無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 今回はいつもより短めになっています。


細やかな海獣との日常

「ふー。終わった」

「お疲れ様です、イッセーさん」

 

 戦闘終了後、鎧を解除して一息つく一誠にアーシアさんがねぎらいの言葉をかける。そして、怪我はしていないが一応と言うことでアーシアさんに回復してもらっている。まあ、本人同士がいいんだったらいいんだけどね。

 

「お疲れさま、ギャスパーくん」

「誇銅先輩もお疲れ様です」

 

 あの後戦闘員たちは全員逃がしてしまった。一誠たちも何とか捕らえようとしたが、異形の捨て身の防衛線に阻まれて近づくことすらできず消え去ってしまった。

 本来なら敵の構成員を捕まえて冥界に送る手はずだったのだが、今までの成果はゼロ。敵の構成員を気絶させても異形の最後の防衛線を突破できずに敵に回収されてしまう。

 遠くから狙ってきた構成員を倒しに行ったゼノヴィアさんと搭城さんが帰って来た。

 

「すまない。やはり異形共に阻まれて逃がしてしまった」

 

 やっぱりね。そもそも僕たちは一度たりとも隊列を組んだ異形を倒したことがない。

 常に数体で固まって行動し僕たちの攻撃や進撃を防いでくる。数が集まる程にその防御力も増していく。倒せるのは大振りな技で隊列が乱れ、はぐれた数少ない異形のみ。

 大技なら小隊ならば簡単に吹き飛ばせるだろうが、町中でそんな大技を使うわけにはいかない。常に構成員を守る彼らを突破して構成員に攻撃できること自体稀だ。

 

「今回も収穫なしね。何とか一人でも掴まえて情報を得たいところだけど」

 

 戦闘に勝ってもこちらが得られるものは何一つない。むしろ戦うたびにこちらの情報がどんどん持ち帰られていく。時には一日に大して戦わないのに何度も出没したりしたりすることも。

 例えばディオドラとの一見以来、一誠の神器のも少しだけ変化があったらしい。なんでも禁手が発動するまでの時間が百二十秒から三十秒ほどまで短縮したとか。だけどおそらくこの不毛な勝利でその短縮時間は知られてしまっただろう。

 特に今回は優秀な頭脳が敵にいたから一体どれだけの情報が無意味な勝利と引き換えに流れてしまったのだろうか。

 まあ、それでリアスさんや一誠が消滅させられても構わないけどね。

 

「しっかし、ものをできるだけ壊さずに戦闘するのって超攻撃型の俺たちのチームには酷だな」

「仕方ないよ。僕たちはただでさえ、強力な能力を持っているんだから、威力を押えて戦わないとこの町が壊れてしまうさ」

 

 ぼやく一誠に木場さんが苦笑する。

 悪魔のいざこざで人が巻き込まれてももみ消して責任を取らない悪魔でも、流石に街を壊してもいいとは考えていないらしい。だけどそれが住む人たちを心配してのことなのか……。

 裏世界の秘匿の為か、はたまたあくまで自分がこの町を管理しているからとの考えからなのか。僕にはどうにもこの二つの理由しかないような気がしてならない。

 

「これもレーティングゲームのルールのうちと思えば良い経験になるわ。一度、手痛い結果を見ているのだから」

 

 リアスさんが一誠に言う。

 もしかして、ソーナさんに負けたのはそのルール❝だけ❞が原因とかは思ってませんよね? 確かにあのルールは僕たちに不利でソーナさんに有利ではあったけど、それを踏まえてもソーナさんたちには有り余る余力が残っていた。それはもうパワー以前の差ですよ。

 それでもまあ、周りを気にして加減すると言う意味では生きてると思う。もしもあの経験で一誠が力を抑えることに慣れようとしなかったらゾッとするよ。

 

