以前、他の所でも掲載していましたが、二次創作の為削除されてしまった為、こちらで投稿する事にしました。
興味があるようでしたら読んでいただけると嬉しいです。
最初はただの憧れだった。
素晴らしい人だと。
隊員達に信頼され、指令にも頼りにされる彼女を見ながら、自分もそうありたいといつも思っていた。
いつからだろう?その思いが確実に変化したのは。
気付いた時には彼女に恋をしていた。
その姿を見る度に胸が高鳴り、息が苦しくなる。
彼女に名を呼ばれる、ただそれだけで、俺は馬鹿みたいにうろたえてみっともない姿をさらしてしまう。
生まれて初めての恋だった。
だが、この思いを彼女に告げる気はなかった。
自分は彼女に相応しいと思えなかったし、何よりもこのことが隊務のさまたげになることを俺は恐れた。
自分がそんなに弱いとは思わないけれど俺には責任があった。
俺を信じ、ついてきてくれる6人の隊員達への隊長としての責任が。
彼女達と共に帝都の平和を守る、それが俺の使命であり、望みでもある。
帝都に真の平和が訪れるその日までこの恋心は隠し続けようーそう思っていた。
忍び続けるはずの恋だった。
そうーあの日が来るまでは。
夏風邪は馬鹿がひくとは良く言うが、その日、大神はまさにその夏風邪をひいて一人寝込んでいた。
帝国歌劇団はたまの休日で、隊員達はこぞって看病を申し出たが、せっかくの休みをつぶしては申し訳ないと大神は全て断ってしまったのだ。
だから今、この広い帝国劇場にいるのは大神ただ一人である。
皆は前々から計画していたピクニックにそろって出かけていった。
支配人から三人娘まで、全員勢ぞろいでのお出かけだ。
シーンと静まり返った帝劇は、なんとも物足りなく、寂しくもあったが、それも仕方がない。
こんな時に風邪をひいた自分が悪いのである。自業自得というものだ。
大神は、一人ため息をつく。
自分の周りが今までいかににぎやかだったか改めて気付かされた。
時にはその騒がしさが鬱陶しく感じられることも、もちろんあった。
だが、今はただただその喧噪が懐かしい。
慣れない病気で気が弱くなっているのだろうか?
痛いくらいに自分が独りだと感じられて、大神は丸くなって布団の中にもぐりこんだ。
「あーあ、俺も運が悪いよなぁ」
かすれた声で呟く。
本当は大神だって皆と行くピクニックを楽しみにしていた。
だが、そんなことを言っても皆が気にするだけだからと、なんでもない顔をして送り出したものの、実際にはひどくがっかりしていたのだ。
ー皆、楽しんでるかな?
そんなことを思う。
出かけ間際の皆の心配そうな顔が脳裏に浮かぶ。
ーもしかして、俺のせいであまり楽しめてないんじゃあ…
考えて思わず苦笑をもらす。
「そんなわけないか」
自分が彼女達にとってそんなに重要な存在であるはずがない。
そんなことを考えながら大神は一人苦く笑った。
「なにが、そんなわけないか、なの?」
突然聞こえた声にひどく驚いて大神は顔をあげた。
部屋の入り口のところになぜか、皆とピクニックに行っているはずのあやめが立っている。
いつもと同じあの柔らかな微笑みを浮かべながら。
「あ、ああああああああ、あやめさん!?」
「なぁに?そんなに驚くことないでしょう?」
激しくどもった大神の耳に届くあやめも苦笑まじりの声。
優しく瞳を細め、彼女は軽い足取りでベッドに歩み寄る。
そしてサイドテーブルに持っていたお盆を置くと、そのまま大神の顔を覗き込み、その額にそっと手のひらを当てた。
「熱は下がったみたいね」
「どうして、ここに…?ピクニックは?」
「ばかね」
彼女はそう言って笑った。
柔らかく、優しい笑顔で。
「あなた独り放っておけるわけないでしょう?お粥、作ってきたから食べなさい」
「すみません。御迷惑を」
恐縮してそう謝罪すると、
「ばかね」
もう一度そう言って、あやめは大神の頬にそっと触れた。
「へんな気を使わなくてもいいの。ちっとも迷惑なんかじゃないんだから」
大神の目を覗き込むようにして彼女は言った。
息がかかる程近くにあやめの顔を見て大神は一瞬息をとめ、それから少し照れくさそうな笑みを浮かべて素直に「はい」と頷いた。
あやめはそんな大神を目を細めて見つめ、改めてお粥を食べる様すすめる。
大神は再び頷き、お粥の入った容器を手に取った。
まだ温かなそれは少し薄味の病人仕様だったが、大神にはとてもおいしく感じられた。
だから思ったままにそう伝えるとあやめは嬉しそうに笑ってくれた。
ただそれだけのことで大神は心底幸せな気持ちになれる。
そんな自分の中にあやめへの思いを再確認し、大神はせつなく、やるせない眼差しであやめを見つめ、苦く笑うのだった。
完結している作品ですが、中身をチェックしながら投稿していきます。
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