年賀状を出す友達が年々減ってきている作者です。ただ、手書き派なので楽にはなってますね(笑) 私は手書き+ちょっとしたイラストを表の余白に書くんですが、今年は二枚しか出す人がいなかったので艦これの瑞鶴なんかを幼女verで書いちゃいました。なんで幼女verなのかって? 等身的に絵がゆるくて書きやすかったからです。
長々とした挨拶と無駄話もこのくらいにしておきましょう。それでは続きをどうぞ!
自分たちではなく仲間たちの方を邪悪な笑みで見つめるロキに一誠は焦る。
本来は一誠とヴァーリの二天龍でロキを抑え込まなくてはならない。フェンリルの捕縛に失敗し、さらに新たに子フェンリルと五体の量産型のミドガルズオルムが乱入。
余計に自分たちがロキを抑えておかなくてはならないのにこの有様。このままでは今の比較的安定しだした戦況も一気に覆されかねない。
「待てロキ!」
「すぐ済む、少し待ってろ」
一誠を適当にあしらって向こう側へ行こうとするロキ。
ロキの強さはリアスたちの予想を遥かに上回り、予想外の子フェンリルと量産型のミドガルズオルム、当てにしていたミョルニルとグレイプニルも不発。そんな状態でこの危ういが均衡した状態が崩されれば一誠たちに勝機はない!
「クソッ! 黙って行かせるかよ!」
ロキを止めるために即席のドラゴンショットをを放つ。
赤龍帝のブーストを込めた特大のドラゴンショットですら小さな魔法陣で簡単に流されたのに、今さら即席の小さなドラゴンショットで止められるハズもなく。ロキに当たりさえしたが、ノーダメージで足止めにもならない。
「さてさて、どんな悪戯をしようか」
邪悪な笑みで悪戯小僧のようなことを言いながらリアス眷属とヴァーリチームの方へ近づく。
「グレモリーの方はスコルの幻影を大量に生み出してやろうか。一匹のフェンリルに全員で何とか対処してるのだからきっと慌てふためくぞ。白龍皇の仲間たちはハティ相手にかなり善戦しているからな、ハティの失った部位を補強して相手の体の部位を少し
虫の羽を捥ぐ子供のように残酷なことを一人で楽しそうに語るロキ。
残念なことに一誠にはロキを止める力はない。ヴァーリもフェンリルと対峙し動くに動けない。
「……兵藤一誠」
ヴァーリがフェンリルとにらみ合ったまま一誠に話しかけた。フェンリルに噛まれた傷はフェニックスの涙で治癒済み。
「ロキと、その他はキミと美猴たちに任せる」
一誠はヴァーリの言葉の真意がわからなかった。
「この親フェンリルは、俺が確実に殺そう」
それを耳にしたロキは動きをピタッと止めてヴァーリの方を見る。
「ほう、それはどうやってだ? 回復したとは言え貴殿とフェンリルの実力差は明らかであろう。それでもその実力差を埋められる何かがあると言うのか?」
「天龍を、このヴァーリ・ルシファーを舐めるな」
一誠が寒気を感じるほどの睨みをヴァーリがロキに利かせたあと、静かに口ずさみだした。
同時に神々しいオーラがヴァーリから発せられる。鎧の各宝玉が七色に輝きだした。
カアアアアアァァァァァァアアアアアアアアアアッ!
