無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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敗戦な無限龍の崩落

過去の頼もしい味方と強敵を連れて現れたことに驚きの視線を向ける一誠達だが、ヴィロットもフョードルもグレモリー眷属側など眼中にない。

 三人の登場と共にゼノヴィアが一応出していたエクス・デュランダルが僅かだが輝き初めて反応を示した。

 フョードルは黒い塊を見て「くっ、一足遅かったか」と眉をひそめる。

 

「あいつは京都で襲ってきた英雄派の……!」

 

 誇銅達と一緒にフョードルがいたことにグレモリー眷属の注目が集まる。

 味方であった誇銅とヴィロットはともかくフョードルは敵、それも現在対峙している英雄派の構成員。一誠達からすればヴィロットが一緒にいること以上の疑問だ。

 曹操がフョードルに話しかける。

 

「フョードル、一体そこで何をしているんだ?」

「それはこちらのセリフです!」

 

 曹操の疑問にフョードルはより強い疑問で問い返す。

 

「テロリスト共に協力し不要な戦を仕掛け、仲間をいたずらに危険に晒す。昔の貴方ならこんな馬鹿な真似は決してしなかった!」

 

 その質問に曹操はやれやれといった表情で答える。

 

「フョードル、前にも説明しただろう」

「ええ聞きましたよ。英雄の子孫としての挑戦。しかしこれが貴方が目指す英雄の道なのですか!? 私がついて行こうと決めた貴方は今よりずっと英雄に相応しかった!」

 

 フョードルは神器である足枷の鉄球を出現させ強い眼差しを曹操に向けた。

 その様子を見て曹操も聖槍を持つ手を僅かに強める。京都で一誠達との戦いで使用すらしなかった神器を出現させた。その意味を曹操も察した。

 

「過去の貴方なら今の貴方を必ずや止めるでしょう。しかし過去の貴方にはそれはできない。だから私達が代わり行います」

「裏切るのか? フョードル」

「私は裏切ってなどいない。裏切っていないから私は貴方と対峙しているのです。間違った道を進む貴方を止めるために!」

 

 話してる最中にフョードルが素早く鉄球を蹴り上げ、対魔の力を込めてサマエルの方へ蹴り放った。

 対魔と共に練り込まれたオーラを纏う鉄球がサマエルに向かっていが、それをロボットの両指の銃撃が弾く。

 

「邪魔はさせない」

 

 軍服の男がそう言うと、ロボットがフョードルに向かって飛んで行く。

 男と同じく黒い軍服に黒マント、最新鋭のガスマスクのような頭部のロボットのそれは誇銅やヴィロットが対峙したそれと比べて明らかに最新式のようだった。

 そのロボットを迎え撃とうとヴィロットが前に出るが、ロボットよりも先に軍服の男がヴィロットの眼前に現れマントに隠れた両手から二本のサーベルで斬りかかる。左右の手から縦横無尽に隙きなく放たれる剣戟に防戦一方。

 フョードルもロボットとの戦闘。誇銅はいざという時レイヴェルを守るため備えている。

 

「フョードルを相手にしても引けを取らないか。これはますます期待できそうだ」

 

 フョードルと戦うロボットを見て曹操はつぶやく。

 ヴィロットが軍服の男、フョードルが機械兵と戦闘。二人の戦いに割り込む余地のないことを理解した誇銅は警戒しつつレイヴェルを守る。一誠達の戦況は三人が駆けつける前と何一つ変わらなかった。

 ヴァーリが白い閃光を放って鎧姿となる。

 

「相手はサマエルか。その上、上位神滅具所有者が二人、不足は無い」

 

 ヴァーリの一言に黒歌とルフェイも戦闘の構えを取る。他のメンバーも戦闘態勢に入り、アザゼルもファーブニルの黄金の鎧を身に纏った。

 黒い塊と舌に攻撃が通じないなら、サマエル本体に直接攻撃するしかない。とにかく曹操達にオーフィスを奪われるのは絶対に阻止しなければならない。そう考えたのだ。

 

「レイヴェルさん、僕の後ろに下がってください。大丈夫、僕が絶対に守ってみせます」

 

