無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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怠惰な日本の女神

「チェックメイトだよ」

 

 禍の団による襲撃を受けた僕たちは全員で禍の団撃退に乗り出した。

 そして不意打ちを受けた僕たちは先に動き出していたリアスさんたちに援護を頼み為に僕がこの場で敵の足止めを志願。

 そうして僕は何とか敵を追いつめることに成功した。

 

「クソが~……」

 

 大量のゴーレムで僕たちを殺しに来た男はすごい怒りの形相で僕をにらみつける。

 そのゴーレムは小猫さんの力でも、朱乃さんの雷光でも歯が立たなかったけど、僕の神器『破滅の蠱毒(バグズ・ラック)』の微量で遅行性でとても弱いが確実に破壊する能力の前に崩れ去った。

 

「よくも邪魔してくれたな雑魚が!

 これで俺は富と名声だけじゃなく、居場所も失った! お前だけは絶対殺す!!」

 

 するとその人は体中に大量の何か、おそらく見た目から時限爆弾だと思う。

 そして僕を羽交い絞めにしてみちづれ自殺をしようとした。

 

「! は、離せッ!!」

 

 僕は必死に抜け出そうと、戦車(ルーク)の力を使って抜け出そうとしたけど相手も魔力で力を底上げしてるみたいでそう簡単に抜け出せ等もない。

 死を覚悟した人間の力はとてつもない。

 だけど僕には新しい希望が見えた。なんと遠くからリアス部長の姿が。

 

「部長! ここです! 助けてください!」

「もう遅い! もうすぐ時間切れだ!」

『10・9・8』

「『破壊の蟲毒(バグズ・ラック)』」

 

 血眼になって僕をさらに強く抱きしめ、時限爆弾からもカウントダウンの機械音が鳴る。

 だけど僕はとっさに神器の力を使って精密機械を狂わせる。

 

『 7・7・7・7』

 

 カウントの進みが止まった。

 

「大丈夫です! 爆弾の時間は十分稼げました!」

「クソが~~~~~~!!」

「残念だったね。僕には受け入れてくれる仲間がいるんだよ! …………あれ?」

 

 僕は自身の生還を確信してリアス部長の方を見たけどそこには誰もいない。

 あ、あれ? リアス部長? どこですか?

 

「ハハハハハ!

 見捨てられたな、死ね!」

 

 そ、そんな、うそ……。

 なんで……なんで助けに来てくれないんですか?

 もしかしたらどこかで敵に邪魔されたのかもしれない。そんな自分に都合のいい考えもしたが、憎きも死を目の前にして悪魔になったことでさらに上がった視力が去っていくリアス部長の後ろ姿を捕らえてしまった。

 

「ハハハ、今度こそ時間切れだ。死ね」

 

 死を覚悟した瞬間、絶望と悲しみで刹那の時間がうんと長く感じこれまでの思い出、新しい思い出は偽物だったけどその前の思い出は正真正銘本物。

 自然と涙が零れ落ちる。

 だが、一時が永久に感じるほどの時間で僕は思った。なぜ僕は死ななくちゃいけない。

 両親が死んでから僕には本当に幸せだと思う時間は皆無だった。両親の願いだった幸せになるもかなえられぬままなぜ死を覚悟しなくちゃいけない。

 

「なんで」

「ハア?」

「なんで僕がここで死ななくちゃならないんだッ!!」

「うおッ!?」

 

 そう思った僕は自然と男にかけられている力が良く理解できた。そして多分合気、やったこともない合気道の要領で投げ飛ばしこの拘束から抜け出した。

 そして必死に男から離れる。

 

「今更逃げたとこで逃げきれねえよッ。爆ぜなッ!」

 

 男の言うとおり既にカウント5をきった残り時間では安全な所まで逃げきれない。

 そのうえあの男は僕に追いつけなくとも追ってきている。

 僕は爆発に巻き込まれた。

 だが、その瞬間僕はさっきまでなかったはずの不自然で大きな丸い穴に落ちた。

 

 

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 大きな爆発に巻き込まれ意識を失った僕が目を覚ました場所は明らかにあの場所ではなかった。

 高い高い山の中腹あたりだろう。

 そんなところになぜ僕は倒れているのだろう?

