Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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ほぼ半年ぶり申し訳ない。卒論は終えたのでここから頑張り直します


第31話 血混じりの白金

「メキシコシティ支部の二名、現在別任務中でした!!」

「グランドキャニオン支部、こちらは休暇です! すぐ向かわせるとの事!」

「スコットランド支部、こちらは関東支部と同じ回答です!」

「トムス=オルダックだけでも来られるか……! 急がせるんじゃ!! ドクター篝火も呼ぶよう関東に再度連絡を!!」

 

 雄也との通信が途絶えてから数分、司令部は急いで、各国支部の中で〈龍血者(ドラグーン)〉が所属する支部に片っ端から連絡を入れている。その中ですぐに動けるのは一人だけ……トムスは確かに頼れるけど、それでも雄也と真治(まや)の撤退の後に間に合うか。そもそも、二人が撤退すら出来るか。二人の力を疑う訳じゃない。それでも……

 

『彼が一人で!? なんで!?』

『お願い……無事でいて……!!』

『一人で無茶して……馬鹿……!』

 

 ドラギュロスの時は、私や仲間が行って、()は助かった。すぐ皆が動けたから。でも今は、何もかも違う。雄也は()と違って〈龍血者〉ではない。すぐに駆けつけてくれる仲間は、他に居ない。助けられるのは、動けるのは、ただ一人──

 

「……うっ」

「大丈夫、真癒ちゃん?」

「……トイレ、行ってきます」

「……うん、こっちは気にしないでね」

「ありがとう、ございます……」

 

 そして、ごめんなさい。オペレーターさん。

 

「すみません支部長……」

「無理は、するでない」

「ありがとう、ございます」

 

 ごめんなさい、支部長(おじいちゃん)

 

 「……」

 

 司令室を出て、トイレ……ではなく、屋上に出た。

 

「ごめんなさい。私は──」

 

 私は、私を想ってくれた人、助けてくれた人、全てを裏切ってでも、過ちを繰り返すとしても──

 

「大事な人を、助けたいから」

 

 紅が迸った。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「なんで……真癒さん……」

 

 俺と真治の目の前に、金色の龍の眼前に立ちはだかったのは、忘れもしないあの日(始まりの刻)に差し伸べられた、救いの手の持ち主。

 

『この識別信号……まさか!!』

「……ごめんなさい。でも……」

 

 申し訳なさそうに、しかし硬い決意を表すように、剣を強く握ると彼女の身体に紅い雷光が走った。

 

『馬鹿者!! お前……真癒……なんてことを……!』

『トムスさんが来るのよ!? 貴女が出ることなんて……!』

「私は今、二人を守りたい……!」

 

ギュルルロロォアァ!!

 

「二人から……離れて!!」

 

キ"ア"ァ"!?

 

 白夜を一閃、次は奴の左眼を斬りつけた。

 

「動かないで!!」

 

 怯んだ隙に投げナイフを打ち込む。俺では弾かれたが真癒さんなら──

 

キ"……ア"……アッ"……!

 

 〈龍血者〉の膂力と精度なら、甲殻の隙間を塗ってナイフを打ち込み、肉を切って麻痺毒を入れるなど造作もないらしい。

 

「二人とも!」

「ま、真癒さ──あぁっ!?」

 

 凄まじい力で引っ張られる。しかも今まで体感したことの無いほどのパワーだ。そのまま、逃げ込もうとした地下道への入口にまで引っ張られた。

 

「よっと。ここなら、アレも来れないかな……」

「……真癒さん……」

「話は後。真治の応急処置をするよ」

「……はい」

 

 横抱きにしていた真治ごと地下に運び込まれたが、真癒さんはここまでパワーがあったろうか……そんな疑問は尽きないが、まずは真治をゆっくりと横にする。

 

「雄也、結晶化への対処方法は?」

「衝撃です。人体に無害な方法を取るなら、音爆弾のような高周波を利用します……でも真治の結晶は……」

「刺さってる、ね。幸い急所には刺さってない。でもこのまま対処すると、真治の体内に結晶成分が残る……」

 

 でも、と言いながら、真癒さんは黒天の切っ先を真治の結晶に付けた。すると──

 

「……! 分解……されてる……?」

「……凪咲(なぎさ)から……ドクター篝火から聞いたんでしょ?龍属性の力のこと」

「反転……」

「やったことは無かった……この結晶の龍力が『結合』されてるから、逆にする……『分解』するなんて」

 

