一誠たちが辿り着いたのは―――最深部にある神殿だった。その内部に入っていくと、前方に巨大な装置らしきものが姿を現す。
壁に埋め込まれた巨大な円形の装置。その装置のあっちこっちに宝玉が埋め込まれ、怪しげな紋様と文字が刻まれていた。
それが何なのか一誠たちは理解できなかったが、一誠は装置の中央を見て叫んだ。
「アーシアァァァアアアアッ!」
装置の真ん中に、アーシアが磔にされている。外傷もなく、衣類が乱れた様子もないことにとりあえず一安心する一誠。
「……イッセーさん?」
一誠の声を聞いてアーシアがそっちへ顔を向けた。その目元は腫れ上がっている。
その目元の腫れは、アーシアが尋常ではない程涙を流した証。一誠はそれを見て、嫌な結論に至った。
「やっと来たんだね。用意しておいたサプライズに手間取ったのかな? ……ん?」
装置の横からディオドラ・アスタロトが姿を現した。優し気ない目が一誠の怒りをより高める。
リアスたちを見てディオドラは何か違和感を覚え、指をさして一人一人数え始める。———一人足りない。
自分の違和感が何かに気づくと、ディオドラは再び笑みを浮かべる。
一誠は禁手のカウントダウンを始めていた。カウントが終了したら、すぐさまディオドラの顔面に一発入れるために。
「……ディオドラ、おまえ、アーシアに事の顛末を話したのか?」
先ほどフリードが語ったことを絶対にアーシアに聞かせたくはないと思っていた一誠。
だから自分の問いに否定してほしいと思っていたが、ディオドラは一誠の問いににんまりと微笑む。
「うん、全部アーシアに話したよ。ふふふ、キミたちにも見せたかったな。彼女が最高の表情になった瞬間を。全部、僕の手のひらで動いていたと知った時のアーシアの顔は本当に最高だったよ。そうだ、記録映像にも残したんだ。再生しようか? 本当に素敵な顔なんだよ? 教会の女が堕ちる瞬間の表情は、何度見ても堪らないなぁ」
アーシアがすすり泣きを始める。
「でも、足りないと思うんだ。アーシアにはまだキミ達と言う希望が残ってる。特にそこの汚れた赤龍帝。キミがアーシアを救ってしまったせいで、僕の計画は台無しになってしまった。あの堕天使の女―――レイナーレが一度アーシアを殺したあと、僕が登場してレイナーレを殺し、その場で駒を与える予定だったんだ。キミが乱入してもレイナーレには勝てないと思ったんだけど、そうしたらキミは赤龍帝だという。偶然にしてはおそろしい出来事だね。おかげで計画はだいぶ遅れてしまったけど、やっと僕の手元に帰って来た。これで存分にアーシアを楽しめるよ」
「黙れ」
一誠は低い声で怒りを込めて言った。
ディオドラの鬼畜な本性を見て、ディオドラがアーシアに愛を語っていた時のことを思い出す。
ヴァーリが俺の親を殺すと言った時以上に、リアスのバストを半分にすると言った時並みに、一誠の中に怒りが湧き上がってくる!
「アーシアはまだ処女だよね? やっぱり調教するには処女じゃないとだから、赤龍帝のお古はちょっと……。いやまてよ、赤龍帝から寝取るのも楽しみ方の一つかな?」
そして思った。———コイツだけは、絶対にぶん殴らないと気が済まない!
「キミの名前を呼ぶアーシアを無理やり犯すのも―――」
「黙れェェェェェェェェェッ!」
『Welsh Dragon Blance Breaker!!!!』
一誠の中で何かが勢いよく弾け飛んだ!
「ディオドラァァァァァァァァァッ! てめえだけは! 絶対に許さねぇッ!」
膨大な赤いオーラに包まれ、一誠は赤龍帝の禁手である全身鎧を身に纏っていた。
一誠の想いに神器が呼応したのか、二分と経たずに禁手と化した!
「部長、皆、絶対に手を出さないでください」
「イッセー。全員で倒すわ―――と、言いたい所だけど、いまのあなたを止められそうもないわね。———手加減してはだめよ」
リアスは一誠にとって最高の一言を発する。そもそも一誠は手加減するつもりは一切ないのだが。
「ドライグ、聞こえるか?」
『なんだ、相棒』
「今回だけ、好きにやらせてくれ」
『……わかった』
一誠の姿を見て、ディオドラは楽しげに高笑いをしていた。ディオドラには見えているのだ、自らが赤龍帝である一誠を圧倒するシーンが。
ディオドラの全身がドス黒いオーラに包まれていく。
「アハハハハ! すごいね!これが赤龍帝! でも、僕もパワーアップしているんだ! オーフィスからもらった『蛇』でね! キミなんて瞬殺―――」
ゴォォォォオオオオオッ!
一誠は背中の魔力噴出口から火を噴かし、瞬間的なダッシュで間を詰める。
ドゴンッ!
