Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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5/12 サブタイ変更。前サブタイはもっと先の展開に使いたい。


第7話 明日を見た青空、過去を思う夜空

2011年 7月21日

 

 

クワァァァッッ!?

 

 耳元で炸裂した爆音に、巨大な赤鳥――『怪鳥 イャンクック』――が直立したまま硬直する。音の出処はさっき怪鳥の頭部に刺さった徹甲榴弾が炸裂したことによって発生した爆発だ。

 

「今よ!」

「せいやぁっ!!」

 

 双刃(ツインダガー)が翼の青い皮膜を斬り裂く。赤みを帯びた鱗も、鮮血と共に飛び散る。こいつの翼は刃物に弱いようだな。

 

クワァァァ!!

 

 怒り状態……ん? 耳が小さくなってる! もうこいつにそこまで体力は残ってねえ!!

 

貫通弾(こいつ)を! 喰らいなさい!!」

「落ちろぉ!!」

 

 貫通弾の雨が頭部に、双剣の乱舞は翼と尾を同時に斬り裂く。

 

「これで!」

「終わりよ!!」

 

 徹甲榴弾が、クロスボウガンから放たれる。狙いは当然――傷だらけの頭部だ。

 

クワァァァァ………

 

 頭部が爆裂すると同時、土煙を撒き散らしながら、その巨躯が地に伏せる――討伐成功、任務完了(クエストクリア)だ。

 

「やった……みたいね」

「あぁ……終わったぞ」

 

 今回はドスランポスとドスジャギィの時のように特にいがみ合うこともなく――というかあれ以来全くない――『怪鳥 イャンクック』の狩猟に成功した。

 

『良くやった二人共!! ではシミュレーションモードを解除する! 二人は休息を取りたまえ!!』

「「了解!」」

 

 それにしても、AR技術も進歩したものだ。なにせここまで()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 因みになんでARシミュレータなんかで狩りをしてたかっていうとそりゃあ――訓練過程の卒業試験だからだ。

 

 

◇◆◇◆◇

 

7月22日

 

「二人共!合格である!!」

「おめでとう!真治、雄也君!」

 

 卒業試験から一日経った今日。学校も終業式だったのですぐに終わり、速攻でハンドルマに戻って訓練室に行くと、既に来ていた真治共々、そんな言葉で迎えられた。

 余談だが、『冬雪』から『真治』に呼び方が変わっているのには一応理由がある。先日の火竜亜種夫妻出現の後医務室で――

 

『アンタを、信じられる味方(ハンター)として認めるわ。これからは、背中を預ける信頼の証として、お互い名前で呼びましょ。だからアンタも、そう呼びなさい』

 

 と言われた。真癒さんも信頼する仲間は皆名前で呼んでたようなので、恐らくその真似だろう。もちろん話には乗った。同じ目標を持つ者同士だし、何より、これからは信じるべき仲間だとお互い思ったからだ。異論はない。

 

閑話休題

 

 『卒業試験合格』。そう告げられた。つまり――

 

「やったな! これで訓練生は卒業だ!! 晴れてプロの〈ハンター〉だ!!」

「ほ、ホントですか!?」

「さ、サプライズじゃないわよね!?」

「本当よ。ほら、これがライセンス」

 

 真癒さんの両手には、二枚の白いカードが存在している。確かに、俺と真治の顔写真と名前が貼ってある。ってか、いつの間に写真撮ったんだ。

 

「はい。見せたんだから、卒業式兼宣誓式するよ?」

「卒業式と宣誓式!? 初耳ですよ!?」

「形だけだから大丈夫だよ? ま、決意を新たに、って事でね?」

「……そういう事なら」

 

 脚は肩幅より半歩ほど広げ、両手は背中側の腰辺りに。と姿勢に指示が入る。軍人かよ。

 目前には、真ん中に腕を組んだ教官、左右それぞれにアニキと真癒さん――俺の前に真癒さん、真治の前にアニキ――が立っている。

 

「卒業!! 上田雄也、冬雪真治!! 上記の者は、【龍力組成生命体群対抗特務機関ハンドルマ】の訓練過程において優秀な成績を修めたとしてここに賞する!!」

「はい!!」

「続いて宣誓!! 上田雄也、冬雪真治!!」

「はい!!」

 

 ッ!! 教官から龍力の波動が……やっぱり元〈ハンター〉……いや、〈龍血者(ドラグーン)〉!? しかも暑苦しい!! やっぱり教官のだこれぇ!!

