今日は一誠たちの昇格試験当日ということで、オカルト研究部の皆も応援に付いて行くらしく、それに僕も誘われたが断った。
リアス眷属を抜けた僕には応援に行く義務も義理もないからね。レイヴェルさんの付き添いならまた話が変わるが、今回レイヴェルさんは一誠のマネージャーとしてなので僕には関係ない。
まあどちらにせよ今日は行けなかったんだけどね。
「お待たせしました」
なぜなら多摩さんから突然の呼び出しがあったからだ。何やら急ぎらしく詳しい話もお店で説明すると言われた。
「おっ、来たな」
既に来ていたジルさんが言う。
店の中にはジルさん、多摩さん、私服のヴィロットさん、それと迷彩服の人物が二人多摩さんの後ろに控えていた。気が妖怪なとこから見ても部下で間違いないだろう。
「本当に火影様が。そしてあちらが大国の人外勢力」
とても緊張した様子で僕の後ろに隠れながらつぶやく舞雪ちゃん。
多摩さんから連絡がきた際にできれば舞雪ちゃんも連れてきてほしいと言われた。理由を訊いてみると有能な人手が一人でも多く欲しいとのこと。
そのために家を出る前に一通りの事情を舞雪ちゃんに説明したのだが、その時はワナワナと震えていた。
『向こうの人達がかなり頼りになると言ってもそれ相応に危ないことであることには違いないんだ。舞雪ちゃんが無理だと思うなら無理はしないで。大丈夫、僕がしっかりと断っておくから』
『いえ、行きます! ダーリンと一緒なら、ダーリンの為ならどこへでも行きます!」
と、家を出た時は意気込んでたけど、いざ目の前にして尻すぼみしてしまったようだ。
「よっしゃ全員集まったな」
一度全体を見回してジルさんが言い始める。
「突然集まってもらったのはこいつを探してほしいからだ」
ヴィロットさんから資料が配られる。その資料に載っていた写真は―――。
「ジルさん、この人ってあの時の」
その写真の人物はこの前巻き込まれていた一般人の男性だった。
僕の言葉を無視してジルさんは続ける。
「本名はフー・リッピ・アン。歳は二十四。ベトナムの退役軍人だ。調べではかなり優秀な軍人だったらしくベトナムの裏勢力で特殊部隊を率いた。しかしある作戦で部隊は彼を除いて全滅。そのことで精神疾患を発症し退役することとなった」
たった二十四歳で特殊部隊を率いたということだけで彼が優秀だったことがよくわかる。というかたった二十四歳で部隊を率いれることにも疑問はあるけどね。それまでの経歴がどうなってるのか個人的に気になる。
ジルさんが男性のプロフィールを一通り説明すると多摩さんが質問した。
「彼と今回の緊急召集とどう関係があるんだい?」
僕も気になっていた。特殊な経緯を持ってはいるがそんなに怪しいとは思えない。
するとジルさんは言う。
「捕獲しらロボットだが、調べた結果あのロボットはサーモグラフも内蔵されていた」
「つまり逃げ切るには視界を振り切ってなお体温を誤魔化す必要があるってことか」
「そうだ。簡単なところで泥を被ったり水に潜ったりな」
ッ! 僕はその男性と初めて会った時の光景を思い出す! あの時、男性は不自然にも水の中にいた。水の中に潜っていた!