そのままディオドラが言い切る前に一誠は
「……がっ」
ディオドラの体がくの字に曲がり、激痛で表情が歪む。それと同時に内容物と共に口から血を吐き出した。
「瞬殺がどうしたって?」
ディオドラは腹部を押えながら、後ずさりしていく。そこには先ほどまでの余裕のある笑みは消失していた。
「くっ! こんなことで……! 僕は上級悪魔だ! 現魔王ベルゼブブの血筋だぞ!!」
自らの想像していた勝利のヴィジョンは崩れたが未だに自らの勝利を信じて疑わない。
ディオドラは手を前に突き出し、魔力の弾を無数に展開した。
「キミのような下級で下劣で下品で野蛮な転生悪魔ごときに、気高き血が負けるはずがないんだッ!!」
ディオドラの放つ無限に等しい魔力弾の雨が一誠へと向かう。
一誠は避けもせずにその雨の中を一歩一歩踏み出した。弾を手で弾いたり、跳ね返えしたりしながら詰め寄っていく。鎧に被弾しても特にダメージがないため一誠は一切気にせずに前進する。
(ありがとうよ、タンニーンのおっさん。あのしごき、効果があったなんてもんじゃねぇよ。相手は部長よりも強くなっているはずなのに、攻撃が全く怖くない)
自らを鍛えてくれた龍王に対して心の中で礼を言う一誠。
『そうだ、龍王との修行はおまえを相当鍛えこんだ。シトリーとの一戦はその修行成果を生かしきれなかったが、制限無しならば力を出し切れる。鎧の防御力もシトリー戦の頃に比べてだいぶ安定してきた』
ディオドラの眼前まで迫った時、ディオドラは魔力の攻撃を止めて一誠から距離を取ろうとした。
一誠は背中の魔力噴出口を瞬時に噴かして、すぐにディオドラに追いついた。その瞬間、幾重にも防御障壁を創り出す。
「ヴァーリの作った障壁よりも薄そうだな」
バリンッ!
一誠の拳が防御障壁をすべて難なく壊して貫き、ディオドラの顔面に一撃入れた。心の底から憎いと思った相手の顔面に一撃を入れ込み、一誠の気分が一気に晴れる。だが、これで終わらせる気はない。
殴られた勢いでディオドラの体が床に叩きつけられる。ディオドラは顔から血を噴出させて、涙を溢れさせていた。
「……痛い、痛い……。痛いよ! どうして!? 僕の魔力は当たったのに! オーフィスの力で、絶大なまでに引き上げられた筈なのに!」
俺はディオドラの体を引き上げ、オーラの籠った拳を打ち込む! 腹部に一撃!
「ぐわっ! がはっ!」
一誠はさらに顔面に一発。そしてさらに、オーラを右手に集結させて、莫大な量でディオドラに叩き込もうとする!
「こんな腐れドラゴンに僕がぁぁぁぁっ!」
ディオドラは左手を前に突き出し分厚いオーラの壁を出現させる。
一誠の拳がオーラの壁にぶち当たり、勢いを相殺されそうになった。
こんなもの、すぐに突破してやると思った一誠だが、先ほどの防御障壁と違い壊れない。
「アハハハハハッ! ほら見た事か! 僕の方が魔力は上なんだ! ただのパワーバカの赤龍帝が僕に敵うハズはずがないんだ!」
にんまりと笑うディオドラの前で一誠は赤龍帝の力を容赦なく振り込んだ。
「そのパワーバカのパワーを見せてやろうか?」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
背中の魔力噴出口から膨大なオーラが噴出して、拳の勢いが増していく。
ビキッ!
壁に少しだけヒビが生まれる。同時にディオドラの笑みにもヒビが入る。
バリンッ!
そしてついに壁は威力が増大した一誠の拳の一撃に儚い音を立てて消失していった。
「俺んちのアーシアを泣かすんじゃねぇよッ!」
顔色を変えたディオドラに、一誠は真正面から叫びながら拳を繰り出した!
前に突き出していたディオドラの左手を叩き折り、その勢いで顔面に拳が撃ち込まれた。
ディオドラは一誠の一撃で柱まで吹っ飛び、背中から激突する。
床に落ちたディオドラはおろおろと地を這いずりながら叫んだ。
「嘘だ! やられるはずがない! アガレスにも勝った! バアルにもシトリーにも勝つ予定だ! 才能のない大王家の跡取りなんかに負けるはずがない! コソコソとした戦いしかできないシトリー負けるはずがない! 情愛が深いグレモリーなんか僕の相手になるはずがない! 僕はアスタロト家のディオドラなんだぞ!」
ディオドラが手を上へ突き上げると、一誠の周囲に魔力で創り出した鋭い円錐状のものを幾重にも出現させ、ミサイルのように射出する。
全部は躱しきれない一誠は、いくつかのトゲトゲを拳や蹴りで弾き飛ばす。だが、切っ先がうねり始め、トゲトゲは意思を持ったかのように一誠に纏わりつく。
鎧の隙間を探すようにぬって、一番装甲が薄い部分を破壊して一誠の体を貫いてきた。
単純な力押しでは敵わないと思ったディオドラは、魔力を集中させて鎧に小さな穴を開けたのだ。
この方法が通じるのを確認すると、もう一度同じ攻撃をしようとするディオドラ。だが、そううまくはいかなかった。一誠は自らを射抜いたトゲトゲを両手で全部まとめて体から引き、背中のブーストを噴かして瞬時に詰め寄り、蹴りを放った。
その攻撃は鈍い音が神殿にこだまし、ディオドラの右
「ちくしょぉぉおおおおおおおおっ!」
苦痛に顔をゆがませるディオドラは、一誠へ手を向けて魔力を急激に集める。一誠も負けじとディオドラに手を突き付け、ドラゴンのオーラを集めていく!
