無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 投稿ペースの低下に密かに焦りを感じてます。


唐突なお偉い方の来日

 次の日。今日は休日だ。

 朝起きた時に今日は悪魔と顔を合わせなくていいと思ってとても目覚めがよかった。今日はどんなゆったりとした一日になるのだろうか? そう思っていたのだが、まさかこんな事態になるとは……。

 現在僕は私服である駅近くのコンビニ―――より少し離れた電柱柱の(かげ)に隠れた不審な集団の一員にされている。不審な集団とは一誠と朱乃さんを除くリアス・グレモリー眷属の面々だ。

 せっかくの休日に僕たちは一体何をやらされてるかと言うと。

 

「あ、朱乃さん……?」

「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」

「い、いえ」

 

 一誠と朱乃さんのデートを眷属一同で尾行させられている。リアスさんはサングラスと帽子で、アーシアさんはメガネで、搭城さんはレスラーの覆面で、ギャスパーくんは紙袋で変装している。木場さんは普段の格好。

 隠れきれる人数じゃないし、隠れきれる変装じゃない。一誠に好意を寄せてる女性陣はまあわかるけど、なんで男性陣まで全員着いてくる必要が?  まあ、過去に僕も一誠のデートを尾行した経験があるから言うまいけども。

 そんな怪しい集団とは対照的に尾行対象の方では甘酸っぱい雰囲気が流れている。

 

「そ、そんなに見られていると恥ずかしいわ。……今日の私、変?」

「すっごくかわいいです! 最高です!」

 

 髪をおろし、いつもと違うイメージの服装でガラリと雰囲気を変えた朱乃さん。と、いつも通り朱乃さんに翻弄される一誠。いつもと変わらない構図でありながらも初々しさが見え隠れしてていいんだけど、だからって今更応援する気には一切なれない。

 僕的には夏休みの大半を潰された冥界旅行と同じくらいの出来事に部類されるよ。

 

「イッセーくんは今日一日私の彼氏ですわ。……イッセー、って呼んでもいい?」

「ど、どうぞ」

「やったぁ。ありがとう、イッセー」

 

 ぼーっと空を見上げていると、一誠と朱乃さんの会話が聴こえてくる。ハァ、帰りたい。と、そんなことを考えていると、リアスさんが殺気に近いものを一誠たちへ送った。アーシアさんも少し悲しそうな雰囲気が伺える。

 物陰から一誠たちの方を覗いてみると、一誠と目が合った。あっバレたか。あれだけリアスさんが嫉妬の殺気を送れば鈍い一誠も気づくか。

 

「あらあら、浮気調査にしては人数が多過ぎね」

 

 朱乃さんもこちらをチラリと見て、小さく微笑む。なるほど、悪魔はこのくらい気配を出してもこの距離なら気づけないのか。

 そして、見せつけるように一誠に身を寄せてこちらを挑発する。

 

 バキッ。

 

 見事挑発に引っ掛かったリアスさんが電柱に罅を入れた音。その音で振り返った一誠の表情には恐怖が浮かんでいた。

 

「い、行きましょうか」

「ええ」

 

 こうして、街へと繰り出した一誠と朱乃さんを尾行する無駄な休日が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 二人の尾行を初めて三時間ほど経過した。

 ブランドの服屋で朱乃さんは洋服を比べては似合うかどうか一誠に訊いている。気のせいかもしれないけど、その間、いつもの口癖のような「あらあら」や「うふふ」は言ってない気がする。まあ、今の大人びた雰囲気が消えてる朱乃さんにはそっちの方が似合ってるね。

 それよりも気になったのは、国木田先輩が平然と女性ものの下着コーナーでおそらく自分用の下着を物色していたことだ。陰の妖術で気配を消すなり化けるなりできるはずなのに威風堂々とそのままの姿で下着コーナーにいる。その後、国木田先輩は店を追い出された。

