無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 いろいろ考えた結果、キリが悪かったので今回は短めです。


不運な九尾の孫

「それで話を戻すけど、なんで悪魔がいるのかしら?」

 

 そう訊かれ、メガネの女性が今までのいきさつを説明する。御大将が行方不明になり九重が暴走し一誠たちを襲ってしまったこと、その謝罪をするために一誠たちを呼んだこと。そして今回の事件にテロリストが関わっている可能性が高いと聖書側から聞き、行方不明の八坂加奈の救出のため力を貸してもらおうと堕天使総督と魔王を呼んだと。

 

「それで今しがた総督殿と魔王殿が姫の救出に力を貸してくださるとのことで」

 

 それを聞いた前御大将の卯歌は笑顔のまま言う。

 

「それはちょっとおかしいな~?」

「お、おかしいと申しますと?」

「私、九重ちゃんが悪魔を襲っちゃった事さえついさっきさとりちゃんからの報告で知ったのだけど。これってどういうことかしらね」

 

 卯歌はつぶった目を少し開きながら言う。穏やかな雰囲気の背後に見え隠れする威圧的な何かを烏天狗たちも一誠たちも感じる。

 

「もしもこの話が私を飛び越したとしてもおかしい状況だし。もしかして、これってあなたたちの独断だったりする?」

 

 そう言って烏天狗の長とメガネの八尾に視線を送る。二人は卯歌の目を見ることができず黙って顔を伏せた。

 無言の肯定。それは当然卯歌にも伝わってしまう。

 

「ふーん、そうなんだ。私たち京都の妖怪よりも堕天使総督や魔王を信じるんだ」

「そのようなことは決して……!」

「まさか身内にこんなこと言うことになるとは思わなかったけど―――京の妖怪をなめないで」

 

 卯歌は笑顔から一転真顔で、背後に隠していた威圧を一瞬だけ前に出して言った。

 一瞬だけでしっかりと感じることはできなかったが、九重たちも一誠たちも、アザゼルとセラフォルーさえも戦慄を覚えた。

 

「でも、それってつまり私たちはそれほど不甲斐なく見えたってことだもんね」

 

 今度は先ほどの威圧をすっかり消し、わざとらしく涙を見せる。

 

「いや……その……!」

 

 烏天狗の長は非常にバツが悪そうにあたふたと焦った。八坂姫を心配するあまりことを急ぎ、良かれと思って聖書に協力を仰ぐと言う京都の面子に泥を塗る行為をしてしまったことに気づく。

 卯歌が現御大将の側近の二人を威圧的に責めていると、九重が二人の間に出る。

 

「まってくれなのじゃ! おばあ様、これ以上二人を責めないでほしいのじゃ。二人はただ母上のために行動してくれただけで」

 

 九重がそう言うと卯歌はニッコリ笑顔で九重の頭を撫でた。

 

「大丈夫よ九重ちゃん。別に二人を責めてるわけじゃないの。でも、悪いことをしたなら叱らなくちゃいけないでしょ? そうやって反省して二度と同じ間違いをしないようにしないとね」

「……うん」

 

 前御大将と現御大将の側近という上下関係から一転、祖母と孫というほっこりした関係性への変化に側近の二人はほっと胸を撫でおろす。

 

「お二人とも何安心してるんや? ウチが卯歌様の側近八尾として後できっちりお説教したりますから安心したらあきまへんえ」

 

 が、卯歌の連れの八尾がその安心をかき消した。その中でメガネの八尾がおずおずと手を挙げながら質問した。

 

「あの、それでは総督殿と魔王殿が力を貸してくれださると言う話はどのように……?」

「もちろん白紙やで。悪魔の人たちを巻き込まれへんわ」

 

 狐目の八尾がそう言うとアザゼルとセラフォルーが言う。

 

「こちらとしては平和な日常を壊そうとする敵を打倒するためならいくらでも手を貸す。それにこれは聖書と日本の友好関係を築くための協力でもあるだからな」

「日本のために頑張っちゃうんだから☆」

 

 相手が遠慮してると思ったアザゼルとセラフォルーは遠慮する必要はないと伝える。

 しかし京都側が協力を拒むのはそういうことではない。

 