 

「なぜ僕はこんなところに? 可能性があるとすればあの大穴。まさか不思議の国のアリスみたいに不思議な国に迷い込んだとか?」

 

 僕は昔好きでよく読んでもらった絵本の一つを思い出す。

 そのうちの一つ『不思議の国のアリス』を思い出した。

 僕がここに来る前に覚えている大きな穴はまさしく主人公のアリスが不思議な国に迷い込んだ穴のように思えた。

 

「いや、それはない。でもだとすると、ここはどこ?」

 

 一つの妄想を否定した僕はとりあえず景色が良く見えそうなところまで登ってみることに。ここからじゃ見えるのは木と岩ばかり。

 そしてそれなりに高い所に辿り着いた僕は高い所から周りを見回したが周りには大きな自然があるだけで人の気配はない。

 

「う~ん、一体ここはどこなの? それに人の姿もないし……んッ!!?」

 

 はるか遠く、悪魔になり極限状態に追い込まれたことでなぜか強化された視力が黄金に光る何かを見つけた。

 

「なんだろうあれは。周りには何か木造っぽい建造物と白い何かが動き回って……」

 

 よく目を凝らしてみると黄金に光っていたものは稲。周りの建物よりは大きく見えた家はどうやら家ではない。

 だけどあの形、どこかで見たことがある。

 

「確か……高床式倉庫?」

 

 そう、社会の時間に教科書の写真で見た高床式倉庫にそっくり。

 そんな事を思い出してみるとさらに白い何かと思われたのは人間、その人間の服装も、村全体の雰囲気もある時代に合致している。

 

「もしかしてここ、弥生時代?」

 

 そう考えると今見たものに納得がいく。

 だが自分が弥生時代にいることは納得できない。そもそもあの場所に野ざらしにされてるか、病院内くらいしか納得はできないだろう。

 悲しいことに可能性が高いのは前者ではあるけど。

 

「とりあえずここで立ち止まるよりも他の人と会ってみよう。せっかく見つけたんだし」

 

 僕はとりあえず山を降りる事に。

 なかなか高い山だから普通の人ならかなり苦労するけど悪魔に転生して戦車(ルーク)である僕ならそこまで苦にはならない。

 

「僕の日本語通じるかな」

 

 山道を降りながらそんなのんきな事を呟いていると山頂から何かが落ちてくる。

 ものすごく大きいけど幸いすぐに気づいたのとどうやら今僕がいるところには落ちそうもない。

 でも前方には落ちそうなのでしばらく立ち止まる必要はあるけど。

 

「……ん、え? 人?」

 

 最初は太陽が真上にあるせいで見えずらかったけど徐々にその物体が近づいて来て影になると落ちてきてるのが何かわかる。

 それがどうやら岩ではなく人のように見える。

 

 ズドォォォォォンッ!!

 

 その大きな人は僕の目の前にすごい音を立てて着地した。

 2mを超える程の巨体。体の筋肉もとてつもなくマンガでしか見たこともないような筋肉の塊である。

 

「おい」

「は、はい」

「お前、人間じゃねえな?」

「は、はい」

「何しにこの倭へ来た」

 

 この規格外の巨体から放たれる同じく規格外のオーラ。その存在感が僕を威嚇しているのを感じる。

 僕は弱い草食動物が強い肉食動物と出会い恐怖で動けなくなってしまうかのように逃げ出したくとも逃げれない。

 しかもあの頭の角から見てもこの人は鬼じゃ……あ、あれ角じゃなくて髪だ。クワガタみたいに固められた角のように見える髪だった。

 でも髪とわかってもどうしても鬼のようなこの人には角が生えているように見えてしまう。

 

「答えろッッ!!」

「ヒィッ!」

 

 鬼の怒声が僕に放たれた。

 その声は周りの大気をも振るわせて横の岩石にヒビを入れた。

 僕は尻餅をついて倒れこみそこは堪えたけど意識を失いそうになったうえに漏らしかけたよ。

 

「あの、その、その」

「ハッキリしゃべりやがれッ!」

「ヒッ!」

 

 再び僕に怒号を浴びせられる。

 今度も何とか意識とぼうこうは守りぬいたよ。

 だけどもう次はどちらも耐えられる自信がない。

 

「ぼ、僕の名前は日鳥誇銅です。悪魔、元人間の転生悪魔です」

「悪魔? 初めて聞く。それと元人間とはどういう事だ?」

 

 僕に向けられていた威嚇のオーラが消えた。

 よかったとりあえず警戒は解いてもらえたようだね。

 

「僕は一月ほど前まで普通の人間でした。ですが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)というもので悪魔になりました。あの、僕からも少しお聞きしたいことがあるのですが」