「我、目覚めるは―――」
<消し飛ぶよっ!><消し飛ぶねっ!>
ヴァーリではない声が響く。白龍皇の内に存在する歴代白龍皇の思念体の声。一誠の時と同じように怨念の籠った声を発する。
「覇龍か……!」
ヴァーリのオーラが覇龍化していくと同時に徐々に膨れ上がると、ロキは驚いた表情をした後嬉しそうな表情をした。
「覇の
<夢が終わるっ!><幻が始まるっ!>
「無限を妬み、夢幻を想う―――」
<全部だっ!><そう、全てを捧げろっ!>
「我、白き龍の覇道を極め―――」
「「「「「汝を無垢の極限へと誘おう――――ッ!」」」」」
『
採石場跡地全域を眩く照らす、大出力の光が対峙するフェンリルをも吞み込んでいく。しかし逃げはしない。
そのパワーに一誠は圧倒され感覚が麻痺してしまいそうになる。が、肝心のフェンリルとロキはそうでもない。
「黒歌! 俺とフェンリルを予定のポイントに転送しろッ!」
光輝くヴァーリは黒歌にそう叫ぶ。黒歌はそれを聞いて、にんまり笑うと、手をヴァーリに向けて宙で指を動かしていた。
「いいや、させないね!」
それに対抗するようにロキが指を鳴らしてヴァーリを遠くからつまむような動きをする。すると、ヴァーリを挟むように魔法陣が展開された。
グレイプニルがヴァーリの方へ転移し、巨大な光と化したヴァーリとフェンリルを魔力の帯のようなものが幾重にも包みだす。
フェンリルはその魔力の帯の中から即座に逃げ出した。そして、鎖だけが夜の風景に溶け込み、その場から消えていく。
「にゃん!?」
黒歌の術はロキの魔法陣により完全に阻まれてしまい、大事なグレイプニルだけが転移されると言う事態を引き起こしてしまった。
「覇龍を倒すなんて最高に栄えるではないか! そんなおいしい見せ場をフェンリルにやるわけがない、私自身が相手をしよう! しかし流石は覇龍だな、調整が難しい。―――だが、不可能なことはない」
ロキはつまむ指を横から縦に変え、それと同時にヴァーリを挟む魔法陣も縦に変わる。ロキの魔法陣がヴァーリの動きを拘束する一人用の檻へとなった。
その中でロキはヴァーリが自滅しないように自身の魔法陣の中限定でヴァーリの覇龍の補助を施した。
「よし、これで安定した。ちょっと悪戯を済ませたらすぐに相手をしてやる、だからしばし待て」
「なっ!? 覇龍を封じ込めただと! しかもあんなに安定させた状態で!」
ヴァーリの覇龍が封じられたことに驚くタンニーン。それはそのはず、そんなことはオーディンどころか今まで誰も成しえなかったことなのだから。
「赤龍帝、貴殿は覇龍にならないのか? どうせそのままでは勝てんのだから、覇龍になった方がいいと思うぞ?」
ロキはニヤニヤと一誠にアドバイスを送る。例え二天龍が同時に覇龍となっても勝てるという自信の表れ。それも自惚れではなく、覇龍のヴァーリを封じ込めた技量から勝てる見込みは十分ある。
「まあどっちでもいいがな。私が戻るまで考えておけ」
「ま、待てッ!」
一誠がロキを何とか止めようとして言うと、ロキが止まった。もちろん一誠が待てと言ったから止まったわけではない、ロキはある方向を向いていた。そして、フェンリルも同様に同じ方向を向いていた。
「チッ、面倒なのが戻ってきた」
ロキは忌々しそうにつぶやく。フェンリルはどことなく少し嬉しそうな様子。
小さくだが岩山の向こうから何かが近づいてくる音が聞こえてくる。すると、岩山を飛び越えて一つの影がロキとリアスたちの前に現れた。それは―――誇銅を背負ったヴィロットだった。
「かなり心配だったけど、ちゃんと持ちこたえられたようね」
横やりを入れてきた邪魔者の対処から帰ってきたヴィロットと誇銅。戻ってきたばかりのヴィロットは戦況がどう動いたのかを知るために周りを見渡す。
ロキは一誠を素通りし、白龍皇は覇龍状態で魔法陣に閉じ込められ、予定ではグレイプニルで縛られてるハズのフェンリルがフリー、リアス眷属はスコルに苦戦しヴァーリチームはハティに善戦、タンニーンは残り3体となった量産型のミドガルズオルムを押している。
「やっぱり作戦は大失敗したようね」
当初の作戦では全く予想されていなかった不測の事態が多々起きているがヴィロットは少しも慌てない。むしろ予想通りある意味安心さえしていた。
そんな落ち着いた様子のヴィロットにロキが訊く。
