無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 まずは一誠のシーンから入ります。この作品を好きで見てる人にとっては茶番だと思いますが、お刺身に入っている作り物の菊の花みたいな感覚で見て下さい。


騒乱な京都事件の終戦

「皆さん!」

 

 アーシアが皆のもとに駆け寄り、涙を流しながら、回復を始める。

 ……。脳裏に、ここに来る前に皆で誓ったものが思い出される。―――京都は俺たちが死守する。

 先生……。俺……。まだ何もできてません……。

 倒れる木場に視線がいく。―――部長不在のいま、仮としての僕達の『(キング)』はイッセーくんだ。

 木場、おまえはそう言ってくれたけど……俺は何もできていない。

 あの時、九重は別れ際に俺にお母さんを助けてほしいと涙を流しながら俺に頼んだ。―――おまえのお母さんは俺が――俺達が助けるッ!

 何が助けるだ。俺、俺たち、何もできてないじゃないか……ッ!

 

「ゼノヴィアさん! イリナさん!」

 

 アーシアは涙を流しながら治療を続けていた。

 ……何してんだ、俺。……なんでこんなに情けない様を見せてんだよ……。赤龍帝の鎧が修復されても曹操たちは俺に視線すら向けなかった。

 奴らは俺たちのことを強いというが、それでも現状を覆すほどの脅威とは感じていないんだろう。そう考えてしまうと、必死にここまで来た俺達は―――。

 最初から俺たちは、奴らにとって、実験の余興程度の相手だったんだと痛感してしまう……。

 ……俺、赤龍帝なんだろう? おっぱいドラゴンだって、はやしたてられてさ……。

 悔しい。みんなを助けられなくて何が赤龍帝なんだ!

 俺は鎧の中で震え、悔し涙を流し続けた。……なんで俺は弱い? 肝心な時にいつもこれだ。

 どうしても一歩力が足りない。……努力しても努力しても、どうして手が届かない奴らが多いんだよ……。

 これが俺の限界なのか……? なんで俺は……。

 俺はその場に膝をつき、悔しさのあまりに地面を叩いた。仲間が奴らにやられて、俺も曹操に勝てる見込みが……。九重のお袋さんを助けるチャンスすら……見つからない。

 九尾の御大将を助けて逃げるって最低限の任務すら全うできそうにない悔しさ……。

 いや、諦めたくない! ここで終わりなんて嫌だ! まだ俺は戦える!

 ……でも、奴らに手が届かない。それがたまらなく悔してく……俺は……。

 

『泣いてしまうの?』

 

 ―――っ。俺の内に語りかける誰か。この声は―――。

 ……エルシャさん?

 

『ええ、そうよ。どうして泣いているの?』

 

 俺の内側から語りかてきたのは神器の内部にいる先輩のエルシャさんだった。

 ……俺、悔しくて……。どうしてこんなに自分が弱いのか……。肝心な時に全く役に立てないんです……。

 

『そう、それは悔しいでしょうね。けれど、忘れたの? 以前、堕天使の総督が言っていたことを。あなたは可能性の塊だと』

 

 その時、アザゼル先生に以前言われたことが脳裏に蘇る。そう、あれはロキと出会う直前の頃だ。

 

〈―――俺はおまえの可能性を信じている。歴代の赤龍帝はどいつもこいつも力に呑まれて死んでいった。おまえの才能は歴代最低かもしれない。だがな、女の乳で禁手になり、女の乳で暴走から戻ったおまえを俺は可能性の塊だと思っている〉

 

 ……可能性の塊。

 

〈おっぱいドラゴン! けっこうなことじゃねぇか。ドラゴンでそんな新しい二つ名を得られたのは随分久しいことなんだぞ? 身体能力、魔力がヴァーリや他の伝説のドラゴンに劣っていたとしても違う側面からおまえだけの方法で赤龍帝の力を使いこなして強くなっていけばいい。これからも努力と根性、そして意外性から活路を見つけていけよ」

 

 そうだ、あの時、先生はそう俺に言ってくれた。

 俺は、俺だけの側面から俺だけ方法で赤龍帝の力を使いこなす……。

 ―――俺はおっぱいドラゴンだから!

 

『そうよ、それがあなた。現赤龍帝であり、おっぱいドラゴン。私とベルザードが見た可能性! さあ、今こそ解き放ちましょう! あなたの可能性を!』

 

 俺の懐から光が漏れる。取り出して見ると、宝玉が赤く光り輝いていた。こ、これは……。

 

『その宝玉を天にかざして。呼びましょう!』

 

 よ、呼ぶ? 怪訝に思う俺にエルシャさんは高々と宣言した。

 

『そう、あなただけのおっぱいをッ!』

 

 刹那―――、パアアアアアアアアアアッ!

 宝玉がいっそう輝き、複数の宝玉は一つの宝玉となり、この一帯全体を照らすほどの光量となった!

 

「……なんだ?」

 

 曹操たちもその光に気づき、こちらに顔を向けていた!

 宝玉から光が照らされ、何かを映し出していく。それはしだいに人の形を成していき、一人、二人と増えていった。

 な、なんだ、これ……。疑問に思う俺にエルシャさんが答える。

 

『その宝玉はこの京都で様々な人の間を巡ってきた。あれらはその者たちの残留思念が人の形になったものよ』

 

 つ、つまり、俺のせいで痴漢になった皆さんの残留思念ってことですか……?

 残留思念の皆さんは総勢千人は超えそうな規模だった! この宝玉はどれだけ京都で痴漢作用していたんだよ! 謝る相手が多すぎるだろっ!

 

『おっぱい……』

『お、おっぱい』

『すごい、おっぱい』

『大変なおっぱい』

 

 ……残留思念が突然おっぱいおっぱい口走り始めた。おいおいおいおい! 変態の見本市場になってませんか!?

