無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 初評価に好評価を下さったピータン様、誠にありがとうございました。
 もしかしたら短くなるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします!

 そして、この作品を見てくださる読者様も今後ともよろしくお願いします。


無意味な主従の関係

 高天原から帰った僕はギャスパーくんに連絡してリアスさんの眷属に戻る事を伝えた。

 するとギャスパーくんは心配そうな声で僕にこう言ってくれる。

 

「本当にいいんですか? 僕が言うのもおかしいかもしれませんが、戻ってきても誇銅先輩にはたぶん待遇が変わる事はないと思います。

 それどころか後悔するかもしれません。

 僕個人としては誇銅先輩とまた日常で会える事は嬉ししですけど」

「僕の待遇がまったく変わらない、もしくは前より悪くなるのは想定内。大丈夫だよ。

 それに僕も気兼ねなくギャスパー君に会いたいしね」

「誇銅先輩……」

 

 僕の事を考えてこのまま離れる事を提案してくれる優しさにとても心が温まるよ。

 そのうれしさを胸に秘めたままギャスパー君の嬉しそうな声を聞いて通話を切る。

 こいしちゃんと長時間遊ばされてちょっと痩せたももたろうを撫でながら明日の事を考えた。

 てか相当遊ばれたんだろうな。こいしちゃんから返してもらったももたろうはものすごくぐったりしていたよ。

 こいしちゃんは無邪気な可愛さがあるけど同時に無邪気な怖さもあるからね。

 

「明日から元々の生活に戻るのか」

 

 僕の本来の生活は平安時代での安らかな修練の日々ではない。家族と言われた人に見捨てられた悪夢の日々。

 だけど僕はもうその悪夢にただうなされるだけではない。

 過去の時代に渡り幸せな夢を見た。それはもう再び始まる悪夢をも晴らしてくれる吉夢。それが僕を支えてくれる。

 

「僕はもう一人じゃない。大きな心のよりどころがある」

 

 正直もうリアスさんたちを信頼する事はできない。

 だけどもう一度だけ様子を見よう。

 例え冷遇されてももう一度だけ本当に僕を仲間だと思っていないのか見定めよう。

 でも一度完璧に見捨てられてるからよほどの事がない限り考えを改める気はないけどね。

 

「次リアスさんのもとを去るときは自分の足と意志で去る時だ」

 

 どっちにしろしばらくはリアスさんの所にいる必要があるしね。

 正式に眷属をやめる方法とか。あれ、眷属を止める方法とかあるのかな? 何かはぐれ悪魔とか拉致転生悪魔とかを考えると普通にそんな法律ない気がする。まあないならないでその時考えよう。何なら絶好の機会に何かしらの理由をつけて多少強引にでも抜ければいい。

 

「スサノオ様さんたちとは会ったけど七災怪の皆さんとはまだ会ってないな。

 全員生きてるけど何人か世代交代したって言ってたね」

 

 この時代に戻って天照様に言われた通り僕を知っている他の神とは会った。ツクヨミ様とはドア越しにチラッと顔を見たくらいだけど。

 だけど七災怪は藻女さんと帰りにこころさんとちょこっと話をしただけだったからね。

 皆さん今は何してるんでしょう。鬼喰いさんだけはなんか物騒なことしてると聞いたけどそれは昔からだから。

 

「また暇ができたら皆さんに会いたいな」

 

 若干の不安を抱えながらも昔を思い出しながら明日が来るのをまった。

 昔と言っても僕からすれば数日、長くても二年以内の出来事だけどね。

 ……身長、まったく伸びなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕にとって二年ぶりの学校。他の人からすれば一週間程度の事だけどね。

 まず平安時代からの習慣で軽い運動がてら柔軟体操後相手を想定した一人稽古。それから素振り。これもなかなかいい練習になる。

 最後に座った姿勢からひざ頭をついて進退する座り稽古。これはまだ完璧には習得できていない。

 これらを終えて朝食を食べるとちょうどいい時間になった。

 準備を確認して余裕をもって学校に行けそうだよ。

 

