無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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若手な悪魔の最強決定戦(下)

 第五試合を終えて、残った眷属はこちらがリアスさん、朱乃さん、アーシアさん、一誠、僕の五人。

 向こうはサイラオーグさん、『女王(クイーン)』、仮面の『兵士(ポーン)』、『騎士(ナイト)』二人に『戦車(ルーク)』の六名。

 人数差はほぼ互角。だがアーシアさんが回復専門とこちらの『(キング)』が実質出れないことを考えると、三対六で圧倒的不利。

 

『さあ、戦いも中盤(ミドルゲーム)を超えようとしているのかもしれません! サイラオーグ・バアル選手のチームは残り6名! 対するリアス・グレモリー選手は5名となっています! 前半バアルチームが押していたものの、両者残りメンバーの数はほぼ互角! このままバアルチームが差を広げるか! それともグレモリーチームの反撃なるか!』

 

 実況が会場を盛り上げる。

 

「誇銅、相手方の『兵士(ポーン)』は駒消費7だったか?」

 

 一誠が僕に確認を取るので、僕は頷く。

 

「そうだよ。駒価値で推測するなら今まで出てきたバアル眷属よりも強敵だろうね」

 

 闘気を使いこなす相手の『戦車(ルーク)』以上の強敵とかあまり想像したくはないけどね。もしそうだとしたら、おそらく一誠でも勝てない。

 そもそもそんな使い手を眷属にしているサイラオーグさんの強さも恐ろしい。もしもバッボの強さを基準に駒価値に比例した強さだとしたら……グレモリー眷属の勝利は絶望的だ。

 第五試合の賽が振られる。今度の出目の合計は6。

 こちらの残り選手で複数人は出られない。と言うかアーシアさんを除けば僕しか出られない。

 

「誇銅、わかってると思うが不意打ちは通じないぞ」

「わかってるよ」

 

 わかってるよ、僕自身が使えないって断言したんだから。一誠もそういう意味で言ったんじゃないんだろうけど。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

 そう言って、僕は魔法陣の上に立ちバトルフィールドへ転送された。

 

 

 

 転送されたバトルフィールドは大自然のサバンナ草原って感じだった。

 そして肝心(かんじん)の対戦相手は――――。

 

「皆さ~ん! 私の再登場デスヨ~!! もっと頑張るから、目を離しちゃNo! なんだからネ!」

 

 第一試合で木場さんに勝利したシャルルと、ライダースーツに室内なのに星の絵が描かれたバイクのヘルメットをかぶったままの女性。若手悪魔の会合で自己紹介した『騎士(ナイト)』の二人だ。

 

『バアルチームは、第一試合で剣士と思えぬトリッキーな剣技を披露した、「騎士(ナイト)」のシャルル・ヴィッカース選手と、断絶した元72柱のクロセル家の末裔、「騎士(ナイト)」のペンタゴナ・ロイム選手』

 

 ペンタゴナは黙ってこっちを見て、シャルルは異常なほどに自然体でカメラに向かって手を振っていた。

 

『対するグレモリーチームは、今だ実力を隠したままのダークホース『戦車(ルーク)』、日鳥誇銅選手です!』

 

 ハハハ、ダークホースか。そう言われるのも悪い気分ではないね。さてと、今度は第三試合みたいな楽はできない。楽しみたい気持ちもあるけど、勝ちは取りに行かないとね。

 

『第五試合、開始してください!』

 

 審判(アービター)の宣言後、『騎士(ナイト)』二人は素早く構えて攻撃を開始させた。シャルルがバネの魔剣を創っている間、ペンタゴナは翼を生やして低空飛行で接近してくる。

 ペンタゴナは『騎士(ナイト)』のスピードに羽ばたきで推進力を足してるのか。スピードは木場さん以上で、シャルルよりも小回りは効きそうだ。

 ペンタゴナは途中で一度地面を蹴って、僕に突き刺さるようなドロップキックを放つ。思っていた以上の瞬間的加速! 躱して骨の継ぎ目に打ち込むつもりだったけどズレた。けどオーラを纏った手刀なのでダメージは軽くないだろう。

 

「ラードラを倒したのはマグレとは思ってなかったが、予想以上に……ぐっ!」

 

 思った通り、着地時に打ち込まれた足をかばうようにしていた。

 

「まだだッ! これくらいで私を倒せたと思うな!」

 

 ペンタゴナは翼を出して空高く飛び上がる。

 軽やかな空中飛行、空中戦が得意と見た。

 

「三次元的に繰り出される私の攻撃を躱し続けられるか!」

 

 そう言うとペンタゴナは高速で飛び回り、フェイントを織り交ぜつつ無事な方の足で蹴りを連発する。格闘、それも蹴り主体の『騎士(ナイト)』って初めて見た気がする。

 それでも加速的な攻撃は直線的だし、変則攻撃は減速するので十分躱しきれる。片足を負傷しているのもかなり響いてるようだ。唯一の問題は頭上からの攻撃は対処が難しいという一点。

 再びペンタゴナの蹴りが放たれる瞬間、炎の壁を作り出しガードしたように見せかける。

 

