新しい敵の登場と共に、2人の幸せに影が忍び寄ります。
葵叉丹ー
黒之巣会と共に滅したはずのあいつが生きていた。
新たな敵の出現に帝都の短い平和は終わりを告げた。
奴らの力は強大だ。以前とは比べ物にならないくらいに。
だが俺は何の心配もしていない。俺達は…帝都花組は決して奴ら負けはしないと俺は信じている。
だから、不安に思うことなど何もない。
何もないはずなのに…なのになぜ俺はこんなにもおびえているのだろう?
なぜこんなにも心が落ち着かないのか…。
あの男の顔を思い出す。
新年の鳥居の上からこちらを見下ろして冷たく笑ったその顔を見た時心が震えた。
理由のつかない不安と恐れに。
あいつの顔…。奴の顔に見覚えがあるような気がしてならなかった。
美しく繊細なその怜悧な美貌を、俺は確かに見たことがあった。
思い出そうとしても思い出せない、そのもどかしさに歯呀みをする。
嫌な感じがした。とてつもなく嫌な予感が…。
「葵…叉丹」
不吉なその名を唇にのぼらせる。
ーお前はいったい何者なんだ…
その問いに答えるものは無い。
俺の中に、あるはずの答えが見つからない。
ゆっくりと、だが確実に歯車は回りはじめていた。俺の知らない遠い、遠いどこかで…。
「魔神器?」
聞き慣れ無いその名に大神は思わず聞き返した。
米田が重々しく頷く。
そして奥から取り出したケースを開き、その中を示した。
中から現れたのは三つの聖なる器。
大神は食い入るようにそれらを見つめた。そして、
「これが…」
そう、掠れた声で小さく呟く。米田が再び頷いた。
「あぁ、こいつが魔神器だ。剣・珠・鏡からなる三つの祭器。俺達の最後の切り札だ。こいつだけは何があろうと守りきらねばならねぇ。分かるな、大神」
鋭い眼差しが大神を射抜く。表情を引き締め、大神もまた米田を見返した。
「はい、米田指令」
「いーぃ返事だ。よし、大神。こいつぁお前に任せた」
「えっ、まかせるって…。米田指令!?」
にやりと笑って米田は大神にケースを放った。
大神は慌てて手を伸ばしそれを受け止める。
ほっと息をつく大神の上に米田の声が降ってきた。
「言葉どうりの意味さ。魔神器はお前達が守るんだ」
「お前達?」
「お前とあやめ君、二人でことにあたるんだ。あやめ君にはもう伝えてある。頼んだぞ、大神」
「あやめさんと二人で…」
「何か不満でもあるのか、大神」
にやにや笑う米田の顔を見て、彼が大神とあやめのことをすっかり見抜いているのだと気づく。大神は苦く笑った。そしてー
「了解しました。魔神器は必ず守り抜いてみせます」
魔神器を大切に腕に抱き、大神は力強く答えた。
そんな大神を、米田は目を細め見つめた。頼もしく成長した息子を見つめるかのようにー
明日も10時に投稿します。