「行ってきま~す」

 

 ももたろう以外誰もいない玄関に向かって元気に行ってきますよ行って僕の学園生活は再スタートされる。

 誰の言葉も返ってこないのはさびしいけど前程じゃない。前は一人ぼっちで返事が返ってこなかった。だけど今はこの家に居ないだけ。

 

「誇銅君おはよう」

「おはよう」

「おはよう。もう学校に来ても大丈夫なの?」

「うん、もう大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

 登校中にいつもすれ違う同級生と朝の挨拶をしながらゆっくりと学校へ向かう。

 悪魔になってからは朝に弱くなってたけど、稽古をするようになってからはそれも改善されたよ。

 登校中にもクラスメイト、一年生の時のクラスメイトたちも声をかけてくれる。

 自分で言っちゃなんだけどこの身長と童顔のおかげで僕は学校でもちょっとした有名人ではある。まあランクは低いけどね。

 そしてついに教室までたどり着く。教室に入ったところで今度はクラスメイトたちが僕に駆け寄ってきた。このクラスはなぜかテンションが異様に高い。今ではすごく疑問に思う。

 そして彼とも目があった。

 

「よう、おはよう誇銅」

「おはようございます、誇銅さん」

「おはよう誇銅」

 

 教室に着いて一誠とアーシアさんとゼノヴィアさんが僕にすぐに気づいた。だけど人ごみが多くて一誠は近寄れず僕がそれを抜け出してから挨拶。

 前の日にギャスパー君を通じて戻ると言っておいたからもうオカルト研究部の全員に伝わってるんだろうね。

 

「おはよう一誠、アーシアさん、ゼノヴィアさん」

 

 僕は他のクラスメイトと変わらず笑顔で挨拶を返す。

 別に邪険にする必要もない。嫌いってわけじゃない、ただもう仲間だとは思ってないだけ。だからクラスメイトとしてはこれからも仲良くしようと思ってる。

 

「また誇銅と一緒に学校に来れると思うと嬉しいぜ」

「あらあら、まさかアーシアやグレモリー先輩に続いて誇銅くんまで狙ってるわけ? そこまで節操なしとは思わなかったわね」

「おい、変な事言うんじゃねえよ」

「これじゃ噂の木場くんとの関係もマジもんじゃ」

「それは本当にヤメロ!」

「怖いわー。男女関係ない節操なしの野獣とかひくわー。アーシアと誇銅君に変な病気移さないでよ。二人の天使が穢れる」

「話を聞け! そしてそっちの女子は変な妄想をするな!」

 

 桐生さんが加わっていかにも学生生活のくだらなくとも素晴らしい日常が描かれる。

 てかやけにこの学校? このクラスだけ? の女子たちはBLによく食いつく。ほら、今も向こうで。

 

「木場くん×誇銅くんが最高だったのに兵藤が加わるとかありえない!」

「いや、逆に考えるのよ、兵藤が入ってもいいさと」

「兵藤が節操なしに二人を襲い……イケる! そのシュチュなら私はいける!」

「でも私は兵藤なんかより国木田さんの方が良いかと」

 

 もうわけがわからないよ。

 

「こいつらがいたんじゃ話もまともにできやしない。また放課後部室で話そうぜ」

「……うん」

 

 思わず拒否したくなるような事を言われて反射的に断りそうになったけど何とか間を開けてうんと答えられた。嫌だな。

 この学生ノリも授業のチャイムと共に終わりを告げた。

 授業は結構忘れてる事が多くてかなり手間取っちゃったよ。家に帰ったら復習しておかないとね。

 そしてあっという間に放課後に。

 

「さて、ついにか」

 

 一番来たくなかった場所。旧校舎のオカルト研究部の部室。

 一誠には後で行くと言って先に行ってもらった。だから一人で来て今ドアの前で立っている。

 

「じゃあ覚悟決めますか」

 

 そしてついにオカルト研究部のドアを開けた。

 ドアを開けて目に入るのは眷属の全員とアザゼル総督。なんでアザゼル総督まで?

