Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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おはこんばんちは、Gurren-双龍です。

(三週間ぐらい遅れの)明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

ってな訳で今年最初の投稿です。着実に頑張ります。


第4話 初狩猟(ファースト・クエスト)

2011年 6月11日

 

 

ギャア!ギャア!

 

「とりゃあ!」

 

ギアァ!?

 

 青い鱗やトサカが特徴的な、某恐竜映画でよく見る小型恐竜のような〈モンスター〉——ランポス——に酷似した訓練用ターゲットが、俺の双剣(ツインダガー)の斬撃を受け、断末魔を上げながら倒れた。これで既に4匹。徐々にだが、双剣という物の効率の良い振るい方が分かってきた気がする。……真癒さんからは絶対に『まだまだ』って言われるだろうが。

 

ギアァ!ギアァ!

 

「鬱陶しいわね! 数だけはホント多いんだから!」

 

 冬雪は冬雪で、構えたライトボウガン——恐らくは新人用の『クロスボウガン』——から通常弾Lv.1を、訓練用ターゲットに向けて放っていた。

それだけなら普通なのだが、冬雪の射撃は見ているだけで魅了される。なにせさっきから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。真癒さんが驚愕を隠しきれず、何度も見せてくれと懇願するほどだ。そこからも、アイツの射撃の才能がどれほどの物か窺い知れる。実際に何度も目の当たりにしているのだが、何度見ても驚愕モノだ。……武器の性能がイマイチなためか、即死まではさせられてないようだが。

 

ヴィー!ヴィー!

 

 と、そこまで考えたところでけたたましいサイレンが鳴った。これが鳴ったということは……

 

親玉(ドスランポス)のお出ましか」

「今回こそぶっ倒してやるんだから!」

 

ギィアァ!ギィアァ!

 

 俺達が立つ所から少し離れた高台から、青い鱗にランポスのものより鮮やかで大きいトサカを持った〈モンスター〉が現れた。あれがドスランポスだ。周りには、ランポスが数匹並んでいる。

 

「冬雪! バックアップを!」

「分かってるわよ!」

 

ギアァッ!!

 

 ドスランポスが飛び降りてきた。それに釣られて、周りのランポスも降りてきた。

 

「行くぜ!」

 

 リロードをする冬雪を尻目に、俺はランポス達に向かって突っ込んで行った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「……で、返り討ちにあったと。もうこれで四回目だよ? 流石に学習してよ……」

 

 真癒さんが目尻を抑えながら、正座をさせられた俺と冬雪を見下ろしていた。……無理もない。途中で俺と冬雪が口論になり、そこを突かれてやられてしまった——訓練時は致命傷になりうる攻撃を受けると判断されたところで強制終了なので、厳密にはやられてない——のだ。

ひだが、誰だって文句を垂れたくなるだろう。俺とドスランポスの位置が重なっているのに、そのまま撃てば頭部だからと引き金を引くような(どアホウ)相手には。

 

「このバカがアタシの射線上にいるから!!」

「このアホが俺ごとぶっぱしようとしやがるから!!」

「いい加減にしなさーい!!!」

「あだぁっ!?」

「うごぉっ!?」

 

 思い出したせいで再発した口論は、真癒さんが振り下ろした拳骨によって鎮められた。痛すぎる。〈龍血者(ドラグーン)〉の筋力は、(個人差もあるが)『鎧竜 グラビモス』の甲殻を拳一つで陥没させられると聞く。手加減はしてくれたであろうが、妹の方と比べれば、圧倒的だ。具体的に言えば、猫パンチと熊パンチぐらい差がある。どちらがどちらなど、言うまでもないが。

 誠也さんに目をやると、俺達を見兼ねたのか、ようやく口を開いた。

 

「まあまあ姐御。まだ訓練だ。直す猶予はまだあるだろ?」

「訓練のための訓練じゃダメなのよ!本番の気持ちで行かないと!」

「そう言われたら何も言えねえ」

 

