無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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新たな門出の準備期間

 レイヴェルさんが僕を勧誘してくれた後、僕は日本神話で体験した不思議な出来事を話した。嘘みたいな僕の話をレイヴェルさんは疑わずに真剣に聞いて信じてくれた。

 そうして幾つかのことはあえて曖昧に話したり伏せたりしたが大体の事は話したと思う。

 伏せたのは主に僕が男として幸せな体験談とかだ。これは人に話すもんじゃない、うん。だが、向こうでの家族のことを話す時に口が滑ってちょこっとだけ藻女さんとのそういう話をしてしまった。その時のレイヴェルさんの目には黒い動揺のようなものが見えたね。

 それから時間が経って、レイヴェルさんが『(キング)』になったことも、僕のトレードの話もいまだにリアスさんに言えないでいる。僕から話を通そうかと言うと、レイヴェルさんは『(キング)』として自分でやらなくてはいけないと言い切った。だけどその後に「……ですが、その時は側にいてくださいませんか……?」と言った。その時のレイヴェルさんはものすごく可愛く見えたよ。

 そうしてなかなか言い出せないまま時間が過ぎていった―――。

 

「うーん、やはりトリアイナのコンボは『僧侶(ビショップ)』が1番のネックか」

 

 休憩中、一誠はおにぎりを頬張りながら木場さんにそう言った。

 現在、リアス・グレモリー眷属は修行場―――グレモリー領の地下にある広大な空間でトレーニングを行っている。

 遠くではゼノヴィアさんのトレーニングにイリナさんが付き合い、ギャスパーくんと塔城さんがそれぞれのサポートに回っていた。それをリアスさんと朱乃さんがアドバイスをかけながら見守る。アーシアさんはイリナさんと話し合っていた神聖な術式について学んでいる。

 

「そうだね、トリアイナ版『僧侶(ビショップ)』はチャージが問題だ。『騎士(ナイト)』と『戦車(ルーク)』はそれぞれの使うタイミングさえ間違えなかったら相手に大きなダメージを与えられると思うよ。砲撃も発射後に上手く曲げられる様になれば虚を衝つける」

 

 木場さんは汗を拭きながら言った。

 僕は二人のトレーニングをサポートという名の見学。いちおうこれも僕のトレーニングらしいけど。戦闘の気配を間近で見て感じて覚えるっていうアザゼル総督が考えたね。僕が貧弱なので皆のトレーニングについていけないとも思われているんだろうけど。僕には直接戦闘をサポートするような力はないし。

 それはアザゼル総督もわかってるみたいだから本格的なトレーニングを考えるまでの繋ぎのつもりなのだろう。そのまま何も思いつかないでほしい。

 

「集団戦―――。それも仲間との連携が必須になるね。僕やゼノヴィアが前衛になり、その分、イッセーくんは後方に下がってチャージする。完了したら、こっちのものだ。あんなバカげた威力の砲撃をまともに受けて残ることができるバアル眷属は限られているだろうし。それで、消耗具合はどう?」

「うーん、能力を発現したばかりの頃に比べると多少は保つようになったけど、やっぱ、体力の消耗は半端じゃない」

 

 あれだけのパワーを垂れ流しにすれば消耗が激しいのは当然。といっても、そういう概念が薄い、またはない悪魔では厳しいだろう。一誠の体力では試合中一度きり。アーシアさんは体力の回復はできないので体力が尽きたらそこまで。

 だけど、試合ならばそういう天才が一人で流れを変えられるかもしれない。そういう意味では一誠はリアス・グレモリー眷属では必要不可欠とも言える。どちらにせよ現在のグレモリー眷属は一誠が中心だ。

 

「集団戦なら、いざというとき皆と一緒にキミをフォローするよ。僕も新技を得たしね」

 

 木場さんの新技。確かにすごいものではあるけど、僕はそこまで脅威に感じなかったな。いや、悪魔にとってはかなりの脅威になるだろうけども。

 

「あ、あの、ふと思ったのですが……」

 

 僕の隣で同じように二人のトレーニングを見学するレイヴェルさんが挙手した。

 

