今後の構想に問題ない部分なのと、ストックがあるから調子にのって投稿しました。
城内にある人物が現れたと聞いた木場は城内地下の一室に向かった。その一室にいたのはヴァーリチーム。
疑似空間での一戦後、ヴァーリが不調な事もあってグレモリーの当主はサーゼクスとアザゼルの進言で彼らを秘密裏に匿っていた。
勿論、テロリストである彼らをグレモリー城に置くのは重大問題だが、リアス達を助けてくれた事実のお陰でグレモリーの現当主は一時的な保護を決めたのだ。
ヴァーリが身を休めている部屋に入ると、ヴァーリチームの面々と小柄なご老体の姿が視界に入る。その人物は初代孫悟空、木場が今会いたかった人物。
初代孫悟空はベッドで上半身だけを起こしているヴァーリの体に手を当てて、仙術の気を流しているところだった。白く発光する闘気に満ちた手を腹部から胸、胸から首、そして口元に移していく。
ゴボッ、とヴァーリの口から黒い塊――ヴァーリの体を蝕んでいたサマエルの毒が吐き出され、初代孫悟空はそれを透明な容器に入れて蓋をした。その上から呪符を貼り封印する。
初代孫悟空が口元を笑ます。
「身に潜んでおった主な呪いは仙術で取り出せたわい。これで体も楽になるだろうよぃ。まったく、大馬鹿もんの美猴が珍しく連絡なぞ寄越したと思ったら、
ベッド横の椅子に座る美猴が半眼になっていた。初代孫悟空を呼び寄せたのは美猴。
誰よりも初代孫悟空に対して苦手意識を持っていたのだが、ヴァーリを救いたい一心で呼んだのだ。
「うるせぃ、クソジジイ。―――で、ヴァーリは治るんかよ?」
「ま、こやつ自身が規格外の魔力の持ち主だからのぉ。儂わしが切っ掛けを与えりゃ充分だろうて」
不調だったヴァーリの体は今の治療で快復に向かう。
「……礼を言う、初代殿。これで戦えそうだ」
ヴァーリが初代孫悟空に敬意を払って礼を口にしていた。
初代孫悟空が美猴の頭をポンポン叩きながら言う。
「呪いが解けて直ぐに戦いの事を考えるなんぞ、まったくどうして、どうしようもない戦闘狂じゃい。―――さての、儂もそろそろ出掛けさせてもらうぜぃ。バカの顔も見られた事だしのぅ」
「ジジイ、どっか行くのか?」
美猴の問いに初代孫悟空は煙管を吹かす。
「そりゃ、儂はこれでも天帝んところの先兵じゃからのぉ。ちょいと冥界にお遣いじゃわい。―――テロリスト駆除ってやつよ。年寄り使いの荒い天帝じゃしのぉ」
初代孫悟空も今回の1件に力を貸す意思を示す。これ程心強い申し出もないものだが、引っ掛かるものも感じていた。
木場の心中をヴァーリが代弁する。
「……初代殿、天帝は曹操と繋がっているのだろう? 京都の1件―――妖怪と帝釈天側の会談を邪魔したと曹操と言う図式は天帝の中ではどういう位置付けになっている?」
ヴァーリの質問に初代孫悟空は愉快そうに笑むだけだった。
「さーての。儂はあくまで天帝の先兵兼自由なジジイじゃてな。あの坊主頭の武神が何処まで裏で企んでいるかなんて興味も無いわい。ただのぅ、天帝は暴れんと思うぜぃ? これから先の事は分からんがねぃ。どちらかと言うと、高みの見物だろうよぃ。ま、今回はハーデスがやり過ぎたんだろうぜぃ」
やはりハーデスが今回の1件を操っていたと見て間違いないと確信した。
ヴァーリ達と初代孫悟空の話が一段落ついたところで木場が話を切り出した。
「初代、おひとつお訊きしたい事があってここに来ました」
「なんだい、聖魔剣の。このジジイで良ければ答えられる範囲で答えてやるぜぃ?」
「今サマエルの呪いに触れたあなたに訊きたいのです。この呪いを受けたドラゴンが生き残るとしたら、どのような状況なのかを」
仙術と妖術を極めたと称される大妖怪であり、仏にまで神格化された