「既に悪魔側のスタッフが京都内を調査中だ」

「ああ、それで悪魔が動き回ってたんやね。邪魔なんで引かせてくれまへんか?」

「なっ!?」

 

 自分たちが京都の妖怪に協力しようとしたことをはっきり邪魔と言われたことにショックを受ける総督と魔王。そんな二人の衝撃など無視して話を続ける。

 

「ただでさえ誘拐犯のダミー痕跡があちらこちらにあるんや、そこに悪魔が闇雲に動き回りますと余計なものが調査網に引っかかってややこしいんどす」

 

 悪魔は否応にも独特で強い魔の気配を放つ。それは自分たちを欺いて御大将を攫った侵入者の気配とは明らか違うが、感知範囲に入られると強く感じてしまうので邪魔になる。例えるなら、一つの匂いを注意深く辿ろうとしてる最中に数種類の香水をバラまかれるようなもの。それでも嗅ぎ分けができないわけではない。

 だからと言って完全に放置すれば調査と銘打って立ち入ってはいけない場所に入ってくるかもしれない。それを見落とせば最悪替えの利く御大将が誘拐されただけでなく、替えの利かない京都事態に取り返しのつかない被害が出る可能性がある。

 

「そもそもなんで悪魔が既にうごいとるん?」

「それは京都に住む妖怪の報告でこの地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明なのを知って…」

「報告? まるで私たちがあなたたちの部下みたいな言い方ですね」

 

 アザゼルの答えに対してピンク髪の少女が言った。その少女の左胸には管で体に繋がった目玉が浮遊していた。

 悪く捉えられえた表現についてアザゼルが弁解しようとするが、アザゼルが話す前にその少女が言葉を遮る。

 

「悪魔と商業的な仲介をする悪魔があなたたちに話したのですか。御大将が何者かに攫われた、何か知らないか。そしてあなたは心当たりがあるから協力する、と」

 

 内容を言い当てられたアザゼルは心底驚いた表情をした。

 

「俺の心を読んだのか」

「俺の心を読んだのか……?!」

「ええ、私は心を読む妖怪、(サトリ)ですから」

 

 アザゼルが言おうとしたことを奪うピンク髪のさとり妖怪。その能力を目の当たりにして悪魔側が頭に浮かべたのは一誠の乳語翻訳(パイリンガル)。とてつもなく卑猥な技でソーナ眷属に使用した際には防がれてしまったが、それでもその能力の強さは知っている。

 一誠が少女の能力が自分の乳語翻訳(パイリンガル)と同じだと心の中で思うと。

 

「……その卑猥なもんと一緒にすんじゃねぇよ」

「手ェ出したらあきまへんよ?」

 

 (サトリ)の少女は微かな笑顔を消して、嫌悪感の籠った目を向け小さくもイラついた声で言った。何かしら危害を加えそうな少女を前もって止めるように手で遮る。

 

「なるほどな。だったらわかるだろ? 俺たちが嘘を言ってないってことが。本当に九尾の御大将の救出に力を貸すってのも」

 

 アザゼルは心を読まれることを逆手に取り信頼を得ようとする。そう言われて卯歌は少女に訊く。

 

「で、どうだった?」

「結果から申し上げますと、その方たちは確かにシロです。しかし彼らの勢力が黒幕でない確証はありません」

「なっ……!」

 

 自分たちの潔白は証明されてなお疑われる。セラフォルーもまさかここまで信用が得られないとは予想外で思わず驚きの声が出た。

 アザゼルはやれやれと頭に手を置いてつぶやくように言う。

 

「たく、そんなに信用ないのかよ」

「うん、信じてないわよ」

 

 卯歌はいい笑顔で答えた。その答えを聞いてアザゼルたちは駒王町で行った三大勢力和平会談で悪魔と天使からのアザゼルの評価は一番下だったのを思い出す。

 あの時はすんなりと和平にこぎつけることができたが、今回の場合は相当手こずりそうだと頭を悩ませる。

 このまま追い出されれば京都の妖怪と再び関係を持つことが困難になる。そう考えたセラフォルーは外交担当として黙って引き下がるわけにはいかない。

 