「この状況は貴殿の予想通りと言うのか?」
「ミドガルズオルムを量産して連れて来たのは予想外だけど、聖書勢力の劣勢とスコルとハティについては私の予想内ですね」
ヴィロットはロキが子フェンリルのスコルとハティを連れてきていることが予想通りと言った。つまり、作戦会議でリアスたちが少しでも有利になれる情報をあえて隠していたことになる。
「ならばなぜ教えてやらなかったのだ? 知れば少しでも貴殿らが有利になったであろうに。まあ、結果が変わるとは思えないが」
「そうでしょうね、私もそう思います。だから黙っていたんですよ。実力差をキチンと理解できてない彼らにそれを教えてしまうと、私でもカバーしきれない変な作戦を立てられる恐れがありましたからね」
それを聞いたロキは少し驚き、一拍置いて笑い出した。
「ふはははは! なるほど、なるほどな! 確かにそう言われても仕方のない体たらくと言えよう。例えフェンリルを連れていようと私は一人、当然敵地で戦うのだから不利な状況からの多対一を想定していないわけないと言うのに、貴殿らは小細工なしの力押しで向かってきた。先のもう一人の魔王の血筋のような奇襲がどれだけ飛んでくるか、北欧を出る前は少々不安に思っていたのだがな」
ロキは余裕を振りまきながらも内心少し不安を覚えたことを明かす。しかし、実績と高い攻撃力に回復まで兼ね備えるリアス眷属にヴァーリチームに堕天使幹部、現役龍王にソーナ眷属のサポートがあるからと、存分に暴れられる場所のお膳立てのみで正面から正々堂々と戦いを挑んできたことに安心感を覚えた。
グレイプニルの強化やミョルニルのレプリカと多少予想外はあったものの、全て手持ちの札で対処できるものばかり。ロキが当初危惧していたものよりだいぶ軽いものだった。
「まあ、そのおかげでこうして戦場を飾る余裕ができたのだがな」
「ロキ様、私からも質問させてください。―――この短い時間の間に一体何があったのですか?」
ヴィロットは訝し気に質問した。
「ん、それは一体どう言う意味だ?」
「私はロキ様のことをあまり知りません。しかし、あの時戦ったロキ様と今のロキ様は違いすぎます。別人とまでいきませんが、人が変わったようです」
二度目の襲撃開始時からヴィロットはロキの様子がおかしいと気づいていた。そして、今の会話からそれが疑惑でなく確信へと変わった。
「最初の襲撃ではロキ様は目的はあくまでオーディン様であり、他の者はあくまで障害になればとのことでした。しかし今のロキ様はその邪魔者を積極的に狙っています。始めと今では目的が違っています」
ロキは始めオーディンの護衛たちに邪魔をしなければ危害は加えないとほのめかし、その証拠にフェンリルも聖書勢力の護衛を狙うと見せかけて最初っからオーディンだけを狙わせた。
しかし、今は二天龍を倒したと言う名声を欲しがっている。オーディンとの戦いも無関係な一般人を観客と呼び目立つことを意識していた。
もしもロキがオーディンと日本神との会談を阻止するのが目的なら、リアスたちをこの場に残して会談が円滑に進んでしまう前にさっさと戻らなければならない。それなのにロキは戦いを楽しみ、見栄えまで気にしてじっくり時間をかけて一誠たちと戦っている。
ロキの前と今の意見が矛盾している。
「ん、そうか? そうだったか? ……そうか? 私はそうは思わんが」
「本気でそう言ってるのですか?」
「? ……ィ!」
ヴィロットに言われもう一度軽く考えてみると、突然小さな頭痛がロキを襲う。考えるほどになぜか頭痛がするので、ロキは考えるのをやめた。
ヴィロットに言われたことが多少もやもやするが、ロキはすぐにそれが気にならなくなりケロっとした表情で話を続ける。
「……赤龍帝、ミョルニルを私に」
ヴィロットは向こう側にいる一誠に手を差し出しミョルニルを渡すように促す。
それに一誠もうなずく。自分が持っていたところで宝の持ち腐れだから。
だがロキも、ミョルニルが一誠のような邪念に塗れた一誠の手から、強く正義心の強いヴィロットの手に渡ることは阻止しようとした。
「おっと、それはいけないな」
ロキは一誠とヴィロットの間に割って入りミョルニルの受け渡しを阻む。
一誠を絶対に通すまいとロキは一瞬だがヴィロットに背を向けた。その隙にヴィロットは一蹴りでロキに近づき、背後から横っ腹に強い蹴りを放ちロキを退かす。ロキも魔法陣でガードしたが、そのガードの上からヴィロットはロキを軽く吹き飛ばしたのだ。