「肉体はまず助からねぇだろうねぃ。この呪いの濃度じゃ最初に肉体が滅ぶ。次に魂だ。肉体と言う器を無くした魂ほど脆いものはねぇやねぃ。こいつもちっとの時間で呪いに蝕まれて消滅しちまうだろうよ。さて、問題はここからだぜぃ。―――じゃあ、なんで魂と連結しているであろう
「はい、駒だけが召喚に応じました」
「その駒からサマエルの呪いは検出されたんかぃ?」
「いいえ、検出されませんでした。サマエルのオーラを感じ取れたのは
一誠の駒が帰還した後、アザゼルがその駒を調査した結果サマエルの呪いは掛かっていなかった。それを知ったアザゼルは目を細め、そのままグリゴリ本部に戻った。もしかしたら、その時から一誠の死に疑問の片鱗があったのかもしれない。
木場を含め誰もが駒だけの帰還。そのケースが生じた場合が例に違わず戦死となる事、一誠を失った悲しみ、それらの事実を突きつけられて可能性を捨てきってしまっていた。
木場の答えを聞いた初代孫悟空は煙管を吹かし、口の端を笑ました。
「―――て事はだ、赤龍帝の魂は少なくとも無事な可能性があるって事だぜぃ。今あのエロ坊主がどんな状況になっているかは分からんけどねぃ、案外次元の狭間の何処かでひょっこり漂ただよっているかもしれんぜ」
木場はその言葉を聞き、内側から湧き上がるものを懸命に抑え込んだ。
『まだだ。まだ早い。まだ歓喜するには早いじゃないか……っ! けれど、可能性がある! 僕の親友が生きている可能性がある!』
打ち震える木場の様子を見て、初代孫悟空は口の端を笑ます。
「じゃあな。表に
美猴の横で黒歌が挙手して言う。
「私はリーダーについていくにゃん。何だかんだでこのチームでやっていくのが1番楽しいし?」
魔法使いのルフェイも頷く。
「はい、私も皆さまと共に行きますよ! アーサーお兄さまは?」
静かなオーラを漂わせるアーサーは笑顔のまま口を開く。
「英雄派に興味や未練は微塵もありません。今まで通りここにいた方が強者と戦えるでしょうしね。少なくとも私は曹操よりもヴァーリの方が付き合いやすいですよ」
彼らの言葉を聞いて美猴が改まってヴァーリに言う。
「俺っちも今まで通り、お前に付き合うだけだぜぃ?俺らみてぇなハンパもんを指揮できるのなんざおめぇだけさ、ヴァーリ」
チームメンバー全員の残留を聞いたヴァーリは小さく口元を緩ませた。
「……すまない」
「らしくねぇし! 謝んな、ケツ龍皇!」
「やめろ、アルビオンが泣く。ただでさえカウンセラー希望の状態だ」
その光景を見ていた初代孫悟空は煙管を吹かす。
「赤龍帝は民衆の心を惹き付け、白龍皇は『はぐれ者』の心を惹き付ける。二天龍、表と裏。お主ら、面白い天龍じゃて」
それだけ言い残して初代孫悟空は退室していった。
それを確認してから木場はヴァーリに改めて問う。
「ヴァーリ・ルシファー、キミはどうするんだい?」
「……兵藤一誠の仇かたき討ちと言えばキミは満足するのかな、木場祐斗?」
「いや、ガラじゃないと吐き捨てるだけさ。それに仇がいるとするのなら、それは僕達の役目だ。いいや、僕が討つ」
「なるほど、その通りだ。―――俺は出し切れなかった力を誰かにぶつけたいだけだ。なに、俺が狙う相手と俺を狙う相手は豊富だからな」
ヴァーリはバトルマニアらしい戦意に満ちた不敵な笑みを見せる。
地下から戻った木場は初代孫悟空からの助言を元にある人物への連絡を取り付けようとしていた。
「祐斗さん、こちらにいたのね」
背後から祐斗を呼び止めたのはグレイフィアだった。いつものメイド服ではなく、髪を1本の三つ編みに束ね、ボディラインが浮き彫りになる戦闘服を身に着けていた。
一目で魔王眷属として出陣する為だと理解できてしまう。
「グレイフィアさま。……前線に?」
「ええ、聖槍の手前、サーゼクスが出られない以上、私とルシファー眷属で魔王領の首都に向かう魔獣―――『
