Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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おはこんばんちは、Gurren-双龍です。
更新が二ヶ月以上も空いて申し訳ありません。言い訳のようですが、リアル事情が忙しくて執筆に時間を回せませんでした。

更に言いますと、先日行った試験の結果次第で前より更新ペースが落ちる可能性があります。逆も然り……ではありますが

それでは、本編をどうぞ

p.s.先月辺りのコメントで「今月中には〜」と返信した読者の方、本当に申し訳ありませんでした。


第1話 定めた道への第一歩

2011年 4月18日

 

「はあぁ……」

 

 今日は平日。当然学校に来なければならない。それに対するガッカリ感と、昨日と一昨日に起きた()()()()()()を思い出して、思わず溜め息が出てしまった。自分で言うのもなんだが、溜め息が出るのは無理もないと思う。それだけの事が昨日と一昨日に起こった。

 

「よう上田、どうした? 溜め息なんか吐いて」

「んあ? ……なんだ、羽﨑か」

「なんだとは何だオイ」

 

 そんな俺を見兼ねたのか、あるいは暇だったのか、友人にして幼馴染が話し掛けてきた。こいつとは名前の読みが同じだったことから意気投合した……はず。幼稚園の頃のことなんぞあまり覚えてないから曖昧だが。

 

「なんかあったんか?」

「一応……な」

 

 俺の疲れたような返事に疑問を抱いたらしく、質問されてしまった。さて、一応だが『ある』と答えた以上、特に黙っとく理由もないし答える他ないだろう。

 

「一昨日さ……危うく〈モンスター〉に食われかけた」

「はぁっ!? お前避難せんかったん!?」

「いや、杖突いた爺さんを助けてたら避難し損ねて……」

「よく生きとったな……」

 

 自分でもそう思う。あの時あの〈ハンター〉、『冬雪 真癒(ふゆき まゆ)』さんが来なかったら、今頃俺はリオレウスに食われていただろう。

 

「でもよ、本題はここからなんだよ……」

「ほぉ? 何があったんな、〈モンスター〉に食われかけた以上の事って」

 

 そう、俺にとってはこの先の事の方が重大な出来事だ。〈モンスター〉に襲われたことなら既に小六の修学旅行で経験済み。あの時ので割と慣れてしまったのか、終わってしまえばそこまでの事でも無かったと感じている。

 

「んで? 結局何があったんな?」

「いや実はな……」

 

 思い出すだけで少し疲れたが、なんとか続ける。

 

「【ハンドルマ】に正式入隊したんだ」

 

 

◇◆◇◆◇

 

4月17日

 

「う、ん……こ、ここは?」

 

 目を覚ますと、まず目に入ったのは知らない天井だ。多分自分の家よりも綺麗な天井。

 自分の体を見渡してみると毛布が掛けられており、ベッドも白いシーツで掛けられていた。

 足に違和感を感じたので見てみると、包帯で覆われていた。治療してくれたのだろうか。

 周りを見渡すといかにも病室、あるいは保健室にありそうな白いカーテンに覆われ、周りは見えない。

 

「ここは一体……」

 

 そんな疑問を浮かべていると、ドアが開く音がした。しかし引き戸の引き摺ったような音ではなく、ドアノブの付いたタイプのようなものでも無く、機械的でスムーズな音だった。自動ドアなのか?

 それを聞いて俺は思わず布団を被って目を瞑り、狸寝入りをした。何でそんな事するかって? 癖なんだよ何でか。何もない日の寝起きで誰かが来ると、つい狸寝入りをしちまう。意味は特に無い。

 足音が近づいて来る。割と部屋に響く音だ。ヒールか何かか?チラッと目を開けると、カーテンに人影が映っていた。それを見て目を瞑り直す。そして一気にカーテンが開かれる音がした。

 

「動くな!起きてる事は知ってるんだぞ!」

 

 え? 気付かれてるのかよ!?何者だよこの人!?気になってしょうがなかったので、意を決して目を開き、起き上がることにした。

 

「なーんて冗だ──」

「なんで分かったんですか!?」

「──ってうわっ!?本当に起きてた!?」

 

 勢いよく起き上がると、「シェーッ!!」とでも叫び出しそうなポーズで驚いている白衣の女性が立っていた。……どうやらさっきのはただの冗談で言ったらしい。紛らわしい人だ。

 

「さて、騒がせてしまったね。自己紹介をしよう。私は『村上 花音(むらかみ かのん)』。この【ハンドルマ第一中国地方支部】の医務課の課長、及び医長を務めているものだ」