 一つずつ、切っ先を当てていく。幸い大きな結晶が数箇所、これならこの処置で……待て、龍属性?ってことは……

 

「待って真癒さんそれは──」

「黙って。集中出来ない」

「……ッ……はい……」

 

 真治の治療も必要な以上、ここで邪魔すれば無駄になる。黙るしか、できない。

 黙って見守っていると、最後の結晶に切っ先が触れ、粉のように、結晶が消えた。

 

「……後は……」

 

 真治の胸元に、手を添えた。すると、温かな光が真癒さんの手元から放たれた。

 

「……これは……」

「龍力は意思に応える力……特にそれが強く根付く〈龍血者〉のそれは……特殊な性質を発することもあるの」

「性質……?」

「私の性質は……『治癒』……龍力を通して、生物の身体を治す力……これが私の性質」

 

 確かに、力を受けた真治の呼吸はみるみる安定し、流れてた血もあっさり止まって傷口も塞がった。

 

「私の体内機能を担う龍力は反転したけど……これは無事で良かった……」

「真癒さん……」

 

 真治が回復したことを確認し、かざした手を離す。

 

「雄也、手を出して」

「あっ、はい……」

 

 言われるがままに手を差し出す。手を取った真癒さんの手から、また温かな光が放たれた。

 

「……これは……」

 

 痛みが引いていく。身体が軽くなる。今までのダメージが嘘のようだ。

 

「もういいかな?」

「あっ……はい」

「なら撤退しよう?そのために移動してたわけだし」

『……もう良いかの』

「支部長……」

 

 通信を付け直すと同時、支部長からの通信が入る。やはりというか、真癒さんの行動に対してただならぬ感情になっているようだ。

 

「……ごめんなさいお爺ちゃん。でも私は……」

『……まずは帰ってくるのじゃ。無事にな』

「…………はい」

 

 険しい表情をしていたであろう声が、少し緩んだ。支部長も、これ以上は帰ってこないとどうしようもないと理解したからだろう。……俺としても……帰らなくてはなんともならないしな。

 

「真癒さんは、先導をお願いします。真治は俺が」

「うん、お願い」

 

 こちらを一瞥し、歩き始めた。俺は真治を背負い、歩き始める。

 

「真癒さん……一つだけ良いですか?」

「何?」

「……ACCデバイス……ロックされてたはずなのに……どうやって……」

「所詮機械だもの、私の雷なら、強制起動も出来る」

「真癒さん……」

 

 聞きたくなかったけど、やはりそうなのか。龍力ってのは、つくづくデタラメだ。

 

「……もう、無茶はしないでくださいね。これ以上は……」

「分かってるって。私も死にたいわけじゃないもの」

「なら、いいんです。これ以上は……真治やアニキが悲しむ」

 

 背負った戦友を一瞥する。半年前、一番焦ったのはこいつだろうに、俺を案じて、なんも言わなかった。でも、きっと悲しんでたし悔やんでた。これ以上、そうはさせたくない。

 アニキだって、俺よりも真癒さんとの付き合いは長い。俺たちに見せなくても、悔しさと悲しさでいっぱいだったはずだ。

 

「……雄也は?」

「俺だって……同じです。真癒さんに死んで欲しくないし、それに……」

「それに?」

 

 先を行く真癒さんを少しだけ追い越して、目を見る。

 

「俺、まだ真癒さんのこと、守れてないですから」

「……そっか」

 

 真癒さんは、安堵したような、少し寂しいような、そんな顔をしていた。

 

「だから、早く帰りましょう、真癒さん?生きて帰れば、何とかなりますから!」

「……うん」

 

 再び避難経路に足を向けた。その瞬間──

 

「うわっ!?」

「これは……」

 

 天井が……いや、地下である以上これも地鳴りか。地鳴りが始まった。地震か?

 

「……もしかして……もう……?」

「真癒さん……?」

「眼を叩き切ったから、しばらくはのたうち回って私達を探すことも無いと思ってたけど……」

 

キア"ァ"ァ"ッッ!!

