ダンまち ~黒衣と煌めく刃~   作:凸凹凹凸

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『 巡る者 』

 

 

《スキル》

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)が続く限り効果持続。

懸想(おもい)の丈により効果向上。

 

 

 

 

 古代書の一ページを彷彿させる【神聖文字(ヒエログリフ)】の全体構図──【ステイタス】。

 一人のヒューマンに与えられし『神の恩恵(ファルナ)』が示す成長過程。

 背に広がるのが神から授かりし人間に過ぎ足る力。

 

 一護はヘスティアからその『レアスキル』のことを聞かされた時、急速にレベルを上げていっていたベルの謎がやっと分かったところだった。

 そして、それをヘスティアから告げられたのは、ベルがやっと回復して、『豊饒の女主人』にこの間の迷惑をかけた礼に向かっている時に話された。

 

「……【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】」

 

「絶対に本人にも、そして勿論他のファミリアにも他言無用だよ」

 

「それは分かってるけど、いいのかよ。俺が先に聞くなんて」

 

 ヘスティアは悲痛の顔となって言葉を考えている。

 そんな顔をした時点で、一護としてはどれだけ苦悩して自分に話してくれたヘスティアの気持ちを既に理解したが、ヘスティアは真っ直ぐな眼差しで一護を見た。

 

「このレアスキルは、嘘が苦手なベル君にとってかなり危険だ」

 

 何かのはずみで他の神に知られれば、娯楽に飢える神々が手を出してくることをヘスティアが危惧したという。

 それは確かにそうかもしれないと、一護はある程度見知りがかる神々の顔を思い浮かべては霧散させていた。

 

「イチ君には、ベル君を守ってほしいんだよ……」

 

「……わざわざ聞くことかよ」

 

 一護の言葉に、ヘスティアは目を見開いたがすぐに女神らしい、美しくも優しく、一護の真意を悟りながら微笑んだ。

 やっぱり主神の眷属(こども)となった者は、嘘をつけないのは迷信ではないのかもしれないと一護が思っていると、おもむろに立ち上がる。

 

「ヘスティアも何処かに行くんだろ?」

 

「うん、今日の夜は久しぶりに友人たちのパーティに参加しようと思ってね!」

 

「パーティ?」

 

 ヘスティアはにっこりと笑みを浮かべてある招待状を見せてきた。

 

(『ガネーシャ主催 神の宴』……)

 

 書かれてあったのは、聞き覚えのある神の名だった。

 

「……ベルの為にか」

 

「ギクギクッ!」

 

 何気なく招待状を読みながら呟いた一護の言葉に、ヘスティアはクローゼットの中から一番マシなものを選んでいる所で一人反応する。

 

「ま、まぁそこはゴニョゴニョ……」

 

「ふっ、なんだよ、それ」

 

 一護はタコ口になりながらゴニョゴニョしているヘスティアに招待状を返す。

 

「だからねイチ君! 私がいない間は君がベル君を守っていてくれよ!」

 

 普段から大分助けている筈だが、やはり言葉にして伝えることは大切なことを、前にヘスティアが言っていたことを思い出して、一護は『任せろ』と言うと、ヘスティアはパァと明るい顔となる。

 そして、ヘスティアはかなり伸長差があるので、近くにあったボロボロのソファーに立ち、一護と同じ目線になると、主神らしく、堂々とした顔で一護の頭に手を乗せた。

 そして、優しく撫でる。

 

「ありがとう」

 

 本当に少女が言ったものなのか。

 本当の母親に言われたような錯覚に襲われた一護だったが、小さな笑みを浮かばせてそれを受け入れた。少し余裕が見てとれた一護にヘスティアは恥ずかしげに頬を赤らめる一護を期待していのに、残念がっているが、まだ一護が余裕で避けることの出来ない攻撃(スキンシップ)に移行する。

 

「このぉ~……もっと子供な反応をしないと、こうだ!」

 

 一護の逞しい胸に飛び込んだ女神は、更に母なる包み込む(あい)で相手とる。

 その堪らなく柔らかい感触に、一護は一瞬にして固まった。

 

