「あぁ……もう慣れてる」
『〝別世界の記憶 〟を持った黒衣の青年』
〝
「イチ兄ぃー!」
『英雄を夢見る駆け出し冒険者』
〝ベル・クラネル〟
リューと別れた一護は、既に日が暮れる街中を眺めながら歩いていく。
一度帰ってから着替えようかと考えていると、前方から白髪
「イチ兄ぃー!」
「ベルか」
笑顔で走ってくる弟に何をそんなに喜んでいるのか、と兄は笑みを浮かべたまま待ってると、お馴染みの頭突き抱きつきを繰り出すベル。
『あぶねぇ!』と本気で避けた一護は焦った表情でベルの
「どーどー。落ち着けよ。一体どうし──────」
「聞いてよイチ兄! 僕のレベルが格段に上がったんだよー!」
「阿呆!」
ガシッとベルの頭を一護は大きなその掌で掴み、グワングワンと揺らして止めさせる。
自分のレベルを詳しくは言ってはいないが、自ら大声で言うものでもない。
「もう夕刻だぞ!? 周りにどんだけ冒険者が居ると思ってる」
「ふぶひゅふ!」
頭の次に両頬を挟んで言葉を塞ぐ。どうしてこんなに油断ならぬ弟なのだと思っていると、ベルもベルでその一護の手から逃れようと必死にもがくのだが、なんともピクリとも動くことが出来ない。何気にこの兄は高Lv.保持者なのではと訝しんでいると、
「ベルさんっ!」
「ガホッ!?」
突如一護は横から飛んでした銀色のお盆的な何かに顔面から食らってバランスを崩し、ベルと共に倒れる。
「痛ぇ!」
「ベベ、ベルさんから離れなさいこの
「うわわ! 待って、待ってくださいシルさん!」
ビビりながらも勇気を出してベルを助けた『豊饒の女主人』のウエイトレスさんを必死に止めるベル。確かに傍から見れば一護がベルを脅している風に見えたかもしれない。実は何回かこういう場面に遭遇している。
「す、すみませんでした! まさかベルさんのお兄さんだったなんて……」
「あぁ……もう慣れてる」
何処か明日の方角を眺めながらも、ベルと一緒に中に案内された一護は、『豊饒の女主人』の女将であるミア・グランドから少しだけ薬を貰い、従業員の失態をそれでチャラにさせられてしまったが、一護は気にもとめなかった。
だから必死に謝ってくるシルに一護も『間違っててもしょうがねぇよ、寧ろベルを助けようとしてくれてありがとな』と返せば、シルは驚きながらも笑顔で『いいえ』と答えて、お返しにシル特性の料理を付けてくれるという。…………聞いてはいないが、何気に
「イチゴっ!?」
そして、聞きなれた声が聞こえると、シルと入れ替わるようにエルフの美女がやってくる。ウエイトレス服なのに何処かドレスのように見えてしまったのは、着ている本人が美しすぎるからか、ベルは見惚れながらも心配そうに一護に駆け寄るエルフの美女を眺めてしまう。
「シルから聞きました。オレンジ色の髪に黒い 着物に目付きの悪い青年と聞いた時、ピンときました」
「ピンときたのかよ!」
「それで、怪我は大丈夫なのですか?」
「おいマジかよ。モンスターにやられたんじゃねぇんだから大したことねぇよ」
「いいえ、しっかりと診ないといけません」
「いや本当にいいって、ミアさんに叱られっぞ」
「……ぐっ!」
「そうだ。落ち着け、俺は大丈夫だから」
心底心配そうにして一護の傷を見ようとしているエルフの美女、リュー・リオンだったが、落ち着きつかせていくと、何時もの冷静な顔となり、
「失礼しました。ならば何かご注文があれば私が作ってきてあげましょう」
「えっ? いや、もうシルに頼んだのあるんだけど……」
「それだけじゃ腹の足しにもならないでしょう? えぇ、心配には及ばない。私に任せない」
そう言いながらリューも奥の厨房にも戻っていった。
「凄いね」
「あぁ」
「凄い美人さんだったねイチ兄!」
(そっちか!)