 

 真癒さんの想定を嘲笑うように、黄金の龍の咆哮が地下にまで響く。

 

「ここに来る前に鍾乳洞で食事をしてたらしいし、私も力が落ちてきたのかな……思ったより治りが早かったみたいだね……!」

「そんな……!」

「もっとも、今は探してると言うより自分に傷をつけた私への怒りで暴れ回ってる感じだね。それでも、下手したらこの地下道まで突き破ってくるかもしれない」

「……!」

 

 それは、今最も避けなくてはならない。怪我をした真治と、これ以上の戦闘は更に寿命を縮めてしまう状態の真癒さんに、大きな怪我こそしてないが消耗した俺。とても奴と戦えるような状態ではない。

 

「だ、だったら! 地下道でも建物の真下に当たる部分はありますよ!!そこに──」

「いくら〈ハンター〉の身体能力でも、人間一人抱えてるんじゃ速度が落ちる。それに、ここから建物の下にまで行くには、多分──間に合わない」

 

 断言して俯く真癒さん。諦めるなんて、そんな貴女らしく、俺達らしくないじゃないですか真癒さん……だったら……!

 

「じゃあ真癒さんが真治を!その間に俺が奴を引き付ければ──」

 

 腹に痛みが走り、全身に軽い電流が走った

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「ガッ──」

 

 小さな断末魔を上げて、真治を背負ったまま雄也は倒れる。腹パンだから前に倒れ込むし、超弱めの電流も入れたから何とか気絶してくれた。背負ってた真治も怪我はない。

 

「……ごめんね雄也。君は強くなったよ……でも……古龍は……」

 

 背負ってた真治と雄也をそれぞれの手で抱き締めてから、床に寝かせる。あ……雄也のACCデバイス、ちゃんと私からの誕生日プレゼントなんだ……良かった……ちゃんと、受け取って使ってくれて。

 これをあげることを決めた日を思い出す。アレは古龍でこそ無かったが、それでも匹敵する存在になり得た。だからますます実感する。

 

「あの古龍(やくさい)は、()()では立ち向かえない」

 

 だからこそ、前大戦でも今も、〈龍血者〉が産まれたんだ。人が生きるために、常人の肉体を捨てて前に進む存在が。

 

「……司令部、こちら冬雪真癒」

『……真癒ちゃん……貴女……!』

「時間がありません。私の今いるポイントに雄也達を置いていますから、回収を。それから……」

 

 聞くことは酷だと思う。それでも、進むために。

 

「──私の活動限界時間はどれほどになりますか?」

『ッ……それは……』

『……ドクター篝火曰く、通常戦闘なら6時間、『龍活剤』の服用で4時間まで減少、〈破龍技(ジーク・アーツ)〉一発ごとに30分減り、〈龍血活性(ブラッド・アップ)〉を一度でも使えば2時間まで縮小する、とのことじゃ』

「……分かりました」

 

 支部長(おじいちゃん)が答えた。これは恐らく、戦闘後に「十分な処置を行えるライン」だろう。凪咲は私の最も信頼するドクターだ。必ず私の生命を救うため、私が無茶を選んだとしても、という手段を用意しているはずだ。だからこそ、この時間。でも──

 

『ドクター篝火にはもう声をかけてある。だから無理はするな』

「了解」

 

 私は、もうそれすら裏切ってでも二人を守ると決めたんだ。謝って済むことじゃない。死後にどんな謗りを受けるか分かったもんじゃない。それでも、私は迷いたくない。助けたい生命のために。

 

「奴は、まだ上だね」

 

 外に出よう。まずはそこからだ。来た道を戻り、再び奴を見つけた。まだ気付いてない、今の内に『龍活剤』──『ドラギュロス』の時にも飲んだ、私用の活性剤を飲み干す。

 

キア"ァ"ァ"ッッ!!

 

 私に気付き、怒りに吠える黄金の龍。これからの攻撃は、きっと雄也がギリギリで捌いてきたそれとは比べ物にならないだろう。でも、それでも──

 

「──最後だよ、黒天白夜。私の生命を使い尽くしてもいい、だから……」

 

 双剣を抜き、親指の腹を噛み切って己の血を啜る。強く握った双剣が力を纏い始める。白刃に赤雷が、黒剣に火炎が走る。

 

「どうか、あの龍を退ける力を」

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!!!

 

「はぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 鬼人化(天へと掲げ)真・鬼人解放(果てに振るい)極・鬼人解放(地に払う)。〈龍血活性〉に極・鬼人解放。私に振るえる全てをこの龍にぶつけて、私はこの龍を退ける!!!!

 

「過ちを繰り返したとしても……これが、私の生命の使い道だから!!」

 

 愛する者の為に生命を使う。そもそも私は、おじいちゃんの仕事を助けたくて、お父さんが死んじゃって大変な私の家族を守りたくて、この戦場に来たんだから!!

