無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

46 / 86
ちょっと遅れたが、ギリギリアウトで完成した!


危険な英雄との開戦

 金閣寺で細田の班と合流し、より賑やかになった京都観光。珍しく僕のテンションも意図せず上がりホクホク気分でホテルに帰ったと思ったら、帰った瞬間アザゼル総督から英雄派の襲撃を知らされ一気に気分が沈んだ。

 

「いやー、風呂も最高、食事も最高、俺たち駒王学園の生徒でマジで良かったな!」

「う、うん……」

 

 夕食を済ませ、風呂上りに部屋で足をマッサージしながら細田が言う。

 観光中に憂世さんが急に走り出すことがそこそこあって、それを追いかけて汗だくになったりしていた。僕と罪千さんは人間ではないので大丈夫だが、細田たち純人間には急に走らされるのは肉体的にも精神的にも辛いものがあっただろう。

 

「なんだよ誇銅、元気ねーな」

「今日はあれだけ走り回らされたんだ、誇銅だって疲れたんだろ」

「ふっ、あれしきのことで疲れを見せるなど貴様らもまだまだだな」

「いや、おまえが一番バテてただろうが」

 

 昨日の男子会メンバーで今日一緒に刊行した男子組は今僕と細田の部屋に来ている。みんな疲れてだらっとしながら楽しく談笑する。これだけなら昨日の男子会と変わらないが、今日はこのメンバーだけではない。

 

「ヤッホー! お待ちかねの女子がキタっすよ!」

「おじゃまします……」

 

 パジャマ姿の憂世さんが元気よく僕たちの部屋に飛び込んで来て、その後ろから罪千さんもおずおずと入って来る。二人ともお風呂上りのパジャマ姿だ。

 

「おやおや? なんだかテンション低いっすね。夜の楽しみはこれからなんっすよ!」

 

 それから僕たちは憂世さんの下がらぬテンションにつき合わされた。撮った写真を確認しながら談笑したり、トランプやウノなんかをしてね。

 この楽しい修学旅行で僕はこの後の憂鬱を少しの間だけでも忘れることができた。何者であろうと僕のこの幸せは絶対に奪わせるもんか。

 ―――そのためなら最悪、この残酷な力だって……やっぱり極力使いたくないな。

 

 

 

 

 

 楽しい時間もついにはお開きとなり、就寝時間の間近に一誠の部屋にグレモリー眷属とイリナさん、シトリー眷属とアザゼル総督、魔王様が集まった。

 八畳一間に十人以上はとても狭い。何人かは立ち見している。当然僕は立ち見。

 ゼノヴィアさんとイリナさんはなぜか押入れの中から話し合いに参加していた。

 アザゼル総督が皆を見回してから部屋の中心に京都の全体図を敷く。

 

「現在、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。京都を中心に動いていた悪魔、堕天使の関係者を総動員して、怪しい輩を探っている。未だ英雄派は動きを見せないが、僅かながら京都の各地から不穏な気の流れが二条城を中心に集まっているのは計測出来る」

「不穏な気の流れ?」

「ああ、京都ってのは古来、陰陽道、風水に基づいて創られた大規模な術式都市だ。それゆえ、各所に所謂いわゆるパワースポットを持つ。晴明神社の清明井(せいめいい)、鈴虫寺の幸福地蔵、伏見稲荷大社の膝松さん、挙げればキリが無い程に不思議な力を持つ力場に富んでいる。それらが現在、気の流れが僅かに乱れて二条城の方に極少量ながらパワーを流し始めているんだよ」

 

 木場さんが訊くとアザゼル総督はそう言う。

 アザゼル総督の言う京都が大規模な術式都市だと言うのは間違いではない。それだけ重要な地脈が集まっている。だからこそ昔は京都には七災怪が二人も配置されていた。

 

「どうなるかは分からんが、ロクでもない事は確かだ。奴らはこの都市の気脈を司っていた九尾の御大将を使って『実験』とやらを開始しようとしているんだからな。それを踏まえた上で作戦を伝える」

 

 ちょっと待った、作戦? 僕は藻女さんの屋敷でちょこっとだけ耳にしただけだけど、妖怪側に余計なことはするなと釘刺されたんじゃないの!?

 けどこの情報は妖怪側からもらったもので悪魔側からは何も知らされていない。知れるタイミングなんて皆無だった僕はそれを追求できない。なんとももどかしい。

 作戦が伝えられる前に巡さんが手を上げて言った。

 

「このことで京都側はなんて言ってるんですか?」

 

 すると、アザゼル総督も魔王様も緊張した表情で固まる。

 

「京都の妖怪には手を出すなと言われている」

「え、じゃあまずいんじゃ」

「だが『禍の団(カオス・ブリゲード)』を目の前に放ってはおけない。それに最初っから突っぱねられてるせいでまともに情報交換もできてねぇ。京都の奴らは禍の団を甘く見てる。あいつらを甘くみちゃいけねぇ。だから俺たちも動く、例え突っぱねられても。それが京都を守ることにも繋がる」

