Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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ジャスト一ヶ月だわーい


第27話 せめて、前に

2013年 8月12日

 

ゴォァ!

 

「そっち行ったぞ雄也(ゆうや)!!」

「分かってる!!」

 

 真・鬼人回避の前身ステップで、リオレイアの突進をすり抜けつつ斬りつけて躱す。この程度は造作もない。その上俺の双剣──『極舞雷双【雀鷹(つみ)】』の雷撃を纏う斬撃が、奴の強靭な脚を灼き斬る。

 

「受け取りなさい……よォッ!!!!」

 

 真治(まや)のライトボウガン、『天狼砲【北斗】』から放たれるLv.1貫通弾の超速射が、リオレイアの翼から胴体を貫き反対側の翼膜を焼き切る。超速射──即ち、装填分全てを加速させて撃ち尽くしながらも、続く弾を内部機構によって追加生成して射出するライトボウガンの切り札たる特殊機構。代わりに射撃位置を固定せざるを得ないほどの連続的な反動に襲われるため、いくら真治と言えども狙いを絞られる。

 

ゴォァォ……!

 

「よくやったァ!!」

 

 超速射の威力に怯んで身をよじっている隙を付き、属性エネルギーを纏った砲撃──属性砲を撃ち込む常磐誠也(アニキ)。更に続け様に振り下ろすヒートブレードで翼爪を切り落とし、更に薙ぎ払うように属性砲のフルバーストを撃ち込む。

 

グォアォアァ……!!

 

「いけるかしら……二人とも、捕獲するわよ!」

「「了解!」」

 

 俺は斬り刻む手を止め、アニキは砲身を折りたたみ、リオレイアの脚元を離れる。捕獲準備……俺が閃光玉で足止め、アニキが罠設置、真治が麻酔弾の役割分担だ。

 

「動くんじゃねえよ!!」

 

ゴァォァ!?

 

 閃光玉がリオレイアの眼前で炸裂する。眩い光は前方を向いた火竜の双眸を確かに灼き、暗闇に引きずり込んだ。これで奴は身動きが取れない。

 

「よっ……ほっ……よし!いつでも良いぜ!!」

「こっちもいいわ!」

「了解!!」

 

 罠の方へと動く。今回はシビレ罠。本体のスイッチを直接踏むか、センサー内に身体が入ったことに反応し、本体から金属棒が展開、そこから放たれる電流によって捕縛するタイプの携帯トラップだ。しかし本体は手のひらサイズの携行も簡単な代物。故に大柄な〈モンスター〉はそれがあることにほとんど気付けない。よって──

 

ゴオォアァァ!?

 

 何も考えず突っ込む〈モンスター〉にはかなり効果的である。本体に極めて頭が近付いたその瞬間、センサーが作動して放電棒が展開され、放電して敵を拘束する。

 

「これで……終わりね」

 

グゥゥゥルゥゥル……

 

 麻酔弾が二発、リオレイアの腹部に刺さり、弾丸が弾けて麻酔液が傷口や呼吸と共に体内に侵入する。次第に瞼が重くなったのか、虚ろな顔をし始め、そしてシビレ罠の電流が弱まると同時、リオレイアは地に伏した。しかしその巨躯にはまだ生気が残っており、心做しかいびきと鼻ちょうちんまで出来上がっている。

 捕獲。シビレ罠や落とし穴のような携行トラップを利用し、弱らせた〈モンスター〉に即効性の麻酔を撃ち込むことでその〈モンスター〉を生きたまま無力化して回収する手段。〈モンスター〉及び龍力の研究のために、可能な限り【ハンドルマ】から推奨される手法である。無論、現場的には確実に罠に掛けられる保証も無い上、何を見て弱ったと判断するか、判断材料が今なお充分とは言えないため、確実性の薄いこの方法を好む〈ハンター〉は少数である。今回は戦い慣れたリオレイアであることと、捕獲を一応要求されたのでやったのだが。

 

「終わったなぁ……今日も指示出しバッチリだぜ、真治」

「ありがとうアニキ。でもまだまだ、かな。捕獲出来そうってのもなんとなくだし」

「確証に拘って失敗するくらいなら試してくれていい。俺は付き合う」

 

 真癒(まゆ)さんが療養のために無期限休養期間に入ってから半年以上。その間はこの三人で指示出し係を回しながら、〈モンスター〉の脅威に対抗していた。しかし真治の指示出しがかなり的確だったりしたこともあり、最近は真治が主に司令塔となっている。元は憧れの姉の立場だったこともあり、緊張と不安と課題点を抱えながらも、真治はしっかりと俺達の司令塔をしてくれている。

