振りの軌道と全く同じ軌道で再び聖剣を振るう。

 ジークフリートはその剣を自身が最も信頼する魔剣帝グラムで受け止めたが、フリードの聖剣に完全に競り負けた。剣戟の瞬間、ジークフリートは先程までの剣戟よりも大きな違和感を感じた。だがそれが何なのか未だ確信には至らない。

 その思考がジークフリートの動きを僅かに鈍らせた。それは致命的な隙きに繋がり、聖剣の一撃を生身で受けてしまう。

業魔人(カオス・ドライブ)』による強化のおかげで致命傷には至らなかった。

 二度の不可解な現象と生身で攻撃を受けたことでジークフリートは違和感の正体に確信を得た。

 フリードは一度空振りをしてから距離を取る。その空振った場所へジークフリートが魔剣を振り下ろすと、剣戟がぶつかる音が鳴った。

 

『やっぱり、見えない斬撃が空間に(とど)まっているのか』

「正解だ。聖剣に時空の力を帯びさせ、自分の行動の一部を空間に記録する。それが俺の、俺達の『自らの行いを記録せよ(メメント・モース)』の能力だ」

 

 フリードは軽く拍手し自分の能力を説明し、それに呼応するように聖剣が輝く。

 

「ちなみに、二重の時空を帯びているから直接の攻撃が倍近くになるぜ。記録された行動に重複させれば約3倍だ」

『いいのかい? 能力をバラしてしまって』

「人間同士の決闘だ。フェアにやろうぜ。それに知ったところで対処なんて出来ないだろ?」

 

 最後の一言に眉をピクリと動かすが、愉快そうに口角を吊り上げた。

 そこからジークフリートとフリードの剣戟合戦が始まった。能力を知ったジークフリートは空間に記録された攻撃に注意し、フリードは散り散りに鳴った注意の糸を縫って攻撃する。

 相変わらずペースはフリードが握ってはいるが、能力の正体を知っただけにジークフリートもより善戦している。

 

『フリード・セルゼン、キミの登場はグレモリー眷属以上に予想外だった。だが今は感謝しているよ。木場祐斗との戦いもとんだ期待はずれだったからね。彼がいなくなったことでグレモリー眷属はすっかり腑抜けてしまった。兵藤一誠は無駄死にをしたよ。出涸らしとなったオーフィスを救う為にあの空間に残り、シャルバと相討ちになったんだろう? あれからシャルバの気配が消えたからね。生きていれば僕達に堂々と宣戦布告して、冥界にも旧魔王派の力を宣言しているところだろうから。あのまま兵藤一誠がオーフィスを放置して帰還すれば、今頃態勢を整えて再出撃できただろうに。オーフィスはともかく、シャルバは後で討てた筈だよ。自分の後先を考えないで行動するのは赤龍帝の良くないところだった』

 

 多少情報の間違いはありつつもフリードは内心「まったくだ」と思い鼻を鳴らす。それと同時に今からでもなんとか戦闘を中断出来ないものかと画策する。ここでジークフリートと戦うのはフリードとしても大変不本意なのだ。

 ジークフリートの台詞を聞いて木場の思考は一瞬真っ白になり、次の瞬間にはドス黒いものが体の奥底から沸き上がってきた。

 

 ――――ヒョウドウイッセイ ハ ムダジニ シタヨ

 

『……ふざけるな。……ふざけるなよ……ッ!』

 

 木場の心を支配したのは……悔しさ、悲しみ、一誠との約束した事だった。

 全身を震わせながらも木場は足に力を込めていき、徐々に足が上がり始めた。

 情けなく震える両足で立ち上がり、喉まで上がってきたものを遠慮無しに天に向けて放った。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 自分でも信じられない程の声量腹の底から、心の底から噴き出してきた。

 一誠の声が木場の脳裏に蘇る。

 

 “木場、俺達はグレモリー眷属の男子だ”

 

『ああ、分かっているよ、イッセーくん!』

 

 “だから、どんな時でも立ち上がって皆と共に戦おうぜ”

 

『そうだね、イッセーくん。どんな相手だろうと、立ち向かっていかなければならないッ!』

 

 1歩、また1歩と木場はジークフリートに近付いていく。手元に聖魔剣を創り出しながら

 