 

キア"ッ……キア"ァ"ァ"……!!

 

 吠えたててすぐに飛び退く金色の龍。同時に周囲から光が目覚め始めた。あらゆる外敵を焼き滅ぼす黄金の光が。

 

「もうその技は……喰らわない!!」

 

 だけど私はもう気付いてる、絶殺の光だけではなく、奴自身を覆う薄い光があることに。つまりそれは──

 

「その光に! 貴方自身も耐えられないってことでしょ!!」

 

 地を蹴り、光の壁に入り込み、そして!

 

「でぇぇぇぇぇぇいっっっっ!!!!」

 

キシャァ"ァ"ァ"ッ"ッ"!!??

 

 咆哮のために持ち上げたその顔面を、首ごと揺らすために蹴りを入れる。直後──

 

キ"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"ッ"!!??

 

 焦げ臭い匂いが立ち込めた。あまり体感したことは無いが、これが「金属の灼ける音と匂い」なのだろう。上手く行った。さしもの古龍も、普段が四足歩行なら二足でのバランスは劣悪。そこを強く横に揺らされれば体勢を崩し、そしてその巨大な翼を含む巨躯は、否応なしに光の壁の外に出て、己を守る膜も意味を為さずにその身を焼く──!

 

「これで──カフッ!?」

 

 こんな時に血が……!しかも空中だってのに……いだっ……着地、失敗……でも向こうも痛みに悶え苦しんでて良かった。反撃の気配はない。

 

「ふぅ……悪いけど、これ以上は好きにさせられないよ」

 

キィ"ィ"ア"ァ"ァ"……!!

 

 血を拭いながら、通じるはずのない言葉を語る。私自身の独り言か、本気で語り掛けてるのか、自分でも少し曖昧だが。

 しかしここからこの龍は、恐らく怒りのボルテージも過去最大、少なくとも私の今まで相手してきた〈モンスター〉達の中でも最強クラスの存在となるだろう。興奮しきったあの巨躯は、翼や手足を打ち破ったくらいでは止まる気配はない。龍属性の痛覚反転も、そもそもドラギュロスと違って焼き切れたわけでは無いため、効果は無いだろう。それでも──

 

「一歩だって退いてなんかやらない。この想いは……」

 

 剣を構える。私の覚悟はただ一つ。

 

「古龍だろうと、止めさせない!!!!」

 

キ"ィ"ィ"ィ"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッッッ!!!!!!!!

 

 再び吠える金色の龍に、白夜の切っ先を向ける。例え古龍(天災)相手だろうと、私は高らかに吠えてやる。

 刹那、背中が熱くなる。あるはずの無いものが光り始めるような、無くしていたものがもう一度目覚めるような、そんな熱が広がる。そっか……これは……()()()!!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!」

 

キァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッッッ!!!!!!

 

 地を蹴り、交差した刃を左前脚に斬り払う。奴が振りまくような黄金の粉塵が舞う。やはりアレは、この龍の鱗や甲殻由来の代物──!

 

ギャア''ァ"ァ"!!

 

「確かあの時感じたのは……白夜(こっち)!!」

 

 右前脚の振り払いに合わせるように白夜を逆袈裟に薙ぎながら距離を取る。上手く斬りつけた右前脚を注視すると、白夜の赤雷が僅かに帯電していた。それも、割れた鱗が弾けるように。

 ──雷が効果アリだ。あの時の勘はやはり間違いではなかった。白夜と黒天の柄尻を連結し、白夜に力を集中させる。空いた右手には投げナイフ……こちらは帯電させれば何とか有効打になるか。場合によっては投げナイフに龍力を溜め込み、当たった所で爆発させれば──!

 

「はぁっ!!」

 

 もう一度右前脚に向け、投げナイフを撃ち込む。狙うは先程斬りつけた傷口!!

 

キアァ"ァ"……!

 

 抵抗するかのように左前脚で薙ぎ払──おうとするも、電撃の痺れが発生したのか、鈍化した動きでは間に合わず投げナイフは傷口に刺さった。それを確認して、指を鳴らす。

 

キア"ァ"ァ"!?

 

 やはり効いた。クシャルダオラ同様、甲殻や鱗の内側は中々柔らかい。オマケに金属の外殻が肉に刺さるため、余計に効くはずだ。いくら痛覚が弱くなったとしても、そもそも動かせないまでのダメージともなれば、話は別物だろう。よし──っ!

