無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 ぶっちゃけまだ細かい構想は固まっていないが、一ヶ月経ったので問題ない部分なので先に投稿しておきます。
 殆ど原作と同じですが、ちょこちょこ違う部分があります。微妙な変化をお楽しみください。


欠落な依存のグレモリー

 中級悪魔の昇格試験日から2日程経過した昼頃、木場祐斗はグレモリー城のフロアの一角にいた。

 グレモリー城は慌ただしく、使用人だけでなく私兵もバタバタと動いていた。

 理由は現在冥界が危機に瀕しているからだ。

 旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブの外法(げほう)よって生み出された『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の超巨大アンチモンスターの群れは冥界に出現後、各重要拠点及び都市部への進撃を開始した。

 フロアに備え付けられている大型テレビではトップニュースとして、進撃中の巨大な魔獣が映し出される。

 

『ご覧ください! 突如現れた超巨大モンスターは歩みを止めぬまま、一路都市部へと向かっております!』

 

 魔力駆動の飛行船やヘリコプターからレポーターがその様子を恐々と報道している。

 冥界に出現した巨大なアンチモンスターは全部で13体、どれも100メートルを超える巨獣。テレビにもそれら全ての様子が克明に報道される。

 疑似空間では黒いオーラに包まれた人型のモンスター群だったが、冥界に現れてから姿を変えたものもいる。

 人型の巨人タイプもいれば、四足歩行の獣タイプもいるが姿形は1体として同じものがいない。

 人型タイプは二足歩行であるものの、頭部が水棲生物であったり、眼が1つであったり、腕が4本も生えているタイプもいる。一言で表すなら合成獣(キメラ)のよう。四足歩行型の魔獣達も同様にあらゆる生物、魔獣のパーツで体が構成されていた。

 アンチモンスター群はゆっくりと1歩ずつ歩みを止めぬまま進撃し続けている。このままで行けば重要地点に1番近い魔獣は今日中、他の魔獣達もほぼ明日には都市部に辿り着くことになる。

 特に厄介なのは―――この魔獣達が進撃をしながら小型のモンスターを独自に生み出している点。魔獣の体の各部位が盛り上がり、そこから次々と肉を破って小型モンスターが誕生していく。大きさは人間サイズだが、とにかく数が多い。1回で数十体から100体程生み出され、通り掛かった森、山、自然を破壊し、そこに住む生き物を喰らい尽くしていく。

 進撃先にあった町や村の住民は今のところ最小の被害で避難できているが、町村その物は丸ごと蹂躙されていった。

 魔獣達が通った後は何も残らないと言う凄惨な状況に変わる。

 同じ創造系の神器(セイクリッド・ギア)を持つ木場も畏怖するばかりだった。

 上位神滅具(ロンギヌス)―――神に匹敵すると称される異能、世界を滅ぼせるだけの能力、その凶悪さを現在進行形で見せつけている。その異形の中でも群を抜いて巨大なのが、冥界―――魔王領にある首都リリスに向かっている規格外の魔獣だ。人型であり、他の魔獣よりも一回り大きく、背中に蜘蛛の脚を生やした巨体を有している。

 一際巨大なその魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャバウォック)』と呼び、その他12体の巨大な魔獣は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』と呼称された。これらはアザゼルがルイス・キャロルの創作物にちなんで名付けたもの。

 テレビの向こうで『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を相手に冥界の戦士達が迎撃を開始していた。黒き翼を広げ、正面、側面、背面からほぼ同時攻撃で魔力の火を撃ち込んでいく。

 周囲一帯を覆い尽くす質量の魔力が魔獣に直撃。強力な攻撃を繰り広げる迎撃チームは最上級悪魔とその眷属。普通の魔獣ならば、これだけの攻撃を受ければ間違いなく滅ぼされているだろう。

 しかし――――

 

『何という事でしょうか! 最上級悪魔チームの攻撃がまるで通じておりません!』

 

