無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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書き上げたけど、なんかすっきりせえへん!
だけどこれ以上時間をかけても悪化する気しかないから投稿。
ぶっちゃけ、誇銅が関わらない部分はやりにくいうえに危ない。実はカットも視野に入れてました。


悪役な英雄の宣戦布告

 仲間たちに指示を出した一誠は次に自分の役割。

 木場とイリナの前衛とアーシアとゼノヴィアの後衛の中間、中衛として戦うことにした。

 

「『僧侶』にプロモーションするぜ、アーシア!」

「はい!」

 

 アーシアの同意を得て一誠は『僧侶』に昇格する。

 『僧侶』へとプロモーションした理由は魔力の底上げによるドラゴンショットの強化。単純な魔力攻撃ながらそれは一誠がもっとも得意とするところ。

 

「行くぜ、ドラゴンショット乱れ撃ち!」

 

 一誠は闇の盾を構えつつ、右腕から中規模のドラゴンショットをアンチモンスターと英雄派目掛けて乱れ撃ちで放った。

 英雄派の構成員は避けていくが、アンチモンスターは砲撃を受けて大量に消え去っていくと同時に、闇の盾が光の攻撃を吸い取る。

 九重のほうに放たれた光線も一誠がドラゴンショットで弾く。

 

「九重!もう少し後方に下がれ!」

「す、すまん」

 

 京都の現御大将の娘である九重を巻き込んで傷つけてしまえばそれこそ大事。そうなってしまえばもう一誠たちには言い訳する機会すら与えられない。

 後方からゼノヴィアが放つ聖剣の波動も加わり、前方にいる大量のアンチモンスターを狙う撃つ。

 例え不調でも強力な聖剣であることには変わりない。一誠とゼノヴィアの攻撃をくらい、アンチモンスターの群れは難なく霧散していく。

 しかし、レオナルドと呼ばれる少年は足下の影から何度も何度もアンチモンスターを生み出す。コサック帽の男も戦場の真っ只中に陣取り、危険な位置から虎視眈々と機をうかがっている。

 大量のアンチモンスターが放つ光線を打ち込まれても、すかさずアーシアが回復のオーラを飛ばすので大事には至らない。

 向かってくるのはアンチモンスターだけで、英雄派の連中は未だに攻撃の姿勢を見せていない。まるで高みの見物のような態度に不気味さを感じる。

 すると、制服姿の女子数名が一誠のもとに複数現れた。

 

「赤龍帝の相手は私達がします!」

 

 制服姿の女の子数名が槍、あるいは剣を携えて突貫してくる。

 

「――――っ。やめておけ、女性では赤龍帝には勝てないよ!」

 

 腰に何本も帯剣した白髪の優男がそう叫ぶが、一誠は嬉々として脳に魔力を送り込み迎撃準備を整えた。

 

「乳よ、その言葉を解放しろッ! 『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!」

 

 一誠は脳内に送った魔力を英雄派女子達に向かって解き放った。その瞬間、一誠を中心に謎の空間が広がっていく。

 

「さあ、お嬢さんのお乳達! 俺に心の内を話してごらん!」

『動きで翻弄した後、連携攻撃を叩き込むのよん』

『私は右から攻めるぞな』

『こちらは正面からなんだな』

 

 一誠はおっぱいの声を聞いた直後に開眼する。

 

「よっ! ほっ!」

「バカな!私たちの動きが把握されている!?」

 

 一誠が全ての攻撃を避けたことで英雄派女子の一人が驚愕した。

 

「読まれるはずがない! 私たちの連携は完璧なはずだ!」

 

 驚く英雄派女子。赤龍帝を警戒しておいてこれは情報不足にも程がある。

 一誠は不敵な笑みを見せた。

 

「読んだのさ! 否、喋ってくれた! あんた達のおっぱいがな! そして食らえ! 『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』ッ!」

 

 一誠はもう一つの最低な技の名を叫ぶ。先ほど避けると同時に英雄派女子たちの制服に触れていたのだ。

 

 バキンッ!