ドシュゥゥゥウウウウウウウウッ!
一誠の右手から赤い閃光が走り、ディオドラの手からも極大な魔力弾が撃ちだされる。
お互いの一撃が宙でぶつかり合い、せめぎ合うが。
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
神器から増加された力が流れ込み、一誠のドラゴンショットのパワーを底上げしていく。
地力はディオドラの方が上でも、一誠には力を倍加する神滅具がある。単純で感情の起伏が激しい一誠に、想いや感情で力が増減する神器を持たせればどうなるか。
ドンッ!
一誠のドラゴンショットがディオドラの魔力を吹っ飛ばし、ディオドラのすぐ横をかすめた。
ディオドラの横を通り過ぎたドラゴンのオーラが神殿の一部を大きく抉り、壁を突き抜けて、そとにまで達した。
それでもなけなしのプライドからかディオドラはもう一度魔力を練りこもうとするが、一誠は勢いよく拳を床にたたきつけた。すると神殿そのものが大きく揺れる。
ディオドラは床にできた巨大なクレーターを見て、目元をひくつかせていた。この一撃で残った最後のプライドも崩れ去る。
ガチガチと歯を鳴らし震えあがるディオドラ。そこへ一誠は歩み寄り、もう一度ディオドラを引き上げる。
一誠は鎧のマスク部分を収納し、素の状態で全身から赤いオーラを発しながらにらみつけた。
「二度とアーシアに近づくなッ! 次に俺たちのもとに姿を現したら、その時は本当に消し飛ばしてやるッ!」
『相棒。そいつの心はもう終わった。そいつの瞳にはドラゴンに恐怖を刻み込まれた者のそれだ』
ディオドラの瞳は、怯えの色に染まっていた。
一誠ははディオドラを手放したが、ディオドラはガチガチと震えるだけ。
「イッセー、トドメを刺さないのか?」
と、ゼノヴィアがアスカロンの切っ先をディオドラに突き立てて訊いてくる。
その瞳は殺意により凶悪なほど冷たいものになっていた。
「アーシアにまた近づくかもしれない。今この場で首を刎ねた方が今後の為じゃないのか?」
ディオドラを殴って幾分スッキリした一誠と違い、ゼノヴィアの鬱憤はあまり晴れていない。エクソシスト時代にも一誠なんかよりもたくさんの悪魔の命を奪ってきたゼノヴィア。一誠か、リアスが応じればすぐさまにディオドラの首を刎ね飛ばすつもりだ。
しかし、一誠は首を横に振る。
「……こいつも一応魔王の血筋だ。いくらテロに荷担したからといって、殺したら部長や部長のお兄さんに迷惑をかけるかもしれない。もう十分殴り飛ばしたさ」
リアスも一誠の言葉に眉をしかめ瞑目していた。リアス自身も激怒していたが、ディオドラの処分は上に任せると決めていた。
ゼノヴィアは心底悔しそうにしていたが、アスカロンを勢い良くぶっ刺す。
「……わかったよ。イッセーが言うなら私は止める。———だが」
「ああ、そうだ」
一誠とゼノヴィアは拳と剣、それぞれをディオドラに向けて。
「「もう、アーシアに言い寄るなッ!」」
一誠とゼノヴィアの言葉にディオドラは瞳を恐怖で潤ませながら何度もうなずく。プライドをずたずたにされたディオドラにはもううなずくこと以外はできない。
二人はディオドラを解放すると、アーシアのほうへ足を向ける。
「アーシア!」
装置のあるところへリアスたちが集合していく。
「イッセーさん!」
「助けに来たぞ、アーシア。ハハハ、約束したもんな。必ず守るって」
ディオドラが完全敗北を認め、すべてが終わったことに安堵アーシアはうれし泣きをした。アーシアも救い、あとは神殿地下に逃げ込んでアザゼル総督たちがことを収めるまで待機するだけ。
アーシアを装置から外そうと木場たちが手探りに作業をし始めた。———だが、少しして木場の顔色が変わった。
「……手足の枷が外れない」
木場の言葉に驚きつつも、一誠もアーシアと装置を繋ぐ枷を取ろうとしするが。
「クソ! 外れねえ!」
「無駄だよ。その装置は機能の関係で一度しか使えないが、逆に一度使わないと停止できないようになっている。———アーシアの能力が発動しない限り、停止しない」
「どういうことだ?」
「その装置は神滅具所有者が作り出した固有結界のひとつ。このフィールドを強固に包む結界もその者が作り出しているんだ。最強の結界系神器、『
それを聞いた木場はディアドラに問いただす。
「発動の条件と、この結界の能力は?」
「……発動の条件は僕か他の関係者の起動の合図、もしくは僕が倒されたら。結界の能力は―――枷に繋いだ者、つまりアーシアの神器能力を増幅させて反転させる事」
「効果の範囲は!?」
「このフィールドと、観戦室にいる者たちだよ」
全員、その答えに驚愕する。リアスたちはアーシアの神器の回復能力の強さを思い出す。
悪魔や堕天使さえも治す力。それが増幅されてから反転されたら、それも効果範囲がこのバトルフィールドと観戦室だとするなら。
「各勢力のトップ陣が根こそぎやられるかもしれない……ッ!」