 

「こふっ!? ……ま、また……!」

 

 思ったより早く次の吐血が来た。やはり負荷が尋常じゃない……でも当然かな。〈龍血活性〉に龍活剤に極・鬼人解放。更には私にとっても久しぶりの〈羽化(アウェイクロージョン)〉だ。龍力の元の古龍の力をこのタイミングで新たに引き出したことへの疲労と、力そのものからの負荷が重なり、長期戦は望むべくもない。が、()()()()まで獲得した今、雄也達のいる地下道から引き離すことはより容易になった。あとは……

 

「私が空を征することが出来るか、だね……!」

 

 白い影のような、形無きこの翼は、きっと生命を差し出した甲斐なのだろう。私のような才能もなければ運もない女に、代償もなしに巡るには過ぎた力だもの。それでも、今はこれ以上に心強いものは無い……!

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!

 

「っ、おいで!!」

 

 雷光を纏う白翼を羽ばたかせ、突進を躱す。私を見失った金色の龍が、戸惑うように首を回し、ようやく私を捕捉した。

 

「着いておいで!!」

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!

 

 挑発する私に応えるように、金色の龍が飛び上がる。やはりクシャルダオラ同様に高い飛行能力だ。あの時は地上から待ち続けたり、わざわざ高いところに登って対処したりとしたが──

 

「今なら──逃がさない!!」

 

 それが人を捨てた選択としても!!

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!!

 

 風のブレスが放たれた。クシャルダオラのそれと比べ、黄金の粉塵混じりなそれはまだ視認性においてはマシのようだ。弾速は……思ってたより遅い!! 反撃まで行ける!!

 

「そこぉ!!」

 

キア"ァ"ァ"ッッ!!

 

 二発目。だがそれも遅い。翼を翻し、弾くように回避して距離を詰める。狙うは砕いた右前脚!そこを起点に、私の全龍力を使っての大放電でなら──!!

 

「勝てる!!」

 

 帯電投げナイフを右前脚──ではなく頭部と左翼に向けて二本ずつ投げつけ、指を弾き鳴らす。

 

キア"ァ"!?

 

 瞬間、ナイフが弾け飛び、爆風が奴の視界を僅かに奪う。その隙を突けば!!

 

「貰っ──」

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!

 

「ガッ──!?」

 

 剣を振るうと同時、突如横薙ぎに吹き飛ばされた。

 

「いっ、だ──!」

 

 咄嗟に翼で受けたけど、衝撃は殺せずビルの壁に叩きつけられる。こんな、時に……!

 

ギャア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!

 

「ッ!! こっの!!」

 

 休む暇もなく飛び退く。その直後に私が埋まりかけた壁の凹みを金色の龍が上書きするように押しつぶす。危なかった。

 ここからどうするか。悔しいけどナイフの爆風じゃ決定打の布石にもならなかった。いや、なり得たが思わぬ反撃に手を止められた。そして二度目が通じる可能性は低い。

 どうする?目の潰れた側に回り込み続ける?違う、それじゃ傷付けた右前脚が遠のく。力づくで足を砕く?いくら〈龍血者〉でも死に体の私では膂力で並ぶことすら出来はしないか。身を隠して隙を着く?ダメだ、隠れるために龍力を抑えたら次の放出で身体が持たなくなる。八方塞がりだ。

 

キア"ァ"ァ"!!

 

「うっ……!」

 

 突進してくるが横に回避。私が打つ手を失ったと見たか、急に攻撃的になってきた。完全に向こうのペースだ。いけない、呑まれる。見つけなきゃ。奴の穴を、隙を、突破口を。

 こんな時、雄也なら極限まで動き続ける。真治なら極限まで目を凝らす。誠也なら極限まで耐え抜く。なら、私は?

 

「──私は」

 

 奴が壁に埋めていた顔を出すのを見て、投げナイフを取り出し、龍力を込める。

 私は、極限までこの剣を振り続ける。だって──

 

「私は……誠也の姐御で、真治のお姉ちゃんで、雄也の師匠なんだから!!」

 

 奴の眉間に向けてナイフを投げ、込めた龍力を爆発させ、真っ直ぐに突っ込む。怯んでなどいられない、恐れたところで何も出来ない、一度退くなど意味は無い。風が向かうなら切り裂くまで。爪牙が襲うなら砕くまで。それを成してこそ私達〈龍血者〉の本懐──!