 誇銅の頼みにレイヴェルはコクリと頷き、後方に下がった。

 一誠達の戦闘態勢を見て、曹操が狂喜に彩いろどられた笑みを浮かべた。

 

「このメンツだとさすがに俺も力を出さないと危ないな。何せハーデスからは一度しかサマエルの使用を許可してもらえてないんだ。ここで決めないと俺達の計画は頓挫する。ゲオルク! サマエルの制御を頼む。俺はこいつらの相手をしよう」

「一人で二天龍と堕天使総督、グレモリー眷属を相手に出来るか?」

「やってみるよ。これぐらい出来なければ、この槍を持つ資格なんて無いにも等しい」

 

 曹操の槍がまばゆい閃光が放た。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

神々しく輝く後光輪が背後に出現し、曹操を囲む様にボウリング球程の大きさの球体が七つ宙に浮かんで出現した。

 それは嘗て無い程シンプルで静かな禁手化(バランス・ブレイク)

 

「これが俺の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の禁手(バランス・ブレイカー)、『|極夜なる天輪聖王の輪廻槍《ポーラーナイト・ロンギヌス・チャクラヴァルティン》』まだ未完成だけどね」

 

 曹操の状態を見て、アザゼルが叫ぶ。

 

「―――ッ! 亜種か! 『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の今までの所有者が発現した禁手(バランス・ブレイカー)は『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だった! 名称から察するに自分は転輪聖王とでも言いたいのか⁉ くそったれめが! あの七つの球体は俺にも分からん!」

「俺の場合は転輪聖王の『転』を敢えて『天』として発現させた。そっちの方がカッコイイだろう?」

 

 ヴァーリが一誠の隣に並んで言う。

 

「気を付けろよ。あの禁手(バランス・ブレイカー)は『七宝(しっぽう)』と呼ばれる力を有していて、神器(セイクリッド・ギア)としての能力が七つある。あの球体一つ一つに能力が付加されているわけだ」

「七つッ⁉ 二つとか三つとかじゃなくてか⁉」

「ああ、七つだ。それのどれもが凶悪だ。と言っても俺が知っているのは三つだけだが。だから称されるわけだ。最強の神滅具(ロンギヌス)と。紛れもなく、奴は純粋な人間の中で一番強い男だ。……そう、人間の中で」

 

 ヴァーリにここまで言わせる程の男。奴の体から放たれる重圧自体はサマエル程ではないにしろ、油断は一切禁物と一誠は思う。

 そもそも一誠は京都で一度曹操に殺されかけている。それも“通常状態”の聖槍で。油断してはいけないと考えることがもはや油断。

 曹操が空いている手を前に突き出すと―――球体の1つが呼応して曹操の手の前に出ていく

 

「七宝が1つ―――輪宝(チャッカラタナ)

 

 小さく呟いた後、球体が消え去り―――ガシャンッ! と何かが派手に壊れる音がロビーに響いた。

 音のした方に振り返れば―――ゼノヴィアのエクス・デュランダルが破壊されていた。

 

「……ッッ! エクス・デュランダルが……ッ!」

 

 突然の事になす術も無くデュランダルが破壊され、制御機能としての鞘となっていたエクスカリバーの部分も四散する。エクス・デュランダルとなって初めて反応したにも関わらず、ただの一度も力を見せることなく再び無反応となった。

 誰もが反応出来ず、エクス・デュランダルの破壊に呆気に取られた。

 

「―――まずは1つ、輪宝(チャッカラタナ)の能力は武器破壊。これに逆らえるのは相当な手練れのみだ」

 

 曹操が不敵に一言漏らした次の瞬間、ゼノヴィアの体から鮮血が噴き出ていく。

 

「ごぶっ」

 

 腹部に穴を開けられたゼノヴィアは口から血を吐き出し、その場にくず折れていく。それはどう見ても致命傷であった。

 

「ついでに輪宝(チャッカラタナ)を槍状に形態変化させて腹を貫いた。今のが見えなかったとしたら、キミでは俺には勝てないな、デュランダル使い」

 

 曹操の一言を聞いて全員がその場から散開した

 

「ゼノヴィアの回復急いで!アーシア!」

 

 リアスが直ぐに反応してアーシアに回復の指示を出す。

 アーシアは呆然と倒れ込むゼノヴィアを眺めていたが、直ぐに我を取り戻してゼノヴィアに駆け寄った。

 