 それからも残留思念の大群が呪詛のようにおっぱいとつぶやきながら、のろのろとおぼつかない足取りで動き出していく。

 

『『『おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい』』』

 

 これは酷いっ!

 それしか言えない異様な光景だった。おっぱいおっぱい言いながら残留思念が、儀式めいた様相で円形に並んでいく。

 

「……おっぱいゾンビか?」

 

 曹操がそうつぶやいた。そうですね! ゾンビのようにも見えますね! 実際、宝玉によって痴漢になった人がおっぱいを揉んだら、もまれたやつ乳が見たくなるんだから、ゾンビの感染みたいだ。

 

「……ごめんなさい」

 

 誇銅は涙を流しながら残留思念の方を見てそうつぶやいた。そしてアーシアがいつも神に祈るように誇銅も祈り始めた。やめてくれ! 俺の心が痛い! 

 残量思念―――おっぱいゾンビは円形を形作ると、今度は人の形を崩して地面に融けていった。そして、円形に光が走り出し、中央に紋様が刻まれていく。広大なひとつの魔法陣となっていった。

 ―――おっぱいゾンビが魔法陣に!

 衝撃的な出来事の連続で俺は何がなんだかわからなくなってきたが、エルシャさんが語りかけてくる。

 

『準備は整ったわ。呼びましょう』

 

 な、何をですか? もうわけのわからないことだらけで思考が麻痺しかけてます!

 

『―――あなただけのおっぱいよ!』

 

 俺のおっぱい―――。そう言われて最初に脳裏を過ぎったのは紅髪のお姉さま。

 

『さあ、叫んで! 召喚、おっぱい! ―――と!」

召喚(サモン)ッ! おっぱいぃぃぃぃぃぃぃッ!』

 

 パァァァァァァアアアアアッ!

 

 魔法陣が輝き出した! 紋様に刻まれた文字には「おっぱい」と書かれているし、おっぱいの形をした象形文字まで魔法陣に描かれている。

 呼び出すのか! ま、まさか、今俺が脳裏に思い描いたあの人を―――。

 魔法陣の中央に何かが出現しようとする。一瞬の閃光のあと、魔法陣から現れたのは―――紅髪の部長だった。

 魔法陣から現れた部長は―――上下下着姿だった。お着替え中だったのか! 風景が変わったことに気づいたお姉さまは仰天し周囲に目を配らせていた。

 

「な、何事!? ここはどこ? ほ、本丸御殿……? きょ、京都? あ、あら、イッセーじゃないの? どうしてここにって、私がどうしてこんなところに!? しょ、召喚されたの!? え? え?」

 

 ものすごく狼狽している部長! 俺もびっくりして言葉もない。英雄派の皆さんも呆気にとられていてどうしたらいいかわらからないでいた。ゴメンなさい! わけのわからないことが起きていて、俺も混乱しているんです!

 当惑している俺へエルシャさんは真面目に語りかけてくる。

 

『つつきなさい』

「え……?」

 

 我が耳を疑った。いま、信じられない言動が聞こえてきた。

 

『彼女のお乳をつつきなさい』

「つ、つつくんですか?」

『そうよ。つつくの。いつものように。―――ポチッと』

「ポチッと!? いやいや、つついてどうするの!?」

 

 この人、本当に女性で歴代最強の赤龍帝なの!? このお姉さん、錯乱しているとしか思えないよ!

 驚愕する俺なんておかまいなしにエルシャさんは続ける。

 

『あなたの可能性を開く最後の決め手。それがリアス・グレモリーの乳首なの。あれはスイッチ。あなたの可能性という名の扉を開くためのスイッチなの』

 

 エルシャさん、部長の乳首は決して俺の覚醒ボタンってわけじゃないんですよ!?

 

『いえ、覚醒ボタンだわ。理解しなさい。私は近くで見ていて確信を得ているのよ』

 

 酷いすぎる! が、説得力があるのはなぜだ!?

 そう思っているのも束の間、突然、部長の体が金色に輝き出した!

 

「な、何なの!? 光が私を包み込んでいくわ!」

 

 部長も驚きの連続で困惑している様子だった。だが、俺の視界にはとてつもない光景が飛び込んでくる。

 ―――部長のおっぱいが神々しい輝きを放っている。

 

『リアス・グレモリーのおっぱいはあなたの可能性に触れ、次のステージに進んだのよ』

 

 つ、次のステージ……?

 

『ええ、あのおっぱいは限界を超えたの。スイッチ媛の限界を。第二フェーズに突入したと言っていいわ』

 

 第二フェーズってなんですか!? 意味がわかりません! 俺の理解不能なことが起こりすぎて涙が出てくるんですけど!

 

『あれをつつくことであなたは変わる。劇的な変化を遂げるわ。あなたの中の「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」はあとひと押しで力を解き放つ。その一押が」

 

 それがスイッチ―――乳首を……ブハッ。

 鼻血が吹き出る。わかった。俺はやっと理解できた。この状況を飲み込んだよ。

 

「……イッセー?」

 

 部長は怪訝な表情で首をかしげる。俺はそんな部長に真正面から言った。

 

「部長、乳をつつかせてください」

「―――ッ!」

 

 俺の告白に部長は絶句した。けど、しばらくして―――。

 

「……よくわからないわ。よくわからないけれど……わかったわ!」

 

 すごい。よくわからないけど通じた! なんだ、この状況! すんごいことになってんな! つつこう! そうだ、つつこう! 京都でつつこう! 部長のおっぱいを!