「なんだ」

「ここは一体どこなんですか?」

「……どうやら俺が思っていることと違うみたいだな。落ち着ける場所でゆっくりと話しをしよう」

 

 そう言って僕はこの人に案内されるまま山をもう30分程上ったところにある小屋へと案内された。

 今はそこまで怖いオーラは出してないけど第一印象の時にさんざん怖い思いをさせられていた恐怖が残っていたため道中は完全な無言。

 木造のこの時代から考えれば大きめの小屋に案内された僕はテーブルなどはないけどお茶を出してもらった。

 

「俺の仲間が見つけてきた葉から作ったものだ。緑色だが香りもよく味も悪くないぞ」

「は、はい。いただきます」

 

 この時代にはまだお茶という概念はないんだね。

 まだ名のないお茶を一口飲んでみると素朴な味だけど素材がいいからか水を含めた素材の味がよくわかりおいしい。

 

「そういえば俺の名を言ってなかったな。俺の名はスサノオ、須佐之男命(スサノオノミコト)だ」

 

 その名を聞いた瞬間僕は噴き出しそうになった。

 スサノオって日本で有名な神様じゃないか!

 神話上の人物が今僕の目の前に……。

 

「さっそくだが日鳥誇銅よ、お前がここに来た経由を教えてはくれぬか?」

「はい、実は……」

 

 僕はスサノオさんに悪魔になるきっかけになったあの日から自爆に巻き込まれてこの場所にいたとこまでを詳しく話した。

 そのついでにこの場所が僕の住んでいた時代の過去ではないかという話も。

 その中でスサノオさんは真剣に僕の話を聞いてくれて何かを疑うと言う事はしないでくれた。

 

「なるほどそういう事だったのか」

「あのスサノオ様」

「様づけなどいらん」

「ではスサノオさん、僕の話を信じてくれるのですか? 自分で言うのもなんですがかなり突拍子もない話をしたと思うのですが」

「俺は始めお前からは邪な気配がしたから警戒していた。おそらくその悪魔という種族が元々闇に属する種族だからであろう。だが、お前自身はとても清い。目を見て話をすればわかる。そんな奴の言葉を疑ったりしねえよ」

 

 スサノオさんは優しい目で僕の目をしっかりと見てくれる。

 その目に僕は言葉では表現できないような安心感と充実感を得た。

 こういう人を世間ではアニキって言うんだろうな。

 

「だが、お前を悪魔にした奴はお前を甘い言葉で誘いだし、冷遇し最後はお前の命の危機だとその目で見たというのに助けもしなかったのか。スジが通らねえな」

 

 スサノオさんは見るからに怒りをあらわにして持っていた器を握力で破壊してしまう。

 スサノオさんからは怒りのオーラが見え小屋全体も震えている。

 

「まっ、過去の俺が未来に腹をたててもはじまらん」

 

 ついさっきまで荒ぶっていたスサノオさんはすぐにその怒りを鎮めた。

 意外と感情のオンオフが瞬時に切り替えられる人なんだね。

 そうしてスサノオさんと話をしていると外が急に暗くなってくる。

 ついさっきまで太陽は真上くらいでそんなに時間は立ってないと思ったのに。

 

「ついにやっちまったか……」

「え?」

「空を見てみろ」

 

 スサノオさんに言われた通り僕は一度小屋を出て空を見てみる。

 すると空が暗くなったのが夜になったからではなく別の理由だと言うことがわかった。

 

「うわ~日食だ」

 

 それは日食。

 実物を見たのはこれが初めて。

 僕の時代でも僕が小学生くらいの時にあったらしいけどあいにく曇りで見ることができなかったよ。

 ん? 弥生時代、卑弥呼、月食、日本神話……。

 

「スサノオさん! もしかしてこれって天照大神が天岩戸に隠れてしまったことが」

「人間の書いた話がどんなものかも知らねえがちげえよ。これは姉貴の暇つぶしだ。まさか本当に実行するとはな」

 

 スサノオさんは日食を眺めた後遥か向こうの方へ眼をやった。

 そこは僕が人間の集落を見つけたとこらへん。

 僕も目を凝らしてみると暗くてはっきりとはわからなかったが明らかに人々がおびえ混乱している様子に僕は見えた。

 