「しかし、人手が増えればそれだけ早く御大将を救えるかもしれません。こちらの人員がそちらの調査の邪魔になるのでしたら、邪魔にならないように協力体制を整えれば単純に考えても効率は倍になります。どうか私たちを信じてください」

「そうね。でもダメ、あなたたちの力は借りない」

 

 しかし頑として卯歌は聖書の助力を拒否。取り付く島もない。

 すると今度は九重が卯歌の服を軽く引っ張り訊いた。

 

「おばあさま、どうしてこの者たちがそこまで信用できんのじゃ? この者たちは間違いで襲ってしまったわらわを優しい言葉で許してくれたのじゃ。それに総督殿も魔王殿も本気でわらわたちに協力してくれようとしてるとさとりが証明したではないか。それなのにどうしてそこまで邪険に扱いのじゃ? 母上を早く見つけ出すなら人では多い方がよいのではないのですか?」

 

 九重は子供ながらの純粋な疑問を口にする。一誠たちは襲撃してしまった自分を気遣うように優しい言葉で許してくれた。心を読む能力で犯人ではないことも確認済み。それなのになぜこんなにも拒むのか。

 妖怪の調査網に引っかかるならきちんと連携を取ればいい。そうすればセラフォルーが言った通り単純に人手が増え、早く救出できるかもしれない。

 例え黒幕が悪魔や堕天使だとしても、その堕天使と悪魔のトップが本気で協力してくれるのならば余計心強いとも言える。

 それなのになぜおばあさま(卯歌)は協力を拒むのか。母上を早く助け出したい九重はそれが納得できなかった。

 卯歌は悲しそうな顔で自分を見上げる九重へと視線を降ろし優しく言った。

 

「そうね九重ちゃん、本当は信用に足りるいい人なのかもしれない。けれどね、この場合それは関係ないの」

「……? それはいったいどういうことなのじゃ?」

「そうね。九重ちゃんがお役目を任されるようになったら教えてあげる」

 

 そんな説明では九重も納得できない。だが、御大将の娘としてトップの世界に僅かばかり触れ知る九重は半場納得せざる得なかった。九重はもう何も言わない。

 

「まさかこんなことになるとは……」

「それはこっちのセリフよ。まったく、不可解な連続痴漢事件について来たのにまさか誘拐されたなんて、こんなサプライズ初めてよ!」

 

 アザゼルがため息混じりに呟くと、卯歌もプンプンと頬を膨らませて言った。

 

「この事件もあなたたちが来た時期と重なるけど、まさかこれも関わってたりしないでしょうね」

「いや、そっちはマジでわからん」

「そっ、ならいいわ。なら京都観光の続きを楽しんでね!」

 

 あれだけ一誠たちを邪険に扱ってきた卯歌だが、最後は笑顔で一誠たちを見送った。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 夜、夕食も済ませ、お風呂にも入った僕は布団に転がっていた。ただし―――。

 

「ふふふ、昼間は少ししか会えんかったが夜はたっぷりじゃ」

「ここなら悪魔も一般人も、新参妖怪の目も気にする必要がないからの」

「えへへ、お兄ちゃんの匂い~」

 

 藻女さんの屋敷だけどね。藻女さん、玉藻ちゃん、こいしちゃんが僕に絡みつくように抱き着く。とても暖かくて幸せな気持ちになる。

 実は少し前まで僕はホテルの布団に転がっていた。だけど、部屋の扉がノックされて開けてみると、そこには微笑むこいしちゃんが。そしてそのまま誘われるまま藻女さんの屋敷へと案内されたということだ。

 ホテル内の道中でアザゼル総督とすれ違ったけど、こいしちゃんの能力でまったく気づいてなかったよ。

 ホテルの部屋にはこいしちゃんが作った僕の分身が身代わりをしてくれている。こいしちゃんレベルが作った身代わりなら悪魔に見破られることなんてないだろうし、作ったのはこいしちゃんでも素材は僕なので分身が得た情報は取り込むことで知ることができる。

