Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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あらすじ部分の追記・修正を行いました。興味のある方は見てください。


第11話 夢と矛盾と

11月25日

 

「アニキ、残りは?」

「そうだな……予定じゃあ『購買部』、『武具課』、『医務課』、支部長室……必要な挨拶回りはもう全部済んだな」

「そっか。じゃあ次は」

「ああ。あとは【関東支部(ここ)】で一緒に仕事する〈ハンター〉に顔を合わせるだけだな」

「やっとかぁ……」

 

【ハンドルマ関東支部】に来てから二日目の午前。本来なら昨日に済ませていたはずの挨拶回りを終えてきた。因みにアニキは先に昨日済ませてたらしい。それでも付いてきてくれたのはありがたい。

 

「さて、アイツはここだな」

「ここは……訓練室?」

「ああ。ヤツとは一応俺は顔見知りなんでな、なんとなくここだとは察してた」

 

場所は教えて貰ってはいたんだけどな、と笑いながら付け足す。どうやらアニキの知り合いで、結構気を許せる間柄のようだ。となると根は悪い人では無いはずだ。期待しておこう。

 

「さて、入るぞ?」

「いつでも」

「おうよ。失礼するぞ!」

「ちょっ!?」

 

ドアを豪快に蹴っ飛ばした!? 壊れてはないけど何してんの!?

 

「安心しろ、一応靴は脱いでおいたから汚れは付いてねえ」

「そこじゃねえよ!?」

「大丈夫だ、その程度で壊れるヤワな設計してねえよ。今まで何度もやってるからな!」

「怒られねえの!?」

「俺と『アイツ』の通例みたいなもんだからな……なんかもう諦められた」

「えぇ……」

「とにかく入るぞ」

 

さっさと入っていってしまった。……行くか。ドアは……よく見たらこれドアノブとかレバーが無い。……もしかして、アニキ用に付け替えたのか?お疲れ様です……アレ?通り過ぎたらドアが閉まった? ……正確には、センサー式でロックが解除されるタイプだったのか。……更にお疲れ様です。

 

「おーい何やってんだ雄也!」

「今行くよー」

 

後で技術屋の方々にいい差し入れを持って行こう。そう心に決めてアニキの元へ走った。

 

「何してたんだ?」

「別に。少しお疲れ様です、と」

「?」

「おい、テメエが誠也のアニキのとこの新入りか?」

 

アニキの隣には、背は俺より高いが俺と年齢が同じくらいの顔立ちの男が、腕を組んで不機嫌そうな表情(かお)で立っていた。時間に厳しい人なのかもしれない。すまない。謝らねば。

 

「おはようございます。昨日はすみませ――」

「ンなこたァどうだっていい。俺の質問に答えろってんだ」

「……確かに、俺はアニキのとこの、【第一中国地方支部】の新入りだが」

「……そうかよ。名前は?」

「おいおい昂助(こうすけ)、名前を聞く時は先に名乗るモンだ、って前にも言ったろ?」

「そうだな。 俺は『桐谷 昂助(きりたに こうすけ)』! 剣斧(スラッシュアックス)を使う! リオレウスを単独討伐した経験もある!!」

 

リオレウスを単独討伐……それは今や、〈ハンター〉達にとって一つの目標を達成している証だ。手の届かない位置に飛び上がり、そこそこ頑丈なビルでも〈龍血技術(ドラグテック)〉による加工を施されていなければ、一撃で倒壊させる火球ブレスを放つ、空の王者。こいつは、それらをたった一人でくぐり抜けた実力者ということだ。……間違いなく、並の男じゃない。

 

「へぇ……お前、いつの間にそこまで腕上げたんだ? 」

「言っとくがハッタリじゃねえぞアニキ。嘘だと思うなら問い合せてみろよ」

「ばっか、お前がそこで嘘つく奴じゃねえことぐらいよく知ってらぁ」

「へっ、ありがとよアニキ」

 

……こいつが俺と同年代とすると、こいつは四月から〈ハンター〉になったという事になる。〈ハンター〉の条件は適合率が一定以上あることと、十二歳以上で中学生以上である事だからだ。訓練生はその年齢に達してなくても、座学は受けられるらしい。俺が実践訓練に出たのは6月。……恐らくこいつと俺の差は二ヶ月。たった二ヶ月、されど二ヶ月。加えて【関東支部(ここ)】は世界有数の激戦区。経験は俺の数倍はあると見ていいだろう。だが――それがどうした。

 