 

「いついかなる時も!! どのような〈モンスター〉が現れた時も!! 多くを生かし!! 己も生かす!! その上で勝利を掴む覚悟はあるかァッ!!!!」

 

 ……ッ!! すげえ覇気……!! 真治も気圧されてる……!

 でも、それでも!!

 

「「はい!!!!」」

「良い返事だ二人共ォッ!!」

 

 直後、爆風が吹き荒れ、そしてすぐに収まった。

 

「お疲れ様二人共。 暑苦しかった?」

「それはもう」

「まあ、【第一中国地方支部(ここ)】の〈ハンター〉は必ず通る儀式みてえなモンだ。教官の暑苦しさと覇気に耐えて答えられたら立派なモンだ」

「ふ、ふん!だ、伊達に実戦くぐり抜けて無いわよ……!!」

 

 実際、実戦くぐり抜けてなかったら今ので腰抜かしてたかもしれん。って、今はそれより気になることが。

 

「あの、教官」

「何かね?」

「さっきの熱気って……」

「ハッハッハッハ!! 以前も言ったはずである!! 吾輩の事は、貴様らが一人前になってからであると!!」

「……はい!!」

 

 はぐらかされたが、今はいい。いつかそれを教えるに値する人間になれという事なのだろう。

 以前――少なくとも実戦前であれば何も思わなかったが、あの空気感と教官の覇気が、教官がかつて味わったであろう()()()への好奇心を湧きたてる。だから絶対この人に、いやそれだけじゃない。真癒さんとアニキにも認められるような〈ハンター〉になってやる。目標がまた増えたな。

 

「よし!! 二人共無事にプロになれたわけだし、明日は打ち上げだ!!」

「あ、いいね。どこにしようか?」

「海に行くぞ!! もう海開きはしてるしな!」

「いいですねそれ」

「んじゃ、それで行こうか。真治、水着買いに行くよ」

「うん!」

「よし、俺らも行くぞ!!」

「おうっ!!」

 

 今年最初の思い出は、先輩〈ハンター〉達との海水浴になった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

7月23日

 

「騙して悪いが、仕事なんでな。付き合ってもらうぞ」

「クソがぁぁぁぁぁ!! どうせこんな事だろうと思ったわ!!」

「なんで打ち上げで水練なんかしなきゃなのよ!?」

 

 あ、ありのまま起こったことを話すぜ! 海水浴だと思ってたら水連になっていた。な、何を言っているか分からねーと思うが――っていう現実逃避はここまでにしとくか。

 完全に騙された。俺はともかく、真治はどう見ても水泳する格好じゃない。なにせビキニ(水色)だからだ。ってか、中一でビキニとか背伸びしてるなー。

 

「そもそも! 訓練生卒業したのに何でまたそういう訓練なのよ!」

「なんでってそりゃあ、訓練過程には組み込まれて無いからな。だが日本に生まれたからにゃ、必ずやって貰う項目だ。諦めろよ」

「日本は島国だからね。ラギアクルスとかガノトトスが来たのに手が出せないとか、笑い話にもならないし」

 

 真癒さんの声。振り向くと、そこには思わず鼻血吹き出しそうな美女が立っていた。

 

「……ッ!」

「こいつぁ……見事なモンだ……!!」

 

 アニキがガッツポーズしてるが、視界に入らない。今俺達が踏んでいる砂浜よりも輝いて見える白い肌。そんな白い肌によく映える黒いビキニ。日焼け対策の一つとして羽織っているのだろう薄手のグレーのパーカー。相変わらずルビーのように輝く赤い瞳に、ポニーテールにまとめあげられた、太陽光さえも反射する銀髪。何もかもが、俺の目を惹き付けて離してくれない。

 

「あ、あの雄也君……そんなまじまじと見られると流石に恥ずかしいよ……」

「え、あ、その、すみま――」

「ふん!!」

 

 俺の鼻っ柱に、サンダルを履いた足が突き刺さった。

 