 

「久しぶり誇銅君。無事で何よりだよ」

「……誇銅先輩おかえりなさい」

「おかえりなさい誇銅さん」

「もう一度言おう、おかえり誇銅」

「お帰りなさい誇銅くん」

「お帰りさない誇銅先輩」

 

 木場さん、搭城さん、アーシアさん、ゼノヴィアさん、朱乃さん、ギャスパーくんからおかえりの言葉が僕に向けられる。

 

「お帰りなさい誇銅。よく帰ってきたわ」

「俺からも改めて言わせてもらうぜ。おかえり誇銅」

 

 そして最後にリアスさんと一誠からのおかえり。

 みんな笑顔で僕の帰りを喜んでくれている。

 

「うん、ただいま」

 

 本当にそんな事を思ってるかどうか知らないけどね。

 

「早速だけれど本題に入らせてもらうわ。

 誇銅なぜ生きているの?

 別に死んでいてほしかったとかそういう意味ではないの。ただあの爆発の後には何ものこってなかった。それにあなたの腕もあの爆発で私たちのところへ飛んできた。なのにあなたの腕は今そこについている」

 

 リアスさんが聞きたいこともわかる。確かにあの爆発で僕は死んだし右腕も吹き飛んだ。

 僕がこうして五体満足で帰ってこれたかは疑問に思うだろう。

 しかし本当の事を言っても信じてもらえるかどうか。

 

「わかりません」

「わからない?」

「爆死した記憶はあるんですよ。だけど気づいたら戻ってきたっていうか」

 

 だから僕は嘘をついた。元から話すつもりもなかったしね。

 もし正直に話せば必ず日本勢力に迷惑をかける。だけど話せば僕の有用性を示して認めてもらえるかもしれない。

 日本と悪魔どちらが大切かと聞かれれば当然日本と答える。それほど僕は日本に恩を受け悪魔からは知り得る限り一切恩を受けてない。

 

「俺も直接見たわけじゃねえがあの爆発は決して小規模なんかじゃなかった。それをこうして生還させるなんてな」

 

 アザゼル総督が何か悩んでいる。

 なんだか知らないけど嫌な予感がする。するとアザゼル総督は何か思いついたように僕の方に近づいてくる。

 

「なあ、ちょっと神器を見せてくれ」

「はい?」

 

 僕はアザゼル総督に言われた通り禁手していない破滅の蠱毒(バグズ・ラック)を発動して見せた。

 右は白く左は黒く光り、そこには右は黒左は白い刺青が浮かび上がる。やっぱり他と比べてぱっとしないどころの威力じゃないし、見た目もただのイタい刺青みたいだよ。

 だけどこの神器は総督自身が神の失敗作だと断言したのに一体今更なぜ?

 総督はしばらくじーと見て僕の方へ目線を映す。

 

「これで全開か?」

「……ええ、僕の神器ではこれが限界ですが?」

「そうか。もういいぞ」

 

 アザゼル総督がもういいと言ったので神器を解除。

 びっくりした。もしかして見破られたのかと思ったよ、“僕の禁手化(バランスブレイク)を”。

 それでもアザゼル総督は何かすごい考え込んでいる表情をする。

 

「アザゼル先生、どうしたんですか」

「いや、なあ、ちょっとな」

 

 一誠が聞いても特に返事なし。アザゼル総督が悩んでいるせいかまわりもシーンとなる。

 確かにあの雰囲気はなんだか静かにしないといけない空気を醸し出してるよね。

 リアスさんからの質問も他にこれといってない。

 

