決戦当日
決戦は深夜から始まるらしい。
なので、今日は学校が終わると、小猫ちゃんと一度家へ戻った。何か考えている様子な小猫ちゃん。もしかしたら、今日の決戦について何か思うところがあるのかもしれない。俺は何も言わずそっとしておいた。
夜の十九時。
小猫ちゃんは家に帰ってからずっと俺の膝に座っている。座ってくれるのは嬉しいが、何も言わず黙ったまま座っているのは勘弁してほしい。気まずい。とにかく気まずい。何か話そうと話を振っても、「はい」「そうですか」「いいえ」ってな感じで会話にならないんだよ。本当、どうしたんだろ?
もう決戦まで時間が僅かだし、悩みがあるなら聞いてあげたほうがいいかな?
「なぁ、小猫ちゃん。何か悩み事でもあるの?今日帰ってるときからずっと下向いたままだし、帰ってきても膝に座ったきり何も話さないし。何かあるなら俺に相談してくれ」
小猫ちゃんの頭に手を置き、言う。
「?悩み事なんてないですよ?ただ……」
「ただ?」
「今日の晩御飯は何なのか、ずっと気になっていただけです」
「…………はい?」
「だから、今日の晩御飯は何かなと、龍夜先輩のご飯は美味しいですし、いつもの楽しみなので」
「な、なんだ。晩御飯についてずっと考えていたのか……俺はてっきり今日は決戦だから何か不安でもあるのかなって思ったよ」
小猫ちゃんはこんな時でも平常運転らしいです。
「そっか、悩みがないなら良かった。……でも、もし何かあったらどんなことでも相談してくれていいからな」
俺は先程小猫ちゃんの頭に乗っけたままの手を動かし、撫でた。
「……んっ…」
少しくすぐったそうにする小猫ちゃんを見てから、台所へ行き、晩御飯を作った。
♢
深夜十一時四十分頃ーーー。
俺と小猫ちゃんを合わせて、全員が部室に集まっていた。
あの後、小猫ちゃんと一緒に晩御飯を食べ、戦闘服ーーと言っても今回は真っ白のコートじゃなくて学校の制服だが、それに着替え、時間まで小猫ちゃんとくだらない話をした。
決戦前のいい息抜きになっただろう。小猫ちゃんはリラックスできている。
イッセーとアーシアは緊張している様子だったが、その他はみんないい感じに落ち着いていた。
俺は小猫ちゃんの隣に座り、静かに時間を待つ。
開始十分前になった頃、部室の魔法陣が光りだし、グレイフィアさんが現れる。
「皆さん、準備はお済みになられましたか?開始十分前です」
グレイフィアさんがそう言うと、皆が立ち上がる。そして、グレイフィアさんは説明を始める。
「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんなに派手なことをしても構いません。使い捨ての空間なので存分にどうぞ」
ん〜。最後の言葉のとき、俺をチラリと見たような……………。
「そして、今回の『レーティングゲーム』は両家の皆さまも他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります。さらに魔王ルシファーさまも今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」
やっぱりサーゼクスの奴も見るか。あいつはシスコンだし当たり前っちゃ、当たり前だけど。
イッセーは魔王が見ているということにさっき以上に緊張している。…………大丈夫かな?あいつ………
それに、今度は魔王が、部長のお兄さん!?とか言って驚いているし……。
「そろそろ時間です。皆さま、魔法陣へ」
おっと、もうそんな時間か。
「なお、一度あちらへ移動しますと終了するまで魔法陣での転移は不可能となります」
グレイフィアさんの話が終わり、俺たちは戦闘フィールドへ転送された。
♢
転送された場所はいつもと変わらない部室だった。転送を失敗したのか?とも思ったが、グレイフィアさんが失敗なんてまずあり得ないだろう。ってことは……ここが、今回のフィールドってことか。
ここで、グレイフィアさんの放送が入る。
今回の『レーティングゲーム』の審判はグレイフィアさんらしい。
そして、転送された場所が自分たちの本陣で、ライザーとか言う奴は生徒会室らしい。『兵士』が『プロモーション』するには相手の本陣まで行かないとできない。
とりあえず、イッセーは『プロモーション』しないとダメだな。
そう、一人で考えていると、
「全員、この発信機器を耳につけてください」
姫島先輩がイヤホンマイクタイプの通信機器を俺たちに配る。
それを耳につけながら部長は言う。
「戦場はこれで味方同士やり取りするわ」
『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』
学校のチャイムが鳴り響く。
これが、『レーティングゲーム』の始まりの合図らしい。
なら、終わりもまたチャイムかな?