「いだぁ!! なにしやがる真治ァ!!」

「鼻の下伸ばしちゃって。これでアンタはそこらのナンパ野郎と同格に堕ちたわ」

「酷ぇ! だったらてめえのをガン見してやる! 」

「ふふん、いいわよ! このアタシのナイスバディの前にひれ伏し――」

「悪い、やっぱり遠慮しとくわ。なんか、悲しくなってくる」

「何をどう見たら悲しくなってくんのよ!?」

 

 そりゃ真癒さんと見比べたらなぁ……将来性はあるかもだが。しかしなんつーか。真癒さんは思っていたより……その、慎ましかったです。これ以上は何も言うまい。ほら、何かを察した真癒さんから殺気が飛んできた気がするし、なんか真癒さんの笑顔見てたら恐怖心が湧いてくる。笑顔は元来威嚇に用いられるものだというのは本当らしい。

 

「おーい。話戻すぞ?」

「あ、どうぞ」

「俺に対しては敬語なしでいいぞー。真治、格好の事だが心配しなくていい。武装すればいいんだからな」

「あ、そっか」

「まあ、いきなりはアレだからな。まずは潜水時間を伸ばす所からだ。最低でも二十分は潜り続けていられるようにしないと、水中戦は出来ねえ」

「長っ……!」

「しかもそこからほぼ休憩なしで泳ぎ続けるし、〈モンスター〉の攻撃に被弾しても空気を吐き出さない耐久力も必要だよ」

 

 想像以上に、求められるものはハードだった。

 

「えぇっと……もしかしてほぼ毎日来る事になったりします?」

「いや。 一応、たまに来る程度の予定だが、まあ週一でここに来る事にはなるだろうな」

「まあ、早く水中戦のノウハウを習得しないとだね。夏が終わっちゃうし」

「……平均でどれぐらいかかりますか?」

「半月ありゃ済むな」

「行くぞ真治!! 夏が終わる前に!!」

「焦りすぎよ。普通にやってれば半月で済むんだから」

「ハッハッハ! まあ早いに越したこたァねえしなぁ! だが安心しろ! まずは思いっきり遊べぇ!!」

「信じてたよアニキ!!」

 

救いの神はあった――では、存分に遊ぶぞ!!

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ふぅ……」

 

 今日は遊んでいいとのお達しが来てから遊び倒し、今はお昼時。既に三時間は遊んだ。飯を食って一休みと行こう。

 

「目一杯遊んだ?」

「あ、ま、真癒さん」

 

 真癒さん、そのカッコはとても心臓とか他の部位に悪い。しかも前かがみにならないで下さいマイサンに悪いからァ!!……まあ、慎ましいから実際そこまでじゃな――やめて真癒さん無言かつ笑顔で俺にアイアンクローするのやめて、ってか俺の心読むのやめてください。

 

「失礼な事考えるからだよ。あと顔に出てた」

「誠に申し訳ありませんでした」

 

 熱い砂浜の上での土下座。やばい火傷しそう。

 

「それで、楽しかった?」

「はいとても! でも……」

「? でも……?」

「真癒さんも一緒だったらなぁ……って」

 

 流石に少し恥ずかしい。顔は間違いなく赤い。思わず目を逸らす……が、水着の美女がそこらじゅうにいるせいでむしろ目の毒になった。逆方向逆方向。美味そうな焼きそばが見えた。後で食べよう。……じゃなくて真癒さんだ真癒さん。見ると、キョトンとした顔をしている。と思ったら今度は満面の笑みで――

 

「いいよ。ご飯食べてお腹が落ち着いたら遊ぼっか」

「え、あ……いいんですか?」

「誘っておいてそれは無いでしょ。さっきまで何もしてなかったのは、単純に自分から動くのが面倒だっただけ。誘われれば行ってあげるつもりだったよ?」

「そ、そうなんですか」

「そういう事。それじゃ……ご飯、食べよっか。奢るよ」

「い、いや、それぐらいは自分で」

「先輩の施しは受けておくモノだよ。何食べたい?」

「あ、それじゃあ焼きそばと唐揚げを。飲み物はコーラで」

「はーい」

 

 まだまだ夏は終わらない。因みにこの数時間後、真癒さんとの遠泳で力尽きて漂流物になりかけた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