 戦慄しているレポーターの声……。

 魔獣は最上級悪魔チームが放った絶大な攻撃を全く意に介してなかった。

 体の表面にしかダメージを与えられておらず、致命的な傷は一切加える事が出来なかった。

 迎撃に出ている各最上級悪魔チームはどれもがレーティングゲームの上位ランカー。それでも効果のある迎撃が出来ていない。次々と生み出される小型モンスターを壊滅させるだけで手いっぱいだった。

 各魔獣の迎撃には堕天使が派遣した部隊、天界側が送り込んだ『御使い(ブレイブ・セイント)』、ヴァルハラからは戦乙女(いくさおとめ)たるヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が駆けつけ、悪魔と協力関係を結んだ勢力からの援護を受けていた。それによって現状最悪の状況だけは脱している。

 だが、問題は山積みとなっていた。

 1つは『超獣鬼(ジャバウォック)

 昨夜、レーティングゲーム王者―――ディハウザー・ベリアル率いる眷属チームが迎撃に出たのだが……『超獣鬼(ジャバウォック)』にダメージこそ与えられたものの、歩みを一時しか止められなかった。『超獣鬼(ジャバウォック)』はダメージを速効で再生、治癒してしまい、何事も無かったかの様に進撃を再開させた。

 その事実は衝撃的なニュースとして冥界中を駆け回り、冥界の民衆の不安を煽る結果となってしまった。誰もが「あの王者とその眷属が出撃すれば強大な魔獣も倒れるだろう」と内心で信じきっていた。

 皇帝(エンペラー)ベリアルと眷属の力はグレモリー眷属と比べ疑いようの無いものだが、それでも止められなかった。

 もう1つの問題はこの混乱に乗じて、各地で身を潜めていた旧魔王派によるクーデターの頻発。魔獣群の進撃に合わせて現在各都市部で暴れ回っていた。

 そちらの迎撃にも冥界の戦士達が派遣されており、悪魔世界は混乱の一途を辿っていた。

 更にこの混乱によって冥界の各地で上級悪魔の眷属が主に反旗を翻したと言う報告も届いていた。無理矢理悪魔に転生させられた神器(セイクリッド・ギア)所有者がこれを機に今までの怨恨をぶつけている。

 アザゼル風に言うなら各地で禁手(バランス・ブレイカー)のバーゲンセール状態、こちらにも各勢力の戦士達が向かっている。だが、魔獣群の進行阻止が最優先の為、これ以上戦力を割さく事は出来ない。都市部と重要拠点が機能を失えば、敵対組織には打ってつけの侵略条件になってしまう。

 今まさに冥界は深刻な危機に直面していた。

 旧魔王派のクーデターによる超巨大魔獣の進撃―――それを裏で促したのは冥府の神ハーデス。『禍の団(カオス・ブリゲード)』英雄派も現在どこで暗躍しているか分かったものではない。

 疑似空間では英雄派がハーデスと旧魔王派に利用されたが、計画外の現在でも何をしでかすか危惧しなければならない。

 魔獣の迎撃に強大な力を持つ神仏や魔王達が赴く事が出来ないのも、曹操が何処で狙っているか予想が出来ないからである。彼が持つ聖槍は神仏や魔王を容易に滅ぼせる。

 この1件で神仏や魔王が1名でも滅ぼされたら、今後の各勢力情勢に何が起こるか分からない。

 幸い各地域の民衆の避難が最優先で行おこなわれており、大きな死傷者が出ていない。

 悪魔がこれ以上の打撃を受ければ、種の存続が本格的に危ぶまれる。

 シャルバ・ベルゼブブ―――旧魔王派が現冥界政府に抱いだいた怨恨は想像以上のものだった。

 

「『超獣鬼(ジャバウォック)』と『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の迎撃に魔王さま方の眷属が遂に出撃されるようだ」

 