「どんな偶然かこの男はロボットが出現した付近で水の中に潜っていた」
「しかし元軍人なら怪しいロボットと対峙したならそのような行動もそこまで不自然ではないのでは」
迷彩服の片方が手を上げて異議を唱えた。
「こいつが潜ってたのはものすごく浅い池だったらしい。他に隠れる場所はあったにも関わらず。さらにそのロボットはあきらかにこの男を狙っていた。ここまで偶然が重なったら必然って考える方が自然だろ」
あの時、機械兵は僕を無視してあの人を追いかけようとしていた。目撃者を消すためだと深く考えなかったが、今思い出すと不自然な言動が多かったような。
「そんでもってこの男、ロボット兵に狙われてるのもあってこっちで監視をしていたのだが、今朝その監視が振り切られ現在行方不明だ」
アメリカ勢力の監視を振り切った!! アメリカ勢力の監視能力がどれほどかは未知数だが悪魔のようにヌルいものでは決してないはず。
「現在進行系で捜索を開始しているが成果は上がっていない。町の出口には特に厳しい警戒網を張ってるから駒王町のどこかに潜伏してるはずだ。ロボット兵が追い、それらから逃げる術を知っていることから奴らにとってかなりの重要人物の可能性が高い。早急に見つけ出し保護してほしい」
「わかった。こちらも見つけ次第情報を共有するようにしよう。捕獲したロボット兵については他に何かないのかい?」
多摩さんが機械兵について訊く。
「頭部の内部に単発式の銃器が内蔵されていた。だがあの高性能な機体にしては銃身も銃弾も一般的なものだった」
あれだけ高性能な機体でわざわざ頭部に仕込んだ遠距離武器が普通? あの機械兵を作れるんだったらもっと高性能な、レーザー砲くらい仕込めそうなもの。
実際にあいつらが強力なレーザー砲を機体に仕込めるのは知っている。だったらなぜ?
多摩さんがサッと指示を出すと、後ろに控えていた迷彩服の二人が店から出て行った。
「僕たちもその捜索に加わればいいのですか?」
「微妙な立場なのに悪い」
「お互い重要なことです。協力は惜しみません」
この状況でアメリカ側に協力することは日本に協力するのと同意義。だったら是非とも協力したい。
「サンキュー。そんじゃおまえらにはこの辺りの巡回を頼む」
ジルさんが指した場所は僕があの人と初めてあった場所周辺だった。
「了解です」
「気をつけてね」
「はい、ありがとうございます多摩さん」
そう言って僕たちは店を出た。
目的地まで急ぎ歩きしながら舞雪ちゃんに言う。
「舞雪ちゃん、もう一度だけ言うけどやめたかったら無理はしなくてもいいんだよ」
「無理なんかしてません。それにダーリンが私を頼ってくれたんです。私もダーリンの力になりたいんです!」
「……わかったよ。頼りにしてるよ舞雪ちゃん」
「はい!」
「でも無茶だけはしないでね。危ないと思ったらちゃんと逃げてね」
やる気満々な舞雪ちゃんにそう言いながら任された場所へと向かった。
何が起こってるかはわからないが、この非常時に一誠たちの昇級試験が重なったのはせめてもの幸運だったと言えるかもしれない。
◆◇◆◇◆◇
その場所に辿り着いた僕たちは目視で探しつつ気配でも探り出した。
まず妖怪として僕よりも探知に長けた舞雪ちゃんが広範囲まで探知し、機械兵を察知できる僕は近くに機械兵がいないかを注意しつつ探す。
罪千さんには探知中にできないことを手伝ってもらうことに。
「でも、私その人の気配知らないのですが」
顔も知らない人を探すことはできない。それと同じように会ったこともない人を気配探知で見つけ出すことは不可能だ。
「直接探そうとするんじゃなくて怪しい動きを探るんだ。この人は逃げてるんだからきっと行動の仕方が一般人とは全く違うはず」
「なるほど。わかりました」
そもそも探知に引っかかればラッキー程度としか思っていないけどね。
監視体制がどれほどのものだったのかはわからないが、ここまで逃げ切ったあの男性は気配を消す能力を持っていると思う。その能力の高さによってはこちらの探知もかいくぐられてしまう。
となると人海戦術での目視が一番確実だ。