 他の野郎どもに部長の乳首を見せるのは癪なので見えない位置に移動してから、部長がブラジャーを脱ぐのを待った。

 ホックが外れ、豊かな双丘が現れる。俺の知っているはずのピンクの乳輪と乳首が―――淡い桃色の輝きを放っている。

 なんてこった! すげぇぇぇえっ! なんだか、難しいことを考えるのが馬鹿らしくなってきたぜ!

 俺は籠手の指部分だけ鎧を解いて、両手の人差し指で輝く乳首に向けた。覚悟はいいか、ドライグ?

 

『うおおおおおおおおんっ! うわぁぁぁぁぁぁああんっ!』

 

 大号泣してる。でも、俺、つつくよ! つつかなくちゃいけないんだっ!

 

「いきます!」

 

 俺は鼻血を噴出させながら乳首をつついた。

 

「……ぁふん……」

 

 トドメの桃色の吐息っ!

 部長の乳がまばゆい閃光を放ち始める!

 

「こ、これは……! あ、ああああああああっ!」

 

 部長はあまりの展開に声を上げる。

 部長は乳から輝きを放ちながら天高く昇っていき、この空間全体を桃色に照らした。

 乳首を輝かせ天に昇っていく部長を、俺は涙をこぼしながら自然と手を合わせていた。

 天高く昇っていった部長は、その後、光と共に空間から消えていった。同様に魔法陣も消えていく

 あ、あの、エルシャさん。部長は?

 

『元の場所に帰っていきました」

 

 こ、このためだけに京都に呼ばれましたか!? あっちに戻ったら、土下座して謝らないといけないじゃないか!

 

「……なんだったんだ、あれは?」

 

 曹操たちも呆然として、今の現象にどうしていいかわからずにいた!

 ――ドクン。突如、胸が脈打つ。

 

『来たわね。さあ、行きましょうか!』

 

 エルシャさんが叫ぶと、鎧の各部位にある宝玉から、赤閃光が溢れ出るっ! 内側から熱くて、力強い何かが、湧き上がってくるッ!

 『覇龍』ほどの戦慄は感じないが、それに匹敵する程の力。むしろ懐かしいものを感じる。ドライグ。これは―――。

 

『ああ、俺も感じるぞ、相棒。これは、本来の俺のオーラだ。激情に駆られ「覇」の力に身を任せたものじゃない。呪いでも、負の感情でもない。俺が肉体を持っていた頃の気質だ』

 

 ドライグの楽しそうな声色。

 何がドライグに起こったのかわかりかねたが、赤いオーラが全身から迸り、俺と周囲を包み込んでいった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 僕はいったい何を見せられているのか。―――それが最初に頭に浮かんだ感想だ。

 倒れる仲間を涙を流しながら回復させるアーシアさん。それを見て冷たくも心配せずに、どうすれば八坂香奈を救えるかばかりを考えていた僕。

 ところが急に、一誠の懐に入っていた宝玉がこの一帯を照らす程の光量を放ったと思ったら、今度は千を超える人の形をした思念体が「おっぱい」と口走り始めた。

 この光景についていろいろ言いたいことはあるが、あえてひとつ言うなら、酷い絵面だっ!

 しばらくして、それが痴漢にされてしまった人の残留思念だと理解した。それがわかったのなら僕が言えることは―――。

 

「……ごめんなさい」

 

 一誠のせいで痴漢の恐怖を味わってしまった人たち、そして強制的に痴漢の罪を背負わされてしまった人たちに対して申し訳ないと思う気持ちでいっぱいになった。電車内で一誠から何かが飛び出した気配を僕は知っていた。なのに僕は何も考えずに放置してしまった。

 僕にできることは、せめて被害者(加害者)になってしまった人たちが救われるように祈ることだけ。そう考えると涙が出てくる。

 思念体たちは円形を作ると、地面に融けて光だし、中央に見たことない紋様が刻まれた広大な魔法陣となった。

 もはや何が起こるか想像もつかない。すると一誠が突然―――。

 

召喚(サモン)ッ! おっぱいぃぃぃぃぃぃぃッ!』

 

 とんでもない言葉を叫び出した!

 すると魔法陣が輝き出した! 紋様に刻まれた文字には僕の目が正常なら「おっぱい」と書かれている。さらには胸の形をした象形文字まで魔法陣に描かれている。

 挙げ句の果てに、魔法陣から上下下着姿のリアスさんが召喚された! リアスさんも突然召喚されたことで仰天し周囲に目を配らせる。

 

「な、何事!? ここはどこ? ほ、本丸御殿……? きょ、京都? あ、あら、イッセーじゃないの? どうしてここにって、私がどうしてこんなところに!? しょ、召喚されたの!? え? え?」

 

 狼狽するリアスさん。英雄派の人たちも呆気に取られ、匙さんとヘラクレスも戦いの手を止めてこちらを見て呆然としていた。もちろん僕もね。

 それも束の間、突然、リアスさんの体が金色に輝き出した!

 

「な、何なの!? 光が私を包み込んでいくわ!」

 

 リアスさんも困惑しているけど、見せられてるこっちも困惑の連続ですよ! 今度は一体何が起こるの!?

