無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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不幸せな平成の悪魔

 目が覚めるとものすごく見たことそこはものすごく見覚えのある場所だった。

 そうだ、僕が爆発に巻き込まれたあの場所。

 

「……戻ってきた。いや、戻ってきてしまったのか」

 

 確かに僕はこの時代に少なからず大切なものがある。

 でも正直に言うと戻りたくなかった。それほどまであの時代は僕にとって幸せな世界。それほどまでにこの時代は苦しい。

 戻らなくてはいけないと口では言っていても本当はあのままいたかった。

 

「それでも、いずれこの日が来るとは思ってた」

 

 いきなり違う場所に来てしまう出来事も三回目となれば馴れてしまう。それも今度は知っている場所。

 僕は冷静に自分に何か異変がないかを調べてみた。

 まずは悪魔の翼を出して軽く動かしてみたり、ごく少量で精密性を重視した魔力の塊を出してみる。

 

「うん、特に問題なし」

 

 次に体に何か不調が起こっていないか。

 藻女さんに教わった稽古を一人でできる部分を一通りやってみる。何か体に些細な違和感でもあればこれで気づける。

 瞑想からの呼吸法、一通りの型の動き、敵をイメージしての一人稽古。それらをすべてやってみた結果なんのズレもない。

 まあ今までの移動も一度として何か体に不具合が起きた事はないけどね。

 

「う~んとそれじゃ……どうしよっかな……?」

 

 これからどうするか。

 特に行くあてはないけどかといってこの場所にずっといるわけにもいかない。

 今までみたいに運よく日本の力に助けてもらえるわけもない。というかこの時代じゃ日本妖怪に会う可能性自体が低いと思う。

 リアスさんの眷属をやっていた時代でも妖怪という種族には会ったことはないし、この時代の日本神や日本妖怪はどうなってるかも知らない。

 

「まっ帰れるとこなんて限られてるよね」

 

 僕は一人でとぼとぼと自分の家に向かった。

 他の人には合わなかったけど今の僕の格好は和風すぎてちょっと恥ずかしい。

 前の学生服はあっちの世界でボロボロになっちゃったし新しいのを注文しないと。

 

「さて、帰ってきたのはいいけどどうしよう」

 

 あの爆発だから絶対死んだと思われてるだろうね。

 てか僕が死んだって事はどの辺まで知られてるんだろう? 世間に既に公表されてたらここにいる事すらまずい。

 

「とりあえず悪魔関係で信頼できるのは」

 

 僕はまず最初にギャスパー君に電話してみた。

 ギャスパー君は悪魔の中で僕が最も信頼する人。一誠は……失礼だけどあまり信用できない。

 一誠もいい人なのは知ってるけどやっぱり頼るにはイマイチなとこは昔からあった。それに今はガッツリリアスさんたちの味方だしね。

 

「というか……一誠ってリアスさんたちと同じ屋根の下で住んでたっけ?」

 

 仲間の大部分が信用できなくなってる僕にとってリアスさん本人に直接いくのは大変まずい。

 そんな事を考えていると電話が通じた。

 

『はい、もしもし』

「久しぶり、ギャスパー君」

『!!』

 

 ギャスパー君の声に元気がない。

 どうしたのかと聞こうとした瞬間ギャスパー君らしかぬ大きな声が返ってきた。

 

「どうし…」

『誇銅先輩! 本当に誇銅先輩なんですか!?』

「う、うん、そうだよ」

 

 すごく声の大きなギャスパー君との電話でいくつか話をした結果、ギャスパー君が僕の家に来たいと言い僕もそれを許可した。

 僕の家には仲間たちが来ることがないので転移魔法陣はない。というか前からみんな僕に興味がない。あれ? 自分で言ってて涙出てきた。

 やっぱり僕にこれといって目立ったものも新人でも一誠のようなインパクトや激しいやる気がなかったからかな?

 単純に時間の問題だとは思うけど、一誠が割と初めから仲間として手厚く受け入れられてたから。それに対して僕はあの時から殆どみんなの眼中にないみたいに。

 あれ? 本格的に涙が出て来たぞ?