「俺は上田雄也、双剣を使う。……アンタが十分な実戦経験者なのはよくわかった」

「そうかよ。それが分かったら俺の指示には従――」

「だが俺は、絶対服従はクソくらえ、って言わせてもらう」

「――あ?」

 

短い声の後、スラッシュアックス――ベリオロスの甲殻のようなパーツから、『アンバースラッシュ』だろう――が俺の眼前に振り降ろされた。床はひび割れ……てない。頑丈に作られてるようだ。

 

「……もっぺん言ってみろ」

「絶対服従はクソくらえ、つったんだよ」

「テメェ……ハンター界(ここ)弱肉強食(そういうもの)だと分かって言ってんのか!?」

「あぁ」

「ッ! テメェ!!」

「やめろ昂助。俺が言ったことだ」

「ッ!? あ、アニキが!?なんで!! 一年前はそんな事は……!」

「……気が変わったんだよ」

「……そうかよ」

 

熱が冷めたようにスラッシュアックスを龍子化(のうとう)した。……アニキの言葉には素直になるようだが、相当なモンだなこいつ。心酔してるレベルに見える。

 

「……テメェを完全に認めたわけじゃねえ。だがアニキに免じてここは引いてやる。あと……一応、よろしくとは言っておく」

 

手を差し出してきた。これは和解とは別の意味なのだろう。テメエは気に入らねえが最低限の筋というか礼儀は通す、と言わんばかりの雑な手の出し方だし。しかしあれだけ『お前が気に入らない』と言ってきた相手が、その感情を一旦抑えて、するべき事はきちんとしようとしているのだ。ここで振り払うのは幼稚極まりない。

 

「あぁ、よろしくな」

「お前の言い分には言いたいことが色々ある。が、それはそれだ。仕事の時はお互い抑えて行こうぜ」

「努力する」

 

こいつの――桐谷の言動から察するに、どうやら昔のアニキは体育会系的思考が強い、先輩が絶対みたいな主義者だったようだが、どうやら真癒さんに出会ってそこが変わったのかもしれない。

 

「それじゃあ、俺達は一旦部屋に戻る。30分後にここで訓練だ」

「了解」

「分かった」

「それじゃ、また後でな」

「待ってるぜアニキ!!」

 

訓練室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

借りた部屋への帰り道にて。

 

「アニキ……アイツは……」

「……すまんな。アイツと出会った頃の俺は……とにかく、今も大概だが昔より圧倒的にマトモに見えるほどの、大馬鹿野郎だったんだ」

「でも……真癒さんに出会ってそれは変わった、と」

「俺のバカがやらかした中で、唯一の救いはアイツが『仕事は仕事、私事は私事』って、割り切ってくれる事だな」

 

俺にはなかっただけに、アイツと比べて俺自身のみみっちさが引き立つなぁ、と続けてボヤくアニキ。

……少し考えて思った事だが、昔のアニキも、別に『先輩は絶対』主義では無かったのかもしれない。一度そう考えておいてなんだが、考えが改まったのは、桐谷の発言を聞いたアニキの表情が、なんというか『にが虫』を噛み潰したような感じに見えたからだ。

 

「なあアニキ。もしかしてさ……桐谷に向けて言いたかったのは、ああいう事じゃ、無かったんだろ?」

「……一応な。でも、今の俺じゃ多分それも届かねえ。今までアイツが信じていた俺の言葉を、今更俺自身が否定したんだからな」

「そっか……なら、俺が代わりにやってやる」

「……いいのか?」

「いいもなにも。俺もヤツに因縁が出来たからな。そこはどうにかしたい」

「分かった……そこはお前に任せる」

 

こころなしか、アニキの表情が少し和らいだ。……任せてくれ、アニキ。

……あ。今、思い出したのだが。俺、喧嘩とかのいざこざを自分の力だけで解決出来たことがねえや。……まあ、なんとかなるか。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

『いいか昂助! この業界は果てしなくキツイ。だからこそ、先輩側が引っ張っていかなきゃいけねえ! だから……黙って俺に付いてこい!』

『おう!!』

『ああでもよ、もし俺が――』

 

ジリリリリリ!