 念のために罪千さんにはホテル内にいるのは僕の分身だからとメールしておいた。分身も今頃それを伝えてるかもしれない。

 

「藻女さん、玉藻ちゃん、昼間はありがとうございます。こいしちゃんも案内してくれてありがとう」

「そんなこと気にするでない。妾と誇銅の間柄ではないか」

 

 スキスキとじゃれて甘える三人。ああ、本当に幸せだ。こんなにも僕を愛してくれる家族を千年以上ほったらかしにしてしまったと考えると胸が痛い。これから時間をかけて今日のお礼もかねて埋め合わせしないとね。

 

「それにしても大変なことになってしまいましたね」

 

 僕がそう言うと、スリスリとする手を止め、抱き着いた体勢のまま藻女さんが言う。

 

「ふむ、その件か。まだ決定的な足取りは掴めておらんが、断片的な足取りなら少しは見つけ出したと聞いておる。京都内には役目を担う手練れの妖怪たちが気を張り巡らせておる。次奴らが動き出したならすぐにわかる。まさか香奈を攫って終わりと言うわけでもないじゃろうし」

「九尾の孫に手を出したんじゃ、それなりの落とし前はつけてもらわんとな」

 

 何気に玉藻ちゃんが怖いこと言ってる。それにしても手練れの妖怪の感知能力をもってしても見つけられないのか。僕の知る限りの戦績だと禍の団の力基準や価値観は悪魔や天使と同じだと思ったんだけどな。

 妖怪をあざむける技能があるとすればちょっと評価を改めるべきかも。

 

「この京都内で結界で身を隠すのは不可能と言っていいじゃろう。となれば、この裏京都のような別空間が妥当じゃろうな。流石に別空間にまで逃げられると追いきれぬ。今は犯行現場から痕跡を辿って出入り口を探っておる」

 

 別空間、異次元……か。レーティングゲームのような場所を秘密裏に作り逃げ込まれたら日本妖怪でも見つけ出すのは困難だろう。それでも時間をかければ見つけ出してしまうだろうけども。それまでに相手が変な動きをしないかどうかだ。

 これは僕が考えても仕方のないことか。今僕にできることは現御大将の無事を願うことと、藻女さんたちの邪魔をしないこと。あとできれば一誠たちが余計なことをしないように抑制または誘導することかな。

 どちらにせよこの話題はもうやめておこう。

 

「ところで今の御大将って誰なんですか?」

 

 当然今も昔も京都の本当のトップは藻女さんだろう。だけど藻女さんが御大将と呼ばれてないってことは表向きは別の誰かがしているということ。

 順当に考えれば玉藻ちゃんかこいしちゃん。だけどここにいると言うことはどちらでもないことは確か。それに魔王様は九尾の御大将って言ってたし。

 

「八坂加奈と言う九尾じゃ。ちなみに妾の孫じゃ」

 

 玉藻ちゃんの言葉に僕は驚いた! まさか玉藻ちゃんに孫ができてたなんて。と言うことはつまり、当然玉藻ちゃんには子供をつくったということに。

 

「そっか、そうだよね、玉藻ちゃんももう大人なんだもんね。相手はどんな人? 玉藻ちゃんの子供にも会ってみたいな」

「娘の卯歌ならそのうち紹介しよう。しかし夫は無理じゃな、なんせ妾は未婚で相手なんぞおらんからの」

 

 夫がいない? でも子供はいる。ん、どういうこと……?

 僕が?マークを頭にたくさん並べていると、その説明を藻女さんがしてくれた。

 

「妾たち九尾は少々特殊な子孫の残し方ができる妖怪でな、千年生き天狐となると一人で子を宿すことができるんじゃ。本来父と母の両方の血を半々受け継ぎ一つの命となるのじゃが、天狐となった時の特別な妖力で九尾一人の血で一つの命を一度だけ紡ぐことができるのじゃ。この方法で出産したのは妾と玉藻だけじゃがな」

 

 そういえばあまり気にしたことなかったけど、藻女さんの夫や玉藻ちゃんのお父さんについて話すら聞いたことがなかったな。少し気になった時でさえこういう話はデリケートだと思って避けてたし。