「あの、もう用がなければ失礼してもいいですか。長い期間家を空けていたので掃除とか冷蔵庫の中とかが。

 後電気ガスとかの料金の支払いとかも残ってて」

「ん、ああもういいわ。ありがとう。

 あなたが戻ってきたことは本当に喜ばしいことよ」

「ありがとうございます」

 

 僕はそっと部室を後にした。

 みんなにおかえりと言われた時にも思った。ここには僕が求める、いや、僕に向けられる僕が求める温かさはない。

 

「ところで本当になんでアザゼル総督がここに?」

 

 これはまた明日以降ギャスパーくんにでも聞いてみるか。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 やっぱりあの場所に僕の居場所はない。

 なんていうかみんなが僕に向ける意識が仲間に向ける意識よりワンランク低い。

 アニメなどで例えるとみんなは主要人物の正義の味方、そして今まで戦ってきた相手はもちろん悪役。そして僕に向けられる意識はその戦いに巻き込まれるモブ。

 七災怪の皆さんとの稽古や手合せで仲間としての視線や意識を知ってしまった僕にはどうしてもそうとしか思えない。

 

「まっわかっていたけどね」

 

 だから今更失望とかはしない。

 ただ僕はそうだと言える証拠が出るのを待っている。

 今出ていくと言っても理由にはなるだろうけど、止めるならやっぱりあとくされなくしっかりとした証拠がほしい。そうしなければやめる事も受理されずさらに立場が悪くなるだろうし。

 

「やあ、君が日鳥誇銅で間違いか?」

 

 オカルト研究部の部室から出て帰ろうと旧校舎を出たあたりを歩いていると声をかけられた。

 

「はいそうですけど……」

 

 一般高校生と比べてもかなりの高身長でがたいもいい。顔も木場さんとはまた違ったタイプのイケメン。

 これならうちの女子生徒ならかなりモテるハズ。そうなれば自然と一誠も妬み僕にも情報が来るはず。

 だけど僕はこの人を知らない。なぜ?

 

「そう警戒しないでくれ。俺は国木田宗也。野球部のキャプテンをやらせてもらってる。

 ちなみに悪鬼という日本妖怪だ」

 

 日本妖怪!? なぜ駒王学園に日本妖怪が? 僕を知っているということは恐らく悪魔側の人物ではないだろう。

 だけどここにいるということは少なくとも悪魔関係ではある。だけど天照様の悪魔の話をする時の態度から悪魔に属している日本妖怪に僕の情報を流すとは考えられない。

 逆に悪魔に染まっているなら僕に正体を明かす理由もわからない。

 もしかして僕が何か歴史に干渉して現代が少し変わってしまったのだろうか?

 

「君の話は七災怪の一人から聞いている。一応ここではソーナ・シトリー眷属の元人間ってことになっている。悪魔にはなってないけどな」

 

 悪魔じゃない? でも国木田さんから漂う気配は日本妖怪ではなく悪魔そのもの。

 日本妖怪の中でとても濃い二年間を過ごした僕にはわかる。妖怪は妖力、僕たちがいう魔力と少し違うだからこれは間違いなく妖怪の気配ではなく悪魔の気配だと断言できる。

 役割は同じらしいんだけどね。まあ水の軟水と硬水みたいな違いかな?

 だから国木田さんの言動と気配の不一致に疑問を持った。

 

「でも国木田さんの気配は」

「まあ君にだったらいいか。一応言っておくが悪魔とかには秘密だぞ」

 

 そういうと国木田さんは国木田さんに似た小さな人形を見せてくれた。

 デフォルトされてポケットに入るくらいの小ささでちょこっと変えれば300円くらいで店に売ってそう。

 だけどそこから漂う気配は国木田さんそのもの。一体どうして?