 

 英雄派女子たちの服に一誠の魔力がまとわりつくが、いつも通り丸裸にはできずせいぜい半裸。

 それでもわりと大事な部分が破れてしまい女性にとっては恥ずかしいことには変わりない。

 

「い、いやぁあああああっ!」

「魔術で施された服が……!」

「なんだと……!?」

 

 自分の自慢の技が失敗したことにショックを受ける一誠。他の人の数十倍強いエロ根性だけで創り上げた技だけにショックも大きい。

 そこへすかさずコサック帽の男が蹴りを入れる。蹴りはかすっただけで攻撃範囲外まで逃れたが、一誠は体の内から焼けるような熱いものを感じた。

 無敵と思っていたコンボが決まりきらなかった。この胸の熱さはそれが原因なのかと一誠は考える。

 

「僕たちの衣装は全て英雄専属の仕立て屋が一人で縫い上げたもの。構成員一人一人に合わせた完全オーダーメイド。高い魔術防御力に加えて着た者の能力を底上げしてくれる。それをもってしても裸技は防げても乳技は無理だった。この礼装をもってしても女では赤龍帝に勝てないか。どちらにせよ男には通じないけどね」

 

 英雄派の優男が冷静に分析する。

 

「誰が男にやるもんかよ!」

 

 優男はニッコリ笑んだ後、他の英雄派のメンバーに言う。

 

「皆も気を付けてほしい。今の赤龍帝は歴代で最も才能が無く、力も足りないが――――。その強大な力に溺れず、使いこなそうとする危険な赤龍帝だよ。強大な力を持ちながら、その力に過信しない者ほど恐ろしい物は無いね。あまり手を抜かないように」

「……敵にそんな事を言われたのは初めてだな」

 

 敵の評価にこそばゆいものを感じる一誠。

 一誠の反応に優男は少し首を傾げる。

 

「そうかな? キミ達が思っている以上に現赤龍帝の存在は危険視されるに値する物だと僕達は認識しているけどね。同様にキミ達の仲間の眷属と――――ヴァーリも。キミもそうは思わないかい?」

 

 優男はコサック帽の男へ話を振る。しかしコサック帽の男の返事は―――。

 

「いえ、私はそうは思いません。力は足りないが、才能がないとは思いません。ですが使いこなせているとも思えない。赤龍帝の力は強力とも使い手に致命的な問題が。あれを危険視するレベルとすることが問題だと思われます」

 

 優男とはまるで逆の評価。まるで今まで一誠を見下してきた相手と同じような評価。

 しかし今までの相手と違ってそこに慢心や馬鹿にする感情は含まれていない。一誠もそれは感じていた。

 

「手厳しい意見だね。だけどくれぐれも手を抜かないようね」

「戦場で敵に手を抜くなどありえません」

「そう? じゃあいつまで神器も両手も使わないつもりだい?」

 

 そう言われると、コサック帽の男は優男から目線をきり腕組も解かない。

 

「まあいいさ。さて、僕もやろうかな」

 

 白髪の優男が1歩前に出て腰に携えていた鞘から剣を抜き放つ。

 

「初めまして、グレモリー眷属。僕は英雄シグルドの末裔、ジーク。仲間は『ジークフリート』と呼ぶけど、ま、そちらも好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

 ジークフリートの顔をずっと怪訝そうに見ていたゼノヴィアが、何か得心したような表情となる。

 

「……何処かで見覚えがあると思っていたが、やはりそうなのか?」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナが頷く。

 

「ええ、だと思うわ。あの腰に帯刀している複数の魔剣から考えて絶対にそう」

「どうした、二人とも? あのホワイト木場みたいなイケメンに覚えがあるのか?」

「ホワイトって……酷いよ、イッセーくん」

 

 一誠の例えに若干不満をつぶやく木場。

 一誠の問いにゼノヴィアが答える。

 

