ダンまち ~黒衣と煌めく刃~   作:凸凹凹凸

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 いやぁ本当に遅れて申し訳ありません(T-T)
 全然執筆が進まなく、徐々に書いていって今に至ります(T-T)

 しかもソード・オラトリア始まっちゃった……!


『 怪物祭 ③ 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光源が心もとない、暗く湿った場所だった。

 天井から吊るされている魔石灯は一つを除いて沈黙し、部屋に至るところに影を作り出している。

 一見して倉庫のように見える薄暗い空間には、いくつもの『檻』があった。鎖に繋がれ多数のモンスターが閉じ込められており、金属の擦れる音が便りに鳴る。鉄格子の隙間に鼻面を突っ込む犬型のモンスターが、牙を剥きながら唸り声を上げていた。

 地下部に設けられた大部屋。とうぎの舞台裏、言うなればモンスターの控え室だ。

 モンスター達はここから担当の者によってアリーナへ檻ごと運ばれる手筈になっている。地上に上げられた際に束縛を解かれ、中央フィールドにいる調教師(テイマー)と相まみえるのだ。

 時なりのような観衆の声が、遠くの方から反響するように響いてくる。

 

「何をしている、次の演目が始まるぞ!? 何故モンスターを上げない!」

 

 鋭い足音と共に大部屋の扉が開かれた。【ガネーシャ・ファミリア】の女性構成員が激しい形相を作って部屋の中に飛び込む。

 彼女は祭りの裏方を取り仕切る班長だった。出番が間近に迫っているにも関わらず運ばれてこないモンスターに業を煮やし、急いで様子を見に来たのだ。

 怒気を孕んだ彼女の声に、しかし答える者はいない。

 

「な……お、おいっ! どうした!?」

 

 部屋の中に広がっていたのは、ことごとく床にへたり込んでいる仲間達の姿だった。

 この場を任されていた四名の運搬係が、腰を下ろした格好で固まっている。

 驚愕に見舞われながら慌てて一番手前の者に駆け寄ると、息はあった。外傷もなし。顔を上げて他の者を窺ってみても同じだ。みな命に別状はない。

 ただ糸の切れた人形のように、力という力が全身から抜けていた。

 

「ぁ……ぁ」

 

(モンスターの毒、いや違う、なんだこれは……!?)

 

 細く濡れる声。上気した頬。瞳の焦点が定まっていない。

 まるで見覚えのない症状。屈み込んで仲間の顔を覗き込んだ彼女は軽い寒気に襲われた。彼等の陥ってる異常な状態に心当たりが何もない。

 ここで何が起きたのかと、彼女はその場から立ち上がり、モンスターが唸る暗い室内を見回す。

 

「───」

 

 不意に、背後の空気が揺れた。

 襲撃を思わせる鋭い動きでもなく、なんてことない、友人へと歩み寄るようなゆったりとした動き。害意の欠片もないが故に、致命的なまでに反応が遅れる。

 何者かが、真後ろに立った。

 

「動かないで?」

 

「───あ」

 

 そっと、両目を塞がれた。

 恐ろしく滑らかな肌触りのする細い手が、目隠しをする。

 次には、痙攣するかのように一度、ずくんっと己の体が打ち震えた。

 鼻腔を舐める甘い香りが、密着してくる肉の柔らかさが、肌を通じて感じる温もりが、彼女の感覚という感覚を麻痺させる。底の知れない『(なにか)』が、覆い被さった。

 信じられない『魅了』。

 視界外からの『魅了』。

 ありえない。抗えない。逆らえない。

 頭が真っ白になる。何も考えられなくなる。意識が断線する。

 彼女は自由を奪われた。

 

「鍵はどこ? 」

 

「───え」

 

「檻の鍵は、どこ?」

 

 息を吹き掛けるように、囁くように耳元へ声を添えられる。ぞくりと首筋が戦慄(わなな)いた。

 脳に()み込ませるように告げられた二度の言葉に、彼女はもはや条件反射のように従った。

 がくがくと震える左腕を動かし、腰に取り付けてある鍵束を手に取る。かちゃかちゃと音を鳴らしながら、モンスターの檻の鍵を肩の高さまで持ち上げた。

 

「ありがとう」

 

 差し出していた鍵が取られ、目を塞いでいた手も消える。が、瞳が機能することはなかった。自失した彼女には何も見えていない。

 背後にいた気配が離れていくと足音から崩れ、臀部(おしり)をぺたんと床に落とす。

 先刻まで起きていた光景を巻き戻すように、彼女も仲間と同じ結末を迎えた。

 