「真治と雄也のプロ〈ハンター〉就任を祝って――乾杯!!」

『乾杯!!』

 

 その夜。打ち上げという事で夕飯は砂浜でのBBQとなった。海水浴場の近所に住む俺の母方の祖父母や、ハンドルマスタッフで比較的俺達が顔を知っている人達が参加した。

 

「ありがとうね雄也。わざわざ誘ってくれて」

「ええよ婆ちゃん。ただまあ、爺ちゃん肉食えるかな」

「わしゃ焼きおにぎりがありゃ十分じゃ」

「そっか」

 

 爺ちゃんと婆ちゃんも元気そうだ。

 

「花音さん!! それは私の肉!!」

「ハハハ! 真治君! 若い内から食いすぎると太りやすくなるぞ!」

「嘘言わないでください!! それとアタシはまだ育ち盛りだから大丈夫です! 花音さんこそ太りますよ!」

「大丈夫だ! 今まで贅肉が腹に行った事はあんまり無い! 全て胸に行った!」

「なら、引きちぎってあげましょうか!?」

 

 向こうも向こうで騒がしい。花音さんと真治が肉を取り合ってるのか。食べ物の取り合いは醜いものだ。

 因みに、花音さんも水着だ。いやもうホント……凄いです。凄く目の毒。マイサン起きそう。

 

「雄也ァ!! 肉食ってるか肉ぅ!!」

「食べてるよアニキ。カルビもポポノタンも鶏肉も」

「ならばよぉし! もっと食うぞ!!」

 

 アニキは夜になっても元気だ。その傍らには教官が立っており、焼いた肉を凄まじい勢いで頬張っている。アレは早くしないと喰らい尽くされるな。

 

「真癒さん、何が欲しいですか? 取ってきますよ」

「ポポノタンお願い」

「分かりました」

 

 アニキ達が暴虐の限りを尽くしている所に横入りして肉を数枚いただく。よく焼けてるな。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 お礼を言うと、真癒さんが少し横に動いた。隣に座れってか。肉を食うには丁度いい。

 

「楽しかった?」

「何がです?」

「お昼の時と同じ意味」

「楽しかったですよ」

「それは良かった。一応就任祝いとして設けた日だからね」

「いきなり水練と言われた時は半ば理不尽と絶望を感じましたがね……」

「だから今日は遊んでいい、って言ったじゃん」

「そうですね」

 

 会話が一段落した気がしたので再び肉を頬張る。……にしても、ポポノタンはタンの癖してカルビ並に分厚い。食べごたえは最高だ。って、なんで真癒さんは俺をジロジロ見ながら笑みを浮かべてるのか。

 

「……どうしたんですか?」

「別に? 強いて言うなら……ある人を思い出したというか」

「ある人? まさか、元カレですか?」

「えぇっ!? な、なんで分かったの?」

 

 衝撃の事実。真癒さんは元リア充。まあ、美人だからいたとしてもおかしくはないか。ないが……モヤモヤするな。真癒さんが誰かと付き合ってたことじゃなくて、真癒さんが別れた経験があることに。こんなに美人で優しいのだ。加えて真癒さんが自身を捨てるような悪い男に引っかかるとも思えない。差し支えなければ知りたいな。

 

「教えてあげようか?」

「ナチュラルに人の心を読むのは辞めましょう真癒さん」

「君が分かりやす過ぎるの」

「そっちの訓練も必要な気がしてきました……」

「それで、知りたいの?」

「それは……まあ」

 

 ここで意地張っても意味は無いだろう。ここで折れた所で負けた気分になる訳でもないし。俺はプライドと好奇心なら好奇心を取る主義だ。意地や見栄など、自分の首を絞めるだけだと小学校で思い知った。お陰で小学生はボッチになった。

 

閑話休題

 

 とにかく今は、真癒さんの元カレが知りたい。

 

「いいよ、話してあげる。と言ってもそんな複雑な話じゃないんだ」

 

 一拍置いて、空を見上げながら話し始めた。

 