 突然の声に木場が顔を向けると―――そこにはライザー・フェニックスがいた。

 ライザーは息を吐く。

 

「兄貴の付き添いでな、ついでにリアスとレイヴェルの顔でも見に来たんだが。やっぱり状況が状況だからな。……察するぜ、木場祐斗」

 

 眉をひそめ、深刻な表情をするライザー。どうやら一誠の死は既にライザーにも届いているようだ。

 グレモリー眷属はこの1件の発端となった事件で一誠を失ってしまった。シャルバ・ベルゼブブに拉致されたオーフィスを奪還するべく疑似空間に残り、元の世界に戻った木場達は龍門(ドラゴン・ゲート)を開いて彼らを呼び寄せようとしたのだが。

 戻ってきたのは一誠の『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』―――『兵士(ポーン)』の駒8つのみだった。

それらと共に龍門(ドラゴン・ゲート)からサマエルのオーラも極微量ながら感知された為、シャルバとの戦闘中にサマエルの呪いを受けたのだと直ぐに得心した。

 魔力に不得手な一誠ではサマエルの呪いを受ければ助かる見込みはまず無い。アザゼルからもハッキリとそう告げられた。だがあまりにも微量なため直接的な原因かは断定できないとも言った。

 駒だけが召喚に応じる現象は過去にもあったらしく、その場合も確実に本人は生きていない。

 天界にも赤龍帝の魂がどうなったのか、調査してもらっていた。宿主が死ねばドライグの魂は自動で次の所有者を求めるらしく、情報は天界にある神器(セイクリッド・ギア)システムのデータベースに登録されるのだが、現世の神滅具(ロンギヌス)所有者の特定が過去よりも非常に困難になっているせいで、それに関する情報がまるで現れなかった。

 グリゴリの方でも現在進行形で調査しているが、詳しい情報の期待は薄い。

 そして、同行していたであろうオーフィスも行方が知れないでいた。そのまま次元の狭間に留まっているのか、または滅びたか。龍神の調査は継続中だが、シャルバの手によってハーデスのもとに行った可能性は低いとされていた。

 何故なら、一誠がシャルバを仕損じる筈が無い。一誠なら命を賭としてでも確実にシャルバを仕留める。木場を含め、三大勢力側の誰もがそれを信じきっていた。

 だが、どれだけ調べても一誠の死を拭ぬぐい去るものが出てこない。

 彼の死は報道されず、一部の者にしか伝えられていない。

 

「痛み入ります。―――部長に会う事は出来ましたか?」

 

 頭を何とか切り替えた祐斗の問いにライザーは首を横に振る。

 

「無理だったな。部屋のドアを開けてくれなかったぜ。呼んでも反応も無かった。……ま、会える状況でもないだろう。愛した男がああいう形になってしまったんだからな」

「……お茶、どうぞ」

 

 フロアに備えてあるテーブルにティーカップを置く小猫。いつもと変わらぬ表情の小猫はフロアの隅にある椅子に座った。

 

「良いかね、レイヴェル。とにかく元気を出すのだよ?」

 

 フロアに更に3名が姿を現す。1人はレイヴェル、もう1人は誇銅、そして最後はフェニックス家の長兄にして次期当主―――ルヴァル・フェニックス。レーティングゲームでもトップ10内に入った事もある男性で、近々最上級悪魔に昇格するとも噂されている。ライザーは彼の付き添いでここに来た。

 ルヴァルは妹であるレイヴェルを励ました後、木場を確認する。

 

「リアスさんの『騎士(ナイト)』か。この様な状況だ。キミで良いだろう」

 

 ルヴァルは木場に近づき、懐から数個の小瓶―――フェニックスの涙を取り出した。

 

「これをキミ達に渡すついでに妹とリアスさんの様子を見に来たのだよ。こんな非非常時だ、涙も各迎撃部隊のもとに出回りこれしか用意できなかった。有望な若手であるキミ達に大変申し訳無く思う。―――もうすぐ私は愚弟を連れて魔獣迎撃に出るつもりでね」