 それから露店で買ったクレープを二人で食べたり、町中をずっと手を繋いだで歩いたり。二人の姿はどう見ても付き合い始めたばかりの恋人同士にしか見えない。

 その一方で一誠と朱乃さんのラブラブなデートを見せつけられてリアスさんのイライラは(つの)るばかり。その怒りのオーラで怪しい集団がさらに目立つ存在へと昇華されていく。

 デートか……。そう言えば、僕も近いものを一度だけ経験したことがあるな。

 あれは平安時代にいたころ、藻女さんと二人っきりでお花見に出かけた時のこと。綺麗な桜が咲き誇りつつも人気のない絶好の場所。この時代に身分の高い人が昼間に外で二人きりで遊びに出掛けるなんてタブーとされていた。今でいうなら有名芸能人のスキャンダルに匹敵する出来事。だけどこの日だけは無理を言って特別に玉藻ちゃんとこいしちゃんを蘭さんに預かってもらって出かけた。

 場所の雰囲気やお酒の勢いとかもあり、誘惑されたり地面に押し倒されたり理性でグッと押えなくちゃいけない出来事もあったけど、最終的には何事もなくその時代のデートは無事幕を降ろすことに。

 もしも誰かに見られていたら源氏物語みたいに本に書かれちゃったかもね。

 

「朱乃さん! 水族館とゲーセン行きましょう! 今日はとことんやらなきゃ!」

 

 一誠の急な提案に朱乃さんもきょとんとするが、すぐに笑顔で応じた。

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱乃ったら、イッセーとあんなにくっついて。イッセーもあんなに楽しそうに朱乃と……」

「うぅ、イッセーさん……。朱乃さんとあんなに楽しそうに」

 

 水族館出口付近でリアスさんとアーシアさんがぶつぶつと言っている。二人に向ける威圧も現段階ではかなり高まってる。

 ゲームセンターに行ったあと、あとを追って水族館に入った僕たち。町中の水族館で小規模だけど、けっこういろんな魚が揃っててよかったよ。今度罪千さんと一緒に行くのもいいかな?

 終始二人で手を繋ぎ、珍しい魚を見る度に二人ではしゃぐ一誠と朱乃さん。そんな二人を見てやきもちを焼く二人もかわいいものと思えばそうなんだろうけど、なにぶん好きになれない人たちだけにそういう感情が全くわかない。

 デートの尾行をしながら可愛い後輩であるギャスパーくんと勝手に休日を有効活用させてもらってるよ。クレープを食べてる辺りからギャスパーくんも紙袋を被るのを止めている。

 一誠と朱乃さんが出口を出たので、僕たちも二人を追って出口へ向かう。

 

「ペンギンさんのショー、とっても可愛かったですね」

「そうだね、とっても可愛かったね」

 

 出口に向かいながらギャスパーくんとそんな話をしているなか二人の方をふと見ると、朱乃さんがいたずらな笑顔をこちらに向けていた。すると、一誠の手を引っ張って走り出す。

 あ、ついにそうきたか。

 

「リアスたちを撒いちゃいましょう!」

 

 朱乃さんは一誠の手を引いて走り出した。

 それを一歩出遅れて急いで駆け出すリアスさんたち。相手が逃げようとしたことに気づくのが少し遅かったせいで、悪い感じに距離を取られてる。

 僕たちを撒こうと朱乃さんたちは町中を右に曲がったり、左に曲がったり、ぐねぐねと僕たちの視界から逃れようと動く。

 数分走った所で、リアスさんたちはとうとう一誠たちを見失ってしまった。本当は小路に隠れてた事は言わないでおこう。

 搭城さんも猫耳を生やした状態じゃないと感知できないみらいだ。悪魔になって妖怪としての能力が劣化してるのか、それともただ単に力の使い方が下手なだけか。幼少の頃から悪魔に育てられたとしたらあり得る話だ。

 完全に見失った所でリアスさんたちは足を止める。これであきらめてお開きになると思ったのだが、周りを見渡してわなわなと震えている。

 

「……」

「?」

 