「ごめんなさいね」

 

 そう呟いたのは、下界にへと舞い降りた()()()()()()のフレイヤだった。

 異常なまでの『美』。彼女自身の『美』そのものが()()()が持つ理性を簡単に崩壊させる女神。ヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)は勿論、神々にさえ及ぶその支配力は圧倒的だ。彼女がその気になれば何人たりとも忘我(ぼうが)の淵に叩き落とす。

 

『男女問わずの骨抜き……おぉ怖や怖や、女神(オンナノカミ)は恐ろしい』

 

「あら……?」

 

『見えぬ所より失礼。拝見と拝聴させて貰っております』

 

「この声は、随分昔に聞いた声ね。……東方から来た子かしら?」

 

『ほっほっほ……。妙齢に差し掛かる(やつがれ)に対し(わらべ)扱いとは……ほっほっほ!』

 

「ずっと観ていたのかしら? 悪趣味ね」

 

『何を仰る……。女神様が()()を言いますか』

 

「クスクス……段々思い出してきたわ」

 

 女神フレイヤは、突然の声に対して驚きもせずに、目的の為に動きは止まっていなかった。

 話ながら四方八方から吠え声を浴びせられても、フレイヤは美しき笑みを絶やすことはない。

 

「あなたは、ムメイ・ナナシ……いや、あなたの住んでたところではナナシ・ムメイと呼ぶのだったかしら?」

 

『ムメイとお呼び下さりませ……。女神様』

 

「うふふ、ムメイ。あなたの術って面白いのね。遠方からここを視ているわね?」

 

『ほっほ。見破りますかな』

 

「伊達に神様じゃないのよ?」

 

 しかし、下界に降りた神々は全て『無力』な存在にへと成り下がる。

 神とは違う。命ある『人間(ひと)』には娯楽がそこにある、と神の一柱(ひとり)がそう告げた。

 それが万人……いや、万神全てそう思ったのか知らないが、条件は同じ神々に課せられた。

 フレイヤとて、言ってしまえば『美しさ』や『知力』を取ってしまえば人間の女と同じになるようなもの。

 そうさせないのはやはり神性が宿る性質のせいなのか分からない。

 そして、神からすれば、言葉を喋り、知略を巡らせ、偽りを口にする人間を見破ることさえ可能だろう。

 しかし、このムメイと呼ばれた嗄れた声の持ち主は、とても嘘を滲ませるようなものをフレイヤは感じなかった。

 普通ならば、動揺などするのかもしれないが、彼等彼女等は『神』である。

 幾ら格下げの存在にへと成ろうとも、変わらぬものも存在する。

 

「ムメイ、あなた。また『神騙し』のような術でも覚えたのかしら?」

 

『神々が地上に降り立った時、嘘を見抜かれてしまうことを怖れた古人達の技術を、掘り出しただけに過ぎませぬ』

 

「あら、そう」

 

 短く頷きながらも、フレイヤは怪しさ満載の声の主を思い浮かべ、笑みを浮かべる。

 

『…………顔を見せておらぬというに、やはり(やつがれ)には神を恐れまする……。やはりこの術を持ってしても、あなた様方、神々からすればこれは児戯にしか見えませぬか。あぁ……(こわ)(こわ)や』

 

 そう。フレイヤは笑う。

 神は笑う。

 内心驚いてる。大変驚いているのだ、この女神は。

 しかし、それは逆に()()()()()と思ってしまう。

 やはり『下界は面白い』と神々は興味が尽きないでいたのだ。

 

「貴方がいいわ」

 

 そして、フレイヤは嗄れた声が恐れている隙間に、吟味していたモンスター達の中で、ある一点に止まった。

 

「出てきなさい」

 

 真っ白な体毛を全身に生やし、ごつい体つきの中で両肩と両腕の筋肉が特に隆起しており、フレイヤと同じ銀色の頭髪が背を流れて尻尾のように伸びている。

 野猿(やえん)のモンスター『シルバーバック』は、その瞳をぎりぎりと見抜き呼吸を荒くしながら、女神の眼差しを受け止める。

 開かれた鉄格子から、シルバーバックはフレイヤに従うように一歩歩み出た。繋がれっぱなしの鎖がジャラリと鳴る。

 モンスターを解き放つ、ともすれば危険な行為。

 自由奔放な女神の(はた)迷惑過ぎる気まぐれ。

 目的は、たった一つ。

 