 

 フェニックスの兄弟も魔獣の迎撃に参加することに。確かに不死身のフェニックスは前線の心強い戦力となるだろう。

 ライザーは「……愚弟で悪かったな」と口を尖らせる。

 フェニックス家は現代の上級悪魔にしては珍しく多い4兄弟。長男と三男がゲームに参加し、次男がメディア報道の幹部。

 木場はルヴァルからフェニックスの涙を受け取る。

 

「リアスさんもリアスさんの『女王(クイーン)』も彼の死で酷く落ち込んでいる。こんな時に冷静であるべきは恐らくキミだろうね。情愛の深い眷属でありながら、仲間の死に耐える―――。見事だよ」

「ありがとうございます」

 

 そう言われるものの、正直木場もいっぱいいっぱいだが……それでも耐えなければならない。何故なら、この場にいないリアスと朱乃がルヴァルの言うようにまともな状態ではないからだ。

 リアスは城の自室に一誠の駒を持ったまま閉じこもってしまった。朱乃も心の均衡を失い、虚ろな表情でゲストルームのソファに座っている。

 2人とも話しかけても一切反応を示さない……。

 一誠に依存していた2人のその心中は深く沈んでいた。

 アーシアもゲストルームでずっと泣いていた。

 

「……今すぐにイッセーさんのもとに行きたい……。……でも、私がイッセーさんを追ったら……イッセーさんはきっと悲しむから……。……ずっと一緒だって、約束したんです……。それなら、私もそこに行ければずっと一緒だと思ってしまって……。……イッセーさん……私はどうすれば良いんですか……?」

 

 アーシアも心を深く沈み込ませてしまいながらも必死に悲しみと戦っていた。

 ゼノヴィアとイリナは未だ天界にいるが、一誠の死が伝えられているかどうかは分からない。

 天界の『システム』に影響を与えるであろうゼノヴィア(神の不在を知る)が天界にいられるのは、アザゼルや北欧神話の世界樹―――ユグドラシルの協力で『システム』がある程度補強されたのだが、それでも短期間しかいられない。

 ギャスパーも強化を図る為に出掛けたまま連絡が無い。

 少し前まではチームの雰囲気としてはこれ以上無い程に最高だったグレモリー眷属も、今ではその面影すら無い。

 チームの要だった一誠を失ったのは大き過ぎる。それほどまでにグレモリー眷属全体が一誠に依存してしまっていた。

 ルヴァルは言う。

 

「我が家としてもレイヴェルを赤龍帝の眷属にしていただきたかったのだよ。出来る事ならそのまま彼のもとに送り出したかった。まあ、レイヴェルは(キング)となる道を選んだようだが。レイヴェルの今後をどうするかはこれからだが、今はここに置いてくれないだろうか? せっかく友人も出来たようだし。小猫さんとギャスパーくんだったかな? 連絡用の魔法陣越しによく彼女達の事を話してくれていた。とても楽しそうだったよ」

「はい、レイヴェルさんは僕達がお預かり致します」

 

 木場の一声にルヴァルは笑んだ。

 

「うむ、では行くぞ、ライザー。お前もフェニックス家の男子ならば業火の翼を冥界中に見せつけておくのだ。これ以上、成り上がりとバカにされたくはないだろう?」

「分かっていますよ、兄上。じゃあな、木場祐斗。リアス達を頼むぜ」

 

 ルヴァル氏とライザーはそれだけ言い残してこの場を去っていった。

 再び静まり返るフロアレイヴェルが小猫の隣に座り―――優しく語りかける。

 

「……こんなのってないですわよね……。心から敬愛できる殿方のもとに近づけたのに……」

 