「あの男は悪魔祓い――――私とイリナの元同胞だ。カトリック、プロテスタント、正教会を含めて、トップクラスの戦士だ。――――『魔帝(カオスエッジ)ジーク』。白髪なのはフリードと同じ戦士育成機関の出だからだろう。あそこ出身の戦士は皆白髪だ。何かの実験の副作用らしいが……」

 

 悪魔祓いと言う肩書きに一誠はフリードを思い出し、嫌な気分になる。

 教会の戦士教育機関から二人の裏切り者が生まれ、若い男性が白髪になるほどの副作用。教会側がどれだけずさんで狂気的だったのかがこの短い説明からも見え隠れするが、それに目を向ける者はほとんどいない。

 

「フリードか、懐かしい。彼も正気を失うまではとても優秀な戦士だった」

 

 ジークフリートは過去を懐かしむようにつぶやいた。

 

「ジークさん! あなた、教会を――――天界を裏切ったの!?」

 

 イリナの叫びにジークフリートは愉快そうに口の端を吊り上げた。

 

「裏切ったって事になるかな。現在、『禍の団』に所属しているからね」

「……なんて事を! 教会を裏切って悪の組織に身を置くなんて万死に値しちゃうわ!」

「……少し耳が痛いな」

 

 ジークフリートの言葉にイリナが怒り、そのイリナの言葉にゼノヴィアはポリポリと頬を掻いた。ゼノヴィアも破れかぶれで悪魔になった身。以前にヴィロットが去り際に言い放った言葉とあわせて胸の内がチクチクする。

 ジークフリートはクスクスと小さく笑う。

 

「良いじゃないか。僕がいなくなった所で教会にはまだ最強の戦士が残っているよ。あの人だけで僕とデュランダル使いのゼノヴィアの分も充分に補えるだろうし。案外、あの人は『御使い(ブレイブ・セイント)』のジョーカー候補なんじゃないかな? ――――と、紹介も終わった所で剣士同士やろうじゃないか、デュランダルのゼノヴィア、天使長ミカエルのA(エース)――――紫藤イリナ、そして聖魔剣の木場祐斗」

 

 教会関係者だった3人に宣戦布告するジークフリート。手に持つ剣に不気味なオーラを纏わせた。

 そうこうしてる内に木場が神速で斬り込む。

 

 ガギィィィィンッ!

 

 聖魔剣を真っ正面から受けて尚、ジークフリートの剣は不気味なオーラを微塵も衰えさせない。

 

「――――魔帝剣グラム。魔剣最強のこの剣なら、聖魔剣を難無く受け止められる」

 

 鍔迫り合いを見せる両者。

 二人は直ぐに飛び退いて体勢を立て直した後、再び火花を散らしながら壮絶な剣戟(けんげき)を繰り広げ始めた。

 

「……木場と互角……いや!」

 

 ジークフリートに木場が徐々に押されている。その表情も少しずつ厳しいものになっていくのが見て取れる。木場の神速を当然のように捉え受け止められる。こうなってはいくら早くても無意味。

 

 木場のフェイントを織り混ぜた攻撃もジークフリートは最小限の動きだけでいなし、自身の魔剣を繰り出す。木場は避けるだけで精一杯、カウンターも出来ない状態だった。

 

「うちの組織では、派閥は違えど『聖王剣のアーサー』、『魔帝剣のジークフリート』として並び称されている。聖魔剣の木場祐斗では相手にならない」

 

 子フェンリル相手に終始余裕で戦っていたアーサーと互角と聞き、一誠は今の木場では勝てないと覚った。

 心配する一誠だったが、二人の剣戟にゼノヴィアも参戦した。

 

「ゼノヴィア!」

「木場! お前1人では無理だ! 悔しいかもしれないが、私も加勢する!」

「――――っ。ありがとう!」

「私も!」

 

 木場は剣士のこだわりを捨てゼノヴィアとの同時攻撃に乗り、更にイリナも参戦して3対1のバトルとなる。

 剣の切っ先が見えない程の斬戟が四者の間で起こるが、3人相手でもジークフリートは魔剣1本でいなしていき、数を物ともしてしない。

 木場が神速で分身を生みながら撹乱させて死角からの攻撃の構えを取り始め、ゼノヴィアは上空から強大なオーラを纏った聖剣で斬りかかった。更にイリナが空を滑空しながら、背後から光の剣で突き刺そうとする。