 リアスさんと同じように周りを見渡してみると、「休憩〇円」「宿泊〇円」の文字があちらこちらに。

 な、なるほどね。そういう地域に足を踏み入れてたのね。

 どうやらリアスさんたちも追いかけるのに夢中でどこに来ていたのか認識していなかったみたいだ。

 

「朱乃ったらこんな所にイッセーを連れて何を……まさか!」

 

 リアスさんの顔に焦りが現れる。一誠はのぞきとかの間接的な行為はしつこくするけど、直接的に女性を誘うようなことはしない。だから大丈夫だとは思うけど。

 だけど空気にものすごく流されやすい性格でもあるから、もしも感情が高ぶった朱乃さんに誘われたらわからないかも。

 

「手遅れになるまえ前に見つけ出さないと!」

 

 その後、結局搭城さんがレスラーマスクを外して猫耳状態になり辺りの気配を探り、一誠と朱乃さんの居場所を特定した。やっぱり猫耳状態でないと仙術が使えないらしい。

 

 ピク

 

 不意に見知らぬ鋭い気配を感じた。

 気になって僕も気配を探ってみると、一誠と朱乃さんの近くに気配が他の気配が四つも。

 大きめの気配が二つ、大きくはないけどかなり洗礼された気配が一つ。どうやら後者の気配はかなりの強者(つわもの)のようだ。一体何者だろうか?

 一誠たちと合流するとそこにはテロ事件の時に手を貸してくれたオーディン様と、背後にはしっかりとした体格の男性とスーツ姿の綺麗な女性。

 女性の方は、前髪がパッツンとした短髪の茶髪にメガネ。厳しそうな委員長っぽいと言うのが第一印象かな。

 そしてもう一人、しっかりとした体格の男性は気配からしておそらく天使か堕天使。でも雰囲気からたぶん堕天使かな?

 オーディン様に堕天使らしき男性、見知らぬ一般人ではなさそうな女性。ちょっと目を離した隙にようまあこれだけのことに遭遇するよね。これがドラゴンが無意識に引き寄せると言う厄病なのかな? 

 

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ほっほっほ。というわけで訪日したぞ」

 

 兵藤家の最上階に設けられたVIPルームでオーディン様が楽しそうに笑っている。気楽に言ってるけど、こんな大物に友達感覚で来られてもそこそこ困る。

 なんでも日本に用事があって、そのついでにこの町へ来たらしい。下手なところよりも悪魔、天使、堕天使、三大勢力の協力態勢が強いこの町にいたほうが安全とかで。

 そんなこと言ってるけど、今現在もはぐれ悪魔は確認されてるし、禍の団が楽々侵入できるザル警備だし、本当に安全なの? そもそもここは日本神に無断で占領状態だしね。

 こんな非常識な豪邸まで建てちゃって、天照様が本腰入れて動き出したらどうなっちゃうんだろうね?

 結局、あの後一誠と朱乃さんのデートは中断され、そのままオーディン様を連れて兵藤家に連れて来た。そこに久しぶりに帰って来たアザゼル総督も顔を出している。

 ———あとなんかね、朱乃さんが物凄く不機嫌。

 なんでも、堕天使の男性の正体が朱乃さんのお父さん。朱乃さんはお父さんと仲が良くないらしくて、今はいつもの作り笑いもしていない。

 

「どうぞ、お茶です」

 

 リアスさんが笑顔でオーディン様に対応している。いつもの朱乃さんのポジションに今日はリアスさんが代行していた。

 

「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのうぅ」

 

 オーディン様はセクハラ発言をしながらリアスさんと朱乃さんの胸を交互に見てた。その目にはスケベ心がありありと浮かんでいる。

 

「オーディン様、不適切な目線を送るのをおやめください。相手は魔王ルシファーの妹君(いもうとぎみ)とその眷属になのですよ? もしもの時、法廷では一切弁護しませんから」

 

 女性はオーディン様の肩にそっと手を置き警告した。

 内容も至極正しいものだし、肩に手を置いて穏便に注意を促す。しかし、その内容は少し薄情ともとれる冷い感情が含まれていた。

 

「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、そりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはわしのお付きヴァルキリー。名は―――」

「ヴィロットと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」

 

 オーディン様の紹介でヴァルキリーのヴィロットさんが丁寧にあいさつしてくれた。

 ちょっと堅い表情、実は緊張してたりするのかな?