他の迎撃部隊も強大な魔獣達を凍り漬けにしたり、強制転移、巨大な落とし穴を作り上げて進行を止めようとした。だが、それら全て失敗に終わっている。
強制転移などの魔力や魔法の類が通じず、それらの術式に対して無効化の呪法も組み込まれているらしい。
そこまで凶悪な形式を生み出したものに付与できる……やはり『
しかし、それでも悪魔の中でも最強と名高いルシファー眷属なら魔獣を止められるかもしれない。
木場の剣の師匠であるルシファー眷属の『
「これをリアスに渡してもらえますか? サーゼクスとアザゼル総督からの情報です」
グレイフィアが木場に1枚のメモを渡す。
それには悪魔文字で『アジュカ・ベルゼブブ』、『拠点』と走り書きされていた。
「現ベルゼブブ―――アジュカ・ベルゼブブさまがいらっしゃる現在地です。アザゼル総督からの伝言も伝えます。『イッセーの駒を見てもらえ。あの男なら、残された何かを解析できるだろう』―――と。リアス達を連れてここに赴きなさい、祐斗さん。アジュカさまならば僅かな可能性でも拾い上げてくれるでしょう」
アジュカ・ベルゼブブは『
グレイフィアが微笑む。
「私の
◆◇◆◇◆◇
深夜、木場とリアス、朱乃、アーシア、小猫、レイヴェル、誇銅の7人はグレイフィアに渡されたメモ書きに記される場所に到達していた。
あの後、木場はリアスに事の顛末を話して何とか部屋から連れ出す事が出来た。他のメンバーにも同様にグレイフィアからの言葉を伝え、何とかここに連れてきた。
ほぼ全員が藁にもすがる思いでここに来ている。
そこは
人気の無い町外れに存在する廃ビル。そこがアジュカ・ベルゼブブがいる人間界での隠れ家の1。他の魔王は人間界で自分の名前を大々的に使用し豪華な施設を建設する中、この様な廃れた町に魔王の1人がいるとは想像が難しい。
廃ビルに足を踏み入れる。1階ロビーには疎らにに人気があった。若い男女が幾つかのグループに分かれて話し合いをしている。
悪魔ではないが、異様な気配を放つ。ここにいる全員が異能を持つ人間が体に纏う独特の空気を発していた。
1つのグループが木場達に気付き、携帯を取り出して向ける。1人の男性が険しい表情で驚愕の声音を口にした。
「……あいつら、悪魔だぜ。しかも、何だ……この異様な『レベル』と『ランク』は……っ!」
その言葉を切っ掛けにロビー内の全員が携帯を取り出して木場達を捉える。全員が携帯の画面を食い入るように見つめており、表情を険しくしていた。彼らが取り出した携帯は異形を計る機能を有している。
不意に木場の脳裏に過よぎったのはアジュカ・ベルゼブブの性質―――趣味だ。人間界で『ゲーム』を開発し、その運営を取り仕切っている。
彼らが持つ携帯は恐らくその『ゲーム』に関するツールか何かだろうと推測した。それを通して木場達の正体を把握したのだ。
『……あまり目立つのも嫌だな……』
木場がそう感じていると、ロビーの奥から木場達と同質のオーラを持つ者が現れる。
「申し訳ございません。このフロアは文字通り我らが運営するゲームの『ロビー』の1つになっておりまして……」
スーツを着た悪魔の女性が現れ、その女性は一礼した後、奥のエレベーターに手を向ける。
「こちらへ。―――屋上でアジュカさまがお待ちです」
エレベーターで屋上に到着した木場達。
女性悪魔によって案内されたのは屋上に広がる庭園。緑に囲まれた広い場所で、芝や草花だけじゃなく木々も植えられており、水場も設置されていた。
深夜もあって屋上の風は冷たく、夜空に浮かぶ月だけが明かりとなっている。
女性が一礼して下がっていくと同時に誰かが木場達に話し掛ける者。
「グレモリー眷属か。勢揃いでここに来るとはね」