 

「やかましい!!」

 

寝ながら裏拳の要領で目覚まし時計を叩き潰す。……あ。()()やっちまった。〈ハンター〉になる前の力加減(要するに無加減)の感覚でやってるせいで、いいことなかった日の翌朝は大体目覚まし時計を壊してる。我ながら困ったもんだ。

 

「ふぁ……」

 

欠伸をしながら、A(アームド)C(カスタマー)C(コンパクト)デバイス――俺の趣味でベルト型――の時計機能(バックルに搭載。ボイス付きでもある)を確認する。今は午前六時三十分。……訓練室行くか。アニキもいるだろうし。

 

「……にしても、また懐かしいのを思い出したもんだ……」

 

さっき見てた夢。普段はあまり覚えられないが、アレだけは鮮明に覚えてる。アニキと初めて会った日の事だ。俺も、あの人ぐらい頼れる男になりたい、そう思うようになったきっかけだ。だから……何が何でも俺は上に、前に、いなくちゃならねえ。でなきゃ、でなきゃ……俺は――

 

ピピピ、ピピピ

 

電子音が流れる。携帯のものだ。見れば、アニキからのメールが来てた。了解、鍛錬だな。

 

「さぁてとォ!! 切り替えて行くぞォ!!」

 

今は、やるべき事に目を向けろ。

 

 

◆◇◆◇◆

 

11月26日

 

「あ」

 

唐突な自論だが、人間はいきなり起きた出来事への対処は、割とどこか穴が空いてたり欠けてたりするものだと思う。俺もその例に漏れず、やらかした。

 

「どうした雄也」

「『ルドロスツインズ改』以外の双剣忘れてきた」

「……マジで?」

「マジで」

「双剣で特定の属性しかないって……流石にキツくねえか?」

「まあ、何とかするしかないよ」

 

他支部に武器を持ち込むには、まず龍子化してない武器を持っていき、少しの審査を通した後に他支部に龍子化登録をした後に使用できる。つまり、AカスタマーにIDを打ち込んでログインしたからと言って、他支部では登録してない武器は扱えないのだ。

【関東支部】は規模が大きいので、頭下げればランク相応の武器ぐらいはレンタルしてくれるかもしれないが、振り慣れてないレンタル品に命を預けられる度胸はぶっちゃけない。斬れ味とランポスシリーズがもたらす攻撃UPスキル――ある程度の龍力が全身を覆い、筋力その他諸々を強化してくれるスキル――の火力に頼ろう。

そういえばスキルって……なんで付くんだっけ。確か前に真癒さんが『倒した〈モンスター〉の肉体に宿った龍力が起こした奇跡のようなもの』と言っていた。神話とかでいう神の祝福とか加護のようなものとでも思えばいいのかな。理屈は分からないので考えるのはやめよう。

 

「取り敢えず雄也、武器の属性はもう何ともならねえ。だからせめて、弱点を突ける戦い方を覚えるぞ」

「……それもそっか。弱点属性を突けない分脆い所を突くしか、遅れは取り戻せないしな」

「そうと分かれば、ARシミュレータを起動させるぞ。お前の単独戦闘(ソロ)で設定しておく」

「了解!」

 

そんじゃ行ってくる、とシミュレータモニタリング室に向かった。

 

「さてと、装備確認だ」

「おい上田」

「ん? あぁ、桐谷か。先やってるぞ」

「それはいい。お前、これからARシミュレータ使うのか?」

「ああ」

「俺も混ぜろ。アニキにはさっき入れ違う時に言った」

「……分かった、アニキに話してるのならいいぜ」

『おーい二人共! 行くぞ! 準備しろ!』

「了解!」

「おうよ!!」

 

ACCデバイスのARモードを起動する。これでARシミュレーションによる狩猟がスタートする。周りの風景が変わり出す。舞台は雨降る市街地。だが人の気配を感じさせる風景ではない。避難済みというシチュのようだ。

 

「ほぉん……防具はまだランポスか」

 

そう言った桐谷の方を向くと、奴は『角竜 ディアブロス』の素材を用いた剣斧『タイラントアックス』にレウス一式を身に付けていた。

 

「少し前に防具が壊れてな。しばらく戦闘に出れなかったから他の防具を作れてねえんだよ」

「ハッ、それでもいいぜ。お手並み拝見と行こうかァ!!」

 

桐谷がタイラントアックスを斧モードで構える。俺も双剣――ルドロスツインズ改――を構える。

 

ギュアァ!!