 すると突然、一誠が鼻血を吹き出した。

 

「……イッセー?」

 

 怪訝な表情のリアスさん。一誠は真正面から―――。

 

「部長、乳をつつかせてください」

「―――ッ!」

 

 突然そう言われてリアスさんも絶句したが、しばらくしてリアスさんは。

 

「……よくわからないわ。よくわからないけれど……わかったわ!」

 

 普通に了承した。まあ、流れ自体はいつもの通りだし、リアスさんも好きな一誠が相手だからね。

 他の人にリアスさんの見られるのが嫌だからか見えない位置に移動した。どっちにしろ僕は目を逸らすけど。

 

「いきます!」

 

 鼻血が噴出したであろう音と共に一誠がそう言うと。

 

「……ぁふん……」

 

 次にリアスさんの桃色の吐息が聞こえてきた。ああ、耳を塞いでおくべきだったかな。

 

「こ、これは……! あ、ああああああああっ!」

 

 リアスさんの声と閃光に反応してもう一度そっちの方に目を向けた。

 リアスさんは胸から輝きを放ち、空間全体を桃色に照らした。そんなリアスさんを一誠は涙をこぼしながら手を合わせていた。

 一誠の知り合いということだけで恥ずかしくなってきた。もう……この現象の生贄となった人たちに祈りを捧げる事自体申し訳なくなって来る。

 

「……なんだったんだ、あれは?」

 

 曹操たちも呆然として、今の現象にどうしていいかわからずにいた。

 すると、一誠から強い力が溢れてくるのを感じた。赤いオーラが全身から迸り、俺と周囲を包み込んでいく。

 

「どうせ俺も変態ですよぉぉぉおおおおっ!」

 

 ほんの少しして、一誠が突然叫び出す。ど、どうしたの……!?

 

「いくぜぇぇぇぇええっ! ブーステッド・ギアァァァァアアアッ!」

 

 一誠の気合に反応するように、体を包む赤い閃光は極大のオーラを辺り一帯に解き放ち始めていく。―――一誠の中に力が溢れて満たしていく。それはあの時、アーシアさんを救うときに感じた「覇龍」とか言う力にも匹敵―――いや、暴走していない分強い!

 なぜそこへ辿り着くまでにあんなふざけた展開を挟まなきゃいけなかったんだよ! 僕にはパワーアップにかこつけて自分の欲望を満たしたようにしか見えないんだけどッ!?

 

「いこうぜッ! 赤龍帝をッ! 俺達の力をッ! グレモリー眷属の底力、とくとぶっ放してやるぜェェッ!」

Desire(デザイア)!』

Diabolos(ディアボロス)

Determineation(ディターミネイション)!』

Dragon(ドラゴン)!』

Disaster(ディザスター)!』

Desecration(ディシクレイション)!』

Discharge(ディスチャージ)!』

 

 宝玉から数々の音声が鳴り響かせ、壊れた家のように『D』を繰り返し始めた。

 

『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!!』

 

 一誠は高らかに叫んだ。

 

「モードチェンジッ! 『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)』ッ!」

 

 『僧侶(ビショップ)』へのプロモーション宣言。だが、明らかに今までと変化が違う。アーシアさんの認証も必要としていない。

 一誠はその場で踏ん張りを利かせると、肩から背中にかけて赤いオーラが集まり形を成していく。

 出来上がったのは、背中のバックパックと両肩に大口径のキャノンを装着した新しい赤龍帝の鎧!

 莫大なパワーアップ! これだけのパワーがあればこの状況を打破できるかもしれない! ―――しかし、そうはうまく事は運ばなかった。

 

「―――ッ! な、なんだ……ッ!?」

 

 鎧の宝玉から呪印(じゅいん)が溢れ出し、赤龍帝の鎧を瞬く間に覆った。呪印の封印により一誠のオーラは完全に抑えつけられてしまう。どうやら妖怪たちが宝玉に封印を施していたみたいだ。おそらく、再び人間の中に入ってしまわぬように。

 しかも個々の宝玉に別々の妖怪が封印を施したようで呪印の種類も様々。しかしどの呪印も他の呪印を阻害することなく、程よく絡み合っている。

 封印の力は今の一誠なら簡単に引き剥がしてしまえるだろう。だが、複雑に、的確に絡み合った封印は力だけで安々とは解けない。

 痴漢の犠牲によって得た力を、痴漢の犠牲者を増やさないための封印で封じられた。ある意味自業自得と言える結果だ。―――しかし、この状況でそれも困る。

 

 バジッ! バジッ!

 

 突然、空間を震わせる音が鳴り響く。音の方を見上げてみると―――空間に穴が生まれつつあった!

 空間に現れた裂け目を見て、曹操が嬉しそうに笑む。

 

「どうやら始まったようだ。あの魔法陣、そしてキミが一瞬発した膨大なパワーが真龍を呼び寄せたのかもしれないな」

 

 曹操は皮肉げにそう言ってくる。これは一誠のパワーアップのおかげだと。だけど―――。

 

「ゲオルク、『龍喰者(ドラゴン・イーター)』を召喚する準備に取り掛かって―――」

 

 そこまで言いかけた曹操が言葉を止める。その目が細くなり、空に出来た次元の裂け目を見て疑問の生じた表情となった。

 そう、この気配はドラゴンではない。この気配は―――。

 

「……違う。グレートレッドではない? ……あれは、いったい何だ……?」

 

 空間の裂け目から姿を表したのは、巨大な古風なヘビのおもちゃ。

 今やっとわかった。敷地の至る所に残り香を感じたと思ったがそれは違った。残り香ではない、そして二条城の敷地内だけじゃない―――この空間全体を乗っ取ろうとする妖気だったんだ!

