そういう設定だったことを完全に失念していた、もしくはちゃんと読んでなかったか。
とりあえずその部分は原作と違う設定にして対処するか、最悪その部分をカットさせていただきたいと思います。
お気に入り数と評価が急に伸びてびっくりしました。最近めっきり伸びが悪くなってたのに、いったい何があったんだと。
僕たちグレモリー眷属とイリナさんは、夜にホテルを抜け出してアザゼル総督の先導で街の一角にある料亭の前に立っている。
「……料亭の『
一誠の言った通り、話ではここに魔王の一人、レヴィアタンが京都入りしているらしい。
これはアザゼル総督と魔王様から厄介ごとの報告を受けるのは回避できそうにないな。
なかに通され、和の雰囲気が漂う通路を抜けると個室が現れる。
戸を開けると着物姿の魔王様が座っていた。
「ハーロー! 赤龍帝ちゃん、リアスちゃんの眷属の皆、この間以来ね☆」
テンションの高いあいさつをする魔王様。
「お、兵藤たちか」
シトリー眷属の皆さんは先に来ていた。
「よう、匙。京都はどうだ? 午後どこか行ったか?」
「こちとら生徒会だ。今日の午後は先生方の手伝いで終わっちまったよ」
一誠が訊くと匙さんはため息まじりで答える。生徒会だからってせっかくの修学旅行が一日つぶれたらため息くらい吐きたくなりますよね。
他のシトリー眷属の皆さんも小さくため息をした。
「ここのお料理、とってもおいしいの。特に鶏料理は絶品なのよ☆ 赤龍帝ちゃんたちも匙くんもたくさん食べてね♪」
僕たちが席に着くや否や魔王様は料理をドンドン追加していく。ちょっと前に夕食食べたばかりなんですけども。
けど、あっさりしたものが多いし、おいしいから箸が進む。他のみんなも同じようだ。
「それでレヴィアタンさまはどうしてここにいらっしゃったんですか?」
一誠の問いに魔王様は横チョキで答える。
「京都の妖怪さんたちと協力態勢を得るために来ました☆」
もしかして、この人が外交担当だったりする? だ、大丈夫……?
魔王様は箸を置き、今度は顔を陰らせる。
「けれどね……。どうにも大変なことになってるみたいなのよ」
「大変なこと?」
一誠の問いに魔王様が答える。
「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねていた九尾の
それを聞いて昼間の出来事を思い出した。―――こいし様から離れろ! 魔の者よ!
あの言葉は僕からこいしちゃんを護ろうとしたのか。既に九尾の御大将が行方不明になってしまってるから。
まあ、こいしちゃんを
だけれど、九尾ってことは藻女さんの血筋だよね? でも藻女さんも玉藻ちゃんも今は裏方に回ってるし。いったい今は誰なんだろう?
「―――っ。それって……」
一誠は何か心当たりがあるようで、何かを言いかけて言葉を詰まらせる。
魔王様は一誠が言いたいことがわかったのかうなずく。
「ええ、アザゼルちゃんからあなた達の報告を耳にしたのよ。恐らくそう言う事よね」
アザゼル総督は杯の酒を
「ここのドンである妖怪が攫われたって事だ。関与したのは――――」
「十中八九、『
と、魔王様が真剣な面持ちで言った。
今のところそういうことをする理由があるのは『
その話を聞いたシトリー眷属の皆さんは黙って目元をひくつかせたり額に手を置いたりしていた。
「ったく、こちとら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのにな。やってくれるぜ、テロリスト共が」
アザゼル総督が忌々しそうに吐き捨てる。いや、あなた
魔王様がアザゼル総督の杯に酒をつぎながら言う。
「どちらにしてもまだ
僕の口から言うわけにはいかないけど、絶対やめた方がいい! 悪魔たちが介入するのを妖怪側は絶対に迷惑に思うし拒絶されるのは火を見るより明らか。むしろなんで悪魔側に妖怪側から報告が入ったのか。それすら疑わしい。