 

 そんな感情を忘れるためギャスパー君が来る前にチャチャっとお客様用の準備を整える。他の事に集中して涙も乾き何とか元気を取り戻せたよ。

 すると準備が終わらないうちに割と早い時間でギャスパー君が家に到着した。

 

「誇銅先輩……本当に誇銅先輩だ……」

 

 ギャスパー君は玄関で僕の姿を見ると涙ぐんで僕に抱き着く。

 そっか、ここまで僕が返ってきたことに喜んでくれて返ってきた甲斐があったよ。

 確かに平安時代では幸せだった。だけどあそこは本来僕がいるべき場所ではない。この時代が僕がいるべき時代。

 確かにつらい事が多かったけどこういう幸せもある。

 ギャスパー君にはいくつか聞きたいことがあるけどまず聞くことは。

 

「ねえ、僕の使い魔のももたろうを知らない?」

「それが……」

 

 ギャスパー君はなんだか言いにくそうにする。

 え? ももたろうに何が!? 確かももたろうのいた部屋の窓に不自然に血がついてたけどもしかして……。

 

「餌の食べすぎでこんなに太っちゃいました」

 

 ギャスパー君はポケットから丸々と太ったももたろうを僕に見せてくれた。

 太っちゃっただけかい!

 

「最初誇銅先輩の家でももたろうを見つけた時はビックリしました。何度も窓に頭を打ち付けて出ようとしたみたいで頭から血を流していました。

 それでも命に別状はないみたいで僕が預かったんですけど、ももたろうがほしがるまま餌をあげちゃってこうなっちゃいました。ごめんなさい!」

「いや、別にいいよ。それよりもももたろうを預かってくれてありがとう」

 

 ここまで太るまで餌をほしがったのは僕が急にいなくなったストレスかな?

 ももたろうは飛ぶこともままならず僕の腕をゆっくりと一生懸命登って、途中落ちたりもしながらやっと僕の肩までたどり着きほっぺをすりすりしてくれる。

 ふふ、ももたろうにはダイエットさせないとね。

 

「ごめんなさいごめんなさい、僕がちゃんとお世話しなかったばっかりに!

 ここまで太っちゃう前に気づけたはずなのに!」

「そんなに謝らなくて大丈夫だよ。だから落ち着いて。

 僕だって他人のペットを預かってご飯を多くねだられたら同じことをしてしまいそうだし。

 それよりこうして今まで大切に預かってくれた事が僕はとてもうれしいんだ」

 

 ももたろうが僕の肩からゆっくりと降りて僕の手のひらまで来るとギャスパーくんの方へ手を伸ばす。

 どうやらギャスパーくんの方へ行きたいらしい。

 痩せていれば僕の肩から飛んで行けるのに。

 ギャスパーくんにももたろうを渡すとももたろうは僕の時と同じように腕からよじ登ってギャスパーくんの肩まで行く。やっぱり太っているから何度か落ちたりしてね。

 そしてももたろうの愛情表現のほっぺすりすりをする。

 

「ほら、ももたろうもありがとうって言ってるんだよ。

 ギャスパーくんがこうして預かってくれなかったら僕はももたろうと再会できなかったかもしれないんだし」

「あ、ありがとうございます」

「とりあえず玄関で話もしづらい。上がって、もっといろいろ教えてよ」

「はい、おじゃまします」

 

 僕は最低限の掃除をしたリビングにギャスパーくんを連れて行っていれたての紅茶を出す。

 コーヒーか紅茶のどっちかを聞こうと思ったけどコーヒーがなかった。

 

「それじゃ、まず僕は今どういうことになってるのか教えてくれないかな?」

「わかりました。じゃあまず…」

 

 僕が悪魔で唯一信頼するギャスパーくんに自身の生存を知らせた僕はとりあえず僕の今の扱いを聞くことに。

 すると今の所僕は休学扱いでまだ死亡したことにはなっていないらしい。

 魔法で一般人の記憶や認識を変えられても面倒な手続きのため転校した事にすると話が進められているとか。

 

「ところで他のみんなはどう? その、僕がいなくなったことに関して」

「あの……」

「正直にお願い」

「一応落ち込んでる様子は見せてますけど、僕にはみんなそれほど落ち込んでるようには見えませんでした。

 その、あの時も誇銅先輩がいない事もみんな気づいていませんでしたし」

 

 やっぱりか。予想はしてたけどね。

 部長や僕が入る前から悪魔だった人たちはまあわかってた。だけど一誠やアーシアさんまでそうだったなんてちょっとショックだな。まあ、それも十分予想範囲だけどね。

 一誠は悪魔になってから僕に絡まなくなった。人間だった頃はよく僕に絡んでナンパの出汁にしようとしていたのに。

 ライザーさんとのレーティング・ゲームの時、アーシアさんは僕を素通りした。

 何の希少性も突出した強さもない僕を見てくれる人は誰もいない。僕の居場所なんて初めからなかったんだ。

 唯一僕を見てくれたのはあの時はまだ居場所がなかったギャスパーくんだけ。

 

