無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 誇銅としてやりたい事は全開までで殆ど終わらせたので、今回は締めと消化です。


勝敗な個々の終着

 揺れ動く心で迫られた選択。心のなかで自問自答を繰り返す。数秒後、サイラオーグが出した答えは―――。

 フェニックスの涙を取り出し、自分に使用した。しかし小瓶の中にフェニックスの涙はまだ半分ほど残っている。サイラオーグは残りの半分を一誠に投げ渡した。

 一誠は戸惑いながらも小瓶を受け取る。

 

「確かに俺は王として選択を誤った。しかし、今では誰もがこれを望んでいる。これでなければ誰もが、俺達も納得はできない。―――もう、誰も引き返せない……ッ!」

 

 サイラオーグは迷いを断ち切り宣言。それを聞いて『兵士(ポーン)』は黙り込んだまま。

 

「馬鹿な選択かもしれません。それでも、ここまで来たからには引き返せません。どうか認めてください」

 

 サイラオーグは『兵士(ポーン)』に強い意志を込めて言った。

 

『……私は何も口出しせぬと言ったはずだ』

 

 それだけ言って目を閉じる。そして再び開けると……。

 

『サイラオーグさま、一体何が……? 何故か突然意識を失って記憶が……』

 

 『兵士(ポーン)』はレグルスへと戻っていた。

 

「そんなことはどうでもいい! それよりももう一度だッ!」

『ハ、ハッ!』

 

 サイラオーグの叫びに応え、獅子が再び全身を金色に輝かせ、光の奔流と化してサイラオーグに向かう。

 まばゆい閃光と神々しさでサイラオーグの禁手(バランス・ブレイカー)が再構成される。

 

「使え、兵藤一誠! 仕切り直しだ!」

 

 最初こそ戸惑った一誠だったが、サイラオーグの意に同調し自らにフェニックスの涙を使用した。

 サイラオーグの禁手が再構成され、お互いの体力が少しばかり回復し、激しい殴り合いが再開された。

 フェニックスの涙で多少なりとも回復したとて、それまでの積み重ねたダメージは膨大であり、半分に分けたフェニックスの涙では回復しきれない。

 全力の殴り合いにお互いの限界はすぐに来た。

 

 ドゴンッ!

 

 鎧を維持するのも限界になったところで、一誠の拳がサイラオーグに届く。芯に響く程の一撃。

 サイラオーグはふらつき、ぐらぐらと体を揺らすも倒れない。

 一誠も鎧を維持する力をついに失い禁手(バランス・ブレイカー)が解かれた。

 それでもと一誠はふらつきながらも生身で向かっていく。

 生身の拳でサイラオーグに立ち向かおうとすると―――。

 

『赤龍帝……もういい……』

 

 サイラオーグの鎧の胸部にある獅子が声を発する。

 

『……我が主は……サイラオーグ様は……』

 

 獅子は目の部分から涙を溢れさせる。

 

「サイラオーグさん……?」

 

 一誠は不審に思いサイラオーグへ視線を移すと、サイラオーグは拳を突き出し、一誠に向かおうとしたまま意識を失っていた、笑ったままの表情で。

 意識を失っても瞳は戦意に満ちており、ギラギラしたものを浮かべていた。

 

『……サイラオーグ様は……少し前から意識を失っていた……。それでも……嬉しそうに……ただ嬉しそうに……向かっていった……。……ただ、真っ直ぐに……あなたとの夢を賭けた戦いを真に楽しんで……』

 

 ライオンは慟哭(どうこく)した。

 意識を失っても……意地だけで……母の叱咤、師父(しふ)の説教……それを糧に前に……。胸を張って夢を叶えるために……。

 一誠は無意識のまま深く頭を下げていた。そしてそのボロボロの体を抱きしめる。

 一誠は震える声で叫んだ。

 

「……ありがとう……、ありがとうございましたぁぁあッッ!」

 

『サイラオーグ・バアル選手、投了。リタイヤです。ゲーム終了、リアス・グレモリーチームの勝利です!』

 

 最後のアナウンスがされ、会場が熱気に包まれた。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 試合終了後、記者の前に姿を表した皇帝(エンペラー)ディハウザー・ベリアルはこうインタビューに答えた。