「了解。俺も独自に動こう。ったく、京都に来てまでやってくれるぜ。クソッタレどもが」
再び酒を飲みながらアザゼル総督は毒づく。いや、何もしないでください。大人しく舞妓さんと遊んでお酒飲んでてください。
けど、この人たちは動くんだろうな。自分たちがやらないといけないと独善的な意思で。
「あ、あの、俺たちは……?」
一誠が恐る恐る訊くと、アザゼル総督が息を吐きながら苦笑した。
「とりあえず、旅行を楽しめ」
「え、でも……」
遠慮がちな一誠の頭をアザゼル総督が手でわしゃわしゃと撫でる
「何かあったら呼ぶ。でも、お前らガキにとっちゃ貴重な修学旅行だろ? 俺達大人が出来るだけ何とかするから、今は京都を楽しめよ」
いや、やめてください。できれば大人たちが動くのもやめてください。
悪魔の協力は邪魔でしかないでしょうし、一誠が介入したらなぜか悪化する気がする。大人しくするのが一番の協力だと思うよ。
そもそも日本も僕も聖書勢力を一切信用してないからね。何なら現御大将の行方不明も悪魔の仕業じゃないかとちょっと疑ってる。
「そうよ、赤龍帝ちゃん、ソーナちゃんの眷属ちゃん達も。今は京都を楽しんでね。私も楽しんじゃう!」
うん、もういっそ楽しんでください。そうして何もしないで。
そして何より不安なのが、一誠が何か意を決したみたいな顔をしてること。京都を守りたいとか的外れなことを考えてなきゃいいけど。
◆◇◆◇◆◇
「今日も一日、はりきっていくっすよ―――っ!」
「いくぞー!」
憂世さんがテンションを上げて叫び、それに続いてこいしちゃんも僕に肩車された状態で叫んだ。
ちょっとしたアクシデントがあったものの、初日はこいしちゃんのおかげで予想外にいい観光になった。地元の人しか知らないような穴場スポットや、隠れ名店でサービスしてもらったり。
京都駅から一駅先の稲荷駅でこいしちゃんと待ち合わせ合流。二日目もこいしちゃんの好意に甘えて案内してもらうことに。けど、今日行く最初の場所は伏見稲荷大社。狐の神様お稲荷様を
「なんでお稲荷様はお稲荷様って呼ばれてるんっすかね?」
「狐は田畑を荒らす害獣を食べるとこから田畑の守護者として祀られてる。稲荷の語源は稲がなる、稲で荷車がいっぱいになるとかで、そこから商売繁盛の神とされてるんだよ」
憂世さんの疑問をこいしちゃんが答える。そうなんだ、僕も初めて知ったよ。ただ実際に稲荷神社に祀られてるお稲荷様は神様じゃなくて妖怪なんだよね。
まあ、人間からすれば神様も妖怪も良い結果になるのなら変わりないだろう。
「へ~なるなるっす。こいしちゃんは賢いっすね」
お互いどこか似たもの同士な憂世さんとこいしちゃんはすっかり仲良くなっている。お互い無意識に何かしらやっちゃうところとかね。
「おーっ、狐がいっぱいっすね。お稲荷様だけにって!」
着いて早々にハイテンションな憂世さん。今日は体力満タンで昨日よりも高めだ。
一番鳥居を抜けて、大きな門が出て来た。両脇には狛犬ではなく狛狐。魔除けの効果があるのだがお守りのおかげで特に効果はない。なぜかお守りがなくても前々から特に問題なかったんだけどね。
「罪千さんは大丈夫?」
「はい、特に変わりはありません」
どうやら罪千さんにも特に問題はないようだ。それはリヴァイアサンだからなのか、古い魔物には効果がないのかはよくわからないけど。
門を抜け先に進むと、本殿が見えて来た。そこで僕たちを待っていたのは。
「兄様!」
「よく来たのじゃ」
玉藻ちゃんと藻女さんが僕たちを出迎えてくれた。一般人の前なので尻尾と耳は隠してある。二人の姿が見えるとこいしちゃんは僕の背中から後ろ向きで落ちるように一回転し着地とアクロバティックな降り方をした。