「やっぱりか」

「誇銅先輩……」

「……ねえ、ギャスパーくん。僕が帰ってきたことはもう少し伏せておいてくれないかな?」

「はい、わかりました」

 

 ギャスパーくんは少し不思議そうな顔をしながらも僕のお願いを聞いてくれた。

 僕が聞きたかったことはこれでだいたいわかったよ。

 それを察したギャスパーくんは今度は僕に質問をした。

 

「ところで誇銅さんは今までどこにいたんですか?」

 

 ギャスパーくんは当然僕が昔の日本にいたことなんて知らない。なのになんでどこにいたかなんて質問をしたか。

 服も着替えてるし身長も見た目もあまり変わっていない。しいていうなら髪が少し伸びたくらいかな。

 

「どうしてどこにいたかなんて聞くの?」

「その、誇銅さんの雰囲気がなんかちょっと変わったっていうか凛々しくなったっていうか」

 

 なるほど。確かに僕は藻女さんとの稽古で自分でも感じる程強く変われたと思ってる。

 たぶんこの変化は僕のことをしっかり見てくれたギャスパーくんだから気づかれたんだろう。他のみんなは絶対に気付かない。

 

「そっか、なんだかうれしいな。

 だけど今は何処にいたかは言えないんだ。ギャスパーくんを信頼してないってわけじゃないんだ、ただ一度僕自身が確認する必要があるんだ。それが確認できたら信頼するギャスパーくんには必ず教える。だから今は秘密にさせてほしい。ごめん」

「わかりました。だけどこれだけは言わせてください。

 僕は部長の眷属でも誇銅さんの味方です。誇銅さんの不利益になるような事は部長に背いてでも絶対にしません」

 

 気弱なギャスパーくんから感じた強い意志。その意志に頼もしさすら感じた。

 まいったな、僕は2年も修業してここまでたどり着いたのに年下のギャスパーくんにこんな強い意志を示されるなんて。二年前の僕じゃこんな強い意志は持てなかっただろうに。

 ギャスパーくんに負けないようにこれからも稽古を頑張らないと。

 それから少しだけ別のどうでもいい会話をしてからギャスパーくんは帰った。ももたろうはここに置いて。

 

「は~これからどうしようかな……」

 

 僕はベットに横になってこれからを考える。

 ももたろうは前に作ったかごのベットに乗せたのに僕の上に乗っている。

 太りすぎて碌に飛べない体では結構な運動量だろうに。

 

「ふふっ」

「ジー」

 

 ももたろうの顎をちょこっとくすぐると気持ちよさそうな声で鳴く。

 こうやってももたたろうを撫でる事は悪魔になって数少ない得したことだよ。

 しばらくももたろうと遊んでももたろうが遊び疲れるとかごのベットに戻す。するとももたろうはすぐに眠ってしまった。

 

「さて、僕もこれからについて考えるか」

 

 このままリアス部長の所へ戻るべきか。

 もし戻ればリアスさんの加護を受けれるけどあの居心地の悪い場所に逆戻り。

 一方で戻らなければはぐれ悪魔扱いを受けるだろう。

 それなりに腕に自信はあるが同格以上の悪魔には勝てないだろう。

 

「どうしよう…………!」

 

 僕はすぐさまベットから起き上がってギャスパー君にもうすぐ夜で悪魔として仕事があるかもだけど電話した。しばらく町を出ると。

 僕はすぐさま遠出の準備のため荷物を詰め込んだ。あの時代の服装に馴れてしまって洋服がなんだか若干気持ち悪い。

 上着のポケットにももたろうを入れて家をすぐに家を出る。

 

「そうだ、京都行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに家をでた僕は京都まで行くためのチケットを取る事を忘れていた。

 だからすぐに緑の窓口ですぐに乗れる京都行きの新幹線の席がないかを確認してもらう。

 

「新幹線のチケットが取れて本当によかった」

 

 運よくキャンセル席があってそこに乗る事ができた。

 これで何とかスムーズに京都に行けそうだよ。

 

「ジージー」

「急に連れ出しちゃってごめんねももたろう」

 

 暇な新幹線の中、ももたろうと遊びながら時間をつぶしたり新幹線の中で仮眠をとりながら京都まで向かう。

 