 この同時攻撃に勝利を確信する一誠だが、ジークフリートは背後から迫るイリナの攻撃を振り返らずに魔剣で防ぐ。

 更に空いた手で腰の帯剣を1本抜き放ち、上空から斬りかかってきたゼノヴィアの剣を1本破壊する。

 木場が渡した聖剣がガラスの如く儚い音を立てて砕け散った。

 

「――――バルムンク。北欧に伝わる伝説の魔剣の一振りだよ」

 

 ジークフリートは余裕の表情でそう言うが、まだ木場の死角からの攻撃が残っている。両手は2本の魔剣で塞がっているので避ける術すべが無い。そう思っていたのだが―――。

 横薙ぎの一閃がジークフリートの横腹に入る寸前――――

 

 ギィィィィンッ!

 

 金属音が鳴り響く。

 木場の聖魔剣はジークフリートが新たに鞘から抜いた魔剣によって受け止められていた。

 

「ノートゥング。こちらも伝説の魔剣だったりする」

 

 三本目の魔剣よりも一誠たちが驚いたのは、既に2本の魔剣を持っているジークフリートが何故3本目の魔剣を持てるのか。両手がふさがっているのにも関わらず。

 その答えは、ジークフリートの背中から生えた三本目の腕が魔剣を握っていたからだった。

 銀色の鱗に包まれたドラゴンの腕。それがジークフリートの背中から生えている。

 驚く一誠たちにジークフリートは笑みながら言う。

 

「この腕かい? これは『龍の手』さ。ありふれた神器の一つだけれど、僕のはちょいと特別でね。亜種だよ。ドラゴンの腕みたいな物が背中から生えてきたんだ」

 

 ジークフリートは両手に魔剣を持ち、背中の腕でもう一本を携える。計三刀流。

 ジークフリートの魔剣に神器の正体を知った木場の表情がより厳しい物に変わる。

 

「……同じ神器(セイクリッド・ギア)使い。けれど、あちらは剣の特性どころか、その神器の能力すらまだ出していない、か」

「ついでに言うなら、禁手(バランス・ブレイカー)にもなっていないけどね」

 

 残酷な報告が追い討ちを掛ける。あれほどの実験を繰り返し、これほどの強さの英雄派の構成員が禁手になれないハズがない。

 ジークフリートは素の状態で木場、ゼノヴィア、イリナの三名を圧倒する。

 

「そちらばかりに目を奪われてはいかんぞ」

 

 コサック帽の男の声が一誠の耳に入る。

 

「補給を断つのは戦争の基本だ。そして今、敵の補給源が目の前で無防備な状態である」

 

 その言葉の意味を理解するまでそう時間はかからなかった。一誠はハッとしてアーシアたちの方を見た。そして、コサック帽の男がそちらへ向かっているのも。

 

「アーシアに手は出させない!」

「イッセーさん!」

 

 一誠はすぐさまゼノヴィアの代わりにアーシアたちを守るように進路上に立ちふさがった。それでもコサック帽の男の進路は変わらない。

 

「退魔――10%」

 

 コサック帽の男の右足に穏やかな光―――退魔の波動が宿る。退魔の力が宿った右足の蹴りが一誠に向けられた。

 

「守ると言うなら、受け止めてみろ」

 

 事務的で無機質な言葉が攻撃の意志と共に一誠に向けられる。ならばと一誠も盾を構え受け止める体制に入った。

 退魔の蹴りが闇の盾、赤龍帝の堅牢な鎧とぶつかると、一誠は想像以上の衝撃を受けることに。

 蹴りに込められた退魔の波動が盾を破壊し防御を突き抜け一誠を襲い、その余波がさらに後方のアーシアたちを攻撃したのだ。

 敵の攻撃を受けなれておらずまともな自衛手段を持たないアーシア、まだ幼い妖狐の九重にとって余波とは言え強い退魔の波動は耐え難いもの。

 防御したとはいえ直接退魔の波動を受けた一誠は体中から煙を発しながらその場で膝をついた。

 