 折れるの早いよ誠也さん……ってか、今まで気になっていたことがあるんだった。

 

「誠也さん、質問いいですか?」

「ん?なんだ雄也?」

「なんで誠也さんは、真癒さんのことを『姐御』って呼ぶんですか?」

 

 実は初対面から気にしていたことだ。どう見ても誠也さんの方が年上に見えるのに、真癒さんに対して『姐御』という、明らかに年上か目上の人に付ける呼称を使っていることに、違和感があったからだ。

 

「……もしかして私、誠也より年下に見えてる……?」

 

むしろ、誠也さんが真癒さんよりも年上に見えるだけです。真癒さんの年齢知ってますし。

 

「……え。まさか……」

「言ってなかったか? 真癒の姐御の方が一つ歳上だぜ?」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「まさか……気付いてなかったのアンタ?」

 

 気付けるかよ。誠也さんの容姿、どんなに若く見積もっても20代前半にしか見えないんだ。

 

「……俺、結構老けて見えてたのな……」

「だ、大丈夫です!! かなり若く見積もったら20代前半ぐらいに見えますから!」

「かなり見積もらなかったらいくつに見えんだよ俺!」

 

 誠也さんの悲痛な言葉が響くが、ノーコメントとしよう。

 

「あ、そうだ。2人に明日話すことがあるんだ」

「明日?今でなくて?」

「明日の方が都合が良いんだ」

 

 わかりました。そう答えて間もなく、その日は解散となった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

6月12日

 

「「出張!?」」

「うん。私と誠也でね」

 

 翌朝。聞かされたのは、予想もしない事だった。

 

「ど、どこにですか!?」

「ちょっと関東支部にな。近い内にヤバイのが来るかもしんねえから、集まってくれ、ってよ」

「い、いつまでなのよ!?」

「長くても2週間で済むと思うよ。その間に二人が対処できない〈モンスター〉が現れた場合、即座に近くの支部を頼るよう、支部長には伝えてあるから、戦力の心配はしないでいいよ」

「な、なるほど……」

 

 突然だな……まぁ、ヤバイ〈モンスター〉が来る可能性がある以上、仕方ないことだ。

 それに、わざわざ他支部から頼られるって事は、真癒さんがそれだけ信頼を得た〈ハンター〉であるということ。勝手ながらではあるが誇らしくなるものだ。

 

「取り敢えず、分かりました。因みに向こうにはいつ行くんですか?」

「ん? 今日の夕方からだけど?」

「早っ!? どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか!?」

「しょうがねえだろ。昨日の朝聞かされたんだから」

「私達の方がいきなりすぎて訳わかんなかったよ……」

 

 と、いうわけで、真癒さんと誠也さんは出張のため【第一中国地方支部】

を離れた。残った〈ハンター〉は俺と冬雪の新人二人。……どうか、厄介な〈モンスター〉が現れませんように。

 

 

◆◇◆◇◆

 

「お姉ちゃん、アニキ!行ってらっしゃい! お土産期待してるね!」

「真癒さん、誠也さん。行ってらっしゃい。お土産は別にいいんで、無事にやって来てください」

「おう! 言われずともな!」

「それじゃ、行ってきます」

「「行ってらっしゃい!!」」

 

 雄也君と真治の見送りを受けながら、私達は用意された武装ヘリに乗り込んだ。このヘリは〈龍血技術(ドラグテック)〉——私のような〈龍血者〉を始めとした、龍力絡みの技術の総称——によって、『火竜 リオレウス』の火球ブレスぐらいなら平気で耐えられる装甲を持つため、近隣の住民や市街に被害が及ぶ可能性が()()()()()と判断されれば、〈モンスター〉を無視していける代物だ。……まあ、まず無視なんて無いのだが。

 

「ふう。やっと落ち着けるな」

「そうねー。〈モンスター〉さえ出なければ、後は余裕ね」

 

