Monster Hunter 《children recode 》 作:Gurren-双龍
新規さんはそのままどうぞ。
既存の方、書き直したんでよろしくです
序話 始まりの刻
1999年1月21日
キアアァァ……
鈍重な音が大地に響くと共に、純白の鱗に身を包んだ龍がその場に崩れた。その傍らには、漆黒の鱗を持つモノと、紅蓮の鱗を持つ、先程の白い龍と酷似した姿を持つ二体の龍が、血を全身から垂れ流したまま白い龍と同じように倒れていた。
そしてその倒れた龍のすぐ近くに、物語の英雄が着るような鎧を身に付け、刃に血糊がべったりと付いた人間の身の丈ほどもあろう大剣を大地に突き立て、片膝を付いて大剣によりかかるような体勢で荒野に佇む男がいた。白い髪に整った顔立ち、そして所々砕けた鎧から覗く鍛え抜かれた肉体に、180は超えているであろう長身の、若い男だ。
「はぁ、はぁ……これで、これで最後……か?」
息も絶え絶えに、男は呟いた。まるで、もう終わってくれと願うように。しかしその男の期待を裏切るように、その一帯に強風が吹き始めた。
「これは、まさか……!?」
男は予想出来る限りの最悪の出来事が起こったとでも言いたげな、絶望的な
既に鎧は砕けた箇所が多く、大剣も携帯していた研磨用の道具が尽きたために僅かだが刃毀れしたままであり、男本人も満身創痍であった。
「そうか。今度こそが最後のようだな……」
痛みに耐えながら立ち上がった男は、為すべき事を再認識したかのような目付きに変わり、大剣を構えて眼前に現れようとする敵を睨み付ける。
(この戦いが終わり、生きて帰っても、恐らく私の身体は長くは保たないだろう)
スゥ……と目を閉じ、己の結末について男は考える。これまでの事を思い出しながら。
(それでも、私は戦い続ける……! 仲間の死を無駄にしないためにも……!)
決意を固め、男は目を見開いた。その眼前には、神々しくも禍々しい輝きを放つ龍が立っていた。
「さて、行くとしようか……」
ゴアアアアアアアアアアアアア!!!
男は大剣を構えて走り出し、眼前の龍は威嚇するように咆哮を上げた。龍の咆哮が響き渡る中、男と龍の決戦が幕を開けた。
(子供達よ……どうか希望を持って、未来を切り開いてくれ……!)
◆◇◆◇◆
1997年。世界中に突如謎のエネルギー物質〈龍力〉が発生した。更にそれらの影響によって突然変異を起こしたり、または一つの意思を持った塊となった生物が現れるようになった。人々はこれらを〈モンスター〉と呼称し、恐れた。
これに対し〈龍力〉の研究がいち早く進んでいたドイツの研究チームが、〈モンスター〉への対抗策を発表した。
そして1999年1月21日。この日に現れた
そして2008年4月。再び〈モンスター〉が世界各地に現れるようになり、国連はあらかじめ用意しておいた対策機関【ハンドルマ】を世界各地に設置し、対〈モンスター〉のための切り札である〈ハンター〉を各対策機関に配備。
9年の時を経て、再び〈モンスター〉と人類の戦いが幕を開けた。
◆◇◆◇◆
2011年4月16日
『次のニュースです。昨日の夕方、灘崎町にて『轟竜 ティガレックス』が出没したとのことです』
階段を降りてると、ニュースが聞こえた。このニュースは……土曜の朝のだ。つまり今日は学校が休み。だからいつもより日が高い時間に目を覚ました。
「……おはよ」
「……おはよう」
二階にある自室を出て一回のリビングまで来ると、台所でタバコを吸っている母がいた。
「……昨夜はうるさかったな」
「……ごめん」
視線を下ろすと、まだ仕舞ってなかったファンヒーターがある。ただ、普通のそれと違う所を挙げるとすれば、凹んだ部分がたくさんあるところだろう。
「……また父さん?」
「……うん」
母に視線を移すと、目元に涙の跡があるのが見えた。結構遅い時間までやってたようだ。
『〈モンスター〉再出現から三年、未だ〈モンスター〉の出現が報告されてない玉野市に近いですねえ。これはそろそろ来るかも知れません』