「先程の特化型の『僧侶(ビショップ)』ですが、砲身から砲撃ではなく、譲渡の力を撃つことはできないのでしょうか? そうすれば援護射撃にも幅が出るよな気がしまして」

 

 その意見を聞いた一誠と木場さんはしばらくの無言を経て―――。

 

「「それいいね!」」

 

 同時に笑顔で頷いた。

 

「それが可能ならば戦術に幅が生まれる。所見でもチャージ攻撃と見せかけて、味方に力を譲渡できたなら虚をつける上にラッシュをかけられそうだ」

「二撃目からも『砲撃か? 譲渡か?』って相手を揺さぶることができるか?」

「うん、大きな揺さぶりになると思う。遠距離への譲渡が可能なら、仲間との連携で、これほど役に立つ能力はないよ。譲渡が二人まで同時に可能という点も通常と同じなら、砲身も二つあるし、前衛を二人も底上げできる。プラン的にもう少し練り込む必要があるだろうけど、面白い試みだね」

 

 レイヴェルさんの発言に盛り上がる一誠と木場さん。

 すると、レイヴェルさんはハッとして申し訳なさそうに僕の方を見た。もしかして僕がリアスさんを信用してないのにグレモリー眷属にアドバイスを送ったことを気にしてるのかな? そのぐらい気にしないよ。そのことをレイヴェルさんにさり気なく伝えた。

 

「問題はゲームフィールド、でしょうね。集団戦ができる場所ならいいのだけれど……」

 

 そこへゼノヴィアさんとイリナさんのアドバイス役のリアスさんが会話に参加してくる。

 向こうでは全力で激闘を繰り広げていたゼノヴィアさんとイリナさんが倒れている。結構派手な音が聞こえてたからね、無理もない。

 リアスさんが話を続ける。

 

「サイラオーグは私たちの全てを受け入れると上役に打診し、上役もそれを許可したわ。私たちにとってシトリー戦ほどの力の束縛はないでしょう。けれど、上役はそれを踏まえた上での特殊ルールを敷いてきそうだわ」

「と、特殊ルールですか……?」

 

 一誠の言葉にリアスさんは頷く。

 

「今回の会場は大公アガレスの領土にある空中都市で行われるわ。大勢の観客を呼び込むつもりだから、最初から長期戦を見越してはいないわね」

 

 空中都市で大勢の観客の前でのレーティングゲーム。観客ありきってことは、過度な長期戦は無いと考えるべきか。あまりに試合が長引いたり展開が遅いとお客さんが飽きてしまうからね。

 グレモリー眷属とバアル眷属はお互い純粋なパワーを売りにしている。短期決戦のガチンコの方が盛り上がるか。

 

「レーティングゲームはエンターテイメントでもあるから、ファンありきなのは仕方ない部分もあるわ」

「冥界ではリアスさまのグレモリー眷属とサイラオーグさまのバアル眷属はプロ前の若手でありながら、プロに負けない人気がありますもの。今回の一戦もすでに大きな注目を集めていますわ。連日、テレビで煽っていますもの」

 

 リアスさんの説明にレイヴェルさんが付け加える。

 そうなるとバトルフィールドも観客が見やすいシンプルなものになりそうだ。だけどこれは戦闘での制限が代わりに、エンターテイメントとして魅せる縛りがかかりそうだね。

 こういう場合は試合を捨てて魅せるバトルに切り替えて今後に繋げるってのもアリかもしれない。まあ、それがメディアに通じても悪魔の評価としてはどうかわからないけど。

 

「ありがとうな、レイヴェル。いいアドバイスだったぜ」

 

 一誠がレイヴェルさんにお礼を言うと、

 

「こ、これぐらいでしたら。私もご厄介になっている身ですし……」

 

 少し困惑した様子で返した。ごめんなさいレイヴェルさん、僕の都合で変な負荷をかけてしまって。

 

「よっしゃ、その譲渡方法ができるかどうか、さっそく試してみようぜ!」

 

 一誠は気合を入れて練習を再開しようとするが。

 

「今日はここまでよ」

 

 と、リアスさんが制止させた。

 

「明日は記者会見だもの。あまり練習ばかりしていると、明日酷い状態で記者達の前に出る事になるわ」

 

 …………記者会見……?