視線をそちらに送ると、庭園の中央にテーブルと椅子が置かれていて、その椅子に若い男性が1人座っている。
「アジュカさま」
リアスが1歩前に出て、その男性の名を呼んだ。こ魔王の1人、アジュカ・ベルゼブブ。魔王様はテーブルのティーカップを手に取ると一言漏らす。
「話は聞いている。大変なものに巻き込まれたようだ。いや、キミ達には今更な事か。毎度、その手の襲撃を受けていて有名だからね」
「アジュカさまに見ていただきたいものがあるのです」
リアスが懐から一誠の駒を取り出そうとした時だった。
「ほう、見て欲しいもの。―――しかし、それは後になりそうだ。キミ達の他にもお客様が来訪しているようなのでね」
アジュカ・ベルゼブブがリアスを手で制し、庭園の奥へ視線を送る。アジュカの言葉で視線で木場達も初めて気配に気付く。
庭園の奥から闇より生じたのは木場達と同様の悪魔だった。
「人間界のこのような所にいたとはな。偽りの魔王アジュカ」
強大なオーラを体に漂ただよわせている男性が数名。そのどれも上級悪魔クラスか、それ以上のオーラを発する。彼らがアジュカ・ベルゼブブを「偽りの魔王」と呼んだだことでその正体に木場達も気づく。
アジュカ・ベルゼブブが苦笑して言う。
「口調だけで1発で把握できてしまえるのが旧魔王派の魅力だと俺は思うよ」
「僕もいるんだ」
「ウチもおるでー」
聞き覚えのある声と聞き覚えのない声が闇夜から聞こえてきた。先程の悪魔達の近くに現れたのは白髪の青年―――ジークフリート。それと黒い軍服を着たピンク髪の小柄な少女。右腕には逆鉤十字の腕章。
ジークフリートは木場達を一瞥するだけで直ぐにアジュカ・ベルゼブブへ視線を戻す。一方で少女は誰かに注目することもなく木場達もアジュカも同じように眺めていた。唯一自分に注目する誇銅にだけは少しだけ注目している。
ジークフリートの行為を見た木場は腹の中で沸き上がる怒りを懸命に抑え込んだ。
「……彼を殺した者達……」
後方で朱乃達の殺気がざわつき始めた。危険な程のオーラが全身から滲み出てる。一誠の仇―――怨敵を目の前にして殺意を抱く。
唯一、アーシアだけが悔しそうに涙を浮かべた。「……どうしてイッセーさんが冥界政府の争いに巻き込まれないといけないんですか……?」と。―――全ては一誠自身が選択したことであり、現冥界政府から大きな厚意を受けていた立場として巻き込まれるのは必然。
「初めまして、アジュカ・ベルゼブブ。英雄派のジークフリートです。それとこの方々は英雄派に協力してくれている前魔王関係者ですよ」
ジークフリートがアジュカ・ベルゼブブに挨拶する。その話から英雄派に加担する魔王派の者もいることを知る。
「知っているよ、キミは元教会の戦士だったね、ジークフリートくん。上位ランクに名を連ねていた者だ。協力態勢前は我々にとって脅威だった。二つ名は
テーブルの上で手を組みながらアジュカ・ベルゼブブが静かに問う。
旧魔王派の悪魔達は体から敵意のオーラを
「以前より打診していた事ですよ。―――我々と同盟を結ばないだろうか、アジュカ・ベルゼブブ」
誇銅を除く木場達は驚愕に包まれた。混乱の一途を辿っている現状で現ベルゼブブを相手に同盟を持ちかけてきたのだから当然の反応。しかも悪魔全体としてではなく、アジュカ・ベルゼブブ個人との同盟。
ジークフリートは淡々と続ける。
「あなたは現四大魔王でありながら、あのサーゼクス・ルシファーとは違う思想を持ち、独自の権利すらも有している。そしてその異能に関する研究、技術は他を圧倒し、超越している。ひとたび声を掛ければサーゼクス派の議員数に匹敵する協力者を得られると言うではありませんか」