僕の方へ走ってきて抱き着く玉藻ちゃんを抱っこし、玉藻ちゃんを抱っこして近づく僕ごと藻女さんが抱きしめる。そこへ僕の背中に上るこいしちゃん。心がとっても温かい。
「う~なんだか感動の再開って感じっすね」
感動はオーバーだけど久しぶりに帰ってきたのは確かだね。最後に会ったのは夏休みの終わり頃だったし。
「初めまして。
「初めましてなのじゃ!」
藻女さんと玉藻ちゃんが二人に自己紹介をする。当然二人にも罪千さんのことは話してある。そして罪千さんにも三人のことはあらかじめ伝えてある。目の前の二人がそうであることはもうわかってるだろう。
「憂世純音っす」
「罪千海菜です。よ、よろしくお願いします」
自己紹介を終えると僕に抱き着く三人は離れて玉藻ちゃんとこいしちゃんは僕の手を握る。
「言うのが遅れたが、ようこそ伏見稲荷大社へ。ここでは私たちが案内しよう」
「おねがしま~す」
こうして僕たちは藻女さんたちの案内で稲荷大社内を見学させてもらうことに。けど、一つだけ不安がある。
「ねえ、玉藻ちゃんたちが悪魔の僕と一緒で大丈夫?」
小声で玉藻ちゃんに訊くと、こっそりと答えてくれた。
「いま稲荷大社におる妖怪はあの時代からおる古株のみじゃ。兄様と堂々と一緒にいても問題にならぬように母上が蘭に手配させた」
それなら安心して大丈夫かな。確かに周りから感じる妖怪の気配は昨日のような下位とは明らかに違う。ちょこっと視線は感じても敵意は微塵もない。
本殿の奥へと進み祭場を曲がると千本鳥居を潜りながら稲荷山へと登っていく。
綺麗な景色を見ながら、道中野生の狐に出会ったりしながら階段を上る。
勢いよく駆け上がり頂上に一番乗りした憂世さんは、たっぷりと汗をかきながら遊び足りない子供のように手を振って僕たちを呼ぶ。
頂上で記念写真を撮ったり、お社で拝んだりして稲荷山を下りた。
「山登りで疲れたじゃろ。あまいお菓子とお茶でも飲んでから行くといい」
そう言って稲荷大社内の
代金までいつの間には払ってくれていた。流石に悪いからと言っても頑なに金額は教えてくれない。
藻女さんは申し訳なく思う僕の頭を優しく撫でながら言う。
「妾の財力をなめるでない。それよりも誇銅の幸せそうな表情を見れて妾は満足じゃ」
そう言われては何も言い返せない。仕方ない、今度お返しに僕が藻女さんたちにいっぱいサービスしないとね。
◆◇◆◇◆◇
伏見稲荷大社を出たらそこで藻女さんと玉藻ちゃんとはお別れ。京都の真の御大将が悪魔に付きっきりと言うわけにはいかないからね。再びこいしちゃんだけの案内に戻る。
次はバスに乗車して清水寺へ。あらかじめ京都駅でバスの一日乗車券は買ってある。
目的地のバス停に到着し、坂を上って清水寺を目指す。両脇には
「ここは三年坂って言って、転ぶと三年以内に死ぬと言われてるんだよ」
「んぎゃー!」
こいしちゃんがこの坂の逸話を話していると、坂を駆け上がっていた憂世さんが道の真ん中で盛大に転んだ。
堅い石の坂で転んで怪我してないかと罪千さんが真っ先に包帯を取り出して駆け寄る。それに続いて僕も倒れる憂世さんに近づく。
「大丈夫ですか! 怪我したならすぐに治療しますので」
罪千さんがそう言うと、憂世さんは平気そうにバッと顔を上げ立ち上がった。よかった、見た感じどこも怪我してはいなさそうだ。
しかし憂世さんは顔を青くして罪千さんに詰め寄る。
「どうしよう海菜ちゃん、誇銅ちゃん。純音三年で死んじゃうんっすか!?」
「え、あ、その、特に外傷はないですし、めまいなどもないようなので命に別状はないかと思います……」
罪千さんはあたふたしながら医療的な答えをした。
「今は大丈夫でも三年後には……。お経はロック調でお願いしたいっすー!」
よくわからない願望を言いながら怯える憂世さん。