「まだだ! まだ戦えるッ! 僕は立たないといけないッ! あの男のようにッ! グレモリー眷属の兵藤一誠はどんな時でも、どんな相手でも臆せずに立ち向かったッ! 赤龍帝はあなた達が貶していい男じゃないッ! 僕の親友をバカにするなッ!」

 

 涙混じりの咆哮を解き放つが、それは勢いしか無い。

 ジークフリートはきっぱりと断ずる。

 

『無駄だっ! あの赤龍帝のようにいこうとも、キミでは限界がある! ただの人からの転生者では、いくら才能があろうとも肉体の限界が―――ダメージがキミを止める!』

 

 事実もう木場の肉体は限界であり、剣を握る力すら満足に無い。それでも―――。

 

『イッセーくんはそれでも立ち向かえる筈だ! 宿れ! 少しでも良いから宿ってくれ……! 兵藤一誠を突き動かしていた意地と気合よ! どうか、少しでも僕に宿ってくれ!』

 

 剣を構えて前に飛び出していこうとしたその時、視界の隅に紅い閃光が映り込んでくる。そちらに視線を送ると―――。

 

「……イッセーの駒が」

 

 リアスが手にする一誠の駒が紅い光を発していた。

 そこから1個だけ『兵士(ポーン)』の駒が宙に浮かび始め、いっそう輝きを増して深夜の暗闇を紅く照らしていく。

 その駒が木場のもとに飛来し、弾けるように光を深めた。

 あまりの光量に一瞬だけ眼を伏せる木場が次に目にしたのは、宙に浮かぶ1本の聖剣―――アスカロンだった。

 

「……イッセーくんの駒が……アスカロンに……?」

 

 ―――行こうぜ、ダチ公。

 

 聞こえてきた一誠の声に涙が溢れる。

 

「……キミはなんてお人好しなんだろう。たとえ駒だけでも、キミは仲間を……僕を……ッ!」

 

 アスカロンから伝わる勇気を貰い、木場の体に信じられない程の活力が沸き上がってきた。

 

「そうだね、イッセーくん。行こうよ! キミとなら、僕は何処までも強くなれるんだからさッ! キミが力を貸してくれるならッ! どんな相手だろうと切り刻めるッ!」

 

 自然と足の震えは止まり、アスカロンを握る手にも力を込めて、木場はジークフリートに斬りかかる。

 木場の一撃を受け止めながらジークフリートは驚愕に包まれていた。

 

『……ッッ! バカな……ッ! 立つと言うのか……ッ! 血をあれだけ失えば自慢の足も動かなくなる筈だ……ッ!』

「行けってさ。立てってさ。この剣を通してイッセーくんが僕に無茶を言うんだ。じゃあ、行かなきゃダメじゃないか……ッ!」

 

 アスカロンから膨大なオーラが解き放たれていく。

 龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の聖剣アスカロンを受けて、ジークフリートの体に変化が訪れる。体から異様な煙を上げ、表情も苦痛にまみれた。

 

『……何だ、その聖剣から感じる……力は……ッ!』

 

 アスカロンがジークフリートを苦しめる。『魔人化(カオス・ブレイク)』でグラムの力に対応できるようになったとしても、アスカロンに対しては別。

 更にジークフリートが手に持つグラムが輝きだす。その輝きは攻撃的なものではなく、まるで“誰か”を迎え入れるかの様な輝きだった。

 

『―――っ! グラムが! 魔帝剣が呼応している⁉ ―――木場祐斗に⁉ まさか、魔人化(カオス・ブレイク)の弊害なのか⁉』

 

 尋常ならざる焦りを見せるジークフリート。―――この土壇場でグラムは持ち主を再度選び直した。

 木場はグラムを真っ正面から捉えて叫んだ。

 

「―――来い、グラム! 僕を選ぶと言うのなら、僕はキミを受け入れよう!」

 

 木場の言葉を受けてもグラムは変わらぬ輝きを放つ。その輝きは持ち主であったジークフリートを拒絶するかのように手を焦がしていく。

 グラムは宙に飛び出し、祐斗とフリードの近くの地面に突き刺さった。

 それを見たジークフリートは首を横に振って、起きた事を信じられないように言う。

 