 

「ちなみに、彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」

 

 オーディン様がいやらしい顔つきで不必要な追加情報を僕たちに伝える。その瞬間、ヴィロットさんのオーディン様を見る目が急に冷たいものへと変わった。

 

「オーディン様」

 

 ヴィロットさんはオーディン様の顔をそっと自分の方に向けさせる。オーディン様の顔がちょうどヴィロットさんの胸の位置に。

 

「ふん!」

「ん? おお、この乳もなかなか……うごッ!!」

 

 ヴィロットさんの胸に見惚れてるオーディン様に強烈な頭突きをくらわせた! そこそこ鈍い音が鳴ってかなり痛そうだ。オーディン様も額を押さえてうずくまる。

 

「その情報は全く必要のない情報です。いかに北欧の主神と言えど罪には罰がつくことをお忘れなく。それと、好きで処女でいるんですから放っておいてください」

 

 その目は非常に冷たく、まるで出荷される家畜を見るかのよう。もしもの時は一切の躊躇なしに実行するのだろうね。

 真面目で口で言い負かすタイプかと思ったけど、意外と口より先に手が出るタイプだった。これが……戦乙女なのか。

 

「ぐぉぉ……いたいのぅ。まったく、儂の知識が失われたらどうするつもりじゃ」

「オーディン様の知恵が失われても知識は残ります。古い大樹が倒れれば新たな世代が芽吹くだけです」

 

 知識は残り、新たな世代に紡がれるか。現在のトップに面と向かって言う言葉かどうかは置いといて、うまい返しではあると思った。

 冥界で感じた長寿の弊害。昔の価値観のまま、自らの地位を守ることに固執する執念。例え最初は清らかな水たまりでも、流れぬ水は濁る一方。稀に大きな痛い目を見て違う視点に目覚めることはあるが、それもそれぞれ。

 一時は権力を悪用した怠惰な天照様が神々の反乱が原因で妖怪や人間に感謝するようにもなれば、戦争で減った悪魔を人間を悪魔化することで補おうとする魔王もいる。北欧の神々が現在どちらに転びつつあるかは不明だけどね。

 そんなやり取りにアザゼル総督も苦笑しながらも口を開く。

 

「爺さんが日本にいる間、俺たちが護衛する事になっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員だ。俺も最近忙しくてな、ここにいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりにバラキエルが見てくれるだろう」

「よろしく頼む」

 

 と、言葉少なめにバラキエルさんが挨拶してくれる。

 それにしても、僕たちがオーディン様の護衛か……買いかぶりすぎじゃない? ただでさえ厄介ごとを引き寄せるドラゴンの傍に偉い客人の護衛を任せるのは不適合だと思うんだけど。

 

「それにしても爺さん、来日するにゃちょいと早すぎたんじゃないか? 俺が聞いていた日程はもう少し先だったはずだが。今回の来日の目的は日本の神々と話をつけたいからだろう? ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会談に同席———と」

 

 日本神と話をつける!? それも三大勢力の仲介と同席付きで!

 オーディン様はどういうつもりか知らないけど、三大勢力を仲介にしてはまとまる話もまとまるはずがない。きっと交渉の席を設けられた時点で天照様はご立腹だろう。

 スサノオさんは冥界に足を運んではいたが、かなり嫌々だったらしいし。おそらく、天照さまは絶対に出席しないだろう。最悪、三貴子の誰も出席しないかも。

 

「まあの。それと我が国の内情で少々厄介ごと……というよりも厄介なことにわしのやり方を批難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。日本の神々といくつか話をしておきたいんじゃよ。いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」

 