「無駄だ! 私の速度ならその程度の炎なんて軽く貫通できる!」

 

 そうだろうね。だけど僕の炎は普通と違う。

 思惑通りペンタゴナはそのまま構わずと突っ込んで来ると、予想もしていない物理的な炎に包まれた。

 

「なんだこの炎は!?」

 

 炎の中―――僕の手の平に入ったペンタゴナを飛び立てないようにギュッと炎で押さえ込む。僕の炎の特性で魔力もガンガン燃焼しているだろうし脱出は非常に困難。

 相手の力はさほど強くないので片手間に抑えておける。僕は素早く接近し、闘気を纏った拳の正拳突きを打ち込んだ。攻撃が苦手でも動けない相手にくらい当てられる。

 『戦車(ルーク)』の特性+濃い目の闘気で僕でも腰を入れれば相当な威力が出せる。それを防御ができないところへ打ち込んだんだ。

 

『サイラオーグ・バアル選手の「騎士(ナイト)」、リタイヤです』

 

 一撃で戦闘不能にできた。炎が転移を阻害してしまうといけないので消しておいたが、まあ意識もなければ魔力もかなり燃やされてるし大丈夫か。

 さて、これで一対一に持ち込めた。手札()を明かしてしまったがまだ出し切ったわけではない。それよりも本気を出すと言っておきながら出し渋って負ける方が問題だ。

 

「……」

 

 ―――シャルルが攻めてこない。ペンタゴナとの戦闘中、シャルルからは一切の邪魔は入らなかったし気配もなかった。最初は同士討ちを警戒しているのかと思ったが、僕がこうして無防備を装っても来ない。

 シャルルのいた方を見ると、そこにシャルルの姿はなく、代わりに創造された魔剣が何本も散らばっていた。

 姿はなくともどこにいるかはわかる。()だ。

 

「ヘ~イ! 次はワタシのターンデース!」

 

 僕が見上げたとほぼ同じタイミングでシャルルが叫ぶ。バネの魔剣に乗り、色とりどりの、花のように綺麗な色を付けた魔剣をばら撒きながら。

 まるでショーの開幕と言わんばかりに派手に上空からばら撒く。適当にばら撒いてるから敵意も殺意もない。

 

 ズザザザザザザザザッ

 

 こちらに振ってくる剣を目視で避けていく。広範囲にばら撒くことが目的なため直接振ってくる剣は少ない。

 剣の花園と化してしまった現状はかなりの脅威。シャルルの禁手『魔剣獣の曲芸団(ソード・パーサニファイ・サーカス)』は創造した魔剣を動物化させる。これでシャルルはいつでも魔剣獣をどこからでも出現させられる。

 空からばら撒く前から辺りにはもうかなりの数の魔剣がばら撒かれている。

 

「それではイキます! 禁手化(バランス・ブレイク)ー!」

 

 宣言と同時に、地面に落ちている魔剣たちが動物へと姿を変えていく。ライオンやチーター、カバ、キリン、ダチョウにシマウマなどなど、実際サバンナにいそうな動物が勢揃い。他にも草原に隠れて見えない魔剣獣もいる。

 フィールドが危険なサファリパークへと変えられた。

 

魔剣獣(フレンズ)といっぱい触れ合って楽しんでくだサーイ!」

 

 シャルルは一番背の高いキリンの頭に着地し言う。その言葉で魔剣獣たちがこちらに攻撃して来る。

 仙術の感知と闘気を纏わせ身体能力を上げる。感知と予想を駆使して魔剣獣たちの猛攻を(しの)ぐことはできるが、僕の覚えている九尾流柔術は動物にはあまり対応できない。無理に攻撃に転じれば残りの反撃で倒されかねない。

 どう対処すればいいか考えていると、打開策は意外なところから見つかった。

 それは魔剣獣に囲まれ、炎で包み込んで動きを封じようとした時―――。

 

「ッ!?」

 

 炎に飲み込まれた魔剣獣は元の魔剣に戻ってしまった。魔力や妖力などを燃やす僕の炎の性質が禁手の力を燃焼させたのか……? 

 そうとわかればこちらも炎人形で対処すればいい。しかしゴーレム型は一体しか操れないので多勢に無勢。百匹まで同時操作できるマンドレイク型では弱すぎる。

 苦肉の策として僕が用意したのは―――。

 

「炎目、炎人形―――スライム」

 

 僕が知ってる動く生物として最もシンプルなデザイン、スライム型。

 生み出した大量の炎のスライムが魔剣獣たちを飲み込み魔剣へと戻していく。だけど適当に狙いもなく動いてることがバレるのは時間の問題。魔剣獣たちが寄ってこない間に歌いながらもう一体の炎人形を用意する。

 

「―――完成」

 

 大きな長方形の炎に太い四本足が付いただけの簡単な炎人形。なんだか虫みたいにも見えてきたよ。

 急ぎで作ったから雑な創りだが、炎はそれなりに込めたので大きさはある。これなら大型の魔剣獣も飲み込めるだろう。

 シャルルとの戦いは炎人形を主体にして僕がサポートに回れば。そう考えていると―――。

 

「……ッ!!」

 

 大きな脅威を感じて咄嗟(とっさ)に屈んだ。刹那―――

 

 ズサァァァァァァァァンッ!