 そして辿り着いた京都。

 平安京なんて昔の京都にはいたけど、今の京都に来るのは初めて。

 だけど観光に来たわけじゃない。

 

「え~と地図によると」

 

 僕は昔の地図を見ながら昔の平安京の場所を探す。

 当然昔の道はとっくに使えなくなって変化が激しい。だけど僕には何としても行きたい場所がある。

 そこを目指して地図とにらめっこ。

 

「えっと……この辺だよね?」

 

 ちょっとずつだけど目的の場所に近づいていく。

 そして辿り着いたのは。

 

「うん、この場所で間違いない」

 

 かつて僕がお世話になっていた藻女さんの屋敷。

 僕にとって第二の我が家と言える大切な場所。家族同然に扱ってもらった思い出深い場所。深い思い出と懐かしがってるけど僕からすればちょっと出かけたくらいの気持ちだけどね。

 

「……やっぱりないか」

 

 当然平安時代にあったあの屋敷なんて残ってるハズもない。僕の体感時間からしてうらしまたろうの気分だよ。

 僕は藻女さんを頼ってここに来た。僕にとって同族の悪魔よりも日本妖怪の方がずっと信用できる。

 しかしあくまで今の悪魔が信用できず昔の日本妖怪が信用できるだけ。現代の知らない妖怪をすぐに信用できないし信用してもらえない。

 まいったな、藻女さんたちの協力なしに天照様やスサノオさんの所へは行けない。

 かといって他の七災怪の皆さんの住んでいた所や今も健在そうな大妖怪の居場所はもっと遠く険しい。

 

「仕方ないね、そっちを頼ろう」

「お兄ちゃん?」

 

 僕がすっかり藻女さんの方を諦めて振り返るとそこにはあの時の変わらぬ姿のこいしちゃんが僕を見ている。

 

「……こいしちゃん?」

 

 いやいやおかしいよ。だってあれから1000年近い時が流れたんだよ?

 こいしちゃんがあの時と全く同じ姿ってのはどう考えてもおかしい。もっと成長しているハズ。

 

「お兄ちゃんだ!」

 

 だけど目の前のこいしちゃんはあの時と全く変わらず僕に抱き着いて僕に甘える。

 姿が変わっていないのはおかしいけど今僕に甘えてるこいしちゃんは間違いなく本物のこいしちゃんだ。間違いない。僕もこいしちゃんの甘えに応えてギュッと抱きしめる。

 

「ごめんね、急にいなくなって。こんなに長い時間待たせて」

「エヘヘ」

 

 こいしちゃんは特に何か言うわけでもなく黙って僕に撫でられ甘える。

 たっぷり再開を楽しんだところでこいしちゃんを離す。僕にとっては約一日会ってないくらいだしね。

 だけどこいしちゃんは僕の服を離さない。そりゃ僕にとっては短い時間でもこいしちゃんからすれば気が遠くなるような時間だったし。

 

「ねえ、藻女さんや玉藻ちゃんはどこにいるの?」

「こっち!」

 

 こいしちゃんはそう言って手招きしながら先を走る。

 昔こいしちゃんと玉藻ちゃんに町を案内してもらっていた時のような感覚だ。僕が周りの物珍しさにキョロキョロと目を奪われてる間にこいしちゃんはずっと先の方で手招きして待っている。

 他の人がいてもこいしちゃんは見た目相応の元気な声で僕を呼ぶ。そして僕は小走りでついていく。

 こいしちゃんについていくと神社の鳥居の前まで来た。

 

「こっち」

 

 こいしちゃんは鳥居の前で僕を待つ。

 そして僕の手を繋いで鳥居をくぐると世界の空気が変わった。

 この空気知ってる、人間が立ち入らない妖怪の世界の空気。なるほど、妖怪の世界も少し変わったんだね。

 

「さっ、行こう」

 

 その中には田舎のようなちょっと古い建物が並んで人間界の京都とは違う。どちらかと言うと昔の平安京に似ている。でもそれよりは時代は進んでるね。

 だけどこいしちゃんに連れられた場所はあの時の屋敷そっくりの場所だった。屋敷にずかずかと、今の人から見れば僕はよそ者だ。だけど周りの人はこいしちゃんすら誰も見ていない。まるで見えてないかのように。

 こいしちゃんの無意識の能力はちゃんと成長したみたいだ。それが意識か無意識か僕の姿を認識できないようにしてくれてるんだね。

 