「ゼノヴィアさんッッ!いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 アーシアは泣き叫びながらゼノヴィアの回復を始める。

 怒りに包まれた一誠と木場が飛びかかった。

 

「曹操ォォォォォォォッ!」

「許さないよッ!」

 

 一誠と祐斗は同時攻撃を仕掛けるが、曹操は聖槍で軽々とさばき再び球体の1つを手元に寄せた。

 

「―――女宝(イッティラタナ)

 

 その球体が2人の横を高速で通り過ぎ、リアスと朱乃のもとに飛んでいく。

 リアスと朱乃は反応してその球体に攻撃を加えようとするが―――。

 

「弾けろッ!」

 

 曹操の言葉に反応して球体が輝きを発し、リアスと朱乃を包み込む。

 

「くっ!」

「こんなものでっ!」

 

 2人がまばゆい光に包まれながらも攻撃をしようとするが、リアスも朱乃も手を突きだしたまま何も起こらない。

 自分の手元を怪訝に窺うかがい、もう一度球体に攻撃を加えようと手を突きだすが……やはり何も起こらない

 

女宝(イッティラタナ)は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れでもない限りは無効化出来ない。―――これで3人」

 

 曹操の説明を聞きアーシアを封じられることに危機感を感じる。治療中のゼノヴィアは死んでしまう。

 アーシアの回復を重要視しておきながらその実防衛する手段を殆ど持っていない。

 曹操は高笑い、その表情は完全に戦いを楽しんでいるものだった

 

「ふふふ、この限られた空間でキミ達を全員倒す―――。派手な攻撃はサマエルの繊細な操作に悪影響を与えるからな。出来るだけ最小の動きだけで、サマエルとゲオルクを死守しながら俺1人で突破する! なんとも最高難度のミッションだッ! だが―――」

 

 黒歌とルフェイが手に魔力、魔法の光を煌きらめかせて、ゲオルクとサマエルの方に突き出していた。

 防御が薄いそこに攻撃を加えるつもりだが、そこにも曹操の球体が1つ向かう。

 

「ちょこざいにゃん!」

 

 黒歌がもう一方の手を突き出して迎撃しようとするも。

 

「―――馬宝(アッサラタナ)、任意の相手を転移させる」

 

 曹操が発言すると同時に黒歌とルフェイの姿がその場から消え去り、違う場所に出現する。

 そちらを見ればとんでもない光景が―――手を突き出したままの黒歌とルフェイ、彼女達の手の先がゼノヴィアを回復させるアーシアに向けられていた。

 攻撃は元々サマエルとゲオルクに向けられていたものだったが、強制転移の影響で矛先が変わっていた。手に灯った攻撃の火は急に止める事など出来ずに。

 

「ふざけるなよォォォォッ! 『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』ッ!」

 

Change(チェンジ )Star(スター) Sonic(ソニック)!!!!』

 

 一誠は瞬時に体内の駒を切り替え、装甲をパージした高速仕様の鎧でアーシアのもとに飛び出していく。

 高速でアーシアの前に到着し、彼女の壁となる一誠。アーシアはゼノヴィアの治療に夢中で反応すら出来ていない。

 薄い装甲では矛先を変えられた黒歌とルフェイの魔法攻撃に耐えうるか怪しいが、一誠は命を賭けてアーシアを守る覚悟で壁となった。

 けたたましい轟音と共に2人の魔法攻撃が容赦無く炸裂。衝撃と激痛が一誠の全身を駆け巡った。

 薄い装甲の鎧はものの見事に魔法攻撃で破壊され、一誠は大量の血を吐き出す。胸から腹部にかけて黒焦げとなり、肉が弾け飛び、鮮血が溢れ出していく。

 一誠がくず折れる中で曹操は嘲笑するかの様な笑みを見せた。

 

「赤龍帝、キミの力はもう知っている。バアル戦では不安定で強力な能力にも目覚めたようだが―――。やりようなんていくらでもあるさ。トリアイナのコンボは強力だ。だが、一瞬だけ内の駒を変更するところにタイムラグがある。それを踏襲した攻撃方法で攻めれば俺なら潰せるんだ。―――攻略法が確立すれば数手でキミを詰められるよ」