衝撃の事実に一誠たちは青ざめた。そんなことになったら、人間界も天界も冥界も大変なことになると。
一誠は同じ神滅具のドライグに何か手段はないかと問いかけるが。
『いや、「
なんでよりにもよって『
「クソッ! なんてことだ! ……どうすれば……」
「イッセーさん、私ごと―――」
「馬鹿なこと言うんじゃねぇッ! 次にそんなこと言ったら怒るからな! アーシアでも許さない!」
一誠はアーシアの肩を抱き真正面から言う。
「俺は……俺はッ! 二度とアーシアに悲しい思いをさせないって誓ったんだ! だから、絶対にそんなことはさせやしない! 俺が守る! ああ、守るさ! 俺がアーシアを絶対に守ってやる!」
「イッセーさん……」
自分の不甲斐なさに一誠自身も涙を流す。一誠は本気でアーシアを助けようと思っている。が、打つ手は今のところない。
アーシアも感極まって涙を溢れさせる。一誠は笑みを浮かべてアーシアに言う。
「だから一緒に帰ろう。家でお父さんとお母さんが待っている。俺たちの家に帰るんだ!」
ギュゥゥウウウウウウン。
そうしてる間に、静かに装置が動き出した。
一誠たちは装置に向けて再度魔力の弾やドラゴンの波動を思いっきりぶつけてみるが、びくともしない。
装置の頑丈さに悪戦苦闘していると、一誠はあることに閃いた。アーシアにぴったりくっついてるんなら、あれが効くかもしれないと。
「ドライグ、俺はおまえを信じるぞ」
『どういうことだ、相棒』
「アーシア、先に謝っておく」
「え?」
一誠の言葉に首をかわいく傾げるアーシア。これから自分が女性として辱めを受けることなど知らずに。
「高まれ俺の性欲! 俺の煩悩!
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
鎧の各宝玉が赤く輝き、枷に触れている一誠の手に流れ込んでいく。
一誠が思い描くイメージはアーシアの全裸姿。
一誠は以前見たアーシアの裸体を鮮明に覚えていた。それを思い返し、鼻血を噴き出しながら強くイメージしていく。
バギンッ! バババッ!
金属が儚く壊れる音と、衣類が弾け飛ぶ。
アーシアの四肢を捕らえていた枷は木っ端みじんに吹き飛び、同時にアーシアのシスター服も消し飛んだ。
「いやっ!」
アーシアは瞬間的にその場で屈んだ。
一誠はアーシアちゃんの全裸を見て、鼻血を垂れ流す。その表情はとても卑猥なものになっている。
アーシアが装置から解き放たれたためか、装置の動きが止まった。
「あらあら大変」
朱乃はすぐさま魔力でアーシアに服を着させる。
「よくドレス・ブレイクで壊せると思ったわね? あれって、女性の身につけているものならなんでもいいの?」
「よ、よくわからないんですけど、枷は手首に密着状態でしたし、身につけているものの一部としての要領でいけるかなーって。全裸のアーシアを脳内で思い出して、その状態にしたいって真剣に妄想しました。たぶん、普通にやったら無理です。禁手状態とブーストバージョンで高めたから成功したんだと思います」
リアスに訊かれた一誠は、下手なりにも自分の予想を説明する。
説明を聞いたリアスも首をひねって考えている。
アーシアを無事奪還し、ディオドラも意気消沈、仲間も全員無事。一誠は自分の妄想が仲間を救ったことに誇らしさを感じている。———本当は一名いないことに気づきもしていないが。
「イッセーさん!」
「アーシア!」
新しいシスター服に身を包んだアーシアが一誠に抱き着く。一誠は鎧越しなのが悲しいと思いながらも、アーシアが戻ったことを喜ぶ。
「信じてました……。イッセーさんが来てくれるって」
「当然だろう。でも、ゴメンな。辛いこと聞いてしまったんだろう?」
「平気です。あのときはショックでしたが、私にはイッセーさんがいますから」
ゼノヴィアも目元を潤ませる。
「アーシア! 良かった! 私はおまえがいなくなってしまったら……」
「どこにも行きません。イッセーさんとゼノヴィアさんが私のことを守ってくれますから」
「うん! 私はおまえを守るぞ! 絶対にだ!」
抱き合う親友同士。アーシアとゼノヴィアの友情は美しいなぁと思う一誠。それを見て自分も同性の誰かと抱き合う想像をしてみる。
(俺は木場と……は、絶対に抱き合いたくないね。抱き合うとすれば……誇銅辺りが妥当かな)
「部長さん、皆さん、ありがとうございました。私のために……」
アーシアが一礼すると、皆も笑顔でそれに答えていた。
リアスがアーシアを抱き、優し気な笑顔で言う。
「アーシア、そろそろ私のことを家で部長と呼ぶのは止めてもいいのよ? 私を姉と思ってくれていいのだから」
「———っ。はい! リアスお姉さま!」
リアスとアーシアが抱き合う姿を見て、一誠は感動を覚える。
これでやっと帰れると一安心する一誠。それでももしものことを考えて鎧は地下に隠れるまで解かないことにした。
「さて、アーシア。帰ろうぜ」
「はい!」
笑顔で一誠のもとへ走り寄るアーシア。が、その時———。
カッ!