「そう呼ばれてるだけだから大丈夫だよ。それに、不安だったら清水寺でお願いすればいいんじゃないかな?」
「そうっすね! 純音いっぱいお願いするっす!」
元気を取り戻した憂世さんは再び清水寺へダッシュした。たぶん清水寺に着いた頃には忘れてるだろう。
こいしちゃんがさっきの説明の続きをする。
「でもこの坂の正式名称は『産寧坂』。清水寺にある子安観音へ『お産が
三年坂の三年で死ぬ話が打ち消されちゃったよ。迷信が迷信ですらなくなってしまった。
それよりもこのまま憂世さんを行かせたらまた迷子になりそうな気がする。
「僕たちもちょっと急ごうか」
「え、あっ、はい」
僕が声をかけると、罪千さんはどこか上の空で驚きながら返事した。
一体どうしたんだろう? 昨日、今日の朝まではいつも通りだったのに。稲荷大社あたりから少し様子が変だ。まるで転校したばっかりの頃に戻ってしまったような。
「罪千さん、大丈夫?」
「は、はい。なんでもありません」
「そう? じゃあ行こう」
「ひぅっ!」
僕が罪千さんの手を掴むと罪千さんはびっくりした声をもらす。不安が伝わってくる手を少しだけ強く握ると、罪千さんの表情が少しだけ和らいだように見えた。
こうして罪千さんの手を引きながら坂を上る。坂を上りきると大きな門が、清水寺の仁王門だ。
門の傍でそわそわしながら僕たちを待っていた憂世さんと合流し、門を潜り清水寺へ。
あの有名な清水の舞台。清水の舞台から飛び降りるってことわざがあるけど、うん、どれほどの覚悟かは目で伝わったよ。だいたいビル四階くらいの高さかな? 普通の人間ならこの高さは転落死間違いなしだね。
「ほおー、これがあの清水の舞台ってやつっすか。純音知ってるんすよ、ここから落ちても助かることが多いって」
「昔は木々が多く茂って、地面も柔らかかったからね。今はダメだと思うよ」
憂世さんの豆知識をこいしちゃんが打ち壊す。昔はどうか知らないけど……いや、思い出した、僕来たことあったわ。ここからの四季の景観とか楽しんでた。昔とすっかり様変わりしたせいで思い出せなかったよ。
ちょっと懐かしさを感じた後、
せっかくなので、お賽銭を入れてちょっとした願いをする。
「海菜ちゃん、誇銅ちゃん、おみくじあるっすよ」
憂世さんが指さす方にはいくつかの種類のおみくじがあった。普通のはもちろん、干支おみくじや恋愛おみくじなんてのもあった。もちろん僕たちが引いたのは普通のおみくじ。
「見て見て! 大吉出たっす! ラッキー!」
大吉を引いたことで上機嫌な憂世さん。ちなみに僕は末吉で罪千さんは吉だった。
「
基本的に良いことが書いてあるけどなんだか一筋縄ではなさそうなことが多い。特に争事と恋愛は怪しいな。
「
僕のおみくじを覗いて一部を読み上げるこいしちゃん。まあ、情けは人の為ならずって言うしね。
「え~と、いいのが出たら結べばいいんすか?」
「いや、逆だよ。いい結果が出たら持って帰って、悪い結果の時はああやって結ぶんだよ」
そう言うと、罪千さんは真っ先におみくじを結びに行った。吉でもあんまり良くなかったのかな。
僕たちはその後、寺を一回りして、記念にお守りなどを買い、次の目的地のためバス停に向かった。
次の目的地の八坂神社行きのバスに乗り、僕たちは清水寺を後にした。
「七不思議探検始めるっすよー!」
目的のバス停に着き、憂世さんが早々に叫ぶ。
この八坂神社は京都を代表する神社の一つで、
けれどバスの中でこいしちゃんが『八坂神社 七不思議』の話をしてやっと落ち着きだした憂世さんがはりきり始めたのだ。
「七不思議その一、
立派な桜門に付けられた不思議は、蜘蛛の巣が張ったことが一度もないことと、石段に雨だれの跡が一切ないというもの。しかし僕たちにそれを確かめる術はなく、これには流石に憂世さんもあまり関心を示さなかった。
石段を上り門を潜り境内に入り二つ目の場所へ向かう。