『こんな事が……ッ! こんな事があり得るのか⁉ 駒だけでも赤龍帝はッ! 戦うと言うのか⁉ この男を立たせると言うのか⁉』

 

 せっかくのグラムも片腕だけでは扱う事が出来ない。

 そう思っていたら、木場に近付く者がいた。

 アーシア、小猫、レイヴェルの4人。

 小猫が切り落とされた木場の腕を持って、肩口に当てるそこへアーシアが手を向けて淡い緑色のオーラを放出し、レイヴェルと誇銅が木場の体をしっかりと支える。

 優しい回復のオーラを受けた木場の腕は徐々に繋がり、機能を回復させていく。

 

「……イッセーさんが『アーシアも戦え』って、駒を通して言ってくれた様な気がしたんです」

 

 アーシアは必死に泣くのを耐えながら微笑んでいた。

 

「……『俺のダチを助けてやってくれ』って、イッセー先輩が言ったような気がします」

 

 小猫もそう微笑み、手から仙術による治療の気が送られる。

 

「私にも聞こえた気がしましたわ。イッセーさまの声が……『小猫や皆を支えてくれ』と」

 

 レイヴェルは小さく笑顔を浮かべてそう漏らす。

 

 誇銅も黙って笑顔を浮かべる。実は誇銅も一誠の声のようなものが聞こえたのだが、何かを言う前にかき消されてしまった。一誠の思念が呪いの類かなにかとして誇銅の体質に引っかかり浄化されてしまったのだ。

 だから思い入れが全く無い誇銅は場の空気を読んでレイヴェルについて行っただけ。

 

「―――『皆と共に戦ってくれ』、か。そうよね。あのヒトなら、そう言うに決まってるわ」

 

 リアスが一誠の駒を持って前に立つ。

 涙に濡れながらも瞳には戦意の火が灯っていた。

 

「さあ、私のかわいい下僕悪魔達! グレモリー眷属として、目の前の敵を消し飛ばしてあげましょうッ!」

 

 リアスのいつもの口上が戻る。

 アーシアのお陰で切り落とされた腕が完全に繋がり、木場は眼前に突き刺さったままのグラムを抜き―――。

 

「―――――⁉」

 

 放つことが出来なかった。

 なぜ抜けないのか困惑する木場は、グラムが突き刺さった際に近くにいたフリードを見た。フリードはグラムが自分の近くに突き刺さった時点でジリジリと離れ、微妙な目でグラムを見る。

 魔剣帝グラムがフリードを新たな持ち主に選んだことに気づき、選ばれたと勘違いしたことに恥ずかしさを覚えた。だが、すぐにその気持を切り替える。

 今のアスカロンの龍殺し(ドラゴンスレイヤー)ならば、如何にジークフリートの体が堅牢でも崩せるだろう。

 木場はアスカロンを構えて足に力を注ぐ。

 

「さあ、もう一度戦おうか。けれど、さっきとは違う。―――こちらは僕だけじゃなく、グレモリー眷属だっ!」

 

 リアス、アーシア、小猫がジークフリートを鋭く見据える。

 リアスが手から強大な滅びの魔力を解き放ち、それと同時に木場も前に飛び出して行く。

 

『まだだよ! それでも僕は英雄の子孫として―――』

 

 言いかけたジークフリートの頭上で稲光が閃き、夜空を裂くような極大の雷光がジークフリートの全身、その周囲まで飲み込んだ。

 宙に視線を向けると―――そこには6枚にも及ぶ堕天使の黒い翼を広げる朱乃の姿があった。

 

「―――これが私の最後の手。堕天使化ですわ。父とアザゼルに頼んで『雷光』の血を高めてもらったの」

 

 朱乃の両手首に光るのは魔術文字が刻まれたブレスレット、魔術文字が金色に輝いて浮かび上がっていた。それが本来眠っていた堕天使の血を呼び覚まさせたのだ。

 

「ゴメンなさい、イッセー。『いつもの笑顔を見せて』―――あなたの残してくれた想いまで私は……押し殺そうとしていた……っ! もう大丈夫ですわ。私も戦えます!」

 