 

 曹操はトリアイナの特性と一誠の弱点を完璧に把握しそこを突いた―――トリアイナ版『騎士(ナイト)』の薄い装甲と異常な仲間意識を。

 仲間が、特に女性が酷い目に遭えばいかなる場合でも激高を抑えられない。サイラオーグ戦で朱乃を倒した相手のクイーンを殺しにかかったのもその異常な仲間意識の裏返しだ。

 となれば不意打ちの転移をアーシアの前に出現させれば、そこへ一誠が無防備に飛び込んでいくことは必然。

 1度しか見ていないにもかかわらず、自分(一誠)の技を全て把握しきっている曹操にまるで相手にならないとばかりの実力の差を感じた。

 

「イッセーさんッ!」

 

 アーシアが致命傷を受けた一誠に気付き、回復のオーラを飛ばそうとするが、

 

「来るなッ! アーシアッ! ……俺はまだ良い。先にゼノヴィアを治療しろ……」

 

 一誠はゼノヴィアの治療を優先させた。

 

「でも! イッセーさん、お腹が……ッ!」

 

 倒れる一誠を見て新は更に怒りのボルテージを上昇させ、鎧を着込んだアザゼルとヴァーリが飛び出す

 

「ヴァーリィィィィッ!俺に合わせろッ!」

「まったく、俺は単独でやりたいところなんだがな……ッ!」

 

 両者は瞬時に曹操との距離を詰め、アザゼルは光の槍、ヴァーリは魔力のこもった拳を同時に撃ち込んでいく。

 

「堕天使の総督と白龍皇の競演! これを御す事が出来れば俺は更に高みを目指せるなッ!」

 

 嬉々としてその状況を受け入れる曹操。アザゼルとヴァーリが撃ち込んでくる高速の攻撃を軽々と避けていく。

 

「力の権化たる鎧装着型の禁手(バランス・ブレイカー)は莫大なパワーアップを果たすが、パワーアップが過剰すぎて鎧からオーラが迸ほとばしり過ぎる! その結果、オーラの流れに注視すれば、次に何処から攻撃が来るか容易に把握しやすいッ! ほら、手にしている得物や拳に攻撃力を高める為、オーラが集中するからねッ!」

 

 曹操が避けながらそう告げてきた。

 

ドズンッ!

 

 鈍い音と共にアザゼルの腹部に聖槍が突き刺さった。黄金の鎧は難なく破壊され、鮮血が迸る。

 

「……ぐはっ! ……何だ、こいつのバカげた強さは……ッ!」

 

 アザゼルは口から大量の血を吐き出し、くず折れていく。

 曹操は聖槍を引き抜きながら言った。

 

「いえ、あなたとは1度戦いましたから、対処は出来てました。その人工神器(セイクリッド・ギア)の弱点はファーブニルの力をあなたに合わせて反映出来ていない点です」

「アザゼルッッ! おのれ、曹操ォォォォォォッ!」

「両親にバケモノとされて捨てられたキミを唯一拾って力の使い方を教えたのがアザゼル総督だったかなっ⁉育ての恩人をやられて激怒したか!」

 

 ヴァーリが魔力の一撃を繰り出すが、そこにも球体の1つが飛来していく。

 

「―――珠宝(マニラタナ)、襲い掛かってくる攻撃を他者に受け流す。ヴァーリ、キミの魔力は強大だ。当たれば俺でも死ぬ。防御も厳しい。だが、受け流す術すべならある」

 

 ヴァーリの魔力は球体の前方に生まれた黒い渦に吸い込まれていった。全てを吸い取った渦は消失し、小猫の前方に新しい渦が発生する。

 カラクリに気づいた一誠は踏ん張り立ち上がろうとするが、口から血を吐き出し倒れ込む。

 新たに発生した渦からヴァーリの魔力が放たれ―――

 

「バカ、なんで避けないの!白音しろねッ!」

 

 黒歌が悲鳴を上げて小猫の前に立ち、盾となった。爆音がロビー内を駆け巡り、小猫の目の前で黒歌は曹操に受け流された魔力の一撃をまともに食らってしまった

 血を噴き出し、煙を上げて倒れていく黒歌。小猫が直ぐ様その体を抱き留めた。

 