うわぁ! と羨望の眼差しで見てくるベルに、一護は居心地悪そうにしていると、最初に作りにいっていたシルが戻ってきた。
「お待たせしました。ベルさん、イチゴさん!」
〝
「イチゴさんには、ハイ! これです」
そう言って渡されたのは塩茹でされた枝豆だった。
「ごめんなさい。私が作ろうしたらリューが張り切ってやって来たので任せちゃいました。なので変わりに」
和風の黒皿にたっぷりと湯気が出てる枝豆に一護は唾を飲む。ベルに渡された料理の方が凄そうだが何故か目の前の塩茹された枝豆の方が美味しそうに見えるのは何故か。
「酒は?」
するとカウンターから聞いてきた《豊穣の女主人》の女将であるミアが訪ねてくる。
ベルは『ご遠慮します』と言ってきたが、既にミアは目の前に
ありがとう、と一護はお礼を言ってると、ベルはフルフルと震えて一護を見る。
「ま、前から思ってたけど、イチ兄はヴァリス持ってるの!?」
ヴァリスとはこの世界の通貨単位。屋台のスナック「ジャガ丸くん」が一個30〜40ヴァリス、一食の材料費が50ヴァリス、酒場の高めの定食が300ヴァリスぐらいなので、今一護が頼んだものでも、軽く1,000ヴァリスは越えているのではとベルが心配したのだろう。
一護は心配性な弟を嗜めるようにしてカッコよくキメながら言う。
「〝ここは任せろ〟」
「で、出たー! イチ兄のドヤ顔のキメ台詞! だったら僕本当に遠慮しないよ! あ、すみませーん! 壁紙貼ってる豪華絢爛スペシャルコースお願いしてもいいですかー!」
「おいテメェふざけんな」
がしっ、と掴んで調子に乗るベルを抑え込んでいると、いきなり店内が少しだけ静まった。
静まった方にへと顔を向けた一護は、そこには他の【ファミリア】のメンバーがやって来ていた。
(あん? あそこは確か)
やって来たのは、種族がてんで統一されていない冒険者たち、なのだが見るからに全員が全員、生半可じゃない実力を漂わせた者たちだった。
(……【ロキ・ファミリア】か。ヘスティアと仲悪いっつー)
ゴクゴクと小麦色の泡立つ
ごわごわとした整えられていない髪に、無精髭を生やしながらも、それが整えられた顔とマッチしてワイルド感を漂わす大人な男が小さく笑みを作って話してくる。
「……いきなり絡んでくんなよ、あんた」
「オイオイ、ご挨拶だな。面白い奴が居たから来てやったのにそれはヒデーよ」
「あ、じゃ、俺らが席移動してやるよ」
「ごめんごめん! 悪かった! なんだよ、イライラしてんのか」
そう言ってきたのは
だがこれでもこの男、あの大手【ロキ・ファミリア】の古参メンバーらしい。
「いいのかよあっちは」
「いいのいいの、俺は留守番だったからな」
そう良いながら
「なんだ、そっちの少年が一護の弟さん?」
「あぁ」
「そんでウチのファミリアが看板娘にご執心と?」
「は?」
言われて一護もベルを見ると、食べることを放棄して【ロキ・ファミリア】を眺めている。
一護も【ロキ・ファミリア】の方を見てみるが、実は誰が誰なのか分からないでいた。
余り関わりも無かったし、この
そして、誰のことを言っているとか分からないでいる一護に、
「『剣姫』、アイズ・ヴァレンシュタインを知らないのか?」
「知らん」
「ある意味凄いなお前は」
笑う
(あいつか……)
一護はベルが話さえ聞いていなく、輝きながらアイズを見ていることに、指摘されてやっと気付いた。
どうやらベルはアイズを気にしていることは分かった一護だったが、理由までは分からなかった。
すると、突然、酒に酔った
「そうだ、アイズ! あの話聞かせてやれよ!」
「あの話………?」
どうやらアイズには彼、
「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の1匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」
その話が出た瞬間、ベルが急に笑顔を無くしたのを一護は見た。
「……アイツ、また騒ぎ始めたのか」
この
「なんの話だ?」
「んー? あーなんだったかな……確か俺たち【ロキ・ファミリア】が遠征から帰る時の話だったか。17階層で襲い掛かってミノタウロスが集団で逃避していったんだと」
「……すげぇな。戦わずにモンスターが逃げてたったのか」
「そこで、俺たちの不手際で逃げたミノタウロスを一匹一匹を確実に倒していったんだが、一階層で、一人の冒険者がミノタウロスに襲われそうになってな。そこをあの『剣姫』が助けたんだが、助けた冒険者は恐怖からか、それとも恥ずかしさからか、何も言わずにダッシュして逃げたんだと」
俺たち、と言っているが、先ほど言った通りこの男は
話を聞いていけば、何やらミノタウロスに襲われたのは『兎みたいな奴』と聞き取れた。
そこで再びベルを見ると、嘲笑いながらその事を話している
「……そろそろ目障りになってきた」
「お、おいおい、あんたの所のファミリアだろうが」
「だからだろ?」
まるではしゃぐ子供に親が躾を名目にブチギレする前の静けさを漂わした
『兎みたいな奴』?