 僕はその言葉に疑問で無反応になり、一誠は目をパチクリさせる。

 間の抜けた顔をしている一誠に、リアスさんは微笑みながら追加情報を告げる。

 

「あら、言ってなかったかしら。ゲーム前に私達とサイラオーグのところが合同で記者会見をする事になったのよ。テレビ中継されるのだから、変な顔しちゃダメよ?」

「え、えええええええええええっ!?」

 

 初めて聞いた情報に一誠は驚きの声を上げた。

 急な記者会見を告げられて今日のトレーニングはお開きとなる。その時、レイヴェルさんはチラッと僕の方へ振り返った。それからすぐに前を向き―――。

 

「リアスさん、大事なお話があります」

 

 レイヴェルさんは真剣な声色でリアスさんに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングによって若干の熱気と汗の匂いが漂う地下空間。殆どのリアス眷属が疲弊している最中、二人の『(キング)』の間に微細な緊張が生まれる。

 この場、このタイミングで言い出すつもりなのか……! ―――いや、そんなのはどうだっていい。覚悟を決めたタイミングがレイヴェルさんのベストタイミングなのだから! 僕は約束通りレイヴェルさんのすぐ近くで見守る。

 

「大事な話……?」

「はい、リアスさん。私とトレードをお願いしたいのです」

 

 リアスさんが訊くと、レイヴェルさんはまだ緊張した様子で言った。

 

「トレード……?」

 

 急にトレードを持ちかけられたリアスさんは不思議がる。そもそもリアスさんはレイヴェルさんが眷属を持てる『(キング)』になったことを知らないのだから当然の反応だ。

 レイヴェルさんは『(キング)』以外が揃った自分の駒を見せた。

 

「実は私、人間界に来る前に『(キング)』となったのです」

 

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を見てリアスさんは言葉の意味を納得する。そしてさらに、何かを理解したような表情もした。

 

「なるほど、そういういことね。もっと早く言ってくれればよかったのに。おめでとう、レイヴェル。だけどごめんなさい、私はトレードをする気は―――」

「私がトレードを望むのは『戦車(ルーク)』―――日鳥誇銅です」

『ッ!?』

 

 レイヴェルさんはリアスさんの話を遮ってトレードに僕を指名し、僕に視線を向けた。その緊張する顔に、僕は優しい笑みで返す。

 レイヴェルさんが僕を指名したことにリアスさんを含むリアス眷属の何名かは明らかな驚きの表情を見せた。主に一誠に惚れている女子だね。おそらくレイヴェルさんは一誠を指名すると思ったんだろう。

 特にリアスさんと塔城さんはものすごく意外そうな表情だ。

 

「―――正直、意外だったわ。まさか誇銅を指名するなんて。理由を訊いてもいいかしら?」

 

 リアスさんが訊くと、レイヴェルさんはよりいっそう緊張を増して固くなる。しばらく黙った後に――-、

 

「そ、それは……そ、側にいてほしい……から……ですわ」

 

 もごもごと小さな声でつぶやくように言った。ここは男として聞こえないのがいいんだろうけど、修行のおかげで結構耳が良いんだよね僕。やばい、めっちゃ嬉しい。今僕変にニヤけたりしてないかな?

 男でも女でも、こうも純粋な気持ちで思われるのは冥利に尽きるんじゃないかな。例え僕がニヤけていたとしてもそれは仕方ないことじゃないのかな?! っと、心の中で一人で言い訳をする。

 レイヴェルさんの返答を聞きくと、リアスさんはレイヴェルさんに微笑む。

 

「なるほど、そうだったの。どうやら私たちの勘違いだったみたいね。―――誇銅、あなたはどうかしら?」

 

 リアスさんが僕に返答を訊く。他のオカルト研究部のメンバーも僕の返事に興味津々だ。返答はとっくに決まっている。

 

「是非。僕からもお願いします」

 

 レイヴェルさんは僕を望んでいる。リアスさんは僕を望んでいない。最近は少しばかり目をかけられ初めてはいたが、どちらにせよ僕が望むものはここ(リアス眷属)にはない。このトレードは僕にとって渡りに船だ。

 