 

「いい試合でした。両眷属ともプロになればすぐに上位陣に食い込んでくるでしょう。新しい時代の到来を感じました」

「あの試合の最終局面でサイラオーグ・バアルが眷属の『兵士(ポーン)』にリアス・グレモリーの撃破(テイク)を命じればサイラオーグ・バアルの勝利だったのではないでしょうか?」

 

 皇帝は熱を帯びた声音で答えた。

 

「あの場面、この会場で、そんな選択があるのでしょうか。誰もが望んだのは紅い天龍と滅びを持たない大王の一戦です。そんなことは子供でもわかることでしょう。―――あれでなければ誰もが納得できなかった。あれ以外の何があるというのですか?」

 

 記者の誰もがその答えに黙り込んだ。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「……ここは?」

 

 目が覚めると見知らぬ天井。一誠は周囲を見渡し、自分が包帯姿で個室のベッドにいる事を理解する。

 怪我はトリアイナ『女王(クイーン)』の覚醒でともかく、体力の消耗は膨大で微塵も力が入らない。

 

「起きたか」

 

 聞き覚えのある声に隣を見てみると、包帯姿のサイラオーグがそこに。

 

「サイラオーグさん……。と、隣のベッドだったんですね」

「偶然にもな。病室なら余っているだろうに。サーゼクス様かアザゼル総督か、体力が回復するまでの話し相手としてマッチングしてくれたのかもしれないな」

「ははは、流石にベッドでまで戦いたくありませんよ……」

「……負けたか」

 

 穏やかな表情でつぶやく。

 

「……悪くない。こんなにも充実した負けは初めてかもしれないな。だが、最後の一瞬はよく覚えていない。気付いたらここだった」

「俺も……正直、記憶が飛び飛びで」

「一つだけハッキリしている。―――とても最高の殴り合いだった」

「俺もボコボコになって、ボコボコにしてやって、変に気分が良いです」

 

 お互いに包帯姿で笑みを見せていると、サーゼクスが入室して来る。

 

「失礼するよ」

「サーゼクス様」

「やあ、イッセーくん、サイラオーグ。本当に良い試合だった。私もそう強く思うし、上役も全員満足していたよ。将来が実に楽しみになる一戦だった」

 

 サーゼクスが二人に激励を送った後、近くの椅子に腰を下ろす。

 

「さて、イッセーくんにお話があるんだ。サイラオーグ、暫し彼と話して良いだろうか?」

 

「俺は構いません。……席を外しましょうか?」

「いや、構わないよ。キミもそこで聞いておいて損は無いかもしれない」

 

 サーゼクスは真面目な顔で話を始めた。

 

「イッセーくん、キミ達に昇格の話があるのだよ」

 

 一誠は今言われた言葉の意味が理解出来なかった。サーゼクスは話を続ける

 

「正確に言うとキミと木場くんと朱乃くんだが。ここまでキミ達はテロリストの攻撃を防いでくれた。三大勢力の会談テロ、旧魔王派のテロ、神のロキですら退けた。そして先の京都での一件と今回の見事な試合で完全に決定がされた。―――近い内にキミ達三人は階級が上がるだろう。おめでとう。これは異例であり、昨今では稀まれな昇格だ」

 

 サーゼクスは笑顔でそう言った。

 

「へ……? お、俺が昇格⁉ え⁉ プロモーションとかじゃなくてですか⁉」

 

 一誠の問いにサーゼクスが笑む。

 

「それだけの事をキミ達は示してくれた。まだ足りない部分もあるが、将来を見込んだ上でと言う事だよ」

 

 いまだ事の成り行きを受け止めきれていない一誠にサイラオーグが言う。

 

「受けろ、兵藤一誠。お前はそれだけの事をやって来たのだ。出自など関係無い。お前は―――冥界の英雄になるべき男だ」

「そ、そんな事を言われても俺は……」

 

 混乱する一誠を見て、サーゼクスも苦笑する。

 

「うむ。詳細は今後改めて通知しよう。キチンとした儀礼を済まして昇格といきたいのでね。会場の設置や承認すべき事柄もこれから決めていかないといけないのだよ。では、これで失礼する」