突如、眩い何かが一誠たちを襲う。
視線を送るとアーシアが、光の柱に包まれていた。
光の柱が消え去った時―――。
「……アーシア?」
そこには誰もいなかった。
◆◇◆◇◆◇
リアスたちは目の前で起こった事が、一瞬何が起こったか理解できなかった。
いや、今でも理解しきれていない。
ディオドラを倒し神滅具の装置も止め、アーシアの救出を完了させ後は安全な所へ退避するだけ。それなのに、アーシアは眩い光の中に姿を消してしまった。
目の前で起こった事にリアスたちの理解は及ばない。
「霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」
聞き覚えのない声にリアスたちは声のした方へ視線を送る。そこには
その男性から発するオーラにリアスたちは警戒する。
「……誰?」
「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正統なる後継者だ。先ほどの偽りの血族とは格が違う。———ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのになんてザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの蛇を使い、計画を敵に予見させた。貴公はあまりに愚行が過ぎる」
リアスが男性に誰と訊ねると、男性は自身が旧魔王の血筋であると名乗った。
アザゼル総督が言っていた今回の首謀者の登場。リアスたちは苦い顔をせずにはいられない。
ディオドラはシャルバに懇願するような表情となる。
「シャルバ! 助けておくれ! キミと一緒なら、赤龍帝を殺せる! 旧魔王と現魔王が力を合わせれば――—」
ビッ!
シャルバが手から放射した光の一撃が、ディオドラの胸を容赦なく貫いた。
「哀れな。あの娘の神器の力まで教えてやったのに、この体たらく。たかが知れているものよ」
嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバは言う。ディオドラは地面に倒れることなく、塵と化して霧散していった。
木場はシャルバの腕に取り付けられた見慣れない機器に気づく。———それが悪魔が光の力を使えたことと関係あると推測する。
「さて、サーゼクスの妹君。いきなりだが、貴公には死んでいただく。理由は当然、現魔王の血筋を全て滅ぼすため」
シャルバは憎悪の瞳を向けながらも、冷淡な声で言う。それほどまでに現魔王に自らの尊厳を奪われたことを恨んでいるのだ。その屈辱と憎悪が根深く遺恨を残し、現在の争いの原因となっている。
「グラシャボラス、アスタロトに続いてグレモリーを殺すというのね」
「その通りだ。貴公らが不愉快極まりないのでね。私たち真の血統が、貴公ら偽りの魔王の血族に『旧』などと言われるのが耐えられないのだよ」
リアスの問いかけにシャルバは嘆息した。
「今回の作戦はこれで終了。遺憾だが私たちの負けだ。まさか、神滅具の中でも中堅クラスのブーステッド・ギアが上位クラスのディメンション・ロストに勝つとは。想定外としか言えない。まあ、今回は今後のテロの実験ケースとして有意義な成果が得られたと思っておこう。クルゼレイが死んだが問題ない。———私がいればヴァーリがいなくても十分に我々は動ける。真のベルゼブブは偉大なのだからな。さて、去り際の次いでだ。サーゼクスの妹よ、死んでくれたまえ」
「直接現魔王に決闘も申し込まずにその血族から殺すだなんて卑劣だわ!」
「それでいい。まずは現魔王の家族から殺す。我らが受けた屈辱と同じ絶望を与えなければ意味がない」
「外道っ! 何よりもアーシアを殺した罪! 絶対に許さないわッ!」
激昂したリアスは、紅いオーラを最大限まで全身から
「アーシア? アーシア?」
一誠はふらふらと歩きながらアーシアの名を呼ぶ。
「アーシア? どこに行ったんだよ? ほら、帰るぞ? 家に帰るんだ。父さんも母さんも待ってる。ほ、ほら、隠れてないで。ハハハ、アーシアはお茶目さんだなぁ……」
どこにもいないアーシアを探すため辺りを見渡しながら、おぼつかない足取りで探す。その姿は見ていて痛々しいものだった。
その光景に小猫は
「部長、アーシアがいないんです。やっと帰れるのに。……と、父さんと母さんがアーシアを娘だって。アーシアも俺の父さんと母さんを本当の親のようにって。俺の、俺たちの大切な家族なんですよ……」
一誠はうつろな表情でつぶやき、そんな一誠の頬をリアスは何度も撫でる。
しかし、現時点ではギャスパー以外は気づいていない。この場にはもう一人、アーシア以外に欠けている人物がいることに。その人物が帰ってくることを一番心配するギャスパー。
「……許さない。許さないッ! 斬るッ! 斬り殺してやるっ!」
ゼノヴィアは叫びながらデュランダルとアスカロンでシャルバに斬りかかるが。
「無駄だ」
シャルバは聖剣の二刀を防御障壁で弾き飛ばし、カウンターでゼノヴィアの腹部へ魔力の弾を撃ちこんだ。