 ……ん? なんだろう、心の中に何かが引っかかる感じがする。今の話題とは当たらずとも遠からずって感じの何かが。

 その疑問を見つけようと今までの会話を逆に辿ると意外とすぐに疑問にぶち当たった。

 

「玉藻ちゃん、さっき現御大将の名前は八坂加奈って言ったよね」

「そうじゃが?」

「なんで九尾(くお)じゃなくて八坂なの?」

 

 そう、玉藻ちゃんの孫で現御大将の名前は八坂。藻女さんと玉藻ちゃんの苗字は九尾(くお)。最初は父親の姓を名乗ってるのかと思ったけど玉藻ちゃんに夫はいない。そもそも名家の九尾家の方が他の姓を使うより影響力は上のハズ。

 

「それはのう、妾の娘の卯歌と一度縁を切ったからじゃ」

 

 勘当!? 衝撃の事実にびっくりしたよ!

 そんな僕の衝撃をおいて玉藻ちゃんは笑い話のように話を続けた。

 

「当時な、卯歌が旅の男を婿にすると妾に言って来たんじゃ。しかし得体のしれぬ男を、それも一目ぼれに近いものでお互いのことを深く知らんときた。じゃから妾はそれはいかんと言ったんじゃ。するとそこから言い合いになってのう、それで最終的にその男と結婚するなら親子の縁を切ると言うと卯歌は旅の男と駆け落ちしてしまったんじゃ」

 

 ぜんぜん笑える話じゃなかった! でも藻女さんやこいしちゃんの顔をうかがうとややいい感じの苦笑いをしている。玉藻ちゃんもここからがおもしろいところと話を続けた。

 

「それでの、翌年ぐらいに蘭に連れられて泣き名がら帰って来たんじゃ。駆け落ちした男が衆道(しゅどう)に走ったと」

 

 ぷぷっと笑う玉藻ちゃんに相変わらず苦笑いの二人。衆道、つまり男色に走ったと言うこと。一体その男性に何が起こったのかは不明だが、名家の名を捨ててまで駆け落ちして相手が男色に走る結果なんてね……そりゃ泣きたくもなるよ。

 

「それから蘭の説得もあって流石に気の毒すぎるから復縁することにしたんじゃ。本人も反省してたことじゃし、ここまで痛い目見ればもう懲りたじゃろうし。……言っておくが妾は何もしとらんからな?」

「わかってるよ」

 

 僕が裏で手をまわしたんじゃないかと思ったのか少し慌て気味に付け加える。もちろん玉藻ちゃんがそんなことするわけないと思ってるよ。そもそもそんな悪質ないたずらを藻女さんが見逃すとは思えないし、もしもの時はこいしちゃんだって止めるだろう。

 

「そして卯歌が戻って来た頃、九尾家をどうするかに悩んでいたんじゃ。九尾家を表舞台に存続させるにはあまりにも古く、長く居すぎた。それで卯歌と復縁したことじゃし九尾家を表舞台から消し、卯歌に八坂の姓を与え新たな名家として表舞台に立ってもらうことにしたんじゃ。これなら勘当の体裁も保てるからのう」

 

 なるほど、そういうことだったんだ。災い転じてなんとやらで結果的に九尾の一族は京都の裏と表を治める力を維持したってわけか。歴史的政治の裏と流れを感じるよ。

 

「その後卯歌は武家の(おのこ)と付き合うことになったんじゃが、実は八坂の財産目当てと言うことが発覚したうえにがっつり浮気されてた」

「なんて悲惨な!」

 

 卯歌ちゃんの悲劇はまだ続いてた!? しかもある意味彼氏が衆道に走った以上に悲惨に、そして最低な男に!