 おそらくこの二条城が侵食の中心点であったから感じる妖気が例外的に強かっただけってところだろう。

 建物自体を妖術で呪って自分のテリトリーにしてしまう術は平安時代から存在した。敵の造り出した疑似空間の主導権を乗っ取るこの術はその術の応用だろう。

 その言葉の真意を確かめるべく曹操はゲオルクに問いかける。

 

「どうなってるんだ! ゲオルク!」

「くっ! どうやら本主導権を奪われたみたいだ。魔法陣も都市のパワーも完全に遮断されてしまった……!」

「クソッ! いつのまに……!」

「ほんま、すんまへんな。うちらの攻撃はわかりにくうて」

 

 二条城の敷地内に霧が発生し、霧の中からキツネ目の八尾が現れ、曹操を見て挑発的に言った。その女性を見て曹操は驚いたが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔に変わる。

 

「八尾の妖狐ッ!」

「また会いましたなぁ」

 

 二人はお互いを知っているような口ぶりで話す。僕は知らないけど。

 曹操は八尾を警戒していたが、八尾の方は余裕そうに背を向けて膝をつき頭を垂れる。

 そこへ乗っ取られた『絶霧』の霧が再び発生する。霧の中から現れたのは、僕が見たことのない九尾の女性―――おそらく玉藻ちゃんの娘の卯歌ちゃんだろう。

 

「あらぁ―――アナタが(くだん)の侵入者? 虎白(こはく)の言うとおり、馬鹿そうな人たちねー♡」

 

 出会い頭に喧嘩を売るスタイルな卯歌ちゃん。笑顔を浮かべてはいるけど、なんとなく怒ってるようにも見える。娘を誘拐されたうえに実験に使われれば当然の反応だろう。

 初対面で馬鹿にされたことに曹操も不快感が表情に出る。しかし、すぐにさっきまでの余裕の表情に戻す。

 

「それにしても馬鹿そうとは酷い言われようだね。そんなに馬鹿そうに見えますかな?」

「そりゃもうねぇ。こんな立派な疑似空間を作って、それをみすみす奪われてるんだから」

「それはこちらの認識が甘かったと言わざる得ない。まさか神滅具の力で造られた空間を乗っ取ることができるなんてね」

 

 曹操たちの見る目が厳しくなる。この空間を作ったゲオルグは特に。せっかく作り上げた広大な疑似空間の主導権を奪われあんなことを言われれば無理もない。

 卯歌ちゃんは曹操たちの視線を無視して、炎のゴーレムを締め上げる現御大将の方を見た。獣化し暴走した娘の姿を見る卯歌ちゃんからは、薄っすらとだが怒気を感じる。

 卯歌ちゃんは曹操たちの方へ向き直って言った。

 

「おとなしく香奈ちゃんを返して出ていけばよかったものの……私のかわいい香奈ちゃんにこんなことして、五体満足で帰れるなんて思わないことね。―――虎白、香奈ちゃんをお願い」

「はい、わかりました」

 

 怒気と共に妖気を纏う。それは決して大きくはないが曹操たちと比べると圧倒的に無駄がなく、洗練(せんれん)されている。

 卯歌ちゃんが―――曹操たちに歩み寄る。すると、ジークフリートが六本の腕を展開させながら、卯歌ちゃんに突貫していった。だが―――。

 

「!? ―――ッ!」

 

 卯歌ちゃんは風のようにスムーズに素早く近づき、ジークフリートをしっぺで難なくふっ飛ばした。周りの目からはただ単に卯歌ちゃんが素早く動いてジークフリートを吹き飛ばしたようにしか見えないだろう。しかし、ジークフリートの視点からは一瞬卯歌ちゃんの姿が完全に消えただろう。

 あの移動術は、風のように動くだけでなく相手の視点を妖術でズラして盲点に入り込む。だから相手は一度完全に見失う。風の速度に対応できても、その速度での戦いで相手を見失うのは致命傷。そのカラクリを理解しなければ防御はできても避けることは不可能。

 

 ドォォォオンッ!

 

 ジークフリートは一発で吹き飛ばされ、瓦礫の中に埋もれた。

 卯歌ちゃんの予想以上の強さに一誠も、治療を終えて起き上がった木場さんも驚愕していた。

 

「うーん、予想以上に強い洗脳どすな」

 

 獣化した九尾の相手をする虎白さんは、獣化した九尾の尻尾の猛攻を八の尾で簡単にあしらっていた。激しい火炎攻撃も風の障壁に遮られて全く届かない。それでも虎白さんは唸り声をあげる。

 

「仕方あらへん。香奈ちゃん、かんにんやで」

 

 そう言うと、手のひらに乱回転させ圧縮した風の球体を作り出した。

 獣化した九尾の猛攻を軽くいなしながら懐へ潜り込み、その球体をぶつけた。すると、獣化した九尾の腹に螺旋状の傷を負わせながら高速で吹き飛ばされた。

 

 バゴォォォオンッ!

 

「さてと。これで落ち着いて洗脳解除に専念できるわ」

「ッ!? 香奈ちゃ――――――んッ!!」

 

 それを見た卯歌ちゃんは叫んだ。

 壁に激突し瓦礫の上に倒れ込んだ香奈。今の一撃で気を失っている。さっきの攻撃で僕の炎のゴーレムがクッションになったのだが、なぜかいまだに活動可能なのに内心驚いている。こんなにしぶとかったんだ……。

 卯歌ちゃんが倒れる香奈に視線を移している間に、ゲオルグが卯歌ちゃんに手を突き出す。

 

「捕縛する。霧よッ!」

 

 卯歌ちゃんを包み込むように霧が集まる。主導権を奪われているのはあくまでこの疑似空間を形成する霧であって霧使い本人が新たに生み出したのは別のようだ。だが―――。

 

 パパッ。

 

 卯歌ちゃんが軽く手で払うだけで、霧は霧散してしまう。

 

「―――っ! あの挙動だけで我が霧を……ッ! 神滅具の力を散らすか!」

 

 散らされた魔法使いは仰天していた。確かに力は強いけど、こちら目線では練り方が甘すぎる。あれではいくら強くても、下位の上ほどの実力があれば無きに等しい。

 

「槍よッ!」

 

 ギュゥゥゥンッ!