 

 アザゼル総督の答えに一様に難しい顔をするシトリー眷属。僕も頭を抱えたくなってくるよ。足の引っ張り合いになってとんでもない事態にならなければいいんだけど。

 

「まずシトリー眷属。お前達は京都駅周辺で待機。このホテルを守るのもお前達の仕事だ。一応このホテルは強固な結界を張っている為、有事の際でも最悪の結果だけは避けられるだろう。それでも不審な者が近付いたら、シトリー眷属のメンバーで当たれ」

『はい!』

 

 アザゼル総督の指示にシトリー眷属の皆が返事をする。まあ防衛は大事だし、これくらいなら日本側も特に文句はないだろう。

 

「次にグレモリー眷属とイリナ。いつも悪いが、お前達はオフェンスだ。この後二条城の方に向かってもらう。正直、相手の戦力は未知数。危険な賭けになるかもしれないが、優先すべきは八坂の姫を救う事。それが出来たらソッコーで逃げろ。奴らは八坂の姫で実験をおこなうと宣言しているぐらいだからな。……まあ、虚言の可能性も高いが、あの曹操の言動からすると恐らく本当だろう。――――俺達が参戦するのを望んでいるフシが多分にあったからな」

「お、俺達だけで戦力足りるんですか?」

 

 一誠がそう質問すると、アザゼル総督は不敵に笑う。

 

「安心しろ。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。各地で『禍の団』相手に大暴れしている最強の助っ人だ。それが加われば奪還の可能性は高くなる」

「助っ人? 誰ですか?」

「とんでもないのが来てくれる事だけは覚えておけ。これは良い報せだな」

 

 木場さんが訊くと、アザゼル総督は口の端を愉快そうに吊り上げた。

 ここまで言うのなら相当な手練れが来るに違いないだろう。だけどこれは同時に凶報でもある。何せ京都に無断で現場の僕たちに知らされないような人が来るんだから。そして知らない助っ人相手に僕は何の手も打てない。

 

「それとこれはあまり良くない報せだ。――――今回、フェニックスの涙が3つしか支給されなかった」

「たった三つ……ですか」

 

 匙さんがつぶやく。

 

「ああ、分かっている。だが、世界各地で『禍の団』がテロってくれるお陰で涙の需要が急激に跳ね上がってな。各勢力の重要拠点への支給もままならない状態だ。元々大量生産が出来ない品だったもんでな、フェニックス家も大変な事になっているってよ。市場でも値段も高騰しちまって只でさえ高級品なのに、頭に超が二つは付きそうな代物に化けちまった。噂じゃ、レーティングゲームの涙使用のルールも改正せざるを得ないんじゃないかって話だ。お前達の今後のゲームに影響が出るかもしれない事だけ頭の隅に置いておけ」

 

 フェニックスの涙は冥界屈指の回復薬。テロなんかで怪我人が出ればそちらへ優先して回すのは当然のこと。最低でも今はレーティングゲームなんて戦争ごっこに使うべきではない。

 

「そしてこれは機密事項だが、各勢力協力して血眼になって『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の所有者を捜している。レアな神器だが調査の結果、アーシアの他に所有者が世界に何人かいると発覚しているからな、スカウト成功は大きな利益になる。冥界最重要拠点にある医療施設などには既にいるんだが、スカウトの1番の理由は―――テロリストに所有者を捕獲されない為だ。優秀な回復要員を押さえられたらかなりマズい。現ベルゼブブ―――アジュカも回復能力について独自に研究しているそうだが……。まあ、良い。それとグリゴリでも回復系人工神器の研究も進んでいる。実はアーシアに陰で回復の神器について協力してもらっていてな。良い結果も出ている」

 

 アザゼル総督の言葉にアーシアさんは照れていた。

 僕もあの時代(千年前)で仙術を学んだ身として回復術も使える。が、アーシアさんほど素早くはできないし一誠たちのために使う気にはなれない。

 アザゼル総督はシトリー眷属の方を見て言う。

 

「てな訳だ。この涙は―――オフェンスのグレモリーに2個、サポートのシトリーに1個支給する。数に限りがあるから上手に使ってくれ」

『はい!』

 

 アザゼル総督の指示に皆が返事をすると、今度はアザゼル総督の視線が匙さんに移る。

 

「匙、お前は作戦時、グレモリー眷属の方に行け」

「え、またっスか?」

 

 匙さんはちょっと意外そうに自身を指で指す。ロキ戦の時も単独で加えられてましたもんね。

 

「……ヴリトラの力ですか?」

「ああ、そうだ。お前のヴリトラ―――龍王形態は使える。あの黒い炎は相手の動きを止め、力まで奪うからな。ロキ戦のようにお前がグレモリーをサポートしてやってくれ」

「はい、わかりました」

「それとシトリー眷属は全員が仙術を高いレベルで使えるらしいな。索敵や回復方面のサポートもついでに頼む」

 