「七不思議その二、
境内にある社の入り口の右側にある湧き水。この水を飲んで、境内にある
「マジっすか!? それじゃ純音も飲んでお参りするっす!」
「わ、わたしもいただいていいですか……? ひぃ! ごめんなさい! 私みたいなゲロブタが綺麗になろうなんて考えて」
久しぶりに罪千さんの疑心的なネガティブ発言が出た気がする。僕がフォローを入れる前に憂世さんがフォローを入れてくれた。
「そんなことないっすよ。きれいになりたいってのは女の子なら誰しも願うことっす。海菜ちゃんは可愛いし、こんな立派なもんもあるんっすから」
「ひゃぁ!」
憂世さんが罪千さんの後ろに回り込み、後ろから罪千さんの胸を握った。突然のセクハラに声をあげる罪千さん。僕はとっさに顔をそむけた。
罪千さんはその性格から僕以外の人とあまりしゃべらない。と言うか、会話が長く続かないと言った方が正しいかな。本人が人と話すのが慣れてないのもあるけど、会話の途中で隙あらばネガティブ発言をするので気まずくなってしまうのだ。
そんな中で憂世さんが例外的に罪千さんと長く会話ができる。会話と言うより憂世さんが一方的にしゃべってるだけだけども。
若干強引ながら罪千さんを心配してよく声をかけてくれている。それはありがたいのだけど、後は男子が目の前にいることをちょっとだけでも考慮してくれたら。
「それに、落ち込んだ海菜ちゃんを純音見たくないっす。誇銅ちゃんだってきっとそうっすよ」
「うん、それには同意」
「あ、ありがとうございます。こんなにも私に優しくしてくださって」
僕たちがそう言うと、罪千さんは半泣きでお礼を言う。その様子をこいしちゃんはいつも以上ににこやかな表情で見ていた。
そうして女子二人がお参りを済ませた後、七不思議探索の続きをする。
地球の
殆どが確かめようがないものだったけど、全部回ったことで憂世さんは満足していた。
最後に須佐之男尊の「
八坂神社を出て少しばかり歩くと、今日最後の予定の祇園花見小路に到着。
祇園と言えば舞妓さん。舞妓さんと言えば祇園。と言われるほどで、憂世さんは舞妓さんを見るのを楽しみにしていた。僕も舞妓さんを見るのは初めてでちょっぴり楽しみなんだけどね。
けど残念ながら探しても舞妓さんは見つからなかった。
「舞妓さんを見たかったら夕方がいいよ」
こいしちゃんによると、舞妓さんは夕方から夜にかけて、お呼びのかかったそれぞれのお座敷に向かうとのこと。だから見かける時間帯は夕方なんだって。
「……ちょっとがっかりっす。けど、まあいっか!」
ほんの一瞬落ち込んですぐに元気を取り戻す憂世さん。切り替えがものすごく早いや。
舞妓さんは見れなくとも祇園の中心を貫く花見小路には見どころが豊富だ。小路の周辺には寺社仏閣やお茶屋のような京都らしいものや、居酒屋なんかもといろいろな店舗が建ち並んでいる。
お寺や神社を見学したり、お土産やさんを覗いたりしながら花見小路を進んで行く。すると―――。
「キャー! 痴漢! 変態!」
「お、おっぱいを! おっぱいをくれ!」
また大胆に痴漢行為をする男性を目撃した。二日連続でこれは流石におかしい。一体何が起こってるんだ……? 昨日の電車内での一誠が怪しいな。
一誠を怪しんでいると、
彼女は人間だったけど、気絶した痴漢を連れて行った人の気配は妖怪だ。
「なんか昨日から痴漢が多いっすね。朝のニュースでも言ってたっす」
それは僕も細田と一緒に見たよ。「なんかうちの変態どもがそのまま大人になったらやりそうだな」ってつぶやいてた。さ、さすがにないよね……? いや、一誠はなんかやりそうで怖い。
「なんでだろうね、こいしちゃ……」
ふと手を繋いでいたこいしちゃんの顔を見ると、いつも笑顔のこいしちゃんの右目だけから笑顔が消えていた。器用に怖い!