「この話は既に誇銅さんにはお話して承諾していただいてます」

「そう、もうそっちの話はついてるのね。―――いいわ、レイヴェル。私はあなたのことを応援するわ」

「ッ!? そ、それはつまり……」

「ええ、トレードを受けるわ」

 

 その言葉に僕とレイヴェルさんは喜びで顔を見合わせる。心底嬉しそうな表情だ。

 

「ありがとうございます!」

 

 レイヴェルさんはリアスさんの方へ向き直って頭を下げて礼を言った。

 

「いいのよ。大切にしてあげてね。それと、頑張りなさい」

「はい!」

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 そうして次の日の夜、学園祭の準備を含む一連の活動を終えた後、僕たちはグレモリー領にある高級ホテルへと向かった。

 そして現在、僕たちは上階の控室に待機していた。

 広い一室に高級家具一式が揃い、テーブルの上には見た事も無いフルーツ盛りやケーキ、お菓子などが並んでいる。

 このホテルの2階ホール会場にて、グレモリーとバアル、両眷属の合同記者会見が今夜開かれる。

 内容はシンプルにゲーム前の意気込み会見だと聞いている。

 両『(キング)』のリアスさんとサイラオーグさんが中心にインタビューをされる。その際に眷属にも一言二言のインタビューがあるだろうと。有名人の一誠はもう少し多いだろうね。

 自分にもインタビューがあると聞いてから一誠は緊張している様子。質問の内容もわからないのだから、何を言えばいいか事前に考えづらいからね。僕はもう大体考えてあるからそこまで緊張してないかな。

 ソファに座り込んで考える一誠の膝の上で塔城さんは落ち着いた様子でケーキを食べていた。

 アーシアさんは鏡の前でメイクの人と鏡の前でメイク調整に夢中で、ゼノヴィアさんは簡単な薄化粧だけで済ませていた。

 リアスさんと朱乃さんは準備万端。僕たちはいつもの制服姿だが、正直な感想、化粧のせいか、艶のある雰囲気を出している。

 

「ギャスパーくんはいつもの女子の制服で良いのかい?」

「は、はい。今更男子の制服を着てもなんなので……て言うか、出たくないですぅぅぅぅっ! 引きこもりの僕には記者会見なんて場違い過ぎて耐えられません!」

 

 身支度を終えた木場さんとギャスパーくん。そしてギャスパーくんは久々に段ボール箱に逃げた。気持ちはわかる。こういう勇気はまた別なんだよね。

 こうしてる間にも記者会見の時間は刻一刻と迫り、僕たちも最終チェックを済ませる。

 

「皆さん、そろそろお時間です」

 

 控室の扉が開かれ、スタッフの人が呼びに来た。記者会見が始まるか。なんだか今頃になって少し緊張してきたよ。

 

 

 

 通路を進む途中、見知った顔に出くわした。

 

「あ、リアス先輩に兵藤、誇銅、オカルト研究部の面々じゃないか」

 

 それは匙さんだった。

 

「匙! おまえ、何やってんだ?」

「言ってくれるぜ……。まあ、仕方ないか。こっちはあんま注目されないまま決定したわけだしな」

 

 一誠が言うと、匙さんはガックリと肩を落としため息を吐きながら言った。

 

「俺の所も対アガレス戦のゲームをするのさ。その記者会見を今日やるんだ」

「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!? は、初めて聞いたぞ!」

 

 僕も今知ったよ。驚く一誠にリアスさんは首をかしげながら言う。

 

「言ってなかったかしら? ソーナの所も私達の試合と同時期にシーグヴァイラ・アガレスとゲームをやるのよ。あっちもアガレス領で湖上に浮かぶ島々が会場だったかしら」

 

 聞いてないですよ。記者会見の件もそうですけど、最近、事前情報の提供が滞ってる気がするのは気のせいじゃないと思う。最近は学園祭の準備やレーティングゲームの準備とかやることも多かったけれども。

 

「だから言ったろ? 注目されてないって。そりゃ、そっちはおっぱいドラゴンとリアス先輩と有名なグレモリー眷属と、あの若手ナンバーワンのサイラオーグ・バアル眷属の一戦だもんな」

 