 

「おいでなすったな!! この声はゲリョスだ!!」

「弱点部位は確か……尻尾から先、か」

 

奴は全体的に柔いモンスターだが、特にその部位は脆い。とはいえ全身ゴム質。表面はスベスベ。そして雨に濡れていることもあって、一撃が軽い俺では刃が滑って斬り損ねる可能性が高い。いつも以上に意識して切りつけなくては。

それになにより――ゲリョスは初めて相手するし。

 

「後ろに回り込むのか!?」

「あぁ!!」

「尻尾をぶん回して来るから気ィ付けろ!」

「ご忠告どうもだ!!」

 

支給用強走薬を飲んで走り出す。まずは鬼人強化状態を目指す。

 

「オラァ!!ピヨッてろ!!」

 

桐谷がタイラントアックスを剣モードにして斬り付ける。搭載された減気ビンにより、相手に鈍器で殴られたような疲労感を与える。頭部に叩き付ければ目眩をも引き起こす。

因みにその原理は、減気ビンが発生させる特殊な電磁波が体内の乳酸の生成を加速させ、疲労を早めるのだ。電磁波を用いるため、効果のない〈モンスター〉も当然いるが。因みにゲリョスには通る。ゴム質だから通らないと思いきや、ゴム含めた絶縁体でも電波は割と普通に通すとのこと。例外はあるが。

しかし……アイツ、やり手だな。横薙ぎに切りながら当てたスラッシュアックスを支点に、払った方向の逆側に跳ねて直進の攻撃を避けてやがる。鈍重な武器として知られるスラッシュアックスを使ってるとは到底思えない。

 

「俺も……負けられねえ!」

 

あんな鈍重な武器であんな動きされちゃ、機動力が売りの双剣使いとしては立つ瀬が無くなっちまう!!

 

「はぁ!!」

 

尻尾の付け根に車輪斬り、すかさず回転斬り、からのそのまま振り下ろして叩き付ける!

鬼人強化には十分だ。鬼人化を解いて距離を離す。解いた理由としては、鬼人化状態を維持し続けてると、俺の集中力が高まりすぎて周りが見えなくなるからだ。それのせいで真癒さんを斬りかけた事もある。なのでこれは自分へのセーフティとして、鬼人化状態を保つのは連続一分間と制限している。一時はデバイスに細工を施され、一定時間を過ぎると鬼人化に用いる龍力をカットする機能まで搭載された。今は外されているが。

 

「まだまだァ!!」

 

ギュオァァ!

 

こちらに顔だけ向けながら、尻尾を振り回してきた。だが全身を捻って躱す。

 

「そんなモン――にッ!?」

 

躱した。躱したはずだ。しかしそのゴム質の尻尾は俺の頭部を打ち付けた。

 

「ガハッ、ゴホッ!?」

 

吹っ飛ばされて思いっ切り背中を地面に(正確には床)に打ち付け、激しく咳き込む。(いって)え……! ランポス一式がフルフェイスじゃなくて良かった……!もしそうだったら空気が吸いにくくて仕方なかったしな!

 

「……ったく、この――」

「目を塞げバカ!」

「へ?」

 

ギュアァ!!

 

視界が白く塗りつぶされる。これは……ゲリョスの閃光!?

 

「ぐああぁ!?」

「だから言ったろうがこのバカ!」

一旦下がるぞ、という声と共に引きずられる。

ああクソ、このままだと終わったあと俺が文句言えなくなる!かくなる上は!!

 

「クソ離せ! 自分で動ける!!」

「……躍起になんなよ。初見相手に不覚を取るなんざ誰だってあらァ」

「……」

「大方、俺が『二度と文句言うなよ』とか言うと思ったんだろォがよォ、仲間が死にかけるほどでもねえ限り俺は許容する。だから今は黙って引きずられとけ」

「……はいはい」

「『はい』は一回だゴラァ!!」

「はい!」

 

ヤケクソ気味に叫ぶ。 自分が幼稚な奴みたいに感じて恥ずかしくて死にたくなる。死ぬ気は無いけど。

 

「見えてねえだろうから言っとく。物陰に置いとくぞ。目ェ見えたらさっさと来い」

「分かってる!」

「へっ、その前に俺がぶっ倒すつもりだがなァ!!」

 

走り出す足音が段々遠のく。

……改めて、自分の未熟さを実感した。二ヶ月前、単独でロアルドロスを討伐出来て、俺はただいい気になっていた。思い上がっていた。その癖、〈モンスター〉討伐に『生き物の虐殺』という意識を僅かに抱いている。

〈モンスター〉という『生き物』を殺す事に忌避的な意識を僅かに抱いてる癖に、勝てたら思い上がる。

 

「……なんだよ、これ」

 

〈ハンター〉は夢だった。それだけに『生き物』を殺す事の重さを強く感じている。どうしたらいいんだろう。

 