 

 僕の上を斬撃が通り過ぎていった。僕の代わりに後ろにある二本の丈夫そうな木を斬り倒す。……屈んでなかったら斬られていた……。

 シャルルを見ると、身の丈以上の巨大な大剣を持ち、振るった後の体勢になっていた。

 予想の一つにはあったけど、ただのテクニックタイプではないらしい。しかし怪力というわけではないみたいで、握りは両手で動きも遅い。でもそうなるとここまで斬撃が届くわけがない。

 僕は巨大炎人形の上に退避。

 シャルルはもう一度大剣を持ち上げる。すると大剣に闘気に近いオーラを纏わせた。物質に自分のオーラを纏わせる悪魔がいるなんて……! 

 オーラを纏わせた大剣を巨大炎人形へ振り下ろす。

 

 ボゴォォォォォォォォォォッ!

 

 巨大炎人形の足が一本切断され大きく体勢を崩した。

 大剣を捨て、二本の剣を持ちこちらに向かってくる。バネの魔剣に乗ってる時ほど早くはないが速い!

 軽く火事状態となった草原を突っ切り、あっという間に巨大炎人形の足元にまで来た。

 残りの足で撃退しようとするも、鈍重(どんじゅう)な巨大炎人形の攻撃なんて簡単にくぐり抜ける。

 炎の足に魔剣を突き刺し、それを足場に登ってきた!

 

「Hello♪」

 

 両手に剣をぶら下げ笑顔で言うシャルル。その笑顔はどこか狂気じみていた。

 

「アンドGood bye」

 

 剣を構えてこちらに向かってくる。もちろん両手の剣にはオーラもしっかり。

 攻撃をオーラを纏った両腕で防御し、バックステップで威力も緩和させる。両腕にそこそこの出血量の傷が出来た。オーラで防御したとは言え生身で刃を受け止めるのは無理があったか。傷は仙術で治癒しておく。

 僕もまだまだ未熟だね。あの笑顔に少し気圧されて集中力が乱れた。殺意のある攻撃だったから反応出来たハズなのに……。

 

「ニィ~」

 

 シャルルは笑顔でこちらを見定める。これ以上長引いたらもっと危なくなるかもしれない。ここは賭けに出るか。

 僕は巨大炎人形から飛び降りると同時に巨大炎人形を元の炎へと戻す。しかしこんな炎の使い方は不慣れでスライム型も炎に戻ってしまう。サバンナは燃えない火事に包まれた。

 

「無駄デース! こんなもので私は倒せないヨー!」

 

 シャルルは回転で炎を振り払い綺麗に着地を決める。だが炎の煙幕で僕を見失ったようだ。

 僕は炎の中から飛び出し、シャルルへと攻撃を仕掛けた。得意の九尾流柔術を捨てて攻撃に意識を集中させる。

 シャルルも反撃しようとこちらに駆け出す。

 

 ボワァァァ!

 

 その瞬間、シャルルの背後の炎の波から僕がもう一人現れる。―――背後からの奇襲! 静かな奇襲だったがシャルルはその気配に気づく。突然現れた同じ姿の敵、どちらが本物か普通なら迷いが生じる。

 しかしシャルルは迷うこと無く右の剣をブレーキとして地面に刺し、左の剣で斬った―――――炎に写った偽物の僕を!

 

「Why!!」

「信じていました! 貴方ほどの剣士なら気づくと!」

 

 僕の姿を映した炎の波に強いオーラを込め、僕自身は必要最低限のオーラしか纏わない。気づけば騙されるが、気づかなければ弱いオーラでほぼ素の状態で受けることになる。まさに博打(バクチ)だ。

 だから僕は信じた、シャルルの剣士としての実力を。彼なら後ろから迫る偽物の僕の影に気づくと。そして前後の僕のオーラの違いに。柔軟に攻撃対象を変えることのできる技量を。

 どれか一つでも満たして無ければ(本体)が斬られていただろう。あの斬撃なら自己回復の間もなくリタイアしてたね。

 

「僕の勝ちです!」

 

 僕の体を覆う必要最低限のオーラを全て拳に移動させ、シャルルに打ち込んだ。

 

『サイラオーグ・バアル選手の「騎士(ナイト)」、リタイヤです』

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 第五試合を終えて陣地に戻り、アーシアさんに傷の回復をすると言われたが、仙術の自己治癒ができるからいいと断った。

 ちょっと悲しそうな顔をされたけど、生憎あまり世話にはなりたくない。

 

「すごかったぜ誇銅! 木場を倒した相手に、それも二体一で勝っちまうなんて。てか、いつの間にそんなに強くなってたんだよ!」

 