 オーディン様は長く白い髭をさすりながら嘆息していた。

 これって相当厄介ごとに巻き込まれる確率が高くなったね。そもそも批難されてなお強硬するって指導者の立場からしてかなりの悪手っぽいんだけど。

 自分の正しさを証明するか、自身に資格がないことを証明するかのハイリスクハイリターン。しかも僕だからわかることだけど、最低でも日本神との三大勢力を仲介とした時点で失敗は目に見えているからね。

 

「厄介ごとって、ヴァン神族にでも狙われたクチか? 頼むから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」

 

 アザゼル総督は皮肉げに笑っていた。

 『神々の黄昏(ラグナロク)』? なんかどっかで聞いたことがあるような……。まあ今は思い出せないことを気にしてても仕方ないか。

 

「ヴァン神族はどうでもいいんじゃが……」

「はぁ」

 

 急にため息をつくヴィロットさん。その表情にはもの呆れの感情が見え隠れしている。

 だけど僕意外それに気づいた人はおらず、話はそのまま続けられた。

 

「ま、この話をしても仕方ないの。それよりもアザゼル坊。どうも『禍の団(カオス・ブリゲード)』は禁手化(バランス・ブレイク)できる使い手を増やしているようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有(けう)な現象と聞いたんじゃが?」

 

 他の眷属たちが皆驚いて顔を合わせていた。ここでその話が出てくるか。

 どうやらイリナさんの予想通り相手は強引な手段で禁手化(バランス・ブレイク)を増やしていたのか。だからってそれ以外に目的がないとは言えないけど。

 

「ああ、レアだぜ。だがどっかのバカがてっとり早く、それでいて怖ろしく分かりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。その方法は神器(セイクリッド・ギア)に詳しい者なら一度は思いつくが、実行するとなると各方面から批判されるためにやれなかった事だ。成功しようが失敗しようが、大批判は確定だからな」

「なんですか、その方法って」

 

 一誠の問いかけにアザゼル総督が答える。

 

「リアスの報告書でおおむね合っている。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦さ。まず、世界中から神器(セイクリッド・ギア)を持つ人間を無理矢理かき集める。殆ど拉致だ。そして、集めた人間を洗脳。次に強者が集う場所、超常の存在が住まう重要拠点に神器(セイクリッド・ギア)を持つ者を送る。それを禁手(バランス・ブレイカー)に至る者が出るまで続けることさ。至ったら強制的に魔法陣で帰還させる。お前らの対峙した影使いが逃げたのも禁手(バランス・ブレイカー)に至ったか、至りかけたからだろう」

 

 ああ、やっぱり新しい力に目覚めた兆しだったのか。

 それにしても、神器使いを集めたらり、拉致や洗脳したり、強い敵が集まる場所に送り込んだりって悪魔がそこそこ似たようなことやってるよね?

 あと、大批判ってのも別の事で元々大批判を受けてるようなことしてるんだからなんか今更感がある。

 

「これからの事はどの勢力も、思いついたとしても実際にやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が、悪魔と天使の拠点にに向かって同じ事をすれば批判を受けるとともに戦争開始の秒読み段階に発展させるのさ。俺たちはそれを望んでいなかった。だが、奴らはテロリストだからこそそれをやりやがったのさ」

 

 ん~そういうことをすれば各方面から叩かれるけど、今やってる他勢力への侵害や人間への被害は問題なしとされてるのはなぜだろう? 人間事態には関心がないのは他の殆どの勢力も同じなのだろうか。そう考えると、なんだか俄然英雄派に頑張ってもらいたい気持ちになって来たよ。

 ……ちょっと待てよ、僕と一誠は結構危険な目に会される無茶苦茶な修行をさせられたけども。

 

「自分はそのような目に遭って禁手(バランス・ブレイカー)に至りましたけどって訴えかけるような顔だな、イッセー」

「そりゃそうですよ、先生」

「だが、おまえは悪魔だ。人間より頑丈なんだぜ?」

「それでも死にかけました!」

「あー、まあ、おまえだから別にいいんだよ」

「あーっ! それでまた片付けるぅぅぅっ! 酷いよ、先生!」

 

 自分の雑な扱いにいじける一誠。そういうけどね一誠、確かにやり方は酷いけど同時にかなり目をかけてもらってるから。一誠よりも弱く実勢経験もないと思われてる僕が同じ無茶な内容をやらされるのとはわけが違うからね?