「でも、厄介なことになってきましたね」

「どういうことだ、木場」

「刺客の神器(セイクリッド・ギア)初秋者に特殊技を有する者が出て来たってことさ。僕たち悪魔で言うところのサポート、テクニックタイプに秀でた者たちが現れてきた。最初はパワーやウィザードタイプばかりだったのに。……こちらの行動パターンを掌握しつつあると考えられる」

 

 木場さんの言う通り、間違いなく掌握されつつある。その証拠に戦うたび確実に戦闘時間が長引いてる。

 不毛な勝利を得る毎に、相手は着実に実りある敗北を重ねているのだろう。今日の相手を見て確信したよ。

 

「……先生も言っていました。神器(セイクリッド・ギア)は未知の部分が多い、と」

 

 搭城さんの意見にリアスさんもうなずく。

 

「そう、だから、さっきみたいに特異な能力で赤龍帝や聖魔剣の力を飲み込んだ。直接防御できないのなら、違う形でいなせばいいと気づいたんでしょうね」

 

 構成員は防御できなくても、異形の戦闘員にはバッチリと直接防御されてるけどね。

 

「あ、あの、疑問に思ったんだけど……意見いいかしら?」

 

 イリナさんが恐る恐る手を上げて言った。

 

「ええ、お願い」

「私たちを研究しているとか攻略しにきたってわりに、英雄派の行動が変だと思うのよ」

「変?」

 

 怪訝に返すゼノヴィアさんにイリナさんはうなずく。

 

「だって、私たちを本気で研究して攻略するなら、二、三回ぐらいの戦いで戦術家はプランを組み立てると思うの。それで四度目辺りで決戦を仕掛けてくるでしょうし。でも、四度目、五度目も変わらなかった。随分注意深いなーって感じたけれど……。この町以外にも他の勢力のところへ神器(セイクリッド・ギア)所有者を送り込んでいるのだから、強力な能力を持つ者が多い所にわざとけしかけているんじゃないのかしら」

「実験? 私たちの?」

 

 朱乃さんの問いにイリナさんは首を横に振る。

 

「どちらかと言うと、彼ら―――神器(セイクリッド・ギア)所有者の実験をしているような気がするの。私の勘だから、ハッキリした意見は言えないけれど……。この町以外にも他の勢力のところへ神器(セイクリッド・ギア)所有者を送り込んでいるのだから、強力な能力を持つ者が多い所にわざとけしかけているんじゃないかしら」

 

 イリナさんの意見に皆黙り込んでしまう。

 僕もイリナさんの考えもわかる。だけど、僕が感じたものは少し違う。僕の意見は英雄派は僕たちの出方を伺うと同時に、警戒心を煽ってるように見える。

 敵の戦闘員を防衛一色に固めてる所や、少々の攻撃のチャンスを棒に振ってまで無理に攻めてこない所なんかから僕はそう考えている。

 実際のところはイリナさんの意見も腑に落ちる部分が大きいからわからない。

 

「……劇的な変化」

 

 搭城さんばぼそりとつぶやいた。すると、全員の顔が強張る。

 

「……ま、まさか、そんな……。じゃあ、英雄派はあいつらを俺たちにぶつけて禁手(バランス・ブレイカー)に至らせるつもりだってことか?」

「でも、イッセーくん。あの影使いが転移魔方陣の向こうへ消え去る前に見せた反応は……似ていたと思わないかい?」

 

 木場さんの意見を一誠は否定しない。

 確かにあの影使いが最後に見せ雰囲気、明らかに彼の中に大きな変化が起こった証拠だ。

 

「でもよ、俺たちにぶつけたぐらいで禁手に至れるのか?」

「……赤龍帝、雷光を操る者、聖魔剣、聖剣デュランダルとアスカロン、時間を停止するヴァンパイア、仙術使いの猫又、しかも優秀な回復要因までいる……。イッセー、相手からしてみれば、私たちの力はイレギュラーで強力に感じると思うの。勝つ勝たない以前に、私たちと戦うことは人間からしてみたら、尋常じゃない戦闘体験だわ」

 