地に落ちるゼノヴィア。聖剣も放り投げられ床に突き刺さる。
アーシアが消え、一誠も使い物にならない。主力と回復役を失い大幅に戦力ダウンし、精神も不安定になったリアスたちでは勝ち目は薄い。
「……アーシアを返せ……。……私の……友達なんだ……っ! ……やさしい友達なんだ……。誰よりも優しかったんだ……ッ! どうして……ッ!」
ゼノヴィアは床に叩きつけられても手元から離れた聖剣を求め、握ろうとする。
シャルバは一誠に向かって言う。
「下劣な転生悪魔と汚物同然のドラゴン。グレモリーの姫君は趣味が悪い。あの娘は次元の彼方に消えていった。既にその身も消失しているだろう。死んだのだよ」
一誠の視線が宙に浮かぶシャルバを捉えた。
そのままじっと見つめ続ける姿に、木場は異様なものを感じる。が、それが何なのかわからない。
『リアス・グレモリー、今すぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去したほうがいい』
一誠の神器の宝玉からドライグが言う。普段は一誠にしか聞こえない声を、他の人にも聞こえるように発言している。
その言葉にリアスたちは怪訝な表情をしている。
『そこの悪魔よ。シャルバと言ったな?』
一誠はリアスを振り払い立ち上がり、魂が抜けたようにおぼつかない足取りでシャルバの方へ向かう。
そして、シャルバの真下に来た時、ドライグの声音が一誠の口元から発せられる。心身が凍り付いたかのような、無感情の一言。
『おまえは―――選択を間違えた』
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!
神殿が大きく揺れ、一誠は血のような赤いオーラを爆発的に肥大化していく。そのオーラは次第に高まり、大きくなり、神殿内全域を赤い輝きで照らす。
木場は一誠のオーラの質を感じ、それを危険だと判断した。
一誠の口から
『我、目覚めるは』
〈始まったよ〉〈始まってしまうのね〉
『覇の
〈いつだって、そうでした〉〈そうじゃな、いつだってそうだった〉
『無限を
〈世界が求めるのは〉〈世界が否定するのは〉
『我、赤き龍の覇王と成りて』
〈いつだって力でした〉〈いつだって愛だった〉
《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだなっ!》
一誠の鎧が変質していく。鋭角なフォルムが増していき、巨大な翼がはえていく。両手の爪のようなものも伸び、兜からは角のようなものがいくつも形つくられる。
その姿は、まるでドラゴン。
全身の宝玉の各部位から絶叫に近い老若男女が入り乱れて発声される。
「「「「「
『Juggernaut Draive!!!』
ゴオオオオオオオオオオオオオッ
一誠の周囲がはじけ飛ぶ。床も壁も柱も天井も、すべて一誠の放つ赤いオーラによって破壊されていく。
「ぐぎゅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! アーシアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」
まるで獣のような声を発する一誠。その場で四つん這いになり、翼を羽ばたかせる。
ピュッ!
「ぬううううううっ!」
空を切る音と共にシャルバが悲鳴を上げた。そこには小型のドラゴンのような姿の一誠が、木場にも見切れぬ速さでシャルバの肩に食らいつく。
ぶちぶちと一誠はシャルバの肉を引きちぎる。
「おのれ!」
シャルバは右腕で光を作りだし一誠に放とうとするが、宝玉の一つから赤い鱗に覆われた右腕が出現し、シャルバの右腕を止め、宝玉のもう一つから刃が生まれ、シャルバの右腕を切断する。
肩に食らいついていた一誠は、ぶちんっ、と気味の悪い音を立てて肉を食いちぎり床へ降下していく。
着地した一誠は、食いちぎった肉を床に吐き出した。
「げごぎゅがぁぁ、ぎゅはごはぁッ! ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
既に人の言葉を発することができなくなった一誠。全身に点在する宝玉から龍の腕と刃が生えていき、次第に人の姿すら離れた異形に変わっていった。
「調子に乗るな!」
激昂したシャルバが残った左腕で光の一撃を放つ。
しかし、赤龍帝の翼がまるで白龍皇のように輝くと。
「DividDividDividDividDivid!!」
その音声が鳴り響き、光の波動が留まることなく半減していき、最終的にシャルバの攻撃はペンライト程の弱々しい光へと化した。
「ヴァーリの力か! おのれ! どこまでもおまえは私の前に立ちふさがるというのだなッ!ヴァーリィィィィィィッ!」
吠えるシャルバは次に大きな魔力の波動を放つ。絶大なオーラが一誠に襲い掛かるが―――一誠はそれを翼の羽ばたきだけで軌道をずらして弾いてしまう。
赤龍帝の兜に生まれた口が大きく開く。口内の奥にあるレーザーの発射口のようなものを覗かる。
ピィィィィッ!