 

 それだけ言い残してサーゼクスは退室する。

 残された一誠とサーゼクス。突然の昇格の話で混乱する一斉にサーゼクスが言う。

 

「昇格もいいが、それよりも今はリアスのことだ。おまえは、好きなのだろう? リアスのことが」

「えっと……はい。大好きです」

「なら、もう一度想いを伝えてみたらどうだ? 今度は真っ正面で二人きりでだ。―――あれだけの大衆の前で惚れた女と叫んだのだ、今更だろう」

 

 会場ではノリと勢いで言えたが、二人きりと考え再び尻すぼみする一誠。

 一誠はおそるおそる口にする。

 

「……俺……俺、自信持っていいんですよね?」

「ダメならダメで俺のところへ来い。慰めのコーヒーぐらいは出して話を聞いてやる」

「……サイラオーグさん、ありがとうございます。俺……俺!」

 

 サイラオーグの気遣いに涙する一誠。今度、改めてお茶を飲みたいと思った。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 ゲームの解説が終わった後、俺―――アザゼルは要人用の観戦室の方に足を向けていた。

 ゲーム中、解説をしていたために席を外せなかったが、配下からの連絡で「例の者」が要人用の観戦室に姿を表したと一報を受けていた。

 要人用の観戦室は個室となっていて、いつくもドーム会場内に用意されており、今回はそれがフルにりようされたようだ。オーディンのじいさんは「ヴァルハラ」専用に、ゼウスやポセイドンなどは「オリンポス」専用のそれぞれの観戦室に護衛をつけて入室しているはずだ。

 その要人用の一部屋に俺は歩みを進めていた。

 ―――と、俺がお邪魔する予定だった部屋から「例の者」が護衛と共に退出するところだった。五分刈りの頭に、丸レンズのサングラス、アロハシャツ、首には数珠という要人にあるまじきラフな格好をしている「礼の者」。……まあ、俺も言える立場じゃないか。

 俺は「例の者」―――帝釈天に話しかけた。

 

「これは帝釈天殿、ゲームはいかがでしたかな?」

「HAHAHA! ンだよ、正義の堕天使兄さん! 俺様でよかったらなんぼでも答えてやンぜ?」

「……神滅具(ロンギヌス)所有者のことを、曹操のことを俺たちよりも先に知っていたな?」

 

 帝釈天の配下でもある初代孫悟空が、曹操を知っていたと俺はイッセーから報告を受けていた。そう、こいつは―――曹操を幼いころから知っていた。最強の聖槍を持つ、あの男と接触を持っていた。―――俺達が知らないところで。

 帝釈天は意味深に口の端を愉快そうに笑ました。

 

「だとしたら、どうすンよ? 俺様があいつをガキんちょの頃から知っていたとして何が不満だ? 報告しなかったこと? それとも……通じていたことか?」

 

 ……言ってくれやがるぜ、この野郎……ッ! 自分からバラしやがった……ッ!

 

「インドラ……ッ!」

「HAHAHA! そっちの名で呼ぶなんて粋なことしてくれるじゃねぇか。そんな怖い顔すンなや、アザ坊。ンなことでキレんなら、冥府の神ハーデスのやってることなんざ、勢力図を塗り替えるレベルだぜ?」

 

 ハーデスのことも知ってるのか……。こいつ、どこまで「通じて」やがる……?

 帝釈天は俺に指を突きつけてくる。

 

「ひとつ言っておくぜ、若造。どこの勢力も表面じゃ平和、和議なんてもんを謳ってやがるがな、腹の底じゃ『俺らも神話こそ最強! 他の神話なんて滅べ、クソが!』って思ってンよ。オーディンのクソジジイやゼウスのクソオヤジが例外的に甘々なだけだ。何せ、信じる神が少なきゃ、人間どもの意志を統一できて万々歳だからな! 異教徒なんてクソ食らえが基本だぜ? だいたい、てめえらの神話に攻め込まれて信者を持って行かれて民間の伝説レベルにまで信仰を落とした神々がどれくらいいると思う? 各種神話でも見直せや。―――神ってのは人間以上に恨み辛みに正直なもンだぜ?」

 

 ……それはわかってんだよ。どこの神話の神々も建前で協力体制を呑んでも、腹の中じゃ何を考えているかわからない。いや、おそらくは隙あらばなんてことを思っていて当然だろう。それでも、その建前が大事な時期なんだよ!