 一誠の意見にリアスさんが目を細めて言った。

 リアス眷属は他の悪魔眷属よりもずっと強力で希少な力がそろい踏み。目に見えやすい強さに加え真っ向勝負を好む。まさに経験を稼ぐにはうってつけだね。

 

「やり方としては慎重な立ち回りの割には強引と言えますね」

 

 木場さんがそう言うと、リアスさんが肩をすくめた。

 

「わからないことだらけね。後日アザゼルに問いましょう。私たちだけでもこれだけ意見が出るんだから、あちらも何かしらの思惑は感じ取っていると思うし」

 

 リアスさんの言葉を最後にこの話は一時お開きとなり、僕たちは帰還することとなった。

 魔方陣を展開し部室に戻り、皆が一息ついてる間に一足先に帰り支度を済ませて帰らせてもらうことに。

 

「それでは、お先に失礼します」

 

 なんだかこれ以上長くいると厄介ごとに巻き込まれる気がする。冥界からの厄介ごとにしろ一誠の女性関係による修羅場にしろ、今日はもう御免だ。さっさと帰ろう。

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 オカルト研究部からさっさと退散してきた僕。

 夕食の買い物も済ませて家のドアを開けた。すると―――。

 

「ジー♪」

 

 ももたろうが僕の顔面目掛けて飛んで来た。

 僕の額に頬をスリスリさせて甘える。可愛いけど、息苦しい……。

 鞄と荷物で両手が塞がってると言えど今の僕なら鞄その辺に放って受け止めることも、顔を横にずらして呼吸を確保することもできた。だけどそんな事はしない。向けてくれた愛情にはできる限り真っ向から受け取るのが僕のやり方だけらね。

 息苦しくも愛情に幸せを感じていると、もう一人の自称ペットの家族が出迎えてくれる。

 

「おかえりなさい、誇銅様」

「あ、うん。ただいま」

 

 ま、まあ、家のだからいっか。でも、頻繁に呼ぶようになったら注意しなくちゃね。

 罪千さんが近づくと、ももたろうは僕の顔から肩へと移動し。

 

「ギリギリギリギリ!!」

 

 小さな体のどこからそんな音が出るのかと思うほど大きな声で威嚇する。

 ももたろうは罪千さんの正体に気づいてるのか、はたまた野生の勘で危険だと察してるのか罪千さんに近寄ろうともしない。罪千さんが近づけばたちまち怯えて逃げてしまう。

 そんなももたろうだけど逃げない場面が一つだけある。それは僕の近くに居る時だ。僕の近くに居る時に罪千さんが近づくと罪千さんに対してものすごく威嚇行動をする。僕を守ろうとしてくれてるのかもしれないけど、罪千さんは敵じゃないから大丈夫だよ。

 

「大丈夫だよ、ももたろう。罪千さんは家族の一員なんだから警戒しなくてもいいんだよ」

 

 ももたろうも頭ではそれをわかっているらしく僕がなだめるとすぐに収まる。だけどその癖は一向に治る兆しが見えない。逃走も威嚇も野性的な反射行動なんだろうね。

 

「それじゃぁ、パパッと夕食作っちゃうからね」

 

 今から作ると遅くなるからさっとできるものを作ろう。

 買ってきた食材と冷蔵庫のありものを合わせてサッとできる晩御飯を作る。幸いご飯だけは罪千さんにお願いしておいたから既に炊けている。

 夕飯が出来上がり、みんな揃っていただきます!

 食べ終えた後は、罪千さんも食器を片付けるのを手伝ってくれる。洗い物は諸事情

 しかしここでもドジっ子を発揮し包丁を自分の足の上に落として突き刺したりしている。リヴァイアサンにとってこのくらい痛みにも入らないらしいけど、見ているこっちが痛々しい!