 シトリー眷属は強いけど、まだ赤龍帝と若手ナンバーワンの知名度には敵わないってところか。それに忍術を使ったシトリー眷属の戦い方は悪魔にとって地味に見えて受けが悪いのかもしれないね。

 

「元ちゃん、行きましょう。遅れちゃまずいし。リアス先輩、それではごきげんよう」

「あ、ああ、そうだな。じゃあ、俺達はこれで」

 

 シトリー眷属の『僧侶(ビショップ)』花戒さんがそう言うと、匙さんは頭を深く下げてからその場をあとにした。

 僕たちはそのまま通路を抜けて会場となるホールに姿を現す。

 

『お着きになられたようです。グレモリー眷属の皆さんの登場です』

 

 拍手の中、僕たちは広い会見場に入っていく。瞬間―――ピリッとした緊迫感を感じた。隠せない……いや、隠す気のない闘気。

 会見席の上には悪魔文字で「サイラオーグ・バアルVSリアス・グレモリー」と書かれた幕があり、既にバアル眷属は揃っていた。

 間を空けて、バアル陣営の隣席に僕達が座る。リアスさんが中央、右隣に朱乃さん、左隣に一誠と注目される位置にグレモリー眷属の目玉が。ちなみに僕の席は後方二段目の末席。

 バアル側は、特にサイラオーグさんの体から張り詰めた気合が発せられている。入ってすぐに感じた数人混じった闘気の大本はサイラオーグさんなのはすぐにわかった。だけどそれより気になるのは……張り詰めた気合を発するバアル眷属たちの中でいやに自然体なのが三人ほどいる。

 僕の隣でギャスパーくんが目を白黒させて必死に恥ずかしさに耐えている。僕には軽く背中を叩いて僕が横にいると教えることしかできない。

 

『両眷属の皆さんが揃ったところで、記者会見を始めたいと思います』

 

 司会がそう言って記者会見がスタート。

 ゲームの概要、日取りなど基本的な事が司会によって改めて通達され、その後は両『(キング)』のリアスさんとサイラオーグさんが意気込みを語る。

 会見は順調に進み、次に両眷属の注目選手へ記者の質問が始まった。

 男性人気の高いグレモリー眷属女性陣が質問に一言返し、女性人気の高い木場さんも難なく返していく。

 そしてついに僕とギャスパーくんの順番に。質問の内容はシンプルに次の試合の意気込みについて。特定に需要があるだろうけど、そこまで目立たない僕達にはこのくらいの質問が妥当だろう。

 ギャスパーくんはガチガチに緊張しながらも答える。

 

「せせせせ、精一杯頑張りたいと思いますぅぅぅぅっ!

「僕は次のゲームが最後ですので、いままでお世話になったことも含めて、今度こそ良い成績で締めたいと思います」

 

 僕がそう言うと、司会者も記者の方達も軽く驚いてる。

 

『最後のゲーム。と、言うのは……?』

「はい、実は先日、僕のトレードが決まりまして。でもゲームが近いとのことで、このゲームを最後にとなりました」

 

 あの後、リアスさんとレイヴェルさんの話し合いの結果、やっぱりそういういことになった。なので最後のゲームは短い間でもお世話になったリアスさんへの恩返しと、新しい主のレイヴェルさんの為に、グレモリー眷属で最後に一度だけ本気で戦おうと思っている。

 僕の返答に記者の質問が続く。

 

『その新しい主とは一体誰なのでしょうか?』

「それは……まだ秘密です」

 

 口元に指を置いて少しだけ可愛く魅せる。機嫌がいいからちょっとだけサービス。

 秘密にするのはレイヴェルさんがどうしたいのかわからないから。下手に名前を出して迷惑をかけるわけにはいかない。

 だけどこの証言で僕がトレード先が決まっていることを大々的に発表できた。これならリアスさんも土壇場でトレードを拒否することも難しいだろう。まあ、そんなことはしないと信じたい。だからこれは保険。

 こうして僕への質問が終わる。そして次は一誠が質問された。

 

『冥界の人気者おっぱいドラゴンこと兵藤一誠さんにお訊きします』

「は、はい」

『今回もリアス姫の胸をつつくのでしょうか? つつくとしたら、どの場面で?』

 

 予想外の質問に僕は一瞬思考が停止した。おそらく言われた本人も真っ白になってるんじゃないかな?