「……な、なに、ちんたらしてんのよ……」

 

 消えそうな声音で黒歌はそう言い、小猫が首を横に振って叫ぶ。 

 

「……ね、姉さまッ!」

「曹操―――、俺の手で俺の仲間をやってくれたな……ッ!」

 

 怒りのオーラを全身に滾たぎらせるヴァーリ。

 

「ヴァーリ、キミは仲間想い過ぎる。まるでそこに無様に転がる赤龍帝のようだ。二天龍はいつそんなにヤワくなった? それと、俺の七宝のいくつかを見た事のあるキミが、能力が把握しづらいのは分かっているよ。キミに見せていない七宝でわざわざ攻撃しているからな。良かったな?これで七宝の全てを知っているのはキミだけになったぞ」

「では、こちらも見せようかッ!我、目覚めるは、覇の理ことわりに全てを奪われし―――」

 

 ヴァーリは『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』の呪文を唱え出したが、それを察した曹操がゲオルクに叫ぶ。

 

「ゲオルクッ! 『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』はこの疑似空間を壊しかねない!」

「分かっている。サマエルよ!」

 

 ゲオルクが手を突き出して魔法陣を展開させると、それに反応してサマエルの右手の拘束具が解き放たれた。

 

『オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォオオオオンッ』

 

 不気味な声を発しながらサマエルの右手がヴァーリに向けられ、空気を震撼させる音と同時にヴァーリが黒い塊に包み込まれた。

 

『オオオオオォォッォォォォォォオオオォォォォォオオオッ』

 

 サマエルが吼えると黒い塊が勢い良く弾け飛び、四散した塊の中からヴァーリが解放される。しかし、彼の鎧は塊と共に弾け飛んでいき、体中からも大量の血が飛び散っていく。

 

「……ゴハッ!」

 

 ヴァーリはロビーの床に倒れ込んでしまった。白龍皇ヴァーリはなす術も無く倒された。

 床に倒れるヴァーリを見下ろし、曹操は息を吐いた。

 

「どうだ、ヴァーリ? 神の毒の味は? ドラゴンにはたまらない味だろう? ここで『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』になって暴れられてはサマエルの制御に支障をきたすだろうから、これで勘弁してもらおうか。俺は弱っちい人間風情だから、弱点攻撃しか出来ないんだ。悪いな、ヴァーリ」

「……曹操……ッ!」

「あのオーフィスですら、サマエルの前では何も出来ないじゃないか。サマエルだけがオーフィスにとっての天敵だった。俺達の読みは当たってたって事だ」

 

 曹操は肩を槍で軽く叩きながらそう言う。

 オーフィスを包む黒い塊は未だにオーフィスから何かを吸い上げていた。

 

「えーと、これであと何人だ。赤龍帝、白龍皇、アザゼル総督を倒した今、大きな脅威は無くなったかな。後は聖魔剣の木場祐斗、ミカエルの天使とルフェイと言ったところか。少し気がかりなのは飛び入りの三人だが……彼らに任せても大丈夫そうだな」

 

 曹操の圧倒的な力にルフェイはどう出て良いのか分からずにいた。イリナも光の剣を構えたまま怒りの涙を流す。

 

「……よくも! ゼノヴィアを! 私の仲間をッ!」

「ダメよ、イリナ! 闇雲に出れば殺される!」

 

 リアスが今にも飛び出していきそうなイリナを制する。

 

「あの七宝と言うものをどうにかしなければ、攻撃は全てカウンターとしてこちらに返ってくるわ。7つの球体はどれも同じ大きさと形をしているから、何が飛んでくるか読みにくい上に複数でこられたら対応も極めて難しくなる。能力を同時に発動までされたら……。次の手がここまで読みにくい能力に出会ったのは初めてだわ。それらを意図して能力を発現させたとしたら恐ろしいまでの鬼才。―――イッセー達をあれだけ簡単に屠ほふれる相手よ。気がおかしくなるぐらいに私達を研究し尽くしてきた強敵だわ……ッ!」

 

 リアスはこれまでの戦闘から状況を把握する。

 

「イッセーさん! ゼノヴィアさんの治療が終わりました!次はイッセーさんに!」

 

 アーシアが駆け寄るが、一誠は「先に黒歌を頼む」と告げる。自分(一誠)よりも黒歌の方が重傷と見た。

 アーシアは一瞬当惑するが、コクリと頷いて直ぐに黒歌のもとに向かう。

 そんなアーシアを曹操は追撃しようともしない。もう勝利が揺るがないと確信してのことだ。

 

 ギィィィンッ!