 いつの間にって……二千年前くらい? 戻った僕に労いの言葉をかけてくれる一誠。リアスさんからもお手柄の言葉をもらった。

 シャルルは本当に手ごわかった。まさか攻めの博打をせざる得ない程に追い詰められるとは。シャルルのオーラの使い方が妖怪の下の上程あれば気圧された時点で僕は敗けていただろう。刃物相手とは言え僕もまだまだ未熟だ。

 そんなことを考えている間に第六試合の出場選手を決める為の賽が振られ、小さい出目で何度か振り直しになりながら、最終的に合計数字が9となる。

 

「9ということは『女王(クイーン)』か『兵士(ポーン)』が出られるわ。……『兵士(ポーン)』はまだ出さないと思うの」

「根拠はあるんですか?」

 

 リアスさんがそう言うと、一誠が問う。

 

「サイラオーグはあの『兵士(ポーン)』をできるだけ使いたくないと思っているような気がするわ。まるで出てくる気配が感じられない。温存しているとしても温存しすぎよ。『兵士(ポーン)』がでられる試合は何度かあったし」

 

 こちらの手があらかた割れている以上、強力だからと言ってそこまで温存する必要はあまりない。いくら一誠の対策を持っていても第三試合で『僧侶(ビショップ)』を単騎で出すのはリスクが高い。駒価値的に誰かと組みやすいし、攻撃主体の誰かと組んだほうが効果的なのは明らかだった。

 あの『兵士(ポーン)』が女性でないのなら一誠を警戒する必要もないし。

 

「となると、次の相手は『戦車(ルーク)』か、『女王(クイーン)』ですか」

「ええ、誇銅。そして駒消費の関係から考えて、サイラオーグの『女王(クイーン)』―――クイーシャ・アバドン。『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』アバドン家の者が来るでしょうね」

 

 『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』、アバドン家。レーティングゲームの原役トップランカー三位がアバドン家。話では相当強力な悪魔の一族らしい。

 家自体は現政府と一定の距離を取っていて、冥界の隅でひっそりと住んでいるらしいけど……。

 

「―――私が行きますわ」

 

 朱乃さんがリアスさんに進言する。

 

「―――朱乃、良いの? 相手の『女王(クイーン)』はアバドンの者よ? 記録映像を見る限りでも相当な手練れだったわ」

 

 クイーシャ・アバドンはグラシャラボラス戦で絶大な魔力とアバドン家の特色―――『(ホール)』というものを使って他者を圧倒していた。

 『(ホール)』とはどんな物でも吸い込む厄介極まりない代物で、その先は異界に続いているらしい。

 

「俺が行きましょうか? 勝てる算段はあるんですけど」

 

 一誠がそう言うが、朱乃さんは首を横に振った。

 

「それは例のトリアイナを使ったものでしょう? まだ出してはダメよ、イッセーくん。もっと大きな数字が出た時―――終盤(エンドゲーム)で見せてこそですわ。それまでは私が何とか相手戦力を削りましょう。後ろに控えていてくれるからこそ、できる無茶もあるんです」

 

 ニコニコ笑顔で言う朱乃さん。

 そこまで言われ、一誠は何も言い返せなかった。

 

「……分かったわ、朱乃。お願いするわね」

「ええ、リアス。勝ちましょう、皆で」

 

 それだけ言い残し、朱乃さんは魔法陣でフィールドへ転送され消えた。

 

 

 

 

 

 朱乃が着いた場所は、無数の巨大な塔が並び立つフィールド。朱乃さんはその中の一つのてっぺんに立っていた。

 眼前の塔の頂上にはバアルチームの『女王(クイーン)』―――クイーシャ・アバドンの姿が。

 

『やはり、あなたが来ましたか、雷光(らいこう)の巫女』

『ええ、ふつつか者ですが、よろしくお願い致しますわ』

 

 クイーシャがそう漏らすと、不敵に返す朱乃さん。

 

 審判(アービター)が出現して両者を見据える。

 

『第6試合、開始してください!』

 

 試合開始が宣言されると、朱乃さんとクイーシャは翼を羽ばたかせて空中へ飛び出していく。そこで魔力による壮絶な撃ち合いが始まった。

 朱乃さんが炎を魔力を大質量で撃てば、相手は同質量の氷の魔力でそれを相殺する。

 更に朱乃が水を使えば、今度は風で相殺。魔力による空中戦はほぼ互角だ。

 しかし、相手は肝心の『(ホール)』をまだ使っていない。

 朱乃さんが魔力で空に暗雲を作り出し、そこから大質量の雷光を放った。

 閃光が走り、クイーシャを雷が包んでいく―――寸前で空間に歪みが生じて『(ホール)』が開かれ、大質量の雷光は為なす術すべ無く『(ホール)』に吸い込まれていく。

 

「ここですわ! これならどうでしょう!」

 

 朱乃さんはこの機会を狙っていたのか、更に天に雷光を走らせる。

 大質量かつ幾重もの雷光が周囲一帯を襲う。周りの塔が落ちた雷光によって次々と壊れていく。

 フィールドの大半を覆う程の雷光がクイーシャに襲い掛かる。直撃を受ければ致命傷、逃げ場もない。皆は勝利を確信した―――が、クイーシャが『(ホール)』を広げ、更に複数の『(ホール)』を周囲に展開させた。