 

「そう……なら、次はそうする」

「そうしてくれ」

「ぶっちゃけ、姐御よりも立ち位置の関係で、視点と視野が大きめだからな。直感と経験の分は、お前のセンスと立ち位置で補えてるぜ」

「そっか……なら、もうちょっと大胆に言っても良いのかな」

 

 ポーチからメモ帳とペンを取り出し、早くも振り返りやまとめをしている。座学が死ぬほど嫌で訓練課程に遅れが出るほどだったのに、随分熱心になったもんだ。

 

『こちら司令部。周囲に龍力組成反応無し。これ以上の〈モンスター〉の出現は無さそうです。合流ポイントへ移動の後、帰投してください』

「こちら冬雪(ふゆき)。了解、上田・常磐共に帰投します」

「よし、今日も生き残れたなぁ」

 

 アニキのホッとしたような一言が今日の仕事も完了したことを実感させてくれるのは、やはりいつも通りが訪れるからだろうか。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……今日も無事帰還、か」

 

 オペレータールーム。インカムとマイクを外して、ホッと一息つく。

 

「……毎度聞くようで悪いが、やはり歯痒かろう、()()?」

「支部長、野暮ですよ?」

 

 今年の1月──『冥雷竜 ドラギュロス』、その剛種特異個体の中でも『幻』の一文字の銘がついた黒雷の竜との戦いから、半年以上の時が過ぎた。体調が安定した3月頃から私は、戦えない代わりにせめてオペレーターの仕事をさせて貰えるよう嘆願し、今に至る。当然勉強を重ね、何とか5月から本職の方と一緒にオペレーターの役割を持てるようになった。力を振るえない。故に──

 

「これが、今の私の戦いですから」

 

 こう言う自分の顔は、我ながらどこか自嘲気味な笑顔な気がした。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……あれは」

「あ、お姉ちゃん!」

 

 ようやく支部に戻り、雄也共々食堂に向かっていると、お姉ちゃんの姿が見えた。ちょうど待っていたのかな?

 

「おかえり。雄也、真治」

「ただいま帰投しました」

「ただいまお姉ちゃん」

「……固いね雄也?」

 

 そう言われた雄也は、やっぱりどこか居心地悪そうに見える。

 

「……真治、俺は先に行ってる」

「あ、ちょっと雄也!」

 

 止める間もなく、足早に食堂に姿を消した。

 

「……この半年ずっとあれ貫くって、頑固にも程があるわよ……」

「仕方ないよ真治……罪悪感って、相手以上に自分のことで一杯にしちゃうものだから……」

「お姉ちゃんも甘いよ……残り少ない時間、事務的な師弟関係だけで終わるのはあんまりだって……」

 

 まあ、捕まえとかないアタシもアタシなのかもしれない。でも、あの時の事が事だ。結局遅れてきたアタシには、何も言える気がしない。でも、目を逸らし続けていい事じゃないのはアイツだって理解してると思うから。

 

「大丈夫……アタシがちゃんと、逃がさないから。絶対、この夏の間に去年までの二人に戻す……これがアタシの今の野望!!」

「や、野望って……でも、ありがとう。お願いね」

 

 どこか困ったようなお姉ちゃんの顔は、さっきよりは晴れてる。よし、なら()()も聴いてくれそうかな?

 

「……ねえ、この後も雄也と訓練あったよね?」

「え、うん。どうかした?」

「ちょっと……行く前に……」

「……えぇ?」

 

 耳打ちしたお姉ちゃんは、どこか困惑してたけど。雄也……あんた言ったわよね?『確証に拘って失敗するくらいなら試してくれていい』って……させてもらうわ早速ね!!

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「それじゃ、今日もやろうか」

「了解!」

 

 ()()()()()()()事務的に、()()()()()の返事で訓練開始の心構えを取る。そう、いつも通りだ。真癒さんから剣を含めた戦闘を学び、生きるための術を知る。今以上にするために、真癒さんを狩場に引きずり出さないために。

 いつものように挨拶を交わすと、真癒さんはARシミュレータのために足早に観察室に向かった。去っていくその表情はいつも通り……にしてはなんか恥ずかしがってた?