 朱乃が決意の眼差しでそう宣言する。

 グレモリー眷属の王と女王が完全復活を果たす。

 極大の雷撃をまともにくらったジークフリートは全身が黒焦げと化していた。体の至るところから煙を上げている。『魔人化(カオス・ブレイク)』で体が堅牢になったジークフリートにここまでのダメージを与えたことが朱乃の雷光は更に威力を増した証拠。

 そこに追撃とばかりに先程リアスが放った滅びの一撃が襲い掛かった。

 ジークフリートの肥大化していた龍の腕が全て弾け飛び消滅していく。

 

「これがトドメだよ、ジークフリートッ!」

 

 木場の持つ聖剣アスカロンが正面からジークフリートに深々と突き刺さった。

 ジークフリートは口から血の塊を吐き出す。

 

『……この僕が……やられる……?』

「勝ったよ、イッセーくん」

 

 木場はそれだけ呟き、剣をジークフリートの体から抜き放とうとした。だが、ジークフリートは突き刺さった刃を強く握りしめて放さない。刃を素手で握りしめているのだから当然刃に手が切られるもお構いなし。

 

『負けるはずがない……僕は英雄なんだ……英雄が悪魔に敗れてはならない……英雄は怪異に打ち勝たなければ……僕の……僕達の……英雄の道なんだ……!』

 

 ジークフリートの体からは既に血が流れる事はなく―――龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を受けたジークフリートの体は徐々に崩壊しつつあった。

 体の至るところにヒビが走り、やがて崩れていく。そんな瀕死のジークフリートが握るアスカロンを引き抜けない。

 ジークフリートの背中から黒い泥のようなものが溢れ出し、消失した龍の手が生えていく。それだけでは収まらず背中の龍の手はどんどん伸び、ついには4本手の龍の顔をした龍人の上半身が生えた。

 ただしジークフリートの背中から生えた龍人は溶けかかっており、崩れ行くジークフリートを表すようだった。

 ジークフリートと龍人が同時に木場を見た。死にゆく2つの眼光に木場は威圧され恐怖する。

 

「祐斗ッ! 離れなさいッ!」

 

 その威圧は後ろのリアス達にもハッキリと感じ取れた。

 木場はアスカロンを残して後方へ下がり、味方を巻き込むことの無くなったジークフリートへリアスと朱乃が特大の攻撃を放つ。

 視界を覆い尽くす程の2人の攻撃は龍人の口へと吸い込まれ、雷光と滅びの特性を兼ね備えた吐息(ブレス)として吐き出した。

 より強力になって跳ね返された攻撃に誇銅は自分とレイヴェルの身を護る為に高密度の炎目を準備した。

 誇銅が炎を放つよりも前にフリードが前に飛び出す。フリードが持つ聖剣の輝きが増し、振り下ろした聖剣の光が極大の吐息(ブレス)をも飲み込みこんだ。

 攻撃を相殺されたジークフリートはだが、以前瀕死とは思えぬ程の戦意を滾らせる。

 龍人は魔剣を拾い上げ魔剣を喰らおうとしたが、フリードが高速で接近し自らの右手を龍の口に突っ込んだ。

 龍人はフリードの腕を噛み切ろうと力を入れるが、腕を守るオーラが強くて噛み切れない。それでも龍人の牙は腕に深く食い込み痛々しく血が流れ落ちる。

 苦痛に顔を歪ませながらもフリードはジークフリートに言った。

 

「もうやめろ。お前の負けだ」

『負けていない! 僕は……まだ戦えるッ!』

 

 一歩踏み出そうとするジークフリートを残った左手で止めるフリード。龍人の噛む力が更に増し、一層血が流れ出る。

 

『英雄がこんな所で倒れるわけにはいかない……。英雄が悪魔なんかに負けるわけがない……。……英雄である僕が……こいつらは滅ぼさないと……。じゃなきゃ僕は英雄じゃない……』

 

 幽鬼のような目と足取りで進もうとするジークフリート。

 

「それがテメェらの英雄譚か!? 怪異に苦しめられる人間を一人でも多く救いたいって初志は何処行ったんだ!?」

『ッ!!?』

 