「彼と出会ったのは私が〈ハンター〉になりたての頃。つまりは〈ハンター〉一年生の時。なったのはもう三年も前かな?」

「って事は、俺と同じぐらいの時に?」

「そうだね。その時は【関東支部】にいたの。そこの訓練生顔合わせの時に初めて出会ったの。彼の第一印象は、『がむしゃら』だった。 何かに向かって一直線な姿勢だった。今思えば、強い〈ハンター〉になりたかったのかもね。

……そういう所は雄也君からも感じたんだ。〈滅龍剣皇(ジークフリート)〉や昔助けてくれた〈ハンター〉の事を目指して、ご両親と大喧嘩してでも突き進むほど、その一直線な姿勢を。

……でも危なっかしく感じたんだ。だからあの時彼によく突っかかってた。無茶しすぎだ、一人でやってるんじゃないんだぞ、って」

 

 その都度他の仲間に止められたけど、と言って今度は海の方を見つめる。その仲間は、今海外にでもいるのだろうか。

 

「でもその内、なんかとても放っておけなくなっちゃって。何とかして無茶を止めようとしてたらいつの間にか告白しちゃってて。そのまま付き合う事になったの。まあ嫌では無かったし、これも一つの経験だ、これで無茶を止められるかもしれない、って自分の中の戸惑いを抑えて付き合ったの」

 

 でも、と再び空を見上げる真癒さん。最後まで聞こう。それに、こんな顔をした真癒さんなんて、もう見れないかもしれないし。

 

「気が付いたら、絶対に失いたくない存在になってた。そしたら今度は私が無茶するようになっちゃって……大怪我した後大喧嘩して、謝ろうとしたら、いつの間にか彼は異動になってた」

 

 再び海の方を見る。……顔を見られたくないらしい。どうやら、自然消滅だったようだ。悲しい事だ。しかもこの様子から察するに、連絡は一切取れなくなったと見える。

 俺は、どうするべきか。慰めの言葉を述べるには、俺は真癒さんを知らなさすぎるし、何より聞いた俺が言えることではない。ここは――

 

「……すみません、辛いことを思い出させて」

 

 何はともあれ、謝罪しない事には始められない。

 

「ううん、いいの。他にも良かったことも思い出せたから。あの頃は、辛いことばかりじゃなかったし」

「でも……」

「……謝罪の意があるなら、そうだね……」

 

 手の甲で顔を拭い、こちらに向いた。目は若干赤い。しかし立ち上がってこちらを見据えてくる。

 真癒さんの表情(かお)が、さっきとは違い、どこか希望を持った顔をしている。

 

「大体の無茶なら許容されるほど、強くなりなさい。それが唯一謝罪の意を表せる方法だから」

「……はい!」

「だから……私の弟子になりなさい!」

「はい!……え?」

 

 人差し指をピンと伸ばして俺を指さし、唐突に弟子宣言された。

 

「ななな、何でですか!?」

「それが一番手っ取り早いかな、って。元々弟子にするつもりはあったし」

「そ、そうなんですか……」

「うん、だから……これからもよろしくね」

「拒否権無しっすか……まあいいです」

 

 俺も立ち上がって真癒さんに向き合う。真癒さんの目を見て、ハッキリと宣言させてもらおう。

 

「これから、よろしくお願いします。でも真癒さん」

「ん? なに?」

「真癒さんに教えてもらう以上、十年……いや、五年後には追い越してみせます。覚悟してください!!」

「へぇ……」

 

 真癒さんが悪そうな笑みを浮かべる。あ、これこの先、酷くしごかれる事になりそう。

 

「なら、地獄のような特訓も覚悟の上だね?」

「っ……も、もちろんです!!」

 

 見栄を張ったつもりはない。〈滅龍剣皇〉のような、そして真癒さんのような〈ハンター〉を目指す以上、決して楽な道のりでないことぐらい分かってる。流石にどっかがもげるようなのは勘弁願いたいが。

 

「ふ~ん? まあ、今はそういうことにしておこうか」

 

 随分と怖いモノを感じさせる返事だが、ひとまずほっとする。

 

「それじゃ、明日からだね。今日はまだ時間があるもの。まだ楽しもう?」

「はい!師匠!!」

「……恥ずかしいから今まで通りでお願い」

「はい! 真癒さん!」

 

 俺と真癒さんの師弟関係が始まった。さて、明日からこれまで以上に全力で頑張っていくか。


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