「ただいま~」

 

 こいしちゃんが襖をあけて元気よくただいまと言った相手は藻女さんと玉藻ちゃん。

 やっぱり二人ともあの時から全く変わっていない。

 二人は僕の姿を見ると手に持っていたものを落としてしばらく固まった。

 

「誇銅……」

「お兄様……」

「ただいま戻りました」

「誇銅!!」

「お兄様!!」

 

 二人の妖狐の強烈なタックルにも似たフライング抱き着き。

 僕にそれを受け止める力も身長もなく力に逆らわず倒れた。

 そのはずみで僕のポケットからももたろうがころころと転がり落ちてしまう。

 

「誇銅、いきなり目の前でいなくなって心配したんじゃぞ!」

「そうじゃそうじゃ、妾たちを置いて1000年も。ずっと会いたかったのじゃ!」

 

 二人とも涙を流して笑顔で僕をギュッと抱きしめる。それはもう痛いくらいに。だけどうれしい。ここまで熱烈に僕が戻ったことを喜んでくれて。二人を抱きしめるとその愛が僕にも深く伝わってくる。

 

「天照様に言ったら1000年後くらいにまた会えるじゃろうって言うから妾たちはずっと待ったのじゃ!」

「お兄様と一番仲の良かった八岐大蛇もまた会えるしか言わんし。

 神と最も近い時間を生きた八岐大蛇がそういうから絶対に1000年後くらいに会えると確信はできたが、やっぱり長すぎたのじゃ!」

「「でも戻ってきてくれてよかったのじゃ~!!!」」

 

 二人が僕に夢中な間にももたろうをこいしちゃんが優しくすくいあげてじっと見る。

 

「この子がお兄ちゃんが昔行ってたももたろうだね!」

「ジージー」

 

 自分の名前を呼ばれたからかももたろうも返事をする。こいしちゃんは丸々と太ったももたろうが気に入ったのか撫でまわす。

 だけどいかにこいしちゃんがももたろうに夢中でも二人の激しい歓喜の行動は一向に収まりを見せない。もう僕の体は二人の尻尾でぐるぐる巻きにされている。

 

「さて、これはこのぐらいにして」

「え?」

 

 僕は藻女さんと玉藻ちゃんにぐるぐる巻きにされた状態でどこかへ連れて行かれる。え、どこへ連れて行くの?

 そして連れて行かれた部屋は大きな布団が敷かれた部屋。

 

「さて、今日は妾と玉藻どちらをご所望か?」

「え、いや」

「親子丼か? 親子丼をご所望か? いきなり二人とはお盛んで結構な事じゃ」

 

 僕はこの時やっと気づいた、僕は今捕食されようとしてる事に。性的な意味で。今思い返してみると涙が収まった後の二人の目は飢えた獣の目をしていた。

 

「え、ちょっと、待って! 僕まだ17、17歳だから!」

「何言っておる。あの時代で2年過ごしたから19であろう。それに17でもこっちの経験をするには十分な年じゃ」

「それに妾は1000年、正確には1201年待ったのじゃもう契ってくれてもよいじゃろ?

 契りに関しては妾でもお母様でも良いぞ」

 

 どっちと結婚してもどっちも食べるんですね。ってそうじゃない! ダメダメダメ! 確かに二人とも大好きだし本当に家族になってもいいと思う程だけどそれとこれとはまた別。それに今非常にややこしい事になってるんだから余計ややこしくしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 結局二人を鎮めるまで体感にして2時間(本当は1時間未満)かかったよ。

 

「すまん、ついつい興奮してしまい暴走してもうた」

「まあ事なきを得てよかったです」

「しかし妾たちの気持ちは本当じゃ。いつでも受け入れる準備が妾たちにはあるぞ」

 

 こんなに子供な姿なのに。

 あの純粋にお兄ちゃんと慕ってくれた妹の玉藻ちゃんはもういないんだね。行動が完全に藻女さんと一緒だ。

 

「それで、ただ妾たちに会いに来たわけではないのだろう?」

「あの、その」

「気にする必要はない、誇銅の立場からすれば当然じゃ。

 それに妾たちに会いたいという気持ちもあったんじゃろ?」

「はい!」

「なら良い。それが妾たちは嬉しい」

 

 藻女さんは嬉しそうに僕に笑いかけてくれる。

 その笑顔で僕の心の中の重しがグッと軽くなる。

 やっぱりここは自分の家以上に心が安らぐホームだよ。

 