 勢力図が変われば、人間界は簡単に滅ぶんだ……!

 

「ま、表向きのことは協力してやンよ。確かにオーフィスたちは邪魔だからな」

 

 オーフィス“たち”か。なあ、帝釈天、そこに曹操たちは入るのか……?

 

「それと、あの乳龍帝に言っておいてくれ。最高だったぜってな。もし、世界の脅威になったら、俺が魂ごと消滅させてやるってよ。『天』を称するのは俺達だけで十分だ」

 

 それだけ言い残し、去っていく帝釈天。まだこの世界は揺れそうだ。

 オーフィス、おまえが与えた黒い蛇は力を集め、力を高め、力を酔わせて、世界の脅威となっている。おまえの夢は……世界を混沌にしていく。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 僕にとってグレモリー眷属での最後のレーティングゲームが終わり、当初の約束通り僕は正式にレイヴェル・フェニックスの眷属となった。

 やっぱり同じ上級悪魔同士の取引なだけにリアスさんも簡単には反故できないらしい。こちらには一切の落ち度はないし、ライザーさんの時のような大義名分もまるでないからね。

 実力を示す前にマスコミに明かした楔も役に立ったのかもしれない。

 まあ仮にリアスさんの立場の方が高く反故にされた時は、『約束通りあれがグレモリー眷属で振るう最後の本気だから二度とグレモリー眷属の為にあの力は使わない』と、条件を突きつけるつもりだったけどね。

 レイヴェルさんはある意味それ以上に厳しい条件を飲んでまで僕を必要としてくれた。ならリアスさんも僕を必要とするならそれぐらいの条件は飲んでもらわないとね。

 結果としてその備えは無駄になった。非常時の用意なんて無駄になるに越したことはない。

 

 

 そして駒王学園の学園祭当日―――。

 

「一列になってお並びくださーい!」

 

 ウエイトレス姿の格好のアーシアさんが、廊下に並ぶ生徒たちを整列させていた。喫茶店のため並ぶ長蛇の列。

 

「はーい、こちらは占いの館とお祓いコーナーですよー。塔城小猫ちゃんと姫島朱乃先輩が占いとお祓いをしてくれまーす」

 

 イリナさんがウエイトレスの傍らに各コーナーの呼び子をしている。

 旧校舎を丸ごと使ったオカルト研究部の出し物は大盛況! 男子も女子も、一般の来場者さんもたくさん来ている。

 

「はい、チーズ」

 

 喫茶店で写真を撮っているのはウエイトレス姿のリアスさん。

 部員と写真を取れるシステムを作ったら、すぐさま話題の的になり、好きな部員と一緒の写真撮影は大好評となった。僕も何度か指名されたよ。

 

「誇銅くん、これお願いしますわ」

「はーい!」

 

 僕もこの時間は喫茶店のウエイター。

 隠す必要のなくなった武術で鍛えた身体能力を使ってせっせと働く。

 注文を届けた戻りについでに空いた席の片付けも。

 

「誇銅くん! 危ないって!」

 

 そうすると高確率で心配されるんだよね。両手をフリーにするために空いた器を置いた盆を頭の上に載せてるだけなのに。まあ、わかってるんだけどね。

 この状態のまま注文を訊いたら後でいいとか言われる。

 各コーナー大盛況で皆、行ったり来たりと旧校舎を駆け回っている。少しでも手が空いたら忙しいコーナーの手伝いをするから。

 終わった後もちょっとゴタゴタがあったけど、それでも肩の荷が降りた僕はとっても身軽さ!