 

 隙きでも突いたつもりかのように曹操が槍の切っ先を伸ばし、卯歌ちゃんを奇襲しようとする。伸びるんだ、あの槍。

 卯歌ちゃんはそれを指先一つで止めた。指先に妖力を集中させて防いでいる。さらに槍に風の妖術を這わせ曹操を攻撃した。

 

「うぐっ! 聖槍の一撃を軽く受け止めると同時に攻撃を仕掛けるとは……。まるで初代孫悟空並のバケモノぶりだな」

 

 反撃を受けた曹操は笑みを引きつらせながら言う。曹操の指は風の刃でズタズタにされていた。

 ジークフリートが瓦礫から立ち上がり、曹操に告げる。

 

「曹操。ここまでにしよう。神滅具の力でつくられた結界の主導権を奪われたんだ。完全に予想外な出来事だ。これ以上の下手な攻撃はせっかくの人材が傷つくよ。僕達の認識は甘かった。―――強い」

 

 それを聞き、曹操も槍をおろした。どちらにせよあの指では先程までのようには振るえないだろう。

 向こうでは匙さんとヘラクレスがお互い膝を突いていた。仙術で蓄積されたダメージが内側から響いてきたのだろう。匙さんは目立った外傷がないが頭を抑えてるところから見ると、どうやら術の反動なのだろう。どうやら引き分けのようだね。

 

「レオナルドも限界の時間だろう。流石にこれ以上の時間稼ぎは外のメンバーでも出来ないだろうしね。各種調整についてもこれで充分データを得られるし、良い勉強になったよ」

 

 ジークフリートは卯歌ちゃんを()めつけていた。

 

「退却時か。見誤ると深手になるな」

 

 バッ!

 

 英雄派のメンバーが素早く一箇所に集結し、霧使いが足元に巨大な魔法陣を展開し始める。転移用魔法陣で逃げる気か。

 

「ここまでにしておくよ。京都妖怪、グレモリー眷属、赤龍帝、再び(まみ)えよう」

「逃げられないわよ」

 

 卯歌ちゃんがつぶやく。

 英雄派の足元の魔法陣が霧によって妨害される。この擬似空間は既に妖怪の体内と言っても過言ではない。それも弱々しい妖怪の力ではなく、神滅具(ロンギヌス)で造られた強力な結界を、高い術技量を持つ妖怪が操作しているのだから。抜け出すのは至難の業だ。可能性があるとすれば―――。

 

「―――お咎めなしで帰れると思うのか?」

 

 ―――ッ!? 声の方を向くと、呪印で力を封印され膝をついていた一誠が立ち上がっていた! 強い龍のオーラで呪印の封印が少しばかり押し返されている! 動きはかなり制限されているが、あの状態なら一発大きな砲撃を放つには問題ない。―――マズイ!

 

「こいつは京都での土産だッ!」

 

 卯歌ちゃんもマズイと感じたのか動こうとしたが、もう間に合わない! 両肩のキャノン砲にエネルギーが溜まる。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

「吹っ飛べェェェェェェェェェェッ! ドラゴンブラスタァァァアアアアアッッ!」

 

 ズバァァアアアアアアアアアアッ!!

 

 肩のキャノン砲から極大の一発が放射されていく! 英雄派に向けられた大出量のエネルギー。

 しかし英雄派のメンバーはそれを素早く避けていく。手負いということもあり、受けてみようと考えることもしない。

 外したキャノン砲の一撃は、彼らの遥か後方に飛んでいき―――。

 

 ドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 空間全体を震わせる程の大爆発と共に背景の町並みが丸ごと巨大なオーラに包み込まれていく。京都の町が……丸ごと吹き飛んだ!

 

『んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

呪魂(じゅこん)ちゃん!」

 

 町が吹き飛ぶと同時に、二条城の最上階に巨大な目玉が現れた! おそらくあれがこの疑似空間を乗っ取った妖怪。今のキャノン砲の一撃が彼に響いたのだろう。

 

「うぐっ……!」

 

 発射後、卯歌ちゃんはすぐさま一誠を抑えに向かった。これ以上下手なことをされないために。

 呪印の封印に卯歌ちゃんの力が加わり、進化した禁手の力でも押し返せぬ封印へと強化される。再び封印に抑えつけられた一誠は何もできぬまま膝をつく。

 この状況を三大勢力側が打破する最も現実的な方法、それは結界に多大な乱れを起こすこと。これだけ広大な疑似空間を制圧しようとすれば、それだけ術は複雑かつ繊細になる。破壊こそできなくとも大きな衝撃を与えれば乱れが発生する。力の強い三大勢力側ならそれが最も簡単。

 敵対しているわけでなく、封印で動けないハズということもあっての油断。空間内に漂う妖気に支配された神滅具の力。それらが数種類の呪印で覆われた一誠のオーラを紛らわせてしまった!

 

「―――! 今だッ」

 

 妨害がなくなると、霧使いはすぐさま転移用魔法陣を再展開し始める。確かに撤退するなら今が絶好のチャンス。

 

「九尾殿、そして赤龍帝―――否、兵藤一誠。ここいらで俺達は撤退させてもらおう。全く、ヴァーリの事を笑えないな。彼と同じ状況だ。キミ達は何故か土壇場でこちらを熱くさせてくれる」

 

 魔法陣がいっそう輝きを増した。曹操は消える間際に一誠に言った。

 

「兵藤一誠、もっと強くなれ。ヴァーリよりも。そうしたら、この槍の真の力を見せてあげるよ」

 

 それだけ言い残し、英雄派たちはこの空間から―――まんまと逃げられた。

 彼らが消えた瞬間、疲弊からか一誠の鎧が解除される。呪印で力を封じられていたからか進化したにしては持続時間がだいぶ長いように見えた。

 だけどまあ、今言えることは一つ。無事に終わってよかった……。

 

 

 

 

 ―――――――――ビクッ!