 その言葉を自分に、自分の大切な人に置き換え震えるレイヴェルの手を誇銅がそっと取ると、レイヴェルはその手をぎゅっと握った。

 小猫がボソリと呟く。

 

「……私は何となく覚悟はしていたよ。……激戦ばかりだから、いくらイッセー先輩、祐斗先輩が強くても、いつか限界が来るかもしれないって」

 

 小猫は心中で既に覚悟を決めていた。あれだけ多くの死線に直面すれば、そう考えるのは当然。

 小猫の一言を聞いたレイヴェルは立ち上がり、涙を流しながら激昂した

 

「……割り切り過ぎですわよ……ッ。私は小猫さんのように強くなれませんわ……っ!」

 

 同級生からの激情を当てられた小猫。いつもの無表情が徐々に崩壊し、震えながら涙を流していく。

 

「……私だって……っ。……いろいろ限界だよ! やっと想いを打ち明けられたのに、死んじゃうなんてないもん……っ! イッセー先輩……バカ! バカです……ッ!」

 

 嗚咽を漏らしながら、小猫は制服の袖口で目元を隠した。実は小猫も相当無理をしていた。懸命に堪えていたものが一気に崩れたかの如く泣き崩れた。

 レイヴェルはその小猫の姿を見て、優しく抱き締めた。

 

「小猫さん……ごめんなさい」

「……うぅ、レイヴェル。つらいよぉ、こんなのってないよぉ……」

 

 小猫にとってイッセーの死はあまりにも大きかった。木場はそれでも耐えた。ここで泣いても何も変わらないと……。

 

「木場祐斗くんか」

 

 第三者の声、振り返れば―――そこには堕天使幹部『雷光』のバラキエルと朱乃の母、姫島朱璃の姿があった

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 一誠が死んだことに関しては、皆程ではないが悲しい。最近ではあまり仲良くはしてなかったが、それでも人間だった頃の友達だ。身近な人間の死が悲しくないわけなどない。

 木場さんがバラキエルさんと朱乃さんのお母さんを朱乃さんのいるゲストルームへ連れていき、部屋には僕とレイヴェルさん、塔城さんとアーシアさん。

 部屋を出る際に僕たちは木場さんからアーシアのフォローを頼まれた。正直なところ頼まれた側もそのような状態ではない。同じ境遇で傷を舐め合うだけ。

 僕たちに一誠の代わりなど出来るはずがない。下手なフォローは辛い現実を再確認させるだけだ。思い入れのない僕では慰めの言葉など何一持ち合わせていない。

 ただ時間が傷を癒やすのを待ち見守る。僕達に出来るのはそのぐらいだ。

 

 一誠が死んだ日からヴィロットさん達とは会っていない。

 フョードルさん達は例え英雄派を裏切っても三大勢力とその関係者に見つかれば拘束されてしまう。

 作戦前にフョードルさんが言っていた。

 

「曹操はかなりマメな性格をしている。一つの目標を達成しない限り次の段階へは進まない。今曹操が目標にしてるのはグレモリー眷属と赤龍帝。彼ら生きてる限りは曹操は彼らを無視出来ず次に進めない。彼らを守りきりさえすれば曹操の作戦は停滞する」

 

 被害を防ぐつもりで動いてた彼らにとって既に作戦は失敗。一誠を死なせてしまい事態を食い止められなかったことですぐにでも次の行動に出なければならない。

 彼らの目的と三大勢力の目的は微妙に違うため共闘はできない。

 ヴィロットさん達アメリカ勢力としては冥界の安否、悪魔の存続などどうでもいい。もはや冥界で動く理由がない。それよりもナチスの動きを追うのが優先。

 一時は重なった目的はバラバラに分かれた。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「―――匙くん」

 

 木場がフロアに戻る道中、廊下で匙と出会でくわす。

 

「よ、木場」

「どうしてここに?」

「ま、会長がちょいとリアス先輩の様子を見に来たってところかな。その付き添い。表ですれ違い様フェニックスの人達にも会ったけどさ」

「そっか、ありがとう」

 