「ぬふふふ♡ あぁ~この胸板は固いねぇ~、固いねまったく。それなのに暖かくて少しだけ柔らかいのがた、たまらなく最高だねぇ♡」

 

 ふにふにぃ~と密着してくるヘスティアに、一護はおもむろに、そして少しだけ焦燥を持ちながら、

 

「あああああっ!! 俺用事思い出した! そうだ思い出した! うんうん思い出した! 思い出した!」

 

「混乱し過ぎて思い出した発言半端ないよイチ君!」

 

 ヘスティアをベッドに放り投げ、一瞬にしてその場から居なくなった一護だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………またここで、寝てる。スターク」

 

「……ぅあ? アイズかぃ」

 

 眼下に広がるのは迷宮都市オラリオの街並み。オラリオを外界から隔離するように、ぐるりと取り囲む堅牢な市壁に、真っ白な袴に洋風を取り組んだように(こしら)えた衣服を、気にせずに地面につけながら寝ている中年の男、スターク・コヨーテは空を眺めて寝ていたというのに、横から幼げだった金髪の幼女だった娘が、美しく成長した美少女に覗き込まれていた。

 無精髭を生やし、だらしなく伸びた髪を掻きながらも、動きひとつひとつが大人の男を感じさせるのは何故か。

 

「アイズか……」

 

「……寝惚けてる?」

 

 無表情な顔で首をかしげてくるアイズに、スタークはあくびを押し殺して聞く。

 

「ぁあ……寝惚けてる……寝惚けてるから寝かしといてくれ……ふわぁ~ぁ」

 

 また横になろうとするスタークにアイズは急いで寝ようとするスタークの頭を下げようとすると、下ろすところに石を枕にさせようとその一瞬にして移動させた。地味に危ないし地味に己の身体能力をフル活動してる。

 そこでようやくアイズが何か用事があるのかという結論に至るスターク。

 

「なんか用事か?」

 

「……リヴェリアが探してたよ」

 

 リヴェリアの美しい顔が怒りに染まっていたことを安易に思い浮かべられる。何も難しくない。昨夜だってそうだった。

 

「……黄昏の館(ホーム)に帰ってこないで、市壁(ここ)で寝てた」

 

「あぁ、それでこっぴどく叱られたさ……ふぁ」

 

 ぴこぴこ揺らす狼耳に、アイズはそれを眺めながらもスタークの横に座る。

 何か話したそうな雰囲気を感じとるスタークだったが、ここは相手から話してくることを待つ姿勢を保つ。

 アイズはチラチラとスタークの目に訴えかけてくるが、白目になって適当に対応。だがアイズは諦めなかった。

 休日の父親にお小遣いを迫る娘の如く、スタークが仰向けに寝ていたお腹にとうとう上半身を乗せてくる。地味に肘が痛い。

 アイズの美しい顔が迫ってきているというのに、本当に男なのか疑いたくなるような冷静っぷりでスタークは面倒臭そうにしてアイズと向き合う。

 

「……なぁんだよ、まだ他に用があんのか? リヴェリアなら後で甘い物でも買って……あれ、甘い物大丈夫だったっけ?」

 

「……私はジャガ丸くんで良いよ」

 

「いいよ、じゃねぇよ」

 

 何気に注文してきたアイズにスタークはやっと起き上がろうと上半身を起こそうとするが、アイズが邪魔で起き上がれない。

 アイズに『どきなさい』という目線を送るが、完全スルーしてレベルに応じた高身体能力で起き上がれない。

 

「……リヴェリアから何を要求された」

 

「…………………………」

 

「話したらジャガ丸くん買ってやるよ」

 

「……『私が着くまで足止めしてろ』って」

 

 ぬがああああああっ!! と本気で起き上がろうとするスタークにアイズもとうとう本気で止めに入る。本当に本気で止めにきたアイズに戸惑いスタークは腹筋をフルに活動させるも、やはり起き上がれない。アイズの体力に逆にビビるスターク。

 

「どんな力だ!」

 