 

 突如、金属音がロビー内に響き渡る。木場が聖魔剣で曹操に斬り込んでいた。

 曹操は剣戟を聖槍で難なく受け止める。

 

「あなたは強すぎる! しかし、一太刀ぐらい入れたいのが剣士としての心情だっ!」

「良い剣だ、木場祐斗。ジークフリートに届きうる才能か。正直言うと、俺との相性で1番無難に戦えるのはキミだ。強大なパワーは無いが、どんな状況でも臨機応変に振る舞える聖魔剣は特性を突き詰めれば非常に厄介になる。―――だが、成長途中の今のキミなら難なく倒せるさ」

 

 曹操が横薙ぎに聖槍を振るう。木場は瞬時に後方へ飛び退き、聖魔剣を消失させて聖剣を創り出した。そして龍騎士団を出現させて曹操の方に向かわせる。

 

「新しい禁手(バランス・ブレイカー)か! 是非見せてくれ! 良いデータとなる!」

 

 狂喜する曹操は球体を自在に操って龍騎士団を破壊していく。

 曹操が木場に向けて聖槍を構えるが―――頭を振って槍を下ろした。

 

「―――やるまでもないか。直ぐに特性は理解出来た。速度はともかく、技術は反映出来ていない状態だろう? 良い技だ。もっと高めると良いさ」

 

 息を吐いて断ずる曹操。それを聞いた木場は屈辱にまみれた憤怒の形相となっていた。仲間を死守するつもりで剣を構えたのに、相手はそれを意にも介さなかった……。それは剣士としての誇りを持つ木場が受けた侮蔑、屈辱、心中は計り知れない。―――だが曹操の言ったことは正しい。

 仲間をバカにされた事に、倒れ伏している一誠も心中でキレていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!!」

 

 離れた場所で戦っていた機械兵がフョードルの蹴りの連撃で曹操達の近くまで押し込む。鉄球の攻撃に押し込まれながらも機械兵は鉄球を弾き、フョードルは弾かれた鉄球を踏み台にして、より高く跳躍する。そして、その勢いのまま鉄球に聖なるオーラを注ぎ込む。

 

「聖主砲 Верный級!」

 

 トドメと言わんばかりに両足で鉄球を踏みつけるようにして放つ。駆逐艦の主砲の如き迫力でロボットに迫る。

 発射された鉄球を機械兵はスラスターを全力で噴かせサッカーのキーパーのように受け止めた。しかし受け止めはしたものの体から煙を上げる。

 そこへ機械兵の眼前に急接近したヴィロットが聖なる砲弾がセットされた大剣を振りかぶる。

 

「聖主砲Roma級!」

 

 大剣から発射された聖なる砲弾が無防備なロボットの上半身を吹き飛ばす。

 機械兵を完全に破壊したが二人の体には差があれど傷だらけ。一方で軍服の男は無傷。

 

「そっちはそろそろ終わったかね?」

 

 ヴィロットと戦っていた軍服の男が龍騎士団の中を通って曹操の隣へと戻る。

 男が通った後僅かに残っていた龍騎士団は全て切り刻まれた。

 

「そろそろ彼女たちを抑えておくのがキツくなってきた。機械兵も壊されてしまったし」

「どれだけ取れた?」

 

 男からの質問をそのまま渡すように曹操がゲオルクに訊ねる。

 

「四分の三強程だろうな。大半と言える。これ以上はサマエルを現世に繋ぎ止められないな」

 

 そう漏らすゲオルクの後方で不気味なものを出現させている魔法陣が輝きを徐々に失っていく。

 サマエルの召喚には時間制限があり、それが間もなく限界を迎えようとしていた。

 ゲオルクの報告を聞いて曹操が頷く。

 