 ドアが閉まり、ヘリが上昇し始めた。最新鋭なのもあって、中々速く上がる。

 因みに、このヘリが飛ぶ高度で〈モンスター〉に遭遇する確率は2%と、(私達の業界的に)低いんだか高いんだかよく分からない数値である。とはいえ、リオレウスなどの高い飛行能力を持つ飛竜種の飛行高度を上回って飛ぶため、ほとんど出会わないし、そもそも前例でも、高度を下げた辺りか、上げ始めたあたりで遭遇したものばかり。このヘリの最高高度で出会いうる〈モンスター〉なんて、それこそ古龍種か未確定種(Unknown)ぐらいなもの——

 

「……アレ?」

 

 そこまで考えて、私は気が付いた。窓の外に見える光景には金粉が舞い、更に強い風が吹いている様が映っていることに。しかもあの金粉、()()()()()()()()。宿る属性エネルギーは……雷と氷。龍力から一度に複数の属性エネルギーを感じた事はこれまでにもあるが、雷と氷なんて組み合わせ、今まで一度も感じたことが無い。

 

「……」

「ん? どうした姐御。そんな険しい顔して」

「誠也、いつでも武装展開できるようにしておいて。それと、いつでもパイロットを助けられるようにしておいて」

「……姐御?」

 

 私のただならぬ様子に誠也も何か感じ取ったのか、あるいは外の金粉を見て嫌な予感がしたのか、少し青い顔で武装選択を始めた。

 

「姐御、属性は何がいい?」

「雷を。私の直感がそう告げてる」

「あいよ。だったら『白雷銃槍 ライオルド』だな」

 

 いつの間にか、金粉の量はもっと増え、風も強くなってきている。……本格的にヤバイわね。

 

「な、なんか……風強いし変なの浮いてますね……」

「パイロットさん、パラシュートはちゃんと付けてる?」

「へ!? そ、そりゃもちろん」

「ならばよし」

 

 パイロットを安全に逃がせれるか確認して、私は相棒たる双剣、『双龍神(そうりゅうじん)黒天白夜(こくてんびゃくや)】』を取り出した。

 

「一応、荷物はちゃんと一箇所に纏め直しといて」

「あいよ」

「パイロットさん、何が来ても冷静にね? 私達がいますから」

「は、はい……」

 

 無理な気はするが、一応釘を刺しておく。さて、まだ本体を見てないが、風が強くなりすぎてヘリがさっきからグラグラしているため、実は今結構危ない。

 

「な、なんだあれは!?」

「!? どうしましたか!?」

「ま、間違いない! アイツは古龍級だぁ! 逃げなきゃ殺される!」

「落ち着いて! 何を見たの!?」

「あ、アレ……」

 

 パイロットが指さした先にいたのは——

 

「なに……あれ、は……」

 

指さした先には、金色の甲殻に身を包み、水晶のような物があちこちに生えた、四足と一対の翼を持つ——古龍種〈モンスター〉、『鋼龍 クシャルダオラ』に似た姿形をしている——〈モンスター〉が、体を丸めて佇んでいた。

 

「……幸い、今は寝てるみたいね。このままやり過ごせば……」

「…………」

「……? どうしました?」

「こここ、ここで死ねええええ!!」

「「ちょっ!?」」

 

 半狂乱になったパイロットは、対飛竜用ミサイルの発射ボタンを押してしまった。外の様子を見るに、全弾撃ってしまったようだ。あれはせいぜい、閃光玉のような一時的に動きを止める程度のものなのだが、彼の頭の中に、そんな事は一切無いのだろう。

 

「あぁ……!」

 

 着弾し、小規模な爆発が起きた。煙が晴れたが、そこには一切の傷はなく(そもそも龍力で加工してないので当然なのだが)、更に悪いことに、その龍を目覚めさせてしまった。

 

「このバカ! 取り敢えずそこどいて!」

「へ? うわぁっ!?」

 

 イラついた私は、ともかくパイロットの安全を確保するため、シートベルトを引きちぎってから誠也に投げ渡した。

 