「リ、リヴェリアがスタークを最後まで止めてたらジャガ丸くんを大量に買って、あげるって……」

 

「先に買収されてやがったな!」

 

 リヴェリアの本気度に流石に焦燥に駆られるスターク。

 

「なんなんだよ本当に」

 

 疲れた。

 スタークは体でそれを表すように大の字になって無抵抗を示す。そしてスタークはそれだけで眠気を誘われる。まったく厄介な体質だと呟きながらも再び眠りに入ろうとする。

 スタークの図太い神経にお腹に抱きついたままアイズはスタークを睨む。

 だがスタークはそれを鼻で笑って受け流す。

 そしてそれを見て更にふてくさるアイズに、スタークは空を眺めながら呟いた。

 

「……あの兎小僧のことで悩んでたんじゃないのか」

 

「……ぅぅ……」

 

「リヴェリアも、お前の気を紛らわしさせる為にオレんトコ来させたんだろ」

 

 アイズが悩んでいることを知っていたスタークは、そこを突っついて何処かに行かせようと企ててみるが、その肝心のアイズは固まったまま動かないでいた。なにか考え込んでいる。

 しばしの無言の空間に、スタークは我慢できなかった。

 この微睡みに身を任せればどれほど最高なのだろうか、この睡魔に襲われたらどれだけ深く眠れるのだろうか、何も考えずただ寝て過ごす……これほどの至福は無いだろう。

 しかもこれを思ったのは物の3分、その3分間考えた後、プツンと意識が無くなるスターク。

 

 眠れることにこれほどの至福を感じられるのは、オラリオではこの(スターク)しか居ないだろう。

 

 そして数分後、スタークからの問いに答えられず、何を答えればいいのか悩んでいれば、質問してきたスタークが寝ていることに気付き、何やら馬鹿らしく感じたアイズも、気持ちよく寝ているスタークに伝染してアイズも重い瞼を閉じて眠った。

 元々昼間に仮眠を取ることを、このスタークから見て教わっていたことを思い出してたが、最早深い夢の中だった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 一護は酒場『豊饒の女主人』にへと来ていた。ベルが謝りにきたか、ということと、もう一つ。

 

「…………おやおや、これはこれはイチゴ殿()。大変懐かしい顔ぶれですね」

 

「あー……そうだな、リオン」

 

 店に入って、猫人(キャットピープル)の可愛い女の子の店員にベルのことや『豊饒の女主人』で働いているエルフの少女・リューに会いに来ていた。

 

「…………」

 

「……やっぱ怒ってるか?」

 

 すると、猫人(キャットピープル)の女の子は『ニャハハハ!』と笑いながらも、嬉々としてリューを連れて来てくれて、そして風の如くあっという間に消えた。

 気まずそうにした一護は、オレンジ色の伸びた後ろ髪をいじりながらリューを見る。

 リューも知っているのだ、あの晩に何が起きたのか、そして理解もしている。一護が追いかけたことも。

 だがしかしと、やはり食べてほしかっただろう彼女の手料理を。

 食べさせられる機会も少ないというのに、リューは奮ってその腕で料理を作っていたのだが、食べてもらえなかったのがやはり少なからず衝撃は受けただろう。

 だが、やはり彼は悪くないと、リューは自らの無表情な顔を僅かに揺らぎながら一護を見た。

 一護も気まずそうにしながらも、リューを見ている。どこにも目を逸らさず、リューの言葉を待ってくれている。

 彼のそういう(・ ・ ・ ・)ところに、やはり僅ながら脈打つ。

 困っている彼の顔も、また新鮮だったのだ。

 

「あぁ~……そのだな、この間は悪かった……」

 

「……いいえ、私も少し意地を張っているだけです。イチゴこそ私に何かしら訴えの言葉を吐いてもよろしいと思うのですが?」

 

 リューはそう言いながら一護を見ると、口角を上げた一護が笑顔で答える。

 

「いや、やっぱ食べておきたかったぜ、リオンの料理」

 

「……えっ」

 

 不意打ちとはこれのことか。

 リューは待ち構えていた予想の言葉ではないものを受け取り、思わず声を漏らしてしまった。

 