 巨大な『(ホール)』と周囲に現れた複数の『(ホール)』が朱乃さんの雷光を全て飲み込んだ。その光景を見て朱乃さんは絶句する。

 クイーシャが冷笑を浮かべながら言う。

 

「私の『(ホール)』は広げる事も、幾つも出現させる事も出来ます。そして『(ホール)』の中で、吸い込んだ相手の攻撃を分解して放つ事も出来るのです。―――この様にして」

 

 朱乃さんを取り囲む様に無数の『(ホール)』が現れる。全てが朱乃さんへ向けられていた。

 

「雷光から雷だけを抜いて―――光だけ、そちらにお返ししましょう」

 

 ビィィィィィィィィッ!

 

 無数の『(ホール)』から朱乃さんに向けて幾重もの光の帯が撃ち放たれた。

 悪魔にとって光は猛毒であり天敵。光に包まれていく朱乃さん。

 

『リアス・グレモリー選手の「女王(クイーン)」、リタイヤです』

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「吸い込むだけじゃなくて、あんな風にカウンターにも使えるのか」

 

 僕がそう言うも、みんな朱乃さんが負けたことに対して衝撃を受けて反応はない。

 魔力勝負は互角で、あの雷光が決まっていれば勝っていた。が、アバドンの『(ホール)』を甘く見たのが決定的な敗因。

 

「クソ……やっぱり、俺が出ていって、ソッコーでぶっ倒せばよかった……」

 

 一誠が後悔の念に駆られながら言う。

 

「……気を取り直しましょう。終盤(エンドゲーム)に差し掛かっているのだから、気は抜けないわ」

 

 リアスさんは自分にも言い聞かせる様にそう言った。

 第七試合の出場選手を決めるダイスを両『(キング)』が振る。賽の目の合計は8。こちらが出られる選手は実質決まっている。―-―おそらく向こうもね。

 

「僕ですね」

 

 そう言って立ち上がろうとすると、一誠が僕の肩に手を置いてつぶやく。

 

「なあ、やっぱり俺が出ようか?」

「大丈夫、僕はまだまだ戦える」

 

 第五試合は賭けに出た分余力は十分残ってるし、短時間とは言え一試合挟んだおかげで傷も癒えてる。

 

「誇銅が強いのはもうわかった。けど次の相手はゼノヴィアの全力を耐えきった『戦車(ルーク)』だろうから。俺の方が適任かなって」

 

 なぜ一誠がここまで僕を引き留めようとするのか。理由はわかっている。前の試合、自分が出ていればと後悔したばかりだから。それと、僕に覚悟がないからだ。

 僕には他のグレモリー眷属のような覚悟はない。倒れていった仲間たちのようにリアスさんの為に命を懸ける覚悟も義理もない。そういった思いに触れることが多かった一誠は、図らずしもそういうものを感じる能力が高いのかもしれない。

 もしも僕に他の皆のような覚悟があれば一誠も「頼む」と送り出してくれただろう。

 

「それってトリアイナでしょ? それはまだダメだって朱乃さんも言ってたじゃないか」

 

 朱乃さんの言葉を持ち出されて流石に一誠も黙った。もしここで僕を押しのけて試合に出ようものなら、朱乃さんの想いを踏みにじることになる。

 

「さて、もう一勝貰いに行きますか」

 

 軽口を叩きながら転移の魔法陣に立ち、バトルフィールドへ転送されていく。

 二回目も相手もまだ侮ってくれていた。しかし三回目となればもうバレた。今度こそ相手は僕を侮ってはくれない。百里を行く者は九十を半ばとす。ここからが僕の本番だ!

 

 

 

 僕が到着したのは湖の湖畔(こはん)。朱乃さんの時のような場所をちょっと期待してたんだけどね。あれなら落下ダメージ、最高でリングアウトも狙えたのに。

 先に待機していたバッボが僕に手を差し出して来た。僕がラードラさん相手に握手を求めたのと同じように。

 

「さあ、取れるか?」

 

 明らかな挑発行為だったが、僕はそれにあえて乗り握手に応じた。

 僕が握手に応じると、バッボはラードラさんと同じく強く手を握る。そして同じように力が抜けて両膝を付いた。

 更にその手を後ろに回し指を取る。

 

「イデデデデ!」

 

 痛がるバッボ。九尾流柔術は力自慢相手には無類の強さを発揮する。

 同時に仙術での内部攻撃も試みるが、どうやら少し厳しそうだ。効きづらい体質已然にいくつかの点穴がない、もしくは既に潰れている。これはデュラハンの特徴なのか、バッボだからなのかはわからないが、気の経脈に僕のオーラを届かせ流し込むのは時間がかかる。

 この体勢ならその時間はあると思うけど―――。

 

「バッボさん、まだ試合開始の合図はされてませんよ?」

 

 試合開始前にこれ以上の攻撃はちょっとできないかな。

 

「律儀なガキだ。けどそうだな……。審判、このままでいい! 開始の合図をくれ!」

『しかし……』

「先に仕掛けたのは俺の方だ。このくらいのペナルティがあって当然さ」

 