「姐御、ヘリの操縦とかできんのかよ!?」

「出来る訳ないでしょ! でも墜落コース設定ぐらいなら出来るから!」

 

 ハンドルマの所有するヘリには、便利な事に墜落コースを設定できる。とはいえ、本来はかなり厳重なロックが掛けられているため、今回は私の龍力を流し込んで強引に設定画面を起動させた。

 

「えぇっと……今は三重県上空ね。取り敢えず海に投げとこ」

 

 幸い、臨海の県だったため、落とす場所探しに苦労はしなかった。

 

「誠也! 一番近くの支部に連絡を!」

「もうやった! 一番近くって、大阪のだよな!?」

「合ってるよ! 因みに荷物は!?」

「墜落用のデカイ袋に押し込んどいた!」

「よし! ここからスカイダイビング出来る!?」

「エベレストから紐なしバンジー余裕だぜ!」

「流石〈ハンター〉! 当然よね!」

 

 さっきのパイロットのアホな行動に半ばキレた状態のまま会話するが、誠也は相手のテンションに合わせるのが上手いため、ストレスなく話せる。……相手のテンションを呑む方が上手いが。

 

「パイロットさん! アホやらかしたんだから、さっさと出てね! 守るぐらいはしてあげるからさ!」

「は、ハイ!すいませんでしたぁ!」

 

 流石に自分の非に気が付いてるのか、パイロットはかなりビクビクしている。自業自得なので同情などしてやらないし、むしろもっと罵ってやっても許されるぐらいだ。時間無いからしないけど。

 

ゴアァァァァァァァァ!!!!

 

「あ、ヤバイ」

 

 どうやら、向こうはこちらを敵と認識したみたいだ。もう、悠長なことは言ってられない。幸い、ヘリの墜落コースは厳重に守られたブラックボックス的な部分が実行してくれるため、破壊されても問題ない。分解されても、龍力のフィールドを発生させて分解部分を逃がさず墜落してくれる。本当に便利なものだ。そろそろ旅客機に搭載してもいいかもしれない。

 

「姐御! もう行くぜ! 」

「うん! すぐ私も行くね!」

 

 私の言葉を聞くと同時、誠也とパイロットは飛び降りた。因みに誠也は、防具——多分普段から付けてる『グラビドU』辺りだろう——は付けてるが、パラシュートを付けてない。〈ハンター〉は大気圏突入ぐらいでもしない限り、高高度から飛び降りて死ぬなんてことはない。心配無用だ。

 

「心配なのはむしろこっちよね……」

 

 敵とは認識したものの、やはり警戒しているのか、まだ近付いてこな——あ、羽ばたいて突っ込んできた。飛び降りないと。

 

「とりゃあ!」

 

 出入口から飛び降りるのも面倒なので、取り敢えず壁を蹴破って外に飛び出した。一応防具『ミラルーツZ』を着用する。因みにこの防具の素材元、未だに明かされてないのだが、私の予想では恐らく前大戦——かつて〈モンスター〉が人類の全人口の何割かを屠った十二年前の『第一次対龍戦争』——の終盤に現れた()()()()()()()()()()()から作られたものだと思う。その〈モンスター〉、少なくとも三年前以降の記録では出てこなかった。実際聞いたこともないし。

 

ゴアァァァァ!!

 

 聞こえてきた咆哮に目をやると、既にバラバラにされたヘリと、それを切り刻む烈風が見えた。ついでにさっき見た金粉も。あと、こちらに気が付いてないのにも分かった。

 

「金色で風を操る、クシャルダオラ似の〈モンスター〉。んで、属性エネルギーは雷と氷の複合型……関東支部には絶対伝えとかないと」

 

 世界でも有数の最前線として知られる【ハンドルマ関東地方支部】は、既に何らかの情報を掴んでるかもしれないが、報告が無いよりマシだろう。

 

「取り敢えず、誠也達に追いつかなきゃ」

 