「スサノオさん、人々がおびえてますよ!いいんですか!? 何とかできないんですか!?」

「高天原に行って姉貴に直談判すれば済むだろう」

「それじゃ」

「俺は少し昔に高天原に足を踏み入れることを禁じられた。この国の最高神であり俺の実の姉である天照大神にな」

「え……何があったんですか?」

 

 スサノオさんはじっと地平線の向こう側を見て何もしゃべらなかった。

 表情一つ眉一つ動かさず。だけど僕にはその顔はなんだかさびしげに見えた。

 そうしてしばらくの沈黙の末にスサノオさんは語ってくれた。

 

「姉貴にたてついた。ただそれだけだ」

「本当にそれだけなんですか?」

「それだけだ」

 

 またしばらく沈黙が流れる。

 だけど今度は僕がその沈黙をやぶってみせた。

 

「お姉さんと何があったんですか?」

 

 スサノオさんは先ほどからまったく顔の表情も視線も変えない。

 だけど僕には僕の言葉でだんだんさびしげな表情になっていくように見えた。

 

「……親父とおふくろが死んだ後、俺と姉貴、弟のツクヨミの三人で高天原とこの国を治めることとなった。その時一番てっぺんに姉貴、天照大神をすえてな。最初の頃は俺たち三人協力し合ってうまくいった。だが、姉貴は退屈からだんだん悦楽を求めるようになり仕事を放棄することも増えた。監視の目が緩くなったことで他の神共も悪知恵をつけ高天原は荒れた。だから俺は目に余る奴らを片っ端から粛清してやった」

「それが原因で高天原を追放に」

「いや、それについては姉貴は何も言ってこなかった。そいつらは姉貴に対して特に忠誠心もなく姉貴からしてもどうでもいいやつら。俺が追放された原因は姉貴にたてついたことのみ」

「何をしたんですか?」

「あれは姉貴がこのお前が日食と呼んだ事を起こそうと考えた時の事だった。俺はそれを激しく咎めた。その時に今までの不満も爆発しちまってな。そんで最後は大喧嘩での別れさ」

 

 スサノオさんはそう言ってまた黙ってしまった。

 きっとこの人はお姉さんが大好きなんだろう。いや、お姉さんだけではなく父親と母親が残してくれたものをひたすら愛したんだろう。

 だからこそ怒るができたんだし、今もこんなに悲しい顔をしてるんだろう。

 それに引き替え僕はどうだろうか。

 僕を見捨てたリアスさんに対して怒れるのだろうか。

 いや、きっと簡単に許してしまうだろう。そうしてしまたあの輪の中に入れてもらうんだろう。

 僕はあの人たちを家族同然と言いながらもっと前から既にそう思ってなかったんだろう。

 僕はただまた一人ぼっちになるのが嫌だっただけだったんだ。

 

「……そろそろか」

「え?」

「ここで待っていろ。日食が過ぎた頃に戻る」

 

 そう言ってスサノオさんは高い山からジャンプして降りていく。

 下で大きな落下音が鳴ったがその後大きな動物が草むらを移動する感じで木々が揺れる音が聞こえたから元気に走っているのだろう。

 

「……ビクッ!!」

 

 スサノオさんが帰ってくるのをただただ待っていると突如とんでもない魔力によく似た魔力ではない気配を感じた。

 その魔力のようなものを感じた方向を見ると遠くの方に八の頭をした蛇。間違いない八岐大蛇だ。

 その八岐大蛇が突然何かに殴られたように倒れる。良く目を凝らしてみるとスサノオさんが八岐大蛇を殴り飛ばしている。

 そして激しい戦いのすえ八岐大蛇の首を一本腕力でちぎり取ると八岐大蛇は水の中へと逃げ込んだ。

 最後にちぎった八岐大蛇の首を逃げ込んだ水の中に放りこむと月食で遮られていた太陽が顔を出した。

 太陽が戻ったことで大きな魔力のような気配は消え人々が落ち着きを取り戻していく。

 

「またせたな」

「お疲れ様でした」

 

 スサノオさんは予告通り日食が過ぎると戻ってきた。

 あの人の事だから崖をジャンプするなり素手でロッククライミングくらいするかと思ったけど普通に山道を歩いてきたのはなんか逆に意外だったよ。

 スサノオさんが戻ってきた頃には普通に日が傾きだしてもうすぐ夜になろうとしていた。

 僕はその晩スサノオさんに晩御飯をごちそうになる事に。

 

「すいません晩御飯までごちそうになってしまい」

「細けぇ事は気にすんな」

「しかし、スサノオさんと八岐大蛇の戦いは感激しました。僕も小学生の時に子供向けの漫画版古事記を読んだだけですが、その中でスサノオさんと八岐大蛇の戦いはよく覚えてます」

「ほう、あいつも伝説に名を遺したか。あいつは人々が洪水を恐れる気持ちから生まれた災害の化身だ。名はお前が言った通り八岐大蛇と俺がなずけた。数少ない頼れる友達(ダチ)だ」

 

 敵同士だと思ったらまさかの友達発言!?