 バッボはこの状況を受け入れると審判に言う。律儀なんですね。でもこれは『(キング)』の為のレーティングゲーム。その律儀さに甘えさせていただきます。

 

『第7試合、開始してください!』

 

 遅めの審判(アービター)からの合図。

 バッボは頭の鉄球を外し、僕に-―-自分の背中めがけて振り放つ。僕は指取りを解いて離れる。そうなると必然的に鉄球はバッボの背中に激突した。

 

「おっとっと」

 

 二、三歩前によろけると、取られていた腕を軽く動かしながらこちらを向く。

 

「カラカラ! イケると思ったんだけどな。まあ、やりようはまだあるさ」

 

 そう言うと、バッボがとったのはクラウチングスタートの姿勢。そのままつかみタックルってところか。それなら確かに柔術は使いづらい。柔術家相手にはまず正解の方法だ。

 

 ドンッ!

 

 強力な蹴りから生まれる加速。あっという間に距離が詰まる。

 それに対して僕は相手の懐に自ら飛び込んで、掴まれる前に投げ飛ばす。投げ飛ばされながらも僕をつかもうとした手は、翼ではねのけた。

 

 ドガァァッ!

 

 バッボはその勢いのまま、受け身が取れずに地面に叩きつけられた。

 自分の攻撃力と体重をそのまま跳ね返されたんだ、今までのようにノーダメージってわけにはいかない。立ち上がりからもそれは伺える。

 

「面白れぇ翼の使い方だな」

「人外相手にこういう技を使うとなると手が足りなくて。その御蔭(おかげ)で飛ぶという翼本来の使い方はできませんが」

「そりゃいい! 実は俺も飛べねぇんだよ。体が重すぎてな! 俺もその使い方練習してみるか……」

 

 試合中だと言うのにバッボはまるで友達にでも話しかけるように僕に話しかけた。

 

「技量はかなりのものだ。それじゃ……こいつはどうだい?」

 

 僕のすぐ近くで鉄球を右手にはめ、闘気を露わにした。ゼノヴィアさんを葬り去ったあの技だ。

 大丈夫、僕ならできる……。そう自分に言い聞かせ、威圧で体を固くしないように、適度の緊張感とリラックスを維持する。

 初めて目の前で身構えられたのは土影の土蜘蛛さん。腰のしっかり入った正拳突き。僕はその攻撃を返せなかった。それから何度か稽古を付けてもらってるうちに手加減されたものは返せるようになったが、結局一度たりとも本気の正拳突きを返すことはできなかった。

 バッボの威圧も構えも素晴らしいが、あの人(土蜘蛛さん)には程遠い。―――返せる……ッ!

 質の良い闘気が込められた拳が放たれ、僕に接触する!

 

 ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!

 

 吹き飛んでいく――――――――――――バッボが……ッ!

 自身の全力に僕の僅かな力がプラスされ、フィールドの(はる)か先まで吹き飛ばされようとしていく。

 そのまま飛ばされまいとバッボも鉄球を(イカリ)のように使い、足でもブレーキをかけようとした。しかし止まらない!

 湖を真っ二つに割りながら更に吹き飛ばされていく。しかし止まろうと必死に抵抗したおかげで、どうやら湖の向こう岸で盛大に何かを破壊して止まったらしい。姿は見えないけど。

 

「成功したけど、無傷……ってなわけにはいかないか」

 

 未熟な僕ではバッボの攻撃をノーダメージで返すことができなかった。両腕にダメージが残り、指にヒビが入った。バッボが戻ってくるまで回復に専念しよう。

 そう思っていると、遠くから何かが飛んでくる。―――バッボだ。高いジャンプを何度かに分けて歩いたり走ったりするよりも早く戻って来てしまう。

 まだ戦えるし返すこともできる。相手にだって相当なダメージが入っているはずだし。

 思った通り、戻ってきたバッボは見るからに相当なダメージが入っていた。

 

「相手の攻撃力に応じて反撃の度合いが変化する。千の力で攻撃されれば、千+自分の力で反撃するってワケか」

「……よく出来てるでしょ」

 

 頭に設置された鉄球から二つの目がしっかりと開かれ僕を見る。そこに目があるってことは、外してる時は見えてないのかな。

 

「けどよ……俺が敵じゃなくなったらどうするよ。―――攻めないぜ?」

「理想的ですね。何もしてこない相手には何もする必要はありません。ですから、そこに争いが生まれる余地もなく―――勝ちも無ければ敗けもない。―――理想的な世界ですね」

 

 そう笑顔で返答しつつも、仙術での回復はしっかりとして反撃体勢は整えておく。向こうも会話で息を整える時間を稼いでるし。

 そう思っていると、バッボが突然その場に足を突き出し座り込んだ。

 

「ほらどうした? 俺は今、こんなにも無防備だぜ」

「せっかくの理想的な世界で藪をつついて蛇を出したくはないので。それに貴方の攻撃を返した衝撃でこちらもボロボロです」

 