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「じゃあ、グレモリー側は『ダイス・フィギュア』だったんだな」

「うん、いつもみたいに駆け回ることはなかったんだけど、どこで誰を出すかが序盤問題になって。まあ、本当に最初だけで賽の出目で殆ど決まってるようなものだったけどね」

 

 休憩中に新校舎を歩きながら匙さんと話し込む。

 匙さんは生徒会の仕事として校舎の様子を見て回っている。そこで休憩中に他のクラスの店を見て回っていた僕とギャスパーくんとばったり出くわした。

 同時期にシトリー眷属もアガレス眷属と戦っていたらしい。

 

「匙さんの方はどうでした?」

「こっちは『スクランブル・フラッグ』。一言で言うと旗取り合戦だ。フェールド中を走り回るタイプのルールさ。プロ仕様でやってみて、ゲームって難しいなって思ったわ」

「でも、先生になるためには頑張らないとね」

「もちろん! ゲーム教師の道は遠いけど、それでこそ目指し甲斐があるってもんよ!」

 

 レーティングゲームの学校を建てるのがソーナさんの野望で、そこの先生になるのが匙さんの夢ですもんね。

 

「ところで勝負はどうでした?」

 

 校舎の外に出た僕たち。出店でイカ焼きを買いながら匙さんに訊いてみた。

 

「俺達の圧勝だったぜ! 旗取り合戦だから、強ければいいってわけじゃないからさ。忍術で手数の多い俺達が圧倒的に有利だった。けど、勝ちを確実なものにしようとして死体蹴りみたいになったけどな。その中でも俺の黒曜が興奮して暴走し始めた時は酷くてさ……。ただでさえ客受けが悪いのに、評価が最悪なんじゃないかって話だ……。ああ、俺、会長に迷惑かけちまったよ……」

 

 頭を抱えてその場で崩れ落ちてしまう匙さん。

 黒曜と言うのは京都で使った口寄せした猟犬の名前だったよね。かなり凶暴そうだったし、暴走すると僕も手を焼きそうだ。

 

「ところでその黒曜って一体何なのですか? なんかいくつか気配が混ざってるように感じたんですけど」

 

 京都で英雄派と戦う際に匙さんが口寄せで呼び出した猟犬の黒曜。結局のところ詳細はわかっていない。

 口寄せの術は本来妖や妖獣を呼び出すもので、黒曜からもそれに近い気配自体はあったけど……。

 

「ああ、黒曜は端的に言うと、俺の神器(セイクリッド・ギア)に封印されてるヴリトラだ。それを口寄せ契約したんだよ。幸い神器(セイクリッド・ギア)に封じられてるヴリトラは四分の一だしな。国木田先輩に手伝ってもらってなんとか契約に成功したんだ」

 

 それで僅かにドラゴンの気配を感じたのか。納得したよ。

 口寄せの原理からも何ら外れていないやり方だ。

 

「あ! そこの男子! 花壇のところに座るなって書いてあるだろう! わりぃ、誇銅!」

 

 仕事熱心な匙さんはそれだけ言い残し、規則を破った生徒のもとに行ってしまった。その熱心さは先生に向いてると僕は思うな。

 

「誇銅先輩、あっちで何かやってますよ」

 

 ギャスパーくんが僕の手を引いてそう言う。

 

「じゃあ行ってみようか」

「はい!」

 

 楽しそうな笑顔で返事をするギャスパーくん。とっても楽しそうで何よりだよ。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 俺―――兵藤一誠はなんとかチケットを売り終わり、疲れた体で部室に戻る。まだバアル戦の疲れが取れてないんだよな。

 学園祭の終盤に差し掛かり、校庭でキャンプファイヤーを焚いて、その周囲でオクラホマミキサーとなっていた。今頃、男女が楽しく踊っているに違いない!

 真『女王(クイーン)』はまだ覚醒したばかりで力の上げ幅にムラがあり、調整はこれからだってドライグが言っていたな。現時点ではトリアイナの方を使いこなせるようになったほうが真『女王(クイーン)』全体の力の底上げになるって話だ。まあ、うまく使いこなすのはこれからだ。

 そういえば、サーゼクス様やレヴィアタン様も今日来てた。顔見見せだけですぐにグレイフィアさんや会長に引きずられていったけど……。

 部室に入る俺。部室は特に会場にしなかったから、内部はそのまんまだ。

 中に誰かいる。部長の座る椅子に―――部長が座っていた。いつの間にかウェイトレス姿から制服に着替えていたようだ。

 