 その言葉を聞いてジークフリートは驚いた様子で足を止めた。幽鬼のような目は戻り、恐怖にも似た驚愕の表情をする。

 

「なぜ知ってるって顔だな。お前らを止めようとしてるお仲間から聞いたんだよ。神器(セイクリッド・ギア)によって迫害された人や、神器のせいで悪魔や堕天使に目をつけられた人を救う。話を聞いた時はお前らすげぇと思って尊敬したぜ。マジで英雄に相応しい連中だと思った」

 

 輝かしいハズの過去の偉業を聞かされる度にジークフリートの表情に恐怖が増していく。

 

「いくら立派でも欲が出ることはある。俺だって見返りも考えず戦ったりしてない。そんなことが出来るのはあのお方ぐらいだろう。―――けどよ、自分達の行動を振り返ってみろ。それはかつてお前たちが目指した英雄譚か? 守るべき者達を危険に晒し、仲間を犠牲にして、異形共を狩り力を誇示するだけのテメェらの行動がよ!? 今この場でしっかりと考えてみろッ!!」

 

 そう言われジークフリートは今までの行動を比べて考えた。―――“疲労と痛みで思考正常ではないからこそ考えられた”。

 そして気づく、自分が正しいと感じる2つの理想―――その2つに確かな矛盾が生じていることに。

 過去の輝かしい理想と比較すれば今の戦争は間違いだと思える。思考はハッキリそう思えど、自分が出す答えはなぜか戦争が正しいと出た。

 ジークフリートは自分に決定的な矛盾を感じた。

 

『僕は……僕達は……ぼ、僕…達………あぁ…………ああああああああああああああぁぁッ!』

「取り乱してんじゃねぇよ! お前の英雄譚はまだ終わっちゃいない!」

 

 思考のバグに自我が崩壊しかけるジークフリートにフリードが一喝入れる。

 固執した英雄という称号、それがまだ終わってないと言われギリギリのところで自我の崩壊が食い止められた。

 

「お前ら英雄の帰還を信じて待っている仲間がいる。英雄となることを焦るな。まだまだお前の英雄譚は始まったばかりさ。だから生きろ、ジークフリート」

 

 ジークフリートの目から涙が流れ、それと同時に龍人がボロボロと崩れていく。

 恐怖から安堵の表情に変わったジークフリートは倒れるように体をフリードに預けた。

 

「やっと1人救えた」

 

 憑き物が剥がれたジークフリートの様子を見て、フリードは心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの安堵も束の間、ジークフリートの顔にまで崩壊の裂傷が生まれていた。

 

「フェニックスの涙はどこだ? 英雄派は独自のルートで入手してんだろ?」

 

 まだ所持していてもおかしくないのだが、体が崩壊しつつある現状でもジークフリートは使う素振りすら見せない。

 ジークフリートは首を横に振る。

 

『……この状態になると、フェニックスの涙での回復を受け付けなくなってしまう……。……理由は未だに不明だけどね……』

 

 極度のパワーアップが出来る反面、回復が一切望めない。それが『魔人化(カオス・ブレイク)』のリスク。

 

『……やっぱりそうさ。……あの戦士育成機関で育った教会の戦士は……まともな生き方をしないのさ……。最期に僕を人間に戻してくれてありがとう。おかげで怪物ではなく、人として死ぬことができた』

「こんな所で死なせる為に助けたんじゃねぇ! 意識をしっかり保て!」

 

 崩れ去りそうな程に脆くなったジークフリートの体を支えながら叫ぶフリード。治癒の魔導具での回復を試みるも、ジークフリートの言った通り受け付けない。

 

『魔帝剣は次の持ち主にキミを選んだ。キミが次の持ち主に選ばれたことは誇りにすら感じるよ。勝手な願いだが……曹操を……ボクの仲間達を止めてくれ。それが唯一心残りなんだ』

「諦めるんじゃねぇ! それに勝手に次の持ち主に選ばれても困る。さっきからグラムから熱烈アプローチされてるが、鬱憤溜まってたのかだんだん言動が過激な束縛系ヤンデレになってきて怖い」

 

 グラムが乱雑に輝きを増すとは反対に、ジークフリートの命の灯火は消えかかっていく。懸命に呼びかけ回復を試みるも、一向に好転の兆しはない。

 誇銅がジークフリートとフリードのもとへ駆け出した。

 