現状、現魔王政府の中で魔王派は大きく4つに分けられており、それぞれの魔王に派閥議員が従っている。その中で最も支持者が多いのがサーゼクス派とアジュカ派。両派閥は現政府の維持と言う面では協力しているが、細かい政治面では対立も多く、よく冥界のニュースでも報道されている。
ジークフリートの言葉を聞いたアジュカ・ベルゼブブは息を吐く。
「確かに俺は魔王でありながら、個人的な嗜好で動いている。サーゼクスからの打診も言い付けも悉ことごとく破っている。傍はたから見れば俺がサーゼクスの考えに反対しているように見えるだろう。今運営している『ゲーム』も趣味の一環だからね」
「その趣味のせいで僕達もかなり手痛い目に遭った」
ジークフリートが苦笑する。
「それはお互い様だろう」
アジュカ・ベルゼブブが返すと、ジークフリートは肩を竦める。
「我々が1番あなたに魅力を感じているのは―――あのサーゼクス・ルシファーに唯一対応できる悪魔だからだ。あなたとサーゼクス・ルシファーのお二人は前魔王の血筋から最大級にまで疎うとまれ、畏おそれられる程のイレギュラーな悪魔だと聞いている。その一方がこちらに加わってくれればこれ以上の戦力はない」
ジークフリートの意見を聞き、アジュカ・ベルゼブブは顎に手を当てた。
少し面白そうに表情を緩和させる。
「なるほど、俺がテロリストになってサーゼクスと敵対するのも面白いかもしれない。あの男の驚く顔を見るだけでもその価値はあるだろう」
「こちらも有している情報と研究の資料を提供します。常に新しい物作りを思慮しているあなたにとって、それらは充分に価値のあるものだと断言できる」
ジークフリートの更なる甘言にアジュカ・ベルゼブブは頷く。
「そうか。『
冗談なのか本心なのかわかりにくい返答をする。
アジュカ・ベルゼブブは1度瞑目し、目を開くと同時にハッキリと断じた。
「―――だが、いらないな。俺にとってキミ達との同盟は魅力的だが、否定しなければならないものなのでね」
否定を聞いてもジークフリートは顔色を変えない。
周囲にいる旧魔王派の悪魔達は殺気を一気に高め、少女は大きなあくびをした。
ジークフリートがアジュカ・ベルゼブブに訊く。
「詳しく訊きたいところだけれど、簡潔にしよう。―――どうしてなのだろうか?」
「俺が趣味に没頭できるのは、サーゼクスが俺の意志を全て汲んでくれるからだ。彼とは―――いや、あいつとは長い付き合いでね。俺が唯一の友と呼べる存在なのだよ。だから、あいつの事は誰よりも知っているし、あいつも俺の事を誰よりもやく認識している。あいつが魔王になったから、俺も魔王になっているに過ぎない。俺とサーゼクス・ルシファーの関係と言うのはつまりそう言う事だ」
アジュカ・ベルゼブブとサーゼクス・ルシファーは旧知の間柄であり、ライバル関係でもある。それゆえに2人の間には、2人にしか分からないものがあった。
それがアジュカ・ベルゼブブの中で確固たるものであり、テロリストとの同盟を破棄する理由。
ジークフリートもこの返答を予想していたため表情を変えずに頷いていた。
「そうですか。『友達』、僕にとっては分からない理由だが、そう言う断り方もあると言うのは知っているよ」
ジークフリートの皮肉げな笑みと言葉を受けて、旧魔王派の悪魔達が色めき立つ。
「だから言ったであろう! この男は! この男とサーゼクスは独善で冥界を支配しているのだ! いくら冥界に多大な技術繁栄をもたらしたと言えど、このような遊びに興じている魔王を野放しにしておくわけにはいかないのだ!」
「今まさに滅する時ぞ! 忌々しい偽りの存在め! 我ら真なる魔王の遺志を継ぎし者が貴様を消し去ってみせよう!」
怨恨にまみれた言葉を受けてアジュカ・ベルゼブブは苦笑した。
「如何にもな台詞だ。もしかしてあなた方は同様の事を現魔王関係者に言っているのだろうか? 怨念に彩られ過ぎた言動には華も無ければ興も無い。―――つまり、つまらないと言う事だな」