「な……なんだこれは……!?」

 

 この攻撃を受けようとしたのはサイラオーグの時のような受け止めてみせると言うものではなく、闇の盾もあることだしこのくらいなら十分受け止められると考えたから。コサック帽の男に宿った光が今まで見てきた光のどれよりも弱弱しく見えたから。

 一誠が今まで戦ってきた敵たちは一誠を侮って惨敗を(きっ)してきた。それと同じ過ちを一誠自身が犯してしまったのだ。その光の強さの鱗片をつい先ほどその身で味わったのにも関わらず。

 

「イッセーさん!」

「イッセー!」

 

 ダメージを見て慌てて飛び出そうとするアーシアを手で制止させた一誠。

 膝をつき無防備な一誠を至近距離から冷たい目で見降ろすコサック帽の男。やろうと思えばこのまま追撃をくらわすなり、一誠を無視して補給のアーシアを消すことだってできるだろうに。

 舐めてるとしか思えないコサック帽の男へがむしゃらな一撃を放つが、当然ながら簡単に距離を取られ避けられる。

 

「彼は伝説の聖剣レベルの波動を体術に乗せて扱える特異な存在でね。生きた聖剣の二つ名を持つちょっとした強札さ」

「伝説の聖剣レベル……。それで僕の聖魔剣も蹴りで破壊されたのか」

「相反する属性同士が合わさり生まれる反発力は確かに強い。だがそれゆえに均衡を崩せば容易く自壊する。聖魔剣とやらのバランスは危うく、少しばかり魔を浄化すれば簡単だ」

 

 木場の考察に余裕しゃくしゃくと補足を入れるコサック帽の男。

 ダメージが抜けきらないまま立ち上がる一誠。コサック帽の男は敵からの攻撃を警戒してか、アンチモンスターに紛れて慎重に様子をうかがう。

 『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』による大量のアンチモンスターにグレモリー剣士三人を圧倒するジークフリート。そこへさらに伝説の聖剣レベルの英雄派構成員。

 圧倒的数の前にして何とか張り合ってきた一誠たちだったが、ここに来て戦況が英雄派たちへと傾いていく。

 困惑する一誠の前にアザゼルが降り立った。同様に英雄派の中心に曹操が戻ってくる。

 一誠がチラリと二人が攻撃を打ち合いながら向かった下流方面を遠目に見やると――――煙が上げり、焦土と化していた。

アザゼルの鎧は所々壊れており、黒い翼もボロボロ。一方で曹操の方も制服や羽織っている漢服が破れていた。

 

「……これが英雄派のトップ……」

 

 伝説の存在でもある堕天使の総督と一戦交えて曹操の負傷が少ない事に驚きを隠せない一誠。

 

「……心配するな、イッセー。お互い本気じゃない。ちょっとした小競り合いだよ」

「小競り合いで下流の地域が崩壊しているんですけど!?」

 

 曹操は首をコキコキ鳴らしながら言う。

 

「いい眷属悪魔の集団だ。これが悪魔の若手でも有名なリアス・グレモリー眷属か。もう少し、楽に戦えると思ったんだが、意外にやってくれる。俺の理論が正しければ、このバカげた力を有するグレモリー眷属を集めたのは兵藤一誠―――キミの力だ。兵藤一誠は身体機能と魔力の才能は無いかもしれないが、ドラゴンの持つ他者を惹き付ける才能は歴代でもトップクラスだと思うけどね。ほら、ドラゴンは力を集めるって言うだろう? キミの場合は良くも悪くもその辺が輝いていたって事だよ。連続する名うての存在の襲来、各龍王との邂逅(かいこう)、そして多くに支持されている『おっぱいドラゴン』が良い例だ。『(キング)』無き眷属をこの状況で冷静に対処出来た。まだ稚拙で穴だらけとも言える手配だが……手慣れたら怖くなるかもしれない」