 サポートの意味が広すぎる! まさかここまで広い範囲のサポートを求められるとは思っていなかったらしく驚きの表情をする匙さん。

 

「そ、それはちょっと厳しいですね。俺たちが扱う仙術はあくまで基礎の範囲内ですので。レーティングゲームの結果は眷属が全員揃ってこその成果ですから。それでもできなくはないですが、俺は神器の関係上索敵や回復はニガテ分野です」

「そっか、じゃあ仕方ない。ならできる範囲でサポートしてやってくれ。誇銅、その辺はおまえも協力してやれ」

「え、僕ですか……?」

 

 なぜかアザゼル総督は僕のことを指名した。なぜこのタイミングで僕が呼ばれたの!? ソーナ眷属のほうはそうでもないけどグレモリー眷属側は不思議な顔で僕を見ている。

 アザゼル総督は僕の目をしっかり見て言った。

 

「誇銅、確かにおまえは弱い。それに神器もハッキリ言って使い物にならない。だけどおまえには遥か格上のドラゴンから完全に逃げ切れる程の驚異的な危機察知能力がある。さらに身を隠すスキルも現時点で相当高い。磨きあがれば誇銅は襲撃不可能な超高性能レーダーになれると俺は思ってる」

「は、はぁ……」

 

 なんともありがた迷惑な評価なんだ。僕としてはどんな高評価を貰ったところで意味はない。むしろ変に期待されて干渉されるだけに困る。

 だけどもしこの評価をもっと前にもらっていたら……いやそれはない、だってこのスキルは見捨てられた結果として得たようなものだし。そもそも三大勢力が裏でどんなことをしてきたかを知り、リアスさんに見捨てられた時点でこの人たちのために使うつもりは一切ない。

 

「こんなこと言ったが誇銅のスキルはまだ何の訓練もさせていない発展途上もいいとこだ。あくまでサブ・サポートに加わってくれればそれでいい」

「はぁ、わかりました」

 

 どっちにしろ僕がどこかでフェードアウトしても匙さんくらいしか気づかないだろう。その時は黙っててもらえるようにお願いしておこう。

 いや待てよ、もしかしたら一誠たちを誘導して八坂香奈救出の手助けができるかも……いや、そうしたら三大勢力の株を上げてしまう。だったら邪魔しないように立ち寄らせないように……いや、これも僕への信頼が低いだろうから無理か。期待されても困るが期待されてないってのもこの場合一長一短だね。

 

「あの、この事は各勢力に伝わっているのですか?」

 

 イリナさんが手を上げて訊く。

 

「当然だ。この京都の外には悪魔、天使、堕天使が大勢集結している。奴らが逃げないように包囲網を張った。―――ここで仕留められるなら、仕留めておいた方が良いからだ」

 

 でも、日本や京都の皆さんには伝わってないんですよね? けどまあ、京都側もどうせ首突っ込んで来るって予想してるだろうな。

 アザゼル総督の言葉に魔王様が続く。

 

「外の指揮は任せてね☆ 悪い子がお外に出ようとしたら各勢力と私が一気に畳み掛けちゃうんだから♪」

 

 明るく宣言する魔王様。有事になったら大暴れしそうな雰囲気だ。だけどもしそんなことになろうことなら、藻女さんがその場の敵もろとも魔王様を殺しに行くだろう。

 

「それと駒王学園にいるソーナにも連絡はした。あちらはあちらで出来るバックアップをしてくれているようだ」

「先生、うちの部長達は?」

 

 一誠の質問にアザゼル総督は顔を少ししかめた

 

「ああ、伝えようとしたんだが……タイミングが悪かったらしくてな。現在、あいつらはグレモリー領にいる」

「何かあったんですか?」

「どうやら、グレモリー領のとある都市部で暴動事件が勃発してな。それの対応に出ているようだ」

 

 それを聞いて一誠は心配な顔をするが、アザゼル総督は苦笑いする。

 

「旧魔王派の一部が起こした暴動だ。『禍の団』に直接関与している輩でもないらしい。それでも暴れているらしくてな、あいつらが出ていった訳だ。一応、将来自分の領土になるであろう場所だからな。―――それにグレイフィアが出陣したと報告を受けた。まあ、あのグレイフィアが出たとなると、相手の暴徒共もおしまいだろう。正確かどうかは分からないが、グレモリー現当主の奥方もその場にいるそうだ。―――グレモリーの女を怒らせたら大変だろうさ」

「まあ、『亜麻髪(あまがみ)絶滅淑女(マダム・ザ・エクスティンクト)』、『紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、『銀髪(ぎんぱつ)殲滅女王(クイーン・オブ・ディバウア)』が揃っちゃうのね☆ うふふ、暴徒の人達、大変な事になっちゃうわね♪」

 