 降下のために剣をしまうが、いつでも出せるようにはしておき、早く降りるために体を地面に垂直に近くなるように傾けた。

 あ、誠也見っけ。この後のことは後で考えよう。でも一番心配なのは、あの古龍にビビった何かの〈モンスター〉が、そのまま雄也君達の所に行かないかどうかだ。鳥竜種ならばまだ対策のしようがあるが、飛竜なんて来た日にはボロ雑巾確定だろう。

 出発前にも祈ったけど、念のためもう一度。どうか、二人の元に厄介な〈モンスター〉が現れませんように……

 

 

◆◇◆◇◆

 

6月13日

 

「えぇっ!? 真癒さん達の乗ったヘリが墜落!?」

「ちょ、ちょっとどういうことなのおじいちゃ——あだっ!」

「ここでは支部長と呼べ、と何度言ったら気が済むんじゃお主は」

 

 支部長から、真癒さんにされるのと同様、なかなか威力のあるデコピンを喰らって冬雪撃沈。と思ったらすぐに起きた。慣れてんのか。

 

「それで、真癒さん達は?」

「どうやら、墜落する前に脱出したようじゃ。パイロット共々、全員無事。今は大阪にある【近畿地方支部】に厄介になっとるようじゃ」

「な、なら良かった……」

 

 二人の安否がわかり、俺以上に安堵した様子の冬雪。家族の安否だ、そりゃ不安にもなるか。

 

「いいニュースがある時は、悪いニュースもあるものじゃぞ、若人よ」

「まだ……何かあるんですか?」

「その説明は、ちゃんとした場所で話そう。付いてきなさい」

 

 支部長は俺達に背を向け、どこかに向かって歩き出した。俺と冬雪は顔を見合わせ、取り敢えず支部長に付いて行くことにした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 そうして着いたところは、まるでアニメや映画に出てくるような、司令室だった。より具体的に言うと、某新世紀なアニメの司令室を、もう少し縮めたような感じ。

 

「あの支部長……ここは……」

「もう大方予想がついておろうが、ここは戦闘に出た〈ハンター〉を支援するオペレータールーム。面倒じゃし司令室でええわい」

「カッコイイ……」

 

 冬雪も初めてなのか、辺りをキョロキョロ見渡していた。俺だって我慢してんのにコイツときたら。

 

「さて、二人に改めて説明しておこう」

 

 支部長の言葉と同時に、正面にある大スクリーンに、複数の〈モンスター〉の姿が映った。そいつの姿は、俺も見慣れた物だった。

 

「『ドスランポス』……?」

「それに『ランポス』も……?」

「先ほど、こやつらが何かから逃げるようにこちらに群れで向かっていると、偵察班から報告があった」

 

 中央の席まで歩きながら、状況説明を始めた。……まさか。

 

「群れとは言ったが、せいぜい10匹にも満たぬ群れ。よって——」

「新人である私達にも相手出来るだろう、って事で、アタシ達に討伐命令を出す、って事ね?」

「正確には、捕獲も許可するので狩猟命令、って言うんだがな」

「揚げ足取るな!」

「取ったつもりもねえよ」

「そこまでにせい」

 

 また言い合いになろうという所で、支部長の発した厳格な声が俺達を止めた。支部長の方を見ると、制服と思わしきコートを、袖を通さずに羽織り、いつも通り杖を突いて立っていた。それだけ見れば、コート以外何も変わらないように見える。しかし、〈ハンター〉になってから気配に敏感になったせいか、支部長の放つ雰囲気がいつもとは一線を画すモノを発していると感じさせる。

 

「改めて、よろしいかね?」

「は、はい」

「ご、ごめんなさい」

「分かれば良い。……では改めて。支部長として、〈ハンター〉訓練生たる上田雄也、冬雪真治に命じる!」

 

 司令室全体に響き渡る声で、支部長は高らかに告げる。

 

「市民の平穏を脅かしうる()の〈モンスター〉を、持てる全てを持って迎え撃て!」

「「了解!!」」

 

 こうして俺達の初狩猟(ファースト・クエスト)は、高らかにその発動を宣言された。


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