♢
さて、『レーティングゲーム』が始まったわけだが、俺はどう動けばいいだろうか?
「部長。俺はどう動いたらいいですか?」
俺は部長に尋ねた。尋ねたのだが、何故か部長はイッセーを膝枕していた。
…………おい、そんなにのんびりしてていいものなのか?俺は気にしないが、敵の『兵士』全員に『プロモーション』されたら面倒だぞ?
なんて思っていると、俺の右袖を引っ張る者がいた。………………小猫ちゃんだ。
小猫ちゃんは俺をソファーに座らせた。そして、チョコンと、俺の膝の上に座った。
すると、それを見た姫島先輩が、
「あらあら、うふふ。随分小猫ちゃんに懐かれているのですね?」
と、ニコニコしながら言ってくる。
「はい。龍夜先輩のここ、すごく落ち着きます」
そうなんだ。だからか?いつもの俺の膝に座るのわ。
別に不都合はないため小猫ちゃんを座らせたまま、部長の指示が来るのを待った。
部長はイッセーと何か話したあと、俺たちに指示を出す。
「とりあえずは、祐斗と小猫、龍夜は森にトラップを仕掛けてきてちょうだい。予備の地図を持っていって、設置場所に印もつけてきて。設置完了まで、他のみんなは待機よ」
とのことなので、俺たちは各自行動を開始した。その後、無事完了した俺は新しい指示により、小猫ちゃんと、そしてイッセーは木場くんと行動することに決まった。
「さて、私のかわいい下僕たち。準備はいいかしら?もう引き返せないわ。敵は不死鳥。さあ!消し飛ばしてあげましょう!」
『はい!』
一名、悪魔ではないのだが空気を読んで返事をしたのだった。
♢
俺はラッキーなことに小猫ちゃんと行動している。心なしか小猫ちゃんもテンションが高いような気がする。
俺は小猫ちゃんと体育館に向かっている。そして、体育館の裏口から入った。
「……気配。敵」
「ああ、そうだな」
「そこにいるのはわかっているわよ、グレモリーの下僕さんと、ライザー様に楯突いた愚かな人間」
まったく、みんな人間ってだけで見下すね。ま、俺は人間じゃないんだが。
別に隠れるつもりもなかったので、堂々と壇上に姿を見せる。
そこには女性悪魔が四名。
チャイナドレスを着た子に、双子、それと部室でイッセーを吹っ飛ばした小柄な子がいた。
チャイナドレスを着た子が『戦車』であとの三人は『兵士』か。さて、どうするかな。
「…………龍夜先輩は『兵士』をお願いします。私は『戦車』を」
「了解」
俺と小猫ちゃんは互いの相手と対峙する。
小柄な女の子が棍で構え、双子が小型のチェーンソをニコニコ顏で構えている。チェーンソって……、あんなの小さい子たちに持たせて大丈夫なのか?
ドル、ドルルルルルルルルルル!
「「解体しまーす♪」」
双子が楽しそうに宣言する。
あの子たち、ヤバイな。チェーンソを持ってあんな笑顔なんて……。
隣では、すでに戦闘が開始している。
ヒュン!
部室でイッセーを吹っ飛ばした少女。棍を器用に回していた。
「バラバラバラバラバラ!」
双子がチェーンソを床に当てながら同時に直進してくる。そして、俺へ目掛けてチェーンソを振り上げた。
ドルルルルルルル!
目の前にチェーンソが迫っているが、俺はその場に突っ立ったまま、避けることをしなかった。
バシンッ!
「「え?」」
ふたつのチェーンソが俺に当たる寸前で弾かれた。
ヒュッ!
次は俺の背後から何かが向けられる音。
だがそれも、同じように回避することはない。
バシンッ!