 何やかんや事故が起こったけど、後片付けも無事終了! あとはお風呂を沸かしてのんびりするだけ。

 

「誇銅さん……その……」

 

 ソファーでテレビを見ながらゆっくりしていると、罪千さんが横に座って言いにくそうに言う。だけど何を伝えたいのかはわかる。

 

「……おいで、罪千さん」

「はい♪」

 

 罪千さんは僕の膝に側頭部を乗せ顔を向こう側に向ける。僕の差し出した右手人差し指をしゃぶりながら完全リラックス体勢に入った。時折空いてる手で頭を撫でてあげると嬉しそうな反応を見せる。

 

「アッアッアッアン!」

「わかってるよ、ももたろう」

 

 罪千さんにかまっていると自分もかまってほしいと肩の上で鳴くももたろう。こういう時は近くに罪千さんがいても全く警戒しない。

 両手が塞がってるので頭を動かして肩のももたろうに頬ずりする。ももたろうは喉を鳴らして喜びを表現。

 

「エヘヘ……♪」

「プクプク♪」

 

 二人ともそれぞれのわかりやすい愛情表現で僕に甘えてくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり少し物足りない気がするな。

 藻女さんたちと暮らしていた時には家族の温かな繋がりのようなものを確かに感じていた。罪千さんとの家族関係はももたろうと全く同じ位置にあるように感じている。

 罪千さんが求める関係は、僕が欲しくてやまない家族より一つ下にあるようだ。

 求める愛情の定義なんて人それぞれだし、どのような形であろうと僕にとびっきりの純粋な愛情を向けてくれていることには違いない。少々屈折している部分が見受けられるが、歪んだ禍々しいと言うわけでもない。今は何も言うまい。

 いやいや、ゼロベースで考えてみろ僕! 一度は全て失ってしまった家族の温もり。偽りの中で死に、過去の時代で新たに本物を手に入れた。現代に戻り失ってはいないが手元で感じることができなくなってしまった。そんな所にこれほどの人肌の温もりを与えてくれる存在が僕のもとに来てくれたんだぞ?! ———とんだ贅沢思考だ。

 今はこんな愛情の形でもいいじゃないか。もともとこういうのは時間も大切なんだから、あとは時間が解決してくれるさ。

 

「誇銅さんの味、甘くて温かくて、満たされていきます」

 

 満足げに僕の指をしゃぶり続けている。咥えた指を一本一本丁寧に、基本的に五本全部舐め終わるまで終わらない。どうしても離して欲しい時は唇に触れるのが合図となっている。

 それなのに、中指を舐めてる途中で僕の指を口から離した。まだ薬指と親指に口を付けていないのに。

 罪千さんは仰向けになり僕の方を見て言う。

 

「あの、何か悩んでませんか?」

 

 罪千さんはあらゆる情報を味覚で味わうことができる。髪の毛一本のDNAから情報を全て移しとるリヴァイアサンの固有能力がなせる業だ。

 その能力を使って指を舐められてる間は僕の健康状態や心内状態が全て罪千さんに筒抜けになってしまう。この時に詳しい心の中まではなぜか知ることができないらしい。たぶん、邪神の神器が関係しているんだろう。

 それでも何となく悩んでいると言うのは伝わってしまう。心配そうな目で僕を見る罪千さん。

 

「私でよければご相談にのります」

「大丈夫大丈夫、もう自己完結したから。ちょっと悩んだけど大したことじゃないよ。……でも、せっかくだからちょっと訊きちゃおうかな?」

「はい! 私に答えられることでしたらなんなりと!」

 

 せっかくだからこの前のテロ事件時に残った疑問を少しばかり聞いておこうと思う。

 

「メイデン・アインさんについて知ってる?」

 

 メイデン・アイン。アメリカ人外勢力のFBI、その頭と思える僅か八歳の少女。アザゼル総督の話では慈悲深くも残酷な一面を持ち、アーシアさんを遥かに上回る回復の使い手。

 僕が実際に見たメイデンさんは動物にも好かれるほど優しい雰囲気を纏った少女。それは話をしていく中でも変わらなかった。ちょっぴり狂信的な部分が見受けられたけど、それでもあの笑顔に裏があるようには感じられない。