 本当は攻撃できないんだけどね。本当に無防備な相手や九尾流柔術を封印しての攻撃ならできないこともない。しかしその間、攻撃に集中するから未熟な僕は防御にまで十分な意識を回せない。

 それに一見無防備に見えるが、とんでもない。極めて厄介な防御態勢を敷かれている。

 

「攻撃を誘ってんのか? なら無駄だぜ。攻めないって言っただろ。それに、こうしてる間にも自己回復してんのはバレてんだよ。俺も同じようにきちんと纏えるからわかんだよ。まあ、おまえの方が上手みたいだけど」

 

 やっぱりあのレベルで闘気を纏えるならわかるか。

 

「でもこれは試合です。このまま膠着(こうちゃく)状態を続けるわけにはいかないでしょう。レーティングゲームなんですし」

「そこで一つ提案がある。この試合、引き分け(ドロー)にしないか?」

 

 バッボから意外過ぎる提案がされた。

 

「このままだと果てしない長期戦になっちまう。それは誰も望んじゃいない。だからお互いドロップのドローで手を打たないか?」

 

 この提案は悪いものではない。だが―――。

 

「貴方はそれでいいんですか? 決着、付けたいんじゃないですか?」

 

 間違いなくバッボは僕と同じで力比べ、技くらべが好きだ。直接拳を合わせたからわかる。僕としてもできればこのまま続けて勝ちたい。

 

「これは『(キング)』の為のレーティングゲームだ。この際私情は置いておく。それに、自分の攻撃で負けるなんて馬鹿らしいからな。おまえを道連れにできりゃもう十分だろう」

「……この試合での目的は、後続のために貴方を落としておくことでした」

 

 僕もその場に両膝を付けて座り込む。戦闘の意志はもう無いことを行動で示す。

 

『サイラオーグ・バアル選手の「戦車(ルーク)」1名、リアス・グレモリー選手の「戦車(ルーク)」1名、リタイヤです』

 

 その意は審判にも伝わり受理された。

 僕とバッボは戦闘放棄の意思表示として座ったが、お互いのリタイアが決定するまで反撃の意は解かなかった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 僕が戻されたのはグレモリー側の選手室ではなく、リタイアした者が飛ばされる治療室の方だった。

 命を捨てる覚悟で、ボロボロになるまで戦った皆のことを思うと、自主退場で無事なまま帰って来た事に引け目を感じる。なので病室には寄らず、試合の中継を見れる場所へ移動した。

 しばらく歩き、試合の様子を見れるところに辿り着いた。

 

『さあ、終盤(ラストゲーム)も終盤! 両『(キング)』はダイスをシュートしてください!』

 

 実況に促され、リアスさんとサイラオーグさんは台の前に立つ。出目はリアスさんが5で、サイラオーグさんは4。合計で9。リアスさんは一誠を、サイラオーグさんは『女王(クイーン)』を出すだろう。

 

 第八試合のフィールドは、人気のないコロシアムの舞台上。相対するように現れたのはやはり『女王(クイーン)』のクイーシャ・アバドン。

 一誠の落ち着いた様子に怪訝な様子を見せるクイーシャ。

 

『兵藤一誠、妙な落ち着きを見せますね。女である私が相手ならばもっと喜ぶかと思ったのですが……』

『……………。嬉しいっスよ! 美人は歓迎します!』

 

 一拍開けて、わざとらしい笑みを見せる。

 見てわかる。一誠は腸が煮えくり返る程の怒りを抱え込んでいる。仲間たちがバアル眷属に敗けていく姿を見て溜めた怒りが爆発寸前なのだろう。

 別に誰一人と死んだわけでもないし、これはレーティングゲームなのだから仕方のないこと。こちらだって同じことをしている。言うなれば一誠の感情は酷い八つ当たりだ。

 ……それでも、理屈の問題じゃないんだよね。一誠の感情がどうしてもそうさせてしまう。それが間違ってるとも言い難い。

 一誠が両手を広げて、ぶつぶつと独り言を始める。

 

『もう、いいよな? もう、我慢しなくていいよな? 木場、朱乃さん、小猫ちゃん、ゼノヴィア、ギャスパー、誇銅。―――俺、もう無理だわ』

 

 一誠のつぶやきにクイーシャは怪訝な様子。

 

『第8試合、開始してください!』

 

 試合開始の合図がされるも、クイーシャは何もせずに一誠の行動を待つ。

 

『赤龍帝、禁手(バランス・ブレイカー)となりなさい。私の主サイラオーグさまはあなたの本気の姿を所望(しょもう)している。ならば「女王(クイーン)」の私もそれを望みましょう』

 

 あの女性も強い覚悟を持っているようだ。そして、おそらくサイラオーグさんのことを……。

 カウントが済み、鎧を纏った一誠は一言だけ、クイーシャに漏らした。

 

『……手加減できません。死にたくなかったら、防御に全てをつぎ込んで下さい。そうすればリタイアだけで済むと思いますから』

『言ってくれるわね。いいでしょう。私も全力であなたに臨みます。赤龍帝だろうと、我が主のために私は―――』

『―――警告はしました』

 