 それでよくグレたりしないよねだって? アハハ、はなっから見放してると失望とかしなくなるものだよ。それに、僕からすれば逃げるだけなら簡単なことだったしね。

 

「どちらにしろ、人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手(バランス・ブレイカー)にさせるってのはテロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』ならではの行動ってわけだ」

「それをやっている連中はどういう輩なんですか?」

 

 一誠の問いにアザゼル総督が続ける。

 

「英雄派の正規メンバーは伝説の勇者や英雄様の子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに、『神器(セイクリッド・ギア)』や伝説の武具を所有している。その上、『神器(セイクリッド・ギア)』が『禁手(バランス・ブレイカー)』に至っている上、神をも倒せる力を持つ『神滅具(ロンギヌス)』だと倍プッシュなんてもんじゃすまない。報告では、英雄派はオーフィスの蛇に手を出さない傾向が強いようだから、底上げに関してはまだわからんが」

 

 果たして、アザゼル総督の言う通り相手は拉致、洗脳させた人間を『禁手(バランス・ブレイカー)』に至らせてるのだろうか? 今までの英雄派の動きを見て僕は疑問を抱かざる得ない。

 確かに作戦としてやり方は雑だったが、それに携わる人間に対しては丁寧すぎる程の戦術。本当に人間をそんな方法で拉致、洗脳しているならあんな手厚い防衛陣形を張るだろうか。もっと危険に雑に扱う方が開花させるには手っ取り早いと思う。

 どちらにせよ、僕程度では思考も情報も狭すぎる。真実はまだまだ見えてこない。

 

「『禁手(バランス・ブレイカー)』使いを増やして何をしでかすか、それが問題じゃの」

 

 オーディン様は特別深刻そうな顔はせず、普通に出されたお茶を飲んでいた。むしろお付きのヴィロットさんがその話を聞いて遠い目をしている。

 

「まあ、調査中の事柄だ、ここでどうこう言っても始まらん。爺さん、どこか行きたい所はあるか?」

「おっぱいパブへ行きたいのぉ!」

 

 アザゼル総督が訊ねると、オーディン様は嫌らしい顔つきで両手の五指をわしゃわしゃとさせながら言った。そこそこ真面目な話をしていたのに急に話の路線が変わったぞ!

 三大勢力寄りの人たちの切り替えの早さはある意味尊敬できるかもね。

 

「ハッハッ、見るところが違いますな、主神殿! よっしゃ、いっちょそこまで行きますか! 俺んところの若い娘っ子どもがこの町でVIP用の店を最近開いたんだよ。そこに招待しちゃうぜ!」

「うほほほほっ! さっすがアザゼル坊じゃ! わかっとるのぉ! でっかい胸のをしこたま用意しておくれ! たくさんもむぞい!」

「ついてこいクソジジイ! おいでませ、和の国日本! 着物の帯くるくるするか? あれは日本に来たら一度はやっとくべきだぞ! 和の心を教えてやるぜ!」

「たまらんのー、たまらんのー」

 

 二人は盛り上がって、部屋を早々と退室して行った。あれが堕天使と北欧のトップ……。と言うか、あなたが日本を語らないでくださいアザゼル総督! 少しイラッとしましたよ。

 流石にリアスさんも額に手をやって、眉をしかめてる。よかった、あのエロへの盛り上がりは異常なことなんだと上級悪魔も認識している。

 

「……ハァ、パスタが食べたい」

 

 出ていく二人を横目に見ながら、ぼそりとつぶやいて遅れて二人の後を追う。

 

「おまえは残っとれ。アザゼルがいれば問題あるまい。この家で待機しておればいいぞい」

「わかりました。それでは、私もその辺をぶらぶらしていますので何かあればご連絡を。アザゼル総督、責任は全てあなたにお任せしますので」

 

 なんか廊下の方からそんなやり取りが聞こえてくる。あのオーディン様のお付きの人、仕事の責任を一時的にアザゼル総督に全部丸投げしたぞ! 何かあればアザゼル総督大問題だ!