「今日はもう遅いから高天原へは明日案内しよう」

「本当にありがとうございます」

 

 その日は藻女さんの屋敷で一夜を過ごした。

 当然僕の布団に昔のように三人が同じポジションで入ってきてとても暑い。

 しかし、成長した玉藻ちゃんは藻女さんと同じく寝ながらでもちょうどいい風を出せるようになっていてかなり快適だったよ。

 

 翌朝、約束通り高天原の入り口であり多賀護神社まで連れて行ってもらうことに。

 普段は七災怪か日本神以外かその誰かが許可した場合しか入れない。だけどただの人間や悪魔などの他国の人外は入り口にさえ近寄る事も認識することもできない。

 僕は一応近寄る事はできるけどやっぱり藻女さんたちと一緒じゃないと入れない。本当に藻女さんにはお世話になった。

 別れ際に僕の家の住所を書いたメモを渡した。いつでも遊びに来ていいよという意味を込めて。

 

「これ玉藻、そろそろ離してやらんか。

 ここは誇銅が元々おった時代。もう前のように未来へと消えてしまう心配はない」

「うむ、わかっておるのじゃがやっぱり不安でのう」

 

 去り際に一回思いっきりハグしただけで離れてくれたこいしちゃんに比べてなかなか離してくれない玉藻ちゃん。

 見た目は幼くてももう立派な大人なはずなのにこの子供のような不安感。やっぱり子供時代にあんな別れ方をしてしまったトラウマなのかな。

 

「大丈夫だよ玉藻ちゃん。もう僕はどこかに行っちゃったりしないからさ。

 今度は玉藻ちゃんが僕の家に遊びに来て。場所はちゃんとメモに書いてあるからさ」

「うむ」

 

 やっと納得してくれたようで手を離してくれた。

 それでもさびしそうな顔をする玉藻ちゃんの頭をもう一度撫でてあげる。不公平にならないようにこいしちゃんもね。

 するとやっとさびしそうな顔をやめて笑顔で送り出してくれた。ここまで別れを惜しんでくれるなんて僕はなんて幸せものなんだろう。

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そして儂の所へと辿りついたのじゃな」

「はい、短いながら結構いろいろ起きました」

 

 高天原でアマテラス様との席を設けてもらった僕はすぐにアマテラス様と話すことができた。

 ここも様変わりしてもっとややこしい手続きとか順番待ちとかがあるかなと思ったけどここはあの時、もっと言うなら弥生時代の時からあまり変わっていない。やっぱり変わらないってのは安心するよ。

 

「やっぱり藻女は暴走したか。そりゃ1201年も思い人から突然離されれば暴走もするだろう。

 むしろお主をくわなんだ九尾親子の精神力の高さは天晴じゃな。カッカッカ」

「あははは」

 

 ここに来た瞬間アマテラス様からここに来るまでの状況を聞かれた。

 主に藻女さんの屋敷でのハプニング部分を。

 もっと他に聞かなきゃいけない事ってあるでしょ? どうやって時を渡ったかとかその後何をしていたとかなぜここに来たのかとか。

 アマテラス様はそんなのどうでもいいと言うかのようにまず最初に藻女さんと再会して何をされたか聞いてきた。

 それでいいのか日本の最高神。

 

「ここに来るまでどんな経緯があった、昨晩はどうじゃった、藻女とやったのか?」

 

 と、なんだかグイグイ聞いてきたのでこの時代に戻ってきたところからここに来るまでの経緯は話す事に。やっとこっちの話題に移ったかと思ったらまだ藻女さんとのハプニングを聞いてくる。やってません!

 だけどちょうどよかった。これで僕の相談したい事もある程度伝わっただろう。

 

「悪魔として、三大勢力に属する立場としてこれからどうするかと言ったところじゃのう」

「はい、あの日から僕は死亡扱いになってます。だけどこうして生きてる事実は隠しきれるものではありません。

 戻るにしろ、このまま去るにしろ問題が」

「儂ら日本勢力は三大勢力から同盟を申し込まれているがずっと拒み続けておる。

 しかし日本は三大勢力、特に悪魔から甚大な迷惑を被っておる」

 

 天照様はお茶を一口すすり真面目な雰囲気になる。

 その目には若干の不愉快が混じっている。

 