 

 気を緩めた刹那、異質な視線を感じ取った。この無機質な殺意―-―あいつだ!

 いくら異様であろうとも三度目ともなればもう体が覚えた。そして狙われているのは―――卯歌ちゃん!

 僕はもう消そうとした炎のゴーレムを走らせた。もう原型を留めるのに必死な、まさしく風前(ふうぜん)灯火(ともしび)。だけどそれで十分! ゴーレムを殺意と卯歌ちゃんの間に滑り込ませる。

 

「―――え?」

 

 バコン!

 

 卯歌ちゃんの身代わりとなり銃弾を受けたゴーレムは、その役目を終えて消え去る。消えた跡には、なんとか防ぎきった銃弾が残った。

 本当は最後に自爆させて香奈の妖力を大幅燃焼させるか、曹操たちへの妨害で時間を稼ぐつもりだったんだけどね。まあ、役に立ったならどっちでもいいか。

 敵は……撃ってすぐに逃げたか。ロキ様の時にも現れたが、あいつらは一体何者なのだろうか。こんなところまで来て、最後だけ現れ卯歌ちゃんの命を狙った。

 こうして九尾の御大将救出作戦は色々な波乱を巻き起こしながら幕を閉じた……。

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 修学旅行最終日。前夜の大激戦が響いたのか、寝てもまるで疲れが取れなかったという感じのグレモリー眷属は、疲弊しきった様子で、最終日のお土産屋巡りへと向かっていた。

 僕は殆ど消費がなかったので大丈夫。匙さんも戦闘後にしっかりと邪気抜きをしてもらったようで少し頭痛がすると言っていたが、それ以外はみんなよりかは疲弊していない。

 これは後から知ったのだが、実は表の京都でも大変なことが起こっていたらしい。やっぱり、勝手に動いたのがまずかったらしく、敵と同様に扱いをうけていた。結界に封じられたり、身動きがとれないようにされたり、敵と同様に攻撃され死なない程度に戦闘不能にされた者もいたそうだ。

 助っ人に駆けつけてくれた戦闘勝仏(せんとうしょうぶつ)―――御大将と会談予定だった初代孫悟空と五大龍王の玉龍(ウーロン)すら小さな九尾に返り討ちにされたとか。なんでも、三大勢力の要請だったことと、テロリスト側である白龍皇の仲間に手助けしてもらおうとしたのが問題だったみたいだ。

 結果として、三大勢力側は京都妖怪にいらぬ手間を増やしただけだった。今は京都も事後処理に追われているが、勝手に動いたり被害を出したりと後で相当問題になるのだろうね。

 

 お土産も買い、京都を離れる時が来た。

 京都駅の新幹線ホームで卯歌ちゃんの孫、九重ちゃんと一人の男性妖怪が見送りに来ていた。

 

「赤龍帝」

「イッセーでいいよ」

 

 男性と手を繋ぎながら笑顔で一誠を呼ぶ九重。幼い子の無邪気で可愛らしい笑顔だ。

 九重は顔を真っ赤にしてもじもじしながら一誠に訊く。

 

「……イッセー。ま、また、京都に来てくれるか?」

「ああ、また来るよ」

 

 発射のホーム音が鳴り響く。九重が一誠に叫ぶ。

 

「必ずじゃぞ! 九重はいつだっておまえを待つ!」

「ああ、次は皆で来る。今度は裏京都も案内してくれよ?」

「うむ!」

 

 それを確認すると、微妙な表情になってる男性が表情を戻して言う。

 

「赤龍帝殿、卯歌様のご息女を救出しようとしてくれたことは礼を言う。しかし、あなたが京都で起こした数々の痴漢誘発、それが許されるわけではありません」

「うっ!」

 

 一誠はバツの悪そうな顔をする。そこへ男性は続けて言う。

 

「だが、香奈様をお救いする時間稼ぎをしてくれたとして、今回限り特別にあなた自身への罰を免除とします。宝玉に残ったままの封印も解きましょう」

 

 そう言って男性は一誠の右手の甲に軽く触れる。すると、一誠の神器にかけられた封印が解かれていく。

 

「ただし、次はもうない」

「あ、ありがとうございます……。気をつけます」

「まあ、流石にこんなことは二度とないようにはする」

 

 アザゼル総督がなだめるように言う。

 

「アザゼル殿、魔王殿、この度の我々に無断であのような行為、少々話がある」

 

 その一言に今度はアザゼル総督と魔王様も罰の悪そうな顔になる。特に魔王さまの表情が。アザゼル総督は先生として一緒に帰ると思うから、実際に話しを聞くのは魔王さまだけか。

 

「もともと貴殿らは勝手な行動をするだろうと、それを見越して動いていなければどれだけの混乱と被害が出たか。うまい言い訳でも考えておくんですな。あなたたちはそれだけのことを最低限自覚していただきたい」

 

 そんなやり取りを聞き、僕たちは新幹線に乗車した。

 ホームで九重が一誠に叫んだ。

 

「ありがとう、イッセー! 皆! また会おう!」

 

 手を振る九重ちゃんに僕達も手を振る。

 閉じる新幹線の扉。発射しても九重ちゃんは手を振り続けた。

 出発してからしばらくして一誠が「八坂さんにお願いしてお礼のおっぱいを見せてもらうの忘れてたぁぁぁあっ!」とか叫んでいた。

 扉にかじりついて叫びを発した時は、いっそ恩赦など出なかったほうがよかったと本気で思った。

 これは僕だけが知ってることなのだが、実はこれがきっかけで京都のあらゆるところが悪魔は出禁になった。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 京都から帰り、僕たちは兵藤家の一室でリアスさんに怒られていた。