 

「あ、今日はアタシとの連携訓練も兼ねてだからね」

「わかった」

「ところで雄也……お姉ちゃんを見て変化を感じない?」

「……?」

 

 隣にいた真治が突拍子も無いことを聞いてくる。なんだ?爪先なんて見てないからネイル変えたとかなんて分からんが……あ。

 

「……いつもより肌の生気があった。今日は調子が良いのかもな……いや、厚化粧か……?」

「いやそこまで細かくじゃなくて……というかアタシ、そこは気付かなかった」

「肌じゃない……?」

「もっと目立つところよ」

 

 もっと目立つ……?女性が変化をつけるものと言ったらもうそれこそ……

 

「髪の毛か……?でも俺、首から上見てねえから知らねえよ」

「……アンタ、ホントとことんお姉ちゃんの顔を正面から見なくなったわよね……」

「……合わせる顔がないことくらい知ってる癖に」

「半年も一緒に居るのにそれ貫くのは頑固どころか一周回って『アホ』よ。お姉ちゃんの事を気遣ってんじゃなくてそれは知らんぷりしてるってのよ」

 

 返す言葉も無い。だが、生きてて欲しいとか、まだ俺の師匠でいて欲しいとか、身勝手な願いで真癒さんの生き甲斐や欲する役目を奪った負い目がある。奪っておいて今まで通り接しようなんて虫がいいにも程がある。

 

「お姉ちゃんは……奪われたなんて思ってない」

「でも……」

「あーもう……雄也。明日ちょっと付き合いなさい。お姉ちゃんも一緒だけど諦めなさい」

「お前な……」

「『確証に拘って失敗するくらいなら試してくれていい』だったわよね?させてもらうわよ、早速」

「……好きにしろ」

 

 自分の言葉で退路を失った。だが撤回しようと思うには、どの道真治に勝つ要素が無さすぎるので意味が無かった。大人しく、やられてやるしかない。

 

『──準備はいい?』

「相手は?」

『蛮竜グレンゼブル。10秒後、狩猟開始(クエストスタート)!』

「「了解!」」

 

 真癒さんの合図と同時、ACCデバイス起動。武器、『極舞雷双【雀鷹】』。防具、ドラギュロスの『エミットFシリーズ』、装備完了。

 真治の武器、『天狼砲【北斗】』。防具、パリアプリアの『ディボアFシリーズ』、装備完了。二人共準備が整った。

 

「麻痺ガスのカウンターがある以上、チャンスの時も気を抜けねえ……」

「効く以上は使う方がいいわ。怒り始めたら投げナイフお願い」

「了解」

『グレンゼブル、出ます!!』

 

 真癒さんの言葉と同時に、周囲の背景が『フィールド:高地』に切り替わる。崖を登った先で現れる、一面空しかないとすら言える頂上地点。しかし山の天気は変わりやすい、を体現したようなフィールドだ。

 

グルル……

 

 飛竜の体重がそのまま地面に叩き付けられた音が響く。その音の主は、剣のように研がれた蒼い巨角の持ち主たる竜、『蛮竜 グレンゼブル』。その角に似合う凶暴さを感じる風貌に、無駄のない筋肉の塊のような引き締まった巨躯、更には飛竜として申し分のない強靭な双翼。『飛竜』と『強者』の雰囲気をこうも無駄なく兼ね備えた稀有な生物ならではの覇気を感じさせる竜が、天より舞い降りた。

 

「……少し角がデカいわね……特異個体か……」

「あの様子では『剛種』でもありそうだ。まあ俺達のランク的に、剛種でなければなんだという話だが」

 

 駄弁りつつも武器を構え、斬れ味確認と弾丸装填を行う。同時、グレンゼブルがこちらを認識する。

 

グルルル……

 

「正面を避け、側面から打ち込むわよ」

「了解!!」

 

 グレンゼブルは、その風貌に反して誰彼構わず襲う生き物ではないという。奴に見つかり慌てて逃げた調査隊を追いはしなかったが、迎撃する護衛の〈ハンター〉には執拗に攻撃を仕掛けたという報告があったそうだ。敵意の有無を解し、更にその上で自分の威嚇に怯まない敵を選別して攻撃を仕掛ける特徴があった。この竜は驚くことに、敵を選んでいたのだ。そしてそれは、ARシミュレータで再現されたこの目の前のグレンゼブルも例外ではなく──

 

グゥゴゴァガァァァァッッ!!!!