「う~ん、なんだろうね?」
こちらを向き返事をした時には表情は元に戻っていた。な、なんだったんだ今のは……? あんな表情初めて見たよ。
それからそこそこ歩いたところでこいしちゃんがおすすめしてくれたお茶屋で休憩。もちろん店員さんは人に紛れた妖怪だった。
抹茶と和菓子がとっても合う。サービスしてもらった黒蜜団子もとってもおいしい。
それから僕たちは祇園を帰る時間まで散策した。
◆◇◆◇◆◇
誇銅たちが祇園を散策し始めた頃、一誠たちは
金閣寺に来ていた他の生徒同様、一誠たちも夢中で記念撮影をしていた。一誠もっ記念の写メを駒王学園の他のメンバーに送る。
一通り見て回った後はお土産を買い、お茶屋で一服し、鐘突きの順番待ちで痴漢現場をまたしても目撃したりした。
しかし、観光途中で悪魔と無関係のメンバーが眠らされ、一般の観光客も眠らされ、一誠たちの周囲で起きているのは獣耳の妖怪ばかり。
一誠たちはまたしても戦闘と準備をするが、そこで狐耳のメガネをかけた女性が一誠たちに話しかける。
「私は九尾の君に使える八尾の狐の
一誠は誤解が解けたのかと安心する。そして、ついて来て欲しいとはどこにと訊こうとするが、その前に妖狐の女性が話を続けた。
「我ら京の妖怪が住む裏の都。魔王様と堕天使の総督殿も先にそちらへいらっしゃっております」
こうして一誠たちは金閣寺の人気のない場所に設置された鳥居を潜り、妖怪たちの住む裏世界へと足を踏み入れた。
薄暗い空間。独特の空気。古い家屋群。妖怪たちが住みよかった時代が再現されたような町並み。そこの住人たち、現代で生まれた下位の妖怪たちが
妖狐の女性に案内され、一誠たちは唯一の光源ともいえる灯火が続く道の先へと進む。
「うきゃきゃきゃ」
提灯に目と口が現れ突然笑い出す。初めての提灯お化けの不意打ちに驚かされる一誠。
「すいません。ここの妖怪たちはイタズラ好きで。害をなせる程の者はいないと思います」
と、先導の妖狐が歩きながら謝る。
「ここは妖怪の世界なんですか?」
一誠がそう訊くと、妖狐の女性は答えた。
「はい、ここは京都に住む妖怪が身を置く場所。と、同時に現代で生まれた妖怪の避難所。我々妖怪のために日本神が作ってくださった空間です。悪魔の方々がレーティングゲームで使うフィールド空間があると思いますが、あれに近い方法でこの空間を作り出していると思ってくれてかまいません。私たちは裏街、裏京都などと呼んでおります。むろん、ここに住まず表の京都に住む妖怪もおりますが」
妖狐はなるべく悪魔がわかりやすい例えで説明する。具体的にはレーティングゲームの空間とは異なり、ここに住む事情も悪魔と決定的に違う部分がある。だが、それを詳しく説明する理由も意味もなく、理解を得られるとも思っていない。そもそも悪魔相手にあまり詳しく説明しても良いものではない。
「……人間か?」
「いいや、悪魔だってよ」
「悪魔か。珍しいな」
「あのキレイな外国の娘っ子も悪魔か?」
「龍だ、龍の気配もあるぞ。悪魔と龍……」
悪魔を珍しがる妖怪たち。この京都にいる限りそうそう悪魔と出会うことはなく、出会っても他と違い危険も段違いに低く大きな顔もできない。
家屋が建ち並ぶ場所を抜けると、小さな川を挟んで林に入る。そこをさらに進むと巨大な赤い鳥居が出現した。
その鳥居の先にはアザゼル総督と着物姿のセラフォルー・レヴィアタンがいる。
「お、来たか」
「やっほー、皆☆」
二人の間には金髪の少女、一誠たちを襲った妖狐の女の子、九尾の御大将の娘がいた。
今日は巫女装束ではなく、戦国時代のお姫様のような豪華な着物に身を包んでいる。
「
妖狐の女性はそれだけ報告すると、ドロンと炎を出現させて消えた。
九重は一誠たちのほうに一歩出て口を開く。
「私は表と裏の京都に住む妖怪たちを束ねる者―――八坂の娘、九重と申す」
自己紹介をしたあと、深く頭を下げる。
「先日は申し訳なかった。お主たちを事情も知らず襲ってしまった。どうか、許して欲しい」
九重が謝ると、一誠は困り顔で頬をかく。
「ま、いいんじゃないか。誤解が解けたなら、私は別にいい。せっかくの京都を堪能できれば問題ないよ。もう二度と邪魔をしないならね」