「イッセー……」

 

 俺を視界に捉え、そうつぶやいた。

 

「……お仕事お疲れ様」

「あ、はい」

「三年生だから、最後でしょ。だから、ちょっとここに戻りたくなって」

「な、なるほど……」

「……」

「……」

 

 無言になる俺と部長。実は、あの戦いの後、俺と部長は会話がギクシャクしてしまっていた。理由は当然―――大衆の面前で俺が告ったからだ。

 まだ返事をもらってないし、合う度にこの状態なので俺としてもたまらないものがある。

 いま思い出しても恥ずかしい! ノリと勢いとはいえ、俺もよくあんなところで好きな女だと告げたよな! あのあと、冥界の新聞には一面で報道されていたようだ。

 『おっぱいドラゴンとスイッチ姫、主従を超えた真剣恋愛か!?』って。当面は冥界に帰れそうもないって話だ。帰れば必ずあちらのマスコミに囲まれるからだ。

 サイラオーグさんの言葉が脳裏に蘇る。

 もう今更、か。勇気を持とうぜ、俺。このひとに惚れているのは本当なんだからさ!

 俺がずっと言いたかったこと。呼ぶんだ。今度こそ、必ず!

 俺は生唾を飲み込むと息を深く吸って、上ずった声音で言ってやった。

 

「……リ、リアス……」

「…………………え?」

 

 一瞬、呆然とした部長が聞き直す。だから俺はもう一度、ハッキリと伝える。

 

「……俺、リアスのことが……リアスのことを一生守っていきたいです……。俺、惚れてます! リアスのことが大好きです!」

「―――っ」

 

 言葉を詰まらせた様子の部長。次の瞬間、目から大粒のナミダをボロボロと流していく。

 青ざめる俺。部長は首を横に振って涙を拭った。

 

「………違うの。私、私……。嬉しくて―――」

 

 部長が俺の方に歩み寄り、俺の頬を撫でる。

 

「やっと、名前で呼んでくれた……。ずっと待ってた。ずっと待ってたのよ……。ううん、私、勇気がなくて、言えなくて……。もうダメかと思った……。けど、あの時貴方の想いを聞いて……本当に嬉しくて、試合中なのにどうにかなりそうだった……」

 

 それを聞いて、間の抜けた顔になる俺だが……。

 

「……そ、そう思って良いんですか?」

 

 俺の問に彼女は頷いた。

 ―――ッ! マ、マジか……! お、俺……、俺、この人と……?

 

「イッセー、私、あなたのことを愛している……。誰よりもずっと、あなたのことを―――」

 

 部長―――いや、リアスの唇が俺の唇に近づいてくる―――。

 

「リアス……」

「イッセー……」

 

 キス、しようとしたときだった。

 

 ガタッ。

 

 扉の方で音がする。

 

「ちょ、ちょっと、押さないでよ、ゼノヴィア!」

 

 イリナの声だった。

 見れば、部屋の扉から部員の面々が顔を覗かせていた―――ッ! 覗かれた!? この場面を覗かれていましたか!?

 

「お、おめでとう、イッセー、部長! これで私も気兼ねなく言い寄れるんだな!」

 

 ゼノヴィアがギクシャクしながらもそう言う。

 

「あ、あの、お二人ともおめでとうございます! わ、私もこれでお姉さまの後を追えます!」

 

 アーシアちゃんも見ていたの!?

 

「あらあら。これで『浮気』を本格的に狙えますわね」

 

 朱乃さんまで!

 

「……ここから本番だったりしますよね」

 

 小猫ちゃん、何を言っているの!?

 

「ゴメン、僕も見てた」

「感動しましたぁぁぁっ!」

 

 木場とギャー助!? ふざけんな!

 

「家庭科室をお借りして、ケーキが完成しましたわ!」

 

 と、レイヴェルと誇銅が大きなケーキを持って入室してくる。その様子から、二人だけは覗いていなかったようだ

 

「あれ、皆様、どうかなされたんですか?」

 

 レイヴェルは首を傾げ、怪訝そうに俺たちを見ていた。

 

「あー……おめでとう」

 

 この様子だと誇銅も見てなかったみたいだけど、完全に空気で全てを理解したな!