 でも素人目ですがかなり本気な戦いのように見えましたけど!?

 首一本へし折りましたよね? 友達なのに? 

 

「姉貴がこんな事態を起こすのは娯楽がほしいからだ。だから俺が八岐大蛇と一芝居うった。秩序を取り戻すためとはいえあいつの首を一本奪っちまったがな」

「大丈夫なんですか? 八岐大蛇さんは」

「ああ、一本くらいならすぐに再生すると言っていた。それにちぎれた首を食えばもっと早いらしい」

「そうですか……」

 

 まあ大丈夫ならいいか。

 それにしてもまさか架空だと思っていた神話が本当にあったとは。

 まあ悪魔が実際に存在すれば十分あり得る話だよね。

 でも話の真実はかなり違うようだけどね。

 

「ですが、高天原の頂点がそこまで勝手な事をしてスサノオさん以外が止める人はいないんですか?例えばツクヨミさんとか」

「無理だ。姉貴は俺よりも強い。そして他の神が束になっても俺は負けん。それに今高天原は調子に乗った神共であふれかえっている。ツクヨミの奴は頭はいいが保守的で自己主張のねえ奴だ。あてにならん。俺が倒れるわけにはいかない」

「そうですか、でもちょっと意外ですね。今日会ったばかりですがスサノオさんの性格なら命をかけてでもお姉さんの説得をしそうだと思いました」

 

 僕が何気なくそういうとスサノオさんの食事の手が止まった。

 それと同時に初めてであった時のような威圧感が僕を襲う。

 

「俺には父と母から任された高天原とこの国を守る義務がある。この命まで失うわけにはいかん」

 

 とんでもない威圧感と鋭い目に睨みつけられて僕は再び防衛本能で気を失いかけた。

 そのとんでもない威圧感と眼光はすぐに止めてもらえたけど、スサノオさんのその後の雰囲気がもう何も聞くなと言ってるようでその後は全くの無言となった。

 

「まあしばらくはここにいるといい。この時代に馴れたら帰る方法を探すなり、永住するなり好きに決めろ」

「は、はい」

 

 僕はスサノオさんの優しさにしばらく甘えることに。

 その夜は僕の安易な発言で少しピリピリしてしまったためと急に環境が変わったことでなかなか寝付けなかった。

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ここに来て一週間程たった。

 この一週間何とか帰る方法やここに来た原因などを自分なりに調べてみたけど何もわからない。

 未だにスサノオさん以外の人と会っていない。

 

「僕はもう帰れないのかな~?」

「シャー」

「それなら本格的にこの時代で生きていく知識を学ばないといけないけど、帰る方法があるなら帰りたい。一応少ないけど残してきてる人もいるし、家族も一匹だけどいる」

「シャ、シャーシャー」

「ありがとうございます、八岐大蛇さん」

 

 誰とも会ってないから僕は八岐大蛇さんに愚痴を聞いてもらっている。

 最初は本当に怖くて食べられると思ったけど、こっちの言葉は通じてるみたいで案外(物理的にも精神的にも)ちょうどいい位置で僕に接してくれる。

 言ってる言葉はわからないけど僕を慰めてくれてる事は伝わる。

 

「それじゃそろそろ日も暮れますので僕は帰ります。八岐大蛇さんも夜のお勤め頑張ってください」

「シャ~」

 

 八岐大蛇さんは夜になると活発に動き出す他の人間の恐怖の化身、僕の時代で妖怪と呼ばれる怪異の原型が過度な悪さをしないように抑止力としての仕事をしてる。

 同じ妖怪でも恐怖の格が違う八岐大蛇さんなら知性のない低級な妖怪は派手に暴れたりせず、従わない中級の少し知性がある妖怪はスサノオさんと協力してしめるらしい。

 スサノオさんの小屋に戻った僕は晩御飯の準備を。

 両親が他界してから自炊してたから料理は大丈夫だけど、この時代には料理器具と設備がないからそこが苦労したね。

 