「我らを愚弄するか、アジュカッ!」
アジュカ・ベルゼブブは旧魔王派の悪魔としての誇りを“つまらない”の一言で切り捨てた。もしかしてと口にした時点で、アジュカ・ベルゼブブが旧魔王派の主張に耳を傾けてこなかった証拠でもある。
現魔王にキッパリと切り捨てられ、旧魔王派の悪魔達は殺気を一層濃厚に漂わせる。一触即発を通り越し、戦闘開始と呼べる雰囲気。
アジュカ・ベルゼブブがテーブルの上で組んでいた手を解き、片手を前に突き出して小さな魔法陣を展開させる
「言っても無駄だとは分かっている。仕方ない、俺も魔王の仕事を久しぶりにしようか。―――あなた方を消そう」
「「「ふざけるなッ!」」」
激昂した旧魔王派の悪魔達が手元から大質量の魔力の波動を同時に放出させた。アジュカ・ベルゼブブはその同時攻撃に動じる事無く、手元の小型魔法陣を操作するだけだった。
魔法陣に記された数式と悪魔文字が高速で動いていく。相手の攻撃が直撃する刹那、当たる寸前で魔力の波動が全て軌道を外し、あらぬ方向に飛んでいった。矛先を違たがえた魔力は深夜の空を切るように放出されていく。その現象を見て旧魔王派の悪魔達は仰天し、アジュカ・ベルゼブブは椅子に座ったまま言う。
「俺の能力の事は大体把握してここに赴いているのだろう? まさか自分の魔力だけは問題なく通るとでも思ったのだろうか? それとも強化してきて、この結果だった事に驚いているのか……、どちらにしてもあなた方では無理だ」
アジュカ・ベルゼブブの苦笑に旧魔王派の悪魔達は顔を引くつかせる。
過去に起きた前魔王政府とのいざこざでサーゼクスとアジュカ・ベルゼブブは反魔王派のエースとして当時最前線に出ていた歴戦の英雄であり、2人の英雄譚は冥界でも広く伝わっている。
サーゼクスは全てを滅ぼす絶大な消滅魔力を有し、アジュカ・ベルゼブブは全ての現象を数式と方程式で操る絶技を持つと言われていた。
それを承知の上で旧魔王派の悪魔達は自身を強化してきたが、それでもアジュカ・ベルゼブブには全く通じなかった。
旧魔王派の悪魔達の表情は一転して戦慄に彩られ、アジュカ・ベルゼブブが淡々と語る。
「俺から言わせればこの世で起こるあらゆる現象、異能は大概法則性などが決まっていてね。数式や方程式に当てはめて答えを導き出す事が出来る。俺は幼い頃から計算が好きだったんだ。自然に魔力もそちら方面に特化した。ほら、だからこう言う事も出来る」
アジュカ・ベルゼブブが空を見上げる。
怪訝に思った旧魔王派の悪魔達や木場達も視線を上に向けると、少しずつ風を切る音が大きくなっていく。
空より迫ってくるのは先程軌道をずらされて飛んでいった魔力の波動。
上空から降り注ぐ魔力の波動が旧魔王派の悪魔達を襲い、1人は絶叫すら上げられないまま消滅していった。
当たる直前で避けた者達のもとに魔力の波動が追撃を開始する。追撃する波動を見て旧魔王派は驚愕していた。
「我らの攻撃を操ったか!」
「こうする事も出来る」
アジュカ・ベルゼブブは魔法陣に刻まれた数式と悪魔文字を更に速く動かし続ける。魔法陣に刻まれた数式と悪魔文字が現象を計算して操る彼独自の術式プログラム。
旧魔王派を追撃する魔力の波動が弾けて散弾と化し、他の波動も細かく枝分かれして逃げる旧魔王派を執拗に追う。
他者が放った魔力をそのまま操り、形式までも容易に変えている。
「お、おのれぇぇぇぇっ!」
高速で追ってくる波動を避けきれないと分かった旧魔王派は手元を再び煌めかせ、攻撃のオーラを解き放つ。
だが、アジュカ・ベルゼブブが操る波動は放たれたばかりの魔力を軽々と打ち砕き、旧魔王派の悪魔達の体を貫通させていく。
あるいは散弾と化した魔力の波動が彼らの体にいくつもの大きな穴を開けていった。