 

「…………え、えーと……」

『特撮番組同様、リアス姫のお乳をつついたり、揉みしだくとパワーアップすると言う情報を得ています。それによって何度も危機的状況を乗り越えてきたと聞いているのですが?』

 

 確かに事実ではあるけどさ、それをそのまま質問するってどうなの?! 僕の常識では考えられない! 冥界ではこういうのは普通なの!? ……まあ、おっぱいドラゴンが子供向けに、それも大人気になる冥界では今更な気もしてきた。

 

「えーとですね、ぶ、ぶ、ぶちょ、じゃなくて」

『ぶちゅう!? 今ぶちゅうと言おうとしてませんでしたか!? それってつまり、ぶちゅうぅぅぅっと吸うと言う事ですか、胸を!?』

 

 突然たくさんのフラッシュがたかれ、記者たちもざわつき出す。

 おそらく一誠は「部長」と言いかけてマズイと思い口ごもったのだろう。「じゃなくて」とか言ってたし。

 だけど記者の前での失言はかなりマズイ事態だよ。

 

『それはリアス姫のお乳を吸うと言う意味ですか!?』

『つついたり揉むとパワーアップするとしたら、吸うとどうなるんですか!? 冥界が崩壊するとかあり得るんでしょうか!?』

 

 ほら、どんどん面白おかしく解釈されて収集がつかなくなる。

 

『リアス姫! これについてコメントをお願いします!』

「……し、知りません!」

 

 そしてリアスさんにも質問の被害が及んだ。リアスさんは赤面して恥ずかしそうに顔を両手で覆う。リアスさんの隣で朱乃さんが堪えきれずに噴き出していた。

 

『サイラオーグ選手はどう思いますか?』

「うむ、リアスの乳を吸ったら恐ろしく強くなりそうだな」

『おおおおおっ!』

 

 サイラオーグさんはマジメな表情で答える。それを聞いて沸き立つ記者達。もうこれは収集不可能だ。明日の朝刊を楽しみにするしかないね。

 そんなこんなで記者会見は張り詰めた雰囲気から一転、お笑いに満ちた状態で幕を閉じた。

 

 

 

 

「ハハハハハハハハ!」

 

 記者会見後、会見場の裏手に集まるグレモリー眷属とバアル眷属。そこでサイラオーグさんが豪快に笑っていた

 

「いや、すまん。しかし、お前達と絡むと楽しい事ばかりが起こるな。戦闘前だから闘志を纏って会場入りしたんだが、すっかり毒気を抜かれてしまった。いやいや、逆にリラックス出来たぞ」

「もう! サイラオーグも変な事言わないでちょうだい!」

 

 赤面して涙まで浮かべているリアスさんはサイラオーグに怒っていた。よほど恥ずかしかったのだろう。無理もない。

 

「良いではないか。結果的に血生臭(ちなまぐさ)い会見ではなく、話題性に富んだものになったではないか。明日の朝刊の見出しが楽しみだ」

 

 ハハハ、僕も少し楽しみだ。対岸の火事は燃えるほどなんとやらと誰かが言っていた記憶がある。これがそういうことなのかな。

 まあ、例えおっぱいドラゴンの発言がトップ記事にされたとしても、冥界の風潮なら案外悪いことにはならないかもね。

 ふーっと笑顔で息を吐くサイラオーグさん。

 

「なるほどな。これが赤龍帝―――おっぱいドラゴンと戦うということか。会見でもコメントで戦わねばならないとは思わなかったぞ」

「す、すみません、こんな調子で……決してバカにするつもりはなくて……」

「そんな事は無い。気にしないぞ、俺は。逆だ。あんなにも注目を集める場所であれだけの事を起こすお前達に未知のものを感じる」

 

 サイラオーグさんは(きびす)を返し、手を振って僕達のもとを去っていく。

 

「今夜は楽しかった。次に会うのは決戦の時だな。―――空で会おう」

 

 空―――つまり空中都市の決戦場ということか。

 記者会見も終わり、刻々と僕にとってグレモリー眷属で最後のレーティングゲームが迫ってくる。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「ん~気持ちいい」