「うそッ!?」
双子と同じように棍もまた弾かれた。
再度、チェーンソで斬りかかり、棍で突いてくるが、全て弾かれていく。これは俺の体に相手に気づかれないぐらいの力で風を纏わせているからだ。
「あー、もう!ムカつくぅぅぅ!」
「どうして弾かれるのよ!」
「……何故当たらないの?」
三人は、攻撃が当たらないことにムカついているようだった。
だけど、こうして見ると、この三人が可愛く見える。なんて言うの?こう、小さい子供が必死に大人を倒そうと頑張っている姿?そんな感じがしてすごく可愛い。
「……龍夜先輩。今、何か変なことを考えていませんでしたか?」
「いや!何も考えてないよ?」
ビックリした。小猫ちゃん鋭すぎだろ。というより、小猫ちゃんがライザーの『戦車』と戦いながら俺を見ている!おい、しっかり敵を見て戦いなよ。相手の子、結構怒ってるよ。
「もう!人間なんかに負けたらライザー様に怒られちゃうよ!」
未だ俺に、攻撃をしている三人。
いつまでも見ていたいけど、さすがにゲーム中だからな。そろそろ終わらせるか。
俺は手に、野球ボールぐらいの風の玉を作った。それをーーー
「えい」
疲れたのか、俺から距離を取っている三人に目掛けて投げた。
その玉は、彼女たちの近くで一気に大きな竜巻へと変わる。
「…………え?」
素っ頓狂な声を上げたの者がいた。
それはライザーの眷属ではなく、子猫ちゃんでもない。そう、俺だ。何でお前なんだよ!とか言われるかも知れない。だけど、これは仕方ないんだ!サーゼクスに言われた通り、力をセーブして攻撃をした。だが、俺は生まれてこの方、中級悪魔ほど力を抑えたことがない。そのため、力の調整が曖昧になり、自分の想像以上の攻撃をしてしまった。
結果。
『ライザー・フェニックスさまの「兵士」三名「戦車」一名、戦闘不能』
俺は自分の相手だけでなく、小猫ちゃんが相手をしていた『戦車』までも倒してしまった。
それと、小猫ちゃんが巻き込まれていない理由だが、俺はやり過ぎたと気づいた瞬間に小猫ちゃんの周りを風で守っていたからだ。
審判のグレイフィアさんの無情な声が届く。
「「…………」」
俺と小猫ちゃんは何も言えず全壊した体育館を眺めていた。
だが、隣の小猫ちゃんを見ると、制服がところどころ破れ、下着が見えているのに気づく。
「ッ……!?」
俺はすぐさま小猫ちゃんから視線をそらす。そして俺は制服の上を脱ぎ、小猫ちゃんに着せる。
「…………り、龍夜先輩?」
「そ、その、なんだ。そのままだと目のやり場に困るからな。取り敢えず今はそれを羽織るなり着るなりしてくれ」
俺は少し顔を赤くしながらも小猫ちゃんに笑顔を向る。
すると、小猫ちゃんの顔が赤くなり、慌てて俺の制服を着、そして俯いてしまう。あれ?俺何か余計なこと言ったかな?なんて思っていると、
「………龍夜先輩、わ、わたしのために……とっても嬉しいです。それと、制服……あ、ありがとうございます」
か、かわいい!今の小猫ちゃん、いつも以上にかわいい!!そんなバカなことをしていると、
「小猫ちゃん!危ない!」
突如、頭上から大きな魔力が落ちてくる。
一早くそれに気づいた俺はすぐに周りに風を張り巡らせる。
ドォンッッ!!
突然の爆発音に、小猫ちゃんが驚く。
今のは小猫ちゃんを狙った攻撃だったな。今の食らったら一発で終わりだった。俺が一緒でよかった。
「あら、今のであなたたち二人を、もしくはそこの小さいのを始末するつもりでしたのに、失敗だわ」
頭上から声が聞こえる。上を見るとライザーの『女王』が、佇んでいた。
「お前か、小猫ちゃんを狙ったのわ。………お前、ここで死んどくか?」
俺はすでに次元の狭間から出していた、【叢雲】を鞘から抜き、殺気を放つ。
「ッ!?」
尋常じゃない殺気が、ライザーの『女王』……確か、ユーベルーナか?を襲った。
全身を恐怖で震わせるユーベルーナ。ここで一気に倒そうと、斬りかかろうとしたが、姫島先輩が俺とユーベルーナの間に入りそれを止める。
「あらあら、ダメですわよ、龍夜くん。この方は私がお相手致しますわ」
「姫島先輩。でも……」
「小猫ちゃんが狙われて怒るのはわかりますわ。ですが、ここは私にまかせていただけないかしら?」
本当は自分で倒したいが、姫島先輩がそう言うならしょうがないだろう。
「わかりました。そいつは姫島先輩にお任せします………小猫ちゃん、行こう」
俺はさっきの衝撃で地面に座ったままの小猫ちゃんと共にイッセーと木場くんの元へ向かった。
今回は急いで書き上げました。なので誤字や矛盾な点があれば、教えてください。