 

 曹操は一誠に槍の切っ先を向ける。

 

「だから、俺達は旧魔王派のように油断はしないつもりだ。将来、キミは歴代の中でも最も危険な赤龍帝になると確信している。そして、眷属も同様。今の内に摘むか、もしくは解析用のデータを集めておきたいものだ」

 

 一誠は英雄派が今までの敵と根本的な違いを感じた。ただし感じた違いは一誠たちを小馬鹿にしたりしない部分ぐらいである。

 アザゼルが曹操に改めて問う。

 

「一つ訊きたい。貴様ら英雄派が動く理由は何だ?」

「堕天使の総督殿。意外に俺達の活動理由はシンプルだ。『人間』として何処までやれるのか、知りたい。そこに挑戦したいんだ。それに悪魔、ドラゴン、堕天使、その他諸々、超常(ちょうじょう)の存在を倒すのはいつだって人間だった。――――いや、人間でなければならない」

「英雄になるつもりか?って、英雄の子孫だったな」

 

 曹操は人差し指を青空に真っ直ぐ突き立てた。

 

「弱っちい人間の細ささやかな挑戦だ。蒼天(そうてん)の下もと、人間のまま何処まで行けるか、やってみたくなっただけさ」

 

 曹操がその他にも何か企んでいそうな気配を感じ取る一誠。

 アザゼルが嘆息しながら一誠に言う。

 

「……イッセー、油断するなよ。こいつは――――旧魔王派、シャルバ以上の強敵だ。お前らを知ろうとする者はこれから先、全て強敵だと思え。特にこいつはその中でヴァーリと同じぐらい危険性が抜きん出ている」

 

 ヴァーリーと同等。その言葉だけで一誠の身が引き締まる。

 アザゼルが揃った事で両陣営が改めて身構えた。英雄派側では未だにアンチモンスターを生み続けている。そのうえ英雄派構成員は殆ど動いていない。

 だが今度は相手も構え、第二波の戦闘が始まろうとしたその時――――一誠たちと英雄派の間に一つの魔方陣が輝かせながら現れた。それは今まで見た事の無い紋様。

 

「――――これは」

 

 アザゼルは何か知っている様子。怪訝に思っている一誠達の眼前に現れたのは――――魔法使いの格好をした可愛らしい女の子だった。

 魔法使いが被るような帽子にマント。まさに魔法使いの格好で歳は中学生くらい。

 女の子はクルリと一誠達の方に体を向けると、深々と頭を下げ、ニッコリと笑顔で一誠達に微笑み掛ける。

 

「初めまして。私はルフェイ。ルフェイ・ペンドラゴンです。ヴァーリチームに属する魔法使いです。以後、お見知りおきを」

 

 まさかのヴァーリチームメンバーの登場に驚愕する一誠を他所に、アザゼルが魔法使いの女の子―――ルフェイに訊く。

 

「……ペンドラゴン? おまえさん、アーサーの何かか?」

「はい。アーサーは私の兄です。いつもお世話になっています」

 

 ルフェイがそう言うと、アザゼルは顎に手をやりながら言う。

 

「ルフェイか。伝説の魔女、モーガン・ル・フェイに倣ならった名前か? 確かにモーガンも英雄アーサーペンドラゴンと血縁関係にあったと言われていたかな……」

 

 ルフェイが目を爛々と輝かせながら一誠に視線を送り、一誠に近付くと手を突き出してくる

 

「あ、あの……私、『乳龍帝おっぱいドラゴン』のファンなのです! 差し支えないようでしたら、あ、握手してください!」

 

 一誠は突然握手を求められて反応に困るが、とりあえず「ありがとう……」とだけ呟いて握手に応じた。握手してもらったルフェイは「やったー!」ととても喜ぶ

 曹操側も呆気に取られ当惑している。だが頭をポリポリ掻きながら曹操は息を吐く。

 

「ヴァーリの所の者か。それで、ここに来た理由は?」

 

 曹操の問いにルフェイは屈託の無い満面の笑顔で返した

 

「はい! ヴァーリ様からの伝言をお伝え致します! 『邪魔だけはするなと言った筈だ』――――だそうです♪ うちのチームに監視者を送った罰ですよ~」

 

 ドウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 

 ルフェイが可愛く発言した直後、大地を揺り動かす程の震動がこの場を襲う。一誠たちでさえ立っているのが精いっぱいの振動に、アーシアや九重は体制を崩してしりもちをついた。

 

 ガゴンッ!