 

 自分に向かってくる二人の小童(虫けら)に対し、最終警告とすら言える咆哮を上げて、戦闘開始の鐘を鳴らした。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……真治ったら……こんなの、雄也は見てないよ……」

 

 戦闘が始まり、とりあえずは見守ることになったので、つい愚痴がこぼれる。訓練場に行く前、何故か真治に『アタシと同じ髪型にして』と言われ、いきなり慣れないサイドテールにされた。曰く、『アタシも絡んでくると言外に伝えるため』らしいが。しかしこんなのなんの為に……

 

「ううん……まず試さないと始まらない、だったよね、真治」

 

 当人同士──私と雄也はこの通り隔たりが出来て、誠也はこういう蟠り得意じゃないから静観してる。今、頼れるのは真治だけだ。それに……可愛い妹の頼みなんだから。

 

「また、前みたいに話せるかな……雄也」

 

 グレンゼブルの猛攻すら見事に捌きながら双剣を振るう愛弟子を見る。ヘルムを被ってるから、当然顔なんて見えない。でも、いつも見せた一生懸命な顔は、いつでも思い浮かぶ。まるで……

 

「……違うってば。雄也は違うんだから……」

 

 思わず出てきた思い出を振り切り、再び戦闘状況の確認に戻る。

 

「……でも、明日どんな顔して行けば良いのかな……」

 

 真治からの提案は髪型だけじゃなく、明日……買い物にも付き合ってもらうとのことらしい……雄也も混じえて。ちゃんと、話せるかな?雄也は、買い物、そんなに好きじゃないかもだし。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「フッ!!セイッ!!ハァァァッッ!!」

 

 グレンゼブルの水晶のような大角が俺目がけて振り下ろされ、地面を叩き割り、更にはそれを薙ぎ払う。すんでのところで振り下ろしも薙ぎ払いも避けれたが、アレに当たれば命はないだろう。『真・鬼人解放』の絶大な集中力と反応速度がもたらす恩恵は、やはりとてつもなく大きいと感じる。だが──

 

「ここで──ガッ!?」

 

 脳裏にノイズがかった感覚が襲う。まるで俺を縛り付けるかのように。

 

「雄也!!」

 

グルルォ!?

 

 小気味良いテンポで刻まれる発砲音を感じる。真治の超速射だろう。

 

「クソ……活動限界かよ……!」

 

『真・鬼人解放』。鬼人化以上に龍力を活性化させ、鬼人化以上の凄まじい集中力と反応速度を使用者に与えるが、代償に自身の血液を消費してると錯覚するほどの疲労感と貧血感をも与える。しかも実際に、〈ハンター〉及び〈龍血者(ドラグーン)〉にとって生命線とも言える龍力を体力共々消費する。故にその喪失感と疲労感は鬼人化の比ではない。当然、限界が来れば動きは鈍くなるどころでは無い。その為の外部安全装置(セーフティ)が存在しない(そもそも身体機能に働きかけているそれにどう安全装置を設けるんだという話でもあるが)ため、限界が来れば力が解ける以外では、自身の意思で体内の龍力を操作する感覚を覚える他ない。

 

「目だけ庇っといてよ!!」

 

 反射的に視力だけ守ると、眩い光が広がった感覚と、弾ける音が聞こえた。閃光玉が起動した音だ。

 

「ほら一時撤退!!」

「わ、悪い……」

 

 膝をついて動けなくなった俺は引きずられるように、真治と共にその場から撤退した。無論諦めた訳じゃないが。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ハァ、ハァ……流石に、こっちまでは走っては来れないでしょ……」

「ふぅ……すまねえ真治……」

「全くよ。アンタ、お姉ちゃんに無理させないために無理してるのはバレバレよ」

 

 逃げ仰せて落ち着いたところで、見下ろすように真治から睨まれる。

 

「……それがどうした……」

「分かってるでしょうけど敢えて言っとくわ。アンタがいくら無理したって、お姉ちゃん一人分の戦力はどう足掻いても補い切れないわ。いくら病に侵されてて十全でなくたって、お姉ちゃんは〈龍血者〉……一人で1PT分以上の戦闘能力を有することは変わりないわ」

「……だから俺のやってることは無駄の極みで、意味ねぇからさっさとやめていつも通りやれってのか!!!!」

 

 貧血感も忘れて思わず立ち上がって胸倉に掴みかかる。自分のしてきた事の多くを否定したようなものなのだ、真治は。いくら戦友でも黙ってられない。

 