 アザゼル総督が若干体を震わせながらそう言い、魔王様が楽しげに不吉極まりない二つ名を連呼した。

 絶滅、滅殺、殲滅か……とても物騒な二つ名なのに不思議とあまり怖さを感じない。実際に鱗片を見てないからか、その辺の不良が殺すぞと言ってるくらいにしか感じない。

 何だろう、戻ってからリアスさんの消滅の力が最近なぜか全く脅威を感じなくなったのと関係あるのかな? 恐ろしい力のハズなのに。

 

「と、俺からの作戦は以上だ。俺も京都の上空から独自に奴らを探す。各員一時間後までにはポジションについてくれ。怪しい者を見たら、ソッコーで相互連絡だ。―――死ぬなよ? 修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。―――京都は俺達が死守する。良いな?」

『はい!』

 

 全員が返事をしたところで作戦会議が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦会議が終わると僕は準備のため部屋に戻る。が、特に何もないのですぐにロビーへ。誰もいなければこちらの事情を電話で伝えとこうと思って。

 グレモリー眷属はまだ誰も来ていない。だが、ロビーの横のテーブル席にアザゼル総督と小学生くらいの少女が対面して座っていた。

 堕天使総督に対してふてぶてしい態度の少女からは妖気が―――少女は妖怪だった。

 

「ほんで、これから感じるもんはそっちのドラゴンの兄ちゃんので間違いないな?」

「……ああ、解析の結果間違いない」

 

 何やら出ていける雰囲気ではない。僕は物陰からその様子をうかがった。

 少女は手に持つそろばんでテーブルの袋を指して言う。

 

「これな、どこで集めたと思う? みーんな痴漢男から飛び出してきたもんや。さっきあんたもホテル外の痴漢騒ぎで女の乳揉もうとした男とっちめて出て来たからわかるなぁ? ほんでもってあんた言うたらしいやんか、京都で起こっとる連続痴漢事件は知らんと。―――で、これはどういうことや?」

 

 テーブルの袋の中には小さな赤い宝玉が詰まっていた。宝玉からは一誠と同じ気配がしている。

 

「どうって言われても、俺もまさかこれが原因だとは完全予想外で。別に隠してたわけでもなく、これの持ち主も決して悪気があってやったわけじゃなくてな」

「悪気があろうとなかろうとこの際どうでもええんや! 既に多くの実害が出てるってことが真実なんや! 悪気がなかったら何してもええんかおお? ごめんで済んだら警察いらんのやで!」

 

 どんな時でも軽い雰囲気を崩さないアザゼル総督だが、今回は非が完全にこちらにあってか弱腰だ。

 

「今回の件は全面的にこちらの責任だ。そのせいで痴漢をしてしまった人たちにはこちらがフォローをしておこう」

「遅いはドアホ! もうこっちでやったわ! 言うとくけど痴漢した人だけちゃうで、被害者やそれを目撃した人、避けられる冤罪を防ぐためあらゆる手段を発生から素早く行った。それでも情報封鎖が間に合わん時も多かった。そうでなくても時間の損失はどう頑張っても防がれへんのや。もしもあんたらがこのクッソ遅い対応やったらいったいどうなっとったやろう。なぁ?」

 

 大阪弁でアザゼル総督を徹底的に責めたてる。これにはアザゼル総督もいつも通りの軽いノリはできない。

 そもそもアザゼル総督は被害者にどんなフォローをするつもりだったのだろうか? ちょっと気になるところではある。

 少女はため息をつくと椅子に深くもたれかかる。

 

「まああんたらが知らん所で起きたことやったらしゃあない。大きな組織になれば末端まで目が届かなくなることはよーわかる。うちが大阪に居った頃にもそういうのはあったわ」

「そう言ってくれると助かる。確かにあいつは変態だがこんな事件を起こすような奴じゃないんだ。むしろ変態なことがあいつの良いとこって言うか、今までも乳を突くことでいろんな奇跡を起こして他者を救ったりして……ってことは、乳を揉むことで京都内を駆け巡りその特異な力でもかき集めていたのか? 魔力やドラゴンの力以外の力。乳力と書いて『にゅーパワー』! なんて力をな」

 

 アザゼル総督がおちゃらけた感じで言うと。

 

「はあ?」

 

 若干ドスのきいた返事が帰ってきた。

 

「そいつがどんなに特別な奴か知らんけど、カタギの人生狂わせてもええくらい偉いんか、おっ? 何が『にゅーパワー』じゃ、多くのカタギに痴漢の罪着せて集めたもんや。詐欺師が人騙して得た(ゼニ)と何が違うんや」

 

 少女は最初より明らかにイライラした様子で言う。これにはアザゼル総督も下手を打ったと痛感したようだ。

 

「まあこんなこと言うたかてうちはただの会計士や、被害総額と被害者への賠償金の請求のために来ただけ。まあまだ被害総額が出そろってないから今は告知だけやけど。事件がいっぺんに起き過ぎてな」

 

 八坂香奈誘拐と大量痴漢冤罪、英雄派による挑発行為とついでに悪魔の独断行動かな。身を隠す英雄派よりも勝手に何をしでかす聖書勢力、どこで起こるかわからない痴漢に対応する方が面倒そうだ。