 

「これには俺の一部、髪の毛と悪魔の駒が入っている。この呪い人形で自分の気配を悪魔と偽っているんだ」

「そうだったんですか。そんな便利なものが」

「中には普通に悪魔に寝返った妖怪もいるけどな。でも俺は悪魔になるなんてまっぴらだ」

「なら国木田さんはなぜここに?」

「詳しくは言えないがいうなれば監視ってとこかな。まあ厳密には違うけど」

 

 なんだか秘密事項っぽいからもうこれ以上聞かないよ。

 だけどなんだか安心するな、この学校に悪魔を知っていながら三大勢力の傘下に入ってない人外がいるってのは。

 確か天照様も悪魔に迷惑を受けてる妖怪がたくさんいるって言ってたっけ。そうなれば妖怪が悪魔に対して悪いイメージを持っているのは当然だよね。

 

「ところで僕に何の御用ですか?」

「いや、これと言って用事はない。昨日君がこの学校に来ると聞いて接触しておくように言われただけだ」

 

 日本勢力はここまで僕のサポートをしてくれるのか。次会った時この事もお礼を言わないとね。

 

「じゃあソーナさんも日本勢力と関わりが?」

「ああ、悪魔側には内緒だけどな。絶対に秘密だぞ?」

 

 絶対に言いませんから安心してください。

 でもまさかソーナさんも日本勢力と関わりがあったなんて。

 でも国木田さんが昔はいなかったって事は歴史が変わって日本勢力と関わったってことなのかな? その辺はもうちょっと探って考えてみないとわからなそうだね。

 

「君の事をソーナたちに紹介してもいいんだけど、まだ完全には認めきってないからまた今度にしておこう」

「ちなみにソーナさんとはいつくらいに日本勢力と関わりを?」

「う~ん俺も途中からで正確にはしらないが5年程前だっけか。俺がソーナ眷属に加わったのは3年前だけどな」

 

 そんなに前から。やっぱり歴史が変わったんだろうね。

 まあ元からだとしても前の僕じゃ絶対に気づけないだろけど。

 それにしてもソーナさんがまさか日本勢力とね。一体どういう理由で日本勢力との関係を持ったのだろう。日本は悪魔に迷惑を被ってるから種族的な付き合いは薄いかな。だとしたら個人的な何かだろうね。

 また機会があれば藻女さんにでも聞いてみようかな。

 

「別にソーナだけなら別に信用していいんだが、今は新人がいるからそっちが馴染んで信用できると確信できるまでソーナたちにも内緒だぞ」

「はい、わかりました」

 

 新人とは匙さんのことかな? 確か前に新たに眷属になったとソーナさんが紹介しに来てたしね。

 だけどもしかしたらそこも変わったのかな? まあその辺は今はどうでもいいや。

 本当に二年間の空白もそうだけど変わってしまったことばかりで頭の整理が追いつかないよ。

 

「ところで君も結構武術ができると聞いたんだが?」

「まあ、柔術を少々」

「そうか、俺の場合柔より剛だけど最近は純粋に武術を競える相手がいないんだ。特にこうして悪魔のとこにいるとな。だからたまに手合せ願いたい。いいかな?」

「はい、構いません。僕で良ければお相手します」

「それはよかった。これからよろしく頼むよ」

 

 僕は悪鬼の国木田さんと握手を交わす。

 力強いよい感触がした。きっと順当に長い時間をかけられて作られた力と体なんだろうな。

 思わず仕掛けてみたくなる気持ちをぐっと抑えて手を離す。

 

「ところで国木田さんは時代でいうとどのあたりの妖怪なんですか?」

「ん、俺の全盛期って事でいいのか? 平安時代後期~末期だ。だからだいたい1007年前だな」

 

 と、いうことは……僕がいなくなった後の時代に生まれた妖怪ってことか。じゃあ僕は全くわからないや。

 天照様は戦う必要がなくなって妖怪が弱くなったと言っていた。なら国木田さんの時代ならばモロ戦いの時代だから相当強いだろうね。

 勝手な憶測でしかないけど握手の感覚から弱くはないだろう。

 

「ところで話は変わるけど」

「オリャ!」

 

 話の途中で匙さんが国木田さんを後ろから襲い掛かった。殺気の有無からして殺す気ではないだろうけどなんで?