 

 記者会見後、僕たちは帰宅しいつもの日常に戻った。

 反故の予防も果たし、自宅で軽く自主トレーニングで汗を流し、気分良くお風呂に入っている。

 試合が近いのでしっかりとお風呂場で柔軟もしておく。いろんな意味で大事な試合だ、ベストコンディションで望まないとね。

 お風呂場でのしっかりとリラックスし、ホクホクとお風呂から上がった。

 寝間着に着替えて寝るまでゆっくりするだけ。

 

 ピンポーン

 

 呼び鈴が鳴る。一体こんな時間に誰だろう? そう思いながら玄関を出ると。

 

「やあ」

月読(ツクヨミ)様!?」

 

 玄関の前に居たのは、なんと月読(ツクヨミ)様だった!?

 

「ど、どうしたんですか……? こんな夜中に。とりあえずどうぞ」

「ん、お邪魔するね」

 

 神様を玄関に立たせるのも申し訳ないのでとりあえず家に上がってもらう。

 まさか月読様が直接僕の家に来るなんて……! それに連絡もなしに。もしや、何かあったんじゃ!?

 お茶をお出しして、リビングのテーブルで月読命様と対面して座る。

 

「こんな時間に突然ですまんね。昼は遠出するのが億劫(おっくう)で。夜も億劫だけど」

 

 月の神である月読様はめったに姿を見ることはない。まるで雲に隠れる月のように。特に日のある内に出歩く姿は高天原に住む神様でさえ目撃者はほぼ皆無。夜の神様らしく日が落ちるとふらっと出て来るらしい。

 姉の天照様(いわ)く、ただ人見知りが激しいだけだとか。

 僕も昼間の月読様に会ったことはある。確かに夜とは別人だった。

 

「それで、どんな用事で僕のところに……?」

「特に。まあ、強いて言うなら悪魔に日本と関わりがあることを話したことについてかな」

 

 レイヴェルさんに過去の日本での出来事を大雑把に話したことは日本神話にも伝えておいた。事後承諾だが、こういうことはきちんと言っておくべきだと思ったから。

 その時に出たのはスサノオ様で、僕が困らないなら別に構わないとだけ言われた。

 

「やっぱり何か問題が……」

「いや、別にいいんだけど。私たちとしては別に困る理由なんてないよ。危ないのは悪魔陣営に身を置く誇銅のほうね」

 

 ……月読様の言うとおり、もしもこのことがレイヴェルさん以外の悪魔、そこから魔王などのお偉い所にバレてしまったら、僕は日本神話とのパイプとして利用される恐れが十二分にある。従わない転生悪魔がどうなるかわからない。最悪の場合……。

 逆に日本神話側は僕を切り捨てれば済む話だ。僕一人のために日本に住む人達を危険には晒せない。そうなったら是非とも切り捨ててほしい。

 月読様は話を続ける。

 

「だからちゃんと私たちを頼るね」

 

 いつも通りの鋭い眼光と無表情のまま、僕を気にかける言葉をかけてくれた。

 

「一人で何か溜め込んでないか見に来たけど、大丈夫そうだね」

「心配しくてくださってありがとうございます」

天照大神(姉さん)は誇銅を弟のように思ってる。姉さんの弟つまり私の弟。家族心配するのあたり前ね」

 

 冷酷な表情で眉一つ動かさず僕を家族と言い心配しくれる。

 日本(この国)の最高神に家族のように思ってもらえるなんてありがたいことこの上ないよ。日本人として一番光栄なことかもしれない。

 

「ご安心下さい。新しい先では日本での出来事を話す前にいくつか約束してくれました」

 

 僕はレイヴェルさんに三大勢力の利益になることで力を貸せないことを了承してもらったことを話した。すると月読様は目を細めて僕に言った。

 

「その悪魔は本当に信用できるね?」

 

 レイヴェルさんのことを全く知らない月読様にすれば、相手が悪魔の時点で信用に足りるか相当疑わしい。だけど―――。

 

「僕がまだ何も成し遂げていない時代から、僕を認め優しくしてくれた(悪魔)です。僕は信用したい……信用できる人だと確信しています」

 