こうして一誠から直接ヴィロットへミョルニルが手渡された。
「ありがとね」
一誠からミョルニルを受けると、ヴィロットはそれを軽く確認して反対側の岩山に投げつけた。
「えっ! ええっ!!? ちょっと何してるんですか!?」
せっかくの秘密兵器が渡した瞬間仲間の手により岩山にめり込んだのを見て一誠は二度見するほどの驚きを見せる。
「これで赤龍帝がミョルニルを暴発させる心配がなくなった」
驚く一誠を完全に無視してヴィロット自身は一安心と言った表情。
「もういいわ、下がってなさい」
「えっ…?」
一誠にはヴィロットが何を言ってるの少しの間理解できなかった。それでも何とか頭を整理していくが、その言葉がどう考えても自分一人でロキと戦うと言う意味にしかとらえられない。
ミョルニルを捨てるヴィロットの行動を見てロキが言う。
「ミョルニルを捨てるとは愚かなことをしたな。貴殿なら赤龍帝と違い間違いなくミョルニルを使えたであろうに」
「私には私の戦い方があるので。ミョルニルなんて必要ありません」
その答えを聞いてロキは
「そうか。まあいい、貴殿を倒すのが楽になったわ」
ロキが指を鳴らすと、ヴァーリを閉じ込めていた魔法陣の上下がそれぞれ逆回転しだす。すると、ヴァーリの覇龍が剥がれ禁手も強制的に解除された。
「安定してるとは言え覇龍を維持し続ければせっかくの白龍皇が弱ってしまうからな。解除した状態でしばらく待て」
まるで虫かごの中の虫をいたわるかのようなロキのヴァーリに対する一種の優しさ。それがヴァーリにとって耐えがたい屈辱となる。それと同時にもう一つ大きな感情がヴァーリの中に。
覇龍が解除させられたことに一誠もヴァーリチームも、そして何よりヴァーリ自身が最も驚いていた。
ヴィロットは背負っていた誇銅を比較的安全な場所に降ろしてロキと戦うために近づこうとする。
一人で戦おうとするヴィロットに一誠が言う。
「ちょっと待てよ! ロキはめちゃくちゃ強い、一人で到底敵う相手じゃない。俺も力を…」
「邪魔」
ヴィロットは協力しようとする一誠の手を自然な流れで振りほどき、協力しようとする意志をバッサリと切り捨てた。
あまりに自然にバッサリと切り捨てられたので一誠も驚きでまたもや思考停止してしまう。
「向こうの仲間でも助けてきなさい」
そう言われ一誠はハッと我に返る。一誠自身ヴィロットの強さの鱗片は身をもって味わっている。
とてもロキに勝てるとは思っていないが、ここで仲間割れするよりピンチの仲間を助けに行くべきだと考えた。
「おっと、そうはさせない」
ロキは仲間の元へ駆けつけようとした一誠をヴァーリと同じ方法で魔法陣の中に捕らえた。
「勝手な行動をするな。そこで私たちの戦いを、仲間たちが無残に殺されていく様子を眺めて待っていろ」
「くそっ! 出せッ!」
一誠は必死に魔法陣の檻を壊そうとするがビクともしない。幸い一誠の禁手は解除されてないが、それでも一誠の力では到底壊すことは不可能。
「本来ヴァルキリーなど敵ではなのだが、貴殿の場合少々手こずることは考慮するべきかもしれぬな。この私がここまで高く評価しているのだ、光栄に思うがいい」
「まあ、ありがたく受け取っておきましょう」
その言葉をきっかけにロキは強力な漆黒の魔術の波動を放つ。それは二天龍に放った七色の波動と遜色のない威力だが、一点にまとめられている分威力は高い。
「ふんっ!」
ヴィロットはその攻撃をオーラを纏った拳で受け止め、散り散りとなった魔術の波動はロキの方へと跳ね返された。
その波動でロキが大きなダメージを受けることはなかったが、その風圧でロキの帽子が宙に飛ぶ。
「ん!?」
「見事だ、やはり北欧最強の名は伊達ではないようだ。小手調べとは言えあの攻撃を無傷で跳ね返すとは」
ヴィロットはロキの帽子の下を見て表情を変えた。以前は普通だったロキの頭部が、一部サイボーグのようになっていたのだ。
ロキはヴィロットの視線が自分の頭部に向いているのに気づき、サイボーグの部分を触りながら言う。
「ああ、これか? 確かに変だよな。もう少しどうにかならなかったものか」
「ロキ様、それは一体どうしたんですか」
ヴィロットが真剣な声色で訊くと、ロキは軽い口調で答えた。