「また、今度でいいか?」

 

 陽の光のように笑う一護に、リューは思わずコクリと頷いていた。

 沸き上がる感情を押し殺すかのように、胸の服を強く握りしめて、見つめる。

 

「……で、では、また買い物の付き合いを……」

 

「あぁ、お安いご用だ」

 

 何故か顔が赤く火照った感覚が分かった。

 だが逸らせない。一護の笑顔や言葉が、リューを包み込む感覚に襲われる。

 

(……異常じゃないか、私は)

 

 そうだ。これは異常過ぎる。これはおかしい。意識し過ぎだ。己の感情に戸惑いを隠せずにいると、

 

「それじゃ、俺はベルを探しにでも行ってくる。今日も頑張ってく……」

 

「あっ……」

 

 会話の終了だと思ったのか、一護は出入口にへと翻して行く。もう今日は会えないのかと思うとリューは何故か胸が締め付けられた。

 分かっていると、この感情の正体くらい知っていると、そこまで幼稚ではないと自分に言い聞かせるがやはり(はた)から見るのと違っていた。己の感情なのに、止める自信がない。答えが見つからない。

 正に迷走している。

 

 そんなリューは、一護の広く(したた)かそうな背中に見惚れていると、仕事仲間である猫人(キャットピープル)の女の子が、

 

「おっ~と! コケたニャ!」

 

「……………………あっ……」

 

 普段ならとっくに気付いた背後からの気配に、まったく気付かず、思いっきり押し飛ばされたリューは、無造作に受け身も忘れた転び方だった。

 押した猫人(キャットピープル)の女の子も思わず『しまった…………』という顔が見えたが、リューは体勢を整えようと体を軸をずらそうとするが、そうしようとした瞬間(とき)だった。

 眼前に広がった視界が黒く染まったと思ったら、暖かい感覚に襲われる。

 

「……大丈夫か、リオン」

 

 頭上から聞こえた声に、自分が一護に抱き止められたことを瞬時に理解した。顔が腫れてるんじゃないかと疑うほど熱くなったが、更にそれを上回ったのは、『一護に抱き止められた』という事実だった。

 思わずがっしりと一護の腰の裏まで手を回して、互いに抱き合う感じに成ってしまった構図なのだが、猫人(キャットピープル)の女の子たち(・ ・)がキャーキャー騒いでいたことに意識を取り戻す。

 

(あっ………なんて太い腕……ではなくっ! 私を抱き止め、更には私も…………くっ)

 

 死んでしまいたいほど羞恥が広がっていくが、あの僅かな時だけでも、リューは嬉しかった。

 

「す、すみません、イチゴ。あとであの娘たちには重い仕置き…………」

 

「あ、あぁ。リオンが無事なら良いんだけどよ、大丈夫か」

 

 大丈夫です、と顔を赤くしてるのに無表情を作るリューに皆が微笑んでいると、必ず酷い仕置きをすると誓う。

 だが、どうやら一護も、リューが何かを言いたいんだろうなぁ的な意図は感付いた。

 

「リオン、今度買い物だけじゃなくて、どっかに行くか?」

 

「……へっ!?」

 

「いや、息抜きにと思ってよ」

 

 一護がオレンジ色の長い髪をガシガシと掻きながらそう言うと、たちまちリューの顔が無表情が崩れた。

 まるで意表を突かれたと言わんばかりの顔だったが、すぐにリューは意識を取り戻す。

 

「な、なんですか。急に……」

 

「いや、どうかなぁ、と」

 

 一護も少し混乱している。気軽に言ったつもりなのだが、何故か違う方向に進んでいってるような感覚だった。

 だが、リューはそんな首を捻ったり考え込む一護を見て微笑むと、一つ咳払いし、声を震わせず正常の状態にへと戻すと、

 

「……では、機会がありましたら、行きましょう」

 

「そう、だな」

 

 余り笑顔を見せない貴重なエルフの絶大なる美の微笑みに、流石の一護も見惚れながらも声を無意識に返していた。

 

 

 

 





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