 百聞は一見に如かず。だけど一見ができないのなら百一閒で補うしかない。

 

「そうですね……私も直接会ったことはないんですけど噂では、メイデン・アインとその信徒たちは元々天使勢力の教会に属していたらしいんですけど、禁忌を犯したとして教会は幼かったメイデン・アインを魔女として追放したと。しかし、教会よりもメイデン・アインを信仰する大勢の人たちがその後について行ったことで一つの独立したと組織となったと聞きました」

 

 うん、この辺りはアザゼル総督が言っていた内容と酷似している。禁忌と言うのはメイデンさんが『悪』と判断した相手を人間であろうと処刑したことだろう。だけどこれは悪魔を癒しただけで追放されたアーシアさんよりは妥当な理由だとは思う。

 しかしそうなると全く同じことをしてきたメイデンさんが許されてアーシアさんが悪魔を癒しただけの理由で追放されたのはどうもおかしく感じる。メイデンさんとアーシアさんではカリスマの差もあるのだろうけど、教会そのものがおかしくも感じる。

 元々三大勢力に属してる時点でかなり不安要素があったから少し水増しされた程度のことだけどね。

 

「それからMrドンと何かしらのいざこざが起きて、結果メイデン・アインたちはアメリカ勢力の傘下に加わることになりました」

「なんか重要そうな部分があやふやなんだけど……」

「すいませ~ん! 私もよく知らないんですぅ! その時には既に外の世界に出られない身で噂程度の情報しか得られなかったんです! それに、宗教と言う他人の妄想を現実だと信じる行為がイマイチ理解できなくて―――全く興味が惹かれません」

 

 なんか最後に罪千さんのものすごくドライな一面を見てしまった……。これも種族的な考え方の差なのかな……? いや、同じ人間でも宗教を悪しきものと見る人はいるし、無神論者も多く存在する。特に人外世界に関わりのない人間は実際多くが神の存在を信じてないだろう。

 本来圧倒的捕食者側の存在である罪千さんがこれを理解できず、興味を持てないのは仕方ないことなのかもしれないね。……あれ? なんだか言ってて自分で自分に違和感を感じるぞ? ……まあいっか。

 

「うーん、真新しい情報は特になかったかな」

「すみませぇーん! お役に立てなくて!」

「あ、気にしなくていいよ! せっかくだから聞いておこうかなと思った程度のことだから!」

 

 今のは意地悪な言い方だったね。罪千さんの性格を考えれば特になかったなんて言えばものすごく気にしちゃうのはわかってたことなのに。

 罪千さんが落ち着くように軽く抱き上げながら頭をなでる。しばらくは叱られたわんちゃんみたいにシュンとなってしまった。あっでもこれはこれで可愛い。……何考えてんだ僕は?

 

「私みたいな役に立たない得体のしれない怪物を引き取っていただいたのに、何のお役に立てなくてすいません。私なんてちょっと不死身に近いだけの役に立たない怪物ですよね? 本来ならとっくに煉獄に送り返されても、いや、煉獄に送り返されるべき存在ですよね。あらゆる生物を見下して嫌われてるリヴァイアサンにも疎まれてる私なんて生きてること自体がおこがましいことです。そんな私が身分不相応にも誇銅さんの厚意にあずかろうなんてとんでもない間違いでした」

 

 シュンとなった姿が可愛いなんて思った矢先にとんでもないネガティブ発言を連発し始めた。最近は日常生活においてもネガティブ発言が減り、私生活では無きに等しかったから治りつつあると思ってたけど、全くそんなことはなかった!