「それにしても外の大勢力と日本神話が協力関係を築いていたとは驚きでした。外の勢力と言えば悪魔のことがあるので心配でしたが、日本神話がお認めになり火影様がいらっしゃるなら安心ですね」
外の勢力と言えば日本としては悪魔の侵略が最も頭に浮かぶ事だろう。そういうことで最初は舞雪ちゃんも不信感たっぷりな目をしており、悪魔と違って正式に日本神話が認め火影様が協力に来ていると説明してやっと納得してくれた。
というか僕も日本神話が認めてなかったら絶対に疑いから入ってただろう。
「そしてそんな大きなところにお呼ばれするなんてさすがダーリン!」
キラキラとした目で大袈裟に褒める舞雪ちゃん。
「たまたま両側に面識があっただけだから」
須佐之男様に藻女さん、罪千さんにヴィロットさんと偶然恵まれた出会いがあっただけだ。
「そういえば罪千さんは
「うん、そうだよ」
「ずっと気になってたのですが、罪千さんの種族って何なのですか?」
舞雪ちゃんが罪千さんの種族について訊くと、僕と罪千さんは思わずビクッとなってしまう。
罪千さんの正体については一切秘密にしていたのだが、罪千さんが人間ではないことだけは必要に迫られ説明した。罪千さんが毎日僕の匂いを執拗に嗅いだり指を舐めたりすることを納得させるには仕方なかった。
「それは言えないかな」
「なんでですか。もう外の勢力との協力関係も明かしてくれさったのに」
「それとこれとはまた別の問題なんだ。僕が言えるのは罪千さんは強力な絶滅種の唯一の生き残りで知る人間も一握りってことまで。日本で罪千さんの種族を正しく知ってるのは僕と天照様たち三貴神だけ」
「つまり外の勢力が大事にし、最高神にしか知か伝えられない存在を任されていると。日本神話だけでなく外の勢力にまで認められているなんて……」
僕の説明に戦慄する舞雪ちゃん。まあ文面だけ見れば僕の存在は一誠にも勝るとも劣らないものだけどね。
でもそれは全部実力とかではなくただのコネみたいなもんだから。実力や信用じゃなくて罪千さんに懐かれたからという理由なんだ。まあこれ言ったらまた一悶着ありそうだから黙っておくけども。
見る目を変えてマジマジと罪千さんを見る舞雪ちゃん。その目線に少し怯える罪千さん。
「それにしてもまさか罪千さんがそんな凄い存在でしたなんて…………ッ!」
罪千さんを見ていた舞雪ちゃんだが突然バッと別の方向へ振り返る。
「今、向こうの方で突然一人分の気配が消えました」
「えっ!?」
気配が……消えた。
「それってどっち!?」
「向こうです」
僕たちは舞雪ちゃんが異変を感じた方へと向かう。
人一人分の気配が突然消えた。考えられる原因は主に二つ。あの男性が途中で気配を消したかそれとも……。
僕は前者であること、もしくは後者ではないことを祈った。
「ヒィヒィヒィ!」
現場に向かって走っていると、なんとあの男性とバッタリ出くわした!
しかしその評定は何か恐ろしいもから逃げてるかのような必死の形相。
男性は僕の顔を見ると僕の両肩を掴んで言う。
「ああっ! 君はっ! よかった、無事だったんだね」
僕が無事だったことに軽く安堵する男性。僕の身も案じてくれてたのかと考えると少し嬉しかった。
しかし男性はすぐさま表情に恐怖を戻し言った。
「でも早く逃げて! あいつらがまた――来た!」
男性が後ろを振り向き叫ぶと、そこにはあの時の機械兵がこちらに走って来ていた。
その機械兵のアームには赤黒い液体――血がついていた。近くに遺体は見当たらないが誰かを襲ったのは間違いない。
「あいつの動きを封じればいいのね!」
そう言って舞雪ちゃんは前に出て大きく息を吸い込み、機械兵に向かって吹雪のような吐息を放った。
舞雪ちゃんの吹雪によって機械兵は一瞬のうちにカチコチの氷像へと変わった。
「ふふん、こんなものです」
振り向き得意げに笑顔を向ける舞雪ちゃんだが。
「いや、まだだ!」
しかし機械兵は内部から氷を砕き自力で脱出した。舞雪ちゃんの放った妖術の吹雪はよく練り込まれて強力だったが、機械兵を数秒間足止めすることしかできなかった。
氷塊から脱出した機械兵は再びこちらに向かってくる。その目標は自分の邪魔をした舞雪ちゃんだ!