『〇田さん! 混乱させるようなことを言うのはよしなさい!』
ニュースに目を向けると、コメンテーターが言い合いを始めたのが見えた。……〈モンスター〉、か。去年の十月に修学旅行先で『金獅子 ラージャン』に襲われたのを思い出す。確かあの時は、雷に打たれた動物園のライオンが変質したためだっけ? そしてその雷は〈モンスター〉のせいだとか。……どうでもいいか。
「……今から出かける」
「お金は、いる?」
「小遣い残ってるからいい」
「……そう。いってらっしゃい。気を付けてね」
頷いて自室に戻る。着替えよう。そうだ、その前に妹の様子でも見てくるか。弟は部屋が同じだから起き抜けに見てきた。アイツには特に何も無かった。妹は……やっぱり、涙の跡がある。よほど二人の喧嘩が怖かったんだろう。……何か買ってやるか。
自室に戻り、着替えに入る。クローゼットに向かうと、ふと自分の机の上にあるプリントが目に入る。……宿題プリントだ。名前だけ書いとくか。
「えっと……一年〇組△番、『
中学に入って間もないので、組と番号を思い出すついでに自分の名前も口に出す。こういった確認時はいつも口に出る。書けた。着替えよう。
◆◇◆◇◆
「えっと……あ、見つけた」
自室にて。コンソールを操作して、お目当ての物を見つけた。
「ん? あ、携帯鳴ってる」
ブーブーうるさい方向に向くと、自分の携帯のバイブレーションが机を鳴らしていた。
「はい、私です……え? 本当ですか? はい!すぐ向かいます!」
コンソールの電源を落として部屋から去る。やる事やりに行きますかな。
◆◇◆◇◆
「ッ――ん?」
何となく、ピクって思わず反応してしまう何かを感じた。でも何も無い。……でもなんかこの感じ、半年前にもあったような。気のせいだろうか。まあいいや。新刊漁るか。
無関心を決め込んだ直後。
ヴィィィィィィィ!!ヴィィィィィィィ!!
日常を殺す、音が響いた。
「何だこの音は……?」
「警報?」
間抜けな声に混じって、激しい足音が聞こえる。その音の主に目を向けると、その人は立ち止まり、信じられない物を見るような顔で叫んだ。
「なんで……なんで皆逃げないんだ! これは……〈モンスター〉出現警報だぞ!?避難訓練なんかじゃない!本物だ!!」
衝撃が波紋のように伝播したのが、俺にも分かった。
何故ならここは岡山県玉野市。1997年から1999年に起こった〈第一次対龍戦争〉。及びそれ以来に〈モンスター〉が出現した2008年からの三年間の、系五年間。
「に、逃げろぉぉ!!」
その叫びを皮切りに、ここは怒号と悲鳴が飛び交う場となった。堰を切ったように人々は一斉に逃げ出した。そこには恐怖、焦燥感、不安、その他諸々。いつも通りの人々などどこにもいない。
……少しして、店内は静かになった。皆逃げ切ったのだろう。避難シェルターは確か、市役所、警察署、スーパー、ホームセンター、デパート、のそれぞれ地下に設置されてたはずだ。俺の位置から近いのは……市役所か警察署だ。行くとしよう。……なんか、おかしいような気がする。何だろうか……あ。
「なんで俺、こんなに落ち着いてんだ?」
違和感の元は他でもない自分だった。今は非常事態。普通ならあの中に混じって逃げ惑うところだ。しかし……何故か俺は自然体。逃げねば、という危機感はあれど焦りや恐怖があまり無い。
「……なんでだ」
少し、考え込む。そして出た結論は――
「後にするか。さっさと避難せんと」
取り敢えず目の前の危機に対処する事にした。どう考えてもそれが最優先だ。思考に沈んでる間に死んでは元も子もない。
走り出そうと足に力を込めた時、視界の端に何かが見えた。人影のようにも見えた。何だろうか。見てみるか。
「……誰かいるんですかー!」
確か、雑誌コーナーの辺りだ。店内は上のあらゆる方向から照らされているため、影などあまり見えない……が、目は良いのでうっすらとだが見ることが出来た。間違いなく人影だ。誰だろうか。