「おかえりなさいスサノオさん」

「おう、ただいま」

「ごはんもう少しでできますのでもう少々お待ちください」

 

 ご飯が炊けるまでの時間におかずを盛り付けていたらちょうどいい時間にご飯が炊けたようでそのまま晩御飯を食べる。

 

「ところでどうでした?」

「ああ、誇銅のおかげで高天原に戻ることができそうだ。この恩は絶対に忘れん」

 

 天照様が暇を持て余し人間界にいたずらすると聞いた僕は、この時代でもできそうなゲームをスサノオさんに教えた。

 五目並べや囲碁や将棋、トランプやサイコロゲームなどの一人でできる遊びから鬼ごっこやかくれんぼなどの多人数でする遊びなど。後者はあまり好評ではなかったらしいけどね。

 

「それで姉貴がお前に興味を持ったらしく一度会いたいと言っていたのだがいいか?」

 

 え!! あの日本神話のトップの天照大神様が僕なんかに!?

 

「心配しなくていい、姉貴がいつもの癇癪を起しても絶対に護ってやる」

「は、はい~失礼のないようにします!」

「ふふふ、姉貴は短気だが侮辱したりしない限りそうそう怒ったりはしないさ。それに高天原には腕のいい医者も職人もいる。姉貴の炎で消し炭にさえならなければ治すなり補強なりできる」

「い、いきなり不安になるようなこと言わないでください~!!」

 

 消し炭って、治療って、補強って僕どうなっちゃうの!?

 相当おっかないイメージしかないよ今のところ!

 既に虎のオリに入れられるような気持ちだよ。食べられなくてもじゃれられただけで重症だよ。

 

「確かに初めての人間と直接会うわけだから俺もどうなるかわからん。だが、この木の実の入った飯はうまいな」

「ああ今日は栗が取れたので栗ご飯の挑戦してみました。うまくできたか心配でしたがお口に合ってよかったです。って誤魔化さないでください!」

「細けぇ事は気にすんな」

「僕にとっては生死にかかわる程細かくない事です!」

 

 スサノオさんは僕を軽くからかって愉快そうに微笑する。

 確かに僕にとっては生きるか死ぬかというレベルの事だけどスサノオさんが守ってくれるっていうならまあ安心かな?

 いったいどんな人なんだろうな天照様って。

 

「でも、スサノオさんが再びご家族の所へ帰れるのは喜ばしい事ですね」

「ん? 誇銅はそう思うか? 俺は姉貴の横暴を指摘しただけで殴られて追放されたんだぞ?」

「でも、嫌ってないですよね? お姉さんの事」

「……」

「スサノオさんがお姉さんの話をする時はいつも愚痴だったけど、お姉さんのこれからを心配するような発言ばかりでしたから。それに本気で嫌ってたらお姉さんを叱ったりないでしょう。叱ると言うのはその人を思っての行為。それが理不尽な事ではない限り」

 

 スサノオさんはきっと高天原を思ってるのと同じくらいお姉さんの事を思ってるんだろうね。

 

「もしかしたら僕の勘違いかもしれませんが、家族を失ってその大切さをより感じた僕にはそう見えました。だからお姉さんの所に戻ったらそれを少しでもいいから考えてみてください」

「……まさか人間から何かを教わるとはな」

「ふふふ、持ってないからこそ気づくこともあるんですよ」

 

 神様に対して今の僕はちょっと生意気すぎるかな?

 だけど、天に唾吐く行為になっても僕はスサノオさんが愛する家族との絆を得てほしいと思ってる。

 

「ふふふ、そうかもしれねえな。今までも無意識ながらそうしようとしてたのかもしれない。高天原に戻ったとしても俺は前と同じようにふるまうだろう。それが高天原を守る以外の思いだったのか少し考えてみよう」

 

 この一週間、僕が天照様の話題に触れる度に威圧的なオーラで黙らされたけど徐々にスサノオ様も僕の話を聞いてくれるようになった。

 三日目あたりでもうこれで逆鱗に触れそうだったらもうこの話題はやめようと思って最後に言ってみたら何か悩んだ様子で僕の言葉を聞き入れるように。

 それでも最初はスサノオさんがすぐに言葉に詰まってこの話題は進まなくなった。そしてじっと何かに悩む時間も増えるように。

 その甲斐あってか今では僕の話をちゃんと聞いてくれるようになったよ。

 