(……ああ、ダメね。しばらくあの子の成長を見守るつもりだったのに……)

 

 フレイヤは知っていた。ベルが凄まじい速度で成長していることを。

 原因は定かではないが、常識破りの速さで今も『飛躍』し続けていることを。

 女神の眼には、それが見えていた。

 

(……()()()()()を出したくなってしまったわ)

 

 まるで子供のようだとフレイヤは笑う。

 愛しい子供をして気を引こうとする。

 ただそれを眺めている者もいた。

 真っ白な外套に身を包む女神(フレイヤ)の後ろに現れた対比する真っ黒な外套を頭から下まで被った一人の人物。

 

(……自由奔放……言葉通りの存在だ。崇拝する奴らは思考を巡らすことを放棄した侮蔑する者らだな。)

 

 黒い外套から覗くその瞳には、最早生気すら感じ取れない不気味なもの。

 

(……フレイヤ・ファミリア)

 

 黒い外套の者は、その生気の無い瞳から唯一覗かせたものは、黒く濁った憎悪だった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「んねー、んねー♪ あのウサギ少年と何話してたんだよ~、ボクにも教えてくれたって良いじゃな~い♪」

 

「い、嫌ですよ。どうしてこんなに急に絡んでくるんですかこのおじさん」

 

「お、おじさんって酷いよ~。ボクぁまだまだピチピチだよ~?」

 

「おい、キョウラクの旦那。それはちと無理があるぜ」

 

「つか酔っぱらい過ぎだこのオヤジ! 七緒(ナナオ)呼んできてねーのかよ!」

 

 先程、エイナが担当として世話しているであろう新人冒険者のベルと話していたところを見ていて気にし出したのか。

 【カグツチ・ファミリア】所属の笠を被った壮年、キョウラク・春水はだらしない顔でエイナに絡むが、一緒になって酒を飲んでいる狼人(ウェアウルフ)の男、スターク・コヨーテが残念そうな目で見て、更にその二人のオヤジを眺めては至極残念そうに、というより面倒くさそうに見ている一人の少女は、ゲシゲシと春水を蹴って酔いを醒まそうとしていた。

 

「ちょっとリリちゃん! 痛いから脛を中心的に蹴らないで。悲しいほど痛いから」

 

「リリじゃねぇ! リリネット・ジンジャーバックだ!」

 

「長いってば……。リリちゃんの方が可愛いよ?」

 

「あぁん!?」

 

「リリネット落ち着け。少し騒ぎ過ぎだぞ」

 

「スタークも何真剣に酒飲んでるんだっつーの! ロキにチクるぞ!?」

 

「ふっ。言ったところで俺には何にも…………」

 

「そうか。あたしの優しさを無下にしやがるか。…………じゃあリヴェリアに……」

 

「おい、キョウラクさん! 飛び火がこっちまできたぞコンニャロウ!」

 

 白いヘルメットを被った少女が中年オヤジ二人を相手しつつも、先程より何だか騒がしくなってきた。

 エイナは本格的に面倒臭くなってきた頃。

 既に【神々の遊戯(クソったれなあそび)】の火種は燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「どけ」

 

「まぁ、待ちたまえよ。こちらとしても話をしたい」

 

 喧騒。悲鳴。衝撃。

 今、街を覆っているのはそれが大半だった。

 【ヘスティア・ファミリア】に所属している目付き悪い男として周囲に見られている黒衣の剣士、一護。二つ名〝黒裂(くろさき)〟の名を示すかのように、漆黒の刀が相手に鋒を向けたまま動かず、出方を待っていた。

 

「君は、何やら【カグツチ・ファミリア】と仲が宜しいようだね」

 

「だから何だ。そこをどけ」

 

「聞きたいことがあってね」

 

「今じゃなくていいだろ」

 

「リュー・リオンでも探してるのかね。このモンスターが街を闊歩している中から探すのは大変だと思うが」

 

「その探す時間を無駄に減らされてこっちは我慢の限界が近いんだが」

 

「なんと……我慢が出来たか」

 

「………………」

 

 ここは屋根上。

 怪物祭(モンスターフィリア)にて見世物になっていたであろう魔物たちは、鎖を繋がれず、解放されたことで街中の至るところに散らばって行ってしまった中、リューと一護は逃げる人混みに巻き込まれ、離れてしまっていた。