マスクから生み出された赤いレーザーがシャルバ目掛けて一直線に伸び、シャルバの左腕を吹き飛ばす。
レーザーの威力はそれだけでは留まらず、神殿の床、壁、天井を一直線に貫いた。その刹那―――。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
放たれた場所から爆発が巻き起こった。
「こ、これが『
シャルバの顔が一誠への恐怖に包まれる。
恐怖しているのはシャルバだけではない。リアスたちもまた、今の一誠を恐れるように見ている。
一誠は両翼を大きく横に広げ、顔をシャルバにまっすぐ向けた。
鎧の胸元と腹部が開き、発射口が姿を現す。
ドゥゥゥゥゥ……。
赤いオーラがその発射口に集まっていく。
そのオーラは大きくなり、不気味な赤い光が回り一体に広がる。
危険を感じたシャルバは残った足で転移用魔方陣を描こうとするが、その足が動きを停める。ギャスパーの神器と同じ力を発動した一誠に停められたのだ。
「くっ! 停めたのか! 私の足を!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
『Longinus Smasher!!!!!!』
神殿内に幾重にも鳴り響く、赤龍帝の神器が発動する音声。
チャージされた発射口から膨大な赤いオーラが照射されていく。
それを見て自分たちも巻き込まれかねないと感じた木場はリアスに進言する。
「部長、一時退却しましょう! この神殿から出るべきです!」
「イッセー……私は……」
リアスは抜け殻のように一誠を求めようと歩み寄ろうとするが、木場がそれを阻止し強引に抱きかかえる。
朱乃がゼノヴィアに肩を貸し、小猫とギャスパーも木場の後に続く。その時、ギャスパーは何度も一誠ではない方を振り返った。
「バ、バカな……ッ! 真なる魔王の血筋である私が! ベルゼブブはルシファーよりも偉大なのだ! おのれ! ドラゴンごときが! 赤い龍め! 白い龍めぇぇぇぇっ!」
放射された赤い閃光にシャルバは包まれ、神殿と共に光の中へと消え去った。
◆◇◆◇◆◇
「っ……」
リアスたちが神殿を出た後、木場は聖魔剣を幾重にも作りだし、聖魔剣のシェルターを作りだしその中にリアスたちを避難させた。
神殿が崩壊する音が消えたのを確認すると、剣を解放させ外の様子を伺う。
神殿は完全に崩れ去り、それでも神滅具で作られた装置だけは何とか残っていた。
「おおおおおおおおおおおおおん……」
一誠は瓦礫と化した神殿の上に立ち、天に向かって哀しみの咆哮をしている。
戦いが終わった後も一誠の鎧が解除される様子がない。
どうすればいいかわからないリアスたちは、ただ一誠の咆哮を見ているしかできなかった。
その時、そんな彼らを救うが如く天から巨大な白いロボットが舞い降りてきた。
「な、なんだこれは……! す、すごい光の波動だ!」
リアスたちはまず、降りて来たロボットが発する聖なるオーラに苦しむ。ゼノヴィアがディオドラの
巨大なロボットは地面に降り立つと、光の粒子となって消えてしまった。その代わり、その場には一人の男性と拷問器具―――マルコ・ホッチナーとメイデン・アインが立っていた。
「あなたは……」
「一つ訊きたいのだがディオドラは……この様子では生きてはいないか」
神殿を見て事態を察したマルコは質問を途中で止めた。神殿だった瓦礫の山に、この場にディオドラの姿がないことから既に死んだと推測する。
リアスはマルコの登場に驚いたが、少しばかりマルコたちに期待を寄せる。人間が来たところで役には立たないだろうと思いながらも、先ほどの巨大ロボットを操れるのならもしかしたらと。
「ならばもうここには用はない。———覇龍化か、それも不完全。
マルコは一誠をチラッと見て呟く。
リアスはマルコに訊く。
「……この状態、元に戻るの?」
「不完全な状態だから可能性はある。あくまで可能性の話だがな。元に戻れなければ自らの命を削り死に至る。彼を生かしたいのなら早急に何かしらの対処をする必要があるな」
マルコの説明で一誠がどれだけ危険な状態かを理解したリアス。
リアスたちが一誠の状態を危惧していると、再び上空から大きな聖なるオーラを感じ取った。上を見ると、マルコたちが乗って来たロボットより三分の一程小さい似たロボットがリアスたちの所へ舞い降りて来ていた。
今度は一体何なのかとリアスたちが思っていると、ロボットの右手がリアスたちのもとへと下ろされロボットは光の粒子となって消える。———そこには、フリードとフリードの腕に抱きかかえられたアーシアの姿が。