「舞雪ちゃん!」
僕は舞雪ちゃんを守るため炎目で機械兵の進行を妨害したが舞雪ちゃんの氷同様大した足止めにはならない。
それでも舞雪ちゃんを下がらせて僕が前に出るぐらいの時間稼ぎはできた。
ぶっちゃけあの機械兵を倒す手段は特にない。でもここは駒の特性から一番頑丈な僕が前に出なくちゃいけない。
機械的な殺意を持って機械兵がこちらに向かってくる。すると―――。
「はっ!」
機械兵の真横から他の男性が現れ強烈な飛び蹴りを機械兵の側頭部へと食らわせた。
その一撃により機械兵は真横に大きく飛んだ。
「アメリカの裏勢力だな。加勢する」
この人が何者かはわからないがどうやら味方のようだ。
突然現れた援軍と共に機械兵と対峙する。
先程この人は『アメリカ裏勢力だな。加勢する』と言った。それはつまりアメリカ勢力の人間ではないということ。そして感じる気配も人間そのもので妖怪側でもない。
しっかりとオーラが練り込まれた蹴りを見るだけただの者ではないことは明白。
「貴方が何者かはあとで聞きます。とりあえず味方と考えていいんですよね」
「無論だ」
男性は機械兵から目を離さず答えた。
もう一人の探していた男性は僕らが機械兵と対峙してる間に脇目もふらずにその場から逃げ去った。かなりの足の速さでもう姿が見えない。
「舞雪ちゃんと罪千さんはあの人を追って!」
僕がそう言うも舞雪ちゃんも罪千さんも心配そうにしたまま動いてくれない。
「でもダーリン」
「僕なら大丈夫だから! 作戦はちゃんとあるから。だからそっちはお願い」
「……わかりました。絶対に無事でいてくださいよ」
そう言って最後まで煮え切らない様子の罪千さんを連れて舞雪ちゃんたちはあの人を追いかけていった。
二人が行ったところで加勢した男性が言う。
「大事になる前にすばやく鎮めよう」
そう行って男性が機械兵へと飛び出すと、右足の足首に枷が現れそこから鎖が形成されていき先端には大きめの鉄球が形成された。
先端の鉄球をまるでサッカーボールのように蹴り飛ばすと、鉄球は大きくなりながら機械兵へと飛んでいく。
機械兵は巨大鉄球を受け止めるも受け止めきれずよろけた。
「私の神器『
足枷の神器か。今まで見てきた神器と比べるとものすごくシンプルな能力だね。
だがそのシンプルな能力が彼の戦闘スタイルと合致しているようだ。
「もう一発!」
足元に戻した鉄球は再びサッカーボールサイズに戻り、蹴り飛ばされると再び巨大化した。
しかし一発目で学習したのか今度は真正面から受け止めず横にいなした。
足元に武器の鉄球がない男性を狙いに行く機械兵に男性はジャンプし足で鎖を操り、機械兵の腕に巻き付けた。
「いい忘れていましたが鎖の長さも自由自在です」
そう言うと男性は機械兵の腕に巻き付けたまま鎖を急速に縮めた。
急速に縮められた鎖によって機械兵は男性の蹴りと鉄球にサンドされた。鎖を縮めた勢いで挟み撃ちにしたのか!