「オーディンの馬車を襲撃した後、妙なロボットの集団に襲われてな。恥ずかしながらも俺は捕まってしまい、気づいたらこういう具合さ。始めは何をされたと思ったが、これが予想外に素晴らしいものだった! 力が体中から無尽蔵に溢れ出す! それだけではない、頭もさえまくり新しい魔術が泉のように湧き上がってくる! オーディンの使う脆弱で稚拙な魔術など目ではない!」
ご機嫌に自分の身に起こった出来事を話すロキ。そんなロキを見ていたヴィロットは目を閉じて顔を反らした。そして右手の握り拳をフルフルと震わせる。
フェンリルは悲しそうな目でロキを見た。ロキはそんなフェンリルに言う。
「ふはははは! 今思えば惜しいことをさせてしまったな、フェンリルよ。おまえにもこの素晴らしい力を与えられるチャンスを棒に振ってしまったのだからな。おまえ一人を逃がし、約束の日に予定の場所で落ち合おうと言ってしまった。すまぬフェンリルよ、あの時はまさかこんな力が得られるとは夢にも思わなくてな」
「クゥゥ……」
心配そうな目で悲しそうに鳴くフェンリル。高笑いするロキを見た後フェンリルはヴィロットの方を見る、まるで助けを求めるかのような瞳で。それにヴィロットは力強い眼差しで答える。
「もう話はよかろう、後が
「……わかりました」
ヴィロットが了承するとロキは速攻で何重もの魔法陣を周りに展開させ、同時に虹の対称色の不気味で膨大な魔術の波動を放つ。
今までの攻撃とは比べ物にならない逆虹色のオーラに、魔法陣から放たれる不気味な光が幾重もの帯となって逃げ場を失くす。
どちらの攻撃も先ほどの戦いで見せなものを組み合わせただけの単純なものだが、単純だからこそロキの強さが純粋に表れた強力な組み合わせとなる。
「逃げ場などどこにもない!」
「はなから避けることなど考えてないわ」
あろうことかヴィロットはその強大な攻撃に真正面から突撃。
四方八方から迫りくる不気味な光の帯をその身に受けつつ、逆虹色の膨大な魔力に向かって顔の前で両手をクロスさせて突進した。
オーラで幾分強化されたヴィロットの体と本命の逆虹色の魔力がぶつかり、ヴィロットの突進も流石に一度は止められはしたが、ヴィロットはそのまま膨大な魔力の中を砕氷船の如く突っ走る。そしてついにロキの本気の一撃をその身一つで突破しロキの目の前までたどり着いた。
「バカな! 我の本気の一撃を生身で突破するなどッ!」
ヴィロットは左手でロキの顔を掴み垂直にさせ、その状態で顔面に強烈な一撃を加えた。吹き飛ばし威力を逃がさないため、もしも相手に余力が残った時にすぐさま確認し追撃をかけるため。
「ぐぅ……がはっ!」
一誠とヴァーリがあれだけ攻撃して帽子一つ脱がせられなかったロキに、ヴィロットは素手のたった一撃ですぐには立ち上がれない程のダメージを与えた。
ロキが倒されたことにより一誠とヴァーリを閉じ込めていた魔法陣が解除される。
ヴィロットは倒れるロキに近づく。
「うぅ……ヴィロットよ、よくぞ俺を止めてくれた」
二天龍をものともせずに戦ったのにヴィロットの拳により一撃で沈められてしまったと言うのに、ちっとも悔しがる様子はなくロキはまるで憑き物が落ちたような顔をしていた。その瞳も始めてヴィロットと対峙したあの覚悟の籠ったものに戻っている。
「ロキ様、お目覚めになられたんですね」
「いや、意志はずっと残っていた。しかし、まるでもう一人の邪悪な自分に体を乗っ取られたかのように自由が利かなかった。我を止めてくれて、我を正気に戻してくれたことには大変感謝している。礼を言う、ヴィロットよ」
ロキはそう言うと
「全く、なんという失態をしてしまったのだ我は。これではオーディンと同じ……いや、それ以上の愚行ではないか」
倒れるロキのもとにフェンリルが心配そうに近づく。しかし、心配そうな表情の中にはどこか安堵の表情がうかがえる。
近づいてきたフェンリルにロキが言う。
「フェンリルよ、スコルとハティとミドガルズオルムを止めてきてくれ」
「ガウ」
「心配かけたな、フェンリルよ。我の負けだ、ヴィロットよ。おとなしく貴殿に従おう」
ロキが負けを認め、護衛側も死人はなし。子フェンリルと継続で戦ってるリアス眷属とヴァーリチームもこれで戦いをやめられる。北欧ではこれから審議が行われるが、全てまるく収まりめでたしめでたし。―――と、なると思いきや。
バキュゥン!