「は、はぁ……って、【ハンドルマ】?」

 

 落ち着きを取り戻して始めた少し長い自己紹介を、半分聞き流しながら頷いていると、なんか聞き逃せない単語が聞こえた。

 

「おや?もしかして知らないのかい?」

「いえ知ってますけど……もしかして俺、今【ハンドルマ第一中国地方支部】にいたりします?」

「正解だが、それがどうかしたかい?」

「なんで俺ここにいるんですか?」

 

 この人と話してて、段々と思い出してきた。俺はあの時あの女性ハンター──『冬雪 真癒(ふゆき まゆ)』さんとか言ってたな――に助けられ、その姿に見惚れながらも、なんか安心してそのまま気絶してしまったんだった。でもなんでここに?

 

「戸惑っているね?どうやら、真癒君が強引にウチに連れてきたのかな?」

「その言い方は止めてください。気絶してるのをほっとく訳にもいかないじゃないですか」

 

 村上さんが俺の思考を読んだかのようなことを呟くと、聞き覚えのある声がドアが開く音の直後に聞こえた。

 

「あ、起きてたんだ。おはよう」

「あ、は、はい。おはようございます」

 

 例の女性ハンターだった。向こうから挨拶され、こちらも思わず頭を下げて挨拶する。

 

「そんな硬くならなくていいよ? それより君、名前教えてくれる?」

「あ、はい。『上田 雄也(うえだ ゆうや)』です」

「雄也君、か。私は『冬雪 真癒(ふゆき まゆ)』、よろしく……って、どうしたの?俯いたりして」

「い、いえ。なんでも無いです」

 

 同年代ぐらいの、しかも女の人に下の名前で呼ばれた事など無かったから、つい恥ずかしくて顔を伏せてしまった。慣れない事をされるのは少しキツイな。

 

「そ、それより!なんで俺はここに連れてこられたんですか!?」

「そうだね、私含めてスタッフの半分ほどが理由を聞かされてないしね。教えてくれないか、真癒君?」

「はいはい。分かりましたよ」

 

 肩を竦めながら、冬雪さんは理由を話し出した。

 

「まず雄也君、少し前に【ハンドルマ】に入隊志願したでしょ?」

「え、あ、はい。そうですけど……」

「それだけだよ。君が〈ハンター〉に志願した時に送られた資料をチラ見した時、それに付いてた写真で顔を覚えていたの。だからどうせならと思って連れてきたの」

「なるほどね。彼は〈ハンター〉候補者なのか。それなら連れてきた事にも納得出来る」

 

 勿論、怪我してたからってのもあるけどね。と冬雪さんが続ける。怪我の手当てと、俺という〈ハンター〉候補生の確保、という理由で俺をここに連れてきたわけか。納得した。

しかし一つだけ気になるな。

 

「あの、それは分かったんですけど」

「分かったけど、なに?」

「俺、いつ帰れるのかな、って」

「さぁね?」

「そんな無責任な……」

 

 肩をすくめてお手上げと言った感じで流された。明日学校だし今週の週末課題もやってないから早く帰りたいのだが。

 そんなやり取りをしていると、再び自動ドアが開く音が聞こえた。また誰か入って来たのか。

 足音が段々近付いてきた。誰だろうかと体を伸ばして見てみるとそこに立っていたのは杖をついた老人だった。しかし見覚えがある。

 

「あぁーっ!?」

「え? どうしたの急に?」

 

 俺はその老人を見て思わず指を指してしまった。失礼だとは思うが、そうせずにはいられなかった。何故ならその人は――

 

「あの時のお爺さん!?何でここに!?」

 

 昨日助けた、杖をついたお爺さんだったのだ。

 

「ハッハッハ、驚かせたようじゃのう」

「お祖父ちゃん、この子知ってるの?」

「知ってるも何も、この子は儂を助けて逃げ遅れたんじゃよ」

「えぇっ!?」

 

 頭が追い付かない。いきなり昨日のお爺さん登場、それを『お祖父ちゃん』と呼ぶ冬雪さん。突然すぎる。

 

「まあそこの詳しい話は後にするとして……少年、昨日は助かった。感謝するよ」

「え、あ、はい。どうもです」

「それと、指はそろそろ下ろしておくれ」

「そっちはすみません!」

 

 慌てて腕を下ろして、頭を下げて謝罪する。確かに失礼だし、というか気付いていながら結局指を下ろしてなかったし、俺に非があるのは明らかだ。

 