 

 何かが割れる音。そちらに視線を送ると、地面が盛り上がって何か巨大な物体が出現する寸前だった。

 地を割り、砂を巻き上げながら姿を現したのは――――雄叫びを上げる巨人らしき物だった。

 

『ゴオオオオオオオォォォォォオオオッ!』

 

 石や岩かもわからぬ無機質な素材で創られたようなフォルム。腕も足も太く、全長十メートルはありそうな巨人。

 アザゼルが巨人を見上げて叫ぶ。

 

「――――ゴグマゴクか!」

「はい。私達のチームのパワーキャラで、ゴグマゴクゴッくんです♪」

「先生、あの石の巨人的なものは……?」

 

 一誠の問いにアザゼルがゴグマゴクについて説明を始めた。

 

「ゴグマゴク。次元の狭間に放置されたゴーレム的な物だ。稀まれに次元の狭間に停止状態で漂ただよってるんだよ。何でも古いにしえの神が量産した破壊兵器だったらしいが……。全機が完全に機能停止だった筈だ」

「あんなのが次元の狭間にいるんですか!? 機能停止って、あれ動いてますけど!」

「ああ、俺も動いているのを見るのは初めてだ。問題点多過ぎたようでな、機能停止させられて次元の狭間に放置されたと聞いていたんだが……動いてるぜ! 胸が躍おどるな……ッ!」

 

 アザゼルは少年のように目をらんらんと輝かせる。しかしハッと気づいてつぶやく。

 

「そうか。ヴァーリが次元の狭間で彷徨うろついていたのはグレートレッドの確認だけじゃなかったんだな」

 

 アザゼルの意見にルフェイが答えた。

 

「はい。ヴァーリ様はこのゴッくんを探していたのです。オーフィス様が以前、動きそうな巨人を次元の狭間の調査で感知したとおっしゃっておられまして、改めて探索した次第です」

「先生、次元の狭間ってあんなのやグレートレッドがいるんですね……」

「次元の狭間は、ああ言う処分に困った物が行き着く先でもある。グレートレッドも次元の狭間を泳ぐのが好きなだけで実害は無いぞ。各勢力でもグレートレッドはブラックリストや各種ランキングに入る事は無い。あれは特例だ。つつかず自由に泳がせておけば良いものを……」

 

 アザゼルがそう呟く中、ゴグマゴクが英雄派の方を向き、巨大な拳を振り下ろした。

 大きな破砕音と共に、ゴーレムの一撃が渡月橋が破壊し、同時に大量のアンチモンスターをも屠った。英雄派の構成員達はその場から飛び退き、橋の向こう岸に退避した。

 

「ハハハハ! ヴァーリはお冠か! どうやら監視していたのがバレたようだ!」

 

 曹操は愉快に高笑いしながら、槍をゴーレムに向け。

 

「伸びろっ!」

 

 そう叫ぶと、槍の切っ先が伸びゴーレムの方に突き刺さる。

 強大なゴーレムがその一撃で体制を崩し、その場に倒れた。その衝撃で辺りが大きく揺れた。

 橋が壊され向こう岸への次の一手を考えていると―――。

 

「あらあら、渡月橋壊してもうて。まあ、異空間やから別にかまへんけど」

 

 なんの前触れもなく卯歌の付き人の八尾がさも当然のように現れた。八尾は壊れた橋の真ん中の何もない空間に立っている。

 八尾の姿を見て九重はそっとアーシアの後ろに隠れた。

 