ヴィロットたちの背後の遠くから小さな銃声が鳴る。その音はいまだ戦いを続ける喧騒にかき消されたが、その音の結果はロキの胸にしっかりと残っていた。
「ごふっ!」
「ロキ様!」
「ヴァオン!?」
ロキの胸にできた小さな弾痕からおびただしい量の血液が流れでる。突然の出来事にスコルとハティとミドガルズオルムを止めに行ったフェンリルも途中で駆け戻ってきた。
「「「ッ!?」」」
誇銅はその銃撃が飛んできた方向を魔力で底上げした目で見た。すると、その視線の先には先ほど倒した狙撃兵タイプのロボットがいた。
銃撃は誇銅を狙ったものではなく、なおかつ誇銅の感知範囲外から撃たれたものだったので誇銅も気づくことができなかった。
ロキを狙撃した狙撃兵タイプは用が済んだとばかりに小型の転送装置のようなものを使って離脱する。
「うっ……ぐぐっ……」
撃たれた胸を押さえながら苦しそうに血を吐くロキ。通常の銃弾なら神の体を傷つけることはできない。しかし、当然それをわかっている相手は対神族の特殊弾丸を使用した。
銃弾は綺麗にロキの心臓を撃ち抜いており、もう助からないことはロキを心配するものは本人を含めてもうわかってしまっている
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオンッッ!」
月夜の中、フェンリルの綺麗な遠吠えが戦場に響き渡る。
その鳴き声は、以前の美しくも戦慄を覚えるものではなく、聞くものが聴けば哀しさと儚さに思わず涙を流してしまいそうなであった。
突然のフェンリルの鳴き声に殆どの者は突然の殺意のない遠吠えにただ驚くだけだが、ヴィロットと誇銅、その他二名はなぜか涙を流す。
「こうなることはもとより覚悟していた。しかし! こんな結果になるとは……! ぐふぉッ!」
「ロキ様!」
「オーディンの反対派でオーディンに直接意見できるのは私ぐらいのものだ。他の者では、オーディンの主神と言う地位に畏れてしまっている。そのためには……どこかで強引にでも動く必要があると私は考えた……。そしてそれが今回の会談、そこが動くべき時であり、動かなくてはいけない時と考えた。私が倒れる時は仰向けではない、うつ伏せでなくてはならない……。そうして、オーディンの地位の溝に恐れる者の人柱となり架け橋となるのだ……。それが……私の望み……北欧を……守ること……」
息も絶え絶えで自分の意志を語るロキ。
ロキはヴィロットの手を残る力で力強く握った。
「頼む! 北欧の皆に伝えてくれ。そしてできる事なら、貴殿にも継いでもらいたい」
「もちろんそのつもりです。今回の事件、私は包み隠さず全てを伝えるつもりでした。それがロキ様の望み通りの結果になるかはわかりませんが」
「それでいい、きっと私と
自らの意志をすべて伝えたところでロキは息を引き取った。
対神族用に作られた弾丸はすぐさま効力を発揮し、そのおかげで長く苦しまず楽になれたのはせめてもの幸運だったと言えるかもしれない。
「くっ! 一体なぜロキ様が……!」
涙を流しながらもロキがこんな目にあわされたことに怒り震えるヴィロットだが、ロキの遺体を見て何かを感じた。
ヴィロットの感じた通りロキの遺体に異変が起こる。死んで間もないと言うのに皮膚の色が変色し、筋肉はまるで生きてるかのように
「フェンリル! ロキ様から離れなさい!」
ヴィロットはフェンリルにそう言うと自身もロキの遺体から離れる。
死んだはずのロキが自らの力で起き上がり、生気のない白黒反転した死んだ瞳を開いた。
「もしやこれは、デッドウイルス……!?」
立ち上がったロキの姿を見てヴィロットがつぶやく。そのつぶやきを聞いた誇銅はなぜヴィロットがデッドウイルスを知っているのか驚きと同時に疑問に思った。しかし今はそれどころではない。
デッドウイルスは死んだ細胞を再構築させ強力なゾンビに変えるウイルス。人間の感染体ですら並の悪魔を凌ぐ強さを持つ。適合体ともなれば上級悪魔ですら餌食になるほど。それが神格に与えられたとなれば想像は難くない。
「ぐぅ……」
ロキが魔法陣を展開させる。すると、タンニーンと戦っていた最後の一匹の量産型のミドガルズオルムのもとに同じような魔法陣が出現した。