 三人がいなくなり、ここに縛られる理由もなくなったので僕も兵藤家からおいとまさせてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~やっと解放された!」

 

 兵藤家から解放された僕は、少し歩いて離れた所で自由を感じ伸びをした。

 別に息が詰まるようなことはなかったけど、僕にとってリアスさんたちといること自体居心地が悪い。

 せっかくだから少し遠回りしてのんびり散歩でもして帰ろうと近くの緑地公園の中を通る。少し遠回りと言うか、完全に帰り道と方向が違うけどね。

 

「……!」

 

 解放されて気分よく散歩していると、突然真後ろから僅かだが濃厚な妖気を感じた。驚きながらも振り向くと、だいたいギャスパーくんと同じくらいの身長の人が僕の真後ろに立っていた。

 帽子とサングラスとマスクで顔を完全に隠し、手袋までして肌の露出が全くない黒い服。全身黒一色でめちゃくちゃ怪しい。

 

「これに気づけると言うことは、間違いないな」

「だ、誰ですか……?」

 

 相手を刺激しないように穏やかに尋ねる。相手から殺気は感じない、だから体が反応しなかった。だけど、相手が意図的に気配を隠していたのも事実。

 害を与えるような相手ではないと思うけど警戒は解けない。そもそも僅かに感じた容器から妖怪としてかなり格上だと見た。この間合いでも勝てるかどうか怪しい。

 

「そう警戒しないでくれ。って、言っても無駄か。すまない、結構内向的な性格でね、確かな確証が持てるまで話しかけたくなかったんだ。人違いでしたなんて恥ずかしいからね」

 

 流暢(りゅうちょう)にしゃべる姿から人見知りなんて感じはしないんですけど。

 

「それより少し話をしよう。立ち話もなんだから、そこのベンチにでも座ってさ。安心しな、危害は加えないしそう時間も取らせない」

 

 その人は僕の質問を無視してベンチで話そうと誘う。とりあえず今のところ危険はなさそうだし従ったほうがよさそうだ。

 僕は言われた通りベンチに移動する。早速さっき無視された質問をもう一度してみよう。

 

「あの、そろそろお名前を教えても……」

「私の旧友がお世話になったようじゃないか」

 

 また無視された……。どうしよう、この人僕の話を聞いてくれない。

 とりあえず今わかってる情報を整理しよう。感じた妖気から間違いなく妖怪、それもおそらく大妖怪。格好は不審者みたいで、あとおそらく女性。僕が悪魔ではなく妖怪を信じてることを知っている。———情報が何とも結びつかない!

 それと、旧友がお世話になったってどういうこと?

 

「全力ではないとは言え京の都を騒がせた悪鬼と同条件で勝つとはな。流石はあの風影の弟子、やるもんだねぇ」

 

 冥界での一戦を知っている。それも、僕と国木田さんしか知りえない勝負を。この人が言う旧友とは国木田さんのことだったんだ! そう言えば、国木田さんは昔悪童三人組として京を騒がせたこともあったと言っていたっけ。

 だけど国木田さんから聞いたことのある仲間は二人いた。果たしてこの人はどちら―――。

 

「そろそろ自己紹介しようかな。私の名は(ぬえ)、二代目陰影だ」

「二代目陰影様!?」

 

 初代陰影さんに変わって二代目を継いだと聞いた鵺だった! なぜ二代目陰影様がこんな所に!? それもオーディン様が来日しているややこしい時に!