「上出来だ。充分だよ」

 

 指を打ち鳴らすと黒い塊は四散。塊の中からはオーフィスが。

 繋がっていたサマエルの舌も口に戻り、役目を終えたサマエルが魔法陣の中に沈んでいく。

 苦悶に満ちた呻き声を発しながら魔法陣の中へと消え、その魔法陣も消滅していった。

 塊から解放されたオーフィスは以前と変わらぬ姿だが、オーフィスは曹操に視線を向ける

 

「我の力、奪われた。これが曹操の目的?」

 

 オーフィスの力が奪われた事態に驚愕する一同、曹操は愉快そうに笑む。

 

「ああ、そうだ。オーフィス。俺達はあなたを支配下に置き、その力を利用したかった。だが、あなたを俺達の思い通りにするのは至難だ。そこで俺達は考え方を変えた」

 

 曹操は聖槍の切っ先を天に向ける。

 

「あなたの力をいただき、新しい『ウロボロス』を創り出す」

 

 血を吐きながらアザゼル総督が言う。

 

「―――ッ! ……そうか! サマエルを使ってオーフィスの力を削ぎ落とし、手に入れた分を使って生み出す―――。……新たなオーフィスか」

 

 アザゼル総督の言葉に曹操は頷いた。

 

「その通りですよ、総督。我々は自分達に都合の良いウロボロスを欲したわけだ。グレートレッドは正直、俺達にとってそこまで重要な存在でもなくてね。それを餌にご機嫌取りをするのにうんざりしたのがこの計画の発端です。そして、『無限の存在は倒し得るのか?』と言う英雄派の超常の存在に挑む理念も試す事が出来た」

「……見事だよ、無限の存在をこう言う形で消し去るとはな」

「いえ、総督。これは消し去るのとはまた違う。やはり、力を集める為の象徴は必要だ。オーフィスはその点では優れていた。あれだけの集団を作り上げる程に力を呼び込むプロパガンダになったわけだからね。―――だが、考え方の読めない異質な龍神は傀儡(かいらい)にするには不向きだ」

「……人間らしいな。実に人間らしいイヤらしい考え方だ」

「お褒めいただき光栄の至りです、堕天使の総督殿。―――人間ですよ、俺は」

 

 曹操はアザゼル総督の言葉に笑みを見せ、ゲオルクが満身創痍の一誠達に視線を向けた。

 

「曹操、今ならヴァーリと兵藤一誠をやれるけど?」

「そうだな。やれる内にやった方が良いんだが……。二人ともあり得ない方向に力を高めているからな。将来的にオーフィス以上に厄介なドラゴンとなるだろう。だが、最近勿体無いと思えてなぁ……。各勢力のトップから二天龍を見守りたいと言う意見が出ているのも頷ける。―――今世に限って成長の仕方があまりに異質過ぎるから。それは彼らに関わる者も含めてなんだが……データとしては極めて稀まれな存在だ。神器(セイクリッド・ギア)に秘められた部分を全て発揮させるのは案外俺達ではなく、彼らかもしれない」

 

 曹操がそう言った時「ふっ」っと軍服の男が小さく嘲笑した。

 そこまで言った曹操は踵きびすを返してロビーを去ろうとする。

 

「やっぱりやめだ。ゲオルク、サマエルが奪ったオーフィスの力は何処に転送される予定だ?」

「本部の研究施設に流すよう召喚する際に術式を組んでおいたよ、曹操」

「そうか、なら俺は一足早く帰還する」

 

 機械兵に確認を取ると戻ろうとする曹操。

 ヴァーリが全身から血を垂れ流しながら立ち上がる。

 

「……曹操、何故俺を……俺達を殺さない……? 禁手(バランス・ブレイカー)のお前ならばここにいる全員を全滅出来た筈だ……。女の異能を封じる七宝でアーシア・アルジェントの能力を止めれば、それでグレモリーチームはほぼ詰みだった」

 

 一旦足を止める曹操が言う。

 

「作戦を止めると共に殺さず御する縛りも入れてみた……では納得出来ないか? 正直話すと聖槍の禁手(バランス・ブレイカー)はまだ調整が大きく必要なんだよ。だから、この状況を利用して長所と短所を調べようと思ってね」