 だけど匙さんが触れると国木田さんは着ていた野球服だけを残して黒い煙となって消えてしまった。

 

「話してる途中に来るなんてせっかちさんだな」

 

 すると匙さんの後ろに黒の女性用の下着をつけた国木田さんが。

 え、女性用下着? だけどその目は全く羞恥を感じさせず立ち振る舞いも堂々としてる。まるで褌一丁の海の男みたいに。何言ってんだ僕は?

 そして匙さんが僕の存在に今気づいたようで僕と目線が合う。たぶん国木田さんで僕の姿が見えなかったんだろうね。僕背が低いし国木田さんは背が高いし。

 

「…………」

「さあ、レッスンの途中だぜ。俺のブラジャーを奪い取ってみせるんだろ? ただし、俺を変身させたからにはケツを捨てる気で来るんだな」

「え、ああ、あの、誇銅、これは違うからな! 違うんだ―――――――――――――――――!!」

 

 匙さんは何か叫びながら一目散にこの場を逃げ出した。いや、わけがわからないんですけど。

 そしてこの場には女性用の上下をフル装備した変態(国木田)さんと僕が残された。

 え、国木田さんってこっち(同性愛者)の人なの?

 

「まったく、出血大サービスなのに。じゃあ、俺は野球の練習に戻るから。悪魔や堕天使に気を付けて帰るんだぞ~」

 

 国木田さんはそういうと脱ぎ捨てた野球服を着なおしてしれっとグランドの方へ歩いて行った。

 ちょっと前まで変わってしまったことばかりで頭を悩ませていたのにすべてが一気にどうでもよくなってしまう衝撃。

 

「ん~国木田さんは土だと思ったんだけどあれは陰だね」

 

 家に帰ったら悪鬼についてちょっと調べてみるか。

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 誇銅が去った後オカルト研究部内でアザゼルはまだ難しい顔をしていた。

 あたりはずっと静か。だけどいつまで理由もわからず沈黙し続けるのはつらい。

 

「アザゼル総督、一体さっきから何を悩んでいるんですか」

「……そんなはずは。いや、もしかしたら」

 

 木場が問いかけてもまだ難しい顔で悩んでいたがそれからしばらくして考えるのを止めリアスたちの方へ向く。

 

「もしかしたら誇銅は破滅の蠱毒(バグズ・ラック)の禁手に至ってるのかもしれねえ」

『『!!』』

 

 先程まで無音だった部室内にその言葉を聞いて部室内は驚きの声で満たされる。

 特に反応を示したのはリアス・グレモリー。その表情にはただの驚きの他に他のメンバーとは違う何かが含まれている。

 

「でも、誇銅はそんな事を一言も言ってないし、そもそも破滅の蠱毒(バグズ・ラック)は禁手しない事で最下位の神器のハズじゃ」

 

 一誠は昔聞いた誇銅の神器についての事を言った。

 確かに神器に一番詳しいアザゼル本人が言ったことである。それもその時アザゼルは所有者を徹底的にサポートしてまで検証して禁手にはならないと理由まで伝えて。

 

「だから俺も悩んでるんだ。なんせあれだけいろいろ手を尽くしても禁手の兆候すらみせなかった神器。だけどもしかしたら自分でも気づかず覚醒してそのおかげで誇銅は生きて帰ってこれたのかもしれないって考えてたんだ」

 

 今まで最下位の神器を持つ誇銅は一番弱いとリアス眷属内で暗黙で格付けられていた。

 身体能力では一誠やアーシアとさらに下はいるが、一誠は神滅具持ちに禁手に至っている。アーシアは貴重な回復要因。

 他の眷属も元々強い神器持ちに聖剣持ちに元猫ショウにハーフヴァンパイア。ただの元人間の転生悪魔、さらにガラクタ同然の神器しか持たない誇銅はあまりにも価値がなさすぎる。