 俺の隣でリアスがぶるぶると全身を震わせていた。

 

「もう! あなたたち! 私の貴重で大切な一シーンだったのに! どうしてくれるのよ! これもイッセーのせいよ! こんなところで告白するんだもの!」

「え! 俺のせいなんですか!」

「「「「「「「「ということにしましょうか」」」」」」」」

 

 皆も同意する! ふざけんなぁぁぁぁぁっ!

 こうして、波乱に満ちた学園祭とサイラオーグさんとの戦いは幕を閉じたのだった。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「総督殿」

「よー、打撃王」

 

 アザゼルは冥界の用事ついでにシトリー領の病院に足を運んでいた。

 そこで院内の売店で花を物色しているサイラオーグと会った

  

「兵藤一誠はどうですか?」

 

 通路を歩きながら話し込むサイラオーグとアザゼル。その話題は一誠たちに移る。

 アザゼルはサイラオーグの問に豪快に笑って答えた。

 

「ああ、告ったらしいぜ? ハハハハ、学園祭以降、どっちも初々しくて見てらんねぇよ。だが、周囲の女子も黙っちゃいないだろうから、まさにこれからだな。あいつのハーレム道ってやつは」

「そうですか。それは良かった。リアスにはあの者が一番似合うでしょう」

 

 そういうサイラオーグだが、実際は人の心配をできる立場ではない。

 

「……一からか」

 

 アザゼルの問にサイラオーグが頷く。

 今回のレーティングゲームの敗北によりサイラオーグを支持していたお偉方は去ってしまい、上層部とのパイプを失ってしまった。幸いなことに大王家次期当主の座は変動はない。敗けたとは言えあれだけの実力者を、世論もあり無下にはできなかった。

 

「ええ。問題ありません。慣れていますのでね」

「うちの一誠(バカ)は心配してたけどな」

「伝えておいてください。―――直ぐに追い付くと」

 

 サイラオーグは負けたにもかかわらず、清々しさに満ちた笑顔で答える。

 アザゼルも彼なら直ぐに追い付き、再び良い試合を見せてくれるだろうと確信する。

 そこに執事らしき者が息を切らしながら姿を現した。その表情は歓喜の涙に濡れている

 

「どうした?」

「サイラオーグ様……ミスラ様が……」

 

 

 

 その病室に駆け付けてきていた医師や看護師が驚愕の表情を浮かべ、口々に「奇跡だ」「信じられない」と漏らしていた。

 ベッドを覗けば―――そこには長い眠りから目を覚ました女性が窓から風景を眺めていた。

 サイラオーグは体を震わせ、下の売店で購入した花を床に落としながらベッドに近付いていく。それに女性―――サイラオーグの母親、ミスラ・バアルも気付いた。

 

「……母上、サイラオーグです。お分かりになりますか?」

「……ええ、分かりますよ……」

 

 子の頬を撫でようとする母の手。震えるその手をサイラオーグの大きな手が取った。

 

「……私の愛しいサイラオーグ……。……夢の中で……あなたの成長をずっと見続けていたような気がします……」

 

 母親は静かに笑み、一言だけ続けた

 

「……立派になりましたね……」

「…………っ」

 

 母親のその一言を聞いたサイラオーグの目から一筋の涙が零こぼれた。

 

「……まだまだです、母上。……元気になったら、家に帰りましょう。あの家に……」




 これ以上グレモリー眷属を敗けさせると取り返しがつかなくなるので。これでグレモリー眷属は若手No.1に勝ったことで首の皮一枚繋がった。
 もうひと悶着ついでに起こそうと思いましたが、なんだか蛇足感があったのでやめました。(手の平返しの部分+邪神関係)
 主に後者はかなりガッツリとしたものなので今後改めてやります。

 次回はオリジナル回! ……を、予定していましたが、次巻が今巻の割りと直後の話しだったのでどうしようかなって。またいろいろ考えて調節します。
 ちょこっとだけ予告すると(嘘予告になる可能性アリ)
 オリジナル回ならレイヴェルの誇銅以外の今後の眷属について。
 原作沿いなら機械勢力(仮名)が出て来る予定。

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