「ほら、おまえの眷属だろ、リアス・グレモリーよ」
「アーシア!」
「アーシアちゃん!」
リアス眷属たちがアーシアのもとに集まる。意識はないようだが外傷もない。一見気絶してるだけのように見えるが。
「死んでる……」
―――息はしていない。
確認した木場の一言で全員、悲しみの涙が溢れだした。シャルバに次元の狭間に飛ばされた時には一度アーシアの死を認識したが、いざ遺体を見せつけられると今一度悲しみが湧き上がる。
「次元の狭間を調べてたら偶然飛んできてな。見つけた時はまだ確かに生きてたけど……なんか途中で……」
「天使の力を間近に受けて仮死状態になってるだけです。彼女の魂は彼女の中にきちんと存在しています。一種のショック状態のようなものですから、しばらく天使の力から離せば自然と目を覚ますでしょう」
メイデンの言葉に全員が涙を止めて顔を上げた。アイアンメイデンから幼そうな少女の声が聞こえた事にも驚きだが、それ以上にアーシアが生きてると言ったことに皆反応を示す。
「本当か!」
「メイデン様が生きていると言うんだ、間違いなく生きている。悪魔を名乗る者にとって我々の力は耐えがたいものだからな。例え魔王を名乗る者でも運が悪ければ肉体ごと消滅もありえた話だ、生きてて幸運だったな」
勢いよく質問するゼノヴィアにマルコが答える。
「うわぁぁぁぁぁあんっ!」
ゼノヴィアはアーシアの無事を確認すると、安堵で再び泣きじゃくった。木場はゼノヴィアのもとにアーシアを降ろす。ゼノヴィアはアーシアを大事そうに抱きかかえ、笑顔で涙を流す。
一方でフリードも自分がトドメを刺したのではないと知ると、額から湧き出た汗を拭い安堵のため息を漏らす。
「まさか今一度君に会えるとは。うれしい限りだ、フリード」
「お久しぶりです、マルコさん、メイデン様」
「フリード、よくぞ戻って来てくれました。無事……とはいきませんでしたが」
「まあ……はい」
マルコとメイデンに礼儀正しく挨拶をするフリード。その姿は今までのフリードには似つかわしくないキッチリとしたもの。深々と頭を下げ、二人に敬意を表している。
「あとはイッセーだけれど」
リアスが一誠に視線を送る。そこには未だにアーシアを失って暴走状態の一誠が咆哮を上げ続けている。
「アーシアの無事を伝えればあの状態を解除できるかしら」
「おそらく無理だろうな。こちらの話を理解できる理性が残ってるとは思えん、殺されるのがオチだ。ま、それでも可能性にかけるのなら止めはしないが」
リアスの案をマルコが否定する。
そんなマルコに朱乃と小猫が詰め寄る。
「頼める間柄ではないけれど、それでもお願い。彼を助けるのに手を貸して」
「……お願いです。私たちも全力を尽くしますから、あの人を救うために力を……」
「悪いが、我々は三大勢力のもめ事に介入するつもりは一切ない。彼の命が尽きる前に彼が戻ることを、キミ達が神と崇める者に祈るといい」
朱乃と小猫の願いをバッサリ切り捨てて背を向けるマルコだが。
「お待ちなさいマルコ。彼らは我々に助けを求めています、人助けも大切な我々の正義ですよ」
「……なんと慈悲深きお言葉。このマルコ、今のお言葉を全世界の人々に伝えたい気持ちでございます」
メイデンの言葉であっさりと前言撤回、リアスたちに力を貸す姿勢を見せる。
「そうだな、彼は今自らの神器に飲み込まれ暴走している。何か彼の深層心理を大きく揺さぶる現象が起これば手っ取り早いのだが、そんなものはこの場にない」
木場は一誠に最も効果的であろうものが頭に浮かんでいたが、それを口には出せなかった。なぜなら、この緊張感漂うこの場にはあまりにも似つかわしくないから。
「ならば、彼を殺さぬギリギリのラインまで弱らせるしかない、それも命が尽きぬよう短時間で。神器に覆われた彼が弱れば、神器がダメージを受け彼への影響力も弱る。その後は彼の気力次第だ」
「でも、今の一誠くんを短時間で弱らせるなんて。一体どうすれば……」
「私がやる」
マルコは懐から十字架が刻まれた拳銃を取り出し自信満々に言う。その横でフリードも同く十字架が刻まれた拳銃を取り出して言う。
「マルコさん、ここは俺が」
「君では加減が難しいだろう。フリードは此処に向かってる奴の対処を頼む」
「はっ」
マルコは銃口を一誠に向け、フリードは天へ銃口を向ける。そして―――。
「ミカエル」
「ガギエル」
天使の名を口にし引き金を引くと、光の粒子となった巨大ロボットが銃口の先に姿を現した。
安心してください、誇銅くんは無事ですよ。