悪いが一護にとって知ってる奴が身近に居る。
あの
そういえば、あの青年、トマトみたいにとか言ってなかったか?
一護は血だらけになったベルのことを思い出していくと、スラスラとピースがはまっていく感覚に陥る。
「ほんとざまぁねえよな。ったく、泣き喚くくらいなら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」
「…………」
そして、『剣姫』の
「いい加減にそのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」
そう非難したのは、翡翠色の長髪に白を強調とした魔術装束、細く尖った耳を生やした、絶世の美貌を誇るエルフの女性だった。
そしてその非難の声に、ビクンッ! とティオネたちアマゾネスのヒリュテ姉妹、その翡翠色の瞳をした美女と同じエルフの少女レフィーヤ・ウィリディス、その他の【ロキ・ファミリア】メンバー、果ては主神でもあるロキですら肩を揺らし気まずそうに視線を逸らした。だがベートだけは止まらなかった。
「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ? それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミって言って何が悪い」
ベートと呼ばれた
「ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」
そしてベルを見ていると、激しい感情にでも追い込まれているかのように、噛んだ唇が止まらない。
一護は何があったのか、ベルに聞こうと声をかけようとした瞬間だった。
それがスイッチだったかのように一瞬で、
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインに釣り合わねえ」
突如、椅子を飛ばして立ち上がり、ベルに殺到した視線を振り切って外にへと出ていった。
唖然とする一護だったが、何が起きた理解する。
「ベル!?」
「ベルさん!?」
シルも次の料理を持ってきたところで、ベルが駆け出してしまい、心配して後を追いかけ、一護も後を追おうとするが、お金のことを思い出す。
だが代わりにと
そのことに感謝しつつ、一護は誰にも追い付けないほどの高速歩法『
「な、なんだ!?」
店内が一護の凄い技に驚きに満ちていると、
「この二人の代金も【ロキ・ファミリア】に付けといてくれ」
「いいのかい?」
「いいよ、迷惑かけたみたいだしな」
そう言って男は立ち上がり、出ていった二人を眺めていた
「おい、ベート」
「あん? なんだ──────」
「ベートォッ!!」
えっ、と二人同時に堪忍袋の緒が切れたエルフの絶世の美女、【ロキ・ファミリア】の副団長にして
「ふんっ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
まるで魔法の如く、何処から出現した縄がベートをぐるぐる巻きにすると、リヴェリアは容赦なくベートの頭を踏みつけた。そんな様子を瞬時に見せられたら、叱るのは
「……あぁ、いいや、面倒くさくなった」
「いや負けないでよ
〝
「そ、そうだぞ、スターク! お前がきちんと指導してやらないからこんな馬鹿者に……」
「いや、リヴェリア。お前はそれでいいのかよ」
スタークと呼ばれた
そこに居たのはただ茫然と立ち尽くすエルフに負けぬ美貌を持つ少女。最強の冒険者の少女。
だが、今だけは、走っていった白髪の少年の後ろをただ眺めているだけで、悲しそうな顔となって立ち尽くす一人の少女。
「……アイズ」
「……スタークさん」
無表情な顔をしているが、スタークからすれば丸分かりだった。
だがそれは、アイズだけが抱え込んでいるということも理解していた。
だからアイズに、スタークは静かに頭に手を乗せて、優しく撫でる。
「…………ぁ…………」
小さく声を出して、漏れでる涙を圧し殺して、アイズは大きく暖かな掌に頭をされるがままにされる。
そうしたながら、スタークと一緒にアイズは走っていった彼の後を、静かに見続けた。
感想やコメントお待ちしております。
そして感想を書いてくださった方々に感謝を!
アニメも最終回が近づいてきました!
たとえアニメが終わったとしてもみなさんが読んでくださる二次小説にしていきたいと思います(>_<)
スタークが頭に狼耳がついていると想像しといてください。
2015/06/25 修正 早くも!