「家族の絆か……俺たちにも初めの頃はあったかもしれないな。長い時間で俺たちの間に絆の感覚が失われ。そういえばそのころからだったかな姉貴が悦楽を求めるようになったのも。そこが俺たちの家族としての絆を完全に忘れてしまった瞬間だったのかもな」

「スサノオさん……きっと戻りますよ絆は。元々はあったのですから。それに、なくなったならもう一度作ればいいじゃないですか、絆。だって、スサノオさんは今でもそんなにお姉さんや弟さんの事を思ってるんですから」

 

 僕はスサノオさんの左手を両手でそっと握る。

 スサノオさんの顔はとてもびっくりした表情になっていたけどすぐに優しい笑顔に変わり僕の手を軽く握り返す。

 スサノオさんからしてみればそっとなんだろうけど僕からすればちょっと強めの握力で。

 

「ありがとよ」

 

 スサノオさんの感謝の言葉に僕は言葉を返さずに「どういたしまして」の気持ちを込めた笑顔で返した。

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

 翌日、僕は予告通り高天原へと連れてこられた。

 もしかしたら人類で初めて神域に足を踏み入れた人間、いや僕は悪魔か。

 どっちにしろ神以外の人物が初めて神域に入った瞬間かもしれないと思うとドキドキするよ。

 そんなドキドキが冷めぬまま僕は天照様とついにご対面と。

 

「久しぶりだな姉貴。いや、ただいまと言った方がいいか?」

「どちらでもよいわ。そっちの人間が誇銅じゃな?」

 

 僕の中で天照様のイメージは黒髪ロングの大人の女性だと思っていた。

 だけど僕の目の前で一人でトランプで遊んでいる女性は黒髪ロングどころか黄緑色のロングヘアー。さらに中学生くらいの小柄にこの時代にはないハズの白衣と緋袴の巫女装束。

 天照様はスサノオさんへの会話をすぐにきりあげて僕の方へと目を向けて手招きしている。

 僕は一度スサノオさんも方を見る。するとスサノオさんは黙って首を縦に動かす。

 僕はゆっくりと天照様の方へ歩いて行った。

 

「お主がこの娯楽を作ったのじゃな?」

「は、はい。正確には僕のいた時代の遊びで」

「そんなことはどうでもよい。それよりもっと他の遊びもあるらしいのう? それを儂に教えろ。ほらほら、まずはイシコリドメに作らせたこのとらんぷとやらの遊び方をもっと教えるのじゃ」

 

 天照様のトランプは紙ではないが紙のような材質で作られており、本物のトランプのような四種類のマークの代わりに違うマークが使われているが赤と黒に分けられているのは同じ。

 そして数字はアラビア数字でも漢数字でもなく、正の字で描かれている。

 

「なあ、俺はもういいか?」

「んあ? ああもう良いぞ」

 

 天照様は既にスサノオさんに興味なしと言った感じでそっけなくあしらう。

 

「天照様、このトランプというのは本来三人以上で遊ぶゲームが多いのです。だからここはスサノオさんにも残ってもらった方がより多くのゲームを教えられますよ」

「ふむそうか、ならば仕方ない。スサノオお前も来い」

 

 スサノオさんが入ることに不満そうに頬を膨らませる天照様だが遊びには勝てなかったようで。

 遊びを通じてスサノオさんと天照様の溝が少しでも塞がればいいなと思ったんだけど……。

 

「うぎぃぃぃぃぃ~~~なんでスサノオばっかり勝つのじゃ~!!」

「知ったこっちゃねえ」

 

 なぜかさっきから殆どスサノオさんの一人勝ち状態。たまに僕が一番になることもあるけど勝率は圧倒的にスサノオさんが上。

 最悪な事に天照様はずっとビリ。

 スサノオさんの性格からしてズルはしないだろうし

 

「もうよいもうよい!! とらんぷは終いじゃ! スサノオはもう行け!」

「やれやれだぜ」

 

 やれやれと言いながらもどこか満足げなスサノオさん。一方頬を膨らませてすっかり機嫌を悪くした天照様。途中天照様が感情に任せてなんか炎をまき散らして死を覚悟したけどスサノオさんが僕に向かってくる炎を払ってくれて何とか生きてる。

 

「さて邪魔者もいなくなったことじゃし他の遊びをするかのう。そじゃこのしょうぎというものを教えてくれ。駒と盤だけならお主に教わった通りに作らせたものがある」

 