「そうじゃないことくらい、分かっててキレてる癖に」

「見透かしたように言ってんじゃ──」

「バレバレなのに隠してるつもり?」

「ッ……」

 

 どの道こいつに勝てないことは流石に悟った。胸倉から手を離して、再び座り込む。冷静になったらまた頭痛がしてきた。

 

「っつ……!」

「ほらね……でもお姉ちゃんが同じくらいのことしてたら、グレンゼブルはもう倒してる……アンタには出来ない」

「分かってんだよ……!」

「焦って振り絞っても死ぬだけよ。ねえ、アタシを見て雄也?」

「っ……」

 

 一年前の試験を思い出す……また俺は……仲間を信じれてなかった……

 

「また……同じ過ちを……!!」

「アタシ達はまだまだ子どもよ。だからまた同じ過ちを繰り返すけどね……また、直す機会があるじゃない」

「……そうか」

「そ、だから落ち込んだり後悔してる暇があったら、とりあえずやるのよ。時間は嫌でも動くんだから」

「……そうだな。ありがとう」

 

答える真治の顔は、いつも通り勝気で明るい笑顔だ。ホント、敵わない。

 

「で、体調はどう?まだ頭痛が辛い?」

「……あと五分で落ち着くと思う。肉も食っとくか」

「……頭痛がしてるのによく肉なんか食えるわね」

 

 呆れられるが、食欲だけはいつも多めだ。量子化ポーチからこんがり肉を取り出し、骨を掴んでかぶりつく。

 

「ふぐっ……ほが……んぐっ……」

「相変わらずいい食いっぷりねぇ……アタシまでお腹減りそう」

ふうは(食うか)?」

「自分で何とかするわよ」

 

 ……断られた。美味いのに。

 

「ま、そんだけ食べて欲しいなら奢られてやらんことも無いわよ?」

「んぐ……はぁ……ま、程々の値段なら良いぜ」

「そ、ならいただくわ」

 

 弾薬調合と装填を済ませた真治は、あとは俺だけ、と言わんばかりの待機体勢に入った。さて、少しくらい立ち直らないと……もう頑固なままなのも終わらせなくちゃなのかな。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「……勝てたな」

「ま、ちょっと落雷に当たったのは間抜けと思うけどね」

「貧血なとこに落雷まで食らうのは流石に死を覚悟したな……」

 

 訓練終了。いつも通り、俺と真治の連携は完璧だ。グレンゼブルの猛攻を凌ぎきり、見事討伐した。

 

「二人とも、お疲れ様」

「お姉ちゃん乙ー」

「……お疲れ様です」

 

 ……流石にすぐ態度を直すのはちょっと恥ずかしいな。真治に脇を小突かれたが気にしない。

 

「それじゃ、また後で報告書お願いね。私はもう戻るね」

「また明日ね、お姉ちゃん」

「うん、また明日。約束は大丈夫だよ」

「分かりました。お疲れ様です」

 

 ん、とだけ言って真癒さんも戻って行った。

 

「さて、明日次第よ。案外、アンタがすぐ自分の態度直そうとしてて感心したわ」

「……流石に、変化ないままなんて良くないからな」

「そ。さて、アンタの反省の色が見えたという良いこともあったし、今日はカロリー気にせずモスの煮込みハンバーグでも頼もうかしら」

「へいへい、奢りますよ」

「覚えてて何よりよ。先に行くわ」

 

 飲み干したドリンクをゴミ箱に突っ込みながら、真治も去っていく。また、真治に助けられた。いつか、ちゃんとまた助けたいな。

 

「……今日は、特盛にしよ」

 

 先に行った真治に追いつくために、少し早足にした。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……ふむ」

 

 支部長の仕事もいつもより早く終わり、久しぶりに家に戻って寝ることにしたワシは、珍しく自分の車で帰ることとした今日。帰り道に珍しい物を見た。

 

「……金粉……?中国からの黄砂にしちゃ随分綺麗じゃしのう……」

 

 赤信号の待ち時間、風が程よく吹いていたので窓を開けると、窓から金粉が入り込んできた。それも一粒だけでなく、掌に円形にして広げられるほどだ。

 

「……まさか」

 

 最近、妙に風が吹く日が多い気がする。過去の報告を、何となく思い返す。

 

「……また布団では寝れなさそうじゃ……すまぬな婆さん」

 

 家に連絡を入れ直し、道を引き返す。この老いぼれの勘、外れていて欲しいものだ。




あと何話で終わるかな

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