恋夢幻想   作:高嶺 蒼

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いよいよ聖魔城へ突入しました。
戦いの始まりです。



恋夢幻想~11~

 ものすごい音を立てて、空中戦艦ミカサの主砲が火を放つ。

 それは一瞬で聖魔城の強固な門をうち砕き、そこにぽっかりと進入口を開く。

 すさまじい威力だった。

 

 その入り口に向かって、ゆっくりと翔鯨丸が吸い込まれるように消えていく。

 米田は声もなくその様子を見守った。

 引き結ばれた口元が何かをこらえるように震えー米田は祈るように空を仰ぐ。

 

 「帰って来いよ。誰一人欠けることなくな…」

 

 小さくつぶやくように言った。

 だが米田のその言葉をうち消すように警報が鳴り響く。

 

 

 「指令!降魔が一斉に聖魔城へ向かっています」

 

 「なんだとっ」

 

 

 かすみの報告に米田の顔が緊張に引き締まる。

 

 

 「んなことさせるかよ。おい、由里」

 

 「はい」

 

 「各部署に伝えろ。奴らにありったけの弾をぶち込んでやれってな。一匹だって見逃すんじゃねえぞ。これ以上、あいつらの負担を増やすわけにはいかねえからな」

 

 「了解」

 

 「よーし、いい返事だ。奴らに一発かましたら、全速前進。奴等の群につっこんで注意を全部このミカサに引きつけ、一匹残らず殲滅する」

 

 

 それはほとんど捨て身の作戦だった。

 小回りの利かないミカサが降魔の群に囲まれたらどうなるか、ブリッジのメンバーにもそのことは容易に想像できた。

 中に進入されたら最後、いまのミカサにそれを迎え撃つすべはない。

 

 だが米田の命令に反論するものは誰一人としていなかった。

 みんなが黙って静かに頷く。

 米田は誇らしそうに彼らを見つめーそれから目の前に広がる降魔の群を睨みつけ、そして叫ぶように命令を下した。

 

 「よし、行くぜ!!きぃぬくんじゃねぇぞ。こっからが俺達の戦いだ」

 

 ミカサがゆっくりと前進を始め、その無数の砲門が開かれる。

 いままさに、死闘が始まろうとしていたー

 

 

 

 

 手のひらが汗で濡れていた。緊張でいまにも頭がどうにかなってしまいそうだ。

 

 ーきっとみんなもそうなんだろうな。

 

 自分のふがいなさを棚に上げそんなふうに思うと、少しだけ気が軽くなったような気がした。 

 大きく深呼吸をする。1回…2回…

 そうしている内にまた少し、落ち着きが戻ってきた。手の震えも止まった。

 唇の端を持ち上げ、大神はかすかな笑いを浮かべた。

 もう大丈夫ーそう思う。笑えるくらいなら上等だ。

 もう一度だけ深呼吸をして、大神は通信機のスイッチを入れる。

 小さく咳払い。

 それからゆっくりとみんなに向かって語りかけた。

 

 「みんな、お腹は空いてないかい?」

 

 わざとそんな間の抜けた質問をしてみる。

 通信機からは何ともいえない沈黙。

 きっと全く別の言葉を期待していたのだろう。みんな腰砕けで言葉もでないらしい。

 

 よし、うまくいったぞー大神は一人小さく笑う。

 ねらいどおりだった。

 大神は通信機を通してでさえ伝わってくるみんなの張りつめた緊張感をどうにかしてやりたいと思ったのだ。

 適度の緊張はいいが、過度の緊張は体の自由を奪う。

 みんなが実力を出しきれるようにーそう思っての第一声だった。

 

 「おいおい隊長。開口一番そりゃぁねんじゃねぇかぁ」

 

 最初に立ち直ったのはカンナだ。あきれ半分、笑い半分にそう言ってくる。

 そこで大神はだめ押しとばかりにもう一度とぼけてみせる。

 

 

 「そうかい?だってよく言うじゃないか。腹が減っては戦ができぬって。カンナだってよくいうだろ?」

 

 「そりゃぁ…そうだけどよ。でもさぁ…」

 

 