「まず一番許しがたきは妖怪の拉致問題に日本国民への生命の侵害。

 前者は希少な妖怪を勝手に悪魔にして自分に従わせる。それで数が減れば保護と称して勝手に自国に持ち帰り結局悪魔にする。

 後者は主にはぐれ悪魔と呼ばれるものの仕業じゃ。それで一番の被害を受けるのは人間。その被害の責任をちっともとらんくせにはぐれ悪魔問題に無関心ときとる。

 おかげでそのしわ寄せがこっちにきて結局その辺の始末はこちらがやらされとる」

 

 アマテラス様の目にはさっきよりも露骨に不機嫌が浮かび上がる。

 そりゃやるだけやっといて被害にあった人への何かしらの保証や賠償がないうえにその保障や賠償だけをこちらでやらされてる現状なんだから。

 確かアーシアさんが眷属入りする前にもあの神父に殺された人間の被害者がいたよね。このぶんじゃあの人は死体の後始末、それ以降も何かやってても隠ぺいくらいだろうね。今度確認してみよう。

 アマテラス様は苛立ち交じりの声で説明を続ける。

 

「そして同盟を拒んではいるが日本での商売などは儂も認めておる。

 貿易という意味合いで鎖国するわけにはいかんしそこまでする気もない。こちらにもそれなりと徳はあるしのう。

 問題なのは日本の領土を勝手に自分たちの領地だと言い張ってかなりの土地を侵略し我が物顔でおる事じゃ」

 

 じゃあグレモリーの領土と言い張っていたリアスさんの言葉も日本勢力に無許可だったんだ。

 はぐれ悪魔も初めて説明を受けた時からなんだか腑に落ちない事が多かったけど実際にその通りだったんだね。

 

「日本の妖怪ははっきり言って弱い。外国の怪異とくらべると妖力、つまり魔力が極端に低いものが多い。

 それでも昔の妖怪たちには技があった。強い妖力を抱擁する大妖怪に対抗するべく少ない妖力を無駄なく使い強大な技とする技術。

 しかし、戦国の世も終わり争いも減って昔のように戦う必要がなくなった現在その技も習得する妖怪が減った。

 そのせいで一般妖怪たちは悪魔や堕天使などの三大勢力の侵略に抵抗ができない」

 

 確かに平安時代に居た頃も道端や一般で見かける妖怪は藻女さんと比べる事もなく僕と比べてもずっと魔力が小さかった。

 実際にその辺の妖怪と戦う事になると技で倒すというよりも地力でねじ伏せるような戦い方で勝てたよ。

 それでも多少の技を使ってきて九尾柔術を学んでなかったら負けていただろう。おそらく朱乃さんでも技の差で勝てないと思う。

 

「七災怪が直接収める地域や、実力ある大妖怪が住む場所くらいしか日本の領土と呼べん」

「僕の同族がそのような事を。本当に申し訳ありません」

「誇銅が謝る事ではない。それにこちらもただやられてるだけではない。七災怪が収める地や強い大妖怪が収める地では完全に悪魔を抑え込んでおる。

 妖怪ヤクザ頭で陽影の鬼喰いなんぞ悪魔共からショバ代などとって大いに頼もしい」

 

 よかった、日本も三大勢力にやられっぱなしじゃないんだ。七災怪の皆さんの頼もしさはこの時代でも健在なんだね。

 だけど天照様を悩ませる事態の解決にはなっていない。

 

「天照様はこのままでいいのですか。悪魔の僕が言うのもあれですけど、この被害の申し立てを三大勢力や世界に訴えかければ」

「無理じゃ」

 

 なぜ天照様はあっさりと無理と決めつけてしまうのか。これだけ証拠があればきっと通る。なのに天照様はなぜそれをしないのか。僕が考え付いた結論は。

 

「……戦争ですか?」

 

 戦争。これだけ無法な事を裏でやっていた三大勢力の力なら戦争を起こすこともたやすい。表では平和をうたっていても、大義名分と称して日本に攻めてくる可能性もある。

 自分たちの言う平和を乱すものに武力行使をいとわないのを僕は知っている。

 今思えば悪魔化なんて拉致紛いの事を悪魔を増やすなんて身勝手な言い分で通す横暴さが国ぐるみで、世界ぐるみで認められてるのが現実だ。

 

「やはり三大勢力との争いが」

「例え戦争になったとしても負けるなどこれっぽっちも考えておらん。

 しかし、向こうは弱小でも大勢力。儂らのような小国がまともにぶつかれば民に被害が出る。それは避けねばならぬ。

 現在三大勢力は勢いづいてる。この程度の事で文句を言っても揉み消されるだけじゃ。

 だから今は耐えて静かに機が来るのを待つ。

 この調子なら奴らは遠くない未来、必ず権威は崩れる。それまで待つのじゃ。

 もしくはこちらがそれに対抗できる力を身に着ける時まで」

 