 

「自己紹介が遅れてすまなかった。ちょっともったいぶりたかってね。あわよくば謎解きみたいに解いてもらってみたくて」

 

 前に少しだけ鵺について調べてみたことがある。猿の頭、虎の胴体、蛇の尾を持つと言われる妖怪。見る角度によって姿が異なる正体不明の妖怪として語られることもある。

 陰影を名乗ると言うことは相当陰の妖術が(たく)みと言う意味。国木田さんの話ではあのどろどろさんに匹敵するレベルとか。

 なるほどね、こりゃ真後ろに立たれても気づけないわけだ。下手をすれば目の前に立たれても攻撃されない限り気づけないかもしれない。

 

「なぜ陰影様がこのようなところに?」

「ちょっと野暮用でな。それでせっかくだから日本神と七災怪で噂になってるあんたをちょっと見に来たってとこ。あと、鵺でいい。天照のご友人に様付けで呼ばせるのは問題がある」

「はい、鵺さん」

「うん、ちょうどいい」

 

 鵺さんと話してて思ったんだけど―――女性かな? 体つきは服のせいでわからないけど、声はとても女の子っぽい。

 

「真後ろに立たれるまで接近は許したけど、あの段階の妖気で気づけたのはまあよかったぜ。悪魔にしちゃなかなか鋭い感覚してるな」

「ありがとうございます」

「ところでさ――—あんたにはどう見える?」

 

 急に話を変えが鵺さんは、帽子とサングラスとマスクを取って僕に素顔を見せた。

 現れた素顔は、クセっ毛で短髪黒髪の可愛い女の子。声質からして女性かなと思ったけど、やっぱり女性だった。

 いたずらな笑みを浮かべていきなり顔をグイッと近づけて来たのでびっくりしたよ。

 

「ほら、正直に見て感じたまま言ってみな。男? 女? 黒髪? 茶髪? ショート? ロング? それともハゲ?」

 

 一つ一つ言葉を並べる度に顔の角度を変えて質問する鵺さん。一体何を言ってるんだろうか? 僕にはよくわからない。

 とりあえず鵺さんの言う通り見たままを言えばいいのかな?

 

「醜い姿でもそのまま言っていいからさ。ほらほら、あんたの目に映った真実を言ってごらんさ」

「黒髪のクセっ毛の女の子」

「……え?」

「声質で女性かなと思ってたんですけど。可愛い素顔なんですから、隠しちゃうのがもったいないと思いました」

 

 隠し欺くことが巧い陰の使い手はその逆も巧い。下手な言い回しも通用しないと思い本心をそのまま言う。こ、これでいいのかな? 無礼なこととか言っちゃってないかな?

 僕がそう言うと、その場で固まってしまった鵺さん。ガタガタと震えながら口を開く。

 

「な、なんで……? 誰も私の顔も声も正しく認識、記憶できないハズなのに。七災怪レベルでもないし、あんたくらいならこの程度で十二分にかかるハズなのに……」

「あ、あの……そういう体質と言いますか」

 

 なんか僕の目って昔から幻術とか効きにくいんだよね。軽い認識阻害程度なら全く問題にならない。強いものなら誤魔化されるけど、その場合は明らかな違和感が❝見える❞。

 鵺さんは急いで立ち上がり僕から距離を取る。

 

「わ、忘れろッ! 私の顔を忘れろッ!」

 

 あたふたしながら顔を真っ赤っかにして大声で叫ぶ鵺さん。急いで帽子とサングラスとマスクとで顔を隠そうとするが、その三つは僕の隣に置きっぱなし。それでも手元にない三つを探している。

 帽子もサングラスもマスクもベンチの上に置きっぱなしにしばらくして気づき、急いで三つを取り装着する。

 

「ぬぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 そうして逃げるようにして走ってその場を去った。その去り際、真っ赤な耳だけが見えた。

 

「……なるほど、歴史上で鵺の姿が曖昧なのは極度の恥ずかしがりやだったからか」

 

 なんだか歴史の裏の真実をまた見てしまったような。

 冷静に分析を口にしてるけど今結構罪悪感に(さいな)まれている。女の子を泣かせちゃったんだから。なんか、悪いことしちゃったな。

 次鵺さんに会った時どうするべきか考えながら僕は家へ帰った。


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