 正座する僕たち。アーシアさん、ゼノヴィアさん、木場さん、一誠、イリナさんも反省状態だ。

 リアスさんは半目で問い詰めてくる。

 

「なんで知らせてくれなかったの? ―――と言いたいところだけれど、こちらもグレモリー領で事件が起こっていたものね。でも、ソーナは知っていたのよ?」

「は、はい……」

 

 説明はすべて済んでいるハズ。なのに、朱乃さんも塔城さんも何故かご立腹な様子。

 

「こちらから電話をした時に、少しでも相談が欲しかったですわ……」

「……そうです。水くさいです」

 

 いや、そう言われても……。

 

「で、でも、皆さん無事で帰ってきたのですから……」

 

 ギャスパーくんは僕達を庇ってくれる。

 

「まあ、イッセーは現地で新しい女を作ってたからな」

 

 椅子に座るアザゼル総督が場を混乱させることを口走る。

 

「しかも九尾の娘だ」

「そ、そんなのじゃありませんよ! ったく、人聞きが悪いな、先生は!」

「でもよ、あの八坂を見た限りじゃ、将来相当な美人で巨乳に育ちそうだぞ?」

 

 確かに卯歌ちゃんは美人で巨乳だったけど……。一誠が妄想に入る。

 

「……そ、そうかもしれません。けど! オレはちっこい子への趣味はありませんって!」

 

 すると、塔城さんが一誠を殴った。

 

「ぐふっ! ……どうして……?」

「……なんとなくです」

「まあ、リアス。イッセーもあっちで劇的なパワーアップをしたんだから、大目に見てやれ」

 

 ここでアザゼル総督がフォローを入れる。

 リアスさんも息を吐きながら、そこはうなずいた。

 

「それは、まあ、嬉しいけれど……。けど、京都にいきなり召喚されて、む、胸を……」

 

 リアスさんは赤面してゴニョゴニョと口ごもる。あの無駄に壮絶な馬鹿らしい茶番にしか見えなかったあれですね。

 聞いた皆も最初信じられない様子だったが、ドライグが泣く泣く説明してくれたおかげでだいたい理解はできたよ。納得はできないけど。

 そこでアザゼル総督が「あ」と何かを思い出したようだった。

 

「そういや、学園祭前にフェニックス家の娘が駒王学園に転校してくるそうだぜ?」

 

 僕を含めた京都に言っていたメンバー全員がその一言に驚いた!

 

「レイヴェルがですか!? マジっすか!」

 

 一誠の問いにアザゼル総督が話を続ける。

 

「ああ、リアスやソーナの刺激を受けて日本で学びたいと申し出てきたらしい。学年は1年だったか。もう手続きは済みそうだって話だったな。小猫と同学年か。猫と鳥でウマが合わなさそうだが……それを見るのも一興か」

「……どうでも良いです」

 

 アザゼル総督の一言に塔城さんは不機嫌な様子だった。

 

「でも、なんで急に転校してくるんでしょうね?」

 

 一誠の疑問にアザゼル総督はいやらしい表情で一誠を見る。

 

「ま、そういうことだろうけどな。リアスは大変なもんだ」

 

 アザゼル総督の一言に、女子全員が複雑そうな表情を浮かべた。

 

「……帰ってきても安心できないんですね」

「耐えろ、アーシア。こいつに付き合うということは耐えることでもある。最近、私も覚えてきたぞ」

「そうね。……私も耐えなきゃだめなのかしら……?」

 

 声のトーンを低くして言うアーシアさん。ゼノヴィアさんとイリナさんもつぶやく。

 

「私は耐えるよりも攻めるほうに専念しますわ」

 

 挑戦的な笑みを見せる朱乃さん。リアスさんも嘆息し、苦笑していた。

 

「まあ、良いわ。皆、無事に帰ってきたと言う事でここまでにしておきましょう。詳しくは後でグレイフィアを通じてお兄さまに訊いてみるわ。さて、もうすぐ学園祭よ。あなた達がいない間、準備も進めてきたけれど―――ここからが本番よ。それに―――サイラオーグ戦もあるわ。レーティングゲーム、若手交流戦では最後の戦いと噂もされているけれど、絶対に気は抜けないわ。改めてそちらの準備にも取り掛かりましょう」

「「「「はい!」」」」

 

 リアスさんの言葉に皆が大きく返事をした。僕はしてないけど。

 そっか、学園祭と同時にサイラオーグさんとの一戦も間近に控えているんだった。

 

「イッセーくん、体力が復調したら手合わせしてくれないかい?京都で自分の不甲斐無さを痛感したからね。キミの力を借りたい」

「ああ、木場。ゲームの日まで模擬戦の繰り返しだな」

 

 でも、しばらくは普通の生活に戻れるかな。




 基礎がしっかりしていないのに応用に手を出す。ドツボにハマる典型的な例だと私は思います。私も基礎能力がないのを自己流の応用で誤魔化そうとして、大失態と挫折を味わった経験があります……。
 しかも厄介なことにはじめのうちは成功して、意外にそれが長く続き多用しそれで失敗になかなか気づけず、結局殆どが基礎能力不足で最終的に失敗に終わりました。ありがたいことに、そういう意外性や違う側面からのアプローチで自分や他人を誤魔化す能力は意外に高かった。だけど極められる程の才能はなかった。結局は楽で居心地のいいところへ逃げてただけだったから。
 一誠の都合のいいパワーアップを見ていると、言い訳な意外性で誤魔化してた昔の自分を思い出して嫌な気持ちになります。
 あとがき感覚で、ふと愚痴りたいと思い付きで書いて見ました。

 ps.次はお待ちかねの原作10巻だぁぁッ!

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