最後の量産型ミドガルズオルムは魔法陣に一部だけが吸い込まれロキの手元の魔法陣に転移させられた。―――ロキの手元に転移されたのは死体となったミドガルズオルムの頭部だけ。
ロキは頭部から三分の一以下となった量産型のミドガルズオルムの切断面を自分の背中にくっつけた。すると、死んだはずのミドガルズオルムがロキと同化し、同じく生気のない充血した目で再び動き出した
その姿には龍王のタンニーンもフェンリル以上の恐怖を覚えた。ただ自分より強い相手に覚える恐怖ではない、対峙することすら拒絶する龍王が初めて味わう種類の恐怖。
「もう、出し惜しみしてられないわね」
ヴィロットは手袋を外し風穴の空いた両手を露わにする。そして、指輪に戻した聖剣を再び大剣の姿にした。
ヴィロットの大剣にロボットと戦った時と同じような強く純粋な聖なるオーラが宿る。すると、ゼノヴィアの持つデュランダルとアスカロンが、アーサーの持つコールブランドと支配のエクスカリバーが不規則で不思議な光を放ち始めた。
「ガァァッ!」
ロキは獣のように吠えると、自分は動かずに背中のミドガルズオルムの首がヴィロットに襲い掛かる。
ヴィロットはその頭を冷静に素早く斬り落とした。が、切り口から新たなミドガルズオルムの頭が生え、切り落とした首からも新たな胴体が生えてくる。
「貴様の相手はこの私だッ!」
タンニーンが切り落とされた方のミドガルズオルムに向かって火炎を吐く。それに対抗してミドガルズオルムも濁った炎を吐く。巨大なタンニーンの火炎は半分ほどに縮んだゾンビミドガルズオルムの炎に見事撃ち負けてしまった。
「なんだと!? ぐぉぉぉぉッ!」
さっきまで五体一で押し勝ったミドガルズオルムの攻撃に押し負けたことに面食らい回避が遅れてしまい、直撃でないにしろ大きなダメージを受けてしまった。
「チッ」
ヴィロットはゾンビミドガルズオルムが動き出すより前にゾンビミドガルズオルムの前に立ち、大剣に聖なる球体を張り付けゾンビミドガルズオルムの口へ向かって銃剣の一撃を放った。ゾンビミドガルズオルムもそれに対抗して再び炎を吐く。
聖なる球体はゾンビミドガルズオルムの炎を突き破って口の中に見事入り、頭部から尻尾の順番にゾンビミドガルズオルムを消滅させていく。
「邪魔、足手まといだから引っ込んでて」
ヴィロットは龍王タンニーンにとって屈辱的な言葉を平然と言い放つ。もちろんタンニーンも格下のヴァルキリーのその言葉は屈辱であった。しかし自分は負けヴィロットは勝った。力を至上とする悪魔と力を誇ってきたドラゴンの王としては黙って従わざる得ない。
「フェンリル、あなたも下がっていて。あなたまで感染されたら流石に一人じゃ対処しきれない」
今にもロキに飛び掛かりそうなフェンリルにヴィロットは言う。
ヴィロットにとって邪魔するのであれば別に聖書の護衛たちごと斬ることは造作もない。だが、万が一仕留め損ねてゾンビが増えるのが最も困る。だから下手に加勢しようとする者は暴力を使ってでも止めさせる。
「ミドガルズオルムは斬れば再生し増えるか。となると、ロキ様自体も増えはしなくとも再生できると考えたほうが良さそうね」
「ガァァァァッ!」
今度はミドガルズオルムだけでなく、ロキ本人もヴィロットに襲い掛かる。
ミドガルズオルムは不規則に動きながら撹乱し、ロキは襲い掛かりつつも中距離からいくつもの魔法陣を展開させた。
それを見ていた一誠はゾンビなのにまだ魔法を使うのかと驚いていたが、ヴィロットは予想通りと一切焦らず二つの動きを観察する。それと同時に聖なる砲弾を生成し大剣に装填した。
展開された左右の魔法陣からは右側からは追尾性のある光の矢、左側からは生き物のように迫ってくる緑色の濁った炎。ヴィロットはその二つを無視し、ミドガルズオルムのみを見て構えた。
「ここッ!」
ヴィロットは大剣を振り、聖なる砲撃を発射した。そしてその後すぐに剣先を下に向けて前に構えると、大剣の聖なるオーラが前方を守る大楯の形に変化しロキの二種類の魔法攻撃を防ぎ消滅させた。
ボボボボボボボボボボボボボ!