「誰ですか!」
「……!……おおう、ワシはただの逃げ遅れのジジイじゃよ」
そこに居たのは、杖をついた老人だった。少し腰は曲がっておりとてもすぐに逃げ出せるとは思えない。
「……お前さんこそ、誰じゃ?」
「……同じ逃げ遅れです。でも人影が見えて……」
「なるほど。ワシが足を引っ張ったか」
「いえそんなことは……」
「カッハッハ。冗談じゃよ。ほれ!逃げるぞ!」
「あっ、はい!」
その後、俺の歩行速度よりもお爺さんが若干遅かったので、根性で背負って走った。
◇◆◇◆◇
『
「……そんな! お願いします!」
そこまで広くない上にもう埋まっていると判断した警察署シェルターではなく、二番目に近い市役所シェルターにやってきた。しかし既にここも満員だった。だがお爺さんをこれ以上歩かせて手遅れになるわけにも行かない。……仕方ない。
「お願いします! どうか!お爺さんだけでも!!」
「少年!何を言っておるのだ!」
「俺の足とお爺さんの足、どっちが逃げられそうだと思います? それだけですよ」
「し、しかしじゃな……」
『……分かった。二人は無理だから断ったが、一人までならなんとかなる』
「……ありがとうございます!」
「少年……」
「ささ、行ってください」
エレベーターにお爺さんを押し込み、下に降りたのを確認する。……着いたか。よし行こう。
ひとまず、市役所の外に出よう。ここにいても、大型〈モンスター〉に建物を崩された時などにどうしようもなくなる。
ここから直近のシェルターとなれば……デパートだな。走るか。
ギィヤ!ギィヤ!
「――ッ!? ……もう出たのかよ」
この鳴き声は、確か小型〈モンスター〉のものだ。ネットで聴いた事がある。……群れを成す事もあるらしいので、一匹にでも見つかれば一巻の終わりだ。囲まれて食い殺されかねない。……どこまで足音を殺して逃げられるか。ひとまずデパートに向かおう。道路の向こう側だし。車の陰に隠れれば上手くいく……かもしれないし。
「……いないな」
道路付近にはいない。どうやら逆方向だ。よし、行くぞ!意気込んで駆け出すと同時――足元から砂を噛む音が響いた。
「……あ」
ギィヤ!?ギィヤ!?
……勘づかれた。こうなったら全力疾走だ。どのみち気付かれてるしなぁ!
「クッソオォォォォ!!」
駆け出した。まずは歩道に面した入口。外れ。〈モンスター〉対策としてロックを掛けるという話は本当だった。何で一度も出なかったのに付けてんだ。こっちはいい迷惑だ。八つ当たりは百も承知。
「だぁぁぁぁ!!」
焦りを振り切りたくて叫ぶ。詳しい位置を教えてしまうとかは頭に無い。次の入口――裏側だ。あそこは狭いから開けてるとか聞いたことある。急ごう。
コウッ!コウッ!
「うわぁ!?」
曲がり角、目の前にいきなり何かが現れる。……間違いなく〈モンスター〉だ。……しかも、さっき聴いたやつより鳴き声が若干野太いというか、強い。……リーダー格の奴か……勘弁してくれ。
コォォウッ!コウッ!コウッ!コウッ!コウッ!!
ギィヤ!ギィヤ!
「……クソッタレ」
取り乱してない自分を褒めたい。多分、人生で最初で最後の大絶賛になる。奴の鳴き声が合図なのか、小さいのが動き回る。囲まれた。ああ、最悪だ。まさか想定していた最悪の結末になるとは。正直抜け穴はない。ジ・エンドだ、とはこういう時に言いたくなるもんなのか。言いたくなかったな。
……家族の事を思い出し始めた。でも浮かぶのは喧嘩の姿ばかり。楽しい記憶が少ない。……ふざけんなよ、こんな時ぐらい楽しいの見せろよ。ああ、なんか。腹立ってきた。絶対生き延びて
「こんのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ギィヤ!?ギャア!?
コウァッ!?
ゴォォォォォォォアァァァァァァァァァァア!!!!!!
「……ん?」
俺の絶叫より一際でかいモノが響いた。上から。見上げると同時。
コォォウッ!?