ゼノヴィアはそう言うと、イリナとアーシアもニッコリ笑顔で言う。
「そうね、許す心も天使に必要だわ。私はお姫様を恨みません」
「はい。平和が一番です」
三人がそう言うなら断る理由はないと一誠は考える。それと同時に先に言われてしまったことを男として情けないと感じる。
「てな感じらしいんで、俺も別にもういいって。顔をあげてくれよ」
「し、しかし……」
しかし九重は小さいながら理由もなく疑って危害を加えたことを気にしているようで一誠たちがそう言っても納得しない。ならばと一誠は膝をつき、九重と目線を合わせて言う。
「えーと、九重でいいかな? なあ、九重、お母さんのこと心配なんだろう?」
「と、当然じゃ」
「なら、あんなふうに間違えて襲撃してしまうこともあるさ。もちろん、それは場合によって問題になったり、相手を不快にさせてしまう。でも、九重は謝った。間違ったと思ったら俺たちに謝ったんだよな?」
一誠は九重の肩に手を置き笑顔で続けた。
「それなら俺たちは何も九重のことを咎めたりしないよ」
九重は一誠の言葉を聞き、顔を真っ赤に染めてもじもじしながらつぶやいた。
「……ありがとう」
一誠は悪魔であり戦闘中でも変態思考を決して止めず、人間だった頃から常習的にのぞきなどの変態行為を行ってきた。それらを咎められても反省することなくひらきなおり続ける程に。
しかし基本は下種な悪人ではない。場当たり的なところはあるが悪い人とは言えず、世間一般ではむしろ良い人と言える人物ではある。困ってる相手に優しい言葉をかけたり、ピンチを助けようとする気持ちはある。―――それが兵藤一誠と言う人物の評価を困らせる。
位の高い妖怪や強い妖怪は得てして悪魔のやってきたことを知っている。なので悪魔に対して強い警戒心を持ち聞こえのいい言葉に騙されないように気を配っている。常に相手を疑いすぐには信じない。―――第一印象は所詮第一印象。それで相手がどんな人物かは把握するのは神でも不可能。
九重は悪魔の汚い部分を知らない。ゆえに目の前の悪魔に対して何の先入観もない。子供の純真無垢な心は相手の優しさを疑わない。
立ち上がる一誠にアザゼルが小突く。
「さすがおっぱいドラゴンだな。子供の扱いが上手だ」
「ちゃ、茶化さないでくださいよ。これでも精一杯なんですから!」
「いやいや、さすがおっぱいドラゴンだ」
「はい、さすがです! 感動しました!」
「本当、見事な子供の味方よね」
照れる一斉にゼノヴィア、アーシア、イリナがうんうんとうなずきながら賛辞を送る。
「ま、負けていられないわ! こんなところまでおっぱいドラゴンの布教なんて! 魔女っ子テレビ番組『ミラクル☆レヴィアたん』の主演としては負けられないんだから!」
セラフォルー・レヴィアタンは一誠に対抗意識を燃やす。
九重は照れながら一誠たちに言った。
「……咎がある身で悪いのじゃが……どうか、どうか! 母上を助けるために力を貸してほしい!」
少女の悲痛な叫びが
事の始まりは京都を取り仕切る妖怪の首領、九尾の狐こと『八坂』が
ところが八坂は帝釈天の使者との会談の席に姿を現さなかった。不審に思った妖怪たちが調査したところ、八坂に同行していた警護の烏天狗が瀕死の重傷で発見された。
その烏天狗は死に際に、八坂が何者かに不意に襲撃され攫われたことを告げたのだ。
いくら妖怪が感知に優れているとは言え四六時中気を張ってるわけではない。観光客に紛れれば侵入は容易、一定の水準の技術と知識があれば場所によっては短時間ながら気づかれず戦闘も行える。
それで京都にいる怪しい輩を徹底的に探していた。その時に襲撃を受けたのが一誠たちとなる。
その後、アザゼル総督とレヴィアタンが九重たちと交渉し、冥界側の関与はないことを告げ、手口から今回の首謀者が『
「……なんだか、えらいことになってますね」
一誠たちは屋敷に上がらせてもらっていた。大広間で九重を上座にして座っている。
「ま、各勢力が手を取り合おうとすると、こう言う事が起こりやすい。オーディンの時もロキが来ただろう? 今回はその適役がテロリストどもだったわけだ」