 

「この場合イッセーはどうなるんだ……?」

「知らん。言うたやんうちは会計士やって、そっちは上と交渉してや。けどまあ、一応エンコ詰める覚悟くらいはしときって言うとき」

「エンコって……どこのヤクザだよ」

「なんや知らんのか? 京都にも一代前の九尾を頭とする稲荷組ってのがあるんやで。ヤクザって言うよりオタクな連中やけど。それでもなめたらあかんで?」

 

 そう言うと少女は立ち上がり出口へ歩いて行った。少女がホテルから出て行くと僕もロビーに姿を現し、ちょうど一誠も来た。

 アザゼル総督が重い表情で宝玉の入った袋を一誠に渡し、これのせいでどんな事態になったかを軽く説明する。痴漢冤罪の話題で申し訳なさそうな顔をした一誠だったが、そのせいで自分が妖怪たちからどんな目にあわされるかを聞くと顔を青くした。今回はきっちりと代償を払わざるを得ないね。

 宝玉についてドライグを交えながら二人で話し合っていると、他のみんなもロビーに集まった。

 

 

 

 ホテル入り口から出ようとすると、自動ドアの先でシトリー眷属が集まっていた。

 

(げん)ちゃん、無理しちゃダメよ」

「そうよ、元ちゃん。明日は皆で会長へのお土産買うって約束なんだから」

「おう、花戒(はなかい)草下(くさか)

元士郎(げんしろう)! シトリー眷属代表としてデカいのぶちかましてやんな!」

「おう! と、言いたいところだけどな由良(ゆら)。それやっちまうと役割放棄になるぜ」

「危なくなったら逃げなさい。闇に紛れて一人で無様に」

「俺のこと嫌いなのか? (めぐり)

「ハハハ、冗談よ。でも、危なくなったら本気で逃げるのよ」

 

 匙が仲間に激励を貰っていた。陰の術者として認められてから眷属内でさらに絆が深まったらしい。ただ、肝心のソーナさんとの進展は今のとこないらしいけど。

 隣でため息を吐く一誠に木場さんが手を置く。

 

「部長不在の今、仮としての僕達の『(キング)』はイッセーくんだ」

 

「―――っ! マ、マジかよ! 俺が『(キング)』!? 良いのか、それで!?」

 

 木場さんの発言に驚愕し、自身を指差しながら問い返す一誠。

 

「何を言っているんだい。キミは将来部長のもとを離れて『(キング)』になろうとしている。それならこの様な場面で眷属に指示を送るのは当然となるんだよ?」

「そ、それはそうかもしれないが……」

 

 自分に代わりが務まるか……ってとこかな? 一誠は恥知らずに変態行為を繰り返す癖に、変に自信を無くすからね。まあ、いきなり王を任されて不安に思わない方が少数だと思うけど。

 

「昼間の渡月橋での一戦、キミの土壇場の判断とはいえ、僕達に指示を出した。それが最善だったか、良案だったかは分からないけれど、僕達は無事に今ここにいる。だから、僕は少なくとも良い指示だったと思える。―――だからこそ、今夜の一戦、僕達の指示をキミに任せようと思うんだ」

 

 木場さんは一誠に言う。昼間に何かあったの?

 

「そうだな。私やイリナ、アーシアは指示を仰いだ方が動ける。咄嗟とはいえ、部長の欠けたチームを上手く纏めたと思うぞ」

「うんうん。けど、無茶をして飛び出し過ぎるのはダメよ?」

「そうです。無理は禁物です」

 

 ゼノヴィアさん、イリナさん、アーシアさんが続いて一誠を評価する。

 これだけ信頼されてるなら僕も文句はない。どっちにしろ最終的に自分で判断するから。

 一誠の視線がゼノヴィアさんが手に持つものにいく。魔術文字らしき物が記された布にくるまれた長い得物。

 その視線に気づいたゼノヴィアさんは、その長い得物を見せた。

 

「ああ、これか。先程教会側から届いたばかりだ。―――改良されたデュランダルだよ。いきなり実戦投入だが、それも私とデュランダルらしくて良いだろう」

 

 誇らしげに見せるゼノヴィアさん。なんか変な感じがするけど、まあいいや放っておこう。

 

「わりぃ、少し話混んじまった」

 

 匙さんも合流し、シトリー眷属からも激励をもらった。

 

「よし、二条城に向かおう」

 

 グレモリー眷属とイリナさん、くわえて匙さん。このメンバーで僕たちは決戦の場所、二条城へ向かった。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 ホテルを出て京都駅のバス停に着く。ここからバスに乗って二条城へ向かう予定だ。

 僕たちは冬の制服、ゼノヴィアさんとイリナさんは教会製の戦闘服を下に着ているらしい。いざとなったら制服を脱いで動きやすくするためだとか。

 バス停でバスを待っていると、オーラが近づいてくるのを感じ取り、しばらくすると僕たちの足下に薄い霧が立ち込めてきた。

 同時にぬるりとした生暖かい感触が全身を襲う。この感覚は妖怪が使う術とは大きく違っている、おそらく敵の攻撃。燃やしてしまいたい気持ちをぐっと我慢する。

 他のみんなが霧に気づいた時には、既に霧は僕たちの全身を覆った。

 