 天照様の言うとおり確かにこんなことがそう長く続くとは思えない。まさかこんな横暴を日本にだけ対して行ってるとも思えない。きっと世界中で同じような事をし、はぐれ悪魔問題も起こしてるのであろう。

 ならばそのことで足元をすくわれるのは時間の問題だろう。

 

「じゃからすまん、誇銅をかくまう事も強引に日本勢力所属にするわけにもいかんのじゃ。本当にすまん」

 

 天照様は僕なんかに頭を下げて本当に申し訳なさそうにする。

 僕は別にそこまで天照様を頼ろうと思ったわけじゃない。ただ僕はこの先どうするべきかヒントだけけもいただこうと思っただけで。

 それに僕にだって自分の手でけじめをつけないといけない。それすら日本のおんぶ抱っこになるわけにはいかない。

 僕は急いで天照様に頭を上げるようにお願いする。

 

「頭も上げてください天照様。

 そんなの構いません、それに僕は天照様に相談に来ただけですのでそこまでしていただくわけには」

「いや、あの時儂の愚行を誇銅に改めさせてもらえなければもっと日本は落ち目になっておっただろう。それを救ってくれた恩義に報えぬこと無念じゃ」

「いいえ、僕を日本の仲間として受け入れてくれたではありませんか。それもこんなにこう待遇で。それが天照様からいただきた最高のお返しではいけませんか?」

 

 リアスさんやの所では決して敵わなかった僕のほしいものをすべてくれたのがこの日本勢力。どんなにほしいと思っても現代では手に入る見込みが少なかったものをこんなにもたくさん僕に与えてくれた。

 僕は十分以上にお返しを貰っている。

 

「そう思ってくれておるならありがたい。

 なら儂ら日本は全力で誇銅をサポートしよう。儂らにできる事は何でも言うがよい。

 七災怪たちも初代は皆喜んで力を貸してくれるじゃろう」

「それはありがた、ん? 初代?」

「ああ、火影と雷影と陰影は二代目に変わったのじゃ。全員信頼できるからいずれまた紹介しよう。

 もちろん初代も全員まだ生きとるぞ」

 

 天照様の目にはさっきまでの不機嫌はもうなくご機嫌な笑いをあげる。

 それと同時に僕の中にも日本に対する好感と信頼がぐんぐん上がっていく。

 

「後で素戔嗚(スサノオ)天宇受賣命(アメノウズメ)伊斯許理度売命(イシコリドメ)と会っていくがよい。皆誇銅に再開するのを楽しみにしておった。

 後月夜見(ツクヨミ)の奴も相変わらずひきこもりじゃが一度会ってやってくれ」

「はい、わかりました」

「誇銅よお主は既に儂らの友人じゃ。例え悪魔に属しておってもそれは変わらん。

 いくら頼ってくれても構わんぞ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます。

 ですが僕にできる事があれば何なりと申し付けてください。こんな身ではありますが力をお貸しします」

 

 こうして僕は駒王町に戻りリアスさんの眷属に戻る決意をした。

 だけどもう戻っても前のように全力で力を貸したりなんてしない。ただ戻るだけだ。

 心はここに置いていく。




 前作でなぜギャスパーやレイヴェルが誇銅に対する違和感に気付いたのか一応説明しておきます。
 原作組から見れば今までの仕打ちもよくあるギャグシーンの理不尽と同じ見方です。だからやりすぎや悪いという感情がないままあんな扱いができるという理由です。
 そこから一歩離れた人には違和感に気づく。登場まで引きこもってかかわりがなかったギャスパー、主要人物から一歩離れたレイヴェル、ライバルポジションとはまた違う遠いソーナ眷属。
 アザゼルとか魔王は中核に触れてるからout。最終的に中核に来たギャスパーは先に誇銅と深く関わったからセーフ。
 あの作品は原作組が主人公でオリ主側は実はラスボス。主人公の行動がラスボスを作ったという皮肉と、いずれ倒される運命の敵からの視点から見た物語という設定で創りました。

 その結果あの失敗を引き起こしてしまいましたが(笑)
 本当は最終話でこの事も記載するつもりでしたが忘れていたのを思い出し今回記載してみました。

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