 顔を覗いてみると、罪千さんは無理やり笑顔をつくりながら涙を流していた。僕の失言が此処までのことを引き起こしたと思うとものすごく申し訳なって来る。だけどここでそれを伝えても何の解決もしない。

 その時、僕の心を救ってくれたある人の言葉を思い出した。

 

「……そんなに自分を卑下しないでください」

 

 魔王様主催のパーティでレイヴェルさんにかけてもらった言葉。辛いだけの過去に少しばかり色を付けてくれた言葉を罪千さんに伝えよう。

 

「僕が油断してゾンビに噛まれそうになった時、罪千さんは自分の正体がバレることも(いと)わずに助けてくれたじゃないですか。リヴァイアサンの一面を見せると嫌われることを知っていながらも。それでなお本当の自分を包み隠さず伝えようとする勇気。そんな優しくて強い人に好意を向けてもらえるなんて、僕はとっても幸せ者だと思ってるよ」

 

 うまく伝わるか自信はない。だけど、僕の思いを僕なりに言葉で表した。時々思うよ、言葉って便利だけど不便だと。

 罪千さんの悲壮感漂う笑顔は消え、涙目のままキョトンとした表情で膝の上から見上げている。そんな罪千さんの頬を一撫でしてダメ押しにもう一言!

 

「だからね? そんな悲しいこと言わないでよ。一緒に幸せな気持ちになろうよ!」

 

 罪千さんの頬を伝う涙が僕の手に触れる。リヴァイアサンは確かにとんでもない怪物かもしれない。でもね、自分の心をこんなにも追いつめて涙を流せる罪千さんを怪物とは思えない。

 人間よりも人間らしい弱い心、怪物でありながらそんな心を持ってしまったゆえの辛さなのかもしれない。だけどそんな人間らしい怪物だからこそ、僕は罪千さんを家族として迎え入れたんだろうね。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 涙声でお礼を言う罪千さん。両手を僕の背中に回し顔を僕の胸に押しつけ抱き着いて表情を隠す。服の上から涙の冷たさが伝わってくる。

 顔を上げると、いつもの僕にだけ向けてくれる笑顔に戻っていた。普段はどこか困った感じの笑顔を向けているが、僕だけにはこの純粋な笑顔を向けてくれる。どうやらネガティブ状態から無事脱出できたようだ。

 

「でも、それでは私ばかりが幸せな気持ちにさせてもらってますから」

 

 機嫌を直した罪千さんは急にそうつぶやくと、僕の膝から頭を上げて隣に座り服のボタンをはずし始めた。

 

「え? ちょっと何を……?」

 

 (えり)のボタンを外し終ると今度は服の(すそ)を持ち上げて脱ごうとした!

 

「ちょ、本当に何をする気なの!? 服を脱ごうとしないで!」

「誇銅さんを満足させられるかわかりませんが、この体にはちょっとだけ自信があります! 大勢の男性に無理やり犯された時も体はいいと褒めてもらえました!」

「いや、そんな重い初体験を聞かされても!? だから脱ごうとしなくていいから!!」

 

 少し顔を赤らめながらも服を脱ごうとする罪千さんを必死に止める。説得してもなかなか脱ぐのを止めてくれなかったけど、何とか罪千さんを正気に戻すことに成功。まさか酔った藻女さんに(たわむれ)れでかけられた寝技が役に立つとは……。確かあの時も貞操の危機を感じたな。

 すっかり溢れてしまった風呂の湯を止めて、罪千さんが風呂場に突入してこないかビクビクしながらも無事にベットへたどり着けた。

 さっき罪千さんに添い寝のおねだりをされたけどキッパリ断った。なんだか今日添い寝したらヤられる気がするからね。

 ふぅ、今日はぐっすり眠れそうだ。




 読者の皆様、私の作品を見てくださり、時に感想をいただき誠にありがとうございます。これからも『無害な蠱毒のリスタート』をよろしくお願いします。
 お気に入り500を超えた時に言おうと思ってずっと書き忘れてたことをようやく言えました。せっかくだからUA1万到達時に言おうと思いましたが、おそらくまだまだ到達できないと思いまして今書きました。
 皆様からの感想、いつも楽しく読ませていただいております。

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