機械兵の反撃が来る前に腕の鎖を神器ごと消すことにより解き、機械兵を蹴りながら空中で一回転しながら距離を取り再び神器を発現させた。
軽やかで強力な連撃だが機械兵を倒すにはまだ足りない。
立ち上がろうとする機械兵に僕は炎目で追い打ちをかけた。
「炎目・『火葬体験』」
以前デッド・ウイルスに感染したゾンビに使った技で拘束する。
だがやはり機械相手には効果が薄く、多少動きにくそうにするだけで炎に拘束されたまま立ち上がってしまった。
「もうしばらく止めておいてください!」
僕の炎の特性を見抜いた男性はそう言うと足にオーラを纏い駆け出す。
右足で鉄球を蹴り上げると鉄球にもオーラが移り、浮かび上がった鉄球を両足で撃ち出した。すると鉄球のオーラが爆発的に大きくなった!
その一撃は機械兵を大きく吹き飛ばしダメージを与えたのだが。
「むっ!?」
「すいません。どうやら僕が邪魔してしまったみたいです」
男性も自分のオーラが着弾の瞬間減少する違和感に気づく。僕の炎が着弾時にオーラを燃焼させてしまったのだ。
僕の炎の特性は魔力やオーラを使った連携には相性が悪い。
「そう言えば作戦があると言っていたな」
「……はい、うまくいくかはわかりませんが一応は」
「そうか。なら私はどうすればいい?」
僕に支持を仰ぐ男子に正直戸惑った。でもまた立ち上がる機械兵を前にそんな暇はない!
「それでは僕がサポートするのであいつに今と同じぐらいのダメージを与えてダウンさせてください」
「了解した」
僕たちが作戦会議をしてる間、あいつは立ち上がり姿を消そうとしていた。
「あいつは姿を消せます! なので僕が見つけます!」
あいつが姿を消した辺りに炎をばら撒き、姿の見えない何かにぶつかるとそこに集中させた。
「そこだ!」
男性は炎の目印がついた姿を消した機械兵へ攻撃する。だが今度は機械兵もうまく対応し攻撃を捌きながら鎖を引っ張り引き寄せるが、男性も再び神器を消して掴まれる前に機械兵を蹴って距離を離す。
再び神器を発現させる前に機械兵がこちらへ急接近した。
「下がってください!」
僕がそう言うと男性は素直に指示に従ってくれ、炎目の幕で機械兵の周りを覆う。だが人目を気にした炎目の幕ぐらいあいつは簡単に破ってくるだろう。
機械兵の視界が遮られてる間に炎の幕の外側から、機械兵の死角となる箇所から挟み撃ちする。が、機械兵はその二つにすばやく気づき見切りその爪で貫いた。――炎で出来たただの人形をね!
あの機械兵はカメラ以外に熱感知で敵を補足することができる。それを逆手に取って炎目で視界を遮った後は人一人分の熱を持ったデコイ人形で騙した。
「今です!」
両手のみが炎目で塞がった機械兵に男性が向かう。
足枷の鎖で機械兵を拘束し、そこへオーラと巨大化された鉄球を蹴り飛ばす。その一撃で倒れた機械兵を拘束したままさらに鉄球で追撃。そして鎖に拘束され鉄球の下敷きになる機械兵へ鉄球の上からオーラをたっぷりと込めた両足で強力なスタンプ!
神器の鉄球を通じて強化されたオーラが機械兵に襲いかかる!