 唯一一人前の根性と忠誠心は少しでも価値があって初めて評価される部分。そもそもリアス以外にも殆どの悪魔にとってそれらは始めからあって当然とされるもの。

 

「だけど禁手というのは元々の神器が強くなるのだろう。誇銅の微弱すぎる力が強化されたところでそこまで強くなるとは思えんのだが」

 

 ゼノヴィアが神器に対する大雑把な知識から大雑把な予想を言う。

 その考えに一誠はなるほどといった表情を見せるが。

 

「実はな破滅の蠱毒(バグズ・ラック)には解除方法がないんだ」

「解除法がない?」

破滅の蠱毒(バグズ・ラック)は触った箇所を黒い破壊が芯まで全体に広がる。そしてすべて覆い尽くしたところで対象を確実に破壊する。それまでの破壊活動はとても微々たるもの。だが例え所有者が死んでも能力は解除されない。対象が消滅するまで永遠と壊し続ける。それでも人間に使ったとしても毒が生命を破壊する前に寿命が先にきちまう。天使や悪魔を殺そうとするとしても同じく寿命の方が先に来るほどにな。だけど実際に大昔の所有者が触ったものは今でもゆっくりとだが破壊の黒が覆い尽くそうとしている」

 

 既に誇銅には希少性はないと断定していた。しかしその評価すら覆すかもしれない評価がアザゼルから降されようとしている。

 

「それじゃ誇銅の神器は」

「解除できないというのはとんでもない力が働いてる証拠だ。おそらく邪悪とも呼べる力が。

 その邪悪さは邪龍並み、もしくはそれ以上の呪いを与える力となるだろうな」

 

 アザゼルの言葉で誇銅への意識はほんの少しだけ高まった。

 しかしその程度高まったところで誇銅の仲間意識は遥か遠くへ行ってしまっている。

 だけどこの場の一人を除いてそんなことを知る由もない。

 

「仮に目覚めている、もしくは目覚めかけているのならこちらからサポートをする必要がありますね。そこまで強い邪気ならば誇銅くんの周りだけでなく、誇銅くん自身にも害を及ぼす恐れが」

「それじゃ早く助けてやらないと」

「まあ待て、別にすぐに暴走するわけじゃねえ。さっきはああして普通に神器を発動できてた。神器にも特に異常な変化も気配もなかったって事は安定している証拠だ」

 

 一誠が暴走しそうなところをアザゼルが丁寧に理由を説明しなだめる。

 それを聞いて一誠も一安心。とりあえず最悪な展開は起こらない。

 だけどそれは問題が解決したことには一切ならない。そういう事態はのちのとかなりの高確率で起こるかも知れない出来事。

 もしも誇銅が本当に禁手を扱えなければの話だが。

 

「現時点で可能性は四つ。禁手の鱗片に気付いていない。そもそも神器は関係ない別の何かの力。禁手に至っていても使いこなせていない」

 

 アザゼルは指を一本ずつおって可能性を提示していく。

 現在三つの可能性を聞いてリアスたちはうんうんとうなずくだけ。ただ一人を除いて。

 

「そして最後に、あえて隠してる可能性だ。ぶっちゃけこれが俺的に一番怪しい」

「あえて隠してるですって」

 

 もしもこの場に誇銅がいればその言葉に思わずドキっとしただろう。幸いこの場から既に逃げ出すことに成功していたためそんな不測の事態には陥らなかった。

 だけどこの場に一人だけその言葉に動揺を見せた悪魔が一人。

 