 こうして僕は将棋について天照様に説明した。

 将棋のややこしい動かし方を覚えるのに僕はちょっと手間取ったけど、天照様はすぐに覚えてしまって基本ルールもすぐに覚えてしまう。やっぱり神様だから僕とは違うね。

 でも戦略に関してはそう簡単にいかなかったみたいでいろいろと悩んでいる。

 

「天照様、一つお願いがあるのですが」

「ん~?」

「たまにはスサノオさんの話をしっかりと聞いてあげてほしいのです。スサノオさんはこの高天原や国、そして天照様の事を真剣に思っています。だからスサノオさんの言葉にも耳を傾けてください。お願いします」

「ん~」

 

 天照様はゲームに集中して生返事で答える。

 だけど僕の方を見て少し不機嫌そうかめんどくさそうな表情をしたから一応話はちゃんと聞いてくれたみたいだ。

 そして最初はそれなりに有利だった勝負も徐々に押し込まれていって何とか僕の勝ちと言う結果に。

 趣味程度だけどそれなりにやったことのある僕に一日の長があったようで。

 最初は勝ってしまって、しまった!と思ったけど僕が教えた遊びで僕を追いつめた実感もあったようで普通に楽しんでくれたようだった。

 

「よし! 次の遊びじゃ!」

 

 それから僕はとんでもなく長い時間天照様の遊びに付き合わされた。

 なんだろう、途中とんでもなく疲れた時に出された飲み物で眠気と疲労が吹き飛ばされたぶん丸一日遊んだと思う。

 そのおかげでここでできる遊びは一通り出し尽くしたんじゃないかと思う。

 それに僕の体ももう限界っぽい。

 

「も、もう……」

「う~ん、悪魔とはいえ元々は人間。高天原の水をもってしても限界か。お主とはまだまだ遊びたい。地上に戻って体を休ませるがよい」

 

 僕は天照様が呼んだ他の人に連れられて地上のスサノオさんの家へ送ってもらう事に。

 その人にスサノオさんが今日は地上に降りてる事を教えてもらった。

 

「ありがとね。スサノオさまを高天原に戻してくれて」

「ふえ?」

「そのおかげで私もイシコリドメも感謝してるわ。本当にありがとう」

「あ、あなたは?」

「私? 私はアメノウズメ。よろしくね♪」

 

 そんなこんなしてるうちにいつの間にかスサノオさんの家へとたどり着く。

 すぐ近くまで来ると中からスサノオさんが出てきた。

 

「世話掛けたな」

「いいえ、スサノオさまの恩人とあらばこのくらい」

「誇銅の事も、俺が去った後の高天原も」

「いいえ、私たちはスサノオさまが高天原を追放されるのを止めるどころか、スサノオさまに命じられたスサノオ様の代理も満足にこなせませんでした」

「いいや、姉貴の暴走は俺にも止められん。だが、他の神共の暴走はよく止めてくれた。アメノウズメ、イシコリドメ。お前たちは今俺が最も期待し、信用できる神。そしてその期待に応えるだけの働きはしてくれた。礼を言う」

「もったいなきお言葉」

 

 い、いずらい……。

 ものすごく真面目な話してるし場違い感がする。だからと言ってこの場を離れるのもなんか違う。というか疲労で一人じゃまともに歩けない。

 そんなこんなで僕は邪魔しないようにじっと気配を消して待った。

 その時、僕の目に不思議なドアが目に入った。山のゴツゴツした岩場に西洋風のドアが不自然に。

 僕はそのドアに引き寄せられるかのように歩いていく。ふらふらとしながらも歩いていく。

 そしてドアを開けるとそこにはあの時落ちた穴と同じ暗闇が広がっていた。

 

「ここを通れば帰れるのかな?」

 

 ……いやいやいや怪しすぎる。

 とりあえずここはスサノオさんたちに相談してみよう。

 あの人たちは神だし頼りになるだろう。それにここなら頼るあてもあるしまた変な場所に飛ばされるよりマシ。

 そう思って僕はドアを閉めてドアを背にしてスサノオさんを呼ぼうとした時。

 

「さっさとこい」

 

 後ろのドアから幼い女の子の声がしたと思ったら急に後ろ襟を引っ張られてドアの中へと引きずりこまれてしまった。

 ドアが閉まる瞬間、スサノオさんの声とアメノウズメさんの僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 死に際で見捨てられた僕にとってこの心配して僕の名前を叫ぶ声はとてもうれしかったよ。

 さて、次に僕が目を覚ますのはどこなんだろう?


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