 

「しかし最初の濃い失恋で耐性が付いたのかクヨクヨすることなくバッサリと別れ次に進み、今度は名家の男と恋に落ちたんじゃ。今度は衆道に落ちることも財産目当てもなく順調にお互いの仲を深めていったんじゃが、今度は相手の男が平民の娘に恋をし駆け落ちされたんじゃ」

「もう絶望だよ!」

「その通り、卯歌は絶望的に男運がなくてのう。流石に三度は堪えたようでしばらく塞ぎこんでしまった」

「……ご愁傷さまです」

 

 ここまで来ると玉藻ちゃんの笑い顔もどこか苦みを感じる。おそらく今だから言えることと、笑い話にでもしなきゃやってられないってところかな。僕も自分の娘がそこまで男運がなかったとしたらもう笑い話にでもしなきゃ浮かばれないと考えてしまうかもね。

 話すごとに苦笑いを増していく話しはもう少しだけ続いた。

 

「―――それからまあ、孫の香奈を生むまでに至ったわけじゃ。孕ませて逃げた外道には卯歌の知らぬところでしっかりと落とし前をつけさせたがのう」

 

 やっと終わった……。まるで小説のような男運のない物語だったよ。しかも最後はできちゃったってのがまた重い。その卯歌ちゃんに会った時僕はどんな顔をすればいいんだろうか……? せめてその卯歌ちゃんが明るい性格であることを祈ろう。

 

「卯歌もいろいろありすぎたせいか吹っ切れすぎて明後日の方へテンションが高くなった。もともとそういう性格でもあったがのう。誇銅も卯歌に会ったら優しく家族として迎え入れてやってほしいんじゃが」

「もちろんだよ。玉藻ちゃんの子供なんだから僕にとっても身内同然だからね!」

 

 よかった、マイナス性格になってないようだ。僕は玉藻ちゃんのお兄ちゃんだから卯歌ちゃんの伯父ってことになるのかな。

 

「その通りじゃな! じゃから卯歌に会ったら父親として接してやってくれ」

 

 ん、父親……?

 

「卯歌を孕んだ時に妾はずっと兄様のことを考えておった。じゃから血の繋がりはなくとも兄様は卯歌の父親と言っても過言ではないのじゃ」

 

 いやいやいや過言だと思うけど!? 妊娠から育児まで何一つ僕は関わってない人が父親ってのはだいぶ無理があると思うよ!

 

「のう兄様、二人目に挑戦せんか?」

 

 玉藻ちゃんが可愛らしい笑顔で言う。二人目どころか一人目も作った覚えはないんですけども。本当に変わらなかったのは見た目だけで、中身は藻女さんそっくりに成長したね。

 すると今度は後ろから藻女さんが言った。

 

「何なら玉藻の妹を作ってみんか? 妾は玉藻を宿した時に思い浮かべた男などおらんかった。妾も愛する人の子を産みたいのう」

 

 顔は見えなくとも大人な魅力が籠った甘えた声が耳に入る。前には玉藻ちゃん後ろは藻女さん。体も尻尾で絡められ逃げる隙はない。九尾流柔術もこうなってしまえば為すすべはない。柔術にしたって二人の方が僕よりも何倍も上だし。

 

「兄様が父上になるのか。それでもかまわぬぞ」

 

 僕が息子になろうと父親になろうと辿る結果は同じなんだろうな。ただ順序が多少変わるくらいで。

 

「前にも言ったじゃろ? 妾たちはいつでも誇銅を受け入れる準備ができてると」

「本気じゃからな?」

 

 ええ、その目を見ればわかりますとも。笑った目の奥が本気だ。

 

「安心するのじゃ、前のように暴走したりせぬ。誇銅の気持ちを妾たちは尊重する」

 

 そう言って藻女さんの尻尾が僕の服の中に入って来る。同じく玉藻ちゃんの尻尾も。

 ムードが高まると同時になんだか気持ちも昂ってくるように感じる。そして、藻女さんは僕の頬に、玉藻ちゃんは少し浴衣のはだけた胸元に軽くキスをした。

 これは暴走して襲われた時以上にヤバイ! この現状を打破すべくこいしちゃんに頼ろうと思ったのだが、こいしちゃんはいつの間にかいなくなってしまっていた。

 心の読めるこいしちゃんは空気も読める賢い(サトリ)だ。子供っぽく見えるがその内面は実際そうではない。そしてそのせいで僕の貞操がピンチに陥ってるわけだ。

 