 ソーナもリアスの様子を見に来ていた。

 木場は匙と共にフロアまで歩き、その中で匙が決意の眼差しで言う。

 

「木場、俺も今回の1件に参加するつもりだ。都市部の一般人を守る」

 

 シトリー眷属も冥界の危機に立ち上がる。

 実力のある若手悪魔には召集が掛けられており、大王バアル眷属と大公アガレス眷属が出るのも間違いない。

 本来ならばグレモリー達も今回の1件に参加しなければならないが。

 

「僕達も後で合流するつもりだ」

 

 現在のグレモリー眷属はとても使い物にならない。

 匙は心配そうに訊く。

 

「……リアス先輩達は戦えるのか?」

 

 今のリアス達を知れば誰もが同じ感想を抱く。まともに戦える状態ではない。しかし、それでも行かなければならない。

 

「戦うしかないさ。この冥界の危機に力のある悪魔全てに召集が掛けられているのだから。僕達は力のある悪魔だ。―――やらなきゃダメさ」

 

 木場は自分の心情とグレモリー眷属のあるべき姿を重ねてそう吐露した。

 匙はそっと目を閉じ一言。

 

「そうか」

 

 目を開き、少し険しい表情になる。

 

「兵藤を殺した奴はわかるか?」

 

 そう訊く匙の瞳には静かな殺意が籠もっていた。

 

「おそらくだけど、もうこの世には存在しないよ。―――その者はイッセーくんが倒しただろうからね。予想が違ったらわからないけどね」

 

 木場は一切の疑いもなく一誠がシャルバを滅ぼしたと信じた。そして一誠と共に戻らぬフリードのことも容疑者としていた。

 匙は再び目を閉じ、上を向いて息を吐く。

 

「そうか。相討ちか。兵藤は、最後まで戦い抜いたんだな。そんで勝って死んだ。勝ったところで死んだらどうしようもねぇな」

 

 匙は目元から涙を流すも、目をつぶったまま表情を変えない。

 その静かな表情のまま、匙は言う。

 

「あいつは命を()して戦った。だったら、そいつが属してた『禍の団(カオス・ブリゲード)』の奴らは俺達がぶっ倒さないとな」

「匙くん、キミは……」

「俺の目標でもあったんだ、あいつはさ。俺がここまで頑張れたのはあいつのお陰でもあるんだ。同じ『兵士(ポーン)』として超えなくちゃいけないと思っていた」

 

 方向性は違えど、同期である一誠の存在はそれなりのものであった。だからこそ、爆進するその背中を追いかけていた。

 涙を拭い目を開ける。

 

「俺の目標を―――ダチを殺されたんだ。敵討ちしたいと思うのは当然のことだよなぁ。それによ、あいつが最後まで成し遂げられなかったことを引き継ぐことが最高の手向けだと思うぜ」

 

 匙は静かにオーラを内部から(たぎ)らせていた。溢れてしまいそうな殺意を精神力で抑え込む。

 

「その通りですよ、匙」

 

 声がした方に振り向けば、そこにはソーナの姿があった。

 

「会長」

「匙、その考えには賛成しますが、だからと言ってあなたまで死んでもらっては困りますよ。―――やるのなら、必ず生きて戻りなさい」

「はいっ!」

 

 ソーナの言葉に匙は大きく頷いた。

 ソーナの視線が木場に移る。

 

「私達はこれで失礼します。魔王領にある首都リリスの防衛及び都民の避難に協力するようセラフォルー・レヴィアタンさまから(おお)せつかっていますので」

 

 最上級悪魔クラスの強者は各巨大魔獣の迎撃に回っている為、政府は有望な若手悪魔に防衛と民衆の避難を要請している。木場達も本来そこに行かなければならない。

 

「部長にお会いになられたんですね?」

 