リーダー格の断末魔が鳴った。巨大な影が通り過ぎた。豪風が吹いた。背後で地面が響いた。
さっきの轟音に似たような鳴き声じみた音が背後から聴こえた。これらから判断出来るのは……やべえのが来た、って事だ。
ギィヤァ!
小さいのは逃げ出した。脅威が近付いたからだろう。強い結束があっても、死を前にすれば瓦解するという事らしい。
俺も逃げないとやばいっての。しかし何が近づいたのか。それだけは……確認せねば。振り返ったそこには――
グルルル……グァウッ!
赤い鱗、大きな翼、ごつい脚、刺々しい尻尾。見間違えるはずもない。アレはまさしく――
「『火竜』……『リオレウス』……!」
三年前の〈モンスター〉再出現、その時最初に現れたという〈モンスター〉だ。炎を吐き宙を舞う、まさにファンタジーの竜そのもののような、強大な〈モンスター〉だ。
「……ッ!」
思わず唾を飲み込む。何せ目の前に立つのは、俺にとって『死』そのものといえる脅威。手足は既に震えてて、もう動かせる自信が無い。でも……止まったままでいるわけには……いかない……!
だからさァ……動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けェ!
「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
全力疾走。恐らく、この時人生で最速を出した。思考がグチャグチャになりそうだ。多分今の雄叫びでリオレウスには気付かれた。事実、奴から呻くような、声が出た。人間で言うなら「ん?」って感じの声だろう。
だが構うものか。俺には……生きてやらなきゃいけねえことが……あるんだよ! だからさァ……
「終われねぇ……!こんな所じゃ!!終われねぇ!!!」
駆け抜ける。そして見えた。ひとまずなんとか身を隠せそうな場所。屋内駐車場への道……ではなく。その真下にある、人が通れる程度のスペースだ。奴の巨体は当然通らない。そこまで行けば、間違いなく奴の足は止まる。反対側に〈モンスター〉がいたとしても、リオレウス相手に逃げ出さないやつなどそうそういない!
「行ける……行ける……!」
そのスペースに飛び込んだ。だが止まれない。止まっては終わる。だからそのまま駆け抜ける。もうすぐ……だ!だが――
グルアァオ!
取り敢えず、こういう時は目を逸らすと死ぬ。だから目を合わせ……そしてじわじわとデパートの入り口に近付く。慌てて動いても死ぬ。奴を刺激するからだ。
「うわっ!?」
またしても、運に見放された。右足の力が突然抜けて転けてしまった。見ると、右脚のふくらはぎから血が流れていた。しかも結構痛い。もしかして、あの小っこいのに噛まれたか……!?やられた。今まであまりの緊張や危機感から完全に無視していた。
リオレウスに目を向ける。まずい。俺の突然のアクションに驚いたのか、威嚇がさっきより荒々しい。そしてすぐに、翼を広げ、上体を伸ばした。これは……
ゴアァァァァァァァァァァァァァ!!!!
「がぁぁぁぁ!?」
頭が割れそうだ。それほどの轟音が目の前で爆ぜた。思わず耳を塞ぐが、鼓膜が割れそうで怖い。『口を開けろ』と、また知らない知識が訴える。その通りにした。これでどうなるのかは知らない。
ああでも……恐らくここで終わりだ。もう動けない。意地でも動かそうとするが、ピクリともしてくれない。
ちくしょう……ダメなのか……?諦め寸前と同時、何かが風を切る音が聴こえた。それを聞いた刹那に、声が響いた。
「目を庇って!」
そして、閃光が炸裂する。
グオォアァ!?
竜の狼狽えた叫びが響く。思わず目を開ける。視界は良好。目の前のリオレウスは――いない。いや、正確には
「こちら『
淡々と呟いたその声は、確かに女性のものだった。
「……了解」
彼女は耳元に手を当て、何かを聴いて確認すると、双剣を背中に提げ、そして空いた両手で兜を外した。その中から出てきたモノは――積もった雪より煌めく銀髪を持つ女性、だった。
「……あ、君、大丈夫?」
振り向いた彼女は、銀髪だけでなく、ルビーのような紅い瞳までも持っていた。
この時に俺が何を感じたのか、分からなかった。ただ強いて言うなら――運命、なのだろうか。
そう感じながら、俺は彼女から伸ばされた手を掴み、目を瞑った。そこからの記憶は、次に目覚めるまで無かった。