聖なる砲撃はミドガルズオルムの口中に見事命中し、ゾンビミドガルズオルム同様頭部から消滅させながら末端へと進んでいく。
ロキは砲撃が本体へ到達する前に素早くミドガルズオルムを切断した。だが、聖なる砲弾は切断されたミドガルズオルムを消滅させながら切断面から同じ勢いのままロキへと飛んでいく。しかしロキも聖なる砲弾を魔法陣で受け止めた。しかし勢いは殺しきれず大きく後退していく。
ヴィロットの砲撃は十の魔法陣によって受け止められたが、受け止めきれず魔法陣が壊されロキの胸に命中した。ヴィロットの主砲を受けた胸は大きく抉れ、心臓がむき出しな状態となる。だが、すぐにその傷は再生されてしまう。
「やっぱり一撃で仕留める必要があるか」
肉体の損傷も切断されたミドガルズオルムも再生させロキは元の状態へと戻った。
ヴィロットはゾンビロキを逃がさないように一撃で仕留められるチャンスを狙い動けない、ゾンビロキは全員を皆殺しにしたいがヴィロットが思った以上に強くて迂闊に動けない。
後ろではまだ子フェンリルと戦いが続けられてる中、ロキは再び影の中から生きた量産型ミドガルズオルムを五体呼び出した。そしてそれを同様に殺し自身の体になじませようとする。ヴィロットの表情も流石に曇りを見せた。
その時、姿のない闇夜の中から声が聞こえた。
「おまえらさ、俺のこと無視しすぎじゃねぇのか?」
暗い夜の中からさらに暗い影がロキと子フェンリルに向かって伸びていく。
「まあ、そのおかげで大技を練る準備ができなんだけどな」
暗闇の中から姿の見えぬ匙の気配が、半分は匙だがもう半分が別の気配なのを誇銅は感じ取った。
「憑依、陰遁『無限闇夜の紡ぎ手』」
漆黒の闇の中ら大量の黒い手が現れ、ロキと子フェンリルを拘束していく。
黒い手は動きを止めるだけで飽き足らず、子フェンリルたちの呼吸器官をふさいだり、口から体内に入って行き空気と力を吸っていく。あまりの苦しさに子フェンリルは暴れるが脱出はできそうにない。
しかしロキはその黒い手を強引に引きちぎって拘束を解いてしまう。が、切断面から新たに黒い手が生えて再び巻き付くようにロキを拘束していく。そして切られた手の変わりがまた一本影の中からロキをその場に拘束する。
逃げようとするほど黒い手は無限に増えていき、体中にへばりつくようにいずれ一切の身動きができぬようにされてしまう。それはいかにゾンビ化し強力になったロキも逃れられなかった。
「後は頼むぜ、ヴァルキリーさん」
「これは助かったわ。まさか悪魔がこんな魔術を使えるなんてね」
「技自体は悪魔のじゃないけどな。あと魔術じゃなくて忍術な」
暗闇の中から姿を見せずに訂正する匙。
ヴィロットはこの好機を生かすために、聖なる砲弾をありったけ生成し大剣の両面に張り付け、足腰にガッシリと力を入れ構え、大剣を両手持ちで力いっぱい振るった!
「聖主砲Roma級、
ドゴォォォォォォォォォンッ!
すべての聖なる砲弾が一斉に発射された。戦艦の主砲の如く発射された聖なる砲弾が闇夜を切り裂きながら、闇の手にガッチリと捕らえられたゾンビロキへと迫る。
「ガァァ……あり……がと……」
聖なる光に包まれる直前、ロキの意識が一瞬だけ戻りそう発した。その言葉は誰の耳にも入ることはなかったが、それでもロキは最期の最期には自分を取り戻すことができた。
ヴィロットの砲撃によりロキとその周りが大きく聖なる爆発に包まれる。その見たこともない聖なるオーラの大爆発に天使側と堕天使側の者は目を疑った。
あらゆるものが一切合切消え去った爆発の跡地、そこへ戦いのさなかボロボロになり遥か上空へ吹き飛んだロキのローブがひらひらと落ちてきた。
「お疲れ様ですヴィロットさん、ロキ様」
二人の戦いが終わったそれを見て誇銅が言う。全力をもって正義を貫き通したヴィロットと、信念をもって正義を貫き通したロキに敬意を払って。
子フェンリルたちも動けない状態からリアスたちとヴァーリチームの総攻撃によって倒されていた。これで本当に戦いが終わりを告げる。
誇銅はこの戦いが単なるロキの無謀な反乱を鎮圧しただけの不幸な事件で終わらせられないことを、心から強く願った。
今回で原作7巻を閉めようと思ったのですが、もう1話だけ続きます。次はいよいよオーディンと日本神話との会談の結果!
今回登場した技のちょっとした紹介。
陰遁『無限闇夜の紡ぎ手』:何かしらの条件を満たした時のみ使える匙の必殺技。無数に生える手が相手を拘束し、力と呼吸を奪う術。だが実際は相手の恐怖心を利用具現化し動けなくする術。具現化した恐怖に絡まれるほど恐怖で足がすくみ動けなくなり、呼吸困難に陥る。物理的な拘束力は匙の力依存でありそれほど高くなく、力を吸う能力はヴリトラの影響。