 

 気付くとそこは京都駅の地下ホームだった。

 周囲に視線を配らせるが、一緒に転移させられたのであろう一誠しかいない。

 

「どうやら昼間の現象をまた食らったみたいだな」

「昼間の現象?」

「あっ、あの時誇銅はいなかったな。ワリィ」

 

 どうやら昼間にも同じような攻撃を受けたらしい。同じ日に二度も受けないでほしいと思ったが、二度目とはいえあの感覚を悪魔が察知するのは難しいか。

 

「俺たちはどうやら別の空間に創られた疑似京都に転移させられたみたいだ」

「へ~すごい技術力だね」

 

 妖術でこれほどの疑似空間を創り出すとなったらそうそうできるものではない。そもそも別空間に何かを創り出す術自体がない。やっぱり純粋なパワーは日本よりも聖書の方が圧倒的だ。

 

『~♪』

 

 一誠の携帯の着信音が鳴る。

 

「もしもし、木場か? 今何処だ? この奇妙な空間に転移してるんだよな?」

 

 電話の相手は木場さんだったようだ。この空間でも携帯電話は通じるんだね。

 一誠と木場さんの話を要約すると、木場さんは匙さんと一緒に京都御所に転移させられたらしい。それでこの空間が二条城を中心とした広範囲なフィールドではないかとということに。

 合流地点は予定通り二条城ということで木場さんとの通話を終えた。

 その後、アーシアさんたちと連絡を取り、教会トリオが一緒なのを確認した。それを聞いて一誠はとても安心した様子。

 さらに木場さんからもう一度連絡が届き、外のアザゼル総督とは連絡が取れなかったと。試しにこちらからかけても繋がらない。

 外部と連絡が取れないのはある意味当然。しかし逆に内部で連絡が取れるのが不可思議だ。僕たちを分断しても連絡が取りあえてしまったらその効果は半減。自分たちの連絡手段確保のためか? どちらにしろ敵の意図が読めない。

 

「どうやって二条城に行く?」

「昼間の観光帰りはホテルへ帰る手段として、二条城近くの地下鉄から電車に乗って京都駅まで帰ってきたんだ。だからここから線路沿いに進めば地下から二条城前の地下鉄駅まで行ける」

 

 そう言うと、一誠は籠手を出現させて禁手のカウントを始める。既に敵陣地内だからカウントを始めておくのは正解だと思う。

 

『WelshDragonBalanceBreaker!!!!!!!!』

 

 一誠が赤い閃光に包まれ、オーラが鎧の形に形成される。

 

「誇銅、敵の気配を感じたらすぐに俺の背後に隠れろ。俺がおまえを守るからさ」

 

 純粋に僕を心配して守ってくれようとする気持ちは素直に嬉しいや。まあ、人間だった頃の友達だし、ドの過ぎた変態でも悪い人じゃないからね一誠は。

 

「うん、期待してるよ一誠」

「よっしゃ、任せとけ!」

 

 一誠は僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。その手を強めに退かす。

 確かに背も低いし童顔だし力も一誠から見れば子供同然だろうけど、今子ども扱いしたことはムカついた。

 

「やめて。それと、来てるから」

「あっごめ……えっ? はっ!」

 

 僕が言った数秒後、強くなる敵意に一誠も気づいたようだ。

 視線をホームの先に送ると、英雄派と思われる男性がこちらに歩を進めてきた。この人、前に工場での戦いで影を使ってた人だ。

 男性は目と鼻の位置で足を止め、一誠へ笑みを見せる。

 

「こんばんは、赤龍帝殿。俺の事は覚えてくれているかな?」

 

 一誠の様子からして覚えてなさそうだね。

 

「一誠、工場で戦った影を操る神器所有者だよ」

 

 僕が教えてたところで思い出した表情をする一誠を見て、男は苦笑する。

 

「そっちの悪魔は覚えててくれたか。まあ、あんたにとってみれば俺なんて記憶に残らない程の雑魚なんだろう。―――けどな、おのときに得た力によって、俺はあんたと戦えるようになった。俺はあのとき、あんたたちにボコボコにされちまった。でも、今は違う。あんたたちにやられた悔しさ、怖さ、自分への不甲斐なさが俺を次の領域に至らせてくれた。見せてやるよ。本当の影の使い方を―――」

 

 強い重圧を感じ、男性の周囲にある柱、自動販売機などの影が不気味に動き出す。そして男は低い声音で一言つぶやく。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 ズズズズズッ……。

 

 男から放たれるプレッシャーが増し、周囲の影が男を包み込んでいく。それが徐々に影が形を成していき、鎧のような物が形成される。

 それはまるで一誠の赤龍帝の鎧とどこか似ていた。一誠の目にもそう見えたみたいだ。

 