 一誠の体が赤い閃光に包まれていく。

 

龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)ォォォォォッッッ!』

『Change Star Sonic!!!!』

 

 鎧がパージされ、一誠が高速で飛び出し距離を詰め、クイーシャが認識するよりも速く眼前まで辿り着いた。動きは見えなかった。が、予測し反応することはできるかな。

 一誠は体に赤いオーラを纏わせ、叫ぶ。

 

龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)ゥゥゥゥゥッッ!』

『Cdange Solid Inpact!!!!』

 

 肉厚になる一誠の鎧。

 

『うおおおおおおおおおおおおおッッ!』

 

 絶叫を張り上げる一誠。肘にある撃鉄(げきてつ)を打ち鳴らし、オーラを噴き上げながら拳の勢いが激しく増す。その一撃がクイーシャに降りかかろうとする―-―。

 

 パァァァッ!

 

 その前にクイーシャの体が光に包まれ、フィールドから消えていった。

 

『サイラオーグ・バアル選手の「女王(クイーン)」リタイアです』

 

 審判が一誠の勝利を告げる。一誠はトリアイナを使って一気に距離を詰め、『(ホール)』を使う暇も与えず、一瞬で勝負をつけようとしていたか。けど、その前に、当たる直前に『女王(クイーン)』は強制退場されていた。

 モニターの映像にサイラオーグさんが映り込んだ。

 その評定は苦渋に塗れていた。

 

『………俺が強制的にクイーシャをリタイアさせた。あのままでは赤龍帝に殺されるところだったからな。殺すつもりだったのだろう?』

 

 一誠は鎧のマスクを収納し、顔を見せて言う。

 

『すみません。あなたたちへの敵意が止まらないもので。いまのは後輩たちの分ってことで許してください』

 

 冷淡な声音と残酷な言葉。それで本当に殺されでもしたら僕は納得できないけどね。

 それを理解してかサイラオーグさんは嬉しそうに笑んだ。

 

『……なんて目を向けてくれる……ッ! 殺意に満ちているではないか……ッ』

 

 サイラオーグさんはカメラ目線で訴え始めた。

 

『赤龍帝と拳を交える瞬間を俺は夢にまで見た。委員会に問いたい。もう、いいだろう? この男をルールで戦わせなくするのはあまりに愚だ! 俺は次の試合、こちらの全部とあちらの全部での団体戦を希望する……ッ!』

 

 一誠と拳を交えるのをそこまで望んでいるということは、一拍あけて戦闘を再開させるよりも、継続したテンションのままで決闘に持ち込みたいということかな。

 それが最高の状態の一誠と戦うベストタイミングと踏んだか。

 サイラオーグさんの提案に会場の観客席がどよめき、実況も叫んだ。

 

『おおっと! ここでサイラオーグ選手からの提案が出てしまいましたーっ!』

『確かにこの後の流れは簡単に読めてしまう。連続して出会っれないルール上、次がバアルの「兵士(ポーン)」とグレモリーの「僧侶(ビショップ)」、その次が……おそらくサイラオーグと赤龍帝の事実上の決定戦となるでしょう。それはもう読めてしまう。あまりにつまらないという点はありますね。』

 

 ディハウザー・ベリアルがにこやかに言う。

 アザゼル総督も顎に手をやりながら意見を口にする。

 

『それならば、次を団体戦にしてケリを付ける。わかりやすいし、このテンションを継続して見られるだろうな。さて、委員会の上役は読める流れのルールを取るか、この状態を維持したまま団体戦を選ぶか』

『私もそれで良いのなら、それで構わないわ』

 

 リアスさんも賛成意見を述べる。

 どちらかと言うと僕は反対かな。試合である以上、ルールは絶対的なものであるべきだと思う。それに場合によってはルールを逆手に取って戦略を練る人だっているだろうし。下手に例外を作ると絶対的に信頼がおけるハズのルールの信頼性が揺らぐ。

 そして何よりも、その条件だとこちらが不利になる。こちらはリアスさんという弱点を晒し、向こうは『(キング)』と『兵士(ポーン)』二人で戦える。サイラオーグさんの性格上、そういことはしないだろうけど、ピンチになった際に『兵士(ポーン)』がどう動くかなんてわからない。

 それでも、レーティングゲームがエンターテイメント性を重視していることを考えれば、決してナシな提案でもないとも思う。

 

 そこから数分間の時間が流れ、実況席に一報がもたらされる

 

『え、はい。今、委員会から報告を受けました! ―――認めるそうです! 次の試合、事実上の決定戦となる団体戦です! 両陣営の残りメンバーの総力戦となります!』

 

 その報告に会場が沸き上がった

 

『―――だそうだ。やり過ぎてしまうかもしれん。死んでも恨むなとは言わんが、死ぬ覚悟だけはしてくれ』

 

 一誠も口の両端を吊り上げて返す。

 

『――殺す気で行きます。そうじゃないとあなたに勝てなさそうですし、リタイアしていった仲間に顔向けできないんで』

『たまらないな……ッ』

 

 次で決着か……。


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