「……ダメかのう兄様? 妾たちは兄様とこうして一緒にいられることが何よりも幸せな時間じゃ。これ以上を求めてはいけないのか?」

 

 少し悲しそうな顔をしながら言う玉藻ちゃん。うっ! そんな風に言われたら……ズルいよ。

 もちろん求めてもいい。僕だけ求めたもの(家族の温もり)を貰ったんだから、僕も求められて無視はできない。そもそもそれすら僕の求めた愛情でもあるんだからなおさら。

 望む通り応えられなくても最大限の努力はしなくちゃ。けど、今の僕にどれだけのことができるのか。

 そう思っていると、玉藻ちゃんは冗談だよと言うかのような無邪気な笑顔に変わる。そして後ろから僕の左頬に藻女さんの唇が触れた。

 

「そんなに体を固くして悩まんでもよいではないか。言ったじゃろ? 誇銅の気持ちを尊重すると」

「妾の言葉で変に急がせてしまったならすまぬ。じゃからいつも通りの優しい表情をしてほしいのじゃ。そんな難しい顔じゃなくて」

 

 妖術の達人にこれだけ体を密着させてるんだ、僕の不安や震えなんて二人には手に取るようにわかってしまう。また二人に心配かけちゃった。

 ぶっちゃけどこまで二人の愛に応えられるか、求めるところまでいけるか不安はいっぱいだけど、とりあえず今は僕にできる精一杯の愛情をあげるしかない。それが今僕がするべき善行(埋め合わせ)だ。

 

「うふふ、ごめん」

 

 僕は笑顔で玉藻ちゃんと鼻同士を合わせ、藻女さんには頬へキスの仕返しをする。

 

「それじゃお言葉に甘えてゆっくり応えさせていただきます」

 

 僕がそう言うと玉藻ちゃんは嬉しそうに、気配からしておそらく藻女さんも同じように嬉しそうな笑顔を浮かべてるのだろう。大好きな人の笑顔を見ると僕もつられて笑顔になっちゃうよ!

 

「おお! その気になってくれたか! それではこちらも本気になってもらえるように誇銅を誘惑せんとな」

「もちろん兄様が受け入れてくれると言うまではギリギリのところでちゃんとセーブするぞ。ギリギリでのう」

 

 服の中に入った尻尾が本当にギリギリの場所をまさぐり、服の上からも二人の指が僕をくすぐる。その絶妙な加減が僕を体の内側から熱くさせる。

 さらに後頭部には程よい弾力のあるものを押し付けられ、目の前からも幼い体型だが大人な色気を醸し出した玉藻ちゃんが(なま)めかしく迫って来る。

 

「あっ、ちょ、そこは……うぐぐ!」

「フフフ、いい声じゃぞ兄様」

「夜はまだ始まったばかりじゃ。時間はたっぷりあるからな」

 

 ああ、僕はこのまま朝まで貞操を守れるんだろうか……。ちょっと自信なくなってきたな。




 最近、書く気のないがヒロアカのオリ主設定が頭にチラついて仕方ないのでちょっとここで発散させてもらいます。

 個性「吸血鬼」:血を飲むほど吸血鬼になっていく。

 主人公は気弱で優しい性格。童顔で服装次第では完全に女の子に見える。さらに個性の理由で本人に女装癖はないが女の子の服を結構持っている。
 素の力は女子の平均以下の力だが、吸血レベル1で大人の男性以上になる。
 レベル1(身体能力強化)→レベル1.5(自分の血を固めて操れる)→レベル2(吸血鬼の翼や爪が使用可能)→レベル2.5(血を霧状にできる)→レベル3(性別転換)
 レベルが上がるにつれて気弱な性格から傲慢な性格に逆転していく。最終的には性格だけでなく性別まで逆転する。
 ギャスパー(ハイスクールD×D)→レミリア(東方)がイメージ。
 小食なため飲みすぎると強くはなるが吐き気に襲われる。レベルが上がるにつれて吸血鬼な部分が多くなるので吸血鬼としての弱点が増えていく。(レベル3で太陽の光で焼かれる)

 誰か使ってくれてもいいのよ(チラ

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