「後は任せてください!」
僕がそう言うと男性は神器を消して離れ、僕は確かにダメージを負った機械兵を再び炎の檻に閉じ込める。しかし今度の檻はさっきよりもずっと強固だ。
炎目の硬度を上げる程に炎の熱量もグングン上昇していく。
強固な炎目の檻で敵を蒸し焼きにするつもりで閉じ込めたが、この調子では脱出はされない代わりにそこまで長くは持たない。ロボット相手なので炙り殺すことはできない。
だが作戦がうまくいったならそうする必要はない。
「ん~~~~~! ……うまくいったみたいだ」
作戦が成功したのを感じ炎目を解除すると、中からバラバラになった機械兵が残った。
あれだけ頑丈な機械兵が無残にバラバラになっているのを見て男性は目を丸める。
「あの機械がここまでなるとは」
「僕がやったんじゃありませんよ。ただの自爆です」
あの機械兵は戦闘不能になった際には証拠隠滅のため自爆する。それは取り押さえられ行動不能になった際も同じ。その特性を利用して自分が捕らえられたと錯覚させ自爆を促す。――という作戦をついさっき思いついた。
舞雪ちゃんたちにああ言った手前どうしようかフル回転で考えてたのだが、いいヒントをありがとうございます多摩さん。
戦闘が終わり男性は僕に自己紹介した。
「私の名はフョードル。現在は
男性は名乗ると礼儀正しく深々と頭を下げたが
共闘した仲とはいえテロリストを名乗った男性に警戒度を上げざる得ない
「戦う意志はございません。実はぜひともお耳に入れたい情報がございまして」
男性は距離を開けたまま手を上げて戦意がないことを示す。
「なぜ
「助けてほしいのです」
助けてほしい。一体どういう意味?
警戒を少し解くと男性は話を続ける。
「今の英雄派は元々
確かに京都で出会った影使いの構成員も迫害されていた自分を救ってくれたと言っていた。だがそれは僕が見た感じ戦力として利用するためにしか見えなかった。実際に強制的に
「だがいつからか曹操たちは変わってしまった。本来の目的を見失い力を、戦いを求め始めるようになった。それから程なくして我々は
男性は真剣に英雄派について語る。その真摯な気持ちは僕にも伝わってくる。
「曹操を含め創設時のメンバーである幹部たちも人が変わってしまい、英雄派はどんどんおかしくなってしまいました。今までは私を含む五人の同士と共になんとかしようとしましたがこの通りです。しかし私たちはやっと曹操たちがおかしくなった原因と思われる情報と証拠を掴んだのです! この情報はそちらにとっても無視できないものだと思います。どうかそのついでに曹操たちを止めてください」
男性は深々と頭を下げ僕にお願いする。きっとこの人の言葉に嘘偽りは一切ないだろう。無責任な勘だけど確信できる
「その情報についてもう少しだけ具体的にお願いできますか?」
このままジルさんに連絡してもいいのだが、できる限りの安全を確認しておく。
男性は壊れた機械兵に一度目をやり言う。
「おそらくこの機械にも関係するものだと思っています。私たちも断片的かつ憶測の情報ゆえにぜひ直接確認いただきたいと思いまして」
これは思った以上に重要そうな情報だ。共闘してくれ様子からも特に怪しい様子はなかった。
「ジルさん、誇銅です。こっちであの男性を発見しました。はい、現在二人が追いかけています」
ターゲットの男性を見つけたことも含めてジルさんに連絡する。
「それと先程機械兵との戦闘がありまして、加勢に来てくれた人と協力して倒しました。そしてその方がジルさんにお話があると。何やらこの機械兵にも関係するかもしれないことらしいです」
電話で男性のことを伝えていると、男性はなんだか緊張した様子。
「はい、はい。わかりました。それではお願いします」
「どうでしたか?」
男性は電話を終えた僕におずおずと訊ねる。
「とりあえず一度あなたを連れてくるようにと言われました。それとこの残骸も回収するようにと。すいませんが手伝ってもらえませんか?」
「わかりました」
話し終えたところでちょうど舞雪ちゃんと罪千さんも戻ってきた。二人の表情とあの人がいないことから逃げられてしまったようだ。
ジルさんの指示は逃げ切られる前提だったから大丈夫なんだけどね。なんで二人が振り切られることがわかったんだろう。
「すいません、逃げられてしまいました」
「大丈夫、大丈夫。とりあえず一度戻るように言われたから」
同時に謝る二人をなだめて、機械兵の残骸を回収し一度お店へ戻った。