「自分のような禁手だ。そうは思ったのかな?」

 

 一誠の心を見透かしたように、影使いの男は愉快そうに呟く。

 

「そう、あんた達にやられた時、俺はより強い防御のイメージを浮かべた。あんたみたいな鎧が欲しいと感じたよ。それだけ赤龍帝の攻撃力は恐ろしくて力強くて感動的だった。―――『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』の禁手状態、『闇夜の獣皮(ナイト・リフレクション・デス・クロス)』。さあ、赤龍帝、あの時の反撃をさせてもらうぜ?」

 

 これは間違いなく一誠の影響を受けている。対象への強い執着心が禁手に影響したってことなのかな。

 影の鎧は生きているように各部位が(うごめ)いており、影に覆われた顔は眼光を鋭く僕たちに向けていた。僕の炎なら燃やせるかな。

 一誠は拳を握り、背中のブーストを噴かして影使いに突貫していく。

 

 ブワッ!

 

 が、相手の体を通り過ぎ、男の体は煙のように霧散した。相手は何事もなかったかのようにたたずんでいる。

 一誠はすぐさま振り返り、ダッシュして男の背後から飛び蹴りをかますが、やはり攻撃は男の体を通り過ぎる。

 

「この影の鎧に直接攻撃はおろか、どんな攻撃も無駄だ」

 

 男は嘲笑した口調でそう言ってくる。

 影の鎧に身を包むことで自分の実態を影の中に隠してしまっているのか。破る手段はいくつか考えつくけど、一誠の攻撃手段ではちょっと厳しいな。

 一誠は手元から小規模のドラゴンショットを乱れ撃ちで男に放つが、ドラゴンショットは男の体の中に消えていった。―――今のは悪手だね。

 一誠も放つ攻撃が吸い込まれたところで気づいたようだ。ホーム内の物陰からドラゴンショットの乱れ撃ちが転移され、一誠のほうへ撃ち返された。

 

「クソッ! こっちの能力も相変わらずか!」

 

 あの時もこちらの攻撃を影の中に取り込み、他の影から攻撃を転移させていたからね。ただ跳ね返ってるだけだからこの攻撃には敵意がないため避けにくい。きちんと読み切らないと致命傷に繋がりかねない。

 すると一誠は僕を脇に抱え、襲い来るドラゴンショットを避けたり、蹴とばしたりしながらやり過ごす。これはこれで助かると同時にピンチだ。

 ホーム内の影もが意志を持ったように一誠の方へ向かっていく。鋭い刃と化した影が一誠を襲うが、赤龍帝の鎧に傷一つ付けることはできない。攻撃力や防御力など単純な能力値なら赤龍帝の鎧を纏った一誠は相当に強い。

 だが、影の一つが逃げる一誠の左足を掴み、ぐるぐると縛ろうとする。そこへ槍を形作った影が大量に迫る。

 

「まだまだ!」

 

 一誠は籠手からアスカロンの刃を出現させて足を縛る影を切り払い、後方に飛び退いて体勢を立て直す。

 

「チッ。厄介だな」

「ハハハハ! やるなぁ。さすが赤龍帝。けど、そちらの攻撃もこちらに効かない。持久戦になれば俺の勝ちだ!」

 

 男の言う通り、持久戦になれば時間制限のある一誠が先に禁手の鎧が解除されてしまうだろう。そうなれば僕は自分の身を守るためにも戦わざる得なくなる。例え悪魔だろうと誰かを見殺しにするのは気が引ける。

 

「一誠、思い出して。前にあの影使いを倒した方法を」

「前に倒した方法? ダメだ、あれは木場がいたからこそできたことで」

「ならさ、音や熱みたいな形ない攻撃ならどうかな?」

「音や熱……そうか! ナイスアイディアだ誇銅!」

 

 何か攻め手を思いついたようで、背中からドラゴンの翼を生やして僕を包み込んだ。

 

「ドライグ、誇銅を翼で何とか頼む」

 

 一誠が大きく息を吸い込む。そして―――。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

『Transfer!!』

 

 ボオオオオオオオオオオオオッ!

 

「炎だと! こ、この熱量は……!」

 

 一誠から放たれた大質量の炎がホームを包み、地下を炎で埋め尽くす。そんな攻撃もできたんだね。

 

「元龍王直伝の火炎だ。熱さは保証付きだよ。―――蒸し上がりやがれ」

「くそぉぉぉおおおおおおおっ! 赤龍帝ぇぇぇえええええっ!」

 

 どうやら熱で鎧内部を蒸し焼きにする作戦を取ったらしい。ドラゴンの翼に包まれて熱くないが男の絶叫から相当な火力なのだろう。どうやら形ない攻撃を防げない予想は当たったらしいね。

 

 

 

 