「気にするでない。さっきも言うたが、助けられたのはワシなのだからな」

 

 存外、器量の大きな人だった。良い人を助けられて、少しホッとする。

「さて上田少年、これからどうする?」

「え? どうするって……どういう」

「このままこの施設の中を何も見なかった事にして帰るか、それとも……」

 

 お爺さんはそこで切って俺の顔を、というより俺の目見つめながら口を開き、続けた。

 

「ここで〈ハンター〉となり、戦いに身を投じるか、選ぶんじゃ」

「え? 何でそんなことを……」

「君の覚悟を聞いてるんだよ、上田くん」

「覚悟?」

 

 補足してくれた村上さんが頷いて俺の問いに答えてくれた。

 

「君は無力な状態で〈モンスター〉の脅威をその身で味わったはずだ。あんな強大な存在を目の当たりにしてもまだ、〈ハンター〉になろうと思ってるいられるのかい?」

「…………」

「〈ハンター〉になってから〈モンスター〉の恐ろしさを知り、怖くなって辞めた子もいるからね。〈ハンター〉になる前にそれを味わったからこそ、以前【ハンドルマ】に志願した時の思いが揺らいでるか否か、それを聞いてるのさ」

 

 村上さんの言葉に、お爺さんも頷いていた。その問いの意味は理解出来た。つまり今ならあの申請を取り消せると。でも俺の答えは決まっていた。

 

「決まってます。俺は〈ハンター〉になる。なりたいです」

「ほぉ……ではその理由を聞かせてもらおうか」

 

 お爺さんがニヤッと笑いながら俺の目を見る。まるで俺の心を見透かそうとしているようだ。でも怯む訳にはいかない。

 

「俺には……憧れてる人が2人います。1人は……」

「かの伝説的な英雄、〈滅龍剣皇(ジークフリート)〉こと『ジグリード=クライン』、じゃな?」

「……! は、はい」

 

 見抜かれていた。やはり憧れの人物を持って〈ハンター〉を目指している者の憧れといえば、まず〈ジグリード=クライン〉なのか。

 

「よくあることじゃ。まあ、憧れるのも無理はなかろう。〈原初の狩人達(プライマルズ)〉の中で最も多くの功績を挙げ、全ての〈モンスター〉を撃退した男じゃしな」

 

原初の狩人達(プライマルズ)〉。聞いたことがある。かつて多くの人々を〈モンスター〉の魔の手から守り続けた、いわば〈ハンター〉のプロトタイプみたいな人達だ。俺の憧れである『ジグリード=クライン』もその1人であり、代表格だ。

 

「私としては、もう1人が気になるね。聞かせてもらえるかい?」

 

 お爺さんに続いて、村上さんが尋ねてきた。けれど答えに変わりはない。

 

「実は俺、修学旅行の時、逃げ遅れて〈モンスター〉に――『金獅子 ラージャン』に鉢合わせした事があったんです」

「それって、奈良で起きた『金獅子事件』の事かい? 動物園のライオンに落雷が直撃してそのまま『金獅子』に変貌したっていうあの?」

「はい、それです」

 

 最近めっきり減ってきたが、以前はしょっちゅう夢に見た。筋骨隆々の腕を振るい、落雷を受けたことによって興奮状態になっているせいで、金獅子の全身を走る稲妻と、それが響かせる轟音。

 

「俺を見てすぐに腕を振り上げて殴り殺そうとして来たんですが、その直前でラージャンが真っ二つに割れたんです」

「それをやったのが……ちょうどその時観光に来ててそこにいた〈ハンター〉だった、と」

 

 コクン、と頷く。けど顔もあまり覚えてないし、名前も知らない。辛うじて赤い髪のポニーテールをしているのと服に隠された大きい胸が見えたので、その人が女性なのが分かったのは覚えている。おっぱいで判断するのは男だから仕方ない。

 

「だから、その時から〈ハンター〉になりたいって思ってました。そして昨日、冬雪さんに助けられた時にその時の光景が重なって見えたんです。だから俺は……」

 

 一拍置いてまず冬雪さんを見、村上さんを見て、お爺さんと目を合わせて口を開いた。

 

「背中一つで誰かを安心させられる、そんな〈ハンター〉に俺はなりたいです」

 

 俺自身に刻み込むように、ハッキリとそう述べた。

 

「そうか……良い信念じゃ」

 

 俺の返答に満足したのか、お爺さんはフッ、と笑ったような表情を浮かべて俺の方を見やり、村上さんと目を合わせた。

 

「村上君、人事部と試験課に通達してくれい。志願者『上田雄也』に適合試験を受けさせろと。()()()からの判断というのも付け加えてくれ」

「分かりましたよ、()()()

「え?支部長?」

 

 またしても聞き捨てならない言葉が。支部長……?このお爺さん(ひと)が?