「その状態だから回復を受け付けないんですよね? でしたら、その状態を強制解除出来れば見込みはあるんですよね」

「―――出来るのか!?」

「わかりません。もしかしたらそのまま命を落とすかもしれません」

 

 自分で言いつつも震える誇銅。放っておけば失われる命だが、もしかしたら自分の手で殺してしまうかもしれない恐怖。それでも懸命に助けようとする人がいて、自分だけが救える見込みがあるのなら。そう思ったから誇銅は駆け出した。

 誇銅の強い覚悟を感じたからか、ジークフリートも拒絶はしなかった。

 

「かなり熱いですが我慢してください」

 

 誇銅は炎目でジークフリートの体を包んだ。肥大化したジークフリートの体は誇銅の炎によってみるみる燃焼されていき、かなり元の姿に近い状態へ戻った。

 

「まだ魔王の血を燃焼しきれてませんが、これ以上はこの人の体が持ちません」

「十分だ」

 

 フリードは自分の注射器をジークフリートに刺した。

 

「それは」

「自己治癒能力を限界を超えて引き出す薬品だ。フェニックスの涙のような外部から回復を受け付けないなら、自己治癒能力に訴えかける。ぶっちゃけ瀕死状態で使えば死にかねない劇薬だが耐えてくれ」

 

 その願いが通じたのかジークフリートは苦しそうなうめき声を上げ気絶したものの、安らかな寝息を立て始めた。体の崩壊は止まり、裂傷は癒合されていく。姿も元に戻っていった。

 

「さてと、ナンパの続きといこうか」

 

 ジークフリートの安否を見届けたフリードは立ち上がり、軍服の少女に視線を向ける。

 

「ウチが直接戦うのはルール違反なんやけど、自己防衛なら仕方ないなぁ。ちょっとだけ相手したるわ」

 

 軍服の少女が拳をボキボキと鳴らすと、覆っていた薄っすらとしたオーラが解除される。少女本来の自然体であろうオーラが発せられる。

 何かしらの方法で制御されてたであろう少女のオーラの質は現在のフリードを圧倒していた。相手の力量をある程度正しく見極められる者ならば、オーラの総量でも圧倒的な差を感じられるだろう。

 

「もちろん手加減はしたるけど、ホンマに自分満身創痍やけどやるん?」

「なに、手はいくらでもあるさ」

 

 そう言ってフリードは十字架が刻まれた拳銃―――天使の銃を取り出す。

 

「ちょ、それって……!? 自分聖書の連中とちゃうんかい!?」

 

 それを見た少女はたじろぐ。

 

「だから悪魔共が全滅しようが構わないって言ったろ」

「ぐぬぬぬぬ。けど、聖少女の信者ってことはさぁ、一般人は見捨てられへんやろ?」

 

 ニヤリと笑う軍服の少女は右腕を振り上げ―――

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 一瞬にして莫大なオーラを拳に込めて屋上の地面を殴りつけた!

 凄まじい轟音と共に一撃でビル全体に亀裂が生まれ崩れはじめる。

 

「手加減はしたからすぐには崩れへん……と思う。どっちにしろはよ助けに行ったらなアカンとちゃう?」

 

 少女はフリードがビル内部の人間を見殺しには出来ないと踏み、自分なりに手加減し救出の猶予を与えた。

 アジュカ・ベルゼブブがビルを補強している魔力を操作し防ごうとするが、崩壊が酷く時間稼ぎ精一杯。

 その間に少女は屋上から逃走する。

 フリードは迷い、唇を噛みながらも遅れて少女を追いかけようとしたのだが―――。

 

「待ちやが……ごふっ!」

 

 口から血を吐き出し苦しそうに膝をつく。フリードは急いで携帯薬箱を開くが、数本の注射器の中身は全てカラ。最後の一本はジークフリートを助けるのに使ってしまった。

 その間に少女は屋上から飛び降りて逃走する。

 

(あか)n……ラインハルトちゃんやで!」

 

 うっかり口を滑らせそうになりながら、去り際にそれだけ言い残し彼女は完全に姿を消してしまった。


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