 プスプスと煙を上げる地下ホーム、至る所が黒焦げになっていた。影使いの男は煙を上げて倒れ伏しており、既に影の鎧は解除されている。

 男は全身にかなりの火傷を負っていた。あれではもうまともに戦う事は出来ないだろう。

 

「……強い。禁手(バランス・ブレイカー)になっても……天龍には届かないと言うのか……」

 

 男は体を震わせながら立とうとする。だが立つことすらままならない。

 

「まだやるのか? それ以上やったらあんた死ぬぞ!」

 

 一誠の忠告を聞き入れずに男は何度も転びながら立ち上がろうとした。

 

「……死んでも良い。あいつの……そ、曹操の(もと)で死ぬのなら本望だ……」

 

 その叫びは心の底からの物というのは僕も理解できた。

 

「あんたは曹操に洗脳されていないのか?」

「ああ、そうだよ……。俺は俺の意志で曹操に付き従っている……。何故かって? くくくく……」

 

 男が苦しそうに息を上げながら話し始める。口の中も熱で痛んでいるだろうにもかかわらず。

 

「……神器(セイクリッド・ギア)を得た者の悲劇を知らない訳じゃないだろう? ……神器を持って生まれた者は誰しもその力によって良い人生を送れた訳じゃない……。俺のように影を自在に動かす子供が身内にいたらどうなると思う……? 気味悪がられ、迫害されるに決まってるだろう。俺はこの力のせいでまともな生き方が出来なかったよ。……でもな、この力を素晴らしいと言ってくれた男がいた」

 

「それが曹操って奴か」

「この力を持って生まれた俺を才能に溢れた貴重な存在だと言ってくれた……。……英雄になれると言ってくれた……。今までの人生を全て薙ぎ払うかのような言葉を貰ったらどうなると思う……? ―――そいつの為に生きたいと思っちまっても仕方無いじゃないか……ッ」

 

 絞り出すように男はそう独白した。

 そこまでの忠誠心。例え彼がテロリストだとしても、自分の価値を初めて認めてくれた存在ともなれば僕もそう思うかもしれない

 事実、僕も自分の価値を認めてくれた日本の為に生きたいと思った。

 

「利用されているだけかもしれないんだぞ?」

「それの何処が悪い? 奴は、曹操は! 俺の生き方を、力の使い所を教えてくれたんだぞ……? それだけで充分じゃないか……ッ! それだけで俺は生きられるんだ……ッ! クソのような人生がようやっと実を得たんだぞ……ッ! それの何処が悪いってんだよぉぉぉぉぉっ! 赤龍帝ッ!」

 

 ただ黙って聞く僕達に男は涙を流し、思いの丈を吐き出した。

 

「……クソのような扱いを受けて、クソみたいな生き方を送ってきた俺達神器所有者にとって、あいつは光だった……ッ! 俺の力が、悪魔を、天使を、神々を倒す術に繋がるんだぞ……ッ! こんな凄い事が他にあるってのか……ッ!? それにな……悪魔も堕天使もドラゴンも元々人間の敵だ……ッ! 常識だろうが! そしてあんたは―――悪魔でドラゴンだ! 人間にとって脅威でしかないッ!」

 

 男は足をガクガクと震わせながらも立ち上がり、一誠達の方にゆっくりと歩みを進めてくる。敵意も消えていない。

 

「俺達人間を舐めるなよ……ッ! 悪魔……ッ!」

 

 侮蔑する叫びを上げて少しずつ近付いてくる。だから僕は―――。

 

「力があるからこんなことをするの? そんなのまるで、人の形をした怪物みたいじゃないか」

「あ゛!?」

 

 男性は歩みを止めて僕の方を睨んだ。

 

「怪物……だと……!」

 

 僕もドラゴンの翼から抜け出して男の方へ歩み寄る。

 

「あなたが今まで受けた苦しみには同情するし、曹操から受けた光も同感できる。だからその苦しみを種族の違う相手にぶつける。まるでクラスのいじめっ子がいじめられっ子をいじめるように」

 

 そう言いながら歩みを進め、男の手の届く範囲まで近づいた。

 

「これをあなたは英雄と呼ぶ? それとも、弱者を食らう怪物?」

「うっ……うぐぐ……!」

 

 男の目をじっと見つめ答えを待つ。男は何も答えることなく、崩れるようにその場に倒れ込み、そのまま気を失った。

 倒れる男に僕はそっとつぶやく。

 

「自分を認めてくれた人に、自分に価値をくれた人に尽くしたかっただけなんだよね? 辛かったんだよね、だから縋った。あなたは怪物じゃない。だから、誰かの希望を奪うのではなく、誰かの希望を守れるように力を振るってほしいな。それが僕は英雄なんだと思うから」

 

 男の頭を一撫でしたあと、一誠も男に一瞥(いちべつ)し暗がりの線路の先へ視線を向けた。

 

「誇銅、行くぞ」

「うん」

 

 僕は一誠の背中に乗り、ドラゴンの翼を広げて線路の先へ飛び出した。




 いろいろ悩みまくって結局原作に落ち着く。絶望的だね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。