 

「おっと、そういえばワシの自己紹介がまたじゃったな。ワシの名は『冬雪 真玄(ふゆき しんげん)』。【ハンドルマ第一中国地方支部】の支部長を務めておる者じゃ」

「え……えぇぇぇぇぇ!? 支部長!? じゃあ何で支部長さんがあんな所に居たんですか!?」

「レンタル期限が切れそうだったDVD(でーぶいでー)を返しにな……どうせ今日も来ないと、なんだかんだでワシも鷹をくくってたようじゃ。支部長失格じゃな……」

 

 あの時のことを思い出してお爺さん、もとい支部長さんが項垂れる。無理も無いと思う。俺も俺自身が心のどこかで鷹をくくってた事に動揺した。支部長の立場でそんな事を考えていたと分かったら、自己嫌悪も人一倍強くなるというものだろう。

 

「ま、今はそんなこと置いといてじゃ。上田君」

「あ、はい!」

「良い返事じゃ。うむ、今日これから君がどうするかを伝えておこう」

「分かりました」

 

 立ち直った支部長から、今後の説明を受けた。まず、今日ここに俺の両親が来るとの事。一応、昨日俺を保護した時点で両親には伝えておいたらしい。

 そして俺が〈ハンター〉になる事に関しての説明。そして確認した後、適合試験を行うとか。

 適合試験とは、〈ハンター〉になるために必要な身体能力を引き出す効果を齎す特殊ナノマシンを投入する事らしい。コンピュータでどれほど適合率が高いかは分かるらしいので、適合失敗と言った事は無いらしい。

 あと俺の課題は代わりに片付けてくれた人がいるらしい。普通そこまで気を回さないとは思うが、現にしている以上、受け入れる他ない。流石に今回だけのようだが。

 後は、〈ハンター〉としての訓練を数ヶ月間続け、実戦に出るようになるとのこと。これから多忙になる事必須だが、それも覚悟で俺は〈ハンター〉になる事を選んだ。ただ一つ気掛かりな事があるとすればそれは――

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ちょっと雄也!? 私聞いてないわよ!? アンタが〈ハンター〉になるなんて!」

「何でワシらに言わんかったんな! 言うてみぃ!」

 

 そう、両親には俺が〈ハンター〉になりたい事を言ってないのだ。だからここで突然それを聞かされた両親は当然猛反対。今も『考え直せ』と言われ続けている。もちろん折れてやる気は無い。

 

「言ったら絶対反対すると思ったからだよ」

「当たり前じゃ! 誰が息子を死ぬかもしれん所に置きたいって思うか!」

「雄也、考え直してぇな。頼む!」

 

 父さんは怒鳴り散らし、母さんは泣いて縋る。もう見飽きてきた。だからもう――終わらせる。鬱陶しいし。

 

「さっきから聞いてりゃガタガタうるせえんだよ!」

「!?」

「ゆ、雄也!?」

 

 二人の言葉を一蹴するように、俺は怒鳴った。あぁホント……ムシャクシャする。

 

「普段はグチグチグチグチ2人で喧嘩してんのによぉ! こういう時だけ一致団結しやがって!! 」

「お、お、親に向かってなんて口聞いとんなオメエ!!」

「うるせえんだよ!! 自分のやりたい事ぐらい自分で決めさせろよ!! 俺は小一の時にやってたサッカーを続けたかったのに!アンタは『たるんどる』とか言って無理矢理俺に空手を習わせて! やりたかったサッカーを無理矢理やめさせて!!もうアンタの都合で振り回されるのはゴメンなんだよ!!!」

 

 今まで溜め込んでたものを叩きつける。特に親父には不平不満が溜まりまくってる。さっき言ったようにサッカーをやめさせて(無理矢理)空手をやらせた事。母さんと喧嘩して壁に穴を開けたり冷蔵庫を凹ませたり。挙句には『ピーマン食べないならワシはハサミを自分の手にぶっ刺す』とか訳の分からんことまで言い出して。