 木場の問いにソーナは静かに頷いた

 

「部屋にこもったきりです。私が問い掛けても反応はあまりありませんでした」

 

 リアスの親友であるソーナでもダメだったのか。と思う木場。

 

「代わりにこう言う時に打ってつけの相手を呼んでおきました」

「打ってつけの相手?」

 

 木場が(いぶか)しげに問い返しても、ソーナは薄く笑みを見せるだけでその者の正体を教えてくれなかった。いったい誰を呼んだのだろうか……? そう疑問に思う木場だった。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 木場がフロアに戻ってくると丁度テレビには首都の様子が映し出されていた。避難が続く状況、大勢の人々が冥界の兵隊によって安全な場所に導かれていく。

 不意にテレビに首都の子供達が映し出され、レポーターの女性が1人の子供に尋ねた。

 

『ぼく、怖くない?』

 

 レポーターの質問に子供は笑顔で答える。

 

『へいきだよ! だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンがきてたおしてくれるもん!』

 

 満面の笑顔でそう応える子供の手には―――『おっぱいドラゴン』を模した人形が握られていた。

 画面の端から元気な顔と声が次々と現れていく。

 

『そうだよ! おっぱいドラゴンがたおしてくれるよ!』

『おっぱい! おっぱい!』

 

 子供達は不安な顔をしないばかりか、一誠おっぱいドラゴンが助けてくれると信じ切っていた。

 

『はやくきて、おっぱいドラゴン!』

 

 子供達の元気な姿を見た木場は口元を押さえ、必死に込み上げてくるものを堪こらえていた。

 

『……見ていてくれているかい、イッセーくん。キミ達を待ち望む子供達の姿……。皆、不安な顔1つ見せていないよ? 皆、キミが助けてくれると心から信じ切っているんだ……。だからさ、来ないとダメじゃないか……っ! ここにいなきゃ、ダメじゃないか……っ! どうして、キミはそこに行けないんだ……っ! キミはこの子達のヒーローじゃないか……っ! 応えてくれよ、イッセーくん。この子達を裏切っちゃダメだろう……っ!』

「俺達が思っている以上に冥界の子供達は強い」

 

 突然の声、いつの間にか隣にその(おとこ)はいた。

 

「あなたは!」

「兵藤一誠はとてつもなく大きなものを冥界の子供達に宿したのだな。―――久しいな、木場祐斗。リアスに会いに来た」

 

 その(おとこ)の名は―――サイラオーグ・バアル。

 

 

 

 

 

 ソーナに呼ばれたと言うサイラオーグは木場を連れてリアスの部屋の前に到着する。

 

「入るぞ、リアス」

 

 それだけ言ってサイラオーグはリアスの部屋に堂々と入っていく。

 室内を進むと、ベッドの上で体育座りをしているリアスの姿があった。表情は虚ろであり、目元は赤く腫れ上がっていた。それはずっと泣いていた証。

 サイラオーグは近づくなり、つまらなそうに嘆息する。

 

「情けない姿を見せてくれるものだな、リアス」

 

 彼の態度を見て、リアスは不機嫌な表情と口調で訊く。

 

「……サイラオーグ、何をしに来たの……?」

「ソーナ・シトリーから連絡を貰ってな。安心しろ、プライベート回線だ。大王側にあの男が現在どのような状態か一切漏れてはいない」

 

 大王側の政治家に一誠の死が伝われば、どの様な手段で現魔王政権に食ってかかるか分からない。一誠は既に冥界にとって大きな存在となっていた。

 サイラオーグはリアスに真っ正面から言い放つ

 

「―――行くぞ。冥界の危機だ。強力な眷属を率いるお前がこの局面に立たずにしてどうする? 俺とお前は若手の最有力として後続の者に手本を見せねばならない。それに今まで俺達を守ってくださった上層部の方々―――魔王さまの恩に報むくいるまたとない機会ではないか」