速度だけじゃなく、操っている魔力の波動の威力まで変化させている。
向かってくる攻撃の軸をずらし、そのまま術式を乗っ取って操る。そこに形式変更を加え、速度と威力も上乗せさせた。
「……これがこの男の『
「軽く動かしてこれとは……いったい、貴様とサーゼクスはどれだけの力を持って……」
旧魔王派の悪魔達はそれを言い残して、無念を抱いた表情で絶命した。
魔王アジュカ・ベルゼブブの力に木場達は驚嘆を通り越して畏怖の念を抱く。逆に誇銅は畏怖の念などな抱かず、なぜああも無感情に同族を殺せるのかが疑問に思う。
アジュカ・ベルゼブブの視線が残ったジークフリートに向けられる。
「さて、残るは君達だけか。どうするかな?」
「エゲツないことするなぁ」
ジークフリートは肩を竦めるだけだった。
「まだ切り札は残っているので、撤退はそれを使ってからにしてみようと思っているよ」
「じゃあ早よ終わらせてな。ウチもう布団入って寝たい」
隣の少女がジークフリートに催促する。
ジークフリートの嫌みを含んだ笑みを見て、木場は自分の体の底から沸き立つ激情を感じた。
少女の言動に多少毒気を抜かれるも、アジュカ・ベルゼブブはジークフリートの物言いに関心を示す
「ほう、それは興味深い。―――だが」
アジュカ・ベルゼブブの視線が今度は木場に向けられる。
「そちらのグレモリー眷属の『
アジュカ・ベルゼブブは木場の戦意を察知していた。
アジュカ・ベルゼブブはジークフリートと少女に指を示しながら言う
「どうだろうか、彼らはキミが相手をしてみては? 見たところ、この英雄派の彼とは面識があるようだ。このビルと屋上庭園は特別に手を掛けていてね。かなりの堅牢さを持ち合わせているよ。多少威力のある攻撃をしても崩壊する事は無い」
木場にとって願ってもない申し出だった。彼の中で駆け巡る抑えようの無い感情……それをぶつけられる相手が目の前にいる。
木場は1歩前に出ていく。
「……祐斗?」
「……部長、僕は行きます。もし、共に戦ってくださるのであれば、その時はよろしくお願いします」
それだけ伝えた祐斗は歩きながら手元に
一誠を失った木場は自分なりに眷属を支えようとした。リアス達は一誠を失う事で心の均衡を保てなくなると予想できていたから。
だから自分だけでも冷静に感情を押し殺して動こうと思った。
木場は一誠とのそう約束したから―――。
だが木場も憎い相手が目の前に現れ、抑えるのが限界になっていた。
聖魔剣を構えた木場は憎悪の瞳で怨敵を捉える。
「ジークフリート。悪いが僕のこの抑えられない激情をぶつけさせてもらう。あなたのせいで僕の親友は帰ってこられなかった。―――あなたが死ぬには充分な理由だ」
木場の殺気を当てられ、ジークフリートは口の端を愉快そうに吊り上げ、少女は眠そうな顔で携帯で時間を確認する。
「キミからかつて無い程の重圧が滲み出ているね……。面白い。しかし、キミ達グレモリー眷属とは驚く程に縁があるようだ。この様なところでも出会うだなんてさすがに想像は出来なかった。まあ、良いか。―――さあ、決着をつけようか、赤龍帝の無二の親友ナイトくん」
ジークフリートの背中に
木場は聖魔剣に龍殺しドラゴンスレイヤーの力を付与させて、その場を駆け出した。
高速で接近し、ジークフリートに一太刀繰り出すと軽々と魔剣の一振りで受け止める。
「キミの実力は京都での時とは比べ物にならない程までに向上している。
木場の一撃を受け止めたジークフリートは木場の剣を弾き、一旦距離を取ろうと考えた時にはジークフリートは木場の間合いを詰めていた。
龍の腕が魔剣を振り下ろす。それなりに死線をくぐり抜けた剣士の感覚が告げる。避けられない、防げない―――木場は自分の死を視た。
ガチンッ!