 そこで屋根に上がり、探し出そうとしたところ、この謎の男が現れた。

 衣服は黒のコートを着て、顔は仮面で隠しており、如何にも怪しいという言葉が似合う奴が現れた。

 

「おい怪しい奴。これはお前の仕業か?」

 

「モンスターたちのことか? そうだな。(やつがれ)()()()()と言えば()()()()

 

「そうかい」

 

 言質は取った。

 一護は消えるかのようにその場から『瞬歩』にて移動し、背後を取り、気絶させようと刀の峰で当てようとすると、

 

「急ぐじゃないか!」

 

 相手も予想していたと言わんばかりに片手に剣を持っており、一護目掛けて突き刺そうとするも、これを一護は眼球に刺さるか刺さらないかまで近寄らせた瞬間にまた瞬歩にて謎の男の前に回り、腹部に強烈な柄尻の打突を食らわせた。

 

「なッ……がぁ……!?」

 

 男はこの対応に驚き、綺麗に一護の打突で意識を失うところだったが、何とか気絶せず意識を留まらせた。

 

「ゲホッゲホッ!! ガハッ! はぁ、はぁ……す、凄い! 反応出来なかった! これほどまでの瞬歩使いだと……!?」

 

「……やっぱり東方(こっち)の技術を知ってるな。なんで瞬歩を知ってるんだ」

 

 一護は逃がさないと言わんばかりにまた踏み込もうとするが、

 

「よし。そうだな、ハァハァ……、撤退する。ゴホッゴホッ! …………(やつがれ)にはまだまだ早すぎた。いやそれとも遅すぎたかな?」

 

「挑発しておいて逃げる気かテメェ!」

 

「謝罪しよう。だが反省はしてない」

 

 一護の怒りの一閃が謎の男を斬り伏せるも、既に姿かたちも無くなっていた。

 何がしたかったのか、全く分からない。

 しかし、居なくなったならそれで良い。

 

(リオンを探さねぇと)

 

 一護は愛刀を仕舞い、屋根から街を見渡すと、既に何処もかしこも冒険者(モンスタースレイヤー)たちとたちと戦っているところだった。

 一護は眉間にシワを寄せ、考える。

 

(……居た)

 

 一護の特殊技法……というより、リューが持つ個人の《霊圧》を感覚的に辿ってみたところ。余りに遠くには行っていないらしく、その近くには数人の霊圧も感じた。

 どうやら子供たちを守っているように感じる。

 

「待ってろ!」

 

 一護は直ぐにリューが居る場所にへと向かう。

 物の数秒でリューの元に辿り着けば、案の定、リューは一人で逃げ遅れた子供たちを守っているところだった。

 よく見ると、怪我もしていない。安堵の息を吐きそうになるも、すぐさま一護はモンスターとリューとの間に立った。

 

「悪ィ、遅れた」

 

「イ、イチゴ! 無事でしたか」

 

「子供守ってたのかよ。流石だな」

 

 そう言葉を吐いた時には既にモンスターの一匹を昏倒させ、続けて二匹目を素手で沈ませる。

 三匹目は逃げるように背を向けるが遅い。一護の回し蹴りで綺麗に頭に入り、その場に倒れる。

 四匹目は三匹目を倒した瞬間を狙って一護に噛みつこうとするも、これをカウンターで返し、昏倒させる。

 これをまた数秒で終わらせてしまう一護に、リューも守られて泣いていた子供たちも唖然として言葉を失った。

 だってさっき来たばかりなのに、早すぎでしょ。

 信じられないようなものを見る、そんな視線が一護を貫く。

 

 

(こ、こまで……ですか)

 

 リューは息一つ乱さずに振り返り、こちらに向かってくる青年、一護の強さに改めて異常さが際立って感じてしまっていた。

 子供たちはリューから離れ、モンスターを倒した一護にどんどん集まっていき、まるでヒーローのように喜んで抱きついていた。

 しかし、リューは襲ってきていたモンスターを知っている。どれも下級冒険者では勝てないモンスターばかりだった。

 

(……この強さは……異常ですよ。イチゴ)

 

 リューは心配そうに一護を見る。

 子供たちに向ける笑顔は優しくも、リューからは儚く見えた。




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今回はまたもオリキャラを出してしまいました。謎の男はBLEACHにも登場しない人物です。

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