アザゼルは不機嫌そうに言う。平和な日常を願うアザゼルは、テロリストを絶対に許さない姿勢。腹の中は煮えくり返っている。―――その平和があらゆる問題を無視した自分たちにとって都合のいい平和な日常だとしても。
九重の両脇には先ほどの八尾の妖狐と山伏姿で鼻の高いおじいさん。おじいさんは天狗の長であり、数百年前からあることがきっかけで九尾の一族に仕えている。今回さらわれた八坂と九重を心底心配している。
「総督殿、魔王殿、どうにか八坂姫を助けることはできんじゃろうか? 我らならばいくらでも力をお貸し申す」
天狗の老人はそう言い、一枚の絵を見せた。巫女装束を着た金髪の綺麗な女性が描かれている。頭部にはピンと立った獣耳。一誠もそれが誰の絵か理解した。
「ここに描かれておりますのが八坂姫でございます」
一誠の視線は絵の八坂の胸に集中した。そして、テロリストに誘拐されたであろう八坂が卑猥なことをされてたらと、卑猥な妄想をする。
「八坂姫をさらった奴らがいまだにこの京都にいるのは確実だ」
アザゼルはそう口にした。
「どうしてそう思うんですか?」
一誠がそう訊くと、アザゼルはうなずきながら説明する。
「京都全域の気が乱れていないからだ。九尾の狐はこの地に流れる様々な気を総括してバランスを保つ存在でもある。京都ってのはその存在自体が大規模な力場だからな。九尾がこの地を離れるか、殺されていれば京都に異変が起こるんだよ。まだその予兆すら起きていないって事は八坂姫は無事であり、攫った奴らもここにいる可能性が高いって訳だ。セラフォルー、悪魔側のスタッフは既にどれくらい調査を行おこなっている?」
実際はアザゼルがそう思ってるだけで違う。アザゼルが言っていることは、外国人が日本の知識の間違った知識を自慢げに披露しているのと同じなのだ。
しかしその間違いを指摘するものはこの場には誰もない。九重の両脇の二人も京都の仕組みについてそこまで詳しくは知らないのだ。
「つぶさにやらせているのよ。京都に詳しいスタッフにも動いてもらっているし」
アザゼルは一誠たち眷属を見渡すように視線を向ける。
「お前達にも動いてもらう事になるかもしれん。人手が足りな過ぎるからな。特にお前達は強者との戦いに慣れているから、対英雄派の際に力を貸してもらう事になるだろう。悪いが最悪の事態を想定しておいてくれ。あと、ここにいない木場と誇銅とシトリー眷属には俺から連絡しておく。それまでは旅行を満喫してて良いが、いざと言う時は頼むぞ」
『はい!』
アザゼルの言葉に一誠たちは応じた。
九重が手をついて深く頭を下げ、同じ様に両脇にいる狐の女性と天狗の老人も頭を下げる。
「……どうかお願いじゃ。母上を……母上を助けるのに力を貸してくれ……。いや、貸してください。お願いします」
九重は涙で声を震わせながら、頭をさげる。
まだ甘えたい年頃であろう九重から、何が目的かわからないが母親を攫った『
そうして救った褒美のことを考え卑猥な妄想をした。
「……イッセーさん、エッチなこと考えてませんか?」
アーシアがジト目で一誠を見て言う。
一誠は頭を振り切って、気持ちを新たに決意し、戦闘の覚悟をした。それと同時に自分の中から飛び散った可能性の行方を気にする。
その時、大広間の襖が勢いよく開けられた。
「やっほー! 九重ちゃんいるー?」
大広間の襖を勢いよく開けて入って来たのは、絵の八坂とよく似た狐耳の女性だった。その両脇には、狐耳に狐目の女性と、一誠たちの前に現れたピンク髪の少女。
「あれれ? なんで悪魔がいるの?」
女性は人差し指を顎に当てて可愛く首をかしげる。
一誠の視線は絵の八坂と同じぐらいある胸に集中した。
「この人は?」
「このお方は前京都の御大将であり、現御大将である八坂加奈様の母君であります」
「八坂
卯歌は親指、人差し指、小指を立てつつキラッとした笑顔で自己紹介をした。
原作と同じように流れるとでも? させるかそんなこと!
卯歌や九尾の家族関係については次回以降に登場させる予定です。とりあえず次回の冒頭は聖書側のすんなり妖怪側と協力関係になった話をこじらせるところから始めます。