「……舐めきってくれるな」

「ヴァーリ、それはお互い様だろう? キミもそんな事をするのが大好きじゃないか」

 

 曹操が自身に親指を指し示す。

 

「赤龍帝の兵藤一誠。何年掛かっても良い。俺と戦える位置まで来てくれ。将来的に俺と神器(セイクリッド・ギア)の究極戦が出来るのはキミとヴァーリを含めて数人もいないだろう。―――いつだって英雄が決戦に挑むのは魔王か伝説のドラゴンだ」

 

 挑発的な物言いをした曹操は次にゲオルグに言う。

 

「ゲオルク、死神(グリムリッパー)の一行さまをお呼びしてくれ。ハーデスは絞りかすのオーフィスの方をご所望だからな。……それと、ヴァーリチームの者がやってみせた入れ替え転移、あれをやってみてくれ。俺とジークフリートを入れ替えで転移出来るか? 後はジークフリートに任せる」

「一度見ただけだから上手くいくか分からないが、試してみよう」

「流石はあの伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫だ」

「……先祖が偉大過ぎて、この名にプレッシャーを感じるけども。まあ、了解だ。曹操。……それとさっき入ってきた情報なんだが……」

 

 ゲオルクが何やら険しい表情で曹操に紙切れを渡す。

 それを見た曹操の目が細くなっていく。

 

「……なるほど、助けた恩はこうやって返すのが旧魔王のやり方か……。いや、分かってはいたさ。まあ、充分に協力してもらった」

 

 ゲオルクは魔法陣を展開させて何処かに消え、軍服の男も少し離れた受付の奥で何かを拾い上げ帰り支度をした。

 曹操がこちら方に振り返る。

 

「ゲオルクはホテルの外に出た。俺とジークフリートの入れ替え転移の準備だ。まあ良い。一つゲームをしよう、ヴァーリチームとグレモリーチーム、それにフョードル。もうすぐここにハーデスの命を受けてそのオーフィスを回収に死神の一行が到着する。そこに俺の所のジークフリートも参加させよう。キミ達が無事ここから脱出できるかどうかがゲームのキモだ。そのオーフィスがハーデスに奪われたらどうなるか分からない。―――さあ、オーフィスを死守しながらここを抜け出せるかどうか。是非挑戦してみてくれ。俺は二天龍に生き残って欲しいが、それを仲間や死神に強制する気は更々無い。襲い来る脅威を乗り越えてこそ、戦う相手に相応しいと思うよ、俺は」

 

 それだけ言い残し、曹操はロビーから去っていった。

 

『……ゲームだと……?ふざけやがって……ッ!』

 

 舐めきった態度の曹操に一誠は怒りの感情を止められなかった。

 動けない一誠の代わりにフョードルが曹操に向かって飛び出す。

 

「待て曹操! 禁手―――」

「それはやめてもらおう」

 

 禁手(バランス・ブレイカー)を発動させようと飛び出したフョードルを発動前に軍服の男が斬った。

 もう片手のサーベルが倒れ込むフョードルの素っ首に振り下ろされるが、それにはなんとかヴィロットが間に合い防ぐ。さらに誇銅の炎による追撃で軍服の男を重症のフョードルから完全に引き剥がした。

 さっきまで被っていなかった軍帽が地面に落ちる。

 

「ふう、どうやら君たち三人はそこの彼らとは別格のようだね。なぜ三大勢力なんかに協力しているんだい?」

「そういう貴方も違うでしょ。こちらこそなんで共闘してるのか教えてほしいわ」

 

 落ちた軍帽を拾い上げながら「ん~」と唸る。

 

「別にその質問全部に答えても構わないが生憎今は彼ら(曹操)のターンということで余計なことはしないようにと総統閣下から言われている。私達の所まで着いたら答え合わせをしよう」

 

 鷹と髑髏の装飾がされた軍帽を被り直しサーベルを鞘に戻した。

 

「アルベルトだ。また会おう」

 

 アルベルトは背を向け手を振りながら去っていく。

 黒マントの背には卍を傾けた特徴的なシンボルがあった。




 原作とほぼ同じですいません。でもここを逃したら(曹操)の見せ場がほぼ無い可能性があるので許してください。

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