 

 もっともな意見を口にするサイラオーグ。

 普段のリアスならそれを聞いて奮起するのだが、リアスは顔を背けるだけだった。

 

「……知らないわ」

「……自分の男が行方知れずと言うだけでここまで堕ちるか、リアス。お前はもっと良い女だった筈だ」

 

 サイラオーグの一言を聞き、リアスは枕を投げて激昂する。

 

「彼がいない世界なんてッ! イッセーがいない世界なんてもうどうでも良いのよッ! ……私にとって彼は、あのヒトは……誰よりも大切なものだった。あのヒト無しで生きるなんて私には……」

 

 再び涙を浮かべて表情を落ち込ませようとするが、サイラオーグがリアスに大きく言い放つ。

 

「あの男が……赤龍帝の兵藤一誠が愛した女はこの程度の女ではなかった筈だッ! あの男はお前の想いに応える為、お前の夢に殉ずる覚悟で誰よりも勇ましく前に出ていく強者だったではないかッ! 主のお前が、あの男を愛したお前が、その程度の度量と器量で何とする⁉」

 

 サイラオーグの言葉を聞いてリアスは驚いているようだった。

 構わずにサイラオーグは続ける

 

「立て、リアス。あの男はどんな時でも立ったぞ? 前に出た。ただ、前に出た。この俺を真っ正面から殴り倒した男を、お前は誰よりも知っている筈だッ!」

 

 好敵手(ライバル)だからこそ分かる事がある。レーティングゲームでの激戦でサイラオーグは一誠の生き様を認識した。そう木場は感じ取った。

 

「それにお前はあの男達が本当に死んだと思っているのか?」

 

 サイラオーグの問いにリアスだけでなく木場も一瞬言葉を失い、その反応を見てサイラオーグは苦笑する。

 

「それこそ滑稽だ。あの男が死ぬ筈が無い。ひとつ訊こう。お前はあの漢に抱かれたか?」

「……抱いてもらえなかったわ」

 

 リアスの一言を聞いて、サイラオーグ・バアルは声を上げて笑う。

 

「ハハハハハハハッ!」

 

 一際笑った後、サイラオーグ・バアルは強い眼差しで言う。

 

「なら、やはりあの男は死んでいない。おまえを、愛した女を、そして、周りであの男を好いていた女達がいるのに兵藤一誠が死ぬものか。奴は誰よりもお前を抱きたかったはずだ。お前を抱かずに死ねるわけがあるまい?」

 

 不確かで馬鹿らしい根拠だが、リアスと木場はその言葉に説得力があるように思えてならなかった。―――全員が兵藤一誠という男にすっかり毒されていた。いや、兵藤一誠という人物を一切の拒絶無く受け入れていた彼らは、最初っからそうだったのかもしれない。

 

「それが『おっぱいドラゴン』だろう?」

 

 それだけ言うとサイラオーグ・バアルは踵を返す。

 

「俺は先に戦場で待つ。―――必ず来い、リアス。そしてグレモリー眷属! あの男が守ろうとしている冥界の子供達を守らずして何が『おっぱいドラゴン』の仲間かッ!」

 

 それだけ言い残すとサイラオーグは部屋から去っていった。

 ソーナの言うまさに今のリアスにとって打ってつけだった。

 

『……そうだ、彼らが生きている可能性をもっともっと模索しても良いじゃないか。駒だけになったとしても、腕だけになったとしても復活を探す事をしても良いじゃないか!どうして、そんな簡単で分かりやすい事に僕は―――僕達は辿り着けなかったんだろう……』

 

 リアスの瞳に少しだけ光が戻り、木場の心中にも少しだけ希望が戻った。

 拳だけで戦い抜いてきた漢サイラオーグだからこそ、彼だけに分かるものがある。木場達にはそれが確かに伝わった。―――希望に縋らなければ、絶望で溺死してしまうから。


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