 

キア''ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!

 

「はぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 爆煙を抜けてきた龍が左の爪を振るう。負けはしない。連結していた黒天を再び右手に握り、爪を受ける。重い、あまりにも重い。けど──

 

「こ、のぉぉおぉぉ!!!!」

 

 衝撃を流すように身体を回し、爪の勢いを逃がす。空振り同然の隙を作らされたこの龍の右前脚は、ガラ空きだ。つまり──

 

「今度こそ、貰ったぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 白夜を逆手に持ち替え〈破龍技(ジーク・アーツ)〉──『白光』による龍力の刃を、穿たれた右前脚に突き立てる。

 

キ"ィ"ィ"ィ"ィ"アァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッッッ!!??!!??

 

「くぅっ……!」

 

 大きな一撃を撃ち込むことは成功したが、当然その激痛にのたうち回る金色の龍。深く穿った刃は中々抜けず、大暴れする龍の激動に負けぬよう剣を硬く握り、形無き白翼で龍を抱き締めるようにしがみつく。ここで突き放されれば、次のチャンスを掴めないかもしれない。それだけは許す訳には行かない。この勝機だけは、零してなるものか……!

 

「こ、っのぉぉぉぉぉ!!!!」

 

キ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!??

 

 白夜に更に電撃を流し込み、追い討ちを入れる。暴れることすら疎うほどのダメージを入れれば、死に体の私にも勝機を引き寄せられるはず!!

 

「負け、ない……!!」

 

 自分の足を、剣を刺した右前脚に組みつき、より一層固くしがみつく。その間も放電を続け、全身全霊をもって龍の生命を削る。私が先か、龍が先か。

 

キァ"……ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッッッッッッッ!!!!!!

 

 龍の咆哮と共に、周囲が微弱ながらも光に包まれ始めた。これは、あの光の大爆発の予兆だ。しかし光の幕の内側、即ち自身に密着したモノにそれは通じない。なのに何故──

 

「──まさか!?」

 

 よく見ると光の幕がまだ見えない。まさか、自爆覚悟で私を焼き殺すつもりか……!!

 

「させ、るかぁぁぁ!!」

 

 剣を引き抜いてすぐに距離を──

 

キア"ァ"!!

 

「ちょっ!?」

 

 しかし今度は追い払うためというより、逃がさぬと言わんばかりに左前脚や右後脚を私に向けて振ってくる。こうなったら──

 

「これ、で……抜けてぇ!!」

 

 黒天を再び連結し、もう一度『白光』の刃を形成する。持ち手を長くし斬れ味を上げればこの深く刺した刃でも!!

 両手で剣を握り、両脚で龍の胸を蹴り飛ばし、形無き白翼は蹴りと同時に強く羽ばたかせる。

 

「抜け、たぁ!!」

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!??

 

 成功した。強く蹴り大きく羽ばたいたために少し体が回りはしたが、上手く空中に留まる。龍力を使う度に、身体が翼の使い方を覚えていくような、そんな気がした。まだ行ける。私の命は確かに削られてるのだろうが、私の力はまだ強くなってる気がする。力が漲る。散り際の炎は最も輝くことと、同じかもしれない。それでも──

 

「まだ……行ける!」

 

 この剣は、翼は、まだ──折れてない!!

 

キアァ"ァ"ァ"!!

 

 奴は光の爆発を放ち損ねた。深く貫かれた右前脚のダメージは、例え怒り狂って感じなくなった痛みを差し置いたとしても力の行使を阻害するものだった。決死の抵抗は怒れる暴龍にも効果を成した。ならば──まだ抗う意思は折れない!

 

「これで……!」

 

 龍が吼え、こちらに向けて羽ばたく。奴の全速力を乗せた滑空突進だ。受ければタダでは済まず、躱すにはその広がった翼と速度が許さない。 ──手は一つ。

 

「……終わらせる!!」

 

 連結した双剣に力を込める。私に残された全て、生命の灯火。ありったけの〈天龍力(アルズマ)〉を叩き込んで長剣と成す。

 

キアァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!

 

 白光が閃く。龍の黄金の体躯が白金のように照らされる。

 剣を振るう。龍の首、その潰した眼球諸共に斬り捌いてみせる。

 そしてこの一刀に──未来を切り開くかを賭ける!!

 

「『龍妃の白翼(ジークリンデ)』……!!!!」

 

 雷光が、落ちた。


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