 僕が自信ありげに言うと、月読様は変わらない疑いの目で僕の目をじっと見つめる。疑うのは当然、だから僕も逃げない。

 しばらくして、月読様は目を閉じ小さく息を吐く。

 

「わかったね。誇銅の人を見る目を信じるよ」

「ふぅ、ありがとうございます」

「勘違いしちゃだめね。私はその悪魔じゃなく、あくまで誇銅を信頼しただけ」

 

 日本神の悪魔に対する悪印象は相当深い。その中でこれくらいの信用を得られれば上出来だ。

 一段落ついたのか月読様はテーブルのお茶に手を付けた。僕も一息入れるために飲む。

 

「ところで、そろそろ後ろでチラチラ見てくる奴の紹介もしてくれないか?」

 

 月読様は顔を動かさずに僕にそう言った。後ろの出入り口の方を見ると、罪千さんが影からチラチラと僕達のほうを覗いていた。月読様に集中しすぎて気づかなかった……。

 僕は少し左にずれて隣をポンポンと叩き罪千さんを呼ぶ。罪千さんはオドオドしながら僕の隣に座った。どうやら月読様の雰囲気と表情に怯えてるみたいだ。

 

「罪千さん、こちらは日本神の月読様。月読様、この人が前に言っていた罪千さんです」

「よろしくお願いします」

「ん、よろしく」

 

 二人の軽い顔合わせの挨拶が済む。その後、罪千さんとの出会いについてできるだけ詳しく説明した。月読様レベルの人なら正直に話してしまった方がいいだろう。ただし、邪神のこととリヴァイアサンがどんな存在かはあえてぼかした。

 リヴァイアサンは強力な捕食能力、擬態能力、再生能力を持つ絶滅種の怪物の生き残りとだけ伝えておいた。嘘は言っていない。ただ神の手にも余った原初の怪物と言わなかっただけ。そんなことを伝えれば要らない心配をかけてしまう。邪神の件も同様。

 一通り話し終えると、僕の説明を黙って聞いていた月読様は罪千さんをじっと見る。

 

「へ~、そんな怪物がいたなんてね。私も知らなかったよ。なるほど、私から見ても完璧な擬態能力ね」

 

 じろじろと見る月読様が怖いのか、罪千さんはビクビクしている。落ち着かせるために僕は罪千さんの頭を優しく撫でる。すると、いつ戻り嬉しそうに大人しく僕に撫でられた。

 それを見て月読様は若干不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。なので罪千さんのナデナデはほどほどでやめる。

 

「私にとって誇銅さんは恩人で大切な人です。だから、誇銅さんは私が体を張ってお守ります……!」

 

 僕に撫でられて落ち着きを取り戻した罪千さんは、月読様にそう宣言した。すると月読様は―――。

 

「ふーん……守るねぇ…………」

「ッ!!?」

 

 月読様の鋭い殺気が僕を貫く。尖すぎる殺気に気圧されて反射的に動けなかった!

 

「ッッ!!」

 

 すると、罪千さんは僕を守るように僕の前に飛び出した。

 

「遅い……。けど、私の殺気に立ち向かえただけ良しとするね」

 

 月読様の言うお通り、もしもあれが本気だったら完全に出遅れている。が、それでも月読様の殺気に対して僕のために立ち向かってくれた。

 

「とりあえず、周りに信頼できそうな人がいてよかったよ。これなら少しは任せられるかもね」

 

 そう言うと、月詠様の口角が少しだけ上がった。

 

「それとキミの怯えた表情、とっても良かったよ」

「ひぃっ!」

 

 すると今度はサディスティックな笑みを浮かべた。

 罪千さんを試したのか。月読様も昔と変わりないようで。

 

「さてと、長居してしまったね。私はそろそろ帰るとするね」

 

 月読様は立ち上がり、玄関へ歩いて行く。僕達も立ち上がって玄関まで見送る。

 玄関で月読様が靴を履く時、ある違和感に気づく。その違和感は月読様が玄関で靴を脱いで家に上がった時にも感じていたが、それが何なのかたった今気づいた。

 

「シークレットブーツ…………。月詠様……やっぱり気にしてたんだ」

 

 月読様が昔から僕と同じように身長について気にしていた。


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