 そこに響く、毎度おなじみすみれの高笑い。

 

 

 「えぇ、えぇ。カンナさんにはお似合いの言葉ですわぁ。ほんっと、これ以上無いってくらいに」

 

 「すみれ、お前なぁ…」

 

 

 くってかかろうとするカンナを遮るように今度はさくらの声が響いてきた。

 

 

 「そう言われれば…。カンナさんて、いつもびっくりするくらいよく食べますもんね」

 

 「おいおいさくら、そりゃねぇだろ。お前いつの間にすみれの手先になりやがった」

 

 「へ…あっ、いえ、違うんです、カンナさん。すみれさんの味方とか、そういうつもりじゃなくて…」

 

 

 大慌てでいいわけをはじめたさくらだが、その言葉を最後まで言い終わる前にすみれの高笑いが割り込んでくる。

 

 

 「さくらさんにもようやく私の重要性を理解していただけたようですわね。ほめて差し上げますわ」

 

 「-けっ、言ってろよ」

 

 「んまぁ、なんですの、その言いぐさは」

 

 「きーきー、きーきー、うるせんだよ、このサボテン女」

 

 「お黙りなさい。脳の足りないお猿のくせに」

 

 「なんだとぉ~」

 

 「あら、何か文句がおありになって?」

 

 まさに一触即発。そこにマリアの怒声が響く。

 そこからは、アイリス・紅蘭も混じっての喧々囂々の大騒ぎ。それはいつもの花組の姿だった。

 大神は堪えきれない笑いをかみ殺し、頃合いを見計らって静かに声をかける。

 

 「みんな、少しは緊張がほぐれたかい?」

 

 そんな大神の言葉にみんながはっとしたように息をのむ気配が感じられた。

 ついで伝わってくる苦笑。

 

 

 「大神さん…」

 

 「ったく、隊長も人が悪いなぁ」

 

 「本当ですわ」

 

 「も~、お兄ちゃんたらぁ」

 

 「でも、隊長らしいですね」

 

 「そうやなぁ。大神はんらしい気遣いや」

 

 

 みんなのそれぞれの言葉に、大神はあえて言葉を返さずただ笑う。

 それから少しだけ表情を引き締め、大神は改めてみんなに語りかけた。

 

 「俺達はこれから、葵叉丹のたくらみによる霊子砲の発射をくい止めるため敵地の深部まで潜入する」

 

 そこでその言葉が浸透するのを待つように一呼吸おく。

 さっきまでの騒がしさはかけらもない。みんな息を詰めて大神の言葉を待っていた。

 

 「この戦いはいままでにない苦しい戦いになるだろう。だけど俺はちっとも心配していない。なぜだか分かるかい?」

 

 その問いかけに答えは返ってこない。

 大神は微笑み、続けた。

 

 

 「それは君たちがいてくれるからーしんじあい、ともに戦える仲間がいるから、俺にはなんの不安もない。この戦い、必ず勝てると信じている。だから、俺からみんなに言うべきことは一つしかない。ー生きて帰ろう、必ず。誰一人欠けることなく、みんなで一緒に、俺達のあの劇場へ」

 

 「えぇ、隊長。帰りましょう、必ず。生きてみんなで」

 

 

 通信機を通して聞こえるマリアの声。

 大神はほんの一瞬だけ目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは彼女の笑顔。

 大神は微笑み、再び目を開けまっすぐ前をにらんだ。

 

 「隊長、いつものやつ、頼むぜ!!」

 

 カンナの言葉に、大神は頷く。ゆっくりと、息を吸い込んだ。

 そして、心にある思いの全てをを込めて、大神は叫ぶ。

 

 

 「帝国歌撃団花組、出撃せよ。目指すは聖魔城最深部。霊子砲の発射を阻止し、敵首領、葵叉丹を殲滅する。時間の余裕はない。みんな、一気に行くぞ!!」

 

 「了解!!」

 

 

 そんなみんなの声を聞きながら、開かれたままのハッチに向かって、大神は最初の一歩を踏み出した。

 これから始まる長い、長い戦いへの第一歩をー。

 

 

 

 




次回は来週の土曜日10時の予定です。

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