 母さんも母さんだ。俺達に対する不平不満を独り言のように言うくせに、聞こえるように言うのだ。もうウンザリだ。2人に振り回されるのも。

 

「それに! もう決めたんだよ!! 〈ハンター〉として生きたいって! だからもう邪魔しないでくれよ!! 」

「っ……! もう知らん!!勝手にせぇ!!」

 

 諦めたのか、父さんが怒鳴りながら引き返していく。母さんも周りにいた支部長達に頭を下げながら父さんに続く。

 

「また盛大に大喧嘩しおって……あそこまで激しいのは、若かりし頃のワシでもしたことが無いわい」

「……また家でもう一度話してきます。何があっても〈ハンター〉にはなりますけど、せめて少しぐらい理解して欲しいので……」

「明らかに突いて欲しくなかった所を突かれた感じだったから、話を出来そうには無いように見えるけどね」

「いくら〈ハンター〉が本人の同意だけでなれるからって、やり過ぎだよ雄也君……」

 

 冬雪さんが言うように、〈ハンター〉になる為に必要なのは本人の同意と適性のみなのだ。決して多くない適合者を確保するための処置なのだろう。子供を使う機関としてどうかとは思うが、今回ばかりは助けられた。

 

「やり過ぎたとは思ってます。けど、あそこで折れたくなかったんです。だから次に両親と話すのは、自分の覚悟を見せてからにします」

「そっか……分かったよ。でも家族は大事だからね。喧嘩したままは良くないよ」

「はい……そうですね」

 

 冬雪さんはこう言ってくれるが、週に2、3回は喧嘩してる両親の事を考えると、慰めにもならなかった。

 

「取り敢えず、同意書を書かせてください」

「……まあよい。本人の意思は硬いようじゃしな。村上くん」

「りょーかい。少し待っててね~」

 

 やる気のなさそうな返事をして、村上さんは一旦部屋を出る。目の前で親子喧嘩してしまったし、不快にさせてしまっただろう。本当に申しわけない。

 

「ワシも……少し適合試験の準備を見てくる。真癒よ、上田少年を頼む」

「うん、分かった」

 

 支部長さんもそう言って部屋を出る。そうして、冬雪さんと二人だけになった。普段の調子ならドキドキしてしまうようなシチュだが、両親との喧嘩の直後ではとてもそんな気分にはなれない。

 

「ねえ……大丈夫雄也君?」

 

 ぼんやりしていると、冬雪さんが話しかけてきた。俺を心配してくれているのだろうか。

 

「はい……大丈夫です。それより、迷惑かけてすみません、冬雪さん」

「別に、迷惑じゃないよ。実はこういう光景、結構見るんだ。君みたいに押し切ったのは初めて見たけど」

「そうなんですか?」

「大体みんな、死ぬかもしれないんだぞ、って言葉で考え直すからかな。それと、私の事は『真癒』でいいよ」

 

 そう言って冬雪さん――改め、真癒さんが浮かべた笑顔に、俺はついドキッとする。慰められて少し元気が出たのか、俺にはそう思うだけの余裕がいつの間にか帰ってきていた。俺も単純だな。

 

「ねえ雄也君」

「はい、なんですか?」

「いい言葉は掛けてあげられないけれど……頑張ろうね。一緒に」

「っ……ハイっ!」

「うん、いい返事。実戦に出たら思いっ切りしごいてあげるね!」

「え……いや……はい!お願いします!」

 

 真癒さんのおかげでさっきより、両親と話す前ぐらいには気分が戻ってきた。あとは適合試験だ。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

『さて……これより適合試験じゃが、気分はどうかね?』

「大丈夫です。いけそうです」

 

 場所は地下二階の特殊訓練室。これから〈ハンター〉になるための特殊ナノマシンに対する適合試験、もとい、ナノマシン注入を行う所だ。因みに支部長達は、部屋の中を見上げたときにちょうど見える辺りにある、客席みたいな所にいる。もちろんガラス(?)越し。今はマイクを通して俺に話しかけてきている。

 

「さて、今一度、〈ハンター〉用のナノマシンについて再度説明しておこうか」

「お願いします」

 

 咳払いが聞こえ、支部長が口を開いた。

 

「まずこのナノマシンは、前大戦以来多くの人類の体内に存在する特殊エネルギー〈龍力〉をある程度増幅し、そのまま身体機能の向上を図るための物じゃ。〈龍力〉の事は……分かるな?」