「九重様、帰ったらお説教どすえ」

「バレとったのか!?」

「自室からコソコソと出て行くところからずっと後をつけさせてもらいました」

 

 貼り付けなような笑顔の八尾にこの後のお説教のことを考えているのか九重は子供らしい震えを見せる。

 八尾は曹操たちの方へ向きなおし言う。

 

「さてと、えらい好き勝手してくれましたなぁ」

「京都の八尾か。貴様らがここに来た理由は九尾の奪還ってとこか」

「そのことなんやけど、一つ提案があるやけども」

「提案?」

「うちらの御大将今すぐ返してくれまへん? そやったら今回限りあんはんら見逃したります。すぐに京都から出て行くなら後ろの悪魔や堕天使にもうちらの領地で勝手なことはさせまへん」

 

 八尾からの提案。それは九尾を今すぐ解放する代わりに今回の一件をチャラにすると言うこと。それもテロリストの逃亡の手助けまですると言って。

 そんな取引を目の前でされてアザゼルもいい顔はしない。

 

「なるほど。しかし後ろの堕天使総督はよく思ってないようだが?」

「関係ありまへん。ここは日本の京都、悪魔や堕天使の領土とちゃいます。えらい好き勝手されてるから勘違いされるかもしれまへんけど、うちら別に仲間とかちゃいますから」

「ハハハハハ! どうやら日本妖怪との和平はうまくいっていないようだなアザゼル総督!」

 

 そう言われてもアザゼルは何も言い返せない。事実、三大勢力の和平会談で日本側から良い返事は得られていない。北欧神話を交えた会談でも日本神にアザゼルは無視された。

 あきらかに日本のトップは聖書に良い印象を持っていない。それをアザゼルもわかっていた。

 

「一つ訊きたい、もしも九尾の御大将は返せぬと言ったらどうなる?」

 

 ―――ツー……。

 

 そう言った瞬間、曹操の頬に一筋の薄い傷跡ができた。皮一枚切り裂かれた傷跡からうっすらと血が流れる。

 曹操はその怪我をわずかに感じた頬の違和感で触っりついた血で気づいた。

 

「すんまへんな、うちらの攻撃はあんさんらと違ってわかりにくうて」

「会話の最中にでも攻撃を仕込んでいたか、とんだ狸だな」

「狸ちゃいます、狐どす」

 

 お互い笑顔ながら場の空気が張り詰める。無言の圧迫感が一誠たちにも伝わっていく。

 沈黙の中、曹操の傍にローブを羽織った青年が現れ、手元に霧を発生させ英雄派の全員を薄い霧で覆い始める。

 

「少々、乱入が多すぎた。―――が、祭りの始まりとしては上々だ。アザゼル総督! それと京都の八尾! 我々は今夜この京都と言う特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城で一つ大きな実験をする! 是非とも制止する為に我らの祭りに参加してくれ!」

 

 楽しそうに宣言する曹操。霧はどんどん濃くなり視界の全てを霧で包んでいく。

 

「おまえら、空間が元に戻るぞ! 攻撃を解除しておけ!」

 

 アザゼルの助言で一誠たちは急いで攻撃態勢を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 一拍空けて霧が晴れた時、そこは観光客で溢れた渡月橋周辺に戻っていた。周りは何事も無かったかの様に橋を往来していく。

 

「おい、イッセー。どうした、すげー険しい顔になってんぞ?」

「…………いや、何でもないよ」

 

 一誠の顔を覗き込む松田が語り掛けると、適当に誤魔化し大きく息を吐いた。

 他のメンバーも表情が険しく、ルフェイとゴグマゴクの姿はどこにもない。

 

 ガンッ!

 

 アザゼルが電柱を横殴りした。

 

「……ふざけた事を言いやがって……ッ! 京都で実験だと……?舐めるなよ、若造が!」

「……母上。母上は何もしていないのに……どうして……」

 

 アザゼルはマジ切れし、九重は体を震わせた。




このモヤモヤ感のまま次の展開どうしよ……。

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