「そんなわけないじゃないですか。なんでわざわざ俺たちに隠すんですか」

「そんなの俺が知るわけねえだろ。ただ俺が神器を見せろと言った時あいつは一瞬だが躊躇した。だから何となく怪しいと思っただけだ」

「もしかしてギャスパーくんと同じように力のコントロールができないからとか?」

「誇銅の性格ならありえます」

 

 ギャスパーは内心ドキドキしている。なぜならこの場で、悪魔でただ一人誇銅が禁手に至った事を知る人物だから。

 誇銅はギャスパーだけは信用しその信用の証に日本勢力との関わりは未だ教えられない代わりに自身の神器の事を教えた。

 誇銅はリアスたちに自身の力を教えたくも使われたくもないから秘密にしてほしいと付け加え。ギャスパー自身もその願いに頭を縦に振った。

 

「まったく誇銅のやつ。昔っからそういうとこがありましたからね」

 

 自分で全部背負いこむなんて水臭い奴だと一誠は思う。それは全くの的外れな考えとも知らずに。

 禁手に至った誇銅はその能力をきちんと使いこなせている。

 だからあの土壇場でも禁手の発動前の状態を覚醒を気取られる事無く発動して見せた。

 それでも若干の思考のラグや推測と様子で微妙に見抜かれてしまったが。

 

「もしそうだとしたら祐斗、イッセー誇銅の手助けをしてあげて頂戴。特にイッセーは誇銅と同期だし禁手の先輩として指導を頼むわ」

「わかりました!」

「できれば俺も見てみたい。あの手を尽くしても何の兆候を見せなかった神器の覚醒するのを」

 

 誇銅にとってはありがた迷惑な話。それでも勝手に禁手が目覚めかけているという話でどんどん進んでいる。

 ギャスパーは何とかこの状況を止めたいと思うがやれることは何もない。もしも何か言えば自分がボロを出してしまう可能性が圧倒的に高い。

 あれだけの事をして今現在眷属に誘ったあの日のように誇銅に期待するリアス。誇銅の心が遠くに離れてる事も知らず。

 

「まあ実際どの程度覚醒が近づいてるはわからん。とりあえず今は様子を見て日々の特訓しかねえな」

 

 少なくともこの二年間誇銅は毎日の日々を武道に捧げてきた。

 それは悪魔になる前の木場やエクソシスト時代のゼノヴィアもそうだろう。だがその質量は圧倒的に違う。

 二人の特訓にも命の危険はあり決してぬるくはないだろうが、現代になるにつれて欠落していった技の数々。剣術は程ほどに強力な武器に頼る風潮。それらが稽古の質を下げ純度を低くする。

 

 一方誇銅は大した武器もなく力の差が激しい時代での特訓。

 磨くは自分の体、頼る武器は自分の四肢。強力な武器を持つ手練れを殺されずに殺す技の数々。それは現代では決して得られない質と純度。

 残念ながら今の日本では三大勢力などに寝返ったり裏切りとも取れる行為を行い技を受け継ぐ意思があるかどうか以前に受け継ぐ資格がないものも多数存在し廃れている。

 それは神々の加護も武道以外の術もまた然り。

 それを知らず昔のビッグネームを掲げて祀るものも護るものも受け継ぐものもなく日本の伝統を掲げ劣化させるものまでいる。

 まあそれは本物の日本勢力は何の影響も受けないため本物が廃れる事は一切ない。だが偽物が増えるためいつかは一掃したいと思っている。

 

 はっきり言って昔はともかく人外になって人間の限界を超えたにも関わらず人間程度の鍛え方しかしないのでは意味がない。

 ならばどうするか。

 人間ではできない鍛えたかをするか、人間でも身一つで戦える技を学ぶしかない。

 昔の日本では後者が圧倒的に栄えた。

 その中の達人の一人から二年間も手ほどきを受けたのが今の誇銅。

 

「誇銅だって部長の力になりたいって言ってましたから」

「それは頼もしいわね」

 

 それは既に昔の話。

 今の誇銅にはそんな感情は欠片があるかどうか。


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