「1997年に突如世界中に発生した、思念を宿したり意思や感情の影響を受けると変質、あるいは何かしらの現象を引き起こすエネルギー物質、ですよね?」

「そうじゃ。〈モンスター〉もまた〈龍力〉から出来ておる。〈龍力〉に強い影響を与えられるのは〈龍力〉だけ。だからこそ〈ハンター〉も龍力を持つ者でなくてはならない」

 

 つまり、ナノマシンは体内の龍力を増幅させる。しかしその体内に龍力が無ければそもそも話にならない。つまり〈ハンター〉は――

 

「〈ハンター〉もある意味〈モンスター〉みたいなもの、って事ですよね?」

「その通りじゃ。実際、過去には〈ハンター〉が〈モンスター〉と化した事例もある」

「マジですか……」

 

 それはあんまり知りたくなかった。想像したくはないが、やはり〈モンスター〉化した〈ハンター〉は殺されるのだろうか。有り得るとは思う。

 

「ナノマシンには〈龍力〉を増幅させる効果がある。〈龍力〉が増幅するという事は、君の感情や心情で成否が左右されるのじゃ。という訳でもう一度聞こう。気分はどうかね?」

「大丈夫ですよ。行けます」

 

 俺がそう言うと同時に、床から装置のようなものが現れた。そして設置が完了したのか、今度は蓋が開くように装置が開いた。

 

「では、始めようか。装置の中に溝のような所があるはずじゃ。そこに利き腕とは逆の腕を置いてくれ。掌は上側じゃ」

「分かりました」

 

 言われた通りに、俺は左腕を掌を上向きにしてそこに置いた。すると蓋のように開いていた部分が降りてきて、そのまま閉じてしまった。因みに蓋側にも溝があるのか、俺の腕は潰れてない。

 

「それでは本番じゃ。肩の力を抜きたまえ。その方が良い結果が出るのでな。準備は、いいかね?」

「オーケーです、行けます!」

「そうか、では――やれ」

 

 その瞬間、俺の左腕に今まで体感したことのない激痛が走った。

 

「がああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 ついでに出したことないほどの声で絶叫した。なんだこれ言葉になんねぇ!? しかも終わる気配がねえ!? 勘弁してくれ、終わってくれ。そう思っていた俺の脳裏を、何かが()ぎった気がした。なんだ……これ? 見たことないはずなのに、その過ぎったものにどこかに懐かしさを感じる。でも結局、ハッキリと見えたのは、血塗れの大剣だけだった。そしてノイズが掛かったような声が聞こえた。

 

『こ……よ……か……て……くれ!』

 

 何故だろうか、その声に俺はどこか悔いと決意の想いを感じた。知らない声の筈なのに……でも知っている、というより覚えてるような感じがする。まるで()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……や君……ゆ……や君、雄也君!!」

「ッ!? は、ハイ!何ですか!?」

 

 大きな声で突然呼ばれて、俺は正気に戻った。いつの間にか腕の痛みも引いており、装置からも腕は外されていた。終わったのか?

 

「何ですか?じゃないよ!! いきなり気を失って座り込むからビックリしたんだよ!?」

「は、はあ……それより、もう終わったんですか?」

「終わったんですか? じゃないよ! とっくに終わってもう1時間は経ってるよ!?」

「そ、そんなに……?マジか……」

 

 呑気な俺を見て、真癒さんも思わず呆れたようだ。でも実感が無いんだよな……。あ、でも。

 

「真癒さん」

「ん? なに?」

「これで俺も、今日から〈ハンター〉ですね」

「……そうだね。よろしくね、雄也君」

「はい。よろしくお願いします、真癒さん」

 

 真癒さんが伸ばした手に掴まりながら立ち上がり、そのまま頭を下げて挨拶した。顔を見あげると、心なしか真癒さんの笑顔がいつもより明るく感じられた。

 

「でもその前に、訓練生を卒業しなきゃだね! 大丈夫、早い人は二ヶ月で終わらせたから!」

「マジですか……分かりました、二ヶ月で終わらせられるよう頑張ります!!」

「待ってるよ、雄也君」

「ハイ!待っててください!!」

 

 だって、真癒さん(あなた)に本気で憧れたから。絶対に追い付いてみせる。どんな苦労があっても。まずは真癒さんに追い付くという目標の元、俺の〈ハンター〉生活は、今始まった。




次回がいつになるか、まだ不明ですが、そういった事は時々活動報告に書いていこうと思います。

それでは、次回をお待ちください

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