しかし木場が視た未来は現実にはならなかった。ジークフリートと似た容姿をしたその人物が―――元教会の
「ふぃ~間一髪」
まるでページを読み飛ばしたように突然現れたフリード。思わぬ人物の登場に全員が目を見開いた。
「そう言えば初めましてだな。パパと呼んだほうがいいか?」
ニシシと冗談っぽく言うフリードに、ジークフリードは怪訝な表情で斬撃を繰り出す。フリードはそれを全て軽々といなした。
「ほんの冗談だよ」
さらに剣速を高めるも、それすらフリードは困り顔で淡々と受け流す。
「ホントごめんって。そんなキレんなよ」
剣速が増したのは冗談に怒っているからと推測したが、ジークフリートは別に怒っているわけではない。
受けに回っていたフリードは一歩前に出て軽い一太刀を繰り出すとジークフリートが魔剣で受け止める。そうしてやっと一方的な剣戟が止んだ。
フリードの一撃を受けたジークフリートは訊く。
「何処でそんな力を手に入れたんだい」
教会のとある暗部の研究機関の一つで、完成体としての性能を証明した自分と、その劣化とも言える存在であるフリードがなぜ自分と並び立つ―――現状では凌駕することに理解できないジークフリートは叫びたい気持ちをグッと抑え込み、あくまで冷静を保つ。
「1人の信徒として真面目に頑張ってきただけさ。天は自ら助くる者を助くってな」
「はぐれ
「やめてくれ、黒歴史」
愉快そうに皮肉を言うジークフリートに、泣きそうな顔になるフリード。表情は苦笑いだが、その瞳には苦痛が浮かぶ。
「勘違いしないでもらいたいんだが、別に俺は悪魔共の助太刀に来たわけじゃねぇからな。俺が用があるのはそっちの彼女だ」
フリードがジークフリートと一緒に現れた軍服の少女に言う。
「ヘイ彼女、俺と一緒にお茶でもしながらじっくりお話でもしないかい? もとろんホ代含めて出すからさ」
「ウチをナンパするなんて自分見る目あるなぁ。けど安い女に見られるのはごめんやで。それにな、残念やけど自分ウチの好みとちゃうねん」
「あちゃー、振られちゃった。けど、女性を口説くには押しが強くねぇとな」
額に手を当てておちゃらけながら言うフリード。
「悪いが彼女は大切な客人なんだ。手出しはさせないよ」
ジークフリートが視界から少女の姿を遮るように動くと、フリードは「参ったな」と頭を掻く。
「キャー、イケメンな王子様に守ってもらえるなんて、乙女の憧れやわ~」
「そいつと似たような顔してると思うんだけどな……」
自分はタイプじゃないと言われたのに自分と似た顔をイケメンと称することに若干の不満をつぶやく。
軽く笑ったところでジークフリートは目を細めて何かを考え込んだ。
「現状でキミと戦い、勝ったとしても深手は否めないだろうね。それ程までにキミの実力は高い。キミに勝利したとしても、その後にリアス・グレモリーや姫島朱乃、木場祐斗の攻撃を貰えば僕は確実に命を落とす。このまま逃げるのも悪くはないんだけど……アジュカ・ベルゼブブとの交渉に失敗して、グレモリー眷属を相手に何もせずに逃げたとあっては仲間や下の者に示しがつかない。それも元はぐれ
愚痴ながらジークフリートは懐ふところを探り出す。取り出したのはピストル型の注射器。ジークフリートは針先を自分の首筋に突き立てようとする格好となり、皮肉げな笑みを浮かべる。
「これは旧魔王シャルバ・ベルゼブブの協力により完成に至ったもの。謂わばドーピング剤だ。―――
「
「
木場の問いにジークフリートは頷く。
「聖書に記されし神が生み出した
ジークフリートは手に握る魔剣グラムに視線を向ける。
「本来ならばこの魔帝剣グラムの力を出し切ればキミ達を倒せたのだろうが……残念ながら僕はこの剣に選ばれながらも呪われていると言って良い。木場祐斗、キミならその意味を理解できるだろう?」
ジークフリートの言うように木場にはその理由が分かった。それはフリードも理解していた。
伝承では魔帝剣グラムは凄まじい切れ味の魔剣。攻撃的なオーラを纏い、如何なる物をも断ち切る鋭利さを持ち合わせている。
そしてもう1つの特性が
何もかも切り刻める凶悪な切れ味と強力な
これらの特性を踏まえた上で持ち主であるジークフリートの特徴を捉えると、皮肉な答えが生まれてくる。
ジークフリートの
通常状態を発現している程度ならグラムを振るうのに問題は無いのだが、能力が上昇する禁手バランス・ブレイカー―――つまり、ジークフリートは自分の能力を高めれば高める程に魔帝剣グラムとの相性が悪くなっていく。
赤龍帝の一誠が籠手にアスカロンを収納し、何事も無く使用する事が出来たのは天界の助力と
ジークフリートの
最強の魔剣に選ばれても、その者が有していた能力までは受け入れられない。まさに運命の悪戯。
ジークフリートがグラムをヒュンヒュンと回す。
「……
ジークフリートがグラムを本格的に使用できるのは
この場や疑似空間でどちらが木場達を相手に立ち回る事が出来るか。ジークフリートの出した答えは前者だった。
「そう、グラムを使いたければ普通の状態でやれば良い。けれど、
ジークフリートはピストル型の注射器を自身の首元に近づけ―――挿入させていく
前後編系のオリジナル要素が少なめな部分なので、次話もなるべく早く投稿しようと思っています。