『迷ったら、いつでも言って』

 

二か月前の真癒さんの言葉が頭をよぎる。

 

『新人なんだから。迷ってもおかしくないよ。そして、先輩を頼ってもいいんだよ』

 

……そうだった。今の俺には、相談出来る人がいる。なら今するべきことは――

 

「……ウジウジしてられねえな。さて、行くか!!」

 

双剣の斬れ味を確認し、物陰から飛び出す。

 

ギュアァ……

 

「へ?」

 

しかしゲリョスは既に力尽きていた。……えぇ……

 

「はあ……やっちまった」

 

納刀して状態確認の為に近付く。

 

「バカ野郎! 近付くな!!」

「え?」

 

ギュアァ!!

 

「グハッ!?」

 

またしても伸びた尻尾に叩かれる。これはまさか……ゲリョスの特徴たる『死んだフリ』か!

 

「ここまでのものとは、な……」

 

回復薬を飲みながらゲリョスを睨み付ける。

 

「まだ下がってろ! 俺がやる!」

「お前だけにいいカッコさせられるか!」

 

強走薬の効果はそろそろ切れるが、俺と桐谷の火力なら押し切れる。

 

ギュアァァァァ

 

ゲリョスが上体を高く上げ、頭をカチカチ鳴らしながら体を揺すり出す。これは……

 

「来るぞ!」

「二度も食らうかよ!」

 

目を瞑り、双剣で目元を覆う。幸い、ルドロスツインズ改は刀身が幅広いため、苦もなく覆うことが出来た。

 

「これで!!」

「終わ――」

 

ヴィィィィ!

 

「「『!!』」」

 

これは……〈モンスター〉出現警報!!鳴り響くと同時にARシミュレータは強制停止し、元の訓練室の景色に戻った。

 

『龍力反応確認!! パターンは大型鳥竜種!! 繰り返す! 龍力反応確認!! パターンは……』

 

「行くぞお前ら! 十分で準備しろ!」

「でもそれじゃ!!」

 

間に合わない、と言おうとしたところで桐谷が遮る。

 

「ここの警報は他のより早いし、何より〈ハンター〉以外での防衛機構が強い! それに、俺達はARシミュレータの直後なんだ! アニキの言うとおり、少し休んで行くぞ!」

「……分かった」

 

武装を解き、一旦借りた部屋に向かう。真癒さんに、一旦話しておきたいことがあるからだ。

 

「アニキ、一旦部屋に戻る」

「分かった、時間通りにな」

 

ありがとう、そう心で呟いて部屋へと急ぐ。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「んーっ……ふーっ。次の授業面倒だなぁ……」

 

一時限目の授業が終わる。正直勉強はそこまで好きじゃないので、双剣を振っていたい。文句言ってても仕方ないけど。

暇つぶしに携帯いじるか。と手に取った所で、携帯が震えた。これは……電話? 画面に表示された名は『上田 雄也』。……雄也、どうしたのかな? 取り敢えず聞かれにくい場所に移ろう。

 

「はいもしもし」

『もしもし……真癒さん、今いいですか?』

「いいよ。どうかした?」

『実は……』

 

彼はハッキリ話してくれた。

〈モンスター〉という『生き物』を討つ事をどうしても『生き物の虐殺』という風に感じ取ってしまうことを。それなのに〈モンスター〉に一人で勝てて喜び、思い上がったことも。そしてそんな矛盾にどう付き合えばいいのかを。

この悩みは、これまで私の周りには無かったものだ。正解らしい正解を示す事は、きっと難しい。だから私に出来る、そして師匠(わたし)らしい返答をしよう。

 

「難しいよね……だから、一緒に考えよう? 私にも分からないから……一緒に、答えを探そう? そしたらきっと、私も師匠らしく君に何かしてあげられるし、君も、何か得られるかもしれないから」

『……分かりました。では』

「これから仕事?」

『出やがりました』

「なら、行って来なさい。君なら出来る!」

『はい!!では失礼します!!』

 

通話が切れる。……上手く、出来たかな?

……話が出来る、いい場所あるし、今度そこに誘おう。

 

「冬雪……貴様、今の時間を把握してるか?」

「げ! せ、先生……」

「時間を把握してるか、と聞いている」

「え、えぇっと……うわ!? もう授業始まってる!?」

「そういう事だ。では職員室だ。あとその電話、校則違反だ。携帯も没